第7話 「隻脚」
俺がルーシーの存在をちょっと意識してからさらに数日後、お待ちかねの補助シリンダーが到着。 口には出さないが、コイツもワクワクしているようだった。
さっそくバリバリとダンボールを開いてみると、梱包材に埋もれるようにして不透明なプラスチックの箱が入ってた。
……そういやネットにもシリンダーそのものの画像はアップされていなかった。 公式ライセンス商品だってんで疑う事もなく買ったけど、現物を見るのはこれが初めてだ。さて何が出るやらと開けてみると……
バッタの足が入ってた。
「うぁキモチ悪っ」
反射的に箱ごと投げ捨ててしまったが、フローリングの床にぶつかる寸前にルーシーがダイビングキャッチ。
「何してるんですか何やってるんですかまったくもー!」
「いやナニって」
「注意書きがあるんですから、ちゃんと目を通してください!」
プンスカ怒りながら彼女が差し出したのは、『非常に小さなパーツですが精密機械ですのでお取り扱いには注意を云々』みたいな事が書いてある小さな紙切れだった。
……が、俺はこういうのに注意を払わない性格なので無視。
「だってお前それキモーイ」
さすがに本物でこそないが、見れば見るほどリアルすぎる。
ガキの頃によくイタズラして遊んだゴムのおもちゃみたいなチャチなのじゃなく、まるで本物からむしって来たみたいな感じだ。 つか『武装神姫』のイメージと全然違う気がすんだけどな。
ルーシー自身も間近で見たそのリアルな造形に一瞬動揺したようだったが、何とか平静を保つ。
「……外見はともかく、性能はまともなはずです」
ネットショップに画像がなかったのも分かる。
こんなキモグロデザイン見たら買うヤツぁいない。
グズっててもしょうがないんで、イヤイヤながら補助シリンダー(という名のバッタの足)デカ足に装着してやる。
つっても細かいチューニングなんかはルーシー本人が自分でやると決まってたんで、俺の仕事はこれでおしまい。
ヒマなのでちょいとお茶の準備でもしようかと立ち上がった所に、本日2度目のインターホン。カメラモニタを見ると、さっきのとは別の運送屋だった。
ハンコを押して受け取った小さな箱には『武装神姫初回登録記念粗品』とある……あぁ、そーいえば何だかパーツ1個サービスしてくれるんだっけ。
部屋に戻ると、既に調整が終わったらしいルーシーが笑顔で出迎えてくれた……ちくしょう、なんかいいなぁこういうの。
「何ですかそれ?」
「登録した時のサービスだとさ。 開けてみ」
テーブルに置いた箱を嬉しげに眺め、俺とは逆でそっと静かに開封していく。 こういう所も女の子って感じなのかねぇ?
顔がニヤケそうになる反面、またイヤガラセみたいなデザインのアイテムだったら速攻で送り返してやろうと思っていると、「あっ」という声と共にルーシーの顔が綻んだ。
続いて嬉しげな旋律で言葉が流れ出す。
「見てください、『カロッテTMP』ですよ。 基本装備のリボルバータイプ・ヴズルイフの弾数には不安があったのでこれは幸運というべきでしょうね。 あまり高価な品ではないですがコンシールド性に優れたスタイルに加えて小型ながらも赤外線スコープにスライドストックが付いてますから、ライフルほどではなくともある程度の精密射撃が可能です。 もちろん弾数はハンドガンとは比べ物になりませんから牽制にも充分使えます」
……いっくら綺麗な声で歌みたいに滑らかだって、まさしくマシンガンさながらに喋られちゃ聞いてるだけで疲労が溜まる。
しょうがないのでこっちは「へーそーなんだーすごいねー」とかテキトーに相槌。
だからマニアトークは苦手なんだってば…くそ、俺の淡いトキメキを返せ。
そんなこんなで一応カタチは揃った。
装備はほとんど基本のまんまだが、最初持ってたリボルバーは今回手に入ったサブマシンガンに変更。
そして左足は予定通り素体のままで、右のデカ足に添えている。 角度によっちゃ足が1本しかないようにも見えて、妹の「古今(中略)辞典」に載ってた『カラカサオバケ』とか『イッポンなんとか』みたいな感じだ。
リアルなバッタの足がくっついてる事もあって、ヨソのサイトで見るカスタムタイプに比べると正直言って不恰好かなとも思ったが……本人に気にした様子はない。
ま、コイツが気に入ってくれるのが一番か。
……ホント、今の俺って骨抜きだ。