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えむえむえす ~My marriage story~

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§0§
 デジタルのデータで構成された丘陵にしとしとと雨が降ってきた。
 通り雨だろう。空には、陽光降り注ぐいつもの空のテクスチャが貼られている。

 なめていたかかっていたー。
 今にして、そう思う。アタシの個体名はケイ。悪魔型MMSだ。
 今、騎士型MMSの一体と対峙している。
 このタイプとは、初めての対戦。
 正直、第三弾である騎士型の下馬評は低いものだった。
 なぜかって?
 金持ちのボンが発売前の騎士型でバトルしてさ。それが重装甲&飛び道具満載で、かなりみっともない負け方をしたんだ。
 ま、いいや。今はその評価を変えるときだ。
 アングルブレードの刃をつたう水滴がアタシの手を濡らす。
 さて。どうする。

§1§
 「ああ、天さん、ちょっと」
 行きつけの神姫ショップ。
 アタシたちー、アタシと天使型MMSのユリ、はウチらのオーナーと一緒に店内で新しい装備などを物色していた。声を掛けてきたのは店長だ。「天さん」ってーのは、ウチらのオーナーのアダ名だ。名字の一文字をとっている。
 「ちょっと、対戦につきあってもらえないだろうか」
 「え?どゆこと?」
 「いやぁ、新しく神姫を始めたお客さんが対戦に来ているんだけど、適当な相手がいなくてね」
 オーナーが納得したようにうなずく。今は平日の午前。まぁ、お客さんが少ない時間帯ではある。
 「いいですよ。そのつもりで来たんだし。で、相手は?」
 店長はほっとしたような顔で応える。
 「騎士型です。本当に神姫を始めたばかりで、装備も標準のものしか持っていないんです。リーグ戦に出る前に、対戦をしてみたいって」
 オーナーが、ショウケースの上で品物を観ていたアタシたちを振り返る。
 「あら、それならケイの出番じゃない」
 と、何事もなかったかのようにウィンドウショッピングに戻るユリ。
 このマイペース娘め。もうちょっと会話しようよ、会話。
 「何よぉ。パン、パーンと狙撃で屠っちゃえばイイじゃん」
 「イヤよ。まがりなりにも相手は初心者なんでしょ。それで、私が一方的にやっつけちゃうってのもどうかなって思ったの」
 ま、理屈は通っている。でも、ちょっとさ、こっちを向いて話をしないか。
 「おっけ。ケイ。君の出番だ」
 オーナーの声で終了。てか、ユリとの舌戦でアタシが勝った覚えはない。どっかで育て方、間違えてないか、オーナー。

 買い物を済ませて、アタシたちは店長と一緒に二階へ上がる。
 アタシたちはサードリーグの下位ランカーだ。それもあって店長はオーナーに声を掛けたのだろう。
 この店の常連には全国的に有名なファーストやセカンドの上位ランカーも多い。そんな連中とやったら、ユリじゃないけど初心者なんて瞬殺だ。
 アタシたちが下位に甘んじている理由は単純。バトルをこなしていないのだ。
 オーナーが仕事で忙しいことが主な理由だ。まぁ、バトルを重ねたからと言って、アタシやユリが上位に行けるという保証はないけどね。
 でも、自分で言うのもなんだけど、アタシたち二体にオーナーが課す日頃の訓練は、なかなかにユニークなものだ。銃火器だけで、サバゲもどきのことをしたり、武装もなにもつけずに合気道のモーションをトレースしたりしている。
 おかげで、アタシたちの戦闘スタイルは、今の神姫バトルの主流からちょっと外れたものになっている。天使型のくせに接近戦を挑んできた猫型に小手返しをかましたのは、ウチのユリくらいだろう。
いや、色んな社外品とか興味はあるのだけど、オーナーは純正武装にこだわりたいらしいし、な。

§2§
 「Uryyyyyyyy!」
 騎士が長槍を構えて、突撃をかましてきた。
 速い。
 ハンドガンのウズルイフを構え、撃つ。
 相手は、それに動じず、鎧で弾をはじきながら、突っ込んでくる。
 サブアームで長槍を捌こうとー。
 「!?」
 ガキン、と音をたててサブアームごとアタシのからだがひっくり返りそうになる。
 なに、この威力。
 開始直後、牽制に放ったグレネードにも耐える鎧に驚いていたら、この瞬発力。やっぱりあの金持ちボンは、騎士型の特性をまったく解ってなかったんじゃない。
 もうこの距離じゃ、銃火器は使えない。使ってもムダだって解ったし。オーナーも格闘装備への移行を指示してくる。背面ユニットにセットしていた、短剣、フルストゥ・グフロートゥをサブアームに構えさせながら相手を振り返る。
 騎士は長槍を地面に放ると、腰の長剣を引き抜きながら立ち上がり、ラッシュを仕掛けてきた。アタシはサブアームで防戦しながら頭部に装備した長剣、アングルブレードを構えようとした。
 騎士は長剣を両手で巧みに使い、サブアームから繰り出される一撃をことごとく封じ込めていた。動きが大きくなる長剣でよくやる。
 「動作パターンが異様に充実しているんじゃない? さすが後発」
 アタシがアングルブレードを手にする動きを気にする様子を見せたのを確認、すかさず脚部のユニットで下段のまわし蹴りを放つ。
 かわされた。当たりはしたが、どこかで動きを読まれたのだろう。彼女は、その瞬間、後ろに飛んだのだ。アタシもまだまだ未熟よね。
 と、騎士が立ち上がる。どうやら、さっきの蹴りが効いていたようだ。左足の様子がおかしい。どうやら、騎士は向こうのオーナーと話をしているようだ。と、その兜を脱ぎ始めた。編んでまとめあげた金髪が洋行にきらめく。
 これで終わり?
 「突然の対戦申し込みに応じていただき、痛み入る」
 あー、なんか、いかにもマジメな騎士様って感じ。アタシは、とりあえず剣を四つの腕に構えたまま、耳を傾ける。
 「私の名はアグリアス。主と私の初陣の相手となる貴殿の名を伺いたい」
 「アタシはケイ」
 これで終わりするのか、尋ねようとして、やめた。アタシたちは武装神姫なのだ。
 「ケイ殿、か。経験未熟な新参者の上、左足は見て解るように自由に動かん。しかし、武装神姫として生まれたからには主へ勝利をもたらしたいと考えるのは必定。相手には不足かも知れぬが、参る!」
 『なんだか、ケイってRPGで勇者の行く手を遮るモンスターみたい』
オーナーのインカムに取り付いたのか、ユリがそんなことを言ってくる。アタシが言い返す前にクスクス笑いが不自然に途切れたのは、オーナーがインカムからユリをひっぺがしたからなのだろう。

 そうして、アタシたちはお互いに剣を構えて対峙していた。
 雨が全身を濡らしていく。何だろう、何かがおかしいと感じていた。
 でも何が?

§3§
 「YEAH!」
 騎士ー、アグリアスが再度ラッシュを仕掛けてくる。今度は剣を片手に持ち、上腕に装備した盾も積極的に使って、アタシの四つの腕から繰り出す斬撃をかわし、打ち込んでくる。
 さすがに左足のハンデがあるから、さっきまでとは違い、アタシは時々鎧に剣をヒットさせることができた。でも、その表面に火花を散らすだけだ。もう少し、スピードを載せられたら叩き割ることもできそうだけど、彼女の技術がそれを許さない。
 ふと、アタシはバトル前にオーナーが買い込んだモノのことを思い出した。
 相手が騎士型と聞いたオーナーが、買い込んだものだ。
 アタシ自身の右手を振りかぶって、内から外へアングルブレードを振り下ろす。ワンテンポ置いて、サブアームが続く。彼女は左の盾を使って、勢い良くブレードを弾き飛ばし、そのままの勢いでサブアームを防ぐ。
 空に弧を描いて飛んでいくブレードはフェイント。もとから大して握ってはいない。左のサブアームで長剣をガードしながら、そのまま倒れ込むように右腕をガラ空きになった彼女の胸にぶつける。ごろんとアタシたちは草むらの上に倒れ込む。
 「ゴメンね」
 組み伏された彼女の顔から血の気が引く。
 アタシは、さっき購入したばかりのシェルブレイク・パイルバンカーを作動させた。
 バコンと派手な音とともに、彼女の胸に杭が深々と突き刺さった。
 轟く雷鳴。
 なに、この演出。
 これじゃ本当に悪役だわ、アタシ。

 姫神の標準装備って、実は結構考えられている、とオーナーは言う。
 シリーズ当初のアタシたち、悪魔型と天使型の装備はともかく、後発の姫神の標準装備はバトルのゲームバランスを保つような内容になっている。
 例えば猫型。本体は飛び道具の類を一切持っていない。そのかわり、プチマスィーンズがいる。彼らをうまく使うことによって、対戦相手との間合いを調整する。これが猫型の基本戦闘パターンだ。
 確かに、弱い猫型を観ていると、そのほとんどがマスィーンズを使わず、無理矢理距離を縮めようとして撃破されている。また、空を自由に飛べるのは天使型、サンタ型の装備だけだ。でも、それに対抗するために純正でミサイルが用意されている。
 第三弾の騎士型、武士型は、マスィーンズがいない代わりに、全身をくまなく覆う頑丈な鎧を持っている。そして、時期を重ねるように登場したのが、純正装備のパイルバンカーだ。
 その「絶大な貫通力」とやらは、予想通り、騎士、武士の鎧に対抗するものとして開発されたのだろう。

§4§
 「…あれ?」
 杭を打ち込まれたアグリアスの動きは止まった。でもジャッジAIの判定が聞こえない。こちらの勝利判定が下されるべき状況なのに。
 「オーナー、判定が出ませんよ。どうなっているんですか」
 返事が、ない。
 ここに至って、アタシはさっき何を「おかしい」と感じたのかに気づいた。さっきの通信の途切れ方。アタシは外界との通信用に使われるポート全部にpingを送る。反応なし。
 そしてこの雨。まだ天候の変化が実装されたなんて聞いていない。するとさっきの雷鳴はー、と空を見上げて絶句した。
 空が見えない。
 いや、一部のテクスチャは残っている。視線を動かしていくと、アタシのカメラアイになんの入力も発生しない区画が存在することが確認できた。
 バーチャルと言えど、視覚や聴覚なんかはアタシの素体の感覚器経由で処理されて、アタシの「脳」に送られてくる。はず。
 そう。その場所が真っ黒とか、そういうものじゃなく、「見る」べきデータが存在しない区画。空間としてのデータすら持たない、存在し得ない区画が存在する。
思わずサブアームをその方向へ向かって伸ばすと、手首から先がすっぱりと消えた。
 アタシはパニックに陥り、叫び声をあげて走り出しそうになった。あれをみちゃいけない。アタシの存在をアタシ自身が感知できなくなる。
 「う…んん」
 アタシを踏みとどまらせたのは、足元から聞こえてきたうめき声だった。アグリアス、アンタ意識があるの? ってか、外界と遮断されているのだから、回収されようがないのか。
 「主と…れんらく…とれない」
 どうやら彼女もこの異常事態に気づいたようだ。改めてサブアームを確認する。消えてしまった部位に、「見えない」もやがかかっている。サブアームユニット自体をパージ。彼女を抱きかかえると、アタシは走り出した。
 「少し話しをしない?」
 雨を避けるように、大樹の下に座り込むアタシ。身動きも満足にとれないアグリアスを背中から包むように抱いてあげる。正直、事態はまったくよろしくない。原因不明のデータ消失を起こしているこのフィールドもそうだし、彼女の容態も本当にまったくよろしくない。
 バーチャルの破損であっても、実物の素体が破損をしたのと同様のデータがアタシたち神姫の脳に送られる。
 ここまでひどい損傷なら、通常はブレーカーが働くはずなのに、それがない。
彼女が破損情報の負荷に耐えきれなくなって、意識を切らしたとき、最悪、彼女のこれまでのデータがとんでしまう可能性がある。工場出荷時どころか、脳が生まれたその瞬間まで。
 「ケイ…?」
 アグリアスがアタシの顔を覗き込む。アタシは優しく彼女を抱き寄せた。
 「大丈夫、きっとオーナーたちがなんとかしてくれる」
 「はい…」
 話すのも辛そうだ。先ほどまでの気丈な雰囲気はみじんも感じられない。初めてのバトルでこんな目にあっちゃぁね。
 「あの…、怖くないの…ですか」
 上目遣いにこっちを見る。カワイイ…。あのこしゃまっくれたユリより、よっぽどカワイイ。不謹慎ながらそう思った。
 「そりゃ、怖いわよ。でも、どうしようもないじゃない。ただ、私にできるのは、オーナーやユリやお店のみんなを信じて待つだけよ」
 「ユリ…さん?」
 「ん、アタシの姉さん。なーんかいっつも立ち回りがうまくてさ、おいしとこ持ってっちゃう。なーんか面白くないのよねー」
 愚痴るアタシに彼女は微笑む。
 「いい…ですね。おねえ…サマがいらっしゃ…」
 語尾が消える。彼女の体からも力が抜けたのがわかる。えー、ヤバいよ。これって『寝るなー、寝たら死ぬぞー』ってそういう状況ですか? 起きろ、アグアグ。思わす周囲を見回す。
 見回せなかった。
 すっかり周囲は「何もない」区画になっていた。
 あわてて、首を下に向ける。アグリアスの胸元しか見えない。
 続いて、意識が体の中心に向かって吸い込まれるような感覚。
 叫ぶ。
 「アグリア…」

§5§
 「ースッ!!」
 ごちん。
 頭が何かにぶつかる。バトル用のポッドの中にアタシはいた。
 戻ってくることができたのだ。
 「お疲れさん。大変だったな」
 「ケイ、大丈夫?本当に大丈夫?」
 オーナーが声を掛けてくれる。ユリがすかさずアタシに抱きついてきた。アタシはユリに抱きつかれながら、オーナーに無事を報告する。
 「店長、こっちは大丈夫。無事戻りましたよ」
 「あ、こっちも無事戻りましたぁ」
 並んだ筐体の向こうからも声がする。アグリアス。彼女も戻ることができたようだ。

 「無事に戻れたね」
 「ええ、ケイがいてくれて本当によかった」
 アタシはアグリアスと再会の握手をかわしていた。オーナーたちは店長と三人でなにやら会話している。
 「ねぇ、ケイがあなたに迷惑をかけてたんじゃない」
 ユリが茶々を入れてくる。黙ってろっつーの。
 「ユリ殿ですね。本当にあの厳しい状況で私を励ましてくださった。すばらしい妹君です」
 「じゃぁさ、持ってく?」
 と、アタシの背中をトンと突く。アタシとアグリアスの顔の距離が近くなる。
 「え…、あ、私が、あの」
 うわ、なんだ。急にしおらしくなっちゃったよ。アグアグ、お前コイツにいじられているだけだよ。気付け。こっちまで照れるじゃないか。
 そんなことを考えていると、アグリアスの「主」が彼女を呼んだ。その声を聞いて、いつもの気丈な騎士様に戻ったようだ。ちょっと安心。
 「次は…勝ちます」
 「ああ、またやろうぜ」
 再び握手をかわすとアグリアスは「主」のもとへと歩いていった。
 ユリがアタシの顔を覗き込む。
 「なんだよぉ」
 「んー、なんだか、素敵だなって」
 「何が」
 「妹を褒められて悪い気はしないって」
 ユリはアタシの質問には応えずに腕をとった。

§6§
 十五分くらいの出来事だと思っていたら、もう夕方だった。
 今回の異常事態は、外部からのハッキングによるものだったらしい。神姫のデータを集めたり、クラックしたりしている奴らがいるとは聞いていたけど、よもや自分が被害者になるところだったとは…。
 店長やスタッフのみんなが色々と動き回ってくれたおかげで助かったんだ、とオーナーは話してくれた。あとでちゃんとお礼しなくちゃ。
 アタシはあの「見えない」区画を思い出す。もし、あの区画に取り込まれていたら、アタシは細かいデータに分割されて、どこかのコンピュータのなかで再構築されることになっていたのだろうか。
 そこで目覚めるアタシは、数値としては、今のアタシと全く同じものだろう。でもそれはアタシのコピーに過ぎない。でも、そのコピーのアタシがアタシと出会ったら、彼女はアタシのことをどうとらえるんだろう。いや、コピーされる過程でオリジナルが抹消されたら、再構築されるまでのアタシはどういう状態だと言えば良いのだろう。
 なんだか小難しくなってきたので、このことを考えるのは止めにした。
 ユリは哲学的思考を働かせているアタシを見て、オーナーに「きっと今日対戦したあの子のことを考えているのよ」なんて言って笑ってたので、とりあえず、後ろから胸を揉みしだいてやった。

 家に帰って、アタシはクレイドルの上でくつろいでいた。ユリはとっくにスリープモードに入っている。やっぱり、今日の「見えない」区画を思い出す。眠るのが、怖い。アタシは隣で寝息をたてているユリの体に身を寄せた。

 これなら眠れそうだ。

 Das Ende




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