誇り──あるいはちょっとした挑戦(後半)
物の十分もしない内に、周辺は予想以上の騒ぎとなっていた。曰く、
『あの香田瀬に隠し子が居た』だの『実は浮気までしていた』だの。
そんな私達と、私刑場に引きずり出されるが如き香田瀬を見ようと、
僅かでも暇を持っている社員全てが、その視線を一点に向けている。
青ざめた顔で香田瀬がやってくるのに、そう時間は掛からなかった。
……にしても、広大な敷地なのに集合が早いな。香田瀬も野次馬も。
『あの香田瀬に隠し子が居た』だの『実は浮気までしていた』だの。
そんな私達と、私刑場に引きずり出されるが如き香田瀬を見ようと、
僅かでも暇を持っている社員全てが、その視線を一点に向けている。
青ざめた顔で香田瀬がやってくるのに、そう時間は掛からなかった。
……にしても、広大な敷地なのに集合が早いな。香田瀬も野次馬も。
「あ、晶ち……さん、いきなり乗り込んでくるなんて。しかも、それ」
「何か文句あるか?こちらとて本気なのだ。それに、アポは取った筈」
「た、確かに……とりあえず一課の研究棟に!あーもう、散れ散れッ」
「ふふん。子供だと侮る貴様に、それなりの報復をしてやったまでよ」
「何か文句あるか?こちらとて本気なのだ。それに、アポは取った筈」
「た、確かに……とりあえず一課の研究棟に!あーもう、散れ散れッ」
「ふふん。子供だと侮る貴様に、それなりの報復をしてやったまでよ」
そう、私とて自分の容貌と性格位は承知の上だ。なればそれを逆手に、
香田瀬をハメる位の事は出来る。今後暫く、奴めが酒宴の席などで何を
言われようとも、私には何のダメージも及ばない。胸が空く思いだな。
そして案内された建物の会議室には……女子高生の様な女性が、一人。
なるほど、外見だけに囚われない物言いはこの女性が養ったと見える。
香田瀬をハメる位の事は出来る。今後暫く、奴めが酒宴の席などで何を
言われようとも、私には何のダメージも及ばない。胸が空く思いだな。
そして案内された建物の会議室には……女子高生の様な女性が、一人。
なるほど、外見だけに囚われない物言いはこの女性が養ったと見える。
「というわけでだ、依頼されたインナー三種に服飾三種が完成した」
「図面を先に送ってくれてもよかったのに、一体どうしたんです?」
「その科白は、これを読んでから言ってもらおう。自慢じゃないが」
「……どれどれ……見せてもらいます………………えっと、えっと」
「図面を先に送ってくれてもよかったのに、一体どうしたんです?」
「その科白は、これを読んでから言ってもらおう。自慢じゃないが」
「……どれどれ……見せてもらいます………………えっと、えっと」
ばさ……と会議用のテーブルに投げ出した設計図面に、二人が目を通す。
ポシェットに折り畳んで入れてきた事を考慮しても、プリントアウトした
“暗号”が何の説明も無しに読めるとは思っていない。他人に見せる事を
敢えて前提としていない、直感を優先した書き方だからな。案の定……。
ポシェットに折り畳んで入れてきた事を考慮しても、プリントアウトした
“暗号”が何の説明も無しに読めるとは思っていない。他人に見せる事を
敢えて前提としていない、直感を優先した書き方だからな。案の定……。
「……あの、これ……とてもじゃないけど……読めません、晶さん……」
「そうだろう?だから、実物を見せるついでにとな……ふむ、部長か?」
「………………斗小野水那岐と、言います……よろしくね、晶さん……」
「宜しく頼む、水那岐。これが図面データの入ったディスクだ、香田瀬」
「へぇ。いきなり呼び捨てなんて、流石は晶ちゃ……おっと、危ないッ」
「そうだろう?だから、実物を見せるついでにとな……ふむ、部長か?」
「………………斗小野水那岐と、言います……よろしくね、晶さん……」
「宜しく頼む、水那岐。これが図面データの入ったディスクだ、香田瀬」
「へぇ。いきなり呼び捨てなんて、流石は晶ちゃ……おっと、危ないッ」
閉口する香田瀬の横で、水那岐部長はそそくさと図面を仕舞い込んだ。
僅かな所作でも、彼女が見かけに依らぬ切れ者というのは予想が付く。
斗小野の関係者が役員でなく、敢えて“部長”の椅子に座っているのも
ただの趣味だけで続けられる事ではない……この女性は気に入ったぞ。
苦い顔の香田瀬に促され、私は席に着く。“妹”達もテーブルの上だ。
僅かな所作でも、彼女が見かけに依らぬ切れ者というのは予想が付く。
斗小野の関係者が役員でなく、敢えて“部長”の椅子に座っているのも
ただの趣味だけで続けられる事ではない……この女性は気に入ったぞ。
苦い顔の香田瀬に促され、私は席に着く。“妹”達もテーブルの上だ。
「で……実物って言ってたけど早速見せてもらえるかな、晶さん?」
「貴様の目は節穴か?目の前に“三着”揃えてあるだろうが、ほれ」
「え?……え!?ひょっとして、ロッテちゃん達のこれがです!?」
「そうみたいだよお兄ちゃんっ。ほらインナーも企画通りの型だし」
「きゃ、きゃああああっ!?スカートめくらないでください~!?」
「貴様の目は節穴か?目の前に“三着”揃えてあるだろうが、ほれ」
「え?……え!?ひょっとして、ロッテちゃん達のこれがです!?」
「そうみたいだよお兄ちゃんっ。ほらインナーも企画通りの型だし」
「きゃ、きゃああああっ!?スカートめくらないでください~!?」
香田瀬の服から出てきたマオチャオ……にしては頭身が大きめだが……に
黒いスカートをめくられ、狼狽するアルマ。う、ううぅむ……可愛いッ!
って、感心している場合ではない。そうだ、このマオチャオは香田瀬めが
交渉に来た時、同行していたユキという神姫だ。慌てて、彼女を止める。
黒いスカートをめくられ、狼狽するアルマ。う、ううぅむ……可愛いッ!
って、感心している場合ではない。そうだ、このマオチャオは香田瀬めが
交渉に来た時、同行していたユキという神姫だ。慌てて、彼女を止める。
「は、はぅぅ……ユキさんいきなりだから、ビックリしました……」
「慌てないでおくれユキとやら。これからちゃんと見せるつもりだ」
「は、はーい。えっと?皆が着ている服が、試作品でいいんです?」
「そうだ。ロッテとクララも、見せてやるといい。ほら、アルマも」
「はいですの~♪まず……わたしの服はテーマが“躍動”ですの♪」
「……わたしの?神姫さんも、デザインに……加わったんですか?」
「慌てないでおくれユキとやら。これからちゃんと見せるつもりだ」
「は、はーい。えっと?皆が着ている服が、試作品でいいんです?」
「そうだ。ロッテとクララも、見せてやるといい。ほら、アルマも」
「はいですの~♪まず……わたしの服はテーマが“躍動”ですの♪」
「……わたしの?神姫さんも、デザインに……加わったんですか?」
私達は揃って水那岐部長に肯く。ロッテのそれは、薄く明るい橙色と青を
ベースにデザインした、キュロットスカートとジャケットを軸とする姿。
帽子とコードタイもあまり派手過ぎてはいない、スポーティーな服装だ。
と言っても、基本的なデザインは“Electro Lolita”そのままである為、
随所に施した装飾に、少女趣味とも言える私の嗜好が詰まっているがな。
ベースにデザインした、キュロットスカートとジャケットを軸とする姿。
帽子とコードタイもあまり派手過ぎてはいない、スポーティーな服装だ。
と言っても、基本的なデザインは“Electro Lolita”そのままである為、
随所に施した装飾に、少女趣味とも言える私の嗜好が詰まっているがな。
「で、インナーが……んしょ、これですの♪スパッツとソックスに」
「手袋と……上はベストですか?薄い紺色の素材に、レース模様?」
「有無。形状の制約があるので、本当のレース加工は使わなんだが」
「それでも、パターン化した表装印刷でここまで誤魔化せましたの」
「手袋と……上はベストですか?薄い紺色の素材に、レース模様?」
「有無。形状の制約があるので、本当のレース加工は使わなんだが」
「それでも、パターン化した表装印刷でここまで誤魔化せましたの」
インナー姿を披露するロッテと入れ替わる様に、クララに押し出されて
香田瀬と水那岐部長の前に出てきたのは、真っ赤になっているアルマ。
黒と朱色をベースとした、フリル満載のドレスなのだ。先程、ユキ嬢に
めくられて見えたインナーは、灰色を基調としたランジェリータイプ。
恐る恐るスカートをたくし上げ、皆に見せるアルマ。鼻血が出そうだ。
香田瀬と水那岐部長の前に出てきたのは、真っ赤になっているアルマ。
黒と朱色をベースとした、フリル満載のドレスなのだ。先程、ユキ嬢に
めくられて見えたインナーは、灰色を基調としたランジェリータイプ。
恐る恐るスカートをたくし上げ、皆に見せるアルマ。鼻血が出そうだ。
「あたしは……よ、“妖艶”がテーマなんです……インナーは、その」
「……ランジェリータイプ……だから、恥ずかしかったんですね……」
「は、はいっ。あの、インナーは……もういいですか、水那岐さん?」
「……ガーターベルトオプションまで、ありますね……あ、いいです」
「あ、有り難うございましたぁ~……って、わわっ、ユキさんッ!?」
「緊張しすぎはよくないよ?ささっ、肩の力抜いて~。ほらほら……」
「……ランジェリータイプ……だから、恥ずかしかったんですね……」
「は、はいっ。あの、インナーは……もういいですか、水那岐さん?」
「……ガーターベルトオプションまで、ありますね……あ、いいです」
「あ、有り難うございましたぁ~……って、わわっ、ユキさんッ!?」
「緊張しすぎはよくないよ?ささっ、肩の力抜いて~。ほらほら……」
ユキ嬢に連れて行かれたアルマを横目に、クララが進み出る。彼女は、
白とワンポイントに翠色を用いた、パニエ入りのスカートとブラウス。
その上からベストとリボンを装備した、御嬢様系統のスタイルなのだ。
クララのそれは、ハーフカバー型の実験でもある。従って、ブラウスと
一見ストッキング風のパンツ……そしてブーツ類は、実はインナーだ。
勿論其方も、袖や太腿・腕などのワンポイントにはフリル模様がある。
白とワンポイントに翠色を用いた、パニエ入りのスカートとブラウス。
その上からベストとリボンを装備した、御嬢様系統のスタイルなのだ。
クララのそれは、ハーフカバー型の実験でもある。従って、ブラウスと
一見ストッキング風のパンツ……そしてブーツ類は、実はインナーだ。
勿論其方も、袖や太腿・腕などのワンポイントにはフリル模様がある。
「ボクのテーマは“貞淑”。犬型のハウリンが、敢えて挑戦したんだよ」
「へぇなるほど。あの時みたいに大人しい娘で可愛いね、クララちゃん」
「あの時?何の話だ、クララと貴様は初対面だろう香田瀬……まさか!」
「お、落ち着いて晶ちゃん話せば分かる、ってぶごはぁっ!?……ぐぅ」
「……不用心過ぎだよ、お兄ちゃん。あのね晶さん、実はあの時に……」
「へぇなるほど。あの時みたいに大人しい娘で可愛いね、クララちゃん」
「あの時?何の話だ、クララと貴様は初対面だろう香田瀬……まさか!」
「お、落ち着いて晶ちゃん話せば分かる、ってぶごはぁっ!?……ぐぅ」
「……不用心過ぎだよ、お兄ちゃん。あのね晶さん、実はあの時に……」
怒れる私に、アルマを連れて戻ってきたユキ嬢が説明する。既に彼らが
“梓”の正体を掴んでいた事。膝蹴りを浴びてノビている香田瀬めが、
何故私が完成度の高いHVIFを保有しているのか、気にしていた事。
……確かに、見る者が見れば誤魔化しきれる事柄でもないか。香田瀬は
復活しそうにないので、信頼出来る水那岐部長に打ち明ける事とする。
“梓”の正体を掴んでいた事。膝蹴りを浴びてノビている香田瀬めが、
何故私が完成度の高いHVIFを保有しているのか、気にしていた事。
……確かに、見る者が見れば誤魔化しきれる事柄でもないか。香田瀬は
復活しそうにないので、信頼出来る水那岐部長に打ち明ける事とする。
「……そう、だったんですか……依頼を受けて、試用……三人で……」
「そう言う事だ。手伝いの役に立つのは事実だが、それだけではない」
「色々大変なんだね、アルマちゃん達って。大丈夫、内緒にしとくよ」
「あ……香田瀬さんには言っても良いですよ。気付かれてますしね?」
「そう言う事だ。手伝いの役に立つのは事実だが、それだけではない」
「色々大変なんだね、アルマちゃん達って。大丈夫、内緒にしとくよ」
「あ……香田瀬さんには言っても良いですよ。気付かれてますしね?」
それにしてもアルマとユキ嬢の二人、短時間で随分と仲が良くなったな。
着衣の乱れ等は一切ないが……果たして目を離した隙に何があったのか。
これも神姫ならではの“シンパシー”という奴なのかもしれんな。有無。
着衣の乱れ等は一切ないが……果たして目を離した隙に何があったのか。
これも神姫ならではの“シンパシー”という奴なのかもしれんな。有無。
「試作はこれで一応全部だけど、何か問題があれば教えてほしいもん」
「……香田瀬君が、後で起きたら……みんなで、検討しますね……?」
「分かりましたの~♪なら、國崎の色々な物を見せてほしいですの♪」
「……香田瀬君が、後で起きたら……みんなで、検討しますね……?」
「分かりましたの~♪なら、國崎の色々な物を見せてほしいですの♪」
──────私の仕事と誠意……“誇り”は、皆に伝わったかな?