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それでも読みたいと言う奇特な方のみお進み下さい。
































鋼の心:番外編 ~Eisen Herz~


闇に咲く花




 ストラーフのパワーアームを改造したペンチアームが、マオチャオの頭部を挟み込む。
「うにゃぁ!?」
 ―――ミシッ、ミシシッ。
「ひkiiイiiiiあ、ガgaaaaGahアaaaaaaaaaa~~!!]
 鉄板すら握り潰すまでパワーを高められたペンチアームは、本来なら決して破損することの無い頭部シェルをゆっくりと握り潰してゆく。
 頭部の基盤が、チップが、回路が、ねじれ、ゆがみ、砕けてゆく。
 多発するエラーに誤動作を起した身体が、痙攣するようにビクッ、ビクッと動くが、それは無力な断末魔に過ぎない。。
 事実、それが彼女の断末魔だった。
「GigaaiIgaigakieeeaeiaaearareeaiaaa」
 最早、言葉としての音すら発せられなくなった声で、必死に慈悲を懇願するように声を上げ続けるマオチャオ。
 最早手遅れなのは誰の目にも明らかなのに、誰一人それを止める者はいなかった。
「…………」
 ペンチアームの主、シュメッターリングは無表情のまま、彼女に架せられた役目を遂行する。
「アガアァァァァァァァァ―――!! ッガ」
 ―――グシャッ。
 破滅の音はあっけなく、何かを奪っていった。
 血も通わない、回路とデータだけで構成された、心ともいえない心しかない鉄の人形。
 だがしかし、そこには何かがあった筈なのだ。
 誰もがそれを知っているからこそ、彼女の『死』が観客を沸かせる。
 マオチャオを破壊しつくしたペンチアームが開かれるが、彼女の頭部、否、頭部だったものは、ペンチの内側に張り付いてしまい落ちる事は無かった。
 まるで彼女の無念を訴えるかのように。
 だがそれも、シュメッターリングが腕を振ればおしまい。
 崩れ落ちた身体は力無く地面に横たわる。
 無残にも、握り潰された頭部からはみ出た眼球が、それを見守る観客たちを見つめていた。
 ―――ミシャ。
 その眼球すら踏み潰し、シュメッターリングは彼女の残骸に歩み寄る。
「…………」
 そして、無言で振り上げたペンチアームを…。
 ―――ズブブッ。
 マオチャオの胸部に突き立てる。
 最早、抵抗もしないマオチャオの身体を足で踏み、ペンチアームで胸部を引きちぎるシュメッターリング。
 解体されたマオチャオの胸部に残された3つの輝き。
 神姫の心をつかさどるCSC。
「…………」
 シュメッターリングは、それを一つずつ丁寧にペンチアームでつまみ出し。
 ―――握り潰した。

 始末を終え、定められたコーナーへと戻ってゆくシュメッターリング。
 しかし、それをシュメッターリングと呼んで良いのだろうか?
 身体と頭部の外見はシュメッターリングそのものだが、その四肢は禍々しく凶悪な鋼で鎧われている。
 いや、そう見えるだけだ。
 この四肢は既に不可分な、彼女の手足そのものだった。
 装着するパーツではなく、四肢そのものを挿げ替えたツギハギの異形。
 もはや、容易には人の形に戻るまい。
 全身が禍々しい鋼の凶器であるにも拘らず、身体だけがただ美しい少女のそれ。
 かような狂気を具現化した人の型。
 それが彼女だった。
「…………」
 彼女は言葉を発しない。
 戦闘中にマオチャオに抉り出された目を押さえようにも、彼女の腕は破壊以外の動作が出来ないペンチアーム。
 涙を流すに足る心はあっても、眼球レンズの洗浄剤は彼女には搭載されていない。
 それどころか、声帯すら外されていた。
 声を出さないのではない。
 出せないのだ。
「…………」
 だから、先の戦いに勝利した彼女が、敗北したマオチャオより幸せなのかは誰にも分からない。
 彼女は感情を表現するあらゆる手段を奪われ、開いた空間に装甲とモーターを詰め込まれた戦闘人形。
 それは、最早神姫などとは呼べない。
 呼んではならない。
 呼ばれる事を、許してはならない。

 だが、そんな祈りはこの暗闇には決してとどかない。
 それを、この場にいる全ての神姫が、神姫でありたいと願うもの達が知っていた。

「酷いものですね…」
 極道、伊藤組の重臣。永倉辰由はそう言って、中指でサングラスを押し上げる。
 彼の後ろに控えるのは、実質的な部下でもある舎弟。山南三郎(やまなみさぶろう)、通称サブであった。
「アニキ、新井、服部、芦屋、全員から準備完了との報が入っていやす」
 サブの耳には簡素なイヤホン。
 伝統と格式を重んじる極道も、ハイテク化の波には逆らえず、彼らも利便性の高い電子機器を多用するようになっていた。
 ―――事に、今宵のような実戦においては…。
「これ以上は放置できません。次の試合が始まり次第作戦開始。全員巻き込んで突き出しなさい」
「わかりやした」
 鷹揚に頷くサブの気配を背中で感じながら、辰由は薄暗い会場に目を向ける。
「…特に、首謀者、坂本を逃してはなりませんよ?」
 サングラスで覆われた辰由の視線の先に、この狂気の宴の主催者、坂本竜弥(さかもとたつや)の姿があった。

 天海市(あまみし)周辺は伊藤組のシマと言って良いだろう。
 近隣に古くから根付くこの極道一家は、代々裏の社会を取り仕切って来た実質的な支配者である。
 只一つ、勘違いしないで欲しいのは、彼らの目的が勢力の拡大ではないと言う事だ。
 真意はむしろ真逆である。
 人が人である以上、穢れも無い社会の創設など望むべくも無い。
 人には覆い隠そうとも闇がある。
 伊藤組はその闇の管理人を自負する集団であった。
 絶対的な暴力を有する事で傘下の暴力を抑制し、余所者のシマ荒らしに対し振るう事でガス抜きとするその方針は、堅気の衆と彼らが呼ぶ、暴力とは無縁でありたいと願う者達を結果的に保護している事になる。
 彼らは決して容認するまいが、裏の警察と言ってもあながち間違いではない成果を出しているのが、この伊藤組なのである。

 ゆえに、表の社会に深く浸透している武装神姫を用いたこの饗宴も、彼らには決して容認できるものでは無かった。
 実際、この饗宴に毒され、己が神姫を違法に改造した者も少なくなく、その殆どがここで神姫を破壊され、失う羽目に陥っていた。
 傷口は急速に表社会へ広がりつつある。
 ここに来て、再三の警告を無視し続けた彼らに対し、伊藤組は実力行使に出る事にしたのである。

 裏の警察。すなわち極道である伊藤組と、表の警察の違いは到って明快。
 彼らはそうと決めたのなら、決して容赦なく、躊躇無く、その暴力を存分に振るう事であった。
 今宵この会場を取り囲む構成員はサブの直属を含め20余人。
 いずれ劣らぬ『暴力のプロ』である。
 半端にケンカを齧った程度の手合い、彼らが子供と称する者達では、千人束になっても歯が立つまい。
 それは、決して大袈裟ではなく。それが可能であるが故のプロであり、伊藤組なのである。
 そんな彼らが20余名。
 配置が完了した時点で、この饗宴に明日が無いのは確定事項であった。



 フィールドに目を戻せば先のシュメッターリングが次の試合に挑むところであった。
 対戦相手はジルダリア。
 装備だけが姉妹機であるジュビジーのものになっているが、違法改造機にありがちな目立った特徴は無い。
 ただ、その双眸だけが不敵に輝いていた。
『Get Ready』
 如何なる手段でか、坂本が用意した合成音は、公式戦のアナウンスと同じ声。
 だがしかし、公式戦と同じ声で始まるのはバトルの名を冠した解体ショーなのだ。
 それは、暗黙に認められたデスゲームであった。
『Go!!』
 開始の合図と共に両者が同時に前に出る。
 先手を取ったのはジルダリア。
 素体も、装備も決して速さを追及したものではないが、パワー以外に何の取り得も無い、改造シュメッターリングよりは早い。
 そう認識したのなら、それはジルダリアがその程度に“抑えて”動いたからだ。
 彼女の目的を達成する為には、シュメッターリングを操る坂本にその実力を気取られない方が都合が良かった。
 そう。今宵のショーに飛び入りで参加した彼女には、明確に目的があったのだ。

「くくく、どうだい。ギブアップした方が良いんじゃないか? 神姫を壊されたくは無いだろう?」
 坂本はそう言って女を眺める。
 長身の、黒いコートに身を包んだ怜悧な女だった。
 鋭い刃物を連想させるそれは、美女と言う表現が相応しい。
 片目を覆う眼帯を除けば、坂本の好みではあったが、同時に迂闊には触れられない危うさも彼は感じ取っていた。
 伊藤組の警告を、平和ボケしたヤクザの戯言と、受け付けなかった坂本ではあるが、彼自身は自分を鋭敏な感覚を持った、抜け目無い男だと思っている。
 その程度の彼にもハッキリと分かるほどに、黒い眼帯の女が纏う空気は剣呑なものであった。
「ボクのM6号が強いのはさっきの試合でも分かっただろう? 君の神姫に勝ち目なんか無いんだから。意地なんて張らずに、さっさと降参しちゃえよ」
 違法改造に手を出す輩の9割は、公式戦のルールが自分の神姫の強さを阻害する要因だと考える者達だ。
 坂本もその域を出ては居ないが、その9割の中ではずば抜けてセンスを持った男でもある。
 公式戦で戦えばそれなりの戦果を出せる彼だが、それなりでは満足しきれずに違法改造に手を染めた。
 そして、他の違法改造を行う者達はバランスを欠いた性能至上主義者達ばかりだったのだ。
 非合法のバトルでは、彼に敵うものは居なかった。
 たちまち裏のバトルに名を轟かせた坂本は、予てより考案していたこのバトル形式のショーを開催するに到る。
 即ち、神姫の『死』を見世物に、観客から金を取るショーだ。
 主の愛情を信じる神姫。それを裏切って見せたときの背徳感に惹かれた狂気の主たちが瞬く間に賛同し、彼の饗宴は日増しに規模を増した。
 そして、違法改造に手を染め、デビューの場を求める愚かなオーナーを呼び集め、自らの神姫で解体してみせる事で場を沸かせる坂本。
 彼は今や天海市における裏のバトルの支配者だった。
「な、君を信じる神姫を救ってやらなくていいのかい?」
 執拗に降伏を迫るのは、このバトルの勝敗に彼女の身体を賭けているからだ。
 彼のシュメッターリング。M6号が勝てば、この美女を一晩好きに扱える。
 そういう条件で彼女はこのバトルを了承したのだ。
 坂本はM6号を決して信用してなど居なかったが、それ以上に他の違法神姫の完成度を低く評価していた。
 ゆえに、この降伏勧告は保険であり、催促でもあるが、只それだけでもあった。
 後5分もすればこの女は自分のものだ。
 坂本はそう信じて疑わなかった。

 M6号の攻撃を辛うじて、そう見えるようにかわしながらジルダリア、カトレアは己が主を盗み見る。 
 合図はまだ無い。
 暫くはこの応酬を続ける必要がありそうだ。
(しかし、飽きの来る戦いですわね…)
 単調なペンチアームの攻撃を紙一重になるように調整して交わし、スタンバイ状態のレーザーブレードを申し訳程度に振っておく。
 律儀にかわそうとするM6号の余りの遅さに、思わず励起モードのスイッチを入れ、止めを刺しそうになるが、主の命令はそれではない。
(あの三人は何をグズグズしているのでしょう。こんなストレスの溜まる戦い、誰かに押し付ければよかったですわね…)
 言って、妹達の顔を思い出すカトレア。
 機動性に特化したツガル、アルストロメリア。
 突進性能に特化したエウクランテ、ストレリチア。
 砲撃性能に特化したフォートブラッグ、ブーゲンビリア。
 何れも誇るに恥じぬ妹達。
 まあ、性格には問題のある困った妹達ではあるが…。
 ともかく、彼女達は今、密かにこの会場の中を探知し、配置を行っているはずだ。
 目的は只一つ。
 今宵、この場に集った違法神姫全ての『抹殺』である。
『只の一体も逃すな』
 それが主のオーダーであった。

「…ん?」
 今まさに突撃の号令を下そうとした辰由の目に止まったのは一体の神姫。
 機種はなんと言ったか。確か砲撃型の奴だ。
 この会場には神姫など無数に居るが、他の神姫との違いが只一つ。
 辰由以外の誰も気づきはしなかったが、その神姫は“武器を構えて”いた。

「いいぞ。始めろ」
 女の声を都合よく解釈した坂本は、後ろから女の身体を抱き寄せ、その胸に手を這わせる。
「………」
 女の抵抗は無い。
 完全に自分の物になったのだ。
 そう信じて疑わない坂本は、思考をめぐらせる。
(さて、どうやって愉しもうか。独り占めするのも悪くないが、こういう良い女を輸姦(まわ)すのも捨てがたい。そうだ、こういう気の強そうな女は屈服させるのが一番だ………)
 そんな事に意識を奪われていた彼は、女がコートから二本のナイフを取り出すのはおろか、そのナイフが彼の両手首を刺すまで、まったくその害意に気づかなかった。

 次の瞬間起こったのは、不意の停電と、それによって生じた闇を一瞬だけ切り裂いた、二つの光だった。
 一つは会場を大きく横切り、人を、神姫をなぎ払って行く。
 もう一つは、リングの上でM6号を一瞬で斬り裂いていた。

 多くの者は暗闇が戻ってからそれに気づいた。
 腕を、肩を、脚を、引き裂くような痛みが襲う。
 多くの神姫は何も分からないままその思考を停止した。
 むしろ、それは慈悲であったと言えるだろう。
 対人殺傷力を持つレベルにまで強化されたレーザー光線が、会場を大きく薙ぎ払ったのである。

 混乱の隙間を縫うように、神姫による神姫の殺戮が始まった。

 硬い頭蓋シェルを、まるで障子紙のように突き破られ、絶命するサイフォス。
 背中から無数の銃弾を受け、蜂の巣になるアーンヴァル。
 煌めく光の刃に一撃で両断されるヴァッフェバニー。
 レーザーの直撃を受け、瞬時に溶解するジュビジー。
 何れも処理は一瞬。
 そう。それは“処理”である。
 バトルなどとは誰も思えない一方的な虐殺の空間。
 それが、その場を支配する厳格なルールとなった。

「ひぃ。なっ、何だよ、オマエ!! なんて事をしやがるぅ!? 俺の腕、俺の腕ぇ…!!」
 両手首を串刺しにされ、坂本は転げるように女との距離をとった。
 遅まきながら本能が告げている。逃げなければ殺される、と。 
「…ああ。一つ言っておこう」
 静かな女の声は、周囲の混乱に飲み込まれる事無く坂本の耳に届いた。
「私はね、お前のような手合いが…。大嫌いなんだ」
 それは、実質的な死刑宣告である。
「ひっ!! …ひぃぃぃぃぃ~っ!!」
 ヒステリックに叫びながら、ナイフが刺さったままの両腕を振り回し、取り巻き達を押しのけ逃走に入る坂本。
 断続的に閃光がほとばしる暗闇の中、辰由はその姿を見逃さなかった。

「あの女、あの女、あの女ぁ!! 俺の腕を、俺の腕を、俺の腕を刺しやがった!! なんて事をしやがるあの女ぁ!!」
 坂本は喚きながら裏口へ向かう。
 取手型のドアノブは、動かなくなった腕でも辛うじて開けられた。
「あはは、俺はこうなる事も考えてこの会場を選んだんだ。おれは天才なんだ。このままでは済まさないぞあの女!! 必ず捕まえて思い知らせてやる!! 思い知らせてやるぞ!!」
 会場など取り巻きが勝手に決めた物だと言う事すら忘れ、都合の良い幻想を現実とし、坂本は階段を上る。
 小さい頃に足を踏み外して以来、トラウマとなっている為か、階段を上る速度は決して速くない。
 だから、辰由がその背に追いつくのは容易な事だった。

「待ちなさい、坂本竜弥」
「!?」
 路地に出るなり呼び止められ、慌てて振り向いた坂本は、それが先程の女で無い事を知ると密かに胸をなでおろした。
「なっ、何だよアンタ!? 俺に何の用だよ!?」
「永倉辰由。伊藤組の組員です」
「…伊藤組? ヤクザが何の用………」
 其処で不意に天啓とも思える閃きが坂本の脳裏を巡った。
「そうだ、あんたらヤクザだろ。俺と手を組まないか? 絶対儲かるショーなんだ。分け前は半分やる。な、どうだ!?」
「救い難い愚か者ですね、貴方は…。………普段は堅気の衆に手など出しはしませんが、貴方は別のようだ。…“こっち側”に半端な覚悟で足を踏み入れた代価、…高くつきますよ…」
 そう言った次の瞬間、辰由は坂本の顔面に拳を叩き込んでいた。
 手加減はしたとは言え、その気になればコレだけで殺人を可能とする威力を持つ拳だ。
 前歯を全て失いながら、坂本が辛うじてでも意識を失わなかったのは、皮肉にも腰を抜かしたせいである。
「うぎゃぁあぁぁぁぁぁぁぁ!? や、止めてくれぇ!! 俺が何をしたって言うんだ!?」
「………」
 最早辰由には言葉など無い。
 言って分かる相手なら、決して辰由は暴力に訴えたりはしない。
 だが、一度そうと決めたのなら、辰由は暴力を使う事を決して躊躇などしないのだ。
 それが、極道たる彼の進む道であった。

「わかった、俺が悪かった。謝る。謝るから許してくれぇ…!!」
 這いずって距離を取ろうとする坂本の脚を、辰由は容赦なく踏み抜く。
「ぐぎゃぁぁあぁぁぁ!?」
 後は動かなくなるまで殴って、生きていたら警察に引き渡せばいい。
 裏の世界に。暴力の世界に足を踏み入れるというのは、そういう事だ。
 その一点については、辰由も伊藤組の組員達も決して譲らないだろう。
 自分達が決して正義などではないと知るがゆえに。
「ち、畜生。畜生…!!」
 必死に這いずる坂本が“それ”を見つけたのは脚を砕かれ、這いずるが故の視点の低さからだった。
「…は、はははははははははは!!」
 坂本は、“必死に這いずってきた”それを掴んで投げつける。
「自爆しろぉ、M6号!!」
 会場からここまで。
 神姫にとっては、ましてや両足と片腕を破壊されたM6号にとっては、とてつもなく長い距離をただ主の身を案じ、ただ主の為だけに這いずって来た神姫に、坂本はそう命令を下した。
「―――!!」

 ―――パスッ。
 軽い音と共に、シュメッターリング、M6号はその機能を停止した。

 胸部を貫くのは異常な威力のレーザーブレード。
 その使い手は他ならぬカトレア自身であった。
「不手際だな、カトレア」
 彼女の背後、闇に溶け込むような黒衣の女。
「申し訳ありませんでした、マスター。あの状態でここまで移動するとは想定外でした…。咄嗟の事とは言え、コレではデータ収集もできません………」
「まあ良い。データ取りなど物のついでだ。あちらの方は片付いた、引き上げるぞ」
「はい。…!? ―――っ!!」
「…えっ!?」
 言って、カトレアは大きく跳躍し、物陰から除いていたハウリンに斬りかかる。
「止めろ、カトレア!!」
 女の制止の声に、カトレアが止まったとき、光の剣はそのハウリンの目前であった。
「…それは良い、一般機だ。………今はまだ、良い…」
「…はい。………かしこまりましたわ」
 そして、溶け込むように夜の路地へと消えてゆく女。
 それを追って、ジルダリアもまた夜の闇に解ける。
 その背後に、辰由は声をかけなかった………。
 アレは自分達とは似て非なるナニモノか、だ。
 少なくとも、今この時点では、その判断は間違っていなかった。
「………」
 そして、残されたのは辰由自身と、M6号を投げつけた際、反射的に辰由の放った蹴りで顎を砕かれ、気絶している坂本。
 あとは、物陰でへたり込んでいるハウリンと、絶命し、うつろな瞳を見開いたままのシュメッターリング、M6号だけであった。

「ユキ、何処です返事をなさい!!」
「あ、マスター!!」
 呆然としていた時間はどれほどだったのか、辰由は第三者の声で我に返った。
「…ユキ、無事でしたか。貴女はにぶちんさんなのですから、一人で行動してはいけません」
「…ごめんなさい、マスター」
「………おや?」
 そこで初めて第三者、ユキと呼ばれたハウリンのオーナーは、辰由に気がついたようだった。
「…ふむ」
 そして、その視線の先に転がる異形と化したシュメッターリングの残骸にも………。
「………その神姫のオーナーですか?」
「いえ、違います」
 辰由はそう答えた。
「よろしい」
 満足そうにそう言って、村上衛は永倉辰由にその提案を持ち出すのであった…。


 FIN
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 この話の要素
 ①村上と辰由さんの出会い。M6号のその後は言うまでも無いですね。
 ②眼帯女(仮称)と花の4姉妹たち。
  彼女らの目的は今は伏せますが、殺しているのは違法改造の神姫だとご了承下さい。
  眼帯女が、ユキに手を出させなかったのはその為です。
  今はまだ、のセリフが意味するところは本編で語られるでしょう………。
 ③何気にリセットのユキ再登場です。
  恋人から夜の外食に誘われた村上に、こっそり付いてきたユキちゃんは、恋人に見つかって怒られる村上を庇うべく、一人で帰ろうとして騒動に巻き込まれたわけです。
  …まあ、恋人の正体はあの人なんですが…(←意味も無くあえてぼかしている)。
 ④カッコいい辰由さんを書きたかった。
  いえ、この時も懐にはアレを持っているんですが…(笑)。
 ⑤ついでに伊藤組のお仕事(裏業務)の内容。
  正義などでは断じてありませんが、悪と思って欲しくもありません。秩序を守る極道なのですよ?
  (あえてヤクザと言う呼称を坂本以外には使わせていません)

 とまあ、こんな内容を詰め込んだ残虐SSですが、本来はカトレアがM6号(その時は違う神姫だった)に触手でエロい事をする陵辱SSだったのです。
 まあ、余りに残酷すぎて没にしましたが………。
 ついでにエロ成分が消えてしまったのは如何した物か………。

 さて、言い訳になりますが、四姉妹が殺さなくても違法改造神姫たちには未来など無かったのですよ?
 それが彼女らの行動を許容するかはさておいて、眼帯女も四姉妹も、それを自覚した上での殺戮だった事をご了承下さい。
 まあ、眼帯女が坂本刺したのは胸揉まれてムカついたからですが………。

 実は執筆時間の9割は冒頭部分のM6号対マオチャオの部分だったのです、なALCがお送りしました。
 もうこういうネタは書かないぞ…。




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