メニュー

トップページ
作品ページ
サイト内検索

作品別直リンク

(最終更新年度順)

完結作品

武装神姫のリン
戦う神姫は好きですか
妄想神姫
ツガル戦術論
2036の風
剣は紅い花の誇り
クラブハンド・フォートブラッグ
ホワイトファング・ハウリングソウル
ハウリングソウル
ウサギのナミダ
アスカ・シンカロン
引きこもりと神姫
キズナのキセキ
魔女っ子神姫☆ドキドキハウリン
浸食機械
ゆりりね!

2015年

えむえむえす ~My marriage story~

2014年

ぶそしき! これから!?
デュアル・マインド
15cm程度の死闘
悪魔に憑かれた微駄男
Nagi the combat princess
えむえむえす ~My marriage story~

2013年

ねここの飼い方
白の女神と黒の英雄
深み填りと這上姫
キズナのキセキ
武装食堂
二アー・トゥ・ユー

2012年

美咲さんと先生
二人のマスター
類は神姫を呼ぶ
浸食機械
引きこもりと神姫
ライドオン204X
フツノミタマ
白濁!? 阪高神姫部
白い英雄を喰う黒い女神
マイナスから始める初めての武装神姫

2011年

流れ流れて神姫無頼
アスカ・シンカロン
MMS戦記
天海市神姫黙示録
UGV(仮)
Forbidden Fruit
すとれい・しーぷ
車輪の姫君
樫坂家の事情!
Slaughter Queen Esmeralda.

2010年

おまかせ♪ホーリーベル
戦うことを忘れた武装神姫
Gene Less
The Armed Princess―武装神姫―
ウサギのナミダ
PRINCESS BRAVE
神姫☆こみゅにけ~しょん
アルトアイネス奮闘姫
ロンド・ロンド

2009年

せつなの武装神姫
双子神姫
鋼の心 ~Eisen Herz~
犬子さんの土下座ライフ。
狛犬はうりん劇場
Memories of Not Forgetting
Knuckle princess

2008年

武装神姫のリン
『不良品』
師匠と弟子
マリナニタSOS!(仮)
橘明人とかしまし神姫たちの日常日記
戦う神姫は好きですか
スロウ・ライフ
徒然続く、そんな話。
妄想神姫
幻の物語
神姫ちゃんは何歳ですか?
剣は紅い花の誇り
EXECUTION
武装神姫~ストライカーズ・ソウル~
神姫長屋の住人達。
三毛猫観察日記
クラブハンド・フォートブラッグ
武装神姫と暮らす日常
ネコのマスターの奮闘日記
ホワイトファング・ハウリングソウル
ハウリングソウル
Heart Locate
トバナイトリ>トベナイトリ
3Sが斬る!
天使のたまご
Raven and Cat~紅き瞳と猫の爪~
神姫大作戦
蒼空~アオゾラ~

2007年

Mighty Magic
神姫狩人
凪さん家シリーズ
HOBBY LIFE,HOBBY SHOP
いつか光り輝く
幸せな神姫を戦場に立たせる会
春夏秋冬
アールとエルと
Twin Sword's
俺とティアナの場合
ツガル戦術論
2036の風
きしぶし!
流れ星シィル-銀河流星伝説-
神姫ガーダーシリーズ
sister G princess
Les lunes
Second Place -Howling-
Elysion
Report "vanish archetype"

鳳凰杯・まとめページ

単発作品用トップページ

武装神姫SS総合掲示板

2036年 武装神姫の世界 (公式設定)


50音順キャラクター図鑑
標準武装一覧
標準装備一覧
企業一覧
アマチュア・個人製作パーツ一覧
wiki相関図
キャラ相関図(2chまとめ版)
小道具関連設定
〈2つ名〉辞典



※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

ウサギのナミダ・番外編

少女と神姫と初恋と

その5



 オルフェは、目の前にいる神姫たちの態度を奇妙だと思った。
 彼女の一番の友人であるパティは、真面目な表情ながらもくつろいだ様子で、何事か話している。
 話しかけられている黒いバニーガール型の神姫は、オルフェのデータベースにないタイプだ。おそらくオリジナルなのだろう。
 彼女は、先ほどの遠野という人物の神姫だ。
 しかし、マスターの態度とは正反対で、やたらと恐縮した様子で、ちらちらとこちらを見ている。
 なのに、パティが下へも置かない態度なのも不可解だった。
 もう一人はイーダ・タイプで、やたらとくつろいでいて態度も大きい。

 ここはファミレスのテーブルの上。それぞれのマスターたちがテーブルを囲んでいる。

「作戦会議はマスターに任せて、神姫同士親睦を深めましょ」

 と言ったのは、ミスティと名乗るイーダ・タイプだった。
 それでこのように車座になって話しているのだが、見た目の印象とマスターの印象と、現在の態度が、何ともちぐはぐに思えた。
 オルフェは不信の目を向けながら、尋ねた。

「あの……」
「なに?」
「本当に、『玉虫色のエスパディア』を倒す方法なんて、あるんでしょうか?」
「ああ。タカキがそう言うんだから、あるんでしょ」

 あっけらかん答えたのはミスティである。
 仏頂面で苦言を呈したあの男は、別のマスターの神姫からこうも信頼されているのか。
 それにしても、その当人の神姫はまったく頼りなく見える。
 ミスティとは間逆、オルフェとの顔合わせに恐縮しきっている様子だ。
 彼女の方が武装神姫としては先輩のはずなのに。
 オルフェの視線に気づいたのか、ミスティが彼女をつついた。

「ほら、あなたも何か言いなさいよ、ティア」
「あ……その……マスターは、できないことは言わない人ですから……」

 弱々しげに微笑む黒いウサギを見て、オルフェは驚いた。
 ティアと言う名のバニーガール型の神姫。
 つい最近、マスターが話しているのを聞いた。
 八重樫さんと、マスターのお姉さんが絶賛するという、高機動地上型のオリジナル神姫。

「ティアって……それじゃあ、あなたが、あの『ハイスピードバニー』なんですか!?」
「はい」

 ティアはなぜか、困った顔をして頷いた。



「あなたが『ハイスピードバニー』のマスター!? あの、運命さえ覆したっていう……」
「誰だ、そんなこと言ってるのは」

 安藤の言葉に、遠野は腕組みして渋い顔になった。
 機嫌の悪さが増しているような気がする。
 美緒は身を縮めざるをえない。
 安藤にそう吹き込んだのは彼女なのだ。
 向かいに座る遠野の隣にいる菜々子が、吹き出して肩を震わせている。
 笑い事じゃないんですけど、と美緒は菜々子をそっと睨んだ。

 四人のボックス席には、美緒、安藤、遠野、菜々子が座っている。
 もう一つ、隣のボックス席を残りの四人で占拠していた。
 遠野の背中側から振り向いて、大城と涼子が話を聞いていた。
 遠野は小さく咳払いして、本題を切り出した。

「……俺の策は『玉虫色のエスパディア』との勝率を上げるだけで、必勝の策じゃない。それでいいなら話すが……どうする?」
「お願いします」

 安藤は即答した。
 いまのままでは、確実に負けなのだ。八重樫を本当に救うなら、蜂須との対決に勝たなくてはならない。
 彼はこの対戦に勝つためなら、どんなことでもするつもりだった。すでに覚悟を決めていた。
 それに、あの姉が心酔する、八重樫たちが尊敬する、ハイスピードバニーのマスターの策なのだ。ほかの誰の策よりも有効だと信じられた。

「そうか。じゃあ話そう。
 さっきから言ってるとおり、君とヤツとでは実力差がありすぎる。
 初心者がベテランに勝とうとするなら……奇襲による短期決戦、手数で圧倒……ってところだろうな」
「セオリーね」

 菜々子が頷いた。
 実力差のある相手に対し、長期戦はあり得ない。
 ベテランの方が戦い方の引き出しが多いので、長期戦になるほど対応できない初心者の方が不利になる。
 奇襲で相手が対応できないところを一気に叩く。それは戦力差のある敵と戦うときの基本中の基本である。

 遠野は『玉虫色のエスパディア』に対する策を話した。
 安藤はそれを真剣に聞き、その策で一週間後の土曜日に戦うと約束した。
 遠野は頷くと、さらに細かな指示を出した。

「とりあえず、今日から君らは、バトル当日までノーザンには行くな」
「え?」
「練習するところを見られて、どんな策か悟られるわけにはいかないだろう。
 だけど、そうなると、別の練習場所が必要だな……」
「『ポーラスター』でいいんじゃない? わたしが話を通すわ」

 菜々子はそう言って、遠野に頷いて見せた。
 『ポーラスター』は、『エトランゼ』久住菜々子が本来ホームグランドとしているゲームセンターである。
 そこでようやく、遠野は微笑む。

「あそこなら問題ない。よろしく頼むよ」

 菜々子がにっこり笑って承諾した。
 その二人の姿を見て、美緒はあまりの憧れと眩しさに、頭がクラクラしてくる。
 そんな美緒には気づかず、遠野は背後のシスターズにも声をかける。

「君たちも、この一週間は『ポーラスター』に通って、安藤くんの練習を手助けしてくれないか」
「もちろんです!」
「言うまでもなく」
「手伝うよ~!」

 と、彼女たちは二つ返事で請け負った。
 安藤は頭を下げた。

「遠野さん……ありがとうございます」
「……別に、君のためじゃない」
「え?」
「君を助ける義理はないが、八重樫さんは別だ」

 その言葉に、美緒は思わず顔を上げた。

「八重樫さんには……ティアを助けてもらっているしな。井山との戦いでは、ティアのために真っ先に叫んでくれた。
 その恩人があんなヤツに弄ばれようとしてるのに、黙っているわけにはいかないだろう」

 遠野の視線はいつもよりも優しく感じられた。
 テーブルの上を見れば、ティアがこちらを見上げ、やはり優しげに微笑んでいる。
 こんなに誇らしいことがあるだろうか。
 尊敬する神姫マスターに、そんな風に思われていたなんて。
 胸が詰まる。

「ありがとう、ございます……」

 美緒は深くお辞儀をした。
 きっと安藤とオルフェは勝てるに違いない。
 そのために、わたしにできることを精一杯やろう。
 そう誓う。
 そして気づく。
 その想いは、かつて菜々子が遠野のために誓ったものと同じだ、ということに。 

「礼は、勝ってからにしてくれ」

 顔を上げると、遠野は居心地悪そうに明後日の方向を向いていた。
 その隣で、菜々子はくすくすと笑っている。



「やっぱり遠野くんは優しいね」
「俺が?」
「そうよ。なんだかんだ言って、安藤くんを助けてあげるじゃない」

 ファミレスからの帰り道。
 陸戦トリオだけになったところで、菜々子はそんなことを言った。
 蜂須の言葉に、遠野は怒り、安藤を助けて美緒を守ろうとしている。
 しかし、遠野は首を振った。

「確かに、八重樫さんのために彼の手助けをするのは嘘じゃない。だけど、理由はもう一つある」
「え?」
「……そろそろ、『三強』の権威を失墜させておく必要がある。今回はいいチャンスだ」

 予想していなかった遠野の言葉に、大城も驚いた。

「三強の権威を失墜って……なんだそれ」
「やつらは言ってみれば井の中の蛙だ。ノーザンというゲーセンの中だけで強いことに満足してしまっている。
 しかも、それを傘にきてやりたい放題。『ノーザンクロス』での対戦環境は悪くなる一方だ。
 これではノーザンのバトルロンドのレベルが上がるはずがない。
 だから、俺たちが動きやすい環境にするためにも、もう一度、三強を叩きのめして、やつらの評判を地に落とす必要がある」

 遠野はあの『ポーラスター』を思い出す。
 あのゲーセンには、あの時以来たびたび行っているが、行くほどに対戦環境が充実していることに羨望を抱くのだ。
 菜々子は顎に手を当てて、考えながら言う。

「なるほど……三強はわたしとミスティが一度叩きのめした。
 大城くんたちが、三強を下して、ランキングバトルで一位を取った。
 三強の威信が揺らいでいるところに、安藤くんを勝たせることで、さらに大きな揺さぶりをかけるわけね」
「そうだ」

 遠野は頷いた。
 だが、大城はなおも首を傾げている。

「だけどよ……そううまくいくもんか? 安藤は初心者で、玉虫色はノーザンじゃまだまだ強い方だぜ?」
「うまくいかせるんだ。そのための策だ。
 そこで大城……君にもやってもらいたいことがある」
「へ……俺?」

 不意に振り向いた遠野の視線に、大城は大いに戸惑った。



 翌日から、LAシスターズと安藤の姿が、行きつけのゲームセンター『ノーザンクロス』から消えた。
 学校でも武装神姫の話はろくにしないし、放課後はそそくさと帰ってしまう。
 何か企んでいることは確実だが、蜂須は気にしていなかった。

「どうせ悪あがきだろ。それとも、俺に恐れをなして、逃げ出したのかもな! あーっはっはっは!」

 蜂須の高笑いを、大城は一人、じっと聞いていなくてはならなかった。
 正直ムカつく。
 今すぐにでも因縁つけて、バトロンでも喧嘩でもふっかけてやりたい。
 LAシスターズも菜々子もいないことが、大城の不機嫌に拍車をかけている。
 だが、ここはぐっと我慢しなくてはいけない。
 彼が『ノーザンクロス』で一人くすぶっているのには訳があるのだ。
 蜂須のチーム『レインボー・ブレイカーズ』の動向を探るためである。
 これは遠野の指示だった。
 玉虫色に勝つためには、どうしても連中を見張って動向を見守る必要がある、と遠野は言った。
 その役目には、大城が一番適任なのだという。
 美緒のピンチでもあるし、そもそも蜂須はいけすかないし、遠野の指示でもあるので、渋々引き受けた。

 だが、拍子抜けするほど何もない。
 連中は、至っていつも通り、毎日ゲーセンにやってきては、つるんでくだらない話をしているだけだ。
 バトルもするが、週末に向けて特別な練習をしているわけではない。
 そんないつも通りの様子を遠野に携帯端末で報告する。
 本当にこの程度の報告で、何か役に立っているのだろうか。
 疑問を一度、遠野にぶつけたところ、とても役に立っていると感謝された。
 大城の疑問は深まるばかりだ。
 彼が首をひねっているうちに、週末の土曜日はやってきた。



 バトルの時間は、土曜日の十一時と指定されていた。
 壁際のいつもの位置で、遠野と大城はバトルが始まるのを待っている。
 レインボー・ブレイカーズの連中は、先に来て筐体を陣取っていた。
 メンバー同士で軽く練習しているが、『玉虫色のエスパディア』ことクインビーの調子は悪くなさそうに見える。
 大城は大丈夫なのか、と遠野を見るが、彼はいつもながら表情が読めない。
 鋭い視線でレインボー・ブレイカーズの動向を見ているばかりだ。
 玉虫色のマスター・蜂須は、

「安藤はまだかよ。オレが怖くて逃げ出したんじゃねーだろーな?」

 と言って笑う。
 大城は歯噛みしていたようだが、遠野に気にした様子はなかった。
 むしろティアの不機嫌そうな表情に、虎実は首を傾げる。
 いつも穏やかな彼女がそんな表情をするのは珍しい。

「なにむくれてんだ、ティア?」
「……この試合のせいで、朝のお散歩がなくなりました」

 近所の公園への散歩は、遠野とティアの週末の日課だったはずだ。
 虎実は思わず吹き出しそうになり、口を押さえた。
 むう、と頬を膨らませて睨むティアもまた珍しい。

 十時五十分、ゲームセンターの自動ドアが開いた。

「来たぞ!」

 誰かの叫ぶ声。
 安藤が先頭で、LAシスターズを引き連れて入ってきた。
 遠野は顔を上げた。
 忌々しげな顔をした蜂須の向こう、安藤の顔が見える。
 一週間前、この場所で遠野に頭を下げに来たときとは、見違える表情だ。
 眼光は鋭く、緊張した表情だが、自信に満ちあふれている。
 やるべきことをすべてやり尽くした者の顔だ。
 安藤は、筐体を挟んで、蜂須と向かい合う。

「おせーぞ、安藤」
「時間はまだ一〇分前だ。それでもお前がはじめるというなら、はじめよう」
「けっ……逃げ出しておけばいいものを……めんどくせえ。さっさとはじめようぜ」

 二人は筐体に座ると、神姫のセッティングを開始した。



 一番最後に入ってきた久住菜々子は、安藤の後ろから離れ、定位置である遠野の隣に立つ。
 すかさず遠野が尋ねた。

「仕上がりは?」
「上々ね」

 わかってるくせに、と付け加えて、菜々子は苦笑した。
 遠野はギャラリーが集まっている筐体の方を見る。
 比較的空いている土曜の午前中にもかかわらず、この勝負には多くの観客が集まりっていた。
 三強のエスパディア・タイプと、新型のアルトレーネ使いのルーキーが対決する一戦。
 人気のLAシスターズのリーダー・八重樫美緒のチーム移籍がかかっていると、レインボー・ブレイカーズのメンバーたちが、この一週間、吹聴して回ったのだ。
 だから、注目度の高い試合となっているのだった。
 そんなギャラリーの隙間から、対戦者たちの顔がよく見える。

「顔つきだけなら圧勝だが」

 遠野のつぶやきにつられ、大城もそちらを見た。
 安藤の顔は緊張していた。だが、固くなってはいない。神姫のセッティング作業も落ち着いたものだ。バトルを前に、いい緊張を保っているようだ。
 対して、蜂須は憎々しげな顔を、だらりと緩めるところだった。
 美緒をなめ回すように見つめている。すでに、バトルに勝ったあとのことで、頭はいっぱいなのだろう。
 美緒はやはりうつむきながら蜂須の視線に耐えていたが、先週ほどの弱々しさはなかった。
 この一週間の特訓で、安藤との絆も、シスターズ同士の絆も、深まったのに違いない。
 だが、大城はやはりさっぱりわからなかった。
 彼だけが蚊帳の外で、安藤の練習を見ていないのだ。

「なあ、オルフェはどうやって玉虫色に勝つって言うんだ?」
「見ていれば、すぐにわかる。そんなことより……君たちも準備しておいてくれ」
「は?」

 頭の上にクエスチョンマークを浮かべている大城に、遠野はこともなげに言った。

「安藤が負けたら、バトルロンドなら久住さんが、喧嘩なら大城が、玉虫色をぶっとばすんだろ?」
「おい……そりゃずりーだろ……そもそも、そうするのに意味がないって言ったのはお前だろが」
「保険だ、保険。そうでもなきゃ、こんな危険な賭けに、俺の策で戦わせられるものか」

 大城と菜々子は顔を見合わせて、同時に肩をすくめて苦笑した。
 それでも二人は、安藤の勝利を疑わない。
 そう、自分たちは万が一の保険にすぎないのだ。



 アクセスポッドに手をかけ、入り込もうとする自らの神姫を、安藤は呼び止めた。

「……オルフェ」
「はい、マスター」
「……こういうときは、何かお前に声をかけるべきなのかな」  

 この一週間は、スパルタ訓練の日々だった。
 遠野から送られてくる緻密な練習スケジュールは、はじめて見たときにはちょっと気が遠くなった。
 その指示に従い、LAシスターズとエトランゼを相手に、バトルロンドの基礎と、今回の作戦を、文字通りたたき込まれた。
 神姫と向き合い、ひたすらにバトルした一週間。
 正直言って、きつかった。半端じゃなかった。
 しかし、つらいだけではなかった。
 バトルロンドの奥深さを知り、自分の神姫との信頼を深めることは、とても楽しいことだった。
 その努力の結果が、もうすぐ出ようとしている。
 オルフェは安藤を見つめて、言った。

「お願いします。マスターの想いを聞かせてください」
「バトルが始まれば、もうお前だけが頼りだ……俺の手は及ばない……だから、頼む、勝ってくれ」
「わかりました。勝ちます。……だから、マスターはわたしが勝つと信じてください」
「ああ、信じる。信じてる、オルフェ」
「はい!」

 にっこりと笑いかけたあと、オルフェはアクセスポッドに収まった。
 素直さとまっすぐさ、ポジティブな姿勢。オルフェは決して状況を悲観しない。あきらめない。
 ならば、俺もオルフェを信じよう。
 安藤は気持ちを奮い立たせる。
 前を向く。
 強敵と向かい合う。
 蜂須は、いつものようにいやらしい笑いを顔に貼り付かせていた。

「小細工の準備は終わったか?」
「小細工なんてしない。正々堂々戦う。そっちこそ卑怯な真似とかしないだろうな?」
「誰に口利いてんだ、てめえ。ノーマル装備でも、てめえのヘタレ神姫ごとき、楽勝だ。八重樫は俺たちのもんだぜ」
「まだ決まった訳じゃない。それに、八重樫は物じゃない」
「けっ、ほざけ……さっさとはじめようぜ」
「……わかった。はじめよう」

 二人は同時にスタートボタンを押した。
 観戦用大型ディスプレイに、このバトルが映し出される。
 対戦カードが立体文字で表示される。

「オルフェ VS クインビー」

 ギャラリーからひときわ高い歓声が上がった。
 美緒は、祈るように、胸の前で手を組んだ。
 シスターズの三人は、はらはらとした表情で、観戦用ディスプレイを見上げている。
 様々な思いが交錯する中、運命のバトルは幕を開けた。








| 新しいページ | 編集 | 差分 | 編集履歴 | ページ名変更 | アップロード | 検索 | ページ一覧 | タグ | RSS | ご利用ガイド | 管理者に問合せ |
@wiki - 無料レンタルウィキサービス | プライバシーポリシー