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えむえむえす ~My marriage story~

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ウサギのナミダ
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 ・・・。

 望んだから、失うことがあると。
 それでも。譲ることは出来なかった。

「一番になりたい。って、思う力」

 そう言ったのは。
 誰だっただろう。



 港から出た時に襲いくる、体験したことの無い蒸し暑さ。けど、潮の香りが漂うのは既に懐かしささえ覚える故郷と同じ。
 それとは別に、ヤヨイは軽い眩暈を覚えた。北日本において三本の指に入る大都市。空に向って伸びた高層ビルの乱立を想像していた・・・とは言わないが。

 函館では見たことが無いほどの大きな道。走るたくさんの電気自動車。その両側に並んだ街路樹。
 普通に大都市にある光景なのかもしれないが。しかし決して曇った色ではなく。むしろ。清々しささえ感じさせる、透明な感覚を持っていた。
 栗色の髪を揺らしながら、ヤヨイは初夏の日差しの中。港前の道を沿って歩く。ビル街にも緑が映えて街全体が自然を取り込んでいるような感覚さえ感じながら・・・。

 ボストンバッグに吊るしたポシェットから顔を出したマーチが、ふと。驚いたように言う。
「樹の大きさが。全部違います」
 ふと見れば。初夏の緑を生やす、整然と並んでいるように見える街路の広葉樹。それら一本ずつの形も、枝ぶりも違う。
「・・・ホントだ。遺伝子操作されてないんだ」
 いわゆる大都市なら、共通の高さと落葉の少なさを実現させる為に『人に便利な、同じ樹』にしてしまうはず。
 事実、一度だけ行った事のある札幌ではそうだったように思える。ここでは街路樹が植えられている場所にも小さな雑草が生えており、ありのままの樹がそこにはあった。

 そして。
「あ。マスター、あそこ」
 小さな手で上を指差しながらの声。吊られて見上げた場所に。彼女はさっきから感じている眩暈の正体を見つけたのだった。

 同時に気付く気が遠くなるような蝉時雨。それが余りにも当たり前に存在しているから、今まで気付かなかった命を歌い上げる大合唱。
 杜の都。と呼び習わされた、緑と共存を続けている街。

 仙台。



 ・・・。
 特別目的が無いという訳ではなく。行って見たい場所が一箇所だけ。
 港前のバス停から乗り。しばし揺られて、やがて到着して降りた場所には、まだ朝方だというのに流石に人通りが多かった。そのほとんどが観光だろう。
 額に汗をかきながら石垣を傍らに見ながら階段を登っていく。蝉時雨は、尚も続いていた。

「マーチ、ほら。あそこだよ」
「あれ、お馬さん」
 遠目で見ても一際目立つオブジェクトに近づいて。
 ようやく、その足元に立ってから気付く。
「あ・・・そっか」
 今世紀初頭から10年代にかけての。風化や酸性雨による破壊から防ぐ為に。
 強化アクリル板で周囲を囲まれた、仙台という街の象徴的オブジェクトを少し残念そうに見上げる。
 片目だけのその人は前面をその眼光で睨みつけ。前足を振り上げた美しい肢体の馬の迫力は、テレビの映像で見た物とは別格だった。
「この街を作った人だよ」
 それは少々間違った知識なのだが。ヤヨイはケータイのカメラで写真を写しながら、そう説明した。マーチをポシェットから誘い、そこにある説明用立て札に座らせてもう一枚。思わずピースサインをしてしまって赤面している彼女に笑いながら、ヤヨイは一望できる仙台の街に振り返った。

 目の中に緑が踊る。

 ふと、その大きな姿を見ていたマーチが、ぽつりと呟いた。
「この人。紅緒さんですか?」
 どうやら、侍と言いたいらしい。
「あ。うーん。ちょっと違うのかな?」
 侍と武士と呼ばれる人達の違いを、余り正確には把握していないヤヨイは曖昧な返答だけを返して、マーチを抱え上げた。

「・・・マスター」
「うん」
「マスターと一緒に、その」
 もじもじと何かを言いたげにしている彼女の頭を指でふにふにと撫でて。ふと、思う。


 そう。ここに。
 テレビでの映像でしか外を知らなかった自分が。此処に立っている事が。夢に近しいような想いとなって。
 長いアームカバーの下で。少しだけ痕が傷んだ。
 降る蝉時雨。緑の街は、そんな彼女を見つめていた。



 ・・・。
 お昼前まで青葉城をゆっくりと見学し、ヤヨイは仙台中央ステーション前まで歩いて戻ってきていた。
 中央広場にも人通りが更に多くなっている。駅前で昼食を取ろうと思っていた彼女は、その足でてくてくと何気なく通りを歩き始めていた。今日の泊まる場所は既に予約してあるし・・・お昼から、どうしようかな。などと思いながら中央大通りを進んでいると。
 その建物が目に飛び込んできたのだった。

「・・・」
 余りにも『違う』そこを見て。5秒以上は立ち止まっていただろうか。
 肩に座り何事かと目線を合わせたマーチも。その視線の先にある大きな建物に無言になる。
「マーチ、あれって・・・」
「ですよ、ね」
 目を丸くした彼女たちの視線の先にある建物には大きなポスターが壁にかかり。
 そこに『BMA神姫オフィシャルセンター・センダイ』と書かれていた。


 オートドアを開けて入ったエントランス。入ってすぐ右が総合カウンター。左には軽食が取れる喫茶コーナーがあり、ヤヨイは居場所なさげにそちらに向かった。
 と。
 喫茶コーナーの入り口で。
「あら? 貴女・・・」
「え。はい?」
 後から声をかけられてヤヨイは思わず振り返る。
 スタイルの良い女性が立っていた。肩で揃えられたウェーブのかかった髪。耳元にはピアスが揺れて、ルージュに染まる唇は大人っぽく艶を帯びている。
「あ。あらあら、まぁ」
 小柄なヤヨイよりも頭一つ以上は高いであろうその女性は、ふとある物に気付いて。ひょいと覗き込むように目線を合わせてくる。
「?」
「あ、ごめんなさい」
 視線をヤヨイと、そして。
「ジュビジー初期モデルね。余り見かけないタイプだけど、うん。マスターに似て、とても可愛らしい」
 にっこりと女性は微笑んでそう言った。



 ・・・。
「いきなり御免なさい。ただ、大きなバッグは防犯対策の為にロッカーに預けて・・・って言おうとしたんだけど。あの子に目を取られちゃって」
 照れたように笑って。
 ヤヨイの頼んだカフェオレと、自分の物であろうコーヒー。そしてサンドウィッチを二人分注文した女性はヤヨイ達に向き直る。
 うん、と頷いて。女性は自分を指差した。
「私は長久手菊菜」
「あ。遠野、弥生です」

「ヤヨイさんね。女性のマスターさんは少ないから、ちょっとビックリしちゃった」
「あ・・・」
 言われれば確かに珍しいのかもしれない。函館では自分以外のマスターに会うと言っても多くて数人だったので気にはならなかったが。
「それにね?」
「?」
「こんなに可愛い子が」
 くすくすと笑うキクナに恐縮するように顔を赤くする。
「えと。それは・・・」
「うん? 何かしら」
「私もです。その。キクナさんみたいな綺麗な人が」
 一瞬きょとんとしたキクナは、真面目に言うヤヨイの顔を見て思わず吹き出した。
「ん、ふふ・・・あはっ。ヤだなぁ。私を一発でナンパ出来る男の人なんていないのに」
「あ。そういう意味じゃ無くて」
「うん。ありがとう」
 そう答える微笑は大人の余裕なんだろうか。

 マーチは今ここにはいない。ついさっき、キクナの薦めで2Fにあるカウンターに各部チェックを頼んで預けてきた。
 流石に初めての場所での初めての体験。少々は不安げであったが。案内役の神姫をはじめとして、たくさん神姫がいる所に来ること自体が初めてなマーチは少しだけ嬉しそうでもあった。

「あの、キクナさん」
「なぁに?」
 ふと、当たり前のことに気付いたヤヨイは問いかける。
「キクナさんも、神姫を」
「うん。当然。だって、此処にいるんですもの」
 それもそうだが・・・けど、やっぱりピンと来ない。
 ちらり、と綺麗な腕時計を覗き見たキクナは。誘うように笑って言った。
「それじゃ、迎えに行きましょ? 私達の大切な神姫を」



 マーチは各部チェックも異常なしに終わり。待合室的な小物が誂えられた卓上で、彼女らにしてみれば大き目のソファに座っていた。当然・・・人間の片手に収まる程度ではあるのだが。
 卓上には自分の他に十体程度の神姫がいて。気ままに寝いったり話をしたりしている。

 嫌なことをされたワケでもなく案内役の神姫も丁寧に接してくれた。
 こんなサービス的な物は函館では無かったし・・・それに・・・こんなに大勢の神姫がいる場所を、見たことも無かった。
 マスターの迎えを待つ間、別段誰とも話さずに。ぼんやりと他の常連なのであろう神姫たちのやりとりを見ながら。それでもマーチはちょっと楽しかった。

(はじめて見る神姫がたくさん・・・)
 特にEXモデルといわれるタイプ・・・今、向こうで会話の輪の中心にいるのは蝶型シュメッターリングだったっけ。
 最新モデルである彼女らを筆頭として、EXと呼ばれるタイプは通常生産モデルよりも生産数が極端に少ない。レアリティの高い彼女らを函館では取り扱いさえしていなかった。
 賑やかな場所から、ちょっと離れた所で。そんな風に他の神姫を眺めていると。
 とふ、と肩に何かが覆いかぶさった。
「ふぇ?」
 それが、誰かの両手だと気付き、ふと顔を上げる。

 檸檬色の光が目の中に舞った。
 こちらの姿を映し出す濃い紫色の瞳。
「・・・」
 その瞳の主は。じーっと光が舞い踊る、空色の瞳を楽しげに覗き込んでいる。
「あ、あの。えっと」
 慌てたようにそう言うが、目を逸らすことが出来ないマーチに。その整えられた髪を揺らして、イタズラっぽく彼女は笑った。
「・・・んふっ。ゴメンゴメン。なーんか嬉しそうだったから」
 膝を背もたれにかけたかと思うと、ぐっと乗り出し体を躍らせて。マーチの隣に座る。
 人間の女性の下着をイメージしたかのような素体カラー。肌色を強調した姿を隠そうともせず。けど、明るい笑みを彼女は浮かべた。

(・・・ジルダリアだ・・・)

「私はセプター。貴女は?」
「・・・マーチ」
 またも目を覗き込むように顔を近づける彼女に思わず身を引きながら答える。
「マーチ? へぇ。カワイイ名前。何見てたの?」
 意に介することもなく、セプターと名乗ったジルダリアは聞いてくる。
 その行為がこっちの緊張をほぐす為だと解り、マーチも肩の力を抜いて微笑んだ。
「うん、あのね・・・」

「ハコダテぇ? ホッカイドーだったけ?」
 驚きを隠すことも無い声。マーチが口にした単語にセプターは目を丸くした。
「そうだよ。セプターは?」
「私? 私はヨコハマから」
「ヨコハマ・・・」
 聞いた事はある・・・大きな街のはずだ。けど、確かそれは。
「でも遠いよね。ヨコハマって。此処から」
「うん。マスターの仕事の都合で、こっちの得意様のトコにね」

 照れたように笑うセプター。
 そっか。
 きっと、彼女も・・・。

「良い匂い。ラベンダー?」
 指を差され、それが自分が付けている香水のことだと気付く。
「うん。マスターが付けてくれたの」
 桃色の髪に手をやりながらマーチは嬉しそうに言う。
「良いマスターじゃない。その香水。きっと良いモノよ?」
「えへ」

 それから他愛の無い話をした。
 互いにきっと、居場所の無さをどこかで感じていたから。
 マーチにとっては、こんなにたくさんお話するのは、ノーヴスに続いて二体目だ。

「セプターのマスターは、何をしている人なの?」
 さっきの仕事の都合という言葉を思い出して聞くと、セプターはマーチをまた指差した。何だろうと首を傾げる彼女に笑って。
「香水とか、化粧品の販売よ。アケジマ。アケジマコーポレーション。聞いた事無い? ホッカイドーじゃCM流れないのかな?」
「んと。お化粧の・・・」
 そう言われれば、そういう名前の化粧品をヤヨイの母が持っていた様な気もする。

「・・・そういえば。神姫用のお化粧品て、あるの?」
 ちょっと気になって聞いてみた。自分は付けてもらっているが他の神姫はどうなんだろう。
「無くは無いわよ。私だって付けてるもん」
 セプターが言うには。それは神姫の表面合成皮質を艶やかにするとか・・・あとリップとかが大半らしい。

 だが、そう言われても。マーチはそういう物をお店などでも見たことが無かった。そのことも伝えると。
「あは。とりあえずショップの店先に並ばないわよ? どこに行ってもバトル用品優先」
 しょんぼりとして肩を落とす。
「ヤだなぁ・・・そんなの」
「私もそうだけどさ。マスターの率は男性が圧倒的だし・・・それに『武装神姫』になるまで『神姫』の取り扱いもしてなかった所ばっかりだから」
「私はマスターに髪梳いてもらったりするのも好きだけどなぁ」
 訴えるように言うマーチに、セプターはおかしくてたまらないといった感じで笑い出した。
「ふふっ、あはははははっ」
「??」
「あのねー、マーチ? 化粧品を並べられるようなお店が、無いってのが・・・ホントのトコなの」
 良く解っていない彼女に彼女は笑いを隠そうとせずに続けた。
「神姫センターショップに化粧品なんて並ばないでしょ? 武装の箱の横に、香水とかジュエリーとか並んでなさいよ。どう見ても変じゃない?」
 そう言われれば・・・。
「だから、通信販売限定」
「へぇ」
「そうだ、マーチのマスターにも言っててよ。人間用の中には私のマスターがデザインしたのもあるのよ?」

 色々とセプターは。自分のマスターが混合した香水とかを紹介した。
「ステキなマスターだね」
 そういう事が出来る人がいるという事さえ知らなかったマーチは、目を丸くしてそう言うしかない。
「うん・・・自慢よ」
 セプターは胸を張り。
「一番ステキだもの」

 その言葉を聞いた時。
「・・・え」
 ・・・胸の奥が、ざりっと引き裂かれたように痛みを感じた。
 なんだろう。この感覚は。

「私のマスターが一番ステキ。だから、私も一番ステキになりたいの」
 嬉しそうに言うセプターの横顔が。
 ・・・さっきまでと同じ、目線で見ることが出来ない。 
「それは・・・違うよ」
 なんとか絞り出した声。
「?」
 意を介することが出来ないようにセプターはマーチに顔を向ける。

「私のマスターも、一番ステキだもん!」

「な」
 一瞬唖然としたようだが、それを侮辱と取ったのか。
「なに言ってるのよ! 私のマスターの方が!」
「違うよ!」
 捲し立てるセプターの声を叫んで遮る。
「何が違うってのよ!」
 きっと、青い瞳で睨みつけて。

「セプターのマスターだけが! 一番ステキなんじゃないもの!」

 引いちゃダメなような気がした。
 絶対に、譲ってはいけないような気がした。
 それがどこから来る衝動かはわからない。
 けど・・・。

「なんですって!? そんなワケないわよ! 私の・・・」
 立ち上がって叫ぶセプター。マーチも立ち上がって首をぶんぶんっと振る。

 これだけは。
 負けちゃいけない。負けられない。
 そう、思えた。

「違う!」
「・・・っ!」

 ぱんっ!


 ・・・。
 顔が、揺れた。
「・・・ぁ」
 頬に手をやる。ちょっとだけ、そこがあったかい。
 セプターも「しまった」。と言いたげな困った顔を一瞬浮かべたが。すぐに眉を吊り上げてマーチを睨みつける。
「・・・!」

 視界が滲む。痛さなんて大したことじゃない。
 だけど何故か。
 悔しさが。溢れた。
「・・・やったなぁ!」



 ・・・。
 何か騒がしい待合テーブル。
 ヤヨイとキクナは顔を見合わせて覗き込み、ぎょっとした。
 そこでは。
「セプター!?」
「マーチ!」
 周囲の止めようとしている神姫の真ん中で。ぺしぺしぽかぽかと叩き合っている二体の神姫がいた。

 ひょいっと手を伸ばしてキクナがセプターを掴み上げる。
「はいはい、落ち着いて。セプター」
 そう言いながらも、その声はどことなく面白そうだ。
「離してよキクナ! こいつがっ!」
 バタバタと手と足を動かしながら、僅かに涙を滲ませて顔を真っ赤にしたセプターが叫ぶ。

 ヤヨイも、マーチを手で制する。はっと顔を上げ、何かを言いたげに口をぱくぱくさせていたが。やがて目からポロポロと涙が零れ出した。
「・・・マーチ、どうしたの?」
「だって・・・だってぇ!」
 それだけしか言えないように。
 だって、だって。と繰り返す。

 ヤヨイは困ったようにキクナを見た。
 彼女は暴れるセプターを右手でしっかりと持ちながら、うーん。としばし考えていたが。
「・・・じゃ。こうしましょ?」



 ・・・。
「・・・」
 中央に立体モニターが備えられているそれは見た事が無いほどに大きなバトル筐体。赤くBMAと染め抜かれたロゴが眩しい。
「勝負は10分セット。オフィシャルBMAシステム電波トレースコンタクト。良いわね?」
 キクナがマーチとセプターの両方の顔を覗き込んで言う。
「ふん。文句は無いわ。どうせ結果は見えてるんだから」
 自信ありげに言うセプターに、マーチが大きな声で言った。
「そっちが勝てなかったら、謝るんだよ!」
「!? なんで私があんたなんかに負けなきゃ!」
 カッとして、詰め寄ろうとするセプターに、マーチも頬を膨らませて言う。
「私だって負けないもの!」
「この・・・!」

 ひょい、とまたも掴み上げられる。
「はいはい、そこまで。あとは筐体内でね」
 そういってヤヨイにウィンクを投げて。キクナは対戦側に足を向けた。
「うーん・・・」
 ・・・どうしよう。
 などと考えるまでもなく。マーチがくるっとこちらを振り向いた。
「マスター! 武装を!」







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