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2.目覚めは猫の鳴き声で



「どれどれ……えーっと、これがCSCってやつかな? ずいぶん小さいな……」

家に着いた僕は、早速神姫のセットアップを始めた。
箱から出てきたのは全長15センチくらいの人形だ。
細かい造形までよく出来ていて、今にも動き出しそうだ……って、それは当たり前か。実際に動くんだし。

米粒よりも小さなCSC――正式名称をコアセットアップチップという――をピンセットでつまみ、素体と呼ばれるボディ部分の胸元にある、小さな三つの穴に埋め込んでいく。
このCSCを埋め込むことで神姫は起動するのだが、その組み合わせによって神姫の基礎人格や得意分野、嗜好などが方向付けられるという。
CSCの種類自体いくつもあって、それぞれに特徴があるらしいのだが、僕の手元には若山さんから譲ってもらったCSCがちょうど三つあるだけなので、選択の余地はない。
とはいえ同じCSCの組み合わせでも神姫の種類によってはその性格の現れ方が異なるらしいし、最終的に最も強く影響するのは起動後の生活なのだとか。

「どんな性格でもきっと可愛いと思うようになるから、あんまり気にしなくてもいいよ~」

というのが、若山さんが僕に語った結論だった。
その言葉に従い、あまり細かいことは考えずに作業を進めていく。
考えることといえば、この神姫は一体どんな性格で目覚めるのだろうか、ということ……。

「にゃー」

作業をしている僕の足元に、一匹の猫が不満げな様子でまとわりついてくる。
飼い猫のキャロルだ。
そういえば今日はまだご飯を用意してやっていなかったっけ。

「あーごめんごめん。もうちょっと待っててくれな、もうすぐ終わるから」

すまなさそうに答えると、とりあえず納得したのか、キャロルはまとわりつくのをやめてちょこんと座り込む。

「どうした? 新しい家族が気になるのか?」

首をかしげて神姫を見つめるキャロルに、僕は思わずそんな言葉をかけていた。
自分で言っておきながら、不思議な感覚にとらわれる。
この小さな人形が動き出し、僕と一緒に過ごしていく……ほんの数分後に現実になるであろうその光景を、僕は未だ想像すら出来ずにいた。

「これで最後……っと」

三つ目のCSCを埋め込んだその時、にわかに電話のベルが鳴り出した。
タイミングが悪いにもほどがある。
無視してしまおうかとも考えたが、仕事絡みだと後々面倒だ。
僕は渋々立ち上がり、キッチン横に備え付けられた受話器を取る。

「はい、狩野です」

『ああ、暁人? 最近全然連絡ないから心配してたけど、元気でやってる?』

電話口から聞こえてきたのは、間違いようもない母親の声だった。
僕が仕事を始めて一人暮らしをするようになってからというもの、こうして何かにつけて電話をかけてくる。
別に嫌ではないのだが、我が母親ながら少し過保護に過ぎるのではないだろうか。
一人息子を心配する気持ちはわからないでもないが、もう少し僕のことを信用してほしい、とは毎度思うことである。

「ああ、母さんか。うん、特に問題なくやってるよ。あーごめん、今ちょっと取り込み中なんだ、またかけるから」

『そんなこと言って、貴方自分から連絡してきたことほとんどないじゃないの』

やばい、地雷を踏んでしまったか……こうなるとうちの母親は話が長い。
説教というわけではなく、脱線を繰り返して話がとんでもない方向へ進んでいってしまうのだ。
それは声のトーンでわかる。
普段なら適当な相槌を返しながら聞き流すのだが、さすがに今はそうもいかない。

「あーほんとごめん、今はどうしても時間がないんだ。ちゃんと連絡するから、じゃっ!」

『あ、こら、あきひ……』

少々強引に電話を切り、受話器に向けて手を合わせる。
ごめん、ホントに今度ちゃんと連絡するからさ。

えーっと……そうだ、神姫は起動したらすぐにマスター登録というのをしなければならないんだっけ。

このマスター登録によって神姫は特定の人間をマスター……つまり自分の主人として認識し、ここにある種の契約が産まれる。
こう言うと伝承の中にある召喚の儀式のようだが、イメージとしてはあながち間違いでもないのかもしれない。

「……そんなこと考え込んでる場合じゃないか」

誰にでもなく呟き、急いで部屋に……と、その時、聞きなれない声のようなものが僕の耳に入ってきた。
ともすれば聞き逃してしまいそうなくらい小さなものだったが、何故かそれが耳について仕方ない。

「……ぅ」

何だろう、確かに声のように聞こえる。
テレビはつけていないし、割と防音がしっかりしている部屋なのでお隣さんということはないと思う。
外からの音というのも、同じ理由で可能性は低い。
聴覚を集中させて、音源を探る。

「……ぁぅー」

今度ははっきりと聞こえた。
間違いなく人の声だ。そしてその発信源は……。

「……誰か~、た~す~け~て~」

……僕の、部屋?

「……しまったあ!」

キャロルが興味津々な様子で神姫を見つめていたのを思い出すと同時に、僕はあわてて駆け出し、部屋のドアを乱暴に開けた。
そして僕の視界に飛び込んできたのは……。

「にゃー」

「あうあうー、離してくださいってば~」

我が家の愛猫に捕食されそうになりながら情けない声をあげている、小さな女の子だった。



「うう、ぐすっ……ひっく」

さて、困った。

神姫を押さえ込んでいた(当人は多分じゃれあっていたつもりなのだと思うが)キャロルを急いでひっぺがし、とりあえず夕飯を与える。
今は好物のミシマ水産のツナ缶を一心不乱に食していらっしゃる。
こちらのことなど眼中にない様子。

そしてようやく神姫と向かいあったまではいいのだが、肝心の神姫が先ほどから泣いてばかりなのだ。
キャロルには子猫の頃から僕の指で甘噛みの練習をさせているので、痛みとか外傷はないと思うのだが……よほど怖かったのだろうか。

「あーその、なんだ……ごめん、謝るから、とりあえず泣き止んでくれないかな?」

そう言葉をかけるも効果はなし。
参った、僕はこういう状況はとても苦手なのだ。
女性経験が皆無といっていい僕にとって、女性に泣かれるということは、対処のしようがない天災のようなものである……経験があったとして、それが神姫に通用するかは疑問だけど。

とりあえず言葉で彼女をなだめることは早々に諦めるとする。
となれば、残るは実力行使だ。
彼女を怖がらせないように、そっと手を伸ばす。
俯いてえぐえぐやっている彼女が気付く様子はない。

ぴと。

僕の人差し指が彼女の髪に触れる。
そしてゆっくりと撫でるように、さすってみた。
人間同士の最も原始的なコミュニケーション、スキンシップ。
その基本中の基本である『頭を撫でる』という行為を実践したのだ。

僕が頭を撫でると同時に、彼女の動きがぴたりと止まる。
ぐすぐすと泣いていた声も止まったので、僕はひとまず安心して、そのまま頭を撫で続けた。
指先に、微かな温もりを感じる。
それが機械特有の熱であると頭では理解しながらも、その温かみは人が持つそれと同等のものに感じられて仕方がなかった。

しばらくされるがままになっていた彼女が、ゆっくりと顔を上げる。
まだ目元に涙が残っているようだが、その顔に怯えや恐怖はない……というか、なんだかぽーっとしているようだけど。

「ん、少しは落ち着いた?」

「ふぁー……」

僕の辞書には、肯定にも否定にもそんな返事はない。
それ以上どうすることも出来ず、僕はまた困ってしまった。
彼女の金髪はさらさらしてて気持ちいいし、しばらくこのままでもいいんだけど……。

いつの間にかぺたんと座り込み、すっかり脱力している彼女の姿に、僕ははたとあることに考えつく。

(もしかして、神姫って頭撫でられると動けなくなるとか……?)

そんな馬鹿な。
人間とコミュニケーションをとれるのがウリだってのに、頭撫でたら動けないなんて本末転倒にもほどがある。
でも昔、しっぽを掴まれると力が抜けるアニメキャラとかもいたしなあ……って、それはまた違う気もするけど。

とにかく、もし本当にそうだとしたら困るので、僕は一度彼女から指を離した。
彼女は相変わらずぽーっとしていて、その様子に変化はない。

「……そうだよなあ、そんな矛盾あるわけな」

「ふあっ、わわーーーーーーーーっ!?」

突然彼女が大きな声をあげたので、僕はびっくりしてひっくり返ってしまった。
十五センチサイズから発せられた音量とは思えなかった。

「な、何、どうしたの!?」

「ごごごご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめあいたーっ!?」

いきなりすごい勢いでぺこぺこと頭を下げ、謝りだす。
そして勢いがつきすぎたのか、床にモロに頭を打ち付けていた……かなり痛そうだけど、大丈夫かな。

「うー、くらくらするよお」

涙を浮かべながら、両手でおでこを押さえている。
よっぽど痛かったんだなあ……じゃなくて、とりあえず落ち着かせないと。

「あー……君、とりあえず僕の目を見てくれるかな?」

「はは、はいいっ!」

僕がそう言うと、彼女は軍人も驚くくらいびしーっとまっすぐに立ち、僕の目を見つめた。
まだ冷静とは言えなさそうけど、話は出来そうだ。

「えっと、君は武装神姫。自分のことはわかるかな?」

まずは彼女の状態を確かめないといけない。
いきなり混乱していたみたいだし……僕のせいなんだけど。

「あ、はいっ。私は武装神姫、天使型MMSアーンヴァル。コアユニットコードAGL―ARNVAL。個体コードTT―45986、素体構成材質は……」

「ストップストップ、そこまででいいよ。ありがとう」

彼女の話を途中で遮る。
構成材質とか興味がない話ではないが、そんなのは後で調べればいいことだし、今の目的はそこじゃない。

「よろしいのですか? まだ途中ですが……」

「いいのいいの、いずれ詳しく教えてもらうから。それより先に、マスター登録ってやつをしないといけないんじゃないのかい?」

『マスター登録』という言葉に、彼女はようやく落ち着きを取り戻したらしい。
「そ、そうですね」なんて言いながら、ふーっと一つ深呼吸……なんか、全然ロボットっぽくないな。
若山さんが怒ってた気持ちが、改めてわかった気がする。

「では、マスター登録を開始します。音声解析、準備……完了。貴方が私のマスターですか?」

先程までとは違う、機械的な音声。
合成音というわけではないが、やはりこういうところは機械なのだと再認識する。
そして僕が返事をしようとした、まさにその時……。

「にゃーん」

いつの間にか食事を終えていたキャロルが僕の変わりに返事をした。

「お、おいっ」

もちろん僕は慌てる。
猫が神姫のマスターだなんてことになったら一大事だ。
む、いやしかしそれはそれで興味深……いやいやいや。

そんなことを考えている間にも、彼女は言葉を続ける。

「解析開始……完了。登録不能な音声信号と判定。登録に失敗しました。マスター登録を再試行します」

どうやら猫の声ではマスター登録は出来ないらしい。
考えてみれば当たり前なのだが。
それに、マスター登録には自分の名前を告げることが必須だったはず。
さすがに「にゃーん」ではそこでひっかかるだろう。

僕は胸を撫で下ろし、再度マスター登録に臨む。

「貴方が私のマスターですか?」

「そうだよ、僕の名前は……」

「にゃー」

って、おい!

「解析開始……完了。登録不能な音声信号と判定。登録に失敗しました。マスター登録を再試行します」

この手の登録は三回失敗すると一時的にシャットダウンされるって相場が決まってる。
今度こそ邪魔されるわけにはいかない。

僕はキャロルの両脇をむんずと抱え上げ、クローゼットの中に押し込んで扉を閉めた。

「にゃー!」

なんだか怒っているようだが仕方ない。
ごめんよキャロル、少しだけ我慢してておくれ。

「さて……」

これで安心だ。
僕も一度深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。

「貴方が、私のマスターですか?」

三度目の試行。
ゆっくりと、確認するように聞こえたのは気のせいだろうか?

「そうだよ、僕が君のマスターだ。僕の名前は狩野暁人」

「解析開始……完了。音声信号を保存。マスター名、狩野暁人。マスター登録に成功しました」

登録完了、これで一安心だ。
彼女の声質が、それまでの機械的なものから、本来彼女が持っているものへと変わる。

「えと、これからよろしくお願いしますね、マスター」

鈴を転がすような、というのはこんな声のことを言うのだろう。
ちょっと舌足らずな喋り方がまた可愛らしい。

「うーん、マスターっていうのは堅苦しいな。僕のことは暁人でいいよ」

彼女はきょとんとしている。
名前で呼ぶこともマスターと呼ぶことも、彼女にとってあまり違いはないのだろうか。

「えと……じゃあ、暁人さん」

「うんうん、よく出来ました」

ご褒美……というわけでもないが、人差し指で彼女の頭をぽふぽふと撫でてやる。
そうするとまた、彼女は脱力してぽーっとなってしまった。

「ふぁー……」

「あ、ごめんごめんっ」

僕は慌てて指を引っ込める。
こんなこと説明書には書いてなかったんだけど……腑に落ちないが仕方ないか。

「神姫って頭撫でられると動けなくなっちゃうんだね、僕も気をつけないと」

「……え?」

彼女が「何言ってるんですか?」という目で僕を見る。
いや、そんな反応されても……。

「頭撫でられると動けなくなるんじゃないの? 事実、君はさっきからそうなってるし」

そう言いながら三度人差し指で頭を撫でると、やっぱり同じ反応。
でも、なんだか赤くなってもじもじしているように見える。

「えと、えーと、あのですね……」

何か言いたそうなのでとりあえず指を離し、話がしやすいように彼女と目線の高さを合わせた。
彼女はほうっと息を吐くと、

「先に結論から言いますと、頭を撫でられても神姫が動作停止することはないです」

と、はっきりした声で言う。

そりゃそうだよなあ、やっぱり。
頭も撫でられないで何がコミュニケーションか、などと思う。
しかし、そうすると先程からの彼女の脱力っぷりが気になるわけで。

「でも、君は頭を撫でられると様子がおかしくなるよね? もしかして、どこかにトラブルでもあるのかな」

いかに心を持つとはいえ……いや、逆に考えれば、それだけ複雑なプログラムや精巧なボディで出来ているのだ。
精密機械の常で、どこかにトラブルが潜んでいたとしてもおかしなことではない。

そんな僕の考えをよそに、彼女から返ってきた答えは、僕の予想の斜め上を行くものだった。

「いや、そのですね、何と言いますか……その、頭を撫でられると、あったかくて気持ちよくて、ぽーっとなってしまうようで……」

顔を真っ赤にして、指をぐにぐにしながら答える彼女。
えーっと、それはつまりプログラムのバグやハードウェアの故障とかじゃなくて、もっと原始的な感情に基づくもの……。

「あー……それはつまり、頭を撫でられるのが好きってこと?」

恥ずかしそうに僕を見上げながら、こくこくと頷く。
なるほど、頭を撫でると動けなくなるのは武装神姫全般の仕様とかじゃなくて、彼女特有の個性ってことか。
しかしまあ、そんな個性もありなんだろうか?

いずれにせよ、彼女に悪影響を与えるものではないとわかったので安心だ。
遠慮なく(というのも妙な言い方だが)頭を撫でさせてもらうことにする。

「はふ~……」

そして脱力。
先程よりもいささか安心しているのか、自分から僕の指に頭をすりつけたりしている。
うーん、なんか小動物みたいで可愛いな……と、そこで僕は大事なことを思い出し、彼女を撫でる指を離した。
名残惜しそうに彼女は首を伸ばし、頭を僕に向けて差し出してくる。
くう、可愛いぞ……このまま戯れていたいけど、そうもいかない。

「君に名前をつけてあげないといけないね」

いつまでも『君』とか『彼女』のままじゃ可哀想だ。
うんうん、と僕は一人で頷き、考えを巡らせる。
さて、どんな名前がいいだろうか。

「天使型、天使……エンジェル、アンジュ、セラフ……ダメだな、安直すぎる」

せっかくだから彼女に似合う、最高の名前をつけてあげたい。
彼女は色白でかつ金色に輝く髪の持ち主だ。
和風な名前は最初から選択肢の外にある。
洋風の名前でも、安直なのはダメだ。
ちゃんと意味を持った、彼女だけの名前にしてあげないと……。

「あのー、暁人さん?」

がりがり。

「彼女のイメージから連想する言葉……天使からは少し離れてみよう。白、金、乙女……」

『暁人はそういうトコ無駄にこだわる癖があるよな』とは大地の弁だ。
大地に限らず、学生時代から周囲の友人の評価は概ね変わっていない。
別にいいのだ、自覚もあるし。
興味のないことには悲しいくらい無関心、その代わりこだわるところは徹底的にこだわる、それが狩野暁人という人間である。

「あのあの、暁人さんってば」

がりがりがり。

「なかなかいいのが思い浮かばないな……そもそも彼女のイメージっていうのがまだ漠然としすぎてるんだ」

まだ出会ってほんの三十分である。
僕が彼女について知っているのは、外見的特徴と「頭を撫でられるのが好きだ」ということくらいのものだ。
しかしまあ、当たり前のことだが名前というのはそんな状況でつけるものである。
キャロルの時はどうしたんだっけ。

「ええと、あの時は確か……」

「あーきーひーとーさーん!」

「うわっ」

「きゃあっ」

耳元で大声がしたため、僕は再び後ろにひっくり返ってしまう。
そして同時に悲鳴。
いつの間にか僕の肩に登っていた彼女が、僕がひっくり返ったために空中に投げ出された……なんてのは後でわかることで、空中から落下してくる小さな影の下に、夢中で仰向けのままの体を滑り込ませた。

がつんっ!

「あだっ!」

目の前に星が飛び、直後視界が暗転しかける。
なりふり構わずに滑り込んだため、勢いで頭を何かにぶつけたらしい。
かなり痛い、もしかしたら少し馬鹿になってしまっただろうか?

「いやそれよりもだ」

くだらない考えに一人ツッコミをいれ、彼女の安否を確認する。
その姿は……いた。
僕の胸の上にダイブするような形で乗っている。
目立った外傷はない。

「おーい、大丈夫?」

声をかけると、うにゅーなんて唸りながら起き上がり、ちょこんと僕の胸の上に座り込む。

「はふ、びっくりしましたよ~……って、暁人さん頭! 大丈夫ですか!?」

どうやら僕が頭をぶつけたことに気がついたらしい。
泣きそうな顔で僕の目の前に寄ってくる……近いよ、すごく。
そして「ごめんなさい」を連呼。

「あー、大丈夫だから、そんなに謝らなくていいって」

「でもでもっ、私のせいで暁人さんが、暁人さんが~はうっ」

気にしないでいいと言っているのに彼女は半泣きのままだ。
拉致があかないので頭を撫でてやると、予想通り大人しくなる。
なんというか、困った時はとりあえず撫でておくのがよさそうだ。

しばらく撫でていると、彼女はすっかりほわほわになってしまった。
頃合と見て声をかける。

「それより、いきなり大きな声出してどうしたの?」

すると、彼女ははっと我に返ってぽんと手を打つ。
そして恐る恐る、僕の頭の先……クローゼットを指差した。

「えとですね、なんかさっきからがりがりがりって音がしてるんですけど……」

がりがりがりがりがり。

そして、怒りの雄叫び。

「うにゃーっ!」

「あちゃあ……忘れてた」



「悪かったって、機嫌直してくれよ~」

僕が手を合わせて許しを請うているのは、我が家の猫姫キャロル。
先程の仕打ちで大層機嫌を損ねたらしく、目を合わせようともしない。
別にキャロルの機嫌が悪いからといって僕に実害があるわけでもないのだが、そこはやはり同じ屋根の下で暮らすもの同士。
良好な関係を維持しておくべきだと思うのである……猫好きの僕としては、単に無視されるのが寂しいからというのもあるが。

「明日はミシマ水産の最高級のツナ缶買ってきてやるから、な?」

ミシマ水産のツナ缶といえば、食用ツナ缶の中でも割と高級な部類に属するものである。
それまで普通に猫用のツナ缶を食べていたキャロルだったが、ある日僕が食べていたミシマ水産のツナ缶を分けてあげたところ、それ以来他のツナ缶には目もくれないようになってしまったのだ。
そしてその最高級品ともなると、普通に人間用の惣菜弁当、それもそれなりのものが買えるくらいの値段になる……正直、財布にはあまり優しくない。

そんな僕の切実な願いを聞いているのかいないのか、キャロルは悠々と僕の脇をすり抜けていく。
その瞳が見ているものは……少し離れたところで成り行きを見守っていた、神姫の彼女だ。

「はわっ」

キャロルが自分を見ているのに気付いたか、ぴしっと石のように固まる彼女。
どうやら最初に受けた衝撃は相当のものだったらしい……って、当たり前か。
起動直後に猫に組み敷かれた神姫なんて、そうそういないだろう。

「心配しなくても大丈夫だよ、傷つけたり、痛くしたりすることはないからさ」

そこら辺はきちんと躾けてある。
ついつい手を出してしまうのは猫の本能だから仕方ないが、力加減は出来るはずだ。

びくびくしている彼女の前にちょこんと座り、じっと見つめるキャロル。
大丈夫だと思うんだけど、あまり怖がらせるのも悪いよな……そう思って助けに入ろうとしたその時、ぺろり、とキャロルが彼女の頬をなめた。

「ひゃっ!?」

予想外の刺激に、びくーっと傍目にもわかるほど硬直する彼女。
それにも構わずキャロルのスキンシップは続く。
鼻や頭をすり寄せてみたり、くんくんと匂いをかいでみたり……やがて彼女も慣れてきたのか、おずおずとキャロルの鼻頭に手をのばし、そっとさする。
キャロルが気持ちよさげに目を細めるのを見て、彼女は幸せそうに笑った。

「あはっ……あなたも私と同じで、撫でられるのが好きなんですね」

満足そうに一鳴きすると、キャロルはお返しとばかりに彼女の頭を鼻で撫でるようにさすった。

「きゃっ、もう、くすぐったいですよ~」

そんな風に言いながらも、彼女に嫌がる様子はない。
むしろ、同じように気持ちよさげにしているくらいだ。
やれやれ、これなら心配はいらないかな。

彼女たちのじゃれ合いはしばらく続いた。
そんな中で、僕はキャロルの行動に母性のようなものを感じはじめていた。
この辺りは猫が少ないのか、まだそういう事態になってはいないが、キャロルももう母猫になってもおかしくない年齢だ。
もしかしたら、生まれたばかりの彼女の姿に母性本能を刺激されたのかもしれない……ん、待てよ?
生まれたて……誕生……。

「それだっ」

急に声をあげた僕に驚いたのか、一人と一匹が揃って僕を見る。
僕は彼女に近づき、目線を合わせていった。

「君の名前が決まったよ……ノエルだ」

ラテン語で『誕生』を意味する言葉を語源とするこの名前……反射的に思いついたものだが、口にすればするほど、この世界に生まれた彼女と、この先の幸せを祝福するにふさわしい名前だと感じられる。

「ノエル……いい響きですね、嬉しいです」

幸せそうに笑う彼女……ノエル。
よかった、気に入ってくれたみたいだ。
そして僕は、彼女の目の前にそっと指を差し出した。

「それじゃ、これからよろしくね、ノエル」

「はいっ、暁人さん!」

彼女が両手で僕の指を掴む。
人間と神姫の、不恰好だけど気持ちのこもった握手だ。
帰り道で感じた不安は既になく、今の僕は、この新しい関係が少しでも長く続くことを願うばかりだ。

すっかり機嫌をなおしたキャロルの鳴き声が、彼女の誕生と二人の出会いを祝福してくれているように聞こえた。







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