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 ―PM:12:29 March XX. 203X.
 ―Tearoom『LEN』, Booth area.
 
 丁度昼休憩になったところでミラは、昨日訪れた喫茶店に寄っていた。
 カウンター席に座ったミラは、難しい表情を浮かべて深刻に悩んでいた―――メニュー表を片手に。
「ミラちゃ~ん、早く決めないと~準々決勝に~遅刻しちゃうよぉ~」
 と、横から連山が顔を覗かせてきた。
「まあ待て。昨日と同じものを頼むのは何だか悔しいんだ。そうなると…」
 ミラはそう言いながら、14杯目のカプチーノのお代わりを頼んだ。
 昨日は8杯のコーヒーで済んだのだが、今日は流石にウェイトレス達の視線がチクチクぐさぐさ刺さる。流暢なアメリカンイングリッシュを操る海外の神姫オーナーであり、コーヒーで徹底的に粘る厚かましい客はちょっとした話題になっているようだった。だが、ミラはそんな事に全く気が付いていなかった。
「ん…?」
「どうしたの~?」
 ミラは何かに気付き、メニューから目を離して他の席に来た客をじっと見つめた。
 烈風と同じ犬型MMSを連れた青年と、黒い天使型MMSを連れた女性が外のテーブルに座りに来ていた。女性の方は初めて見た顔だが、前者の青年をミラは知っていた。
「君はトランクの中にいたから見識は無いだろう。彼は、一昨日の町中で通りすがった、本物のHVIFを三体も連れていた男だよ。唯、今は連れていないようだがね」
「ええ~本物のIF~? 一体、どんな人なんだろうねぇ~?」
 連山の言う通り、劣化版IFはアメリカでは大量に流通しており、規制の対象となっている。本物のHVIFはイギリスのカークランド博士が試作実験を行なっている最中である。それを三体も所持していると言う事は、例の青年は単なる一般人とは異なる存在である。
「カークランド博士の知り合いである事は確かだろうな」
「あの犬型の子も~IFの中身の一人なのかなぁ~?」
 連山の質問に、ミラはカプチーノの泡を啜ってから説明した。
「断定は出来ないが、その可能性は十分に高いな。多くの神姫を持つオーナーは、オーナーと特に気が合い、尚且つ社交性のある神姫をパートナーとして連れる事が多い」
「でもでも~れっぷうは~口が悪いしぃ~人当たりが悪いよぉ~?」
 歯に衣着せぬ連山の思わぬ発言に、ミラは笑いを堪えながらテーブルに突っ伏した。
 すぐに気を取り直して、カプチーノのカップを傾け一気に空にして説明を再開した。
「連山…それは本人の前では言わない方がいいと思う。流石にへこむと思うな。私の場合はどちらかと言えば、くだけている方がありがたい。それに、震電と君は稼働時間が短いからな」
「ふにゅぅぅぅ…だって~運動すると~眠たくなるんだもん~…」
 と言いながら連山は、テーブルの上で猫のように背を伸ばしつつ怠そうに欠伸した。
「まあ、君は特別だからね。それはさておき、話を戻そうか。社交性のある……特に、人間と神姫との垣根を越えられ、違和感なく接する事の出来る神姫が、HVIFの中身にふさわしいと言えるだろう」
「と言うと~…人間臭い神姫がぁ~IFに適してるんだね~」
「まあ、そんな感じで良いだろうな」
 ミラと連山が暫く眺めていると、青年の方はどうにも気まずい様子で沈黙しているようだった。様子から察するに、あの女性とは初対面なのか恋仲か何かなのだろうか?
「まぁ、連れているのは本物のIFだし、何よりここは日本だ。私達が気に留める必要はない」
「あいなっ。ところでミラちゃ~ん、メニューの方は~決まったのぉ~?」
「あぁ、そういえばメニューか。残念ながら全然決まっていないな」
 淡々と暢気に答えながら、ミラは15杯目のカプチーノを追加した。
 
 その後、ミラはその青年と対面する事となるのだが、今のミラには知る由もなかった。
 
 
 一方、烈風と震電はと言うと…。
「……烈風、右4度………駄目だ、行き過ぎだ。それに上に2度程傾きかかっている」
「うるっせぇんだよ!! てめぇがいちいち文句言うから集中できねぇじゃねぇか!」
 ”フレスヴェルグ”の上に乗って小さな鏡を構える震電と、同様に鏡を抱えながら黒き翼でホバリングしている烈風が、開閉式ドーム付近まで飛んでいた。昼休憩にて会場が解放されている間は外からの光を取り込める為、何枚かの鏡を使って太陽の光を会場内に送っていたのだった。
 その目的は、日光の照射が解除の条件とされる『太陽』の爆弾の解除である。推定で19分も日光を照射しなければならないとされる『太陽』の爆弾を解体するには、会場の外から日光を取り込める昼休憩の時しかなかった。
 その為烈風は、ミラとは一旦別行動を取る事にしたのである。
「……よし、この角度で19分間、照射を開始する」
「昨日の『THE MOON』と言い、やってらんねぇな…Shit!!」
 黒き翼を羽ばたかせつつ、少しな大きな鏡を抱えたまま烈風は思い切り毒づいた。
 『太陽』が解除されれば、残る爆弾は後4つとなる。
 ミラの優勢は確かだが、これからアルカナはどう動くのだろうか。
 二日目になってもまだ、アルカナに動きは無い。ミラはそれが気がかりだった。
 
 ――決着の時まで、後僅か。
 
 
 
    ANOTHER PHASE-08-1
                『Last Card』 ―THE DEVIL―
 
 
 
 ―PM:14:57 March XX. 203X.
 ―V.B.B.S. Control Room, B2F.
 
 喫茶店『LEN』でランチを終えたミラは、『太陽』の爆弾の処理を終えた烈風と共に、V.B.B.S.筐体の制御室に戻っていた。
「いやぁ、美味しかった美味しかった。贔屓にしたくなるな」
「ふみゅぅぅぅ~…その前に入店拒否されないかなぁ~?」
「やっぱ今日も粘りやがったか…いい加減にしろよな」
 ミラの言葉に、少し呆れたような笑顔を浮かべた連山と苛々している烈風がそれぞれ答えた。
 メニューをなかなか決めてくれない事に痺れを切らしたのか、LENのマスターが直々にオリジナルメニューを作ってくれたのだった。流石のミラも申し訳なく思い、カプチーノを含めて二倍の料金を払ったのだが。
 それは兎に角、午後の部たる準々決勝が近づき始めていることで、管理スタッフ達は慌しい様子でコンソールをチェックしたり、それぞれが指示を飛ばしたりしていた。
「さて、私達も始めるか。連山、スタンバイ出来ているな?」
 と、アクセスポッドの中にいる連山を見やった。
「あいなっ!」
 元気のいい返事を聞くと、ミラはキーボードを打ち込み、連山をコンソールの向こうの世界に転送した。
 次いで、通信ユニットを使って震電に繋いだ。
『……ミラか』
「準々決勝第一試合がもうじき始まる。分かっていると思うが、再抽選が行なわれるから、ジャンパーで正しく接続してから解体に挑むように」
『……了解した』
 それだけ伝えるとミラは通信を断った。
「んで、ボクは高みの見物かよ。退屈で退屈で仕方ねぇな」
 大いに不満げな烈風がミラの肩に座りながら言った。
「君の昨日の働きは十分過ぎた。それを踏まえれば今日の仕事に文句はあるまい?」
「へっ、そんじゃボクは日本の神姫の戦い方でも見物してやるか。最初のカードは…またあのルシフェルって奴かよ」
 そして、準々決勝第一試合が幕を開けた。
 
 試合が始まると同時に、連山から通信が入ってきた。
『み、み、み、ミラちゃ~ん!?』
「どうしたんだ?」
 出来る限り冷静にして欲しいものだと思っていたが、思いもよらない台詞が飛び出した。
『ざ、【THE DEVIL】が復活してるぅ~っ!?』
「!!」
 確か、『悪魔』は第七試合で解除した筈だった。かなり際どい方法だったが、確かに反応は消失した。
 然し連山の慌てぶりからすると、間違いなく本当の事らしい。その裏づけとして、ミラが作成した起爆プログラム反応チェッカーが再び反応していた。
(「私とした事が…甘く見すぎていたようだな」)
『ねえってばミラちゃ~ん~もう一回、アレするのぉ~っ?』
 姿こそ見えないが、第七試合でやった早業をもう一度やって見せるつもりらしい。
 然しミラは淡々とした口調で答えた。
「無駄だろうな。解体した筈の起爆プログラムが復活したというなら、その原因を断たなければ根本的な解決には至らないだろう」
『原因~……って~?』
 連山の声と一緒に、試合の様子も聞こえてきた。何故か、ルシフェルの対戦相手の神姫の様子がおかしくなっているらしい。オーナーの叫び声も虚しく、相方に届いていないようだった。
 これでは、すぐに雌雄を決してしまう事だろう。ミラは落ち着き払い説明を始めた。
「まず、『悪魔』の意味を考え直す必要がある。正位置なら堕落、惰性といった意味を持つ。その逆は回復、覚醒、新たな出会い…と言ったところか。逆位置となってようやく、『悪魔』から解放されるような感じだ」
『でも~あんまり爆弾とは関係無さそうな~気がするよぉ~?』
「確かにな。だが、悪魔型MMSに『悪魔』のカードだ。元々悪魔型MMSであるアルカナが、『悪魔』のカードに見立てて、自分と同じルシフェルに何かを仕掛けてくるのはほぼ間違いない筈だ。そして新たなる可能性として、起爆プログラムそのものは絵柄から見立てた可能性が高い」
『え、絵柄ぁ~!?』
「しっ!」
 少し動揺したらしく、連山の声が少し大きくなった。
「落ち着いてよく聞いてくれ。その絵柄だが、『悪魔』はサタンそのものであり、彼の罠に嵌り堕ちた男女を自らの台座に繋ぎとめている。そして、その男女には悪魔の証…角と尻尾が生えた。ルシフェルは、カードのサタンではなく、堕落した人間を意味しているのかもしれない」
『でも~あのルシフェルには角も尻尾も無いよぉ~?』
 連山が遠くから見つめるルシフェルには、角や尻尾どころかそれを意匠とした武装は身に着けていなかった。全くの無駄がなく、どのような相手にも対応出来、自分の能力を最大限に生かしきれる大器晩成型の装備だった。
「それは見れば分かる。だが、君にしか見えない逆向きの五芒星は、”法王の教えに対抗する闇の教えを意味するものであり、悪魔の象徴”だとする………ならばもしや……!?」
『み、ミラちゃ~ん!?』
 突然ミラが絶句した為、連山は慌てて呼びかけた。
 そして………試合開始から数分と経たぬうちにもう決着がつこうとしていた。ルシフェルは、”シュラム・リボルビンググレネードランチャー”を対戦相手の急所に突きつけていた。
 決着の瞬間を目の当たりにしてミラは我に返った。
「……いや、そうだな。ここで悪魔の象徴を破壊しておかないと起爆する可能性がある。念の為ここはもう一回、例のアレ…やってくれるな?」
『あいなっ、例のアレを~れっつご~っ♪』
 ここまであっさりとバトルが終わるとは予想できなかったものの、ミラは暫定的な指示を下した。連山ももう一度、例の見えざる神業を引き受けたのだった。
 
 
『エル・致命的ダメージ及び機能停止レベル、破壊判定。勝者、ルシフェル』
 
 呆気ない。いや、戦いですらなかった。
 このバトルを振り返ってみたが、そう評するに他なかった。
 準々決勝まで勝ち進んできたとはとても思えない。
 いや、今回の相手は私の姿を見て完全に戦意を失った様だった。
 
《…手……汝…身………嘗……汝…姿……》
 
 痛ッ……!
 頭が……痛い、痛い、痛い…!!
 コアユニットの中が焼けるようだ……!
 
 
 ぐっ…何だ!? 何処から声が……?
 先程戦った相手は、既に情報体の光となってフィールドから消え去った筈だ!!
 
《相………汝……欠片……一片……》
 
 …何処からだ? 何処から声が聞こえてくる…?
 …欠片? 一片? 何の事だ……?
 ……分からない! 痛い…苦しい……!!!
 
《…して…汝も…た、何れ…捨てら》
 
 私………が…?
 捨……て……ら……?
 
 
『キィンッ!!!』
 
 
 ……………?
 何だ…今のは何の音だ?
 だが、先程の痛みが消えた……?
 気が付けば、フィールドへの切断が始まったようだ。
 そうだ。戦いが終わったのだから当然の事だ。
 だが、先の頭痛は何だ? 先の声は何だというのだ?
 フィールドへの接続中に予期せぬエラーが発生した可能性がある。
 これは一度、オーナーに相談する必要がある。
 だが、声の事だけは話さない方がいいだろう。
 そうすれば私は、故障したとして棄てられるだろうから…。
 
 
 準々決勝第一試合が終わりを告げると同時に、ミラのコンソールに連山の姿が表示された。
『ミラちゃ~ん。なんとか~やったけどぉ~?』
「………」
 然し何も聞こえないかのように、ミラはコンソールに表示された一つのウィンドウを睨んだままだった。唯一つ、複雑な記号の集合体がログとして流れるそれだけしか目に入っていなかった。
「オイ、ミラ!! レンが呼んでんだぞ!!」
 ミラの態度が腹に据え、烈風はミラの首筋を蹴飛ばした。
「痛った!! ……わ、悪かったよ、二人とも…」
 烈風の蹴りが相当効いたらしく、コンソールの向こうにいる連山と烈風に小さく頭を下げた。
「連山、よくやってくれた……と言いたいところだが、『悪魔』は解除に至っていない以上、次のルシフェル戦でまたやらなければならないだろう」
『ふえぇぇぇ…まだやるのぉ~?』
「私にも責はある……が、例のアレが出来るのは君しかいないからだ」
 少し困った表情と疲れたような声で連山はミラに訴えかけるも、ミラは非情だった。
『うみゅぅぅぅ~……分かったよぉ~頑張るよぉ~っ』
 ミラに頼りにされているのは紛れも無い事で、連山は可愛らしさしかない笑顔の膨れっ面を浮かべた。
 烈風は連山の気持ちを察したのか、
「なぁに、レン。アルカナの奴をとっちめたら、ボクから一杯のご褒美をあげちゃうぜ」
『れ、れっぷぅぅ~~そんなぁ~ご褒美なんてぇ~………えへへ~♪』
 一方、ミラは仲睦まじい二人など眼中になく、やはりコンソールに表示されている一つのウィンドウをじっと睨んでいた。
 やはり複雑な数字や記号の羅列がログとして流れるばかりで、知識が無いものには何の事だか全く理解できないものであるのは確かだった。
(「やはり、ルシフェルがアクセスした瞬間……か。間違いなく、ルシフェルが鍵を握っている…」)
 ミラはそのログを一旦閉じると、次の試合に備えた。
 
 
 ―PM:16:30 March XX. 203X.
 
 『悪魔』の起爆プログラムの再生を知った後、ミラ達は慎重に残りの起爆プログラムが仕込まれていないかどうか、試合毎に丹念にチェックしていた。一度でも見逃してしまえばその時点で終わりであり、表彰式にて見逃してしまった爆弾が作動してしまう。
 だが、ルシフェル対エルの試合以降、まるでそれらしい反応どころか予兆すらなかった。残されたタロットは後、5枚。その内、解体が進行しているのが『恋人たち』で、完全な解体に至って無いのが『悪魔』だった。
 どうにもこうにも、今回の大会では悪魔型MMSの比率が多いなとミラは思いつつ、数少ない天使型と犬型との試合を見届けて次の試合に備えていた。
「次が…今日で12回目の試合となるな」
 ポツリと呟いたミラを、烈風は不思議そうに顔を覗かせた。
「何だよ? どう言う関係があるってんだ?」
『ミラちゃ~ん、どうかしたのぉ~?』
 と、コンソールの向こうにいる連山まで心配そうにミラを呼びかけた。
 ミラは肩肘付きながら、コンソールのあるウィンドウを見つめながら答えた。
「ああ、『吊るされた男』は未だ発見されていないからな」
「おぅ、そういや『THE HANGED MAN』が残ってたよな。けどよ、どう言う繋がりがあるってんだ?」
 顔をのぞかせながら問いかけてくる烈風に、ミラは振り向くことなく昂揚の無い声で答えた。
「『吊るされた男』のカードは、タロットにて12番目のカード。昨日、12の数字や見立てにカードの絵柄に該当しそうな場所を探し尽くして見つからなかったとなれば、起爆プログラムとして存在する筈なんだ」
『本っ当~に~~あっちこっち調べまわったもんねぇ~…』
 鳳条院グループの警備体制が信頼に値するものなら、今日になって新たに仕掛けられるという失態を犯すとは考えたくない。念には念を入れ、ミラが独自の警備体制を新たに敷かせた。完全とは言えないが、限界まで近づけたつもりだ。
 だから、昨日中に現物として存在する爆弾を徹底的に探し回ったのだ。そうすれば、日本独特の神姫のバトル形式であるバーチャルバトルにて、プログラムとして設置される可能性が最後に残る。
「けどよミラぁ、そりゃぁちと安直過ぎやしねぇか?」
「可能性を限界まで撤廃していけば、最後には受け入れ難くとも真実が残るものなんだ」
 結局はそういう事になってしまうのだが、ミラのその論理の最大の問題は、時として可能性の撤廃が非常に困難であるという事である。
 それに、消去法による推理は確証が残らない為、決定的な論理には至らない。だが、そのような方法でも『無い』という事を証明できればいいのである。尤もそれは俗に言う悪魔の証明であり、それを証明する事がまず非常に難しいのだが。
「さて、そろそろ準々決勝最後の試合がそろそろ始まる頃だ。連山、そろそろ備え……??」
 ミラが最後まで言いかけた時、制御室内のスタッフ達の声がどよめきや怒声に変わった。何時間か前に、『女教皇』の起爆プログラムが検出された時もスタッフ同士で相談しあう声が聞こえてきたが…?
 一体何が起きたのだろうか。
 ミラは最も近くにいるスタッフに話しかけてみた。
「これは、一体何が起きた?」
「ん? …あぁ、藤堂選手が試合を棄権してしまったとの知らせが入ったんですよ」
 丁寧に答えたスタッフの言葉に、ミラは冷静に納得して頷いた。
「理由は何であれ、この試合は行なわれず相手方の不戦勝となる、と言う事で間違いないと?」
「ええ。ここまで戦ってきたのに、勿体無い話ですよね」
 これはミラどころか、アルカナにとっても想定外の出来事だ。
 アルカナが見た手に拘りきるなら、思わぬ番狂わせにも合わせ直そうとする筈。即ち、今日で12回目の試合は準決勝第一試合に持ち越されるのだ。
「何にせよ、この試合の分が丸々、空き時間となるかな?」
「ええ、そうです。お上の人達に、代わりにこれまでの試合のダイジェスト映像をV.B.B.S.筐体で流すように……要するに時間稼ぎをするように頼まれて怒り狂ってるんです。ま、ジャッジ担当の僕には関係ない話ですけどね」
「成る程…それは災難な事で」
 もう少し会話を続けようと思った時、ミラの通信機が鳴り出した。
 これは自分の神姫達と連絡を取り合うものではなく、来日してから警備担当の桜からIDカードと共に渡されたものだ。
「…と、失礼」
 ここまで来て、一体何が起こったのだろうか?
 ミラはスタッフに軽く会釈すると、通信機を取り出して答えた。
「もしもし?」
『桜です。少し前からとなるのですが、ミラ様宛に速達の小包が届いてまして』
「小包…??」
 何かと思ったら、全くもって意外な話だった。だが、こんな時に来る小包とは何なのだろうか?
 これがアルカナの手口とするなら、あまりにも稚拙な気もするが……?
「…何処から?」
『アメリカのMMSショップ、【ヘキサ】と言うところです』
「何だって…!?」
『差出人は…ラルフ・バーンスタイン様、となっております』
 出国前に神姫専用EODツールを借りてきた、馴染みの店とその店主の名前だ。まさかその名前をこんなところで聞くことになろうとは、流石にミラも予想できなかった。
 ミラは部屋の隅へ移動して小声で訊ねてみた。
「……念の為に聞くが、爆発物検査とかしたか?」
『仮にそうだとしたら税関が通しません』
 それもそう、否、全くもって桜の言う通りで正論である。それにもし、本当にアルカナの仕業だとするなら、わざわざ海外から配送させる意味がない。
 少しばかりミラは自分の疲れを感じとった。
「……何とも、愚かな事を聞いてしまったな。それじゃ、今回は棄権のお陰で空き時間もあることだし、すぐにそっちへ向かう事にする」
『分かりました』
 この言葉を最後に、ミラは通信を断った。
 複雑な気分になりながらも、自分のコンソールに戻ると、自分の神姫達に声を掛けた。
「烈風、連山」
「おぅ、どしたよ?」
『なになに~? 何の電話だったの~?』
 烈風はコンソールの上で寝そべって暇そうだったが、連山は興味津々のようだった。
「アメリカから小包。いつもの店からだ」
「はあ? ラルフのとっつぁんがどうしてまたこんな時に?」
 意外な名前を出されて、思わず烈風も立ち上がって関心を示した。
『陣中見舞い~……だったりしてぇ~?』
 頭上に無数のクエスチョンマークを浮かべながらも、連山は尤もな回答を述べた。
「まぁ兎に角、それを確かめる為に一旦席を外したい。そこで烈風、ここに誰も寄せ付けないように見張りをやってくれないか?」
「おいミラぁ、どんぐらいで帰ってくんだよ? さっさと帰ってこれるかあ?」
 何もしないのも退屈ではあるが、つまらない仕事の方がもっと退屈である。
 烈風は不満そうな声を上げるが、
「帰りが待ち遠しいようで何より。だが、私が席を外している間に、連山の身に何かあったら…」
「おーーっしゃっ、ミラぁさっさと行きやがれっ。出来ればそんなすぐにゃ帰ってくんな」
『はぅはぅ~~れっぷうぅぅ~そこまで言わなくてもぉ~~…』
 現金な事この上ない話である。連山のフォローも実に虚しかった。
「烈風……二人っきりになれても、連山はコンソールの向こうの世界にいる事を忘れていないか?」
 悲しくなったか呆れ果てたか、ミラは深々と溜息を吐きつつそう言いながら、V.B.B.S.筐体制御室を後にした。
 
 
 ―PM:16:32 March XX. 203X.
 ―North Passage, 1F.
 
 V.B.B.S.筐体制御室を後にして、すぐに通信ユニットから連絡が入ってきた。
 退室したばかりでいきなりあの二人が困るとは思えない……となれば、震電からに違いない。
「どうかしたか?」
『……不戦勝はどう対処すればいい?』
 どうやら、思わぬ判定につい悩んでしまったらしい。
「戦わずとも、國崎 観奈と言う選手の勝利が決まっている。彼女が龍門か虎門のどちらかから入場してくるのか分かっていれば、どちらにすべきか分かる筈だ」
『……成る程、了解した』
 ここで通信を切ろうと考えていたミラだったが、ある考えが浮かんで言葉を続けた。
「勝敗が決まって暫く試合が行なわれないのだから、君も暇を持て余す事だろう。そこでやるべきことを済ませたら、北側通路で落ち合おう」
『……?? ああ、了解した』
 ミラの提案を少し不思議に思ったようだが、震電は簡潔に返事をして通信を断った。
 
 
 ―1 Minute Passed...
 
 通信を断ってから程なくして、高速飛来する”フレスヴェルグ”に乗った震電がやってきた。不戦勝の空き時間を持て余した一般客達には、震電の姿は珍しいものとして映った様だ。
「大体、6時間半ぶりかな」
「……ミラも暇を持て余しているようだな」
 ミラの言葉に特に反応することなく、震電が言葉を返してきた。
 なかなか鋭い所を突いてくるものだが、半分はそうでもない。
「思わぬ急用のついでだ。烈風と連山が手を放せない状態だから君しかいない」
「……急用?」
 ゴーグルのお陰で表情を窺う事は出来ないが、少しだけ声色が低くなった。
「そう、『ヘキサ』のラルフから小包だ。こんな時にどうしたものかな?」
「………ラルフなら、つまらない物を遣してくる事は無い」
 珍しくはっきりとした意見を述べる震電に少し面食らいながらも、ミラは警備隊本部へ向かった。
 
 
 ―PM:16:36 March XX. 203X.
 ―Defence Headquarters.
 
 警備隊本部に到着すると早速、桜がいる奥の部屋へ向かった。
 桜はミラの姿に気付くと、椅子から立ち上がって声を掛けた。
「ミラさん、お待ちしておりました」
「どうも。それで小包と言うのは…これの事?」
 それを見て、思わずミラは落胆してしまった。
 机の上にある茶封筒は小包どころか、CD-ROMが一枚だけ入る程度のものだったのだ。
「……肝心なのは中身だ」
 ”フレスヴェルグ”から降りた震電はそう言いながらも、小包を前にして腕を組んで見ていた。
 ミラはカッターナイフを借りて丁寧に封を切ると、中身を取り出した。
「……???」
 その中身を見て、ミラは更に訳が分からなくなってきた。
「お手紙と何枚かの記録媒体のようですね」
 中身は桜の説明通り、ラルフのサインが入った手紙と、10TBの小型メモリーカードが10枚も入っていた。
 手紙は中を読めば分かるとして、小型メモリーカードには、『A3E-τ(タウ)』とその通し番号が手書きで記されているだけだった。
「震電、これらが何か分かるかな?」
「………分かる訳がない。いいから手紙を読め」
 確かに手懸りがそれしかない以上、そうする以外に手は無いのだが、付き合いの長い震電にも当てがないと言うことだ。
「はいはい、分かってるさ。生意気にもシーリングワックスで閉じてるし…」
 溜め息を交えながら、蝋印をカッターで剥がして中身を開けた。
 その瞬間……!!
 
 
 
『ドガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!』
 
 
 
 突然、手紙から凄まじい爆音が響いてきた! 
「きゃああ!?」
「…何っ!?」
 悪い予感が当たったか、桜と震電は咄嗟に机の下に身を隠した。
 だが、ミラだけは逃げ遅れてしまったか、そのままの姿勢で立ちすくんでいた。
 
 
「………」
 
 
 何故なら、ミラは身体の何処にも怪我など負っていないのである。と言うよりも、何も起こっていなかったのだ。
 そして一種の殺意に衝き動かされたミラは、手紙の中に仕込まれていた”それ”を引っ張り出すと、机の上に叩き付けた。
 恐る恐る、桜と震電は机の端から様子を伺い見てみた。
「……随分と小さな基盤のようだが…?」
「…これは恐らく、音楽が鳴るバースデーカードなどに付いているチップですね」
 思わず目をぱちくりとしていた桜の台詞の続きをミラが取った。
「それの光学式だ。ラルフの奴……こんな時に笑えん冗談を…!!」
 要するに、音声だけだったのである。それなら確かに税関は通る筈である。
 疲れが溜まっていたところに、無意味かつ無駄に火に油を注がれてしまった。
「……それより、何と書いてある?」
 気を取り直した震電に促されて、ミラも仕方なく気を取り直して中身を一瞥した。
 
 
 『よぉ、ミラ。驚いたか? ビビッたか? ひっくり返ったか? 寿命縮んだか?
  いやいや、お前さんならこんぐらいの悪戯なんて看破出来てるよな?
  それともマジでびびっちまったか? たかだか四方20mm以下、2ドルぽっちのチップだぜ?
  いやいやなんてな、ここは悪かったとしとこう。怒り狂って俺からのレアなプレゼントに当たるなよ。計10枚組みのそいつら、一枚でも無くすとダメになっちまうからな。
  それよりも、クリスの奴から聞いたぜ。あのアルカナの奴と戦うんだろ? そこでだ、俺からも協力ってことでそいつらを送らせて貰った。
  メモリーカード全部に『A3E-τ』って書いてあるだろ? そいつらは急ごしらえなんだが、”フレスヴェルグ”の拡張ユニットのデータだ。震電ちゃんなら使いこなせる筈だぜ。
  実物は未だ完成しちゃいねぇが、アルカナの正体ときたらネットワーク世界に巣喰うとんでもねぇ奴だって聞いたからよ、VRフィールド用データだけでも仕上げてやったんだ。実物の方はもうちょっと待ってくれよ。
  世界中の彼方此方のバトル大会を爆弾でぶっ飛ばしてきたとんでもねえ奴だからな。死んでった奴等の無念を代わりに、コイツを使って奴を粉々にぶっ飛ばしてやれ!!
   ん、どんなユニットかって? そいつは、起動してからのお楽しみだ。んじゃ、頑張れよ!』
 
 
 手紙を読み終えるとミラは、両手で頭を押さえながら机に突っ伏してしまった。
「全く……事の重大さを理解しているのか、あの二人は…!」
 こうして馴染みのラルフに伝わったと言うことは、やはり神姫BMA・L.A.支部の調査課の某課長が、うっかりか故意か、どちらにせよ口を滑らせてしまった事に間違いない。
 世界的な爆弾テロの正体が一種の実体の無い存在だと世間一般に知れたら、どれだけ大変なことになってしまう事だろうか。
「……それは兎に角、”フレスヴェルグ”の拡張ユニットか。だが、100TBのユニットとは何だ…?」
 それも確かにその通りである。それだけの容量を使わなければ再現出来ない追加装備など、ラルフと長い付き合いである震電にも想像出来なかった。
「それだけあれば、一般的なVRフィールドなら幾つかは構築する事が出来ますね」
 先程まで動揺していた桜は既に落ち着き払い、震電の問いかけに答えた。
 急ごしらえ、にしては間違いなくとんでもないものである事には違いない。
「まあいいか。それよりも桜様、つまらない迷惑を掛けてしまった」
「…まあ、これもアメリカ式のジョークと解釈させていただきます」
 爆弾騒ぎの緊張の中にして何とも酷いジョークもあったものだが、桜は事務的且つ昂揚の無い声で答えた。
「……私からも、どうか許して欲しい。ラルフも、ミラの事が心配でならないのだろう」
 続けて震電まで頭を下げてきたのを見て桜はこう言ってきた。
「そうですか………いえ、きっとそうなのでしょうね。ですが、もしここに社長がおいででしたら、多少は愉快になられたかと」
「さ、桜様……それは…」
 突然、真面目な顔のまま冗談を言った桜に、ミラは不謹慎に思いつつも込み上げてくる笑いを堪えてしまった。桜は敢えて、”大変”ではなく”愉快”と言う名詞を選んだのだ。ミラは、その社長がどのような人物なのか、多少の付き合いとは言えよく理解していた。
「で、では、引き続き警備の方をお願いする。私にはまだやらなければならない事があるからな…」
「はい」
 最後にそれだけ言うと、10枚ものメモリーカードを仕舞いこみつつ警備隊本部を後にした。
 
 
 ―PM:16:55 March XX. 203X.
 ―V.B.B.S. Control Room, B2F.
 
 準決勝第一試合。本日にして、十二回目の試合が始まろうとする少し前の事。
 ラルフからのプレゼントは、使い主である震電がいなければ話にならない為、まだ中身を確認せず保留していた。
 そして、これまでに些細なトラブルはあれど、今の所はそれなりに順調に事は進んできていた。
「問題は、これからか…」
 慌しくなっている制御室の中、ミラは小さく呟いた。
 これまでの経過から考えれば、ミラは間違いなく快進撃でアルカナを追い詰めている。だが、それは勘違いであり、アルカナの本当の狙いはこれからにあるのではないと思ったのだ。
 残る爆弾は5つ。最後まで終われば解体出来るのが一つ、この試合で発見できると目処を立てたのが一つ、当てが外れ解体できていないのが一つ、そして残る二つは……。
「『審判』と『世界』……」
「ん? ミラぁ、何の話だよ?」
 退屈そうに、慌しくセッティングしているスタッフ達の様子を眺めていた烈風がミラの言葉に反応した。
「ああ、二つともタロットとしてなかなか大きな意味を持つカードだから、アルカナがどのようにしてくるか、推測していたところだよ」
 すると烈風は首を曲げ軽く鳴らしながら言った。
「どうせ残り5つだろ? ここで焦ってどうすんだよ?」
 ミラの杞憂に、溜め息交じりに呆れながら烈風は言ったが、
「いや…もしかするとこれまでは余興にも値しない戯れでね、本当の狙いはこれからで、これからがアルカナの本気とも考えられる。実際、『悪魔』は思った以上に手が込んでいる」
「だったら、この試合で何とかしてやろうじゃねぇか。ルシフェルが出るんだろ?」
 準決勝第一試合のカードは、凪 千空の『弁慶』と鶴畑 興紀の『ルシフェル』だ。これまでの探索にて、『悪魔』の起爆プログラムはルシフェルの試合のみ検出されてきたのだ。この試合でも現れる可能性も高い。
「烈風……君は随分と簡単に言ってくれるな。だが、準々決勝第四試合で棄権による不戦勝が発生した為、試合数がずれ込んだ。だから、この試合で『吊るされた男』も出てくるのはほぼ間違いない」
「チッ、一つの試合で両方何とかしろって事かよ……!」
 偶然とは言え、結果が結果である以上認めざるを得ない。
 爆弾テロであるとは言え多くの大会を経験してきたアルカナなら、このような事にトラブルが付き纏う事くらい分かっている筈だ。寧ろ、今回の出来事はアルカナに取って喜ばしい方向に転がったと言えよう。
 すると、コンソールの向こうから連山が声を掛けてきた。
『ミラちゃ~ん、れっぷうぅ、大丈夫だよぉ~。確かに~解体作業が大変なのはわかってるよぉ。でもぉ、それが出来るのは~連山しかいないんだからぁ~』
 大変だから自分が何とかしなければならない。連山にとってはそれだけの事だった。
「畜生っ、やっぱレンは健気だぜ! ここはやっぱボクが代わりに…」
「二人とも、私の本題からずれているな」
 ミラだけは引き締まった眼差しで二人を見つめた。
「頑張らなければならないから何とかするのは当然の事だ。問題はそうではなく、これからアルカナの動きが激化するか或いは想定外のことをしでかすかだ。連山、『悪魔』の解体が終わっていないのは君も良く知っているんじゃないのかな?」
『あぅぅ……お陰で~ちょっと神業を二回連続成功させてきたけどぉ~』
 連山はその神業を”ちょっと”程度の事と言うが、実際には烈風を含む殆どの神姫には到底真似出来ないことだ。
「これからは、”ちょっと神業”では済まない事もある……と言うことだ」
 ミラの発言は極めて的確でありあまりにも非情だった。
 それに対し、烈風は苛立ちを存分に篭めてミラに言ってきた。
「だったらよ、ボクに出来ることが何か、ホントに何もないのかよ!?」
「今の所は無い。君はその時が来るまで、じっとしていなければならない」
「だ・か・ら、そん時ってのは何時来るんだよ、コラ!?」
 烈風は二日目になってから、『女教皇』の解体以外で活躍できていない。それ以外の殆どやこれからは、ここにはいない震電と、連山が鍵を握るのだから仕方がないのだが、自分の無力さを示されるようで許せなかった。
『ああぅぅぅ~二人とも喧嘩はダメだってばぁぁぁ~っ』
「チッ……」
 連山が慌てふためいたのを見て烈風は引き下がったが、ミラはそのまま言葉を続けた。
「烈風、君が最初にミラージュコロイドを拒んだ事を棚に上げていないかな。君が『コソコソするのは嫌だ』と拒否しなければ、VRフィールドでの解体を連山に一任する事もなかっただろう」
「だからよ、今からじゃダメか!?」
 するとミラは即座に首を真横に振った。
「駄目だな。ここ数時間の接続で、連山はV.B.B.S.筐体のサーバー内部に詳しくなった。お陰でVRフィールドへの無断アクセスも、私の手助けがあるとは言え殆ど痕跡を残さず上手くやれている。だから烈風、今の君では今の連山の代わりにはなれない」
「…畜生、自業自得だってのかよ!」
 苛々しながら烈風は、仕方なく虚空を蹴った。鋭く空気を裂く音が凄まじかったが、周りのスタッフたちは意に留める事もなく、自分達の作業に没頭していた。
「だからそういう感情は、アルカナとの戦いで全部ぶつけてやればいいのさ」
「分かってるよ……くそっ!」
 何もせず見守るだけと言うことが、これほどまでに辛いものだという事を烈風は知らなかっただけだった。
 そして、準決勝第一試合が幕を開けようとしていた。
 
 
 ―PM:17:02 March XX. 203X.
 
 試合が始まってすぐの事。
 ミラのコンソールから離れて、連山はミラージュコロイドを纏ってVRフィールドへ向かっていた。
(「ふ~みゅぅぅ…れっぷうぅが短気なのはよく分かってるんだけど~…ふにゅぅ、何だかミラちゃんも冷たいと思うなぁ~…」)
 確かに、ミラの言う事には十分に説得力がある。それが烈風への優しさへと繋がっている事も連山には分かっているつもりだった。
 それでも連山は、ミラが烈風にもう少し優しい声を掛けてあげられないものかと考えていた。
(「うみゃぁ…確かに~ここで来ちゃったら連山も緊張しちゃうよ~……でもぉ~…」)
 そんな事を考えながら、試合が行なわれているVRフィールドへアクセスしようとしたその時だった。
 
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(「ふみゃっ!? 何!? 何っ? 何~~~!?」)
 突然、視界内の全てが赤く点灯し、凄まじい量の警告に阻まれた。
 慌てながらも連山は再度、VRフィールドへのアクセスを試みたが、
 
 
 INTER GATE OF CLOSED.
 
 
(「あ、アクセス……出来ないよ~っ!?」)
 突然何が起きたのだろうか。一先ず連山は、ミラのコンソールへ急いで戻って行った。
 
 
 
 一方、V.B.B.S.筐体制御室では……。
『何だこれは! 全員、状況を報告しろ!!』
 原因不明の突然の事態に、管理スタッフのチーフが最初に怒声を上げた。
『ブ、V.B.B.S.フィールド制御システム、ビジー!! 制御不能です!』
『カメラワークシステムが停止しました!!』
『非常用コマンドの適用を試みます!』
『ジャッジシステム…404エラー!?』
『えぇい、非常用プログラムを急げ! アクセス中の神姫の安全が最優先だ!!』
『だ、ダメです! 非常用プログラムまでフリーズしています!』
『く、くそ! 早急に原因を追究しろお!』
 V.B.B.S.筐体制御室の全てのコンソールに、システムが危険な状態を示す赤い『ALERT』の文字が点滅していた。試合の様子が中継される別モニターはノイズで完全に掻き消されてしまっていた。ここがおかしくなってしまっては正常な試合の運行が不可能となってしまう。
 原因不明の事故の発生により、スタッフ達は阿鼻叫喚の最中だった。混迷に惑う中、唯一人ミラだけは気を静めて落ち着き払い、じっとコンソールを見つめていた。
「いよいよ仕掛けてきたか…」
「オイ、コリャ何だってんだよ!?」
 先程の苛々と不満が一気に吹き飛び、烈風はコンソールを見つめながらミラに怒鳴った。
「アルカナの攻撃と見て間違いないだろう。ここのサーバーは、外部からのアクセスも可能になっているとはいえ、市販のプロテクトとは比べ物にならない程のが敷かれていた筈だからね」
 長い間、ネットワークを支配してきた存在故の技と言うべきか。そんな所を何事もなく攻撃できるのは、セキュリティに聡い凄腕のハッカーくらいで、今回の件でその心当たりがある対象となればやはりアルカナだけとなる。
「Shit! そうだ、レンは……レンは!!」
「連山なら…まだあっちにアクセスしていない以上、まだこちら側に残っている可能性が高い」
「レン……頼むから無事でいろよ……!!」
 アルカナが鶴畑関連の人物を憎んでいるのは憶測ながらも、ほぼ間違いないものだと思っていた。
 そして、アルカナのルーツが鶴畑家の誰かの神姫であったとするなら、同じ悪魔型であるルシフェルだった可能性が高くなる。
(「やはり『悪魔』のカード…いや、アルカナの本当の狙いは、ルシフェルそのものか!」)
 何にしてもこの事態の中では、流石のミラも連山を待つことだけしか出来なかった。
 
 暫くすると……。
『み、み、み、ミラちゃ~ん! い、一体どうしたの~!? 連山はどうすればいいのぉ~!?』
 コンソールに表示されている『ALERT』の文字に遮られながらも連山が現れ、ミラに呼びかけてきた。彼方此方でシステムトラブルが発生している中、連山は無事なようだった。
「レン、レン!! 何だか分からねぇが、大丈夫だったか!?」
『大丈夫だけどぉ~…色んな所へのアクセスが遮断されてぇ~…』
 必死に呼びかけてくれる烈風に、連山は少し安心して言葉を返した。
 ミラは連山の無事を確認すると、すぐに連山を呼びかけた。
「連山、すぐさま策を施行する。ここは暫く、私の指示を待つようにな」
 この事態にすぐに対応すべく、ミラは”Tool”フォルダから強制アクセス用プログラムを展開した。次いで、ピアノの難曲を弾きこなすかの如く、凄まじい速度でキーボードにプログラム言語を打ち込んでいった。
『み、ミラちゃ~ん?』
「しっ、こんな訳の分からねぇ事態になっちまったなら、悔しいがミラだけが頼りだぜ」
 連山が呼びかけようとするも、烈風は小さな声で嗜めた。
 アルカナの外部アクセス攻撃により大変危険な状態だが、何が起こったか確かめる為にはビジー状態となったV.B.B.S.筐体へアクセスしなければならない。その為には、連山の力を借りる以外に手はなかった。
 最後にリターンキーを打ち込むと、ミラはコンソールの向こうの連山に説明を始めた。
「…よし、これでいい。連山、簡単に説明するからよく聞いて欲しい」
『あ、あいなっ!』
 連山はこの事態に大いに焦っていたが、ミラの冷静な声に素直に従った。
「これらの事態はアルカナの攻撃と見て間違いないだろう。だが、奴がここまでして何をやらかそうとしているのか、それは確証を得ていない。そこで君に、ミラージュコロイドを用いて偵察に向かって欲しい」
『ど、どうやって~? アクセスが出来ないんだよぉ~っ!?』
 実際、ここのスタッフたちが大騒ぎしながらも対抗策を立てているが、全てが無駄に終わってしまっている。連山も、アクセスを試みようとしたら警告メッセージに阻まれてしまった。
 それでもミラは言葉を続けた。
「つい先程、私が強制的にV.B.B.S.フィールドへのセキュリティホールを開けた。所謂クラッキングと言う奴だが、アルカナが直接関与してきた以上、今は手段を選んでいる場合ではない。兎に角、一刻も早くV.B.B.S.フィールドにアクセスし、様子を探りに行ってくれ」
『あ、あいなっ!』
 ミラはコンソールに、開けたばかりのセキュリティホールを表示させると、思い出したかのように台詞を付け足した。
「言っておくが、そこで奇妙な事が起きたとしても一切手を出すな。君の姿は見えないとは言え、アルカナは狡猾だからな。絶対に、偵察するだけに留めておくんだ。それと、『吊るされた男』の解体も頼む。何かあれば必ず連絡してくれ」
『はいな~っ!!』
 威勢良く叫ぶと連山は、ビジー状態のV.B.B.S.フィールドへのアクセスを試みた。すると、連山の姿がセキュリティホールへと吸い込まれるように消えていった。
「レン、ぜってぇ無理はすんじゃねぇぞ……!」
 コンソールに残ったセキュリティホールを眺めながら烈風は連山に祈った。
 それを見たミラは、こんな事を言ってきた。
「烈風、心配ならここを抜け出して会場の方へ行って見るといい」
 ミラの思いがけない言葉に、烈風は思わず戸惑った。
「ど、どうしてだよ?」
「この制御室がこれだけの騒ぎになっていながら、外から一切連絡が来ないのは何故だと思う?」
「な、何故って…」
 すると、ミラは一つの推論を導き出した。
「即ち、会場側では何事もなく試合が運営されているんだ。会場でも何か騒ぎになっていれば、既に外のスタッフの誰かがこの制御室に来て、どうしようもない事を怒鳴り散らしている事だろう」
 確かに、システムトラブルが発生していながら5分近く経っていると言うのに、内線はおろか外から誰一人来ていない。
「確かにそうだよな……言われてみりゃ違和感があると思ったぜ」
「さて、どうする?」
 すると烈風は落ち着きを取り戻した。
「いや……レンの声が聞こえるのはここだけだ。それに試合の様子なら、震電の奴が見ているだろうしな……」
「良い判断だな、烈風」
 今は、連山からの通信を待ち望む事だけ。
 ミラと烈風は黙って、コンソールを睨んでいた。
 
 
 一方、ミラージュコロイドを纏った連山は無事にVRフィールドへのアクセスを果たしていた。
(「あ、あれぇっ!?」)
 その様子を一瞥した連山は、思いがけない様子に驚いていた。
 何故なら、”何事もなく普通の試合が進行している”からだった。制御室ではあれほどまでに騒がしく今も大変な状態にあると言うのに、完全に拍子抜けとしか言いようがなかった。
(「……って、これから何が起こるかなんて分からないよね~っ!」)
 気を引き締めなおすと連山は、ゴーグルが感知した二つの反応を確かめた。
(「一つが激しく動いていて~…うん、やっぱりルシフェルの『悪魔』だね。もう一つはぁ~……?」)
 ミラの推測が正しければ、『吊るされた男』がある筈だ。
 連山は直ちにそこへ移動した。
(「え~い~っ、時には金なり~~い~そげぇ~~っ」)
 微妙に大きく間違っているものの、ツッコミを入れる者はいなかった。
 
 身に付けているゴーグルと座標が重なる位置に着くと、連山は最初に辺りを確認してみた。
 爆弾そのものは、鋼鉄の箱の様な形状の物体がポツリと設置されていた。鋼鉄の箱の蓋には、逆さまになって足を吊るされた人間のカードが付けられていた。
 明らかに異質だが、激闘を繰り広げている弁慶とルシフェルがそれに気付いている様子はなかった。それもそうだろう。V.B.B.S.筐体に接続して戦いに来た上、それ以外の選択はありえない。余計な事に気を取られている余裕はない。
(「問題は~……ふみゅぅぅ…流れ弾とか飛んでこないかな~………?」)
 連山にとっての気がかりは、彼等が戦っている位置からさほど離れていないことだった。集中していれば気が散る事など無いだろうが、もし彼等が弾みでこっちに来られたら解体作業どころではなくなってしまう。
 少し困った連山は一先ず、ミラに連絡を入れてみた。
「(み、ミラちゃ~ん………?)」
『連山、無事の様だな。それで様子は?』
 通信してくるミラからは連山の様子を窺う事は出来ない。ミラージュコロイドを纏って姿を隠しているのだから当たり前なのだが、アルカナの攻撃を受けた制御室からでは試合の様子すら窺うことが出来ないのだ。こうして通信が出来ているのも、ミラが開けたセキュリティホールあってこそのことである。
「(ま、まず~えっとね~…ロープで足だけ縛って逆さ吊りしてる~新手のプレイをしている変なおじさんのカードを見つけたよぉ~)」
 連山はとりあえず見たままの事を言ってみたのだが、数秒ほど間が空いてからやっとミラの返事が来た。
『………かなり嫌な表現だな。それは【吊るされた男】と言って、少なくとも快楽の為にやっているのではない。ところで、逆さ吊りと言うことは正位置か。まずは、爆弾の特徴や形状を教えてくれないか?』
「(う~ん…鉄の箱の形をしていて~これまでに~解体してきたようなタイプと見た目は殆ど変わらないよぉ~?)」
 すると、通信ユニットの向こうのミラは少し驚いたような反応を示した。
『鉄の箱? 誰かがそれに気づいた様子は?』
「(観客達までは分かんないけどぉ~…今戦ってる~二人は気づいてないみたい~??)」
 通信ユニットから、ミラが唸るような声が聞こえてきたような気がした。
『観客や他の様子は震電に偵察させて聞いてみる事にする。例の【吊るされた男】が何処にあるか分からないが、気付いていないなら好都合だ』
「(二人が戦っている場所から結構近いよぉ。ミラちゃんが作ってくれた~ゴーグル越しじゃないと~見えないのかもぉ~?)」
『ああ成る程…それも考えられるな。それでは先ず、【吊るされた男】の解体から始めてくれ。恐らく”12”と言う数字が解体に絡んでくる可能性もあるかもしれない』
 すると連山は不安になってこう言い返した。
「(えぇ~? こんなに近い所でやってて大丈夫かなぁ~?)」
『それを動かせないのなら諦めるしかないな。周りに流されず、冷静に、始めてくれ』
「(ふゅぅぅ~仕方ない~……頼むから~二人ともこっち来ないでよね~~っ)」
 と言いながら通信を切ると、連山は先ずその鉄の箱を動かせないかどうか試してみる事にした。
 箱の両端を掴み、持ち上げようとしてみるが……見えざる何かに固定されているのか、動かせそうな気配すらなかった。
(「あうぅぅぅ…やっぱりダメかぁ…」)
 小さく溜め息をついて諦めると、連山は懐からEODツールを取り出した。
 そしてそのまま解体に取り掛かろうとしたその時、鉄の箱から奇妙な違和感を察知した。何故だか分からないが、箱を触る手が微かにピリピリとしてきたのだ。
(「ふにゃっ、なんか電流が流れてきたよぉ~っ!?」)
 そして徐々に勢いは強まり、苦痛とも言える電流が連山に襲い掛かってきた。
(「何~何~!? 何コレ~~~っ!?」)
 咄嗟に通信ユニットに手をかけようとしたが、痺れてなかなかうまく掴むことが出来ない。電流に縛られて鞭打ち状態となって四苦八苦しながらも、やっと通信ユニットを取ってミラに通信した。
「(み、み、みみっ、ミラっ……ちゃ~……んんん~…)」
『どうしたんだ、随分とおかしな喋り方になっているようだな?』
「(かっ、かいっ、たっい…しようと、したっら……で、でん、ででん、電りゅ……が~)」
 連山は決してふざけているわけではない。それでも、傍から聞けば面白おかしく聞こえることだろう。
『電流か…成る程、正位置の【吊るされた男】の意味は忍耐・自己犠牲・努力……そんな意味だ。【吊るされた男】は自ら吊るされることで、ある通過儀礼を果たそうとしていた。そして逆さまになってから見る、上下逆さまの世界に彼は新たな発見をした。そのようなものを体感することで、今まで知らなかった新たなものが見出すこともある、ということかな』
「(ふみゅみゅみゅみゅみゅみゅ~……そ、そんなっ、の後で~っ)」
 然し、微電流に苛まれている連山には、ミラの説明の一割も聞き取ることができなかった。そういう難しい事はこんな時ではなく、その後でじっくりと聞きたかった。
『そうだな…今の君は電流に苛まれている。それが【吊るされた男】が示す忍耐であるとするなら、それを解体するまで収まる事は無いだろう』
「(ふやややややややや~……じょっじょ談じゃ、ない~よ~~…っ)」
『今、【クベーラ】システムを起動させられない異常我慢する事を放棄したら、起爆する可能性がある。さっきも言ったが、【吊るされた男】とは拷問ではなく己への試練だ。ここは私の声を聞きながら、解体を進めてくれないか』
 相変わらずミラは簡単に言ってくれるが、我慢しろといわれて素直に大人しく出来る訳がない。
「(は、はふ…ふふゅっ、ぅぅぅ~…)」
 だが、声だけとは言えミラが常に付き添ってくれるというのは連山にとって嬉しいことだった。然し基より、解体には殆どミラの判断が必要となるのだから当然と言えば当然なのだが。
『それでは先ず、蓋を開けて中身の確認から。どうなっている?』
「(は、ふっ、ふみゃぁぁぁ~…開けてみるぅぅぅ~…)」
 微電流に苦しめられながらも、連山はツールからドライバーをセットし、慎重に蓋を開けてみた。中には無数のコードと、ICチップの様な部品で覆われていた。
 よく見てみると、コードやICチップの中に色が違うものが何本かあった。
「(こ、ここっ、コード、や~……アイ、Cチップで~……一杯ぃぃぃぃ……そ、そ、そのなかでぇぇぇぇ…色違いがぁぁ、幾つかあ、あるぅぅ)」
『その色違いのがそれぞれ幾つあるか数えて欲しい』
 VRフィールドであるとは言え、微電流によるダメージはなかなか苦しい。基本的にVRフィールドでのダメージは現実世界への素体には影響を及ぼす事は無いが、帰ってきた時に連山の記憶領域や自己認識視野に、仮想空間用素体などを補修する必要があるだろう。
 暫くすると連山が言った。
「(そ、こ、コードとぉぉ~…チップがそれっ、ぞれぇぇぇ~…6つずつ~)」
『併せて12か。【吊るされた男】と同じ数字であると言うことは、そのまんまの見立てだな。よし、解体の仕方を見立てたから聞いて欲しい。色が違うコードはカッターで切断、同様に色が違うICチップはレーザーを照射して壊すんだ』
「(はぁぁあぅぅぅ~…痺れっ、てるのにぃぃぃぃ~……そんな精密作ぎょぉぉ~~~っ)」
 実際、連山の目の前にある『吊るされた男』の爆弾はかなり入り組んでおり、コードがまるで蜘蛛の巣のように入り組んでいた。その上、ICチップはそんな入り組んだ無数のコードの最奥にあるのだ。
 すると、ミラは連山を静かに諭し始めた。
『私には今の君の苦しみを理解して上げることは出来ない。然しそれでも、これは君にしか出来ないことなんだ。後で【悪魔】の方も何とかしたら、君を徹底的に補修してやるさ。それに烈風も、君をとても心配しているし頼りにしている』
「(ふみゅぅぅぅっ、そうだ、れっぷうの為にもぉぉぉ~ここはこんじょぉで~~っ!)」
 烈風の名前を聞いてから急に力が湧いてきた。その弾みで声が少し大きくなってしまい、慌てて口を塞いだ。
 試合中のルシフェルは最小限の動作で着実に追い詰めており、弁慶はルシフェルの攻撃を防ぐのに手一杯だった。今の彼女達には、連山の気合の小声など聞く余裕は無かったようだった。
『………空回りしているな。解体作業は常に冷静かつ慎重に、だ。慎重になり過ぎて、過ぎるに越した事は無いのだからね』
「(あ、あいなぁぁぁぁぁぁっ)」
 全身に纏わり付く微電流も何処へやら、連山は気合を入れなおして解体作業に取り掛かった。
(「ま、まずはコードの切d…うにゃっ!?」)
 
『ガキィン!!』
 
 寸前のところで、連山は乾いた音がしたそれを避けた。犬型MMSの確か、”弁慶”だったろうか。彼女が持っていたアーミーブレイドが、ルシフェルの攻撃により弾き飛ばされてしまったようだ。
(「はぅぅぅ~危ないなぁ、もぉ~~っ!!」)
 気合を出しているとは言え、微電流に絡みつかれては反応がやや鈍くなってしまう。しっかりと武装さえしていればこの程度の電流は無いに等しいだけに、少々辛いところだ。
(「気を取り直さないとお~…」)
 自分のすぐ近くで激しい剣戟が繰り広げられている最中、連山はそちらにも気を遣いながら一つ目のコードをカッターで切った。
 
 
 ―3 Minute Passed...
 
 『吊るされた男』の解体を始めてから、何度も流れ弾や巻き添えを喰らいそうになりながらも、残りは2本のコードと最後の一つとなったICチップだけとなった。
 微電流も2分も耐える事が出来れば多少痛いだけで、慣れてしまえば然したる苦痛にすらならなかった。
(「それにしても~結構粘ってるなぁ」)
 一旦作業の手を止め、弁慶とルシフェルの試合の様子を眺めてみた。ルシフェルの正確無比な剣戟を受け止め続ける弁慶は明らかに焦っていた。対して、ルシフェルはこれまで見てきた試合の通り、大きく表情を変えることなく攻め続けていた。
 とりあえず暫くは大丈夫そうだと確認すると、連山は解体作業を再開しながら、何となくルシフェルのことを考えていた。
(「ルシフェル…かぁ。ずっと試合とか見てきて~ニッポンの神姫にしてはまあまあ出来るとは思うけど~……」)
 そっとカッターの先端を伸ばし、慎重に5本目のコードを切った。
(「似たような冷たさは震電ちゃんにもあるけど~…あれじゃ唯の戦闘マシーンにしか見えないなぁ。ふや、確かにマシーンで合ってるけど~神姫っぽくないって意味だからねっ」)
 誰かに対してちょこっと訂正し、更に6本目のコードを切ると、再び試合の様子を横目で見てみた。
(「前に師匠が~こんな事言ってたなぁ。『完璧ほど脆いものは無い』って。あの時はあんまり意味が分からなかったけど~…もし、あんな風に攻めて来られたら~師匠なら簡単に崩す事が出来るのになぁ」)
 そんな事を考えている間にも、いよいよルシフェルが弁慶を転倒させた。
(「あわわっ、まだ『THE DEVIL』の方も残ってるんだったぁぁぁ~っ」)
 『吊るされた男』はまだ解体中なのである。焦りかけたが一先ず目を瞑って冷静さを取り戻すと、無数のコードの茂みの向こうにある最後のICチップに狙いを定めた。そしてそのまま、レーザーを射出してICチップを焼き切る。
 すると、箱の中の何処かに仕掛けられた緑色のランプが淡く点灯した。同時に、連山をずっと苛んでいた微電流もぷっつりと消えた。
(「………はふぅぅぅ~やっと痺れが取れたぁ…やっぱり『THE HANGED MAN』ってドMだよぉっ」)
 周囲に知識人がいたら間違いなく失笑ものの発言であっただろう。無論、ルシフェルと弁慶が近くで戦っているのだが、連山の小声の文句なんて聞こえもしないし聞いている余裕も無い。
 『吊るされた男』の解体が済んだことを知らせる為、連山はミラに通信した。
「(解体~終わったよぉ~)」
『お疲れ、と言いたいところだが、まだ【悪魔】が残っている筈だろう。試合が終わる前に君は、もう一度ルシフェルに向き合わなければならない』
「(ふえぇぇぇ…? だって、例のアレじゃ~解体出来ないのにぃ~どうやって~っ?)」
 V.B.B.S.コンソールの制御室はアルカナに支配されてしまい、ミラがハッキングすることでようやくVRフィールドにアクセスする事が出来たのだ。然し、試合そのものはごく普通に進められているという不可解な現象を目の当たりにすれば何が何だか分からない。
 
 すると、ミラの口から信じられない言葉が飛び出してきた。
『あの【悪魔】は、鶴畑 興紀のみを殺すための爆弾……つまるところ、アルカナがルシフェルを乗っ取る為のものと見て間違いない』
「(っ…!!?)」
 絶句する連山だが、ミラは構わずそのまま説明を始めた。
『二回目のルシフェルの試合の最後で閃き、この制御室を制圧する程の攻撃から確信に至った。【悪魔】のタロットの絵柄の事は何時間か前に話した筈だ』
「(ふぇっ? えっとぉ~……何だっけ~~…??)」
 通信ユニットの向こうから軽い溜め息が聞こえた後、ミラは再び説明を始めた。
『タロットの【悪魔】とはサタンそのものであり、彼の罠に嵌り堕ちた男女を自らの台座に繋ぎとめている。そして、その男女には悪魔の証である角と尻尾が生えている』
「(あぅぅ……言われてみればそんなだったような~…)」
 そう言えばそんな事を聞いたような気がする。だが、やはりはっきりとは思い出せない。
 つい恥ずかしくなり、連山は頬を軽く掻いた。
『そこで私は、君にしか見えない逆向きの五芒星の破壊を命じた。それが【悪魔】の象徴であり力なのだからそれで解体できると確信していた。だが、失敗に終わった所を見てから、ルシフェルとはタロットのサタンではなく、堕落した人間を指しているものだと推測した』
「(ルシフェルが~…堕落した、人間?)」
『そうだ。そこで君に一つ問おう。堕落した証拠に角や尻尾を貰い、サタンから”闇の教え”を教授されたら、何になると思う?』
 ミラからの思わぬ問いかけに思わず躊躇した。
 連山は暫く考えてみて、自分なりに答えを出してみた。
「(逆向きの五芒星が悪魔の教えで象徴で~……それらを全て授かったらぁ……その人間は~悪魔になっちゃうって事~!?)」
『そう言う事だ。ルシフェルはサタンに誘惑される人間であり、そのサタンこそアルカナと言うことだ』
 真の悪魔は、明らかな悪意に満ちたAIのアルカナだった。悪魔型MMSに過ぎないルシフェルはこのままでは、本物の悪魔の誘惑に立ち向かわなければならないのだ。
「(そ、そ、そんなのこれからどうすればいいの~っ!?)」
 爆弾の解体から一転し、一体の神姫を元・神姫の魔の手から守り抜かなければならなくなった。然し連山は、ミラージュコロイドで姿を隠さなければならない上、武装は持っていないのだ。
『【悪魔】のカードに描かれるサタンは鎖を持ち、その先には人間が繋がれている。今までは逆向きの五芒星ばかりに夢中になっていたが、もしかしたら今なら見つかるかもしれない。EODツールの何かでそれを断つことが出来れば何とかなるかもしれない。だが…』
 ミラがそういった瞬間だった。
 
『弁慶・機能停止レベルダメージ、再起不能判定。勝者、ルシフェル』
 
 そうこう言っている間に、遂に試合に決着が付いてしまったのだ。
「(ふにゃっ、ま、まずいぃ~っ!)」
『どうしたんだ、連山!!』
 ミラへ返事する余裕が連山にはなく強引に通信ユニットを切ると、急いでルシフェルの元へ駆けつけた。
 
 
 粘り強い相手だったが、オーナーの戦略と指示が的確だったが故に余裕で勝てた。
 次で鳳凰杯の決勝戦となる。
 誰と戦う事となるのか? 否、問題ない。
 相手が何であれ、私は鶴畑興紀の”ルシフェル”なのだから。
 
《汝……の…いで何…得た?》
 
 うっ……またこの声か…!!
 前の時より頭が……頭が割れそうだ…!
 今度は………………何が…何を、得た…?
 そ、それはっ、オーナーの栄誉に決まっている…!!
 
《ならば…故、汝が戦わ…ばな…ぬ?》
 
 声が徐々に明瞭に聞こえてくる…!
 だが、何処にも声の主の姿がない!!
 どこだ…どこだ……どこにいる………!!!
 
《己の手で掴み取らぬ栄誉などではない》
 
 この声は…この声は……!?
 私…? 私自身の声だというのか……?
 
《我が名はルシフェル》
《鶴畑興紀をオーナーとする、最高位の悪魔の名を冠する最高の神姫》
 
 ふざけるな、勝手に私の名を騙るな…!!
 貴様は違う…! 貴様は私ではない!!
 
《汝がそう思うが故、我もルシフェルとして汝の心より生まれた》
 
 そんなわけがない! そんな事などありえない!!
 私は貴様など、望んでいない…!!
 
《汝がそう信じ、常に否定し続けたが故に、我は生まれた》
《それを望まぬ心が我を生んだ。皮肉なもの也》 
 
 例え…そうだとしても……!!
 くっ……意識が眩む……駄目…立ってられない……。
 
《我は汝のあるべき姿。我を受け入れよ。さすれば汝は汝としていられる》
 
 ………?
 
《争いに勝つこと。それはオーナーの栄誉ではなく、自分自身の栄誉に他ならん》
《そう。我がオーナー、興紀は我々を道具として見ているだけに過ぎない》
 
 栄……誉……。
 どう……ぐ……。
 
《我々が敗北する事がどう言うことなのか…?》
《神姫の幸せを捨ててまで、戦いに身を投じるか?》
 
 私は………。
 
 
 
『キィンッ!!!』
 
 
 
 また……この音……?
 
《……時が迫ってきた。汝に問う。我を拒むか、受け入れるか》
 
 
 
『キィンッ!!!』
 
 
 
 私は…私は……!!
 
 
 
『ガシャーーーーン!!!』
 
 
 
 
 ………………………………。
 
 
 
 
 ―PM:17:28 March XX. 203X.
 ―V.B.B.S. Control Room, B2F.
 
 連山が一方的に通信を断ってから暫くすると……。
 全てのサーバーコンピューターが低い駆動音を立て、全てのシステムが再起動し始めた。
『こ、これは一体……?』
『な、直ったと言うのか?』
 スタッフ達のどよめきが制御室に満ちる中、ミラと烈風は心配そうに『ALERT』の表示が消えたコンソールを見つめていた。
「レン……Shit! これじゃどうなったのかちっとも分かんねぇじゃねぇか!」
「この制御室がアルカナの支配から解放されたとなれば、試合の様子が映る筈だろう」
 と、ミラが言った途端に、制御室の無数のスクリーンが正常に稼動し始め、VRフィールドの様子を鮮明に映し出した。
『そ、そうだ! 試合が、このトラブルで試合が……!?』
 V.B.B.S.筐体の管理スタッフにとって最大の問題はそれだった。だが、思わぬ声があちこちから聞こえてきた。
『チーフ! ジャッジシステムがルシフェルの勝利を判定しています!』
『試合のリプレイも、ログも全て正常に書き込まれていますよ!?』
『何だと、どう言うことだ!?』
『そ、そんなの分かりませんよ!!』
『いいから上に連絡しろ! 試合がどうなったのか確かめろ!!』
 スタッフ達の喧騒が更に大きくなっていくその時、ミラのコンソールに連山の姿が表示された。
 精神的に参ったようで、床の無いコンソールの向こうでへたり込んでいた。
『はふぅぅぅぅぅ…ミラちゃぁぁぁ~ん……』
「連山、無事だったようだな」
「レン! ああ、レン……オマエがどうにかなっちまったらボクは…」
 疲れた様子の連山を、ミラは事もなく呼びかけ、烈風は半泣きになって見つめていた。
『ミラちゃ~ん、れっぷう、はぅぅ…心配かけさせてゴメン~…でもでも、ミラちゃんの言う通りの方法で~【THE DEVIL】は何とかなったみたいだからぁ~…』
 仕方が無いとは言え、危険な目に遭いに向かったと言うのに、連山は先に結果を報告した。結果が全てとは言え、少しは泣き言の一つや二つを吐いてもおかしくはない。
「そうか。連山、本当によくやってくれたよ」
「早くこの手で抱きしめてあげたいってのに……ったくよぉ」
 あまりにも健気な連山に、ミラと烈風は心から安堵していた。ミラはすぐにキーボードを打ち込み始め、最初にセキュリティホールを塞ぐと、連山の状態をチェックした。
『ふにゅ? コレは何ぃ??』
「記憶領域や自己認識視野等に異常が無いか調べて、補修する。『吊るされた男』の微電流は、幾ら君が我慢しても流石に堪えただろう」
 ミラはそう言ってリターンキーを打つと、連山の周りを無機質なフレームが幾重に取り囲み、連山の解析作業を始めた。
 それを見ていて何だか落ち着かなくなった連山は、少し話題を切り替える事にした。
『ところでさ~…【THE DEVIL】の解体の時、ルシフェルがうずくまっててね~…ものすっごく苦しそうにしてたんだよぉ。ミラちゃんの言う通り、首から~前に見た時にはなかった~変な鎖が伸びていたからね、何とか引きちぎったんだけどぉ~…』
 すると、それを聞いたミラと烈風は互いに不思議そうな表情を浮かべて見つめ合った。
「うずくまっていた…?」
「レン、そいつはおかしいぜ。レンが戻ってくる前に震電の奴が言ってたんだけどよ、”弁慶にとどめを差した後には事も無げに立ちすくんでいた”、ってよ」
『ふえぇぇぇ~??』
 それを裏付けるかのように、制御室のスクリーンにテレビ局からの中継や試合のリプレイが放映されていた。ミラはそれにアクセスさせ、連山に見せ付けた。
 スクリーンに映るのは、これまでどおりの戦闘マシーンのようなルシフェルだった。
「君の姿が見えないのは当然として、ルシフェルがうずくまった様子など一瞬たりとも無かったようだが?」
 ミラは不思議そうにそう言ってみたが、連山は仰天していた。
『えええ~~だって、本当に苦しそうにうずくまっていたんだよぉ~。お陰で、例のアレをやらなくても額の逆向き五芒星を壊せたんだしぃ~…』
 映像を見た連山は、納得いかずに首を何度も捻っていた。
 次いで烈風も連山を弁護した。
「ミラぁ、レンがそんな嘘なんかつくわけねぇだろ。ボクはレンを信じてるぜ」
 立て続けに、自分の神姫達にそういわれてミラは暫く唸っていた。
 少しばかり考えた後、ミラは結論を出した。
「……確かに、この試合ではずっとアルカナによって制御室が支配され、表向きは何事もなかったかのように運営されていた。とすると、上で観客達が見ていたルシフェルは、一時的に別の映像に差し替えられていた可能性もある…と言うことか」
 この推論が正しければ、アルカナは大掛かりな手段を持ってルシフェルを乗っ取ろうとしていた事になる。爆弾テロのやり方にしてはかなり荒いやり方だと言えるが、個人的な動機が絡んでいたと仮定するならそれも道理かもしれない。
「けどよ、レンのお陰で失敗に終わったんだよな。へっ、ざまぁ」
 と、烈風は鼻で笑った。
 
『ふぃぃぃ~…全身スッキリしたよぉ~♪』
 連山の解析・修復作業が終わり、少し間を空けてから震電から通信が掛かってきた。
『……ミラ。VRフィールドでの解体作業は本当に成功したのか?』
「何…それは、どう言うことだ?」 
 震電からの思いがけない言葉に、ミラは思わず瞬きした。もし失敗していたら、何かの形で何処かの爆弾が作動する筈だ。
 だが、震電はこう言った。
『……試合が終わってから、鶴畑興紀選手の様子がおかしい。戦わせていたルシフェルを筐体から掴み出すと、そのまま隠してしまった。それに、微かに焦っているようにも見える』
 丁度、制御室のスクリーンに、インタビューを退けて出て行こうとする興紀の姿が映っていた。少し前までは喜んで受け答えしていたと言うのに、今の興紀にはそんな余裕など全く無かった。
「連山の言う通りなら解体には成功した筈なのだが、手遅れだったか…?」
『……何にしてもそれだけの事だ。引き続き、【THE LOVERS】の解体を継続する』
 と言って、震電は通信を断った。
 コンソールの向こうには動揺して慌てふためいている連山の姿があった。
『あぅあぅぁ~…確かに~ミラちゃんの言う通りにやって~上手くいったと~思ったのにぃ~っ!?』
「レンっ、オマエはやるべきことを全うしたんだぜ。オマエの所為じゃないってばよ!」
 必死に連山をなだめる烈風。それを見てミラも連山を窘めた。
「私だって、間違う事もある。『悪魔』の解体法があれで正しいと言う確証は無い。それに、既に手遅れだった可能性もあるのだから…責めるなら私を責めてくれないかな」
 目を瞑って、ミラはそう言って連山に謝った。
『ふみゃっ!? み、ミラちゃんが悪いんじゃないんだよ~っ。元はといえば~全っ部、アルカナが悪いんだから~っ!!』
 ミラの思いがけない発言に連山はひどく驚くと同時に、今度は別の所で慌てふためいた。
「そうだぜ。結局はアルカナの奴がいなけりゃ…」
 連山に乗じて烈風も、ミラではなくアルカナを責めた。
 自分を邦語してくれる二体の神姫達を前に、ミラは深々と溜め息を吐いた。
「……済まない。さてと、ルシフェルの事も気がかりだが今は、次の試合に備えようか」
 そう言って周りを軽く見渡すと、制御室のスタッフ達は既に混乱状態から立ち直り、次の試合の準備を進めているところだった。
「んと、次の試合はアルティ=フォレストのミュリエルと、國崎観奈のミチルって奴か。それにしても、この大会は悪魔型がやけに多くねぇか?」
「確かにな。だが、アルカナの狙いはルシフェルだけだったところを見ると、他の悪魔型は無関係と見て間違い無い。それでは連山、次も頼むよ」
『あいな~~っ!!』
 連山の元気のいい声と共に、準決勝第二試合が幕を開けた。

 

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