SHINKI/NEAR TO YOU
良い子のポニーお子様劇場・その2
『Over the Rainbow』(前篇)
『Over the Rainbow』(前篇)
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Higher higher higher!
Higher higher higher!
色鮮やかなレーザービイムとスポットライトに照らされて、ステージに三体の神姫が躍り出た。
彼女たちの登場と共に、ステージを取り囲むビジターから一際大きな歓声が上がる。
彼女たちの登場と共に、ステージを取り囲むビジターから一際大きな歓声が上がる。
右手から跳ね出るのは、お団子頭と可愛らしい八重歯が特徴のストラーフ型神姫。こちらは白い衣装に、頬に星型シール。朗らかで元気いっぱいの踊りを見せる。
ステージの左手からは、短い雪のような髪が特徴のフブキ型神姫。白い衣装に、頬に雫形のタトゥーシール。優雅な力強さを思わせる踊りを披露する。
さらにステージの中央、ライトに照らされて長い銀髪の神姫が舞い降りる。ステージライトの下、色取り取りに輝く純白のドレス、頬にはハート型のシール。白フブキと白ストラーフのふたりの神姫の真ん中から優雅に登場した、妖精のごとき白い神姫。
彼女たちは熱狂する歓声に両手を広げ応えると、華やかに舞いながら歌い出した。
1
関東有数の学術研究都市である摩耶野市。
そのほぼ中央に位置する摩耶野駅近縁にある大型商業施設、神姫センター摩耶野市店。
その上階を占める業務エリア内――神姫スタッフルーム(センター内のさまざまな業務活動に関わっている武装神姫たちの待機室)に彼女たちの〝楽屋〟は設けられている。
「ふみゅ~、今日のステージも盛り上がったね~☆」
大きく伸びをしながらチェアーに腰掛ける神姫、白夜。
お団子状のヘッドセットでまとめた髪、白に黒のラインが入ったボディカラー、限定モデルのストラーフ(悪魔型)。
お団子状のヘッドセットでまとめた髪、白に黒のラインが入ったボディカラー、限定モデルのストラーフ(悪魔型)。
「そうだね、集まったビジターの皆さんも楽しんでくれていた」
舞台メイクのタトゥーシールを外し片手でもてあそぶ神姫、白雪。
雪のように白い肌と、通常とは違う白を基調に鎖帷子を模した意匠、リペイントモデルのフブキ(忍者型)。
雪のように白い肌と、通常とは違う白を基調に鎖帷子を模した意匠、リペイントモデルのフブキ(忍者型)。
「でもその代わり、ワタシたちもより精進せねばならないということ。多くの人が集まってくれるということは、それだけ期待も大きいよ」
「ふみゅ~、人気者はツライぜってことだにゃ~ん。ふるふる」
そう口では言いながら、あっけらかんとした白夜。白雪はそれを横目で見つつ、雫形シールをテーブルに置いて、後ろを振り向く。
「フィはどう思う?」
『Ah...目覚めて...Ah...ひとりサヨナラを越える勇気抱いて...♪』
白雪に呼ばれ、先ほどから脱いだ舞台衣装をひらひら、楽しそうに歌を口ずさむ少女が振り返った。
「簡単なことよ。期待が寄せられるということは、それだけ多くの人たちが喜んでくれているということだもの」
光を浴びて薄紫に輝く銀糸の長い髪に、純白のボディカラーと艶のある真紅の瞳、先行生産型スペシャルモデルのテイタニヤ(妖精型)。
朝日のような微笑みを浮かべる白い神姫、フィシス。
朝日のような微笑みを浮かべる白い神姫、フィシス。
「素敵じゃない? フィはとても素晴らしいことだと思うの」
そのグループのリーダーを務める少女の当然といった返答に、白雪と白夜はあきれ半分親しみ半分といった表情。
「やはりフィシスは心の臓の強さが我々と違うようだ。いや、この場合CSCの強さといった方が適切」
「さっすがぁ、フィたんはエッライね~ん☆」
「そんなことないわ、ごく自然なことよ。ビジターを楽しませ、喜びを伝える。それがフィたちの役目だもの」
この神姫センターのキャンペーンガール、訪れるビジターたちをショーで楽しませるアイドル神姫。センターに所属する神姫スタッフたちの花形にして、『センターの顔』という重大な役目を課せられた存在。
それが彼女たち三人、摩耶野市店の擁するアイドルユニット――ブルーメンヴァイス。
「でもでもぉ! フィたんもタマ~には、みんなみたいにフツーにしてみたいと思わにゃい? フツーフツー」
「……? 普通って?」
「白夜が言いたいのは、このセンターを訪れる一般の神姫たちのこと。彼女たちのようにマスターと共にバトルを楽しんだり、一緒のひと時を過ごす」
「そうそう、フツー武装神姫ってのはそういうもんだよねー」
「別に、そうは思わないけれど?」
フィシスは少し小首を傾げる。
「ひとりのマスターに奉仕するのも、大勢のビジターに奉仕するのも、同じことじゃないかしら? 他の神姫たちにとっての〝普通〟がマスターに尽すことなら、フィたちにとってこれが〝普通〟なのよ」
不思議がる二人に、フィシスは得意気に胸を反らして答える。それはこのセンターのアイドルとして自分たちにとって当たり前のことだ。
「はにゃ~。どう思います、白雪隊員。ユウトウセイですよ~」
「ふむ、完璧ともいえる思考ロジック。さてその我々とは違うポジティブさの秘訣とは?」
「白雪隊員! 白夜隊員はCSCの他なんたらかんたら、小難しすぃデリケートな部分が怪しいと思いますです。具体的に言うとあのふたつの丸く膨らんでる丘の辺りぃ!」
「ちょっ――ちょっと何するのよ、白夜!?」
にゅっとつかみ掛かってくる白夜の手に、フィシスが身をくねらせる先には別の魔の手が……
「なるほど、さすが最新世代ボディ……」
「ちょっ、ちょっとぉ――!? 白雪もっ……やめてっ」
フィシスは慌ててその……いろいろと大事な部分を両手で隠しパッとふたりから離れる。
それを見て、白夜隊員と白雪隊員は「ギュピーンッ」と妖しくアイコンタクト。
フィシスは頬を紅く染め、両手で体を抱きしなりと「な、何?」。
それを見て、白夜隊員と白雪隊員は「ギュピーンッ」と妖しくアイコンタクト。
フィシスは頬を紅く染め、両手で体を抱きしなりと「な、何?」。
「これはこれは、けしからんですみゃ~☆」
「姫よ、よいではないかよいではないかよいではないか」
「ちょっとやめっ! きゃああああ――っ!?」
「姫よ、よいではないかよいではないかよいではないか」
「ちょっとやめっ! きゃああああ――っ!?」
ばったんきゅ~~ん☆
「イタタタタ――ッ!×3」
しな垂れ掛かる重みに耐え切れず、三人は揉みくちゃになって盛大にフロアーと手痛いスキンシップをした。
「もう……白雪も白夜もいい加減にしてっ」「……少し調子に乗りすぎたみゃ~」「面目ない……」と三人――ギリギリまで頑張ったんだけど、やっぱりダメだった~、ばたんっ……と倒れた組み体操状態。
「……バカじゃないの?」
ぶつけた肩を擦るフィシスはハッとする。いつの間にか休憩ブースの区画先に、他の神姫スタッフたちがやってきていた。
ふいに湧いてくる羞恥心を抑えて、フィシスは自然を装い立ち上がる。「ほら、ふたりとも。いつまでも寝ていてはダメよ」
フロアーに這いつくばる同僚をせっせと助け起す。
ふいに湧いてくる羞恥心を抑えて、フィシスは自然を装い立ち上がる。「ほら、ふたりとも。いつまでも寝ていてはダメよ」
フロアーに這いつくばる同僚をせっせと助け起す。
「アイドル風情が、おだてられて調子に乗ってんじゃない?」
つかつかと歩きながら、楽屋に入ってきた神姫たちのひとりが呟く。調整された声量。さり気なく、だがワザと確実に聞こえるよう計算された音強。
ムゥ~ッとする白夜を手で制し、フィシスは相手に微笑を返す。
ムゥ~ッとする白夜を手で制し、フィシスは相手に微笑を返す。
「どういうことかしら?」
対する神姫スタッフの一団。
色素の薄い髪に黒と赤の戦闘的に塗られたカラー、限定モデルのアーンヴァル(天使型)。
濃緑色の髪に真っ赤なボディスーツ、リペイントモデルのツガル(サンタ型)。
濃緑色の髪に真っ赤なボディスーツ、リペイントモデルのツガル(サンタ型)。
いずれもこのセンターの中でイベント時に巧みな空中ショーを披露する、アクロバットチームのメンバーたちだ。
「あら違った? ああ、そっかー。アンタらはキレーイに飾りたてられた案山子だものね」
一団の中から進み出るアーンヴァル。フィシスたちに挑発的な笑みを向ける。
身構える白夜と白雪のふたり、しかしフィシスはその笑みを真っ直ぐに受け止め、平然といった様子で思案する。
身構える白夜と白雪のふたり、しかしフィシスはその笑みを真っ直ぐに受け止め、平然といった様子で思案する。
「……フィがブリキのきこりだとしたら、案山子が白雪で、きっとライオンが白夜ね」
くすくす笑っていたアクロバットチームの面々が「?」となる。にっこりと微笑えんで、フィシスは「うん」と納得したように頷く。
「だとしたら、きっと――フィはみんなを包む愛を、白雪はみんなを幸せにする知恵を、白夜はみんなを明るくする勇気を手にすることができるわ。とっても素敵じゃない?」
あっけに取られるアクロバットチームの前で、フィシスは屈託のない笑顔。
そんな彼女にアクロバットチームの神姫たちは毒気を抜かれ、「今に見てなさいよ」と舌打ちしながらチームリーダーのアーンヴァルが立ち去る。
戸惑いながらリーダーの後を追いかける神姫たち。
それを見送るフィシスの後ろで、白雪と白夜はこっそり「イエイ」と手を合わせ、ニンマリした。
そんな彼女にアクロバットチームの神姫たちは毒気を抜かれ、「今に見てなさいよ」と舌打ちしながらチームリーダーのアーンヴァルが立ち去る。
戸惑いながらリーダーの後を追いかける神姫たち。
それを見送るフィシスの後ろで、白雪と白夜はこっそり「イエイ」と手を合わせ、ニンマリした。
2
「新しい試みのステージショー?」
ブルーメンヴァイスの三人は、マネージャー役を務める業務スタッフから次のステージ内容を聞かされた。どうやら、今度からステージイベントにアクション要素を取り入れることになるらしい。
「そうと決まったからには、頑張らなくちゃね?」
新イベントと聞いて明るく前向きなフィシスに比べ、白雪と白夜の足取りは重い。
「ふみゅ~、どうしてウチらのショーにアクションシーンが入ることになったのきゃなー? はてはて」
「確かに急な話だ。リスクも増える」
白夜はおチャラケた態度で誤魔化す。白雪は冷静を繕う。それが如実に語る、ふたりの新イベントについての不安と疑問。
「仕方ないわ、それがフィたちの〝もうひとつの役目〟なんだもの」
ふたりの不安を断ち切るようなフィシスの宣言。
センターのアイドル――ブルーメンヴァイスにはもうひとつ課せられた役目がある。
それは各種イベントやキャンペーンという形を通して、神姫センター内の様々なサービス、それを支える新技術の発展と実用試験を行うこと。
それは各種イベントやキャンペーンという形を通して、神姫センター内の様々なサービス、それを支える新技術の発展と実用試験を行うこと。
摩耶野市店のトップガン。
最新技術を用いた武装神姫であるフィシスたちだからこそ務まる、重要な役目だ。
「で、こーいうオチになりますきゃあ……」
練習用のステージに向かい、ブルーメンヴァイスの三人は各々の武装に身を包んでいた。
フリルを模した装飾のついた白亜の鎧に、ふわりと広がったドレススカートが華美な妖精武装を纏ったフィシス。
白磁の装甲に金の角と生やし、無骨な巨腕が重厚さと無邪気さをアピールする悪魔武装を装着した白夜。
白桃に染まる装束に白い狐の面を下げ、すらりとしたシルエットが軽やかで可憐な忍者武装を駆る白雪。
三人の前に居並ぶ神姫たち。黒い装甲黒い翼――それは限定アーンヴァル+リペイントツガルで構成された空中アクロバットチームだった。
「きーてにゃいよー」
「なるほど得心納得。だから先ほどはこちらに挑発的な態度を……」
「なるほど得心納得。だから先ほどはこちらに挑発的な態度を……」
ジトーッとうんざりした顔の白夜の隣で、嘆息する白雪。
新しいショーに取り入れるアクション要素……つまり、アクロバットチームと競演してステージイベントを行うのだ。
新しいショーに取り入れるアクション要素……つまり、アクロバットチームと競演してステージイベントを行うのだ。
「あ~ら、アイドル様が今度は仮装大会でもやるつもりなのかしら?」
髪を肩で払い、すれ違いながらアーンヴァルリーダーが嘲る。取り巻きのアクロバットチームの揃って押し殺した笑いが続く。
フィシスはあくまでも笑みを絶やさず、通り過ぎる彼女らに声を掛ける
フィシスはあくまでも笑みを絶やさず、通り過ぎる彼女らに声を掛ける
「みんなで一緒に、イベントが成功するよう頑張りましょう」
嘲笑されながら、嫌悪を微塵も出さずに語りかけるフィシスがおもしろくなかったのか。アクロバットチームはそのまま無視して練習ステージへ行ってしまった。
「な~んだか、おもしろくないみゃ~」
「そんなこと言ってないで、みんな同じ神姫センターの仲間でしょう?」
「あっちはそうは思ってなさそうだ。不倶戴天、敵意満々といったところ……」
白雪、歩き去った神姫たちに向け、無表情に中指を立てジェスチュア……びしっ!
白夜、同じくステージ入り口に向け、目の下に指を当て舌を出す……あっかんべー☆
白夜、同じくステージ入り口に向け、目の下に指を当て舌を出す……あっかんべー☆
「……あっちはあっち、こっちはこっちよ。ほら、フィたちも早くしないとマネージャーに叱られてしまうわ」
相方ふたりの分かりやすい反応をやれやれと思いながら、フィシスは練習ステージへの入り口をくぐる。
歌や踊りでビジターを楽しませるブルーメンヴァイス。華麗な空中ショーでビジターを楽しませるアクロバットチーム。……どちらもセンターを訪れるビジターに喜んで欲しいという気持ちは、同じはずだ。
「そうよ。だったら、一緒になればもっと楽しいはずだわ」
小さく呟いた、その言葉をかみ締めながら、フィシスはゲートを抜けた。
『Over the Rainbow』(前篇)良い子のポニーお子様劇場・その2//fin