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幻・其の二 - (2007/02/26 (月) 21:40:24) のソース
・・・・・・行かなきゃいけないのかなあ。 夏休み初日、僕は起きてからずっと迷っていた。 昨日は梓に押し切られ、会う約束を取り付けられてしまったが、やはり気が乗らない。人とはあまり関わりたくないし。 その一方で、久しぶりに同年代の子と話せるという楽しみもあったし、学年内でも人気の梓と、「武装神姫」という秘密を共有している嬉しさも、あった。 ・・・・・・どうしようかな。 「あの・・・・・・」 そんな具合で考えていると、ネロに声をかけられた。 「やはり迷惑ですし、断りの連絡を入れましょう」 最初は同意した。けれど、少し考えている内に、なんとなく、違う気がしてきた。 「・・・・・・そうやってまた、今までみたいに、あんなふうに生きていくの?」 あの時見た、ネロの姿を思い出す。 「ええ、慎一や他の方々に、迷惑をかけるわけには・・・・・・」 「そんなの認めない」 彼女の言葉を遮って、僕は言った。 「少なくとも、僕は迷惑だなんて思わない。それよりも、君があんな目に遭っていることの方が、僕には我慢できないよ」 「し、しかし・・・・・・」 いったい何が僕を衝き動かしたのか、とにかく僕はネロを説き伏せ、梓との待ち合わせ場所であるセンターへ向かった。 「あ、おはよー、星野くん」 「う、うん。おはよう」 ・・・・・・しかし、開店直後に待ち合わせというのはいかがなものか。 「紹介するね、この子はミナツキ」 「はじめまして。以後、お見知りおきを」 梓の肩の上で、猫型の神姫がぺこりとお辞儀をした。 「あ・・・・・・、こ、こちらこそ」 「ネロです。どうぞよろしく」 ・・・・・・なんか調子狂うなあ。 とりあえず、出掛ける前にネロから聞いた話をいくつか、した。 彼女のメモリにはブロックがかかっており、人間でいう「記憶喪失」みたいな状態になっているらしい、ということ。 もともとのマスターが行方不明になったのが、半年前――僕はこの半年前という言葉に、奇妙な引っ掛かりを感じていた――ということ。 「ふうん・・・・・・。製造番号とか、登録ナンバーとかで、何かわからないかな?」 「うん、それも考えたんだけど・・・・・・」 身体に刻まれている製造番号は削れてしまっていたし、登録ナンバーも、彼女のアクセスコードがわからないから調べることができなかった。 「うーん・・・・・・」 梓が唸っていると、 「あれ? 梓ちゃん、珍しいね」 と、男性の声がした。 「あ、修也さん」 事情を聞いてくれたその男性――上岡修也さんは、梓の従兄らしい。 「なるほど・・・・・・。そりゃあちょっと、複雑な問題だな」 そう呟いて、修也さんは携帯電話を取り出すと、どこかに電話を掛けた。そして、 「よし、これでとりあえず、不法所持の問題はなんとかなる」 と言った。 その夜。僕のパソコンに、一通の添付ファイル付きメールが届いた。差出人を確認すると、梓からだった。携帯を持っていない(というか持ちたくない)僕は、別れ際に彼女にパソコンのメールアドレスを教えておいたのだ。・・・・・・どちらかというと、教えさせられたと言った方がいいかも知れない。 「あれ・・・・・・?」 しかし読んでみると、文面は修也さんのものだった。 添付ファイルのプログラムを、ネロにインストールしろという内容。 当面、周りの目をごまかすための、偽造データとのことだった。 「ネロ、どうする?」 僕は聞いた。 「・・・・・・インストールします。それで少しでも、慎一達の負担が減るのでしたら」 「そんなこと・・・・・・、考えなくていいよ」 「・・・・・・すみません」 ・・・・・・これは、所詮偽物でしかない。でも、今の僕とネロをつなぐ、たったひとつの綱のように思えた。 [[幻の物語]]へ