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えむえむえす ~My marriage story~

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SHINKI/NEAR TO YOU
Phase02-2 rondo




「本物のヴァイオリンかぁ……」

 校庭を眺めながら、シュンは人知れず呟いた。
 日曜の昼から降り出した雨は、結局今日も降り続いたままだ。

「どうしたのよ、シュっちゃん。ため息なんかついて?」

 向かい合わせた机ごしに、幼馴染の伊吹舞が覗き込んでくる。

「別に、なんでもねーっすよー」

 肩をすくめながら、シュンは机の上に広げた弁当をパクつく。
 また誤魔化そうとしてる――その様子を見て伊吹はピンときた。

「それって今日、ぜっちゃんが一緒じゃない事と関係ある?」

「ぶほっ!?」

「シュン、汚いの~」

 むせて目を白黒させるシュンを見て、ワカナがサンドイッチを抱えながら伊吹の肩に飛び乗った。

(図星か……ホントにシュっちゃんてば昔から分かりやすいなぁ)

 ワカナから受け取ったサンドイッチを頬張りながら、伊吹は呆れる。

「それで、一体何があったのよ?」

 伊吹がそう尋ねると、シュンがまだ渋っているのを見て関節技で成敗!

「ギ……ギブアップ。分かったよ。話す、話すからっ!」慌てるシュンの姿に満足しながら、伊吹は事情を聞き出した。

「ふ~ん、武装神姫がヴァイオリンをねぇ……」

 シュンが日曜の出来事を説明すると、話を聞き終わった伊吹は首を傾げた。

「話は分かったわ。でもそれだけじゃ、ぜっちゃんを学校に連れてこなかった理由にはならないよね?」

「まだつづきがありそうなの~」

 シュンはまたため息をつきながら、あの後起こったことを思い出していた。




 チカの話を聞き終わった後ちょっと揉め事があった。
 発端はゼリスだ。真摯に相談するチカを、ゼリスが頑として突っぱねたのだ。

「相談されたところで私たちにはどうしようもない問題です、そのことはすでにメールでは伝えておいたはずでしょう? それなのに、何故直接会いに来てまでそれにこだわるのか、私には貴女の考えが理解に苦しみますね」

 そっけないゼリスにチカは押し黙った。
 見かねたシュンはふたりの間に割って入ったのだが――それがいけなかった。今度はシュンとゼリスで口論になるところを、優がストップ。ゼリスは優と一緒にリビングを出て行ってしまった。
 しばしの気まずい沈黙の後、シュンは連絡先だけ交換して、その日は耕一とチカに帰ってもらうことにしたのだった。

「彼女が――チカがあんなことを言い出したのは、祖父のことがあるのかも知れません」

 帰り際に、耕一がシュンにポツリともらした。今回のチカの行動は耕一の祖父に関係があるのだ、と。

「僕の祖父、和光章典は名の知れた音楽家です。僕も祖父から音楽を学びました。その祖父が先月病で倒れてしまって――ええ。倒れたといってもそう深刻な訳ではないのですが……何分高齢なものですから。チカはそんな祖父にヴァイオリンを聞かせることで、彼女なりに元気付けようと考えたのでしょうね……」

 去っていく耕一を見送りながら、シュンにはその後姿が寂しそうに見えた。




「それを聞いたシュっちゃんは、ふたりの願いを叶えようとか思っちゃった訳ね」

 悪いかよとムスッとした顔をするシュン。それを見て伊吹は呆れと同時に、何だかおかしくなった。

(全くぅ。それで自分たちがケンカしてちゃ意味ないでしょうに。でもそんなところが、シュッちゃんらしいのかしら……)

 伊吹がそんなことを考えているとはいざ知らず。シュンは隙をみてトマトサンドを盗み盗ろうと企み、伸ばした手をワカナがブロック。そのままパスされたサンドイッチをぱくりと齧りながら、伊吹はシュンに告げた。

「それで? 私にできることなら手伝ってあげるわよ」



 ♪♪♪



「すまん。いろいろ考えたんだけど、他に思いつかなかったんだ。神楽さんと連絡を取りたい」


 考え抜いた末の方法がそれだった。
 あれこれ頭を捻って、幼馴染に手を合わせてまでした結果が人を頼ることというのは、正直シュン自身少々……いや、かなり情けないとは思うのだが。背に腹は変えられない。
つまるところ、自分は結局ただの中学生な訳だし。
 その点、神楽さんならいろいろとこの手の情報にも詳しいだろうし、頼るには打ってつけだ。シュンの知る人の中では、こんなときに最も頼りになる人のはずだった。
 ただ以外だったのは、シュンがこのことを話すとき伊吹がどこか複雑な表情をしていたということだ。

「いい? コンタクトが取れたからって、あの人が必ずしもシュっちゃんに協力してくれるとは限らないんだからね? それと私がやるのはあくまでも最初の仲介だけよ。その後の交渉は直接シュッちゃんがすること」

 それと、後で〝仲介料〟として駅前のカフェで特大のパフェを奢ること――それがこの件に関して伊吹が出した条件だった。
 ちなみに、駅前のカフェの人気メニュー「スペシャル・デラックス・パフェ」の価格は1190円だ。
 背に腹は変えられない……。
 そして、それに見合うだけの価値は、あった。

「やあ、久しぶりだね。本当はもう少し早く連絡を……と思っていたのだが、何分うちの教授がこのところうるさいのでね。ところで、ルイス・スティーブンソンはコカインの力を借りて三日三晩でかの『ジキル博士とハイド氏』を書き上げたそうだよ。これを例に、あのボンクラが惰眠にふけっている間を見計らってその方法を実践してやれば、少しはあの愚昧な頭脳からも先鋭的なアイデアを引き出すことが可能ではないかと僕は考えるのだが、君はどう思うかな? …………ああ、すまない。そうそう、先日の依頼の話をしていたのだったね。しかし、身近に舞という対象がいながら、君もどうしてなかなか、隅に置けないな」

 PDA(ケータイ)に出るなりの、機関銃のごとき喋り。

「いや、分かっているよ。聞くところによると、君の神姫はなかなかに可憐だという話じゃないか。若き衝動を受け入れ、ただ突っ走ることも君くらいの年代には時には必要なのさ。このような形で愛を確かめ合うこともひとつの在り方だよ。
…………何? 話が見えてこないが、依頼内容は君の神姫が人の営みをこなすにはどのような方法があるか、でははなかったのか? 
…………ふむ。なるほど。くっくっく……はは、すまない。どうやらこちらの早とちりだったようだね。いや、神姫を人間にする方法はないかときたのもだから、僕はてっきりそっちの意味だと…………え、何を言っているのか分からないって? ああ、聞き流してくれて構わないよ。
閑話休題、話を戻そう。――ふむ、武装神姫にヴァイオリンを……か。君はやはりなかなかおもしろいことを考えるね。
…………大丈夫、それならば心配はいらないよ。その要望なら僕が調達したもので十分に間に合うはずだ。その点については安心してくれ給え。さて、さしあたっての詳しい段取りだが、まずは今度の日曜日に…………」

 電話を終えたシュンは大きく伸びをした後、PDAをベットに放りそれから自分もバタッと倒れこんだ。
 相変わらず神楽さんは変わった人だが、やはり頼りになる。
 一時はどうなることかと思ったが、これでチカと耕一の願いを叶えることができるはずだ。そうとなれば――
 よっとシュンは立ち上がる。

(まずは教えて貰った連絡先に電話して、耕一とチカに教えてやらなくちゃな。それに、伊吹にも教えとくか。あいつのお陰でうまく方法が見つかった訳だし、奢りの件とは別にお礼でも言っておかないとな)

 考えをまとめながらシュンが部屋を出ようとすると、廊下にゼリスが立っていた。
方法を探してる間、ゼリスはそんなシュンを見て一切の口出しもしてこなかった。面倒がなかったといえばそうだが、なんとなく気まずい。
 あの日曜日の口論以来、シュンはゼリスとあまり話していない。それどころか、ゼリスの方がシュンを避けているらしいことを薄々感じていた。
 今もゼリスが優の部屋から出てきたところに、偶然出会わせてしまったらしい。
いつもツンとしたポーカーフェイスだから分かりづらいが、ゼリスの方もどことなくバツが悪そうに見える――のは、シュンの思い込みじゃないはずだ。

「シュンのその顔を見ると、何か進展があったようですね」

「ああ、そうだ。神姫にヴァイオリンを弾かせる方法が見つかったよ」

 シュンがそう返してもと、ゼリスはそのことにまるで関心がないかのように「そうですか、よかったですね」とそっけなく言うだけだった。
 チカの話を聞いたときは、あれだけ柄にもなく大反対してたクセに――。
 別にいいさ。
 シュンはゼリスの希薄な反応を気にせずに、階段へと向う。
 あいつもあの時はあれだけ無理だと言っていた手前、やっぱり相当バツが悪いんだろう。チカの夢が叶うのをみんなで一緒に喜べば、そんなのも気にする必要ことないって分かって、ゼリスの機嫌もきっと良くなるさ。
 シュンはそう結論付けると、彼の部屋をジッと覗き込むゼリスを残し、リビングへと降りていった。
 忘れていたように家の外から聞こえる雨音に、なんとなくこの雨は当分降り続きそうだなと思いながら、シュンは受話器を手に取った。



 そして、日曜日――



 ♪♪♪



 空をどんよりとした雨雲が覆う中、シュンは摩耶野市駅に降り立った。
 結局連日降り続いた雨は、今は辛うじて降っていない。ただ空の様子を見る限りでは、また一雨ありそうな気配だ。
 そんな上空の様子を気にしつつ、待ち合わせ場所の駅南側にある高架広場に向かう。
 南口からぺデストリアンデッキを抜けシュンたちが広場に出ると、すでに噴水脇に立っていた耕一が歩み寄ってきた。

「お久しぶりです、有馬さん。本日は本当にありがとうございます」

 丁寧にお辞儀をされ、シュンは慌てた。解法を導いてくれたのは神楽さんなのだ。今回シュンはあくまでも間を取り持っただけで、そんなかしこまられることは……。

「いえ、有馬さんが私たちのためにいろいろと方々を駆け回って下さったことは伺っています。こうしてチカの夢が叶う方法が見つかったのも、有馬さんがいたからこそです」

「有馬さん、ありがとございます」

 そういって耕一とチカに交互にお礼を言われると、シュンはなんともむずがゆい気分になってくるのだった。それに面と向かって頭を下げられると、照れくさいし。
 頬をかきつつ、そこではたと気づきバックを持ち上げた。

「ほら。お前も挨拶くらいしろよ、ゼリス」

 シュンは肩から提げたスリーウェイバックに声を掛ける。

「……私はただいまお昼寝中です。人間のみならず神姫にとって睡眠とは日々の活動を支える必要不可欠かつ、重要な要素。なので阻害しないでください……」

 バックの中から聞こえるくぐもった声は、普段に比べ少し力が無いように感じる。

「あの……ゼリスさん、こんにちは」

 耕一の手に乗ったチカが身を乗り出して、そんなゼリスに声を掛ける。それに対しゼリスはバックに篭ったまま「……ご無沙汰しています」とぼそぼそ返す。
 どうにもこうにも。ふたりともこの間のことをまだ気にしているようだ。
 ――気まずい。

「ええ~っと、それにしても遅いわね~」

 重くなりそうな空気をいち早く察してか、伊吹がすかさず話題をそらす。ナイスだ、付き添いと称して勝手についてきたことだけはある。

「シュっちゃん、待ち合わせはここで合ってるよね?」

「神楽さんとの打ち合わせでは、駅前の噴水のところで落ち合うことになってるけど……」

 と、そこで周りを見渡したシュンの目に、黒い影が写りこんだ。
 黒い髪、黒い切れ長な目、黒一色のスーツに身を包んだ、影法師をそのまま繰り抜いたかのような特徴的な雰囲気の立ち姿。
 神楽さんだ。



「さあ、着いてきてくれたまえ」

 挨拶もそこそこに先頭に立って歩き出した神楽さんに連れられ、一行が向かった先はシュンのよく知っている場所だった。

「ここって、神姫センターじゃないですか?」

 たどり着いたその場所は、摩耶野市駅から徒歩10分あまり。
弧を描いた近代的なガラス張りメインゲートが特徴的な、お馴染みの場所。神姫センター摩耶野市店だった。

「ちょっとシュっちゃん、神姫のヴァイオリンと神姫センターにどんな関係があるのよ?」

 僕に聞くなよとシュンが思うそばから、神楽さんはエスカレータをすいすい昇っていく。
 1階から吹き抜けを昇り、上のフロアを目指す。
 7人(4人と3体の神姫)連れ立ってフロア内を移動する。ショッピングスペースの間を抜け、エスカレータでさらに上階に昇るなか、耕一とチカのふたりは珍しそうに階下の様子を眺めている。
伊吹とワカナは常連だし、シュンとゼリスにとってもこの神姫センターは馴染みの場所になりつつあるけど、耕一とチカはそもそもこういう所に来ることがないのかもしれない。
シュンがそんなことをチラッと考える間、エスカレータは神姫センターの中をどんどん昇っていく。
 出し抜けに視界を、色取り取りの光が出迎えた。
立体モニターの映し出す派手な映像、刺激的なBGM、熱気溢れる群集。それらが取り巻くマシンに刻まれた大きなロゴ――BMA(神姫バトル・マスター・アソシエイション)。
 一行が辿り着いたのは、最上階の神姫バトルホールだった。

「〝どうすれば武装神姫が本物のヴァイオリンを弾くことができるか〟。与えられた命題はそれだったね?」

 出し抜けに神楽さんが本題を切り出す。

「はい。でも神姫が弾けるような本物のヴァイオリンなんてあるんですか?」

 シュンの疑問に「そう、そこだよ」と神楽さんは頷き返す。

「音響学的制約から、神姫が扱えるように本物のヴァイオリンを神姫サイズまでスケールダウンする方法は、返って遠回りだ。神姫サイズの大きさでは、ヴァイオリンそのままの音色を再現できないからね」

 確認するように一堂を見渡す神楽さんに、シュンは頷く。
 そう。それで困ったからこそ神楽さんを頼った訳なんだけど――じゃあ、他にどんな方法があるんだ?

「簡単なことさ。ヴァイオリンを神姫に合わせようとするから、大変なのだよ。ならば、逆をすればいいのさ」

「……逆?」

 思わずオウム返しに呟いたシュンは、耕一と目を合わせ首を傾げる。伊吹を見ても、彼女も肩をすくめるだけだ。
 再び神楽さんを見ると、そこには愉快そうに微笑む顔があった。……そうだった、この人は昔からこんな風に相手を焦らしては、反応を楽しむような人だったっけ。
 頭にクエスチョンマークを浮かべるシュンたちの反応に満足したのか、神楽さんは得意げに胸を反らす。

「ヴァイオリンを神姫に合わせられないのならば、神姫をヴァイオリンに合わせればいいのさ」

「そんな方法があるんですか?」

自信満々に言うなぁ。確かに理屈としてはそうだけど、そんな都合のいいことが本当に可能なのだろうか。
 そんな疑念を抱くシュンらに対し、事も無げに神楽さんは答えた。

「可能だとも」

 それを聞いてチカがパッ表情を輝かせ、続く神楽さんの「――ただし、条件がある」の言葉に顔を強張らせる。

「条件――ですか?」

 耕一が問い返す。端整な顔に浮かぶのは困惑の色だ。他のみんなも思いがけない展開に意表をつかれ、神楽さんに疑いの目を向ける。

「ちょっとぉ! それじゃ話が違うわよ。ここまで来て急にそんなの、ずるいわっ」

 伊吹が神楽さんに噛み付く。無理もない。当事者の耕一とチカはもちろん、シュンもこんな話は聞いていなかった。この場で何の反応もないのは、バックに篭ったままのゼリスくらいだろう。……呑気な奴。
 しかし、神楽さんはそんなみんなの反応にも余裕の態度で、手をひらひら振ってみせる。

「ちっちっち、そう慌てるな。何もとって食おうという訳じゃない」

 「どういうことですか?」問いかけるシュンに、神楽さんは意気揚々と喋りだす。

「何、簡単なことさ。この世の中は往々にして対価交換によって成り立っていると、僕は考えるのだ。例えば人の歴史で言えば、狩をすればそれに見合うリスクを背負う、水を引かねば稲穂は育たない。貝や賃金を払わねば物を得ることは出来ず、領地を得る代わりに俵を納めなければならない。
君たちにも身近な事例を挙げれば、電車に乗車するには切符を購入せねばならず、テストでいい点が取りたければ勉強しなくてはならない。
分かるかい? 量子力学レベルでは対消滅によって純粋エネルギーが作られる際に、それに値するだけの電子と陽電子が必要とされる。僕たちの生きるこの世界では、何かを得るためには、必ずそれに見合うだけのものを払わなければならないのさ」

「ようするに、耕一とチカも何か対価を払うべきってことですか?」

 いきなりのマシンガントークに面食らう耕一に代わってシュンが確認する。つまりは神楽さんはその何かをしないうちは、方法を教えないつもりなんだ。

「対価といっても、何も代金を請求したりはしないよ。……おいおい、何だいその顔は。見くびってくれるなよ、確かに僕は一介の学生の身だが、君たちから金を頂戴するほど困窮にあえいではいないのさ。
それに、この件に関してはちょっとしたコネを使ってね。特に金は関わっていない。……まあ、その辺りは大人の話さ。くっくっく、あの愚昧な狸教授もこうした点では利用し甲斐があるというものだよ」

 いや、その話はいいですから。そろそろ何をさせられるのか教えてください。耕一やチカが困っているんで。

「……そう急くなよ、先人の言葉には急がば回れ――などというものもあるだろう。ようは君たちの決意――意志の強さを見せてもらいたいのさ。だってそうだろう? こちらは然るべき手順を踏んで方法を模索したのに、半端な気持ちで応えられたのでは割に合わないと考えるのは、人としてリアルな感情というものだよ。
では、以下にしてそれを量るべきか――。答えは君たちという存在を考慮すれば、自ずと導き出される――」

 くいっと親指で指し標す先にあるのは……武装神姫バトルの筐体?

「今から神姫バトルをしてもらう。ここから先の話はその後にしようじゃないか」

 なるほど、ようやく話が読めた。ようするにこれからチカと耕一が試合をして、勝ったら方法を教えるって言いたい訳か。

「試合……ですか?」

「そうさ。私が用意した相手とこれから戦ってもらう」

 耕一とチカを見下ろすように、神楽さんは不敵に笑う。

「もっとも辞退するなら止めないけどね。しかしその場合、この話はなかったことにさせてもらうがね」

 今後同じように神楽さんを頼っても、次は協力してくれないって意味だろう。チカの夢を叶えるには、チャンスはこれっきり。ここで頑張るしかないってことになる。

「分かりました。……やらせてください」

 緊張に固まる場に、小さいが強い意志を持った声が響く。耕一の手に乗ったチカが、決意を込めた眼差しでみんなを見渡す。その目が耕一と真っ直ぐに向き合う。

「チカ……」

「やらせてください、ご主人様。私、頑張りますから」

 耕一とチカが見詰め合う。しばらくして「分かりました」と耕一は顔を上げる。
 パンッと手を叩き、神楽さんが声を張り上げる。

「オーケイ、対戦カード成立だ。君たちの意志の強さ、見せてもらうよ」

 筐体に歩み寄り、シートに片手をついてこちらを向く。神楽さんは人を食ったような笑顔。まるでチャシャ猫だ。
優雅な仕草で指を「パチン」とひとつ、鳴らす。その仕草に合わせて、バトルスポットに一体の神姫がスッと舞い降りた。

「では紹介しよう。彼女が君たちを試す調停者、今回の対戦相手だ」

 神楽さんの宣言と共に、蒼い髪をかき上げるその小柄な姿に、シュンはあっと声を上げそうになった。

「――ゼリス?」

 慌ててバックを除いてみると、そこはもぬけの殻だった。

「いいい……いつの間に? いや、それよりなんでお前がっ?」

「……ゼリスちゃんは神出鬼没なのです」

「いやいやいや、それ全っ然意味わかんないしっ!?」

 口をパクパクさせるシュンを無視して、ゼリスはチカをビッと指差した。

「ということでチカさん。ここから先に進む道を得たいのならば、私を倒してからにしていただきましょう」

「さあ、そういうことだよ諸君。せいぜい頑張ってくれたまえ、ははははははは」

 神楽さんとゼリスは声を合わせて笑う。心底楽しそうに笑う神楽さんに、明らかに棒読みの作り笑いなゼリス。……はっきり言って全然息があっていない。それが逆に怖い。

「どういうことなのよ、シュッちゃん」

 そんなのはこっちが教えて欲しい。しかもふたりとも目がマジだ。

「……ゼリスさん」

 意外なゼリスの登場に動揺していたチカも、状況を飲み込みキッとゼリスを正面から見つめ返す。
 もう認めるしかない。ゼリスとチカ、ふたりは互いに友だち同士で武装神姫バトル対決を行うのだ。
 ふと気がつけば、センター屋上のガラス窓から見える景色は雨に包まれていた。

 ――ゼリスの奴、チカに反対していたけど、まさかこうも明らさまに邪魔をしてくるなんて……。くそっ、もう勝手にしろっ。














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