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 ―PM:15:01 March XX, 203X LosAngeles-Time.
 ―Shinki-Class, Special-Airplane of 『Houjouin-Group』, North Pacific Ocean.
 
 ロサンゼルスを発って7時間経った頃。些細ながらミラは少し気になっていたことがあった。
「ところで一つ、不思議に思っていることがあるのだが、いいか?」
 と、客室乗務員を呼び止める。
「はい、何なりと申し付け下さいませ」
「サービスとしてはファーストクラスを超える待遇となっているが、VRタイプのバトル筐体の設置といい限定品や神姫用衣服の販売といい、これらは一体何だ?」
 鳳条院グループ専用機はまるで豪邸の一室を切り取ったかのようだったが、一つ気になったのは神姫へのサービスも行き届いている事だった。
 烈風ら3体には、VR筐体にミラ自身が1時間程度で作成した特殊時限爆弾処理プログラムを仕込み、2時間以上も次から次へと現れる時限爆弾の解体に挑ませていた。
「驚かれましたか? これらは、神姫を所持される方々の意見を参考に、航空機内に於ける神姫サービスを重視した『神姫クラス』の試験的実施例です。従来は、お客様が所持される神姫への待遇を追加した程度に過ぎませんでした」
 武装神姫が世界的に流通してきているとはいえまさか、航空企業の機内サービスにも影響を及ぼす事になろうとは。
「わざわざ内装まで造り変えて……神姫もエコノミー症候群になると言うことか?」
「その通りです。長旅の束縛は神姫自身のメンタル面に影響する、というデータが日本の研究チームより発表されました。その為、神姫のストレスとならない環境作りを新たに求められ、試験的に『神姫クラス』を一部の方々に提供するに至った次第です」
 やはり神姫も人格を持つ以上仕方の無いことなのかもしれない。
 だが、それでもやはり気になる事がある。
「本格的導入は難しそうだな。『神姫クラス』専用機の配備だけでも大変だろうに、料金もファーストとはいかなくともビジネスに匹敵するのではないか?」
「それが『神姫クラス』の課題なのです。近々ツアーを計画し、お客様からの意見を参考にして改良・改善に努めていく予定です」
 新しい試みの導入はやはり大変なものなのだ、と現場からの声を聞いてミラは最後に、
「そういうことか、ありがとう。特別待遇である私が言うのも何だが、このサービスを求める旅行者は多いと思う。リアルマネーのみではなくバトルの獲得ポイントに準ずる等、それと予約制にしてみてはどうだろう」
「貴重なご意見、大変ありがとう御座います」
 と、ここで別れると、ミラは休憩を兼ねて神姫専用限定品を見に行った。
 
 一方、VR筐体では。
「くっそ、やっと終わったってのに……!」
 と、手の平に現れた擬似マップを見て、烈風は毒づく。また新たな爆発物反応が検出されたのだ。
 仕方なく、新たな爆発物が検出されたエリアへ急ぐ。
「本番はミラの指示を受けながらの解体となる。それに従来の解体方法を凌駕するかもしれん」
 と、震電がなだめる。このプログラムでの爆弾は嘗て3度の『アルカナ』が作ってきた爆弾の模倣であり、要領さえ分かっていれば何ら問題のない代物だった。
 だが、問題は解体方法があまりにも意味不明であり、爆弾そのものに触れずに特定の行動を行うことで解除されるものもあると言うことだ。二人一組で無ければ解体不可能だったり、爆弾を守護する神姫を倒さなければならなかったり、爆弾そのものを時計回りになぞってから始めなければいけなかったりと、ゲーム的要素を含んだ爆弾が多いのだ。
「ふにゃぁ~…これで75個目~後25個だ~」
 と、早速爆弾を発見した連山は足を止めた。まず、近寄っても大丈夫なものか。次に障害となる存在の有無を確認する。そしてと置くから爆弾がどのようなものかチェックする。
「リモートタイプみたい~カメラに気をつけて解体しないと~」
 その三つをクリアした上で初めて、爆弾に近寄る事が出来るのだ。因みに連山が確認したのは、90度まで方向を変える監視カメラの死角になっている状態から爆弾を解体しなければならないと言うもの。その為、姿どころか爆弾に手を付けた様子すら映されてはならない。その上、爆弾の解除が出来る時間はほんの数秒のみである。
「まだ25個もあるのかよ…」
「本番では22個だ。既存のものではないだろうが、少なくてありがたい」
「いいスコアを取って、ミラちゃんに褒めてもらおーっ!」
 
 
   ANOTHER PHASE-02
                『TimeLimitation』
 
 
 ―AM:09:20 March XX, 203X Japan-Time.
 ―No.00-Runway, Air-Port.
 ―in Japan.
 
 あれから数度のミーティングや爆弾の性質を推理したりして、最後に10時間の休眠を取った。
 大会初日まで一日の猶予があるとはいえ、烈風ら3体とミラ自身も万全のコンディションで迎えたいからだ。
 鳳条院グループ専用機から降りると、強いローター風と風切り音が聞こえてきた。
『どうぞ、こちらへ』
「…話の早いことだ」
 今度は、ヘリコプターが待機しているのだった。鳳凰カップの2日目、決勝トーナメントが開かれる特設スタジアムの下見の為とはいえかなりの好待遇ではないだろうか。
 が、既に爆弾が仕掛けられている可能性はある。
(「警備責任者は…現地で会えばいいか」)
 そう思いながら、ミラは続けてヘリに乗りこむのだった。
 
 
 ―AM:09:40 March XX, 203X
 ―Extra-LargeStadium of 『Houjouin-Group』.
 
 ミラを乗せたヘリコプターは、巨大駐車場の広い空間にゆっくりと着地した。
 上空からそれを眺めていたとはいえ、最大収容数は一万五千人、決勝戦が開催される特設巨大スタジアムを見上げ流石のミラも、
「本気も……ここまで来ると冗談のように思えてくる」
 祭りの前の違う喧騒か。明日の鳳凰カップに向けて大勢の作業員にテレビスタッフが詰め掛けていた。この中に『アルカナ』の部下がいるのかもしれないが、判別及び特定は無理である。
「全ての始まり、創造は1より始まる…」
 そう呟きながらミラは巨大なトランクを片手にヘリから降りる。そこで出迎えてくれたのは、レディーススーツが非常によく似合う若い女性秘書だった。
 ミラの辛気臭い喪服に全く動じることなく、女性秘書は一歩前に出てミラを歓迎した。
『Welcome, you came. Miss Thukumo』
 秘書の非常に聞き取りやすい自然な発音にミラは感心しつつも、
『Thank you. But, I can speak to Japanese』
『Sorry, では、こちらで宜しいですか?』
 と、丁寧に日本語に切り替えてくれた。外国語に慣れていない人物と会話した事は殆どないが、コミュニケーションとしては実に気持ちがいい。ミラも日本語に切り替えた。
「郷に入ては…私なら相応に従おう。改めて、私は米・カリフォルニア州神姫BMA・ロサンゼルス支部所属違法神姫調査官、ツクモ。盛大な招待と歓迎を感謝する」
「申し遅れました。私は鳳条院グループ本社にて社長の秘書を勤めさせて頂いております、水無月と申します。また、今回の鳳凰カップの警備指揮を執らせて頂くことになりました」
 それを聞いて、ミラは少し意外そうな表情を浮かべた。
 有能であるかは別として、どう見ても若い。もう少し年輩の人の方が信頼出来るのだが。
「……まあ、いいか。では、案内していただけるか?」
「分かりました。こちらへ」
 同性であるとはいえ、やはり女性に歳を訊ねるのは気が引ける。
 後に、依頼人である社長と同年齢であり非常に若々しいと言う事実を知ってミラは大いに仰天するのだった。
 
 
 ―AM:09:55 March XX, 203X
 ―Defence Headquarters, Extra-LargeStadium of 『Houjouin-Group』.
 
 特設の警備隊本部である為、内部は機能的な会議室のようだった。警備員達は全員が出払っており、中には誰もいなかった。
 鳳条院グループ専用機内部も決して悪くはなかったが、ミラにはこちらの方が落ち着くことが出来た。
 桜に招かれ、更に奥の部屋に招待される。パイプ椅子に座ると、すぐに報告書を机に並べてミラに見せてくれた。
「まず、これまでに於いて不審物は未だ発見されておりません」
 それを聞き、ミラは微妙に納得したような複雑な表情を浮かべる。一つ一つ書類を手に取ってみるが、どれもこれも全く問題は見あたらなかった。
 22個もの爆弾の大掛かりな作業となる為、どうしても事前準備が為されるものと想定していたが、今回もやはり今までの『アルカナ』と同じく、今回もセオリーを守るようだ。
「やはり…とすると今回も一日目、開会時が勝負の始まりだ。鳳条院グループの者であっても動きに不審な点があれば即座に報告するように。また、不審な神姫を見かけたら即時連絡を」
「不審な神姫……ですか?」
 不審人物の特定だけならまだしもだが、
「私の解体で見ることはなかったが、アルカナの手口の内に、見た目だけは神姫の形をしている爆弾が会場内を彷徨っていたケースがあったらしい」
「そ、そんな…!」
 必要最低限に歩く機能だけを持ち、知らずに触らば爆発する神姫の姿をした爆弾。それも多くの客の雑踏に紛れて消えるのである。
「それと当然の事だが、万が一爆発物らしきものを発見したとしても決して騒ぎ立てないように頼む。爆弾テロに屈さず開催を決行したこの大会、爆弾騒ぎが起これば企業として致命的な打撃を受ける事となる」
「存じております」
 爆発物騒ぎが解決したとしても、客は企業への不信感を抱く。だから、誰にも知られてはならず特に口が堅い人間を選ぶしかない。
 だが『アルカナ』の手口は常に、開会日からの爆弾設置なのである。わざわざ、客に知られてしまっても仕方が無いような状況を選ぶのだ。リスクは大きいが、見返りのほうが遥かに大きいのは確かである。
「ありがたいのは、よくテレビで見るような『私は時限爆弾です』、と明言するようなわざとらしい外見にしていない点と、見つかりにくい場所に設置してあることだ。後、特定のオブジェの様なものに偽装している事が多い」
「らしいものを発見したとしても、不審物及び爆弾であると認識させなければ宜しいのでしょうか?」
「そういう事だな。まあ誰かに見つかる前に、全て解除してやるがな」
 今はまだ爆弾どころか不審物すら発見されていない。厳しい状況となるが何とか対処するしかない。
 増して、解除に挑めるのはミラとその3体の神姫だけなのである。
「こちらが請求した施設の全体像を一通り眺めたが、嘗てのアルカナの見立てをプロファイリングした結果22個のうち半数以上は設置箇所を予測した……然しまた、開閉式ドームとはな」
「このドームは兼房様の提案です」
 なんて事もなく桜は語るが、ミラは少し頭を痛めそうになった。
「お陰で、単なる光学センサー式爆弾が厄介な事になりそうだ……大げさな仕掛けのお陰でな」
「趣味らしいですから」
 ミラは更に溜息をつき、気を取りなおして説明を再開する。
「そして今回使用されるV.B.B.S.筐体。こちらでは主流の様だが、あれそのもの或いはVR空間に爆弾の起爆プログラムが仕掛けられる可能性が高い。こまめにフィールドをチェックするように頼む」
「すると、異常が発見された場合は一旦、その筐体を使った試合を中断して…」
「いや、『トラブルが発生した』と称して何分と掛かるか分からない『点検』作業を行うのはあまり賢明ではない。これだけ大きな施設に32機のV.B.B.S.筐体を設置するなら、それらを管理するコンピューターがある筈だ」
 ミラの推測に意表を突かれたか、桜は感心して頷いた。
「流石…ですね。V.B.B.S.統括コンピューターは存在します。しかしそれからどうされるおつもりですか?」
「そこから、私が所有する3体のいずれかを管理コンピューターよりV.B.B.S.筐体へ潜入させ、そこから解除させる。試合中だろうがお構い無しにな」
 先程言った事と大いに食い違っている。試合中断どころか思い切り乱入だ。
「な、何を考えてらっしゃるのですか! 試合中の神姫が混乱したらどうやって……」
「それなら見えないようにすればいいだけのことだ。そこで、『ミラージュコロイド』を貸して頂きたい」
「!?」
 いきなり、未だ試作段階の製品の名前を出され桜は動揺した。鳳条院グループを國崎技研の共同開発となる新型迷彩のことであり、リアルバトルでも使用できる忍術のような技術である。
「ど、どこでそのような……」
「間接的に兼房様の口から聞いたようなものだ。兎に角、それがあればバトルに潜入しながらの解体が可能となる。それに、22個の爆弾解体が終わるまで借りるだけだ。要らないと思うが、データも取れるだろう」
 相手が社長秘書と言うこともあり適当にはぐらかしていたが、実際にはエステラから聞いたのである。海外への輸出への懸念或いはコピー品の流出を恐れて、互いに真剣に話し合ったことがあった……という事を聞いたのだ。
 試合を続けながら爆弾解体を進めるにはその新技術を借りる以外に方法はない。
 
 桜は仕方なく、
「……仕方ありません。そこまで仰るのでしたら、相談して参ります」
 すらりと立ち上がる桜だったが、
「出かける前に少し問答をしたい。『アルカナ』が作り出してきた爆弾は恐ろしく細かく精巧で、神姫自身の手による解除が必要だが、間違いなく日本の神姫には不可能な事だと言える。何故だか分かるか?」
「?」
 ミラの奇妙な問いかけに桜は暫く考え、
「ロボット工学三原則、或いは『アシモフ・プロテクト』と呼ばれるそれらと抵触するからでは?」
「成る程。では次に、目の前にあるそれが爆弾と分かった時、そんな面倒なルールに従うならどうなる?」
「……助けを呼びに行くことしか出来ないものと思われますが?」
「最後に、オーナーが『解除せよ』と命令してきた。この場合は?」
「恐らく…その命令に従うことは出来ないと思います」
 戸惑うだけの桜に、何を考えているかき妙な事を問うミラ。二人の間に奇妙な空気が漂う。
 張り詰めた緊迫感の様なものはあったが、耐え難いものではない。
「何故だ? 解体作業が怖いからか?」
「いえ。それを行なわせる事が…危険な行為に値するものと思われます」
 桜にしては少し自信のない喋りだった。そもそも何故この場で、ミラがそのような事を聞いてくるのか。
 その問いかけにミラは納得したように頷き、
「やはりその考えに行き着くか。とすると『アルカナ』は、私を試している線が強くなってきたな」
「どういうことでしょうか?」
「『アルカナ』は明日、犯罪史上最高記録の22個の爆弾を鳳凰カップによこしてくる。それと、そちらに送られてきた予告状だが、こちら神姫BMA・L.A.支部にも送られてきた。それも、全く同じ内容だったようだな」
「ミラさんが所属する神姫BMAに、ですか。『アルカナ』の犯行が三度、ミラさんに阻止されてきたと言うことは……」
「そういうことだ。私への挑戦とも解釈できる。22個も拵えてな。だが、日本を避けてきた理由がわからない」
 治安及び警備を全く考慮せず世界中で犯行に及んできた『アルカナ』が、日本に目をつけなかった理由にはやはり『アルカナ』自身に何かあるとしか考えられない。
「『アルカナ』の最初の犯行は4年近く前に遡る。だが、日本での犯行はこれが初となる」
 武装神姫の原点である日本に、『アシモフ・プロテクト』の存在。この二つを見れば『アルカナ』が日本に目をつけていてもおかしくはない。
「『アルカナ』は確信犯的な爆弾テロであり、大会で褒め称えられるオーナーを毛嫌いしている。だが、人間と日本の神姫では自分の爆弾が解体不可能である事を知って、敢えて避けてきたとは考えにくい」
「然し、好ましい条件が揃っていながら何故なのでしょう?」
「皆目見当がつかない。だがもしかすると、『アルカナ』は日本に対し特別な思いがあるのかもしれない…」
 三度として戦ってきた『アルカナ』に対し、改めてミラは複雑な思いを抱いた。
 その正体は一体何者なのだろうか。
「…あぁ長い間呼び止めていたな。では、私は会場の下見に行かせて貰うが…宜しいか?」
「分かりました。その前に、これを渡しておきましょう」
 と、桜はに薄いプラスチック製のカードと通信機をミラに差し出した。
 鳳条院グループ専用のIDカードだった。これが、この警備に於ける身分証明証となるのだろう。
「成る程、これで自由に行き来出来る」
「では、失礼させていただきます」
 と、ここでミラと桜は別れた。
 
 
 ―PM:13:54 March XX, 203X
 ―Rest Station, Extra-LargeStadium of 『Houjouin-Group』.
 
 実際、一人で歩いてみたのだが広い事は広い。が、アメリカの大会用ドームほどではない。
 案の定、一般人立ち入り禁止の地下室もあり一通り歩いてみたが流石に会場ほど広くはなかった。表で神姫大会で賑わう中、オートメーション化された地下室で裏方作業に徹するのだろう。
 念には念を、見取り図で位置を覚えたとは言え非常口と立ち入り禁止区域の位置も再確認した。人目に付きにくく、『アルカナ』の部下が一時的に身を隠すのに適している事が懸念されたが、一応監視カメラは設置されていた。
「日本だと思って甘く見すぎてたぜ……ちと広すぎだろ、オイ」
 草臥れた様子で、ミラの肩に寄りかかりながら烈風は愚痴を零した。烈風自身はミラの方にずっと乗りっぱなしだが、ミラがいちいち怪しいと思った場所を指摘しては指し示すのだから疲れる。
「ロサンゼルスでの三例を思い起こせば、軽い散歩コース程度にはなるだろう?」
 と、ミラが意地悪に返答した。アメリカの大会用ドームは、最大クラスでメジャーリーグ用スタジアム並みの広さを誇る。この鳳条院グループ特設ドームの収容人数は一万五千人程らしいが、その三倍強なのだ。
「あんときゃ、砂漠でパチンコ玉を探す心境だったぜ……」
「これは驚いたな、烈風はいつ砂漠に行ったことがあるのだ?」
「うるせぇな、モノの例えって奴だっ」
 と、烈風はミラの肩を軽く蹴った。
「痛っ、やれやれ……だが然し、推測される設置箇所は72箇所は割り出せた。それと君の嗅覚は非常に頼りになる。上手く行けば、『アルカナ』の部下を取り押さえる事も出来るだろう」
「またボクを警察犬呼ばわりかよ?」
 犬型MMSのハウリンだからか、烈風の嗅覚は非常に鋭い。実際の警察に爆発物の匂いをかぎ分ける警察犬もいるが、烈風の様な存在は非常に稀である。
「こんな乱暴な警察犬は、誰も欲しがらないと思うがね」
「何だよ!?」
「まあ然し、実際に歩いてみるものだな。お陰で10箇所はほぼ確実に特定し、5箇所は大方予測をつけることが出来た。残りの7つは…リアルタイムで何とかするしかない……が…っと!」
 と、ミラは肩に乗る烈風の事など忘れて大きく背伸びした。
 日本に来てから何か違和感があると思ったら、それはあまりにも単純な事だった。
「おわっ、危ねぇじゃねぇか!!」
「むう、どうにも……眠たいんだ…これが所謂、時差ぼけと言う奴だな……」
「ミラ、こんなところでまだ眠る気かよっ!?」
 今いるところは、特設スタジアムの一般解放されている休憩室である。専用機の中で10時間の睡眠はとってきたが、それでもミラの身体はまだ対応しきれていなかった。
 鳳凰カップ前日である警備は特に強化されている。その為、置き引きなどに遭う心配はあまり考えられないのだが…。
「警備隊本部に仮眠室があっただろっ!」
「仮眠ではなく……睡眠が…望まし………Zzz」
「あぁ! バカ、コラ、おい、ちょっと、ミラ、寝るな!!」
 純粋に眠たいミラの耳に、烈風の罵声に近い大声はまるで届かない。
「震電、連山! オマエらもミラを何とかしろよ!!」
 と、トランクの中に呼びかけてみるが、
『五月蝿い。安眠妨害』
『ふみゃぁ…烈風ちゃんも一緒に寝よ~よ~…』
「あぁもう!! 勝手にしやがれっ!!」
 と、近くにあったインテリアな座椅子を蹴っ飛ばし、2メートル近くスライドさせた。
 
(「『アルカナ』……今度は何処で私を嘲笑っている…?」)
 
 
 ―PM:14:28 March XX, 203X
 ―Rest Station, Extra-LargeStadium of 『Houjouin-Group』.
 
『ピピピ! ピピピ! ピピピ!』
 と、ぐっすりと眠ったつもりだったが、桜に手渡された通信機の発信音で僅か30分程度で起こされた。
「おいこら起きろ、なんか連絡っぽいぜ」
「…ん……うん、分かっているさ」
 と、ミラが眠っている間にずっと不貞腐れていた烈風がミラを小突いた。
 懐から通信機を取り出し、毅然とした態度を取り繕いながら通信に出た。
「水無月様…か?」
 他の警備員はミラの事を知らない。となればミラが持つ通信機に発信する事が出来るのは桜しかいない。
『はい。【ミラージュコロイド】の使用許可が降りましたので一旦、本部にお戻りください』
「分かった、すぐに向かおう」
 要件のみの通信を終え、ミラはトランクを片手に先程の寝坊さを断ち切り、スッと立ち上がった。
「最新技術を借りに行く。熱以外を遮断する最新の迷彩技術らしいな」
「つまり熱センサーがあれば看破出来んじゃねぇか?」
 と、歩きだすミラの肩に跳び乗りながら烈風が言った。
「然し、センサー類に頼る…特に熱を感知する神姫はあまり多くはない。だが最大の問題は、世界中の軍がこの技術を欲しがる事だろうな。それに市井に流出すれば犯罪も増加する」
 神姫の武装として開発した玩具の延長も、応用すれば人間用になる。増してそれが人を傷つける行為に転ずることになれば、悲劇以外の何物でもない。
「やっぱ、コソコソ隠れるのは臆病な証拠だな」
「だが、今回はそんな技術を借りなければならない。自分自身の為ではなくてだ。だがそれでも、実際の導入に当たる場合に考え直すよう意見は出来る」
 単なる武装神姫の武装が人間にとっても実用的であってはならない、とミラは考える。実際、武装神姫が持つ標準武装の殆どが、人間規模になると実用的でなくなるか或いは既存の武器・火器の変形に過ぎないのだ。
 世間に溢れる特殊な武装を使った激しいバトルを思い返してみると、神姫オーナーを嫌う『アルカナ』の犯行に微かに同情出来た。
 
 
 ―AM:14:35 March XX, 203X
 ―Defence Headquarters, Extra-LargeStadium of 『Houjouin-Group』.
 
 ミラが戻ってみると、奥の会議室で桜がパイプ椅子に座り待っていた。
 彼女の目の前のテーブルには小さくも頑丈そうなアタッシュケースが置かれているのが見えた。
「あ、戻られましたか」
「済まない、待たせたか」
 軽く言葉を交え、ミラは桜の近くのパイプ椅子に着席する。
 桜は無言で、アタッシュケースに施された電子ロックを解除すると、その中身をミラに見せる。
「こちらが、『ミラージュコロイド』です」
 頑丈なアタッシュケースに守られたそれは、黒色の追加パックだった。思ったよりも小型で神姫の動きを阻害しない丁寧な作りになっていた。
「換装パック形式か……よし連山、試しに使ってみるんだ」
「ふみゃ?」
 連山の返事を待たず、ミラはトランクから連山を抱え上げ机の上に置く。猫耳と猫尻尾を生やしたニコニコ顔のサンタ型MMSに、桜は一瞬だけ怪訝そうな表情を浮かべた。
「烈風はどうにもこの手の武装が苦手らしい。震電には爆弾の早期発見に務めさせたい……となれば、VR空間での起爆装置解除を担えるのは連山だけとなるわけだ」
「うっせぇな、ボクはこんな装備は認めないぜ。せめて被弾したらダメージ増加くらいのペナルティくらいは…」
 最初は烈風が適任かと思われたが、本人が嫌がっている以上、無理に付けさせても無駄だろうとミラは判断したのだった。
「じゃ~使ってみるね~♪」
 と言った途端、テーブルの上にいた筈の連山の姿が消えてしまった。すぐにミラは手鏡を取り出しテーブルの上に設置する。
「連山、この鏡の前に立ってみるんだ」
「はいは~い……?」
 と、鏡のある場所から連山の声だけは聞こえる。だが、鏡には何も映っていないし鏡の前に何もいないように見える。
「わぁっ!? いないよっ、連山いなくなっちゃった~っ!?」
 姿の見えない連山は、鏡の前で慌てふためいているらしい。
 だが烈風がまるで初めから見えていたかのように鏡の前に近寄ると、見えなくなった連山をそっと抱き留める。それを見たミラと桜は少し驚いた。
「レン、ボクはそんな偽りの魔術なんかで誤魔化されないぜ。ボクにはレンが見える」
「れっぷぅ~……」
 と、姿の見えない連山は抱き留めていた烈風を押し倒すが、
「こらこら、試験品のテストで濡れ場に持ち込まない。連山は、ミラージュコロイドを停止。烈風も雰囲気に乗って受けに廻らない」
「そ、そういう仲なのですね…少し驚きました」
 ミラは大いに呆れながら的確な指示を飛ばし、桜は少し顔を赤らめて烈風と連山を見つめていた。
(「相変わらず緊張感の無い…」)
 因みに放っとかれっぱなしの震電だが、『ミラージュコロイド』には大して興味を示さずずっとトランクの中で眠っていた。震電は神姫が放つ無数の情報及び痕跡を感知できる為、熱で看破出来る事さえ分かれば脅威にすら値しないと考えているからだった。
「ふみゅぅ~ミラちゃんのいけずぅ~…」
 と言って連山は鏡の前に姿を現し、
「レン…流石に人前じゃ止そうぜ」
 烈風は顔を赤くしながら起き上がった。
「兎に角、テストは成功のようだな。他にも機能があるようだが、それは解体作業に不必要なものだ。水無月様、暫し『ミラージュコロイド』をお借りする」
「社長はミラさんを全面的に信頼されております。期待を裏切らぬ、活躍を御期待します」
 と言うと、桜はミラに対しゆっくりと頭を下げた。VR空間での試合を継続しながらの第三者の介入による解体は非常に難しいことだが、それを可能とする為の『ミラージュコロイド』なのだ。
 
「ところでミラさん、そろそろお疲れではないでしょうか?」
 と、ここで桜は話題を切り替えてきた。
「…まだ時差ぼけが残っている。眠たいと思っていたが、先程のコールで起こされた」
「ってか、スタジアムの休憩室で寝てんじゃねぇよ」
 烈風に突っ込みを入れられた。尤もである。
「それはそれは……スタジアム近隣の鳳条院グループ傘下のグランドホテルに、インペリアルフロアのスイートを予約してあります。ご自由にお使い下さい」
 それが当然のことの様に語りつつ地図を差し出す桜に、
「……流石に、私のことを買いかぶり過ぎていないか?」
 ミラも少し呆れるしかなかった。
 それだけ信頼してくれていると言うのは逆にプレッシャーになるものだが、ある種の自信と兼房への誓約を胸にしているミラには、やや過ぎたサービス程度に受け止めていた。
「まあいい、少し休憩を兼ねて行ってみる。何か報告があれば、追って連絡を」
「分かりました」
「それと……まさかと思うが、ボディガードまでついてくることは無いな?」
「必要と判断されましたら何人か付けますが…?」
 ミラは軽く溜息を吐いて、
「遠慮させて頂く……物々しい」
「分かりました」
 桜の最後の返答を区切りに、ミラは警備隊本部を後にした。
 
 
 ―AM:15:51 March XX, 203X
 ―A sidewalk, Somewhere.
 
 一先ずホテルに向かい、インペリアルフロアのチェックインは済ませた。
 だが、今のミラに出来ることといえば更に設置箇所を割り出し予測することくらいだけで寛いでいる暇などない。
 少し前まで眠たいと思っていたが、中途半端に起こされてかえって眠りづらくなってしまった。烈風に『自業自得だ』と突っ込まれたがそれは気にしない方向で。
 そこで、日本の神姫事情を知る為、電車に乗って適当に町を練り歩く事にした。
 喪服を身に纏うミラの存在はやはり日本でも浮いていたが偶に、
『それ、なんてコスプレ?』
 と、所謂オタクと呼ばれる人間達に訊ねられたこともあり、その時は、
『…What are you? There is no spare time which acts to you as a partner. Since you are obstructive, please retreat. ……Brat it!』
 と、流暢な英語で丁寧に(?)追い払った。当然、彼等が何を言いたいか、よく承知した上での返答である。ミラが何を着ようと勝手だが、単なるお遊びの様なニュアンスで馴れ馴れしく言われるのは気に入らないものである。
「へっへっへ、ミラも言うなぁ♪」
「英語慣れしていない日本人が多いだけだ。楽しくも面白くもないな」
 と、浮いた雰囲気を漂わせながら町を練り歩いていると、不思議な男女が町を歩いているのが見えた。
 
『あのジジイ…』
『あ~あ、お陰でアニキ注目されすぎ』
『何考えてんだ…こうなりゃドタキャンしてやるか?』
『それはいけません』
『でも~お兄ちゃんはすっかり有名人になったのに~?』
『全然嬉しくねぇよ……』
 
 二十台半ばの青年を中心に、三人の少女が囲っていた。特に茶髪の少女は特に青年に懐いているようだ。
「烈風、なかなか面白いものを見つけたぞ」
「はぁ、何がだよ?」
 ミラは微かに笑ったが烈風は要領を得ていない様子だった。
 四人を見つめながら、ミラはトランクの一部をスライドさせ、
「震電、ホーンスナイパーライフルを」
 と言うと、トランクの中からそれが飛んできた。空中でパッと手に取ると、烈風に手渡した。
「私の髪に隠れながら……あの少女の誰でもいい、狙え」
「おぉ、過激に喧嘩でも吹っかけるってか?」
 烈風は嬉々としてライフルの銃口を、青年にあまりくっついていない黒髪の大人しそうな少女の頭に向けた。
 ミラは意図してすれ違うようにし、1m半程度の距離を取る。
 そして引き金は引かれ…!
 
 
『カチッ』
 
 
 マズルフラッシュと炸裂音と共に弾丸が飛び出すと思ったら大間違いである。ミラは震電にライフルを請求したが、実包は要求していない。
「何だよっ、空撃ち…っ!?」
 烈風は毒づきかけたが、少女達の様子を見て初めて気が付いた。
 
『…!』
『どうした?』
『あれ~?』
『い、いや…気のせいか? 何でもねぇよ』
 
 三人の少女は何かに警戒し、少し険しい表情で辺りを見渡していたが、すぐに青年について歩いていった。三人の少女の様子を見て初めて烈風はその意味に気づいた。
「何てこった、あいつ等……見分けがつかなかったっ!」
 細心の注意を払えば感づく事が出来たかもしれない事に気づけず、烈風は落ち込みかかるが、
「仕方の無い事だ。恐らく彼女達は本物だろうからね」
「はぁっ?」
 今まで劣化版IFを判別して捕らえてきたことはあったが、本物は見たことがなかった。
 だが、神姫用の武装を向けられ、過敏に反応する人間はいない筈である。
「だから烈風でも判別出来なかった。だが、”らしさ”を拭い切る事は出来ない様だな」
 ミラの場合は、オーナーと神姫との交流をあの四人から見出したのだった。
 烈風はミラにライフルを返しながら、
「そんじゃ、怪しい奴は片っ端から銃で狙えばいいってか?」
「それは駄目だな。戦闘経験が無ければ反応すら出来ない。まぁ、いい経験にはなっただろう」
 と言ってミラは、ライフルをそっとトランクの隙間に放り込んだ。
「…にしても、劣化だろうが本物だろうが、過ぎたコミュニケーションにしか思えねぇな」
「一端の神姫である君が言うと、なかなか重たい言葉になるかもしれないな」
 人間は、単なるロボットではない神姫に何を求めているか。
 その答えの一つが、先程見た三人の少女だろう。
 
 ミラの肩の上にいる烈風は、退屈そうに軽業をこなしながら訊ねてみた。
「そんで、これからどうするよ?」
「ふむ、手ごろな神姫センターはいくつか適当に覗いてきたつもりだが…そこで烈風、震電、連山。君達の感想を一つ聞きたい」
 と、ミラが聞いてみたところ、
「感想だぁ? あれでバトルって言うのかよ?」
 最初に烈風の意見。続いてトランクの中から二つの声が響いてくる。
「弾丸をなおざりにする店など興味はない」
「でも、おしゃれな服や愛玩用グッズは一杯だったね~♪」
 震電は不満を超越して腹を立てており、連山だけが嬉しそうだった。 
「そうだろう。普通の神姫センターでは、普通の物しか扱っていないし普通のオーナーだけが集まるだろう。そして、神姫の機嫌を損ねぬ為の衣服及び交流用アイテムか。ふむ、神姫元祖の国の神姫関連商品の流通事情を調べてみるのもなかなか面白……?」
 考え事のあまり、独り言をぼやいていたミラは、ある建物から出てきた変な神姫オーナーを見つけた。
 
『ちくしょー! 何なんだよ、あの店は!』
 男のオーナーのようだ。然し、頬が大きく腫れておりなんとも間抜けな顔になっていた。
『どっからどう見てもあれは、幼…』
 と言い掛けた瞬間、そのオーナーの後頭部にどこからともなくL字定規が命中した!
 つんのめって転倒し周囲の注目を浴びると、ばつを悪くして退散した。
 
 怪現象を目撃したミラは暫く唖然としていたが、近くへ寄ると地面に落ちていたL字定規を拾った。
「烈風、定規が飛んできた位置を把握出来るか?」
「あの建物からだと思うぜ…?」
 と、烈風が指を指した建物に、肩を震わせて退散していく白衣を着た少女らしき人影を見た。
「何であれ、落し物は返してやらないとな」
「投げ物だと思うぜ……」
 
 
 ―AM:16:20 March XX, 203X
 ―MMS-Shop 『ALCemist』, 『Manseibashi Musen-Assembly Hall』.
 
 軽く追跡した末に辿りついたのは、地下にあるMMSショップだった。
「錬金術師、とはなかなか妙な名前だな」
「いいからさっさと入んなよ。ボクにゃ、どうも苦手な感じだ」
 と言い、自動ドアに踏み込むと中に入る。烈風は同時にミラの髪の中に隠れた。
 店の奥に、こちらに背を向けた白衣を纏う小柄な少女が一人。
『…またか? しつこいぞ! あんな下らん注文など……』
「私は一見なのだが…日本のジョークは独特なのだな」
 すると、黒髪の小柄な少女は振り向いて、
「む? ……何だ、違う客か」
 と言って、ミラを見上げた。丸眼鏡越しに見上げるその眼差しは鋭い。
「取り敢えず落し物を返しにきた。何があったかは知らないが、誉められた事ではないな」
 と言って、先程拾ったL字定規を差し出すと、白衣の少女はパッと受け取った。
「むぅ、見ておったのか……」
「客を選ぶのは妥協しても、作業道具を投げつけるのは感心しないな」
 と言って、店の周りを見てみる。
 行きつけのラルフの店の『ヘキサ』と似たような、独特のこだわりを感じさせてくれた。唯、大きく違う点はそのこだわりが衣服に大きく傾いている事だ。
「それで、何か用件はあるのか?」
「用件も何も……落し物を返しに来ただけなのだが、下らん注文か。ここはオーダーメイドもしているのか」
「うむ」
「生憎、客として来た訳ではないが……いや、折角だ。ちょっと待って欲しい」
 と言って、ミラは再度トランクの一部ををスライドさせる。
「震電、君の銃を点検に廻したい。それと連山、折角だから見て行くか?」
 すると最初に、
「私の腕の延長だ。完全に他人任せなど出来ん」
 合計7丁の銃を抱えた震電がトランクの上によじ登り、
「お待たせ~♪ うわ~すっごい~おしゃれなお店だ~♪」
 綺麗に空中三回転して、猫耳・猫尻尾の連山がミラの肩まで飛び上がった。
 ここ『ALCemist』には、良い意味で大変よく作られた衣服が多い。だが、烈風も震電もお洒落にはまるで無関心どころかどちらかといえば嫌う傾向にあるのだ。
「それでは点検を任せたい。連山、何か買うか?」
「いっぱいありすぎて~どれにしようか迷っちゃうよ~♪」
 と言って、ミラと連山は店の中を歩いた。烈風は未だミラの髪の毛に隠れていた。
 カウンターの上に下りた震電は合計7丁もの銃器を静かに下ろし、差し出した。
「何なんだこの銃器類は……いや待てこれは…」
「この店がドレス類に拘るように、銃に拘る店もあると言うことだ」
「既存の銃の改造品……にしては随分と手が込んでいるようだ」
「幾つかは私が拵えた。威力よりも精度を念頭に置いた」
 白衣の少女は7丁もの銃器を一通り眺めて、感嘆としながらそれらを預かった。
 
 暫くして、
「ねえねえミラちゃん~烈風~似合う似合う~っ?」
「そのドレスも駄目だな。君の体型に合うドレスが無い」
 連山の体型は、一般的な神姫と比べ物にならない程に肉付きがよく、呆れるほどに豊満である。
 この『ALCemist』にしても、連山の体型に合う服はなかなか見つからず、無理に着ようとすれば非常に際どい格好になってしまうことが多かった。
「うぁ…止せ、頼む、過激すぎる、今見せるな…抑えきれねぇ…」
「れっぷぅ~…嫌なの~こっち向いてよ~?」
「うあぁぁぁっ、ここで胸を押し付けるな、絡み付くな、触れるなぁぁぁっ!?」
 烈風は、押さえ込むべき何かと必死に戦いながら、本当は見たくて見たくて仕方がない、連山の晴れ姿に背を向けていた。
 と、半ばファッションショーのように楽しんでいる一方、
「『ピースビルダー』は……これで十分だろう」
 と、震電にそれを差し出す。
 リボルバー式のそれの重さをグリップ部分で確かめつつ、店の各所に狙いを定め、最後に綺麗なガンスピンを決めて仕舞った。
「マイスターと言ったか、悪くない腕だ」
「どうでもいいが、何故レーザーやマシンガンを使わんのだ?」
 と、マイスターと呼ばれたその少女の問いに震電は、
「一発の弾丸で一体の神姫を仕留める事が出来る。尤も、それが特殊な神姫ならな」
「……ほぅ、レーザーやマシンガンが通じない神姫と戦うのか」
 と、マイスターはマイスターで何か納得したようだった。
 
 そして、
「マイスターか。点検に感謝する。然し、君が店長だと思わなかったな」
 ミラはマイスターと呼ぶその少女に話しかけた。
 最後の最後で震電から話を聞いて、やっとこの少女が何者であるのか分かったのだった。
「ほっとけ。だが、あの連山という、サンタ型神姫に合う衣服がなかったとは迂闊だったな…」
「連山の体型の方が狂っているだけだ。見つかったら奇跡かもしれない」
『ふえぇぇ……ミラちゃんが酷いぃぃぃ…』
 トランクの中から、連山の恨めしげな声が聞こえてくるがそれはどうでも良いとして。
 そこで、マイスターが一つ聞いてきた。
「ところで、明日開かれる『鳳凰カップ』に出場するつもりか?」
 その問いかけにミラは暫く考え、
「行く事は行くが…忙しくなるから出場は出来ない。君は?」
「出場のついでにブースも出す。暇を見つけたら覗くが良い」
 マイスターを名乗るこの少女も鳳凰カップの出場者であり、守るべき存在なのだとミラは認知した。
 特に彼女のような、類稀なる神姫への愛情を注ぐ人物は特に尊重すべきなのだ。
「そうか、ありがとう。君と君の神姫の健闘を期待するよ」
「ミラもな…」
 軽く会釈すると、ミラは『ALCemist』を出て行った。
 
 
 ―AM:20:55 March XX, 203X
 ―Imperial Floor『Sweet』, Grand Hotel.
 
 店を出て行った後は再度、特設スタジアムを歩きまわったことくらいだった。また5つ程新たに予測ポイントを見つけたのでそれは収穫とすべきか。
 疲労が溜まってきたところで、ミラはチェックイン済みの部屋に向かって休む事にした。
 最上級の部屋だけあり、内装は派手派手しすぎることなく落ち着いたデザインながらも高級感を感じさせ、特に居心地のよさを考えて設計されていた。
 最上級のセキュリティに、プールにサウナやフロアアテンダント……と説明していけばきりがなくなるので割愛するが、必要以上に整った設備はミラには十分すぎた。
 夕食を済ませた後、
「料金さえ考えなけりゃ、ゆっくり休めそうだな?」
「高くても部屋は部屋だ。多少過ぎていてもシャワーとベッドがあればいい」
 ベッドの上でトランポリンのように跳ねる烈風に対し、ミラはあっさり返答した。
 震電と連山は既に、専用クレイドルで眠りに就いていた。
「さて、烈風は主に嗅覚を活かした調査及び解体、震電には”フレスヴェルグ”の機動力を活かしつつ早期警戒を兼ねた解体をし、連山にはVRフィールド、また特に危険だと判断した爆弾の解体に挑んで貰うか」
「幾らレンが頑丈とは言え、あんまやばい事をさせるな。ボクだってな…」
「私情を挟んで解体に挑んで貰っては困る。君は連山ほど器用ではあるまい」
 そう指摘され烈風は仕方なく、
「チッ…『アルカナ』め、レンを危険な目に遭わせたら唯じゃ済まさねぇ」
「いいから君も早く眠る事だ。大概の爆弾テロは、施設が破砕されるところが見えやすいところにいる。増して、表彰式のタイミングを見計らうことが出来るのだから…」
「あぁ、この部屋みたいに高い位置にありながらテレビもある、そんな場所か?」
「そう言う事だ………ふぅ、シャワーを浴びてくるか。懸念すべき事が無くなったら、早く眠れよ」
 と言って、ミラはシャワールームへ向かった。
 烈風は特設クレイドルにもたれかかりながら、
「ミラの推理が正しけりゃ…最初に解体すべきは……『THE MAGICIAN』……だな………」
 
 こうして、開会前日と言う束の間の平穏は夜の闇と共に幕を閉じた。
 明日からは多くの人命を掛けた戦いとなる。だが、その事実は決して他に知られてはならない。
 
 
 ――『鳳凰カップ』開催まで後、十数時間……。

 

 

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