曙の女神達──あるいは新年三ヶ日(後半)
雪は無くとも、元日の空気は刺す様な冷たさを以て私達四人を襲う。
真っ白い息を吐きながら、私は大切な“妹”達を抱えて歩を進めた。
その行き先こそ“狛犬はうりん”が居るという、近所の神社が一つ。
真っ白い息を吐きながら、私は大切な“妹”達を抱えて歩を進めた。
その行き先こそ“狛犬はうりん”が居るという、近所の神社が一つ。
「こういうのは久しぶりだな、有無……お前達、寒さは問題ないか?」
「あ、大丈夫です。特に関節の動きも悪くないですし、平気ですよっ」
「……それにしても、ハウリンタイプの娘に逢うのが楽しみなんだよ」
「クララちゃんはやっぱり、どんな感じか気になっちゃいますの~?」
「あ、大丈夫です。特に関節の動きも悪くないですし、平気ですよっ」
「……それにしても、ハウリンタイプの娘に逢うのが楽しみなんだよ」
「クララちゃんはやっぱり、どんな感じか気になっちゃいますの~?」
私の腕の中で、クララが肯く。やはり情報を知っていただけあってか、
その“狛犬はうりん”とやらに酷く強い興味を抱いているらしかった。
今が元日である事も考えると、忙しくて逢えぬかもしれないが……だが
それでもなお、クララは『行ってみたい』欲求を隠さなかったのだな。
その“狛犬はうりん”とやらに酷く強い興味を抱いているらしかった。
今が元日である事も考えると、忙しくて逢えぬかもしれないが……だが
それでもなお、クララは『行ってみたい』欲求を隠さなかったのだな。
「……む、この神社か。“大混雑”という程、忙しそうには見えぬな」
「んと、神田明神とか色々ありますからね……秋葉原近辺の神社って」
「でも混んでないなら、好都合だよ。早速、社務所に行ってみるもん」
「あ!マイスター、クララちゃん!あの娘じゃないですの?ほら……」
「んと、神田明神とか色々ありますからね……秋葉原近辺の神社って」
「でも混んでないなら、好都合だよ。早速、社務所に行ってみるもん」
「あ!マイスター、クララちゃん!あの娘じゃないですの?ほら……」
ロッテが何かを見つけ、振り袖の絡みついた腕で指し示す。その先には
巫女服に身を包んだ、清廉そうな一人のハウリンタイプが甲斐甲斐しく
他の巫女や禰宜を手伝っていた。絵馬やお守りの販売、片付け等々だ。
巫女服に身を包んだ、清廉そうな一人のハウリンタイプが甲斐甲斐しく
他の巫女や禰宜を手伝っていた。絵馬やお守りの販売、片付け等々だ。
「……ほう、この娘が“狛犬はうりん”か。大人締めで可愛らしいな」
「新年明けましておめでとうございます……私は“結”と申しまして」
「結さん?気分悪くしたら謝るんだよ、噂でしか名前知らなくて……」
「新年明けましておめでとうございます……私は“結”と申しまして」
「結さん?気分悪くしたら謝るんだよ、噂でしか名前知らなくて……」
『何処でそんな通称が流行っているのでしょう?』と、結という神姫は
困った様に首を傾げてみせる。その目に宿る意思の炎は、強いと見た。
大人しくとも一本筋を通した、真面目で実直な娘なのだろう。そして、
受付の傍らにある竹箒……無論、神姫用だ……も仕込みの痕跡が見え、
“只者ではない”という印象を持つには十分すぎる立派な娘であった。
困った様に首を傾げてみせる。その目に宿る意思の炎は、強いと見た。
大人しくとも一本筋を通した、真面目で実直な娘なのだろう。そして、
受付の傍らにある竹箒……無論、神姫用だ……も仕込みの痕跡が見え、
“只者ではない”という印象を持つには十分すぎる立派な娘であった。
「結さん。わたし達、この近所でMMSショップをやっていますの~っ♪」
「えと。あたしはアルマでこっちの娘は、クララちゃんとロッテちゃん」
「そして私がマスタ……“マイスター(職人)”の槇野晶だ。宜しく頼む」
「はい、槇野さんに神姫の皆さん……本日の御用件は、何でしょうか?」
「えと。あたしはアルマでこっちの娘は、クララちゃんとロッテちゃん」
「そして私がマスタ……“マイスター(職人)”の槇野晶だ。宜しく頼む」
「はい、槇野さんに神姫の皆さん……本日の御用件は、何でしょうか?」
営業トークじみてしまった挨拶にも嫌な顔をせず、彼女は用件を聞いた。
ここで、ふと悩む。ついつい社務所に寄ってしまった物の、御神籤位しか
頼む事は無い。信心深い、という程でもない私は明確な目的を持たずに、
ここに居る事となる……が、頼んでもよさそうな事は私の胸中にあった。
ここで、ふと悩む。ついつい社務所に寄ってしまった物の、御神籤位しか
頼む事は無い。信心深い、という程でもない私は明確な目的を持たずに、
ここに居る事となる……が、頼んでもよさそうな事は私の胸中にあった。
「ふーむ……そうだな、まずは四人分の御神籤と、願掛けをしたいが」
「はい。ではこの絵馬と……神姫の皆さんにも、個別に必要ですか?」
「有無。頼む……って、御神籤の筒を抱えて大丈夫なのか、結とやら」
「はい?あ、ええ。ご主人が私に配慮して、軽く作って下さったので」
「はい。ではこの絵馬と……神姫の皆さんにも、個別に必要ですか?」
「有無。頼む……って、御神籤の筒を抱えて大丈夫なのか、結とやら」
「はい?あ、ええ。ご主人が私に配慮して、軽く作って下さったので」
そう言って軽々と御神籤箱を運んでくる彼女を見て、成程と実感する。
紛れもなく、彼女はここの“巫女”なのだ。彼女が社務に携われる様に
この神社は設計されている。神姫センターもある秋葉原の中に、神姫が
携わっている神社。神姫オーナーにこれから人気が出るかもしれんぞ?
紛れもなく、彼女はここの“巫女”なのだ。彼女が社務に携われる様に
この神社は設計されている。神姫センターもある秋葉原の中に、神姫が
携わっている神社。神姫オーナーにこれから人気が出るかもしれんぞ?
「では、皆さんどうぞ振ってみて……出てきた棒を見せて下さいまし」
「アルマからやってみるといい。何、神姫でも振れるはずだろうしな」
「わ、分かりましたっ!よいしょ、っと……あ、出てきました結さん」
「アルマからやってみるといい。何、神姫でも振れるはずだろうしな」
「わ、分かりましたっ!よいしょ、っと……あ、出てきました結さん」
出てきたのは、御神籤の在処を示す札の様な物だった。数は『十三』。
……西洋の数としては不吉だが、ここは神社。気にする事はなかろう。
……西洋の数としては不吉だが、ここは神社。気にする事はなかろう。
「十三番ですか。皆さんも一通り振ってから御神籤をお渡ししますね?」
「ではロッテ・クララと続けて、最後に私が振るとしよう。さ、ロッテ」
「はいですの!よいしょ、よいしょ……あ、出ましたの!『二十四』!」
「ではロッテ・クララと続けて、最後に私が振るとしよう。さ、ロッテ」
「はいですの!よいしょ、よいしょ……あ、出ましたの!『二十四』!」
そして、クララが『八』で私が『十』。一通り出揃った所で、結が私達に
折り畳まれた御神籤を一枚ずつ差し出してくれた。横には、四枚の絵馬。
その内の三枚は、子供や神姫に合うサイズで作られた小柄な絵馬だった。
折り畳まれた御神籤を一枚ずつ差し出してくれた。横には、四枚の絵馬。
その内の三枚は、子供や神姫に合うサイズで作られた小柄な絵馬だった。
「小吉に、凶……吉に、私は中吉か。ロッテが凶というのは不安だな」
「大丈夫ですよ槇野さん、後はロッテさんの運気が上がるだけですし」
「そう言う物なのか。だそうだからロッテや、あまり凹むでないぞ?」
「は、はいですの~……結さん、ありがとうございますですの~っ♪」
「どう致しまして。それでは、この絵馬に“願”を書いて下さいまし」
「はいっ……やっぱり、他の人に見せない方が気分出ますよね。これ」
「大丈夫ですよ槇野さん、後はロッテさんの運気が上がるだけですし」
「そう言う物なのか。だそうだからロッテや、あまり凹むでないぞ?」
「は、はいですの~……結さん、ありがとうございますですの~っ♪」
「どう致しまして。それでは、この絵馬に“願”を書いて下さいまし」
「はいっ……やっぱり、他の人に見せない方が気分出ますよね。これ」
そして、互いが互いの願いを知らぬままに絵馬は完成した。後は奉納か。
一つ心の底を書いてみたら、多生はモヤモヤが振り切れた……気がする。
来て良かったな。可愛い神姫に逢え、私達の道標が一つ増えたのだから。
一つ心の底を書いてみたら、多生はモヤモヤが振り切れた……気がする。
来て良かったな。可愛い神姫に逢え、私達の道標が一つ増えたのだから。
「それでは、後はお参りして帰るとしようか。また合おう、結とやら」
「はい。どうか槇野さんと皆様に、良い事のある一年となります様に」
「有り難うなんだよ、結さん……巫女のお仕事、どうか頑張ってね?」
「はい。どうか槇野さんと皆様に、良い事のある一年となります様に」
「有り難うなんだよ、結さん……巫女のお仕事、どうか頑張ってね?」
──────神様にだけ見せた願い、何時か叶えてみせるよ。