「…慎?…しーん?…おーい」
…あ?誰だ?
「…風邪ひいちゃうよー?ちゃんと布団で寝ろー?」
ぺちぺちと軽く頬を叩かれる感覚。それとなんだか懐かしい声。
思い浮かぶは懐かしき青春時代。
嗚呼、あの頃の君はポニーテールのよく似合う…
思い浮かぶは懐かしき青春時代。
嗚呼、あの頃の君はポニーテールのよく似合う…
「せいっ!」
「ほグッ!」
「ほグッ!」
…鳩尾に重いのが来た。
「起きた?」
「…ウス」
「…ウス」
むせながらもどうにか返事を返す。
一瞬前に思い浮かんだ思い出のあの子は、いつの間にやら見馴れた旧友の顔になっており、かつて始発電車が動くまで人間について語り合った新宿3丁目の狭いディスコティックは、気付けば見飽きただだっ広いオンボロ木造平屋建てとなっていた。
一瞬前に思い浮かんだ思い出のあの子は、いつの間にやら見馴れた旧友の顔になっており、かつて始発電車が動くまで人間について語り合った新宿3丁目の狭いディスコティックは、気付けば見飽きただだっ広いオンボロ木造平屋建てとなっていた。
「あー。俺また寝てた?」
「寝てた。すげー寝てた。ジュリちゃんがケリ入れても寝てた」
「寝てた。すげー寝てた。ジュリちゃんがケリ入れても寝てた」
それほどか。そういやなんとなく頭が痛い。ピンポイントで。
「ってジュリ?」
「あれ?さっきまでその辺にいたんだけどな…アイリちゃん知らない?」
「あれ?さっきまでその辺にいたんだけどな…アイリちゃん知らない?」
見馴れた旧友こと縁遠は、足元の人影に声をかけた。
15センチほどの女性を象った人形に見えるが、その実体は感情豊かな小型ロボット。
一般的には「武装神姫」だの「MMS」だのと言われている、オーバーテクノロジーの塊だ。
当然ながら、一体につき高性能なコンピュータフルセット並の値段が付いたシロモノなんだが…
何故かうちには何体もいたりする。理由は後述。
15センチほどの女性を象った人形に見えるが、その実体は感情豊かな小型ロボット。
一般的には「武装神姫」だの「MMS」だのと言われている、オーバーテクノロジーの塊だ。
当然ながら、一体につき高性能なコンピュータフルセット並の値段が付いたシロモノなんだが…
何故かうちには何体もいたりする。理由は後述。
「なぁ縁遠、ひとつ聞くが」
「ほほぅなんだね慎之介クン」
「ほほぅなんだね慎之介クン」
俺は足元のアイリらしきものを指差し
「コレがアイリか」
「他にどう見えると」
「他にどう見えると」
ちょっと考えてから妥当な単語を挙げてみる
「フリルの塊」
「ふむ。まぁ間違ってないかな」
「…なんかあたし馬鹿にされてる?」
「ふむ。まぁ間違ってないかな」
「…なんかあたし馬鹿にされてる?」
フリルの塊から憮然とした声が出た。
「新しい子がいると思わなかったから用意してなくてね。有り合わせで結構考えたんだけどねぇ。髪の色に合うように、とか」
確かに。彼女のくすんだ赤毛に程よく合う色ではあると思うが、なんというか。
「あれだホラ、南北戦争時代のアメリカの田舎貴族の娘」
「おお。言われてみればそれっぽい」
「…やっぱ馬鹿にしてんでしょあんたら」
「おお。言われてみればそれっぽい」
「…やっぱ馬鹿にしてんでしょあんたら」
フリルが大量に付いた大仰なドレスを着ている彼女、名をアイリーンという。
砲台型フォートブラッグと言われるタイプで、髪の色といいそばかすの浮いた顔といい、まさしくアメリカの田舎娘的な顔立ちをしている。
ただ、彼女に限り通常の仕様よりも若干目が細いせいか、微妙に東洋系とも言えるが。
三つ編み糸目に、ドジョウヒゲと額に「中」の字が揃えばまさしくアレに見えるのがチャームポイントであろう。
言うと洒落にならない力で殴られそうだから黙ってるが。
…そういえば顔の落書きが消えているな。
砲台型フォートブラッグと言われるタイプで、髪の色といいそばかすの浮いた顔といい、まさしくアメリカの田舎娘的な顔立ちをしている。
ただ、彼女に限り通常の仕様よりも若干目が細いせいか、微妙に東洋系とも言えるが。
三つ編み糸目に、ドジョウヒゲと額に「中」の字が揃えばまさしくアレに見えるのがチャームポイントであろう。
言うと洒落にならない力で殴られそうだから黙ってるが。
…そういえば顔の落書きが消えているな。
「まあいいけど…で、何?ジュリ姉?その辺にいない?」
「あ?呼んだか?」
「あ?呼んだか?」
ひょこっと扇風機の陰から真っ赤なタテガミが、もとい、真っ赤なタテガミの神姫が顔を出した。
コイツが先述のジュリこと正式名ジュリエット。
タイプは侍型紅緒。純和風な顔立ちと、恐らくは改造によるものだろう、ライオンのタテガミのようなヘアスタイルをしている。
色は鮮やかな赤。ぶっちゃけハデさは否めないが、本人は気に入っているようだし、俺も慣れた。
元は俺が購入したわけじゃないんだが、その辺も後述。
ちなみに服装は金糸で龍の刺繍がされた黒いチャイナドレス。赤いタテガミと相まっていい味を出している。
体のラインが出るほどのタイトさに加えて、深く切れ込みの入ったスリットがまたなんとも…
コイツが先述のジュリこと正式名ジュリエット。
タイプは侍型紅緒。純和風な顔立ちと、恐らくは改造によるものだろう、ライオンのタテガミのようなヘアスタイルをしている。
色は鮮やかな赤。ぶっちゃけハデさは否めないが、本人は気に入っているようだし、俺も慣れた。
元は俺が購入したわけじゃないんだが、その辺も後述。
ちなみに服装は金糸で龍の刺繍がされた黒いチャイナドレス。赤いタテガミと相まっていい味を出している。
体のラインが出るほどのタイトさに加えて、深く切れ込みの入ったスリットがまたなんとも…
「いや違ぇよ。そこじゃねぇよ俺」
「なにがだ」
「なにがだ」
いかん。寝不足がだいぶキているらしい。
「てゆか何やってんだお前」
「パットがまた迷ってたんだよ。危なっかしいから連れてきた」
「で、そのご本人は」
「そこで眠ってる」
「パットがまた迷ってたんだよ。危なっかしいから連れてきた」
「で、そのご本人は」
「そこで眠ってる」
なるほど。扇風機の陰にはシンプルな水色のワンピースを着た天使型アーンヴァルのパトリシアが横になって…
「待て。いつ着せた」
「せっかく色々あったからな。アタシらだけ着せ替え人形ってのも不公平だろ」
「ふぅむ、ベリーショートだからボーイッシュな方がいいかと思ったけど、こういう女の子してるのもいいねぇ」
「ま、過剰包装ばかりが華じゃないってことでしょ。ねぇどーでもいいけどコレ脱いでいい?暑いし動きにくいんだけど」
「せっかく色々あったからな。アタシらだけ着せ替え人形ってのも不公平だろ」
「ふぅむ、ベリーショートだからボーイッシュな方がいいかと思ったけど、こういう女の子してるのもいいねぇ」
「ま、過剰包装ばかりが華じゃないってことでしょ。ねぇどーでもいいけどコレ脱いでいい?暑いし動きにくいんだけど」
ぎゃーすか周りで騒いでいるが、一向に目を覚ます気配を見せないパトリシア。
暢気な眠り姫は一体どんな夢を見ているのやら。
暢気な眠り姫は一体どんな夢を見ているのやら。
っと、説明が遅れた。俺の名前は都竹慎之介。売れない物書きをやっている。
住んでいるのは、俺が祖父さんから遺産として土地ごと譲り受けた、東京は西の端にある木造平屋建ての年季の入った一軒家。
ここがまた不思議なことに野良神姫…世間一般で言われる「イリーガル」と呼ばれる連中がやたらと集まってくるのだ。
…当初は偶然だろうと考えていたが、約一年で十数回も同じことがあればさすがに普通じゃないだろう。
噂を聞いてわざわざウチに捨てにきた奴までいたくらいだ。無理矢理持って帰らせたが。
先ほどのアイリーンやジュリ、パトリシアや今家にいない猫型マオチャオ三体も一応我が家の住人なのだが、全員元はどこかから流れてきた連中だ。
しかも一時期は倍以上の数がいたこともあった。
そのほとんどは、神姫関係のサテライトショップを経営している古い友人の縁遠を経由して里子に出した。
ある程度の社会復帰可能なレベルまで、指導やら教育やらをしなければならなかったのがちょいと面倒ではあったが…まぁ安易にリセットしてしまうよりかはマシだったからな。
住んでいるのは、俺が祖父さんから遺産として土地ごと譲り受けた、東京は西の端にある木造平屋建ての年季の入った一軒家。
ここがまた不思議なことに野良神姫…世間一般で言われる「イリーガル」と呼ばれる連中がやたらと集まってくるのだ。
…当初は偶然だろうと考えていたが、約一年で十数回も同じことがあればさすがに普通じゃないだろう。
噂を聞いてわざわざウチに捨てにきた奴までいたくらいだ。無理矢理持って帰らせたが。
先ほどのアイリーンやジュリ、パトリシアや今家にいない猫型マオチャオ三体も一応我が家の住人なのだが、全員元はどこかから流れてきた連中だ。
しかも一時期は倍以上の数がいたこともあった。
そのほとんどは、神姫関係のサテライトショップを経営している古い友人の縁遠を経由して里子に出した。
ある程度の社会復帰可能なレベルまで、指導やら教育やらをしなければならなかったのがちょいと面倒ではあったが…まぁ安易にリセットしてしまうよりかはマシだったからな。
先述の通り、本来それだけの数が揃うのは金額的に無茶である上、イリーガルなどと呼ばれる以上基本的に合法とは言いがたい。
当然のことながら、全員正規の製品からすればどこかしらの問題を抱えている。
それでも、接し方さえ考えればあまり気になるレベルではない。
一番の問題は連中の充電用の電気代くらいだろうか。
当然のことながら、全員正規の製品からすればどこかしらの問題を抱えている。
それでも、接し方さえ考えればあまり気になるレベルではない。
一番の問題は連中の充電用の電気代くらいだろうか。
なお我が家は、不本意ながら一部で「神姫長屋」などと呼ばれているらしい。
これはそんな不思議な家で繰り広げられる、不思議でもなんでもない連中の日常を綴ったお話。
御用とお急ぎでない方は見ていってくれるとありがたい。