鋼の心 ~Eisen Herz~
インターミッション02:CSC(その1)
目を覚ませば白亜の天井。
一番最初の感覚は虚脱感。
そして、周囲を見渡そうとしてその違和感に気付く。
(……からだ、うごかない……?)
頭には霞が掛かったように混濁し、意識さえはっきりとしていない。
指は、動く。
だが、腕や身体はまるで重りをつけたかのように重く、彼女の力では動かせない。
「…ぁ、ぅあ」
喉が枯渇し、声さえ出せず、京子はその時点で自分の名前と、妹の存在を思い出した。
一番最初の感覚は虚脱感。
そして、周囲を見渡そうとしてその違和感に気付く。
(……からだ、うごかない……?)
頭には霞が掛かったように混濁し、意識さえはっきりとしていない。
指は、動く。
だが、腕や身体はまるで重りをつけたかのように重く、彼女の力では動かせない。
「…ぁ、ぅあ」
喉が枯渇し、声さえ出せず、京子はその時点で自分の名前と、妹の存在を思い出した。
◆
『ティターン』沈没の理由は明らかになっていない。
ただ、何かに衝突されたらしいと判っただけだ。
ネットでは様々な憶測が飛び交い、岩礁から、流氷、UMA(未確認生物)、某国の原子力潜水艦、果てはテロであった事を隠蔽する為の情報操作説まで飛び出した。
だがしかし。
原因が明かされた所で、喪われたモノは還って来ない。
命も、心も。
記憶も、……身体も。
ただ、何かに衝突されたらしいと判っただけだ。
ネットでは様々な憶測が飛び交い、岩礁から、流氷、UMA(未確認生物)、某国の原子力潜水艦、果てはテロであった事を隠蔽する為の情報操作説まで飛び出した。
だがしかし。
原因が明かされた所で、喪われたモノは還って来ない。
命も、心も。
記憶も、……身体も。
◆
目を覚ました時には既に、事故の事を報道する局は無くなっていた。
21世紀最悪の海難事故は、多少の同情と興味、噂と憶測、死者と遺族、そして被害者を残して話題からは消え失せた。
ニュースでは政府要人の汚職を取り上げ、人々は当たり前のような日常を謳歌している。
一月で、世間の話題は移り変わる。
それが日常。
それが、平穏であるということ。
21世紀最悪の海難事故は、多少の同情と興味、噂と憶測、死者と遺族、そして被害者を残して話題からは消え失せた。
ニュースでは政府要人の汚職を取り上げ、人々は当たり前のような日常を謳歌している。
一月で、世間の話題は移り変わる。
それが日常。
それが、平穏であるということ。
だが、それは。
土方京子には最早手の届かない、遠望の彼方であった。
土方京子には最早手の届かない、遠望の彼方であった。
「……CSC?」
「そうです。極めて稀な精神的症状です」
近藤と名乗った医者は、真紀の現状をそう説明した。
「日本ではまだ4件しか例のない、症例でして。海外の研究機関でも盛んに研究が行われていますが、未だ然したる成果もありません」
カルテに目を落とす医者の言葉が、京子の不安を煽る。
「……妹は。……真紀は、どうなったんですか……?」
「……会えば、分かります」
「そうです。極めて稀な精神的症状です」
近藤と名乗った医者は、真紀の現状をそう説明した。
「日本ではまだ4件しか例のない、症例でして。海外の研究機関でも盛んに研究が行われていますが、未だ然したる成果もありません」
カルテに目を落とす医者の言葉が、京子の不安を煽る。
「……妹は。……真紀は、どうなったんですか……?」
「……会えば、分かります」
◆
人は理性で生きるのだろうか?
例えば、不老不死が実現したとする。
“彼/彼女”は死なず、老いず、朽ちず、永久の時を生きる。
“彼/彼女”は死なず、老いず、朽ちず、永久の時を生きる。
それで。
“彼/彼女”は、如何するのだろうか?
“彼/彼女”は、如何するのだろうか?
餓えても死なないのであれば、食事の必要は無い。
害せるモノが無い以上、危険を避ける必要も無く、その為にモノを見る必要もない。
害を避ける必要が無いのであれば、学習も、反射も必要ない。
害を退ける必要が無いのであれば、群れることも必要ない。
それは社会を形成する必要も、その一員である必要も無いと言うことだ。
故に、会話も、必要ない。
害せるモノが無い以上、危険を避ける必要も無く、その為にモノを見る必要もない。
害を避ける必要が無いのであれば、学習も、反射も必要ない。
害を退ける必要が無いのであれば、群れることも必要ない。
それは社会を形成する必要も、その一員である必要も無いと言うことだ。
故に、会話も、必要ない。
人は無限には生きられない。
故に世代交代を行う。
故に、愛し、子を残し、自らの系譜を自らの代替とし、擬似的な不死のシステムを構築する。
故に世代交代を行う。
故に、愛し、子を残し、自らの系譜を自らの代替とし、擬似的な不死のシステムを構築する。
だが。
自身が不死であれば、それら全てが必要無い。
性欲も、愛も。
自身が不死であれば、それら全てが必要無い。
性欲も、愛も。
何も無くても困らない。
だから、求める必要も無い。
だから、求める必要も無い。
果たして、不老不死となった“それ”は、一体なんの為にその命を繋ぐのだろうか?
◆
…。
◆
本能の全ては、自己の保存、あるいは代替の継承を目的として構築される。
言い換えれば、『感情』は、生きる為にこそ必要なのだろう。
言い換えれば、『感情』は、生きる為にこそ必要なのだろう。
では、『感情』を失ったら、人は生きられるのだろうか?
◆
生気が感じられない。
京子は嘲笑う。
物理学で証明できないことは、存在しないか、瑣末ごとであるか、の何れかだと。
そう信じていた。
物理学で証明できないことは、存在しないか、瑣末ごとであるか、の何れかだと。
そう信じていた。
だが、今になって思う。
生きると言うことは特別なことなのだと。
生気。
生きる、気概。
それを、本当の意味で持たない人間が、これ程までに異形じみて見えるとは、思いもよらなかった。
生きる、気概。
それを、本当の意味で持たない人間が、これ程までに異形じみて見えるとは、思いもよらなかった。
今。
目の前で一人の少女が“ある”。
“いる”のではなく、“ある”。
ここに“ある”事に、彼女の意思はどんな形にも働いていない。
肯定も、否定も、享受も、逃避も。
何も感情の無い、人間の形をした肉塊。
目の前で一人の少女が“ある”。
“いる”のではなく、“ある”。
ここに“ある”事に、彼女の意思はどんな形にも働いていない。
肯定も、否定も、享受も、逃避も。
何も感情の無い、人間の形をした肉塊。
言葉も話さない、京子を見ようともしない。
そんな、ヒトのカタチをした肉塊。
そんな、ヒトのカタチをした肉塊。
それが、今の土方真紀。
京子の妹だった。
京子の妹だった。
「……完治したという症例もあります。妹さんも、きっと元に戻る筈です」
「…………」
それ以前に。
「……コレ、本当に真紀なんですか?」
拭いきれない違和感。
半分になってしまった視界の中に“ある”“それ”が、自分の妹だったとは到底思えなかった。
「……真紀は、少し抜けてて。純粋で、騙されやすくて。能天気で、楽天家で、いつも笑っているような……」
涙が半分しかこぼれない。
「……悲しいことや、辛いことがあっても、全部知らない振りできる、とても、強い、子で……っ」
悲しみも半分になってしまったかのか、こぼれる涙とは裏腹に映画のスクリーンを見ているような疎外感。
「…………」
それ以前に。
「……コレ、本当に真紀なんですか?」
拭いきれない違和感。
半分になってしまった視界の中に“ある”“それ”が、自分の妹だったとは到底思えなかった。
「……真紀は、少し抜けてて。純粋で、騙されやすくて。能天気で、楽天家で、いつも笑っているような……」
涙が半分しかこぼれない。
「……悲しいことや、辛いことがあっても、全部知らない振りできる、とても、強い、子で……っ」
悲しみも半分になってしまったかのか、こぼれる涙とは裏腹に映画のスクリーンを見ているような疎外感。
「……教えて下さい」
京子は、頭を下げた。
「……如何すれば……」
もうこれ以上。
「……如何、すれば……」
真紀を。
「……妹を、治せるんですか?」
見ていられなかった。
京子は、頭を下げた。
「……如何すれば……」
もうこれ以上。
「……如何、すれば……」
真紀を。
「……妹を、治せるんですか?」
見ていられなかった。
◆
土方京子が搬送先の病院で目を覚ましたのは、事故から一月以上経った時の事だった。
◆
When all are too late, what do you do?
She gave up.
It still continued struggling from habit.
It still continued struggling from habit.
Should I scold whether she should be praised?
I was only able to do comforting her.
橙乃春香菜:著『The guardian of the earth』より抜粋。
インターミッション03:原罪につづく
前回の話に、WEB拍手で突っ込み入れてくれた方が居て、嬉しさのあまり思わず速攻書いたさ。
↑挨拶。
↑挨拶。
メッセージがあると『GJ』だけでも嬉しいものです。
そして、ちゃんと読んでくれているんだと分かる書き込み(貴重な時間を費やしてくれる事も含め)は狂喜乱舞の有様だったり。
そして、ちゃんと読んでくれているんだと分かる書き込み(貴重な時間を費やしてくれる事も含め)は狂喜乱舞の有様だったり。
んでも、返事は如何したらよいものか?
返答を行う場所と、返答の公開、非公開の希望も含めて。
……非公開だと返答も出来ませんが。
返答を行う場所と、返答の公開、非公開の希望も含めて。
……非公開だと返答も出来ませんが。
一応。
『同じ属に属しているので広義の意味で同じものと扱った(相手の反応を楽しみたくて、翻弄する意味もある)』と回答しておきます。
『同じ属に属しているので広義の意味で同じものと扱った(相手の反応を楽しみたくて、翻弄する意味もある)』と回答しておきます。
ツッコミを下さった方、ありがとう御座いました。
また何かありましたら、是非よろしくお願いします。
また何かありましたら、是非よろしくお願いします。
あまり関係ないけど、うみねこと言う単語から真っ先に『マオチャオのリペイント版』を連想する人は何人ぐらい居るのだろうか?
少なくとも、ここに一人(挙手)。
少なくとも、ここに一人(挙手)。
あ、最後の英文は創作です。
文法変かもしれませんが、お目こぼしを。
文法変かもしれませんが、お目こぼしを。
ALC。
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