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 ―PM:15:12 March XX. 203X.
 ―North Passage, 2F.
 
(「爆弾そのものの殺傷力を考えれば巻き込めるかもしれないが、確実ではない……)
 烈風が五つ目の制御装置を解除して次の爆弾を探しに行く途中、ミラは『皇帝』の解体の時に聞いた連山の言葉がずっと引っかかっていた。
 『皇帝』の逆位置に皮肉の意味を込めているのなら何故、鳳条院グループ会長の席に仕掛けなかったのだろうか。それとも、その鶴畑コンツェルンが見立てにふさわしいと『アルカナ』は考えていたのだろうか。
「…おい、ミラ」
(「どう言う人物か知らないが、鶴畑も『アルカナ』に狙われているのか? だが、『アルカナ』は知る者のみ知る凶悪犯。鶴畑以外の誰にも、この大会との関連を悟られる訳にはいかない」)
「コラ、聞いてんのか?」
 苛々して烈風が小突くが、ミラは考え事に夢中だった。
(「爆弾の設置箇所からして、4と言う数字に見立てたものとは考えられない。やはり、逆位置の意味をそのまま見立て、要は自業自得だった……そんな馬鹿な、見立てとして『皇帝』に最も相応しいのは兼房様の筈だ。だがそれを否定された以上、怨恨の線も考えた方がいいかもしれないな……」)
「いい加減にしやがれっ!!」
 首筋が強烈に痛む。烈風の膝と脛の二段蹴りが決まったようだ。ミラは思わず蹲った。
「痛たた…悪かった烈風」
「考え事ばっかしていると肝心な事を見落としちまうぜ?」
 烈風は空中で羽ばたきながら、胡坐をかいて呆れかえっていた。
「そうだったな。『女帝』に『皇帝』と続けば、その子供の『戦車』だ。カードに込められた意味を曲解しても場所として当てはめるのは困難だ。戦いと関係のある場所に無ければ、恐らく親二人がいた位置と関係するかもしれない」
「放送室と賓室のその間…とかってオチじゃねぇの?」
 埃を払いつつ起き上がったミラの肩に着地しながら烈風は言った。
「そうだとすると、壁の中に爆弾がある事になる」
「んじゃ、地下か上の大体その辺りとかって」
「その線も厳しいな。上はそのままドームになっているし、地下も見取り図に従えば通路に……いや待て、地下か」
 ふと何かが思い立ったらしく、ミラは地下へ降りる為の非常口を探し出した。
「な、何だよ急にっ!?」
「『女帝』が3、『皇帝』が4。カードの意味としてもっとも近しいものを意味するならV.B.B.S.筐体だ。無論、午前中に調べたからそこには無かったが、その地下にはV.B.B.S.筐体の管理室がある」
 言いながらミラは非常階段を下りる。
 その途中で烈風が、
「ミラぁ…オマエやっぱ、頭の中に地図でも埋まってんじゃねぇか?」
「もの覚えの問題だ。それに、覚えれば良いだけの事をいちいち所持していたら、唯の荷物だろう」
 半ば呆れる烈風と、確信を持ったミラだった。
 
 
   ANOTHER PHASE-05
                『TaxingDismantling』
 
 
 ―PM:15:23 March XX. 203X.
 ―V.B.B.S. Control Room, B2F.
 
 先の賓室よりは融通の聞く警備員だったお陰で、ミラは入室を許可された。
 あちこちの制御用コンソールが電源が入ったまま放置されていたが、現在は無人だった。恐らく、全ての予選試合を終えてから関係者が入ってくるのだろう。
 明日からは、ミラの提案により試合を進めながら、ここのコンピューターより試合中のV.B.B.S.筐体に潜入しなければならない。それに関しては、桜が話を付けてくれている事だろう。
「予選リーグの終了が迫っている。それとここには、『正義』もあると推測しているが、先ずは『戦車』から探そう。尚、『戦車』発見後は連山のみ撤退し、『正義』の探索を進める。大体の目処はついているがな」
 ミラはトランクを開け、既に準備を整えた震電と連山の二体を出した。
「……了解、天井部より見下ろし探索を開始する」
「ふみゅぅ? 連山だけ違うの~?」
 疑問の声を挙げてみたが、ミラがそうしろと言うのだから従うしかない。
 烈風ら三体はそれぞれ分かれ、部屋中の探索に移った。
 
 部屋は多数のサーバーが立ち並んでいた。よりリアルで質感のあるVRフィールドを創造する為のサーバーに、より正確に勝敗を判定する新型ジャッジ、VRフィールドで戦う神姫を様々な角度からリアルタイムで映し出すカメラワーカー、現実世界に存在する武装の再現。主なところでこれらのシステムは、一つとして欠いてはならない。
 ゴーグルの機能をフル活動させ、天井より探索していた震電は、あるサーバーの下部に不自然に光る金属のプレートを見つけた。8×4mm四方のそれは見慣れたものだった。震電は傍にまで降りていくと、すぐにミラに連絡を入れた。
「……『THE CHARIOT』のカードを確認。逆位置と見られる」
『…となると、暴走・衝突・挫折と言う意味となる。爆弾は見つかったか?』
 どこからか、殺気と言うべき不穏な気配が漂ってきた。
 ”フレスヴェルグ”を天井付近に待機させつつ左手をLP4にかけながら、震電は報告を続けた。
「……陰に確認。人間の目から見てほぼ死角となる」
 近い。いや、近づいてきている。
 サーバーを背に、震電は身構えて備えていた。通信機越しのミラの声は聞こえていない。
『上出来だ、すぐに烈風を呼集せよ。見立てに拘っているとするなら……』
 ミラがそう言いきる前に、震電は既に回避行動に移っていた。黒い影をした何かが明らかな敵意を持って襲い掛かってきたのだ。
「……!?」
 それはどうやら、プチマスィーンズを過剰に改造したもののようだった。
 そして現れたのは、見た事のないタイプのMMSであり武装神姫ではなかった。もう一体の、白いプチマスィーンズのようなメカを連れており、先程襲い掛かってきたのと同タイプだと推測した。
(「…銃器らしきものは非所持。周囲へのダメージを考慮したか?」)
 だが、『戦車』が持つ王杖のような武器は、かなりの質量を誇るのが目に取れる。どのような動きをしてくるか分からないが、まともに受けたら唯では済まない。
「……くっ、またか!」
 目の前の『戦車』ばかり見つめていたら、黒い影がまた襲い掛かってきた。『戦車』を護衛する様に位置する白いメカとは異なり、かなり好戦的な性格なようだ。
 震電は黒いメカのタックルを寸前のところで回避する。
 その時、
 
『おぉ、まだ生き残ってやがったか。助けに来てやったぜ』
 
 遥か上空から烈風の声が聞こえてきた。助けに来たと言う割には、未だ上で羽ばたいてホバリングを続けていたが。
 烈風がいる方を見向きもせず震電は、
「…私はここを凌ぐ。烈風は爆弾本体を探せ」
「へっ、ありがちな台詞だな。嫌いじゃないぜ、そういうの!」
 と言い残し、烈風は風きり音と共にサーバーの隙間へ抜けていった。
(「……この『戦車』、間違いなく爆弾本体と連動している…!」)
 右手にもLP4を携えた。だが、セーフティはかけたままだった。二丁のLP4による格闘だけで凌ぎ、様子を見るしかなかった。
 暫く、震電と『戦車』は互いに見詰め合っていた。『戦車』はゆっくりと迫り、震電はLP4をトンファーのように構えながら一歩も動かずに。
 そして、『戦車』が黒メカと共に襲い掛かってきた……!!
 
 一方、ミラはアクセスポッドに連山を招いていた。その近くには、上下逆さまの『正義』の小さなカードが逆さまに取り付けられていた。
「始まったか。こっちも終わらせないとな」
「えっ、コンピューターの世界にあるの~?」
 この手のポッドは筐体に付いているものだが、想定外或いは不慮の事故に備え第三者の介入の必要性を求めた結果がこのアクセスポッドだった。
「『正義』とはバランスのとれたものでなければならない。厳粛なルールの下で行なわれるバトルの世界で正しくあらねばならぬものは、勝敗の判定だ。即ち、ジャッジ判定システムに起爆プログラムが仕込まれている可能性が高い」
 物凄い速度でキーボードを打ちながらミラは応答した。V.B.B.S.筐体のシステムに連山を適合させる為に、無数の情報を書き換えていたところだった。
「それじゃ~ジャッジ判定システムが入っている~コンピューターそのものに~仕掛けられていないの~?」
「これだけのサーバーのどれに、何の情報が詰まっているかなんて、一目見て分かる人間はごく僅かだ。まぁ、それ以外の情報も詰まっているだろうから、『アルカナ』の見立てを厳守するには、プログラムに直接仕込む以外に方法はない。さて、準備が整ったから連山、気を引き締めて掛かってくれ。連絡は通信ユニットを使えばリアルと同様にコンタクトが取れる様になっている」
「ふみゃっ、それじゃ~いってきま~す~♪」
 アクセスポッドのシャッターが閉じ、連山はV.B.B.S.の管理システムに接続した。
 
 烈風は爆弾を発見し、蓋を外して内部を露出させたのだが……。
「な、何だこりゃ?」
 驚くのも無理はない。白く塗られたダイオードと黒く塗られたダイオードがそれぞれ7個ずつ平行に並んでおり、その中心にシンプルなスイッチと緑色のランプがあっただけなのだ。それ以外に配線らしい配線類は全く見当たらない。
 『戦車』と交戦しつつ、震電が叫んだ。
「…迂闊に触るな。こいつと爆弾の制御装置はシンクロしている」
「は? じゃあどうすりゃいいんだよっ!?」
 振り下ろされた王杖を、真横へ最小限の動きで避ける。
「……『戦車』の戦い方と、そっちの制御装置がどのように連動しているか判別しろ」
「んな事言われ…おっ、何か黒いランプが一つ点いたぜ?」
 烈風はきょろきょろと震電と制御装置の両方を見据えた。
「…『THE CHARIOT』の戦車を引く二頭の動物は白と黒の二色。白は乗り手の正しい意思を表し、黒は欲望を意味する……っと。カードが逆位置だった事を考えれば、黒いランプの点灯が解除の鍵を握るのではないかと思う」
 『戦車』と白と黒のメカによる攻撃は比較的単調なものであり、避けるのはさほど難しくはなかった。だが、一度に襲い掛かられては流石に手を焼かせられる。
「黒いランプかよ。震電、何だかオマエ、ミラに似てきてねぇか?」
「…知るか。いいから動きを……!!」
 震電が『戦車』の背後を取り、銃口部で打ちつけようとするが白メカに阻まれてしまった。
「おい、今度は白いのが点いたぜ! お前がそいつを殴った瞬間にだ」
 数回のバック転をこなし、震電は『戦車』と距離を取る。
「……それが確かなら、この白黒のメカが大きく関係している可能性が高い。試しに黒いのを殴りつけるから、装置との連動を確認しろ!」
 と言いながら、襲い掛かってきた黒メカに対し、寸前で避けながらグリップの底で叩き落した。致命的なダメージでは無いようにかなり手加減したつもりだ。
 すると、烈風の口から感嘆の声が漏れた。
「っと、確かに点いたな。黒いのは後四つだぜ」
「……本当か。なら、黒いのが全て点いた時にスイッチを作動させれば…!」
 黒メカを優先的に狙っていけば、何とか条件を満たす事は出来る。だが、『戦車』自身も常に襲い掛かってくる為、思い通りに狙うのは難しかった。すれ違いざまに白メカが襲い掛かるのを、左手のLP4の銃身で弾き飛ばした。
「おいコラ! 白いのが一つ点いたぜ!!」
「…回避の為だ。文句を言うなら、一度交代してみるかっ!?」
 半ば叫びながら、同時に襲い掛かってきた黒メカを蹴り飛ばした。
「ハッ、遠慮しといてやるよ。ほれほれ、後三つだぜ~」
 震電は格闘の立ち回りがそれほど上手くなく、烈風はそれをよく知っていて態と言っていた。
 
 震電の苦戦と平行しつつ、ミラと連山は……。
「連山、私の指示通りに進め。ジャッジシステムまで後僅かだ」
『ふ~にゅ~無重力のVR空間を~飛び続けているみたいで~なんか気持ち悪いよぉ~』
 と文句を零しつつも、連山は擬似的にVRフィールド化した世界を飛んでいた。ミラが次に行くべき道を指し示してくれる為、迷う事はないのだが…。
『みゅぅ~……アレ?』
「どうした?」
『へんてこな天秤を発見~っ!』
 連山が指を指し示す方に、ミラもスクリーンを移動させた。判定を為すプログラムの集合体の傍に、古風な天秤の様なものがあった。どう言うわけか均等になっておらず、右側の受け皿に剣が置かれ右側に倒れこんでいた。
『近づいても~大丈夫だよね~?』
「そうだな……いや待て! すぐにミラージュコロイドを!」
 ミラはコンソールの隅に移るそれを見て、慌てて指示を下す。
『えっ、は、はいな~っ』
 すぐに連山が姿を消すと同時に、
 
 『プル軍曹・ダメージレベル4超過、戦闘不能判定。勝者、ロッテ』
 
 ジャッジシステムが作動し、VR筐体にアクセスされる。そこには変わった装備の天使型MMSがいたが、すぐに元の擬似的にVR化したフィールドに戻った。まだ予選リーグは終わっていない。会場では明日の決勝リーグへの進出者を定める第四試合がまだ行なわれているのだった。
『……ほぇ?』
 スクリーンでは見えないが、確かに連山の声が聞こえた。
「迂闊だったよ…ジャッジシステムが機能すればVR筐体に反映する。『正義』の起爆プログラムは反映されていないようだが、君は何かしらの形で筐体に反映される」
『ど、どういうこと~?』
「連山がジャッジシステムに介入する事で、君自身がジャッジシステムの一つだとコンピューターに誤認される。そうなるとどうなってしまうか分からないが…もしかすると君の姿が、戦いを終えたV.B.B.S.筐体に反映され、いきなりVR空間に出現する可能性がある」
 試合を終えたと思ったら勝利判定と共に謎の神姫が現れる。その場にいる誰もが、エラーか何かによる怪現象と見て疑う事だろう。
『それで~ミラコロを使えば~…?』
「存在は反映されても、姿さえ消えていれば問題は無い筈だと賭けた。かなり分の悪い賭けだったがね。でも、ミラージュコロイドを使用しつつ喋らないようにしていれば、ジャッジシステムに影響される事なく作業を進める事が出来るだろう」
 対策さえ練る事が出来ればこれからは問題ない。だが、先程は明らかにミラの不注意だった。
『え、えっと~……』
「何も喋るな。ここからでも起爆プログラムを確認する事が出来る。連山は私の言葉に従えばいい」
『っ!?』
 うっかりまた返事しそうになり、連山はすぐに口を塞いだ。
 
 すれ違いざまに黒メカを蹴飛ばしつつ、銃身で『戦車』の動きを抑える。
 白メカが襲い掛かってくると同時にすぐに後ろに跳んで距離を取った。
「…烈風、どうなっているっ!」
 これで7回、黒メカを攻撃した筈だ。となれば制御装置の方も何とかなっている筈。
「確かに黒いのが7つ点いているけどよ、白いのが5つ点きっぱなしってのは微妙にあれじゃねぇか?」
「……何が言いたい?」
 再び襲い掛かってきた黒メカを避けつつ、グリップで叩き落した。震電は二つのメカの単純な動きはほぼ完全に見切る事が出来ていた。
 すると烈風が何かに驚き、
「おいっ、黒いランプが全部消えちまったぜ」
「…何?」
 予想外の報告だったが、震電は再度『戦車』を相手に慎重に立ち回る。先程のグリップで8回目の攻撃となる。即ち、超過するとリセットさせると言うことなのか?
 烈風はやむを得ず、震電のところまで羽ばたいてきた。
「もしかすると、白いのを全部消灯させつつ、黒いのは全部点けた状態でないと正しく解除出来ねぇって奴じゃねぇのか?」
 震電に襲い掛かる『戦車』を、烈風は頭部を蹴っ飛ばして転倒させた。
「そうだとするなら、白いのには3回、黒いのには7回攻撃を与える必要がある。『戦車』は私が相手し、烈風は黒いのを7回叩き、制御装置のところまで戻れ」
 起き上がってきた『戦車』が持つ王杖を、震電は遠くへ蹴っ飛ばした。『戦車』は遠くにいった王杖を拾い上げるべく駆け出した。
「おい…機転利き過ぎだぜ。それしか手が無いと言ってもよ」
 新たな敵を察知した黒メカは烈風に襲い掛かるが、簡単に掴まれてそのまま床に叩き伏せられた。
「手加減はしろ。壊れてしまったら元も子もない」
「へっ、ちょっとばかり虐めてやるのはボクの十八番だ」
 互いに背中合わせにし、それぞれの敵に立ち向かう準備を整えた。
 
『……?』
 通信ユニットに耳を当てながら、連山はそれに近寄りつつじっと見つめてみた。その天秤は、神姫が持つ刀剣類くらいの幅はあった。
「剣は正しい事と正しくない事を切り分けるもの。天秤はそれらを量るもの。カードに描かれている女性は、それらの量に応じて報酬或いは応酬を与える女神とされている」
『???』
 スクリーンに連山の姿は映ってはいないが、訳が分からず大いに悩んでいるに違いない。また、他のところの試合が終了し、ジャッジシステムが作動して一時的にVR筐体とアクセスされるが、姿の見えない連山に気付く神姫はいなかった。
「正位置なら天秤は均等であらねばならない。だが、逆位置の『正義』となると…不公平・一方的、そんな意味になる。先ずは、傾いた天秤を押さえたまま剣を手に取るんだ」
『…っ!』
 殆ど条件反射で返事しそうになる。どうやって意思の疎通を図ればいいのか、連山は少し悩んだ。
 天秤の右の受け皿から剣が取られる。錘を失ったにもかかわらず、天秤は右に傾いたままだった。
「傾けたまま現状維持、迂闊に手を離せば起爆する可能性が高い」
『!?』
 宙に浮いていた剣が微かにぶれたように見えた。
「正しい解体は、『正義』の逆位置を示す事だろう。現在も天秤が不均等を意味しているが、最初の状態となんら変わりない。それでだ、左に傾けてもう一つの不均等を示して欲しい」
 ミラが指示すると、天秤がカタンと左側に傾いた。それと同時に、天秤の近くに『CODE:GREEN』という表記が浮かび上がった。
「…やはりそれで解体された状態だと言うことか。その状態を維持したまま、剣を左側の受け皿に置くんだ」
 続けて剣が天秤の左側の受け皿に置かれた。
「よし、それで様子を見て……いや、もう一度押さえるんだ!」
 突然、『CODE:GREEN』の表記が消えた。
 言い掛けた途端に天秤が右に傾き掛かって、剣と言う錘を載せて均等になりかかろうとしていた。
『にゃっ!?』
 咄嗟に天秤を左側に押さえ込む。連山の素早い対応に、ミラは胸を撫で下ろした。
「馬鹿な……いや、その天秤は押さえつけなくとも勝手に右に傾く事が分かった。そこで強引にでも、左側に傾け続けさせる。天秤を傾けたまま、もう一度剣を手に取るんだ」
 天秤に置かれた剣が再度、宙に浮き上がって見えた。
「次に、その剣で右側の受け皿を支える糸を切断して天秤から切り離すんだ」
『…??』
 連山は言われたとおりに剣を持って、慎重に右側の受け皿を天秤から切り離した。
 すると切断された受け皿は、細かな情報の残骸の光の粒子となって消え去った。
「右の受け皿の存在そのものが不均等の証だったか。話が早い、その剣を左の受け皿に置き、様子を見て天秤から手を放してみるんだ。」
 剣が再び、左の受け皿に安置される。連山はゆっくりと手を放してみた。
『……』
「喋ってくれないと上手くいったか分からないな」
 天秤は左に傾き続けたままだった。実際に手に触れた連山には分かるが、ミラは分からない。
『お~け~…みたい~?』
「よくやった。すぐに現実世界へ戻るんだ。それと、ジャッジシステムから離れたらミラージュコロイドを止めても構わない」
 電脳世界だろうと、やはり『アルカナ』の考えは変わらなかった。悪意のあるハッカーなら、悪意しかなく触れる事すらならないウィルスを組むことだろう。
 VR化したフィールドを飛ぶ連山に、
「『戦車』の方もあと少しのようだ。君が手を下す程ではない」
『ふにぃ~…よかったぁ~』
 ミラの言葉に、連山は心から安堵したようだった。
 
 震電は『戦車』を押さえ込み、烈風は黒メカをいたぶるように小突いていた。
「単純だし遅ぇな。これで7回目、と♪」
 黒メカが烈風に襲い掛かるが、軽く避けられて蹴飛ばされ……の繰り返しだった。傍から見れば弱いもの虐め以外の何物でもないだろう。
「…烈風、忘れてないな?」
「何を忘れりゃいいんだよ?」
 ひねくれた口は変わらず、烈風は制御装置へとすぐに飛んだ。
「……こっちは後もう一回…チッ!」
 『戦車』を護衛する白メカを相手にしようとしていたが、背後から黒メカが襲い掛かる。寸前のところで何とか回避した。
 制御装置のほうに向かった烈風が怒鳴った。
「おい! 白黒両方とも全部点いてるぜ!」
「…分かっている。もう一撃だ」
 震電は『戦車』に向かって走り、一気に近づく。同時に白メカが阻んできた。
 左手のLP4で殴りつつ、そのまま左腕をばねに大きく後ろに跳んで黒メカを避ける。烈風の目の前で制御装置に点灯していた白いランプが全て消えた。
「おっし、これでぽちっとな」
 烈風が制御装置のスイッチを押すと、近くの緑色のランプが点灯した。同時に、震電に襲い掛かっていた『戦車』と白黒のメカの動きが止まり、二つのメカは床に落下した。
 暫く、沈黙が漂う。目の前で倒れている『戦車』だったMMSがいなければ、静か過ぎる空気は先程の戦闘を全て否定してくれそうだった。
「……解体成功か。烈風、礼を言わせて貰う」
 動きが止まった『戦車』たちを見据える震電に、制御装置の方から烈風が飛んできた。
「礼はいらねぇがコイツら、このままにしたら目立つんじゃねぇか?」
 機能停止した『戦車』と白黒のメカが事も無げに落ちていたら誰もが怪しむ。
「……最後の仕事は、手ごろな場所にこれらを隠す事か」
 震電は黒メカと白メカを脇に抱えた。
「オイッ、何楽そうな奴を選んでんだよ!」
 文句を言いながらも渋々、烈風は『戦車』を容易く抱え上げた。
 
 『戦車』達をサーバーの隙間に隠し、後始末を終えた烈風と震電はミラの元へ戻った。
「戻ったか。『正義』は連山が終わらせた」
「えへへ~偉い~?」
 コンソールの上で連山はピョンピョンと跳ねて喜んでいた。
「レン、お前もよくやったぜ」
「……当然の事だ。偉くない」
 連山を軽く抱擁してあげつつ褒める烈風と、冷たく言い放つ震電だった。
「震電…てめぇはいつもいつも…!!」
「止さないか。やれやれ、先程の友情は何処にいってしまったのやら…」
 喧嘩腰になる烈風をミラはなだめつつ、
「これで11個の解体に成功したんだ。全部で22個で丁度、折り返し地点となる。明日にならなければ解体出来ない爆弾もあるかもしれないが、今日中に先手を取れるようにしておきたい」
 そう言って、トランクを開けて震電と連山に中に入るように目配せする。
「何だ、もう半分かよ。楽勝じゃねぇか」
 ミラの肩に飛び乗る烈風は気楽だったが、
「……まだ半分と考えるべきだ」
「張り切っていこ~っ!」
 冷徹な震電と能天気な連山だった。
 二体がトランクに入った事を確認するとミラは丁寧にトランクを閉じた。
「そろそろ予選リーグが終わる頃かもしれない。明日の決勝リーグでV.B.B.S.筐体を大型のに取り替える為、ここにスタッフが来るかもしれな……」
 と言うと同時に、厳しい顔つきの鳳条院グループのスタッフが自動ドアを開けた。
『だ、誰なんだ?』
『ここのセキュリティを越えてきた!?』
 謎の先客の存在に明らかに動揺しているようだったが、
「…こう見えても警備関係者だ。それでも疑わしいなら、警備隊本部に連絡を入れてくれ」
 サッとIDカードを示すと、ミラはすごすごと管理室を退散した。
 
 
 ―PM:16:12 March XX. 203X.
 ―NorthEast Passage, 2F.
 
 6つ目の『運命の輪』の壁掛け時計を解除した後、これからの事を考えながら適当に歩いていたら……。
 通路の向こう側を歩いていたのはピ……もとい、良く言えば非常に肥え…いやいや大変恰幅の良い………駄目だ、肥満体のお方にそれなりに失礼にならないような形容詞が無かった。
 要するに、色々な意味で体の大きな金髪の少年が、黒服……おそらくボディガードを引き連れて歩いていた。
「色々な意味で何かとでけぇな、アレ? どこの牧場から逃げてきたんだろうな?」
「こら、失礼だぞ。まあ確かに、金髪だがアジア系だろう…体型だけは不健康な欧米人に匹敵するな」
 特にそれだけで特に興味もなく、ミラはそのまま立ち去ろうとしたが、
 
『おい、僕を無視するとはいい度胸だな!!』
 
 用が無いのに向こうから声をかけられてしまった。
「おいおい、いきなり怒鳴られたぜ。袖すり合うも”多少”の縁って奴か?」
「烈風、それを言うなら”他生”の緑だ。だが、すり合う程の袖は無いな」
 ミラの経験では、用も関わりも非礼も無いのにいきなり怒鳴りつけてくるような人はロクな性格ではない。アメリカの場合では銃器を携帯する人間が多い為、相応に対応するのだが、ここは日本である。
 お付き合いしたくなかったので、ミラと烈風は無視を決め込んでいたが、黒服達に道を阻まれてしまった。
「すっげぇ邪魔だぜ、どけよ」
「忙しいので退いて頂きたいのだが」
「………」
 烈風は乱暴に、ミラは簡潔に事情を答えたが、黒服達が動く様子は無い。
 こういう場合はどうすればいいのか。
「ミラぁ、めんどくせぇから逆回りしねぇか?」
「思うに、用件があるならそちらから話しかけるのが当然のマナーじゃないのかな?」
「私ではなく、お坊ちゃまが貴女に用件があるのです」
 ここで初めて、黒服のリーダーがミラに口を開けた。
「ふむ、それなら君が立ち塞がる必要は無いんじゃないかな。君が私に用があるわけではないのだから」
「お坊ちゃまの命令です」
「命令か、君も随分と難儀だねぇ。横暴な権力者の命令に従わねばならないなんて」
「仕事ですので」
「おい、ミラぁ…何暢気にお喋りしてんだよ。さっさと去ろうぜ」
「烈風、こういう仕事をしている人と会話する機会は滅多に無いぞ。色々な意見や心情を知るいい機会だ」
 始終マイペースで黒服のリーダーとばかりお喋りしているミラに、遂に色々な意味で体の大きな少年が憤慨した。
 
『だ・か・ら、僕を無視するなぁぁぁぁぁ!!!!!』
 
 通路の真ん中で大声で怒鳴られ、ミラと烈風は思わず耳を塞いだ。
 色々な意味で体の大きな少年は、ぜえぜえと肩で呼吸していた。
「今の声量は、余裕で100ホーンを越えたかもな…」
 ミラは冷静に先の大声を勘で計ってやはり無視したが、
「うっせぇんだよガキ! 用があんのか無いのかどっちなんだよ!?」
 烈風の言葉に、ミラは心から溜息を吐きたくなった。然し、このままでは事態が進展しない為、いい加減ミラも折れる事にした。
「無視するなと言われても、君は誰もが敬わなければならない程の名士なのかな。それも、初対面の人間にも礼を強要させる程の偉人とでも言いたいのかな?」
 真面目に応対すればきりが無い。ミラは彼の発言に対し、適切且つ皮肉な返答を述べた。
「鶴畑大紀だ。知らないのかっ!?」
「……?」
 鶴畑。そう言えば主賓室の座席にて、連山がそんな企業名を目撃したと聞いた。だが、どう見ても大紀と言う少年が、少なくともトップに立つ人間でない事は分かる。
 御子息と言うのなら納得出来るが…少なくともアメリカでは知られた名前ではない。
「烈風、君は彼の事を知ってるかな?」
「ミラ……何でここでボクに振るんだよ…」
 急に話題を振られて烈風はげんなりして言葉を返した。
「いやいや、君なら意外そうな事に詳しそうだと思ってね」
「あのな、大学の構内じゃよく分かんねぇ学問に哲学くらいしか教わらないし、それにボクはミラと一緒にいてほぼ同じ経験と知識を共有しているだろ!」
 ついでにミラが持つトランクの中からも、
『……所詮、その程度だと言うことだ。身を弁えろ』
『ふにゅ~…うるさいなぁ~安眠妨害だよぉ~…ついでに大紀なんて人知らないよぉ~』
 言うまでもなく、最初の厳しい指摘は震電の声で、寝ぼけ気味なのが連山である。
 
 ぶつん、
 
「おい、何の音だ?」
 烈風は大紀の方を見つめた。背後から黒っぽいオーラの様なものが見えるが……。
「ふむ……烈風、これが所謂堪忍袋の緒というものだ」
 
『いい加減にしろぉぉぉ!!!』
 
 遂に大紀がキレたが、ミラは冷静に反論した。
「いや、いい加減にして欲しいのは君の方だ。君は私に何をして欲しいのか、君は一言も言っていない」
「徹底的に僕を無視しといて何だ!!」
「無視も何も、君は赤の他人に対し、いきなり怒鳴りつけただけだろう?」
「無視するなと聞こえなかったのか!?」
「聞こえたけど、無理に返事をする必要はないと思ったのだ」
「黙れ! この僕が話しかけたと言うのに…!」
「君はそんなに偉いのか? そもそも、人を呼び止める言葉ではないだろう」
 一人で勝手に憤っている大紀に、ミラは淡々と返事する。前者の台詞は感情的且つ一方的なだけだが、後者の台詞は冷静且つ理知的だ。
(「これじゃ全然、会話になってねぇぜ」)
 烈風は二人を互いに見比べると、猛獣と調教師の様な構図を連想して、にやりと笑った。
 
 いい加減疲れてきたか、大紀が遂に折れて話題を切り替えてきた。
「ええい兎に角、あんたに用があるんだ! 全米リーグで2000回以上の試合で勝利だけを掴みとってきた…あの、『Destiny of 6in』のオーナーだったんだろ!!」
「……!」
 ミラは少し動揺した。こんなところに来て、懐かしき俗称を耳にするとは思わなかった。
 『Destiny of 6in』。敗北も引き分けも知らない、間違いなく最強の神姫である。
「……やはり、神姫の方が有名なようだな。その通りだが所詮、昔の事だ」
「そんなことはどうでもいい! そのオーナーであるあんたが何でこんなところにいるんだ?」
 困ったことになってしまった。日本まで来て、嘗てのミラの神姫の評判を知る人物が現れるとは思わなかったのだ。
 2000試合以上の戦いを全て勝利するなど、あり得ないとしか言い様がない。だがバックに鶴畑コンツェルンが控える大紀と違い、唯の一介の学生に過ぎないミラに不正や八百長など出来る訳がない。
 どちらかと言えば世間の視線は神姫に当たり、当時のミラは自ら人目を避けるようにしていた。
「留学に来たついでなのだが、おかしいか?」
「……そうかよ」
 嘘にしては割とありきたり且つ妥当だ。然し、嘘偽りもなく本当の事を喋ったところで、それを容易に受ける人間もいないだろう。それに、相手は鶴畑と名乗ったのだ。噂であったとしてもそれが悪いものであれば、企業としての沽券に係わる。
「そういう訳だ。今ここにいるのは、嘗ての栄光の抜け殻に過ぎない」
 そう言って立ち去ろうとするが、再度呼び止められる。
「待てよ。『Destiny of 6in』のオーナーであるあんたと戦いたいんだよ」
「残念だが……彼女は、ここにはいない」
 それを聞くと大紀はにやにやと笑って、
「知ってるよ、三年前にバラバラにされて誘拐された……当時のそっちでは大事件だったんだろ?」
「……っ!!」
 余裕を保っていたミラの表情が曇った。烈風はミラの顔を覗きこみ、いぶかしんでいた。
 それはあまりにも辛い過去だった。然し、大紀はそれを十分に分かった上で言ったのだ。
(「……あの時の私は、無力すぎた。ずっと、パンドラを頼っていた…心の支えだった…」)
 家族に等しい存在を、悪意で奪われる悲しみだった。もう、この世には存在しないのだろうか。
 表情が沈んでいくミラだったが、烈風が大声で呼びかける。
「おい、落ち込んでる場合じゃねぇだろ! しっかりしろよ、時間がねぇんだぞ!」
「…!」
 続いて烈風は大紀を睨みつけ、
「それにこの○○野郎! 今聞いたばっかだが、人の心の傷を掘り返すとはいい度胸じゃねぇか!! そんなに喧嘩がやりたかったら、ボクが相手してやるよ!」
 烈風は本気で怒っていた。普段は、気丈で冷徹なミラとは悪友程度の付き合いだが、今は間違いなくミラの事を自分のオーナーと見ていた。
「こ、この野良ハウリン風情が! その曲がった態度、僕の『ミカエル』が叩きなおしてやる!」
 烈風の挑発に乗り、大紀は完全に立腹しきっていた。
「……済まない、烈風。私がしっかりしなければな」
「へっ、ミラがしっかりしなきゃ、ボクとレンが立ち往生するだけだぜ」
 その中に震電を数えなかったのが烈風である。トランクの中で震電は軽く溜息を吐いた。
 
 
 ―PM:16:25 March XX. 203X.
 ―Arena, 1F.
 
 既に殆どの試合を消化し最後の決勝リーグの参加者を決定する戦いが開かれていた。予選も最後となると観客席も殆どがらがらである。
 32機のV.B.B.S.筐体も殆どが機能を停止していたが、ミラが招かれたV.B.B.S.筐体は稼動していた。
「ここだけ何故、稼動している?」
「鳳条院に協力してもらったんだよ」
 これは明らかに見え透いた嘘だ。大会の運営に差し支えるような個人的な頼みなど、普通は承諾しない。きっと、お金を積んで無理矢理交渉でもしたのだろう。
「……そうかね。それなら何も壊れずに済むな」
「そうだ。これならあんたの神姫がバラバラになっても大丈夫だからな」
 大紀の挑発を軽く受け流してミラは、筐体のアクセスポッドに十分な装備を整えた烈風を配置させた。
 ポッドが閉まる直前に烈風が、
「……本当はあのクソガキをぶん殴りてぇんだが」
 かなり危ない台詞だが、どうやら周りには聞こえていなかったようだ。
 そして、ミラの烈風と大紀のミカエルとの特別試合が開始された。
 
『天使型:【ミカエル】 VS 犬型:【烈風】の試合を開始します』
『All sistem clear. Get Ready?』
 
 無数の情報が飛び交い、フィールドが構築されていくのを烈風は感じた。
(「これだからバーチャルってのは微妙なんだよな」)
 そして目の前に広がるは、満月が浮かぶ闇夜の森林地帯だった。
 立ち並ぶ木々は障害物となり、視界を遮る。その上、唯でさえ暗いと言うのに高く立ち上る木々が暗さをより際立たせている。
(「ボクとした事がミスったな…相手は何型だったっけ?」)
 怒り心頭でさっさとアクセスポッドで待機していた為、『ミカエル』という神姫が何型なのか見ていなかった。名前から察するに多分、天使型なのかもしれないと推測し、上空を警戒していた。
 『ミカエル』と言う名詞が天使に繋がる……UCLAの構内で休憩時間に学生や教授が、要らないのに色々と無駄知識を教えてくれたが、こんな形でヒントになろうとは。
(「あいつら…余計な事ばっか教えてくれやがって」)
 因みにアメリカでは神姫に、伝承されている天使や悪魔、それに聖人の名前を登録するオーナーはいない。それだけ、人民の心に宗教が根付いているのだろう。
(「おっと、少し真面目にやらねぇと殺られるな」)
 ここからでは相手の姿を捕捉する事が出来ない。烈風は木々に紛れ、周囲の気配を探りながら黒い翼を羽ばたかせていた。
 愛用するソード・オブ・ガルガンチュアが、何度か木に引っかかる。
(「くっそ…何処の誰だよ、大は小を兼ねるなんて言ったバカはっ!」)
 いっそここで捨てて、騎士型MMSの剣であるコルヌで戦おうと思っていたが、この剣はいざと言う時の剣なのだから、迂闊に捨てる訳にはいかない。
 すると、森の木陰から小さな光が見えた。烈風がそれを感知すると、光は六つに分かれて森の中を移動し、烈風を囲んだ。
(「チッ、無線誘導兵装か」)
 危険を感じ、強風を巻き起こして烈風が一気に高く飛び上がると同時に、細身のレーザーが交錯した。
 そして上空で烈風は、満月の夜空に浮かぶミカエルの姿を捉えた。
 
「これが、大天使様の御姿かよ?」
 見た事の無い武装を見かける事は多く、このミカエルも同様だった。だが、複数の高出力レーザー砲にチェーンガンといった重火器が大量に搭載されていた。
 それだけの大量の火器を安定して使用する為に、バーニアは大型化されており、各箇所に補助スラスターを取り付ける事で安定させていた。
 暫くすると、下方の森から六つの光る物体がミカエルのところに戻り、合体した。テトラポッドのような形状のビットで、ぷちマスィーンズとは異なりミカエル本体のブースターユニットも兼ねた変わった武装だった。
(「ボクも似たようなの持ってるけど、唯の神姫には使うなってのがルールだもんなぁ」)
 取り敢えず、当たる事を期待せずにグレネードランチャーをミカエルに向けて撃った。だが、ミカエルに届く前に榴弾はリフレクターで弾かれ、虚しく爆破してしまう。
『そんな貧弱な装備で勝てると思ったのか!』
 フィールドの外から大紀の嘲笑が聞こえてくるが烈風は気にも留めない。いちいち相手していたら、目の前の大天使に撃たれてしまう。
 大紀を無視し、烈風は攻撃態勢に入るミカエルに話しかけた。
「オマエの名前……由来とかそんなのを知ってんのか?」
「偉大なる天使の名前と伺っております」
 味気ない返答と共にミカエルは六つのビットを分離させ、烈風を前後左右上下に包囲した。そして高出力レーザー砲を構える。
「へっ、そうかよ」
 翼のはばたきを徐々に強める。高度が高まり、ミカエルの頭上まで位置していた。だが、烈風を囲うビットは静かに狙いを定めている。
 このまま上り詰めるのかと思った瞬間、黒い翼で身体を包み、まっ逆さまに落下し始めた。
『狙え!!』
 フィールドの外から大紀の命令が飛んできた。ミカエルがまっ逆さまに落下する烈風に狙いを定める。
(「早く撃てよな…このままじゃ木に突っ込んで大間抜けだぜ」)
 烈風は何か考えがあるようだった。まだ地上まで遠いが、微かに焦りも感じていた。このまま森に潜ってしまえば仕切りなおしになってしまう。
 それに、多量の重火器を制御するには、高性能なセンサー類が必要な筈だ。森に隠れても、上空からのレーザーとビットの支援射撃で万事休す。
 落下する烈風と木々の距離が迫ってきた瞬間、ミカエルからの高出力レーザーが放たれた。
(「遅っせぇんだよ!!」)
 翼を真横に広げ、落下で加速された速度を活かし、ミカエルに近づく。
 立て続けにビットから烈風に向けてレーザーが放たれるが、小刻みに予測困難な角度に胴体と翼を切り返し、ジグザグに飛んで六発とも回避した。
 続けて、吠莱壱式を構えながらミカエルに向けて真っ直ぐに飛ぶ。きちんと構えれば、遠距離射撃用の武装も至近距離で命中するものだ。
『突撃か、馬鹿め! 返り討ちにしてやれ!!』
 一方、ミカエルはチェーンガンの角度を烈風の方に向けつつ防御姿勢に入っていた。このままでは烈風の攻撃は弾かれ、蜂の巣にされてしまう。
「うぉりゃぁぁぁ!!」
 そして烈風は一気に至近距離で吠莱壱式を連射した。普通の神姫には到底真似の出来ない芸当である。
 激しい爆風と煙が生じ、一時的に視界困難となった。だが、ミカエルが展開したリフレクターにより全ての榴弾は防がれてしまった。
「うっそ、マジかよ……」
 と言った矢先、烈風に六つのビットが包囲するように追撃してきた。放たれた無数のマイクロミサイルは、一発が針のように細い誘導ミサイルだった。
 位置的にミカエルを巻き込む形となるのだが、ミカエルは流れ弾をリフレクターで容易く弾く事が出来る。烈風も翼部にリフレクターは持つが、これは流石に防ぎきれない。
「ちょっ、これは卑怯くさくねぇか、オイ!?」
 ミカエルが撃つチェーンガンから逃れつつ慌てて急降下し、マイクロミサイルに追われながら森林の中を掻い潜る。後方からミサイルの爆音と樹木が倒れる轟音が響いてきた。小さいくせに、威力は半端ではない事は確かだ。
『ハハハッ!! ミカエル、ここから撃ち抜いてやれ!!』
 大紀の笑い声が聞こえてくる。明らかに勝利を確信したような声だった。
 だが大紀もミカエルも、烈風が帯刀していた筈のコルヌが消えていた事に気付いていなかった。
(「後、14発……!」)
 烈風の後ろでは全ての樹木が道なりに倒れていた。逃げ切る事は出来るが、ミカエルからロックされてしまえば終わりだ。
「目標、捕捉しました。発射まで3…」
 ミカエルの高出力レーザー砲が、烈風の移動先に向けられた。烈風は気付いていたが、ここで飛行経路を変えればマイクロミサイルを喰らってしまう。
「2…」
(「くっそ、調子に乗って力入れすぎた…!」)
 途中でまた、マイクロミサイルが木にぶつかり何発か爆破する。数が減れば対処出来るが、今度は六つのビットが烈風を追尾してきた。
「1…」
 マイクロミサイルも後3発になったが、このままではミカエルが放ったレーザーに射抜かれ、確実に敗北してしまう。
 が、烈風は夜空の遥か高空に輝く流れ星を見つけ、微かに笑った。

「ロック、ファイ…」
 ミカエルがトリガーを引く瞬間だった。ミカエルの動作が止まり、烈風を追いかけていた六つのビットが森の中へ墜落した。
『ば、馬鹿な、何が起こったって言うんだ!?』
 大紀は信じられないものを見て、その目を擦ったがやはり同じだった。
 烈風は身を翻し、ソード・オブ・ガルガンチュアで最後のマイクロミサイルを受け止める。そして、その結果に納得して笑った。
「へへっ、バーチャルでも重力加速度はきっちり反映されんだな」
 流れ星のように見えたものは、烈風のコルヌだった。夜空の遥か高空より神速で落下し、高速回転する鋭き刃がミカエルの頭部から股間に至るまで綺麗に両断し、森の中へ消えた。
 少し前まで遡り、吠莱壱式を至近距離で連射してリフレクターで防がせる。そうしてミカエルの視界を阻害すると烈風はコルヌを抜き払い、ミカエルの真上目掛けてコルヌを遥か高くに投げつけたのだ。そうすれば、重力に従ってコルヌは落下して、上部よりミカエルに命中するのだ。
「ま、どっかに当たれば良いと思ってたんだがな」
 その為にも、ミカエルの意識を自分に向けさせる必要があった。大紀の性格からすれば、余裕を出してそのままミカエルに狙撃させることだろう。うろたえて逃げて見せたのも、この賭けに近い策の為だった。
「あれじゃ、アジ…じゃなくて天使型の開きだな」
 攻撃が真上から来るとは思わなかったことだろう。推進剤と温度を持たない剣だから、ミカエルはそれに反応する事が出来ずリフレクターを展開させる事が出来なかった。
 両断されたミカエルは、自分のビットが拵えた倒木の道の中へと墜落した。
 そしてすぐにジャッジシステムの合成音声が聞こえてきた。
 
『ミカエル、再起不能レベル破壊判定に因り、戦闘不能判定』
 
「本物の『ミカエル』が使う武器は、鞘から抜かれた剣だぜ。知ってたか?」
 どうでもいいと思っていた知識も、喋る機会があると嬉しいものだと思った。
 
『勝者、烈風』
 
 合成音声がそう告げると同時に、バーチャルで構成された世界が暗転した。
(「結果が全てでも、バーチャルだから壊したものは全て元通りってか……」)
 先程の奇跡に近い戦法も、現実に戻れば記憶と記録として残るだけなのだ。両断されたミカエルも、マイクロミサイルで粉砕された倒木の道も全てが元通り。本当に残るべきものが何一つとして残らない。
 やはり、バトルはリアルの方が良いなと烈風は思った。
 
 
 ―4 Minute Passed...
 
 ミラは結果に納得すると、筐体のアクセスポッドから烈風を迎えた。
「お疲れ様だ、烈風。問題は幾つかあるが、あんなのが相手では、普通の装備と普通の戦法では敵わなかっただろう」
「ま、武装だけが強かったように見えたがよ」
 勝敗について話し合いながら、烈風はミラと一緒に武装解除をしていく。
 が、この結果に納得しないのはやはり、
「こ、こんな戦い方があるか! ルール違反だ!!」
 大紀だった。無論、ジャッジシステムが認めたのだからルール違反も何も無い。
「君の神姫の戦い方も、随分と節操が無いように見えるな。あれでは、真っ直ぐひたむきに頑張る神姫とオーナーを足蹴にするようなものだよ」
「ふん、それはただ単純に弱かっただけだろ、今回は運が悪かったから負けたんだ!! だからもう一度、もう一度ミカエルと戦え!!」
 あまりのくどさに流石のミラも呆れ果てるしかなかった。
「君のミカエルに挑んできた神姫達は、少なくともミカエルより強かったと思う。だが、ミカエルは勝ち続けてきたのだろう。それは君が一番よく理解しているんじゃないかな?」
「何!?」
 反論しようにも、全くの図星だった。鶴畑の地位を利用して、他社の限定品や特注品の武装でミカエルを徹底的に固めている。他の誰もが持っていない、強力すぎる武装を使うから勝てたのだ。
「それを理解していると仮定した上で、再戦するならそれでも構わない。だが……」
 今しがた、試合に使っていたV.B.B.S.筐体の電源が落とされた。予選リーグの最後の試合を終え、明日の決勝リーグへの準備を整える時間となったのだ。
 此処の筐体が稼動していたのも、一試合だけ果たすことを条件としていたに違いない。
「筐体はこの通り、全て使用不能となった。それでも戦い続けたいなら、次は現実で戦う事となる」
「……」
 大紀は言葉を失い、立ちすくむしかなかった。
 烈風の装備をトランクに仕舞うとミラは立ち去り際に、
「先の戦いが、V.B.B.S.筐体での出来事で本当に良かったな」
 日本の神姫事情は分からないがアメリカと違い、オフィシャルバトルに敗北した神姫のダメージを、如何なるものであれ完全に保障してくれないのである。
 今度は、黒服達がミラの道を阻む事はなかった。
 ようやく自由になれた事を知り、ミラは会場を後にした。
 
 
 ―PM:16:46 March XX. 203X.
 ―Rest Station, 1F.
 
 中途半端に余計な時間が空いてしまったので、ミラは休憩を兼ねて烈風ら三体を点検する事にした。爆弾の捜索もしたいところだが、七つ目の『運命の輪』の解体に余裕を持たせたい。
「烈風は……駆動系、電力及び全機能問題なし。悪いのは…性格かな?」
「オイ、そっくりそのまま返してやるぜ」
 頭に青筋を立てて烈風は言い返し、ミラは静かに笑った。
「お互い様かな。ところで震電、君にしては少し疲労しているようだが?」
 と、ミラのトランクにもたれかかって充電している震電に話しかける。
「……『THE CHARIOT』の解除の為、妙なMMSと交戦した」
「妙なMMSか……『戦車』に乗るのは男の戦士だから神姫ではない、と言うことだろうな。ところで、烈風は手伝ってくれなかったのかな?」
 震電は悪魔型MMSながら近接戦闘向きではない。その代わり、射撃戦闘に於いては天使型・兎型・砲台型を遥かに凌駕する。
「……烈風が解除した。厳密的に言えば……私が解除出来る状態まで持っていき、烈風が直接、装置に触れた」
「へへ、あのまま高みの見物をしても良かったんだけどな」
「………」
 首こそ動かさなかったものの、震電はゴーグル越しに烈風を睨んだ。
「ある程度想像は付いていたとは言え、私にも連絡を入れて再確認して欲しかったな。烈風、君の判断力と分析力は確かなものだと認めるがね」
 ミラが所有する烈風達三体の神姫は、特殊であれ時限爆弾の経験を持つ数少ない神姫である。とは言え、神姫の独断で解除法を制定するのは問題がある。
「へいへい…と、今度から気をつけるよ…と。そうだレン、ちょっといいか?」
 烈風は、震電と同様に充電中の連山に話しかけた。
「ふみゃ~…れっぷぅ、何々~??」
 充電の恍惚感からか、連山の表情がいつものニコニコ顔と異なり、とろんとした艶やかな笑みを浮かべていた。烈風は思わず誘惑に負けそうになったが振り払う。
「…レンが解除した『THE EMPEROR』があったのって確か…」
「さっきの~態度も大きいピ○と~同じ姓だったよ~」
 スポンサーの親族などが、大会に参加するのも特に珍しい話ではない。
「あんな奴が嫌われんのは大いに当たり前だがよ……『アルカナ』の狙いは鳳条院じゃねぇのかよ?」
 烈風も結局、『皇帝』の解除に成功した後のミラの悩みに行き着いた。
 その言葉を聞いて、ミラも自分の意見を述べた。
「これまでの『アルカナ』は、神姫を戦わせるオーナーを嫌っていたかのようだった。だが、今回はどうにもおかしく感じられる。神姫発祥の地である日本に、何か特別な思いがあるとしか思えないのだ」
 考えれば考える程、『アルカナ』の姿が遠ざかっていく気がする。基より正体不明とされているのだから、数少ない情報を継ぎ接ぎしても穴だらけの代物しか出来ない。
 ミラが深刻に悩んでいると烈風達が、
「おいおい、今悩んだってどうしようもないだろ」
「……為すべき事を最優先すべきだ」
「難しく考えちゃ駄目だよぉ~きっといつか~分かるかもしれないし~♪」
 全くもってその通りだ。今は、『アルカナ』が仕掛けた爆弾を解体しなければならない。今回は内密に願った為に警察機関が動く事は無いが、こうして解体を続ければいずれ、会う事は出来るだろう。
「そうだな。やれやれ、君達に逆に励まされるとは思わなかったよ」
 いつもアドバイスする側として、ミラは苦笑いするしかなかった。
「……と、そろそろか。点検と補充を終え次第、再開としよう」
 もうそろそろ、午後の5時を迎えようとしていた。
 今日中に全ての爆弾の解除を行うのは不可能だろうが、先手を打つ事は可能な筈だ。

 

 

 

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