目次
インターバトル1「プレゼント」
「うっそだろ。なんでほとんどノーマルなのにそんなに強いんだよォ!?」
相手神姫のオーナーが悲痛に叫ぶ。
可能な限り装備を取り付け禍々しい形になっていた相手神姫、忍者型MMSフブキは、レールガンの直撃でデッド判定を受け、ポリゴンの塵となって消滅した。
『対戦終了。Winner,マイティ』
ジャッジAIが勝った神姫の名前を挙げ、そうしてバーチャル接続は解除された。
「マスター!!」
アクセスポッドから出てきて一番、天使型MMSアーンヴァル『マイティ』は、自らのマスターに抱きついた。
「いい戦いだった」
マスターはマイティの頭を人差し指でこしょこしょとなでる。マイティはこれが好きだった。
「ランクが規定値を越えましたよ。これでセカンドリーグに出られますね」
「そうだな……」
ふふ、とマスターが微笑む。影の見える微笑。
「どうしたんですか?」
めざとく見つけるマイティ。もう長い付き合いになるからな、とマスターは思った。
「いや……」
「あの、片足のストラーフのことですか」
お前はどうしてそう的確に図星を突くのか。マスターは頭を掻いた。銃器類に対する高い命中適正が売りのアーンヴァルらしいといえばらしいのだが。
「やっぱり、気になるんですね」
「不思議とな。彼らのことは妙に引っかかる」
マスターはコートを羽織り、バッグを提げた。そろそろ本格的に寒くなる季節である。神姫は温度は感じても寒いからどうということはないのだが、マスターは相棒を胸のポケットへ潜らせた。
「あったかいです」
「そいつはどうも」
そのままセンターを出る。今や対戦センターはサードリーグならコンビニ並に建っていた。
「セカンドのバトルをする時は、この辺だと二駅もまたがなければならないな」
「あのストラーフは、やっぱりセカンド以上なんでしょうね」
「サードのネットワークでは見たことが無いからな。あの時はたまたまサードの大会で戦ってみようとしていたのか、あるいはあの後セカンドに上がったのか。……怖いか」
「少し。でも、わくわくしてもいるんです」
マイティはあの片足の悪魔と、もう一度戦ってみたかった。なぜだかは知らない。彼女のことを思い出すと、神姫の闘争本能プログラムが変に活性化するのだった。
「今日はセカンド昇格記念だな」
「えっ?」
突然そう言われて、マイティはきょとんとした。
「好きなものを買ってやるよ」
「本当に!?」
「ああ」
「それじゃあ……」
ふふ、とマイティは、マスターと同じように笑った。こちらは影は無いが。
「前から欲しかったものがあるんです」
相手神姫のオーナーが悲痛に叫ぶ。
可能な限り装備を取り付け禍々しい形になっていた相手神姫、忍者型MMSフブキは、レールガンの直撃でデッド判定を受け、ポリゴンの塵となって消滅した。
『対戦終了。Winner,マイティ』
ジャッジAIが勝った神姫の名前を挙げ、そうしてバーチャル接続は解除された。
「マスター!!」
アクセスポッドから出てきて一番、天使型MMSアーンヴァル『マイティ』は、自らのマスターに抱きついた。
「いい戦いだった」
マスターはマイティの頭を人差し指でこしょこしょとなでる。マイティはこれが好きだった。
「ランクが規定値を越えましたよ。これでセカンドリーグに出られますね」
「そうだな……」
ふふ、とマスターが微笑む。影の見える微笑。
「どうしたんですか?」
めざとく見つけるマイティ。もう長い付き合いになるからな、とマスターは思った。
「いや……」
「あの、片足のストラーフのことですか」
お前はどうしてそう的確に図星を突くのか。マスターは頭を掻いた。銃器類に対する高い命中適正が売りのアーンヴァルらしいといえばらしいのだが。
「やっぱり、気になるんですね」
「不思議とな。彼らのことは妙に引っかかる」
マスターはコートを羽織り、バッグを提げた。そろそろ本格的に寒くなる季節である。神姫は温度は感じても寒いからどうということはないのだが、マスターは相棒を胸のポケットへ潜らせた。
「あったかいです」
「そいつはどうも」
そのままセンターを出る。今や対戦センターはサードリーグならコンビニ並に建っていた。
「セカンドのバトルをする時は、この辺だと二駅もまたがなければならないな」
「あのストラーフは、やっぱりセカンド以上なんでしょうね」
「サードのネットワークでは見たことが無いからな。あの時はたまたまサードの大会で戦ってみようとしていたのか、あるいはあの後セカンドに上がったのか。……怖いか」
「少し。でも、わくわくしてもいるんです」
マイティはあの片足の悪魔と、もう一度戦ってみたかった。なぜだかは知らない。彼女のことを思い出すと、神姫の闘争本能プログラムが変に活性化するのだった。
「今日はセカンド昇格記念だな」
「えっ?」
突然そう言われて、マイティはきょとんとした。
「好きなものを買ってやるよ」
「本当に!?」
「ああ」
「それじゃあ……」
ふふ、とマイティは、マスターと同じように笑った。こちらは影は無いが。
「前から欲しかったものがあるんです」
とあるテストコース。一台の黒いバイク、V-MAXが爆音を上げて賭けてゆく。
しかし乗っているのは間違いなくマイティだった。フルフェイスのヘルメットを被っている。
そう、V-MAXは1/12サイズのミニチュアエンジン付モデル。テストコースもラジコン用のミニサイズである。が、もともとが広大であるため1/12に縮小されたとしても、人が普通に走れるような広さである。
倉庫を改装した行きつけのショップのコースでテスト走行をしているのである。
「まさかバイクを欲しがられるとは思わなかった」
マスターはギャラリー席から、颯爽と駆け抜けるマイティを見ながら言った。
「俺も、バイクを欲しがる神姫は初めて見ましたよ」
隣でV-MAXの調整をした店長が苦笑する。
甲高いミニチュアエンジンの音は、その燃料が切れるまで続いていた。
しかし乗っているのは間違いなくマイティだった。フルフェイスのヘルメットを被っている。
そう、V-MAXは1/12サイズのミニチュアエンジン付モデル。テストコースもラジコン用のミニサイズである。が、もともとが広大であるため1/12に縮小されたとしても、人が普通に走れるような広さである。
倉庫を改装した行きつけのショップのコースでテスト走行をしているのである。
「まさかバイクを欲しがられるとは思わなかった」
マスターはギャラリー席から、颯爽と駆け抜けるマイティを見ながら言った。
「俺も、バイクを欲しがる神姫は初めて見ましたよ」
隣でV-MAXの調整をした店長が苦笑する。
甲高いミニチュアエンジンの音は、その燃料が切れるまで続いていた。
了
「変身!」
「愛ある限り戦いましょう! 魔女っ子神姫ドキドキハウリン! ここに、はいぱー☆降臨っ!!」
そこには制服を着た犬型MMSハウリンではなく、魔法のステッキを模した長射程砲を振りかざした、魔法少女が立っていた。
気がつけばオーナーの女性も同じ格好をしている。
「な、な、なんだあれは?」
天使型MMSアーンヴァル『マイティ』のマスターは我が目を疑った。
「素敵よココー! 初めてばっちり言えたわね♪」
魔女っ子神姫ドキドキハウリンことココのオーナー、戸田静香が手を振った。魔女っ子神姫ドキドキハウリンことココは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「地の文! 連呼しないでください!」
いやはや、失礼。
当のマイティはココを見つめたまま固まっている。
「そ、それ……」
「あ、あなたも言う気か!」
ココは長射程砲を振りかざした。
しかし、マイティはココを指差し、あろうことかこう叫んだ。
「かっわいい~~~~~♪」
「わぁっぷ!」
マイティはココに抱きついた。ココは何が起きたのか分からず、長射程砲を振り上げたまま動けなかった。
「ねねねね、それどうしたの? 変身ってどうやったの!?」
ココの頭をなでたり背中をなでたりしながら質問攻めである。
「あ、あのちょっと、ひゃん!? 離してぇ……」
マスターは呆然として立体モニターを見つめ、静香は、
「きゃー、新展開よ!? 百合百合よー!」
とはしゃいでいる。
本日の試合、両者戦意喪失により、ドロー。
そこには制服を着た犬型MMSハウリンではなく、魔法のステッキを模した長射程砲を振りかざした、魔法少女が立っていた。
気がつけばオーナーの女性も同じ格好をしている。
「な、な、なんだあれは?」
天使型MMSアーンヴァル『マイティ』のマスターは我が目を疑った。
「素敵よココー! 初めてばっちり言えたわね♪」
魔女っ子神姫ドキドキハウリンことココのオーナー、戸田静香が手を振った。魔女っ子神姫ドキドキハウリンことココは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「地の文! 連呼しないでください!」
いやはや、失礼。
当のマイティはココを見つめたまま固まっている。
「そ、それ……」
「あ、あなたも言う気か!」
ココは長射程砲を振りかざした。
しかし、マイティはココを指差し、あろうことかこう叫んだ。
「かっわいい~~~~~♪」
「わぁっぷ!」
マイティはココに抱きついた。ココは何が起きたのか分からず、長射程砲を振り上げたまま動けなかった。
「ねねねね、それどうしたの? 変身ってどうやったの!?」
ココの頭をなでたり背中をなでたりしながら質問攻めである。
「あ、あのちょっと、ひゃん!? 離してぇ……」
マスターは呆然として立体モニターを見つめ、静香は、
「きゃー、新展開よ!? 百合百合よー!」
とはしゃいでいる。
本日の試合、両者戦意喪失により、ドロー。
「一体今日はどうしたんだ」
帰り道、マスターは前を向いたまま言った。感情をあまり表に出さないマスターであったが、機嫌を悪くしていることはマイティにはよく見て取れた。
「すみません、つい……」
胸ポケットの中で、マイティはうずくまっていた。
「あんな……、マイティは初めて見た」
頭を掻きつつ、マスターは渋い顔をする。叱ってよいものかどうか迷っているのだ。
「それにまたどうして、再戦を希望したんだ」
試合後、マイティが戸田静香嬢と話しこんでいるのをマスターは思い出した。
「あの、マスター」
「なんだ」
「そのことなんですけれど、私に任せていただけませんか」
「??」
帰り道、マスターは前を向いたまま言った。感情をあまり表に出さないマスターであったが、機嫌を悪くしていることはマイティにはよく見て取れた。
「すみません、つい……」
胸ポケットの中で、マイティはうずくまっていた。
「あんな……、マイティは初めて見た」
頭を掻きつつ、マスターは渋い顔をする。叱ってよいものかどうか迷っているのだ。
「それにまたどうして、再戦を希望したんだ」
試合後、マイティが戸田静香嬢と話しこんでいるのをマスターは思い出した。
「あの、マスター」
「なんだ」
「そのことなんですけれど、私に任せていただけませんか」
「??」
その日から、マイティはクローゼットの隅っこでカチャカチャと何かするようになった。マスターが何度様子を見ようとしても、
「覗かないでくださいっ!」
と一括された。
時折「うふふふふふふ」と奇妙な笑い声が聞こえて、料理中のマスターは指を切ってしまいそうになったりした。
(……一体あいつは何をやっているんだ?)
「覗かないでくださいっ!」
と一括された。
時折「うふふふふふふ」と奇妙な笑い声が聞こえて、料理中のマスターは指を切ってしまいそうになったりした。
(……一体あいつは何をやっているんだ?)
一週間が経った。
「健闘をお祈りいたしますわ」
「君もな」
あの時と同じように、二人のオーナーは握手する。
ハウリンのココも恥ずかしそうにしている。
だが、マイティだけは違った。妙に落ち着かないのだ。まるで早く戦いたいとでも言いたそうに。
「ココちゃん、私、がんばるからね」
「は、はい?」
ココはきょとんとした。対戦相手にかける言葉ではない。
彼らはそれぞれの持ち場へついた。
「マスター、打ち合わせの通りに、お願いしますね」
「あ、ああ。本当にやるのか?」
「もちろんです!」
マイティはポッドに入る。
マスターは気圧されて、マイティに言われたものをインプットした。
「バイクを欲しがったときからおかしいとは思っていたが……」
マスターは大きなため息を吐いた。
「健闘をお祈りいたしますわ」
「君もな」
あの時と同じように、二人のオーナーは握手する。
ハウリンのココも恥ずかしそうにしている。
だが、マイティだけは違った。妙に落ち着かないのだ。まるで早く戦いたいとでも言いたそうに。
「ココちゃん、私、がんばるからね」
「は、はい?」
ココはきょとんとした。対戦相手にかける言葉ではない。
彼らはそれぞれの持ち場へついた。
「マスター、打ち合わせの通りに、お願いしますね」
「あ、ああ。本当にやるのか?」
「もちろんです!」
マイティはポッドに入る。
マスターは気圧されて、マイティに言われたものをインプットした。
「バイクを欲しがったときからおかしいとは思っていたが……」
マスターは大きなため息を吐いた。
『バトルスタート:フィールド・化学工場22』
大小さまざまのタンクが林立し、金属パイプが幾重にもうねり繋がった化学工場の内部だった。破れた屋根の隙間や窓から、オレンジ色の夕日が差し込んでいる。
ココはいつもの制服で、瓦礫が転がる地面に立っていた。
「埃くさいな……」
服が汚れる、と心配になり、すぐにそんなことを思った自分が恥ずかしくなった。ここがバーチャル空間であると言うことにではなくて、すっかり衣服のことに気が行くコスプレイヤーになりつつあることに。
『ココ、前方より反応。高速ではないわ』
「アーンヴァルなのに?」
『徒歩よりは速いのだけれど。もうすぐ見えるわよ』
倉庫の正面口の向こうに土煙が立った。
「あれは……バイク?」
愛車V-MAXに乗って、マイティがやってきた。
「とう!」
掛け声一発、マイティが飛び降りる。V-MAXは自動的にブレーキをかけ停止。
マイティは何も武装していなかった。いや、ただ一つ、腰に大きめのベルトのようなものを巻いている以外は。
「マイティ……?」
『ココ、気をつけて。あの子変身するわよ』
「ええっ!?」
バッ、バッ!
マイティは片手に持った何かを、顔の横へ鋭く構える。ポリゴンが発生し、羽を閉じた鳥のようなかたまりが出現した。
「変身!」
そのかたまり、エンジェルゼクターを、ベルトのバックルへ横向きにガシャンと差し込んだ。
『HEN・SHIN』
エンジェルゼクターが無機的な音声を発し、真っ白な光がマイティを包み込む。
果たして立っていたのはマイティではなかった。
上半身を閉じた翼のような装甲で覆い、特徴的なヘルメット型バイザーをかぶった神姫がそこにいた。
「仮面ライダー、エンジェル!」
右手をぐぐっと握り、決めポーズ。
「そんなぁ……」
ココは呆気にとられてマイティを見ていた。
『ココ、何をしているの!?』
静香の声にハッ、と我に返ったココは、防弾版の仕込まれたカバンで体のセンターをかばいつつ、近くのタンクの陰へと走る。
案の定彼女を追うように青白いビーム弾が次々と飛来、斜線上にあったパイプを破壊する。廃棄された化学工場という設定であるから有毒化学物質は吹き出したりしないが、ビームが強力であることをココは分析した。カバンでは一、二発しか防げない。
マイティ、いや、仮面ライダーエンジェルの手には、散弾銃の形をした武器が握られている。
「あんな小さな武器から強力なビームを撃つなんて……」
タンクの陰からココは相手を確認する。制服の上に着ているコートから、カロッテP12拳銃を抜き、撃つ。
だが、仮面ライダーエンジェルのアーマーは拳銃弾を簡単にはじき返した。そのままのしのしとタンクのほうへ歩いてくる。
「だめだ、この装備じゃ倒しきれない……!」
仮面ライダーエンジェルが散弾銃をくるりと回転させる。その銃はストックの部分が鋭利な斧になっていた。
ぶんと回転させ、タンクごと切り上げる。巨大なタンクは下から真っ二つに切り裂かれ、左右に倒れた。
ココはいつもの制服で、瓦礫が転がる地面に立っていた。
「埃くさいな……」
服が汚れる、と心配になり、すぐにそんなことを思った自分が恥ずかしくなった。ここがバーチャル空間であると言うことにではなくて、すっかり衣服のことに気が行くコスプレイヤーになりつつあることに。
『ココ、前方より反応。高速ではないわ』
「アーンヴァルなのに?」
『徒歩よりは速いのだけれど。もうすぐ見えるわよ』
倉庫の正面口の向こうに土煙が立った。
「あれは……バイク?」
愛車V-MAXに乗って、マイティがやってきた。
「とう!」
掛け声一発、マイティが飛び降りる。V-MAXは自動的にブレーキをかけ停止。
マイティは何も武装していなかった。いや、ただ一つ、腰に大きめのベルトのようなものを巻いている以外は。
「マイティ……?」
『ココ、気をつけて。あの子変身するわよ』
「ええっ!?」
バッ、バッ!
マイティは片手に持った何かを、顔の横へ鋭く構える。ポリゴンが発生し、羽を閉じた鳥のようなかたまりが出現した。
「変身!」
そのかたまり、エンジェルゼクターを、ベルトのバックルへ横向きにガシャンと差し込んだ。
『HEN・SHIN』
エンジェルゼクターが無機的な音声を発し、真っ白な光がマイティを包み込む。
果たして立っていたのはマイティではなかった。
上半身を閉じた翼のような装甲で覆い、特徴的なヘルメット型バイザーをかぶった神姫がそこにいた。
「仮面ライダー、エンジェル!」
右手をぐぐっと握り、決めポーズ。
「そんなぁ……」
ココは呆気にとられてマイティを見ていた。
『ココ、何をしているの!?』
静香の声にハッ、と我に返ったココは、防弾版の仕込まれたカバンで体のセンターをかばいつつ、近くのタンクの陰へと走る。
案の定彼女を追うように青白いビーム弾が次々と飛来、斜線上にあったパイプを破壊する。廃棄された化学工場という設定であるから有毒化学物質は吹き出したりしないが、ビームが強力であることをココは分析した。カバンでは一、二発しか防げない。
マイティ、いや、仮面ライダーエンジェルの手には、散弾銃の形をした武器が握られている。
「あんな小さな武器から強力なビームを撃つなんて……」
タンクの陰からココは相手を確認する。制服の上に着ているコートから、カロッテP12拳銃を抜き、撃つ。
だが、仮面ライダーエンジェルのアーマーは拳銃弾を簡単にはじき返した。そのままのしのしとタンクのほうへ歩いてくる。
「だめだ、この装備じゃ倒しきれない……!」
仮面ライダーエンジェルが散弾銃をくるりと回転させる。その銃はストックの部分が鋭利な斧になっていた。
ぶんと回転させ、タンクごと切り上げる。巨大なタンクは下から真っ二つに切り裂かれ、左右に倒れた。
「やった!」
仮面ライダーエンジェルは勝利を確信。
『まだだマイティ、判定は出ていないぞ』
「!?」
倒れたタンクの奥からまばゆい光がマイティの視界を奪った。
続けて衝撃。二度、三度。マイティは防御体制をとる。ダメージはそれほどない。が、アーマーにひびが入る。
ココが飛び出す。
『ほらココ、名乗って!』
「こ、こんな時でも言うんですか!?」
『当たり前でしょう!』
「うぅ……。あ、愛ある限り戦いましょう! 魔女っ子神姫ドキドキハウリン、ここに、はいぱー☆光臨!!」
ふわふわのスカートにひらひらのドレスを着た魔法少女が、高い足場の上に立っていた。
説明しよう! 魔女っ子神姫ドキドキハウリンは、ノーマルの制服スタイルと比べて、攻撃力10倍、防御力3倍、スピード21倍、可憐さ100倍、愛らしさ70倍、特定のファンへの破壊力1000倍となるのだ! すごいぞ魔女っ子神姫ドキドキハウリン! 萌えるぞ魔女っ子神姫ドキドキハウリン!
「地の文黙れ!」
ぼがっ。私のほうへ向けて魔法のステッキが火を噴いた。ごめんなさい。ぐふっ。
「出たわね魔女っ子ドキリン!」
「ドキリンだって!?」
初めて名前を略され、魔女っ子神姫(ぼがっ)……ココは憤慨してしまった。いくら恥ずかしいとはいえ、オーナーから名づけられた名前を省略されるのはココにとっては嫌だった。
「その変身を待っていたのよ。私も本気を出させてもらいます!」
バッ、バッ!
仮面ライダーエンジェルは、ベルトのエンジェルゼクターを掴む。
「キャスト、オフッ!!」
ガキン! エンジェルゼクターを90度回転させる。頭の部分が上になり、手を離すと閉じられていた羽がシャキンと開く!
『CAST,OFF!』
エンジェルゼクターが叫んだかと思うと、仮面ライダーエンジェルの上半身を覆っていたアーマーが四方八方に弾けとんだ。
破片の一部は魔女っ(ぼがっ)ココの方にも飛んでくる。
「くうっ」
ココは間一髪のところで破片を避けきった。
ブワッ
「!?」
自分と同じ高さに、マイティがいた。
天子のような翼を広げ、飛んでいる。顔はヘッドセンサー・アネーロに付けられたバイザーで覆われていた。
『CHANGE,ANGEL』
エンジェルゼクターが音声を発した。
「やあーっ!」
右手首に取り付けられたライトセイバーが伸び、襲い掛かる。
ココは何とかこれを回避。魔法のステッキが犠牲になる。
「速い!」
可能な限り間合いを取り、態勢を立て直す。
『すごいすごい! マイティちゃんも変身を使いこなせているわ!』
静香はきゃーきゃー言いながらはしゃいでいる。
「静香、はしゃいでないでなにか手を考えてください! このままでは負けてしまいます!」
『大丈夫よココ。奥の手を使うわ』
「え?」
その瞬間、ココの左手首にリストバンドが出現した。何かをはめる基部がついている。
「まさか……」
ココはもう静かが何をさせようとしているのか、予想がついていた。
『さあ、もう一度変身しなさい!』
「ううーっ」
嫌々、右手を天高く掲げる。ポリゴンの波が重なり、犬の形をしたかたまり、ドッグゼクターが現れた。
「へ、変身!」
ガシャン! リストバンドにドッグゼクターを差し込む。
『HENSHIN』
ドッグゼクターが音声を発し、緑色の光がココを包み込む。
「うそ!?」
マイティは宙に浮いたまま、その光景を見つめた。
だが、現れたのは、普通に完全武装したハウリンだった。いや、バイザーにより顔は隠されているが。
「かっ、仮面ライダーハウリン!」
ポーズをとり、叫ぶココ。
『そのままキャストオフ!』
「き、キャストオフ!」
ドッグゼクターの尻尾を引っ張る。ガキン。ゼクターは口を大きく開けた。
『CASTOFF!』
エンジェルのときと同じく、アーマーが四方八方に飛び散る。
だから、誰もが中から現れるのは素体状態のハウリンだと思っていた。
だが。
『CHANGE,WEREDOG』
現れたのは全身をヴァッフェバニーのプロテクターで覆った、犬の頭の形をしたフェイスプロテクターをかぶったワードッグだった。
「なんだろう、体がすごく軽い。それに」
ココにとって、これが初めて「まともな」コスチュームだったのだ。
『さあ、ココ。やっておしまいなさい』
「は、はい!」
ドッグゼクターの頭を叩く。
『CLOCK,UP』
ふっ。ココの姿が消えた。
『マイティ避けろ!』
「避けろって!?」
ドゴッ!
「あうっ!」
左肩に衝撃。マイティは吹き飛ばされ、タンクの一つに激突。タンクは大きくへこんだ。水タンクだったらしく、ひびの入った部分や外れたパイプから水が勢い良く噴き出しはじめる。
『スピードが速すぎる。マイティ?』
「だ、大丈夫です」
地面に落ちたマイティは、再び立ち上がる。
「私だって教えられたんだから! クロックアップ!」
エンジェルゼクターのお腹の部分を押す。
『CLOCK,UP!』
ヴュウン。
世界が止まった。水しぶきは水滴一つ一つが空中に留まり、弾けたタンクの部品も宙に浮いたままになった。
水しぶきを弾き飛ばしながら、ココが走ってくる。走った後にはココの頭の形に水が形を作っている。
「見える」
マイティは相手が動かないと思い切っているココに渾身の回し蹴りを叩き込んだ。
「なにいっ!?」
ココは防御する間もなくけりを受け、転がる。
「クロックアップまで教えているなんて!?」
「静香さんは、公平な試合を望んでいます」
翼をはためかせ、マイティは突撃。ココはバック転で起き上がり、ライトセイバーを避ける。ライトセイバーは刃の発生が遅れ、ムチのようにしなっているため避けられたのだった。
ココは落としていたカロッテP12拳銃を乱射する。しかし発射された銃弾は目に見えるほど遅かった。マイティは難なく回避する。
少しでもタイムラグのある武器は、クロックアップ中は使えない。二人はほぼ同時に理解した。
マイティが間合いを取り始める。エンジェルゼクターの羽をたたみ、もう一度開かせる。
反応して背中の翼が分離する。しなやかに羽ばたいていた翼はまっすぐに固定され、マイティの左腕に装着され、弓の形をとる。
「レーザーならタイムラグはありません。これで決めます!」
右手で弦を引く動作を取ると、光の矢が出現した。
「させるかあ!」
ココが追ってダッシュ。ドッグゼクターの尻尾をもう一度引く。
今度はフェイスプロテクターの口がバカンと大きく開き、鋭い犬歯が現れる。
二人の距離が狭まる。ほとんどゼロ距離。
「ライダーシューティング!」
「ライダァァファング!!」
二人は同時に叫んだ。
仮面ライダーエンジェルは勝利を確信。
『まだだマイティ、判定は出ていないぞ』
「!?」
倒れたタンクの奥からまばゆい光がマイティの視界を奪った。
続けて衝撃。二度、三度。マイティは防御体制をとる。ダメージはそれほどない。が、アーマーにひびが入る。
ココが飛び出す。
『ほらココ、名乗って!』
「こ、こんな時でも言うんですか!?」
『当たり前でしょう!』
「うぅ……。あ、愛ある限り戦いましょう! 魔女っ子神姫ドキドキハウリン、ここに、はいぱー☆光臨!!」
ふわふわのスカートにひらひらのドレスを着た魔法少女が、高い足場の上に立っていた。
説明しよう! 魔女っ子神姫ドキドキハウリンは、ノーマルの制服スタイルと比べて、攻撃力10倍、防御力3倍、スピード21倍、可憐さ100倍、愛らしさ70倍、特定のファンへの破壊力1000倍となるのだ! すごいぞ魔女っ子神姫ドキドキハウリン! 萌えるぞ魔女っ子神姫ドキドキハウリン!
「地の文黙れ!」
ぼがっ。私のほうへ向けて魔法のステッキが火を噴いた。ごめんなさい。ぐふっ。
「出たわね魔女っ子ドキリン!」
「ドキリンだって!?」
初めて名前を略され、魔女っ子神姫(ぼがっ)……ココは憤慨してしまった。いくら恥ずかしいとはいえ、オーナーから名づけられた名前を省略されるのはココにとっては嫌だった。
「その変身を待っていたのよ。私も本気を出させてもらいます!」
バッ、バッ!
仮面ライダーエンジェルは、ベルトのエンジェルゼクターを掴む。
「キャスト、オフッ!!」
ガキン! エンジェルゼクターを90度回転させる。頭の部分が上になり、手を離すと閉じられていた羽がシャキンと開く!
『CAST,OFF!』
エンジェルゼクターが叫んだかと思うと、仮面ライダーエンジェルの上半身を覆っていたアーマーが四方八方に弾けとんだ。
破片の一部は魔女っ(ぼがっ)ココの方にも飛んでくる。
「くうっ」
ココは間一髪のところで破片を避けきった。
ブワッ
「!?」
自分と同じ高さに、マイティがいた。
天子のような翼を広げ、飛んでいる。顔はヘッドセンサー・アネーロに付けられたバイザーで覆われていた。
『CHANGE,ANGEL』
エンジェルゼクターが音声を発した。
「やあーっ!」
右手首に取り付けられたライトセイバーが伸び、襲い掛かる。
ココは何とかこれを回避。魔法のステッキが犠牲になる。
「速い!」
可能な限り間合いを取り、態勢を立て直す。
『すごいすごい! マイティちゃんも変身を使いこなせているわ!』
静香はきゃーきゃー言いながらはしゃいでいる。
「静香、はしゃいでないでなにか手を考えてください! このままでは負けてしまいます!」
『大丈夫よココ。奥の手を使うわ』
「え?」
その瞬間、ココの左手首にリストバンドが出現した。何かをはめる基部がついている。
「まさか……」
ココはもう静かが何をさせようとしているのか、予想がついていた。
『さあ、もう一度変身しなさい!』
「ううーっ」
嫌々、右手を天高く掲げる。ポリゴンの波が重なり、犬の形をしたかたまり、ドッグゼクターが現れた。
「へ、変身!」
ガシャン! リストバンドにドッグゼクターを差し込む。
『HENSHIN』
ドッグゼクターが音声を発し、緑色の光がココを包み込む。
「うそ!?」
マイティは宙に浮いたまま、その光景を見つめた。
だが、現れたのは、普通に完全武装したハウリンだった。いや、バイザーにより顔は隠されているが。
「かっ、仮面ライダーハウリン!」
ポーズをとり、叫ぶココ。
『そのままキャストオフ!』
「き、キャストオフ!」
ドッグゼクターの尻尾を引っ張る。ガキン。ゼクターは口を大きく開けた。
『CASTOFF!』
エンジェルのときと同じく、アーマーが四方八方に飛び散る。
だから、誰もが中から現れるのは素体状態のハウリンだと思っていた。
だが。
『CHANGE,WEREDOG』
現れたのは全身をヴァッフェバニーのプロテクターで覆った、犬の頭の形をしたフェイスプロテクターをかぶったワードッグだった。
「なんだろう、体がすごく軽い。それに」
ココにとって、これが初めて「まともな」コスチュームだったのだ。
『さあ、ココ。やっておしまいなさい』
「は、はい!」
ドッグゼクターの頭を叩く。
『CLOCK,UP』
ふっ。ココの姿が消えた。
『マイティ避けろ!』
「避けろって!?」
ドゴッ!
「あうっ!」
左肩に衝撃。マイティは吹き飛ばされ、タンクの一つに激突。タンクは大きくへこんだ。水タンクだったらしく、ひびの入った部分や外れたパイプから水が勢い良く噴き出しはじめる。
『スピードが速すぎる。マイティ?』
「だ、大丈夫です」
地面に落ちたマイティは、再び立ち上がる。
「私だって教えられたんだから! クロックアップ!」
エンジェルゼクターのお腹の部分を押す。
『CLOCK,UP!』
ヴュウン。
世界が止まった。水しぶきは水滴一つ一つが空中に留まり、弾けたタンクの部品も宙に浮いたままになった。
水しぶきを弾き飛ばしながら、ココが走ってくる。走った後にはココの頭の形に水が形を作っている。
「見える」
マイティは相手が動かないと思い切っているココに渾身の回し蹴りを叩き込んだ。
「なにいっ!?」
ココは防御する間もなくけりを受け、転がる。
「クロックアップまで教えているなんて!?」
「静香さんは、公平な試合を望んでいます」
翼をはためかせ、マイティは突撃。ココはバック転で起き上がり、ライトセイバーを避ける。ライトセイバーは刃の発生が遅れ、ムチのようにしなっているため避けられたのだった。
ココは落としていたカロッテP12拳銃を乱射する。しかし発射された銃弾は目に見えるほど遅かった。マイティは難なく回避する。
少しでもタイムラグのある武器は、クロックアップ中は使えない。二人はほぼ同時に理解した。
マイティが間合いを取り始める。エンジェルゼクターの羽をたたみ、もう一度開かせる。
反応して背中の翼が分離する。しなやかに羽ばたいていた翼はまっすぐに固定され、マイティの左腕に装着され、弓の形をとる。
「レーザーならタイムラグはありません。これで決めます!」
右手で弦を引く動作を取ると、光の矢が出現した。
「させるかあ!」
ココが追ってダッシュ。ドッグゼクターの尻尾をもう一度引く。
今度はフェイスプロテクターの口がバカンと大きく開き、鋭い犬歯が現れる。
二人の距離が狭まる。ほとんどゼロ距離。
「ライダーシューティング!」
「ライダァァファング!!」
二人は同時に叫んだ。
閃光がフィールドを覆った。巨大なエネルギーが衝突したのだ。
「マイティ!」「ココ!」
オーナーはそれぞれパートナーを呼ぶ。
光が収まる。
『Clock,over』
ゼクターの機械音声。
ワードッグが立っていた。
右肩をレーザーの矢に貫かれたまま。
フェイスプロテクターの口には、白い神姫を銜えている。
『試合終了。Winner,ココ』
ジャッジAIが勝者を告げた。
「マイティ!」「ココ!」
オーナーはそれぞれパートナーを呼ぶ。
光が収まる。
『Clock,over』
ゼクターの機械音声。
ワードッグが立っていた。
右肩をレーザーの矢に貫かれたまま。
フェイスプロテクターの口には、白い神姫を銜えている。
『試合終了。Winner,ココ』
ジャッジAIが勝者を告げた。
「良い試合だった。完敗だ」
「マイティちゃんもお見事でしたわ。たった一週間で、変身システムを使いこなせていましたもの」
二人のオーナーは固く握手した。いつもどおりの握手に見えたが、健闘を称えあったオーナー同士の
友情が芽生え始めていた。
「マイティ……」
静香に隠れながら、ココは申し訳なさそうにマイティの方を見ている。
マイティは笑ってこう言った。
「次は負けないからね。ココちゃん」
「……うん!」
神姫同士の親愛も深まりあった試合であった。
「マイティちゃんもお見事でしたわ。たった一週間で、変身システムを使いこなせていましたもの」
二人のオーナーは固く握手した。いつもどおりの握手に見えたが、健闘を称えあったオーナー同士の
友情が芽生え始めていた。
「マイティ……」
静香に隠れながら、ココは申し訳なさそうにマイティの方を見ている。
マイティは笑ってこう言った。
「次は負けないからね。ココちゃん」
「……うん!」
神姫同士の親愛も深まりあった試合であった。
後日……。
「だめだ」
「そんなぁ」
マイティが何度懇願しても、マスターは首を縦に振らなかった。
「あの変身システムはだめだ。非効率すぎるし、お前の戦い方には合わない」
「でも!」
マスターはしばらく黙った。
「……まあ、戸田静香嬢との試合のみなら、いいだろう」
「マスター……」
マイティは潤んだまなざしでマスターを見上げた。
そっぽを向いているマスターの頬に、おもむろにキスをする。
「お、おい!」
「えへへ。ありがとうございます」
背筋を正して、マイティはお辞儀をした。
「だめだ」
「そんなぁ」
マイティが何度懇願しても、マスターは首を縦に振らなかった。
「あの変身システムはだめだ。非効率すぎるし、お前の戦い方には合わない」
「でも!」
マスターはしばらく黙った。
「……まあ、戸田静香嬢との試合のみなら、いいだろう」
「マスター……」
マイティは潤んだまなざしでマスターを見上げた。
そっぽを向いているマスターの頬に、おもむろにキスをする。
「お、おい!」
「えへへ。ありがとうございます」
背筋を正して、マイティはお辞儀をした。
その後も、たまにクローゼットの隅で何かをカチャカチャいじっているマイティの姿があった。
「このハイパーゼクターがあれば、うふふふふふふふふ……」
心配の種がまた一つ増えたような気がしたマスターであった。
「このハイパーゼクターがあれば、うふふふふふふふふ……」
心配の種がまた一つ増えたような気がしたマスターであった。
了
「主義」
「なんだこの人だかりは?」
行きつけのセカンドリーグ対戦スペースおよびオンラインアクセスポイントがある、自宅から二駅もまたいだセンター。
到着したマスターは、対戦スペースを囲む異常な数のギャラリーを目の当たりにした。
「試合が行われているようですよ」
マイティがコートの胸ポケットからひょっこりと顔を出す。
「マスター、スコアボードを見てください」
「ん?」
バーチャルフィールドの立体映像が表示されるドームスクリーンの天辺に、勝ち抜き数とその神姫の総戦闘時間を表示する大きなスコアボードがついている。
対戦車は青コーナーと赤コーナーに分けられるが、ボードは今真っ赤に染まっており、数値がセカンドの試合にしては異常だった。
「四十八人抜きか」
「おそらく再戦も含まれていますけど、それでも驚異的な勝ち抜き数です。時間も平均最低ライン以下をキープしています」
「一人あたり一分弱だな」
セカンドでそんなことが起こる理由は……。と、マスターは見当をつけた。
「ファーストのオーナーが来ているのか」
ファーストリーグ、通称リアルリーグのオーナーたちは、千戦練磨、百戦常勝の達人がゴロゴロいると言っても過言ではない。武装神姫のオーナーをやっている人間なら頑張っていれば普通にセカンドへ進出できるが、ファーストへはかなり特殊な場合を除いてそう簡単に上がることができなかった。
ちなみにリアルリーグと呼ばれるゆえんは、その試合のすべてがバーチャルではなく実際の戦場で実際の神姫同士が(広義での)実弾を駆使して文字通りの死闘を繰り広げるからに他ならない。彼らは総じて誇り高いが、その理由の一つが「実戦」である。
今また一人の敗者が天にそびえる赤い数字を増やした。
『試合終了。Winner,アラエル』
そしてまた、誇り高いはずのファーストリーグのオーナーがわざわざセカンド以下のセンターへ来る理由は、一つしかない。
「弱いものいじめですね」
「反吐が出る」
マイティは思わずマスターの顔を見た。相変わらずの仏頂面だったが、マスターが悪態をつくのを聞いたのはマイティにとってこれが初めてであった。
「マスター……」
「戦ってみるか」
「えっ?」
「別に叩きのめしてやろうってわけじゃない。まがいなりにも相手はファーストだ。彼らの強さを知っておくのも良い勉強になるだろう」
「……」
「嫌か?」
「……いえ」
マイティはふぅ、とこっそり気合を入れて、言った。
「勉強させていただきます」
行きつけのセカンドリーグ対戦スペースおよびオンラインアクセスポイントがある、自宅から二駅もまたいだセンター。
到着したマスターは、対戦スペースを囲む異常な数のギャラリーを目の当たりにした。
「試合が行われているようですよ」
マイティがコートの胸ポケットからひょっこりと顔を出す。
「マスター、スコアボードを見てください」
「ん?」
バーチャルフィールドの立体映像が表示されるドームスクリーンの天辺に、勝ち抜き数とその神姫の総戦闘時間を表示する大きなスコアボードがついている。
対戦車は青コーナーと赤コーナーに分けられるが、ボードは今真っ赤に染まっており、数値がセカンドの試合にしては異常だった。
「四十八人抜きか」
「おそらく再戦も含まれていますけど、それでも驚異的な勝ち抜き数です。時間も平均最低ライン以下をキープしています」
「一人あたり一分弱だな」
セカンドでそんなことが起こる理由は……。と、マスターは見当をつけた。
「ファーストのオーナーが来ているのか」
ファーストリーグ、通称リアルリーグのオーナーたちは、千戦練磨、百戦常勝の達人がゴロゴロいると言っても過言ではない。武装神姫のオーナーをやっている人間なら頑張っていれば普通にセカンドへ進出できるが、ファーストへはかなり特殊な場合を除いてそう簡単に上がることができなかった。
ちなみにリアルリーグと呼ばれるゆえんは、その試合のすべてがバーチャルではなく実際の戦場で実際の神姫同士が(広義での)実弾を駆使して文字通りの死闘を繰り広げるからに他ならない。彼らは総じて誇り高いが、その理由の一つが「実戦」である。
今また一人の敗者が天にそびえる赤い数字を増やした。
『試合終了。Winner,アラエル』
そしてまた、誇り高いはずのファーストリーグのオーナーがわざわざセカンド以下のセンターへ来る理由は、一つしかない。
「弱いものいじめですね」
「反吐が出る」
マイティは思わずマスターの顔を見た。相変わらずの仏頂面だったが、マスターが悪態をつくのを聞いたのはマイティにとってこれが初めてであった。
「マスター……」
「戦ってみるか」
「えっ?」
「別に叩きのめしてやろうってわけじゃない。まがいなりにも相手はファーストだ。彼らの強さを知っておくのも良い勉強になるだろう」
「……」
「嫌か?」
「……いえ」
マイティはふぅ、とこっそり気合を入れて、言った。
「勉強させていただきます」
◆ ◆ ◆
『バトルスタート,フィールド・山脈地帯04』
途方もなく広大なフィールドであった。四角い戦闘エリアの一辺が神姫スケール換算数十キロもあった。ヒマラヤ山脈もしくはアンデス山脈のような、地平線の先まで数千メートル級の鋭い雪山がそびえ立ち並ぶその戦場は、雲ひとつない青空が山々を壮大に際立たせる見ごたえたっぷりのヴィジュアルに反して、かなり不人気な場所であった。
もしも地上戦用神姫同士でこのフィールドが選ばれたなら、戦闘の大半が互いの索敵に終始してしまう。
そして勝負は一瞬。出会い頭に撃ち合いが始まり、例外なく移動に著しく不便な地形であるから回避行動ができない。動かない相手に先に致命判定の攻撃を送り込めるかどうかのみが勝負を分ける。
片方が飛行タイプの神姫なら、その時点で彼女の勝利が決定する。相手が山岳移動にあくせくしている間に、上空から銃弾や砲弾や爆弾やレーザービームの雨あられを降らせてやるだけで良いのだ。もちろんプライドにかけてギブアップするオーナーなどほとんどいないから、だいたい一方的な爆撃が始まり、そしてすぐに終わる。
このフィールドが自動選択された瞬間、ギャラリーはもちろんオーナーや神姫たちまでも、一様にブーイングを起こすかため息をつくことは間違いなかった。
もしも地上戦用神姫同士でこのフィールドが選ばれたなら、戦闘の大半が互いの索敵に終始してしまう。
そして勝負は一瞬。出会い頭に撃ち合いが始まり、例外なく移動に著しく不便な地形であるから回避行動ができない。動かない相手に先に致命判定の攻撃を送り込めるかどうかのみが勝負を分ける。
片方が飛行タイプの神姫なら、その時点で彼女の勝利が決定する。相手が山岳移動にあくせくしている間に、上空から銃弾や砲弾や爆弾やレーザービームの雨あられを降らせてやるだけで良いのだ。もちろんプライドにかけてギブアップするオーナーなどほとんどいないから、だいたい一方的な爆撃が始まり、そしてすぐに終わる。
このフィールドが自動選択された瞬間、ギャラリーはもちろんオーナーや神姫たちまでも、一様にブーイングを起こすかため息をつくことは間違いなかった。
ある一つの場合を除いて。
もしもこのフィールドが自動選択されたとき、対戦する神姫が、完全な飛行タイプ同士であったならば。
そして特に、お互いがまるで戦闘機のような高速巡航飛行機動を得意とする武装であったならば。
そして特に、お互いがまるで戦闘機のような高速巡航飛行機動を得意とする武装であったならば。
ポリゴンがマイティのバーチャルモデルを現出させる。
彼女の武装は一見特別なカスタマイズがしてあるように見える。
が、それらはすべからくノーマルなオフィシャルパーツで構成されていた。
マイティ自身はヘッドセンサー・アネーロと胸部アーマー、手首部分を除いてカサハラ製鉄製ヴァッフェシリーズのプロテクターやブーツを身にまとっている。左手首にはガードシールドを装備し、右手には主武装としてSTR6ミニガンを携えていた。
特筆すべきは推進装置がすべてリアウイングに集約されていることだった。エクステンドブースターはもちろんのこと、副推進器が内蔵されている本来は脚部を換装すべきランディングギアもウイングに取り付けられている。ヴァッフェシリーズのすらすたーも貪欲に追加されている。
それはまさに推進装置のカタマリと言っても差し支えなかった。副武装に各種ミサイルも搭載されていた。
『今すぐアフタバーナーで巡航しろ。同時に最大出力で索敵開始』
「は、はい」
すべての推進器を一方向に向け、加速。同スケールで生身の人間ならば失神してしまうGが襲う。マイティはものともしない。アネーロと足裏に付けたヴァッフェシリーズのセンサーをめいっぱい稼動させ、索敵を始めた。
『センサーに集中しろ。この広さでは視覚は役に立たん。』
「了解」
マイティは目をつぶり、レーダーらの情報に頼り切る。
敵はすぐには見つからない。こう広大とあってはたとえレーダー、センサーを体中に付けても全域をカバーすることは不可能だった。
「まだ反応しない……」
高速で飛びながら、マイティは敵が見つからない不安が募るのを感じた。
思い返してみれば、いままではいつも対面した状態で戦闘が始まっていたのだ。「索敵する」といっても、周囲のどこかに必ずいる相手を探すだけだった。
「どこにいるか分からない」敵を探すことは、マイティは初めてなのだ。
『うろたえるな。自分の装備を信じろ』
「はい、マスター」
今はマスターの声がありがたかった。
マイティは落ち着けと自分に言い聞かせ、索敵を続行する。
直後。
ビビーッ!
被ロックオン、いや、攻撃アラート!!
空の向こうの一点から、まばゆいレーザーが伸び、マイティの至近を撫で回した。
『低高度へ回避しろ!』
「くうっ!」
瞬時に体を反転させ、高速のままスプリットターン。みるみる山の斜面が接近する。激突の危険をはらみつつ、マイティは回避機動をとった。
しかし、レーザーは正確無比にマイティを追撃する。
「このままでは当たってしまう!」
マイティは一瞬の判断で、レーザー発射予測地点との対角線上に山を配する。つまり山頂より低高度を飛び、山脈を盾にしたのだ。
『こそこそ隠れるつもりか、どノーマルめ!』
敵のオーナー、鶴畑大紀が嘲笑する。
彼の言うところの「野蛮」で「地上戦しかできない犬型」の神姫に屈辱的な惨敗を喫し、さらに眼帯を付けた見た目ただのストラーフに戦闘開始たったの一秒で超長距離狙撃されこれも敗北した彼は、憂さ晴らしのためにここセカンドリーグのセンターへ来ていた。
そして並み居る挑戦者たちをなでるように撃破し続け、半ば公然と対戦スペースを一時間近くも占拠していたのだった。
『お前を倒せば五十人抜き達成で記念パーツが頂けるんだ。おとなしくやられろ!』
「誰がやられるもんですか!」
山の陰からマイティはミサイルを三発発射。
だが、ミサイルは山から飛び出た瞬間すべて爆発してしまう。
またレーザーの仕業!
マイティは山の陰からちらりと敵を確認する。
それは正に異形としか形容しようのない神姫だった。すべてのパーツがマイティの見たこともないもので構成されていた。
一見鳥のようにも見えるが、小さな本体に比べ翼が異常に大きく、表面にはいくつもの眼球状のパーツが配されていた。
非常に洗練された武装だった。まるでゴテゴテ装備で大失敗をやらかし教訓にしたような。
「て、敵を肉眼で確認しました」
『ドールアイを改造したセンサー兼用のレーザー発振装置だ』
あんなにいくつもある目玉から全部レーザーが出るなんて! あれじゃ死角なんてないし、「見られる」だけでやられてしまうじゃないか。マイティはおののいた。
「マスター! あ、あんなの勝てません!」
『弱音を吐くんじゃない』
「でも、あれじゃあ山から飛び出した途端に撃たれます!」
『飛び出さなければいい。ひとまず山の陰に隠れながら可能な限り接近するんだ』
「うう……」
『マイティ!』
「……わかりました。やってみます」
マイティはそろそろとバーニアをふかし、敵の位置を確認しながら、山脈に隠れて移動しはじめた。
『あれがファーストの強さだ。装備の強さであれ戦術の強さであれ、強さには変わりない。』
「……はい」
『おれたちセカンド風情には一見完全無欠に見える。隙がまったく無い』
『いつまで隠れてるつもりだ!』
痺れを切らした鶴畑大紀は自分の神姫に命令する。
『ならば隠れるところをなくすまでだ。アラエル! 山を全部取っ払ってしまえ!』
「イエス、マスター」
まったく抑揚の無い声で、マイティと同じアーンヴァルタイプの神姫アラエルは答えた。
翼のすべての眼球がぎょろぎょろと動き始め、四方八方に次々と大出力レーザーを照射しだした。強力なレーザーが山肌を切りつけると、瞬時に雪が溶け洪水が発生し、そこから上が崩れ落ちた。
『だが強さというのはレベルじゃない。カテゴリーなんだ。』
「どういうことですか?」
マイティの目の前をレーザーが横切る。面食らいそうになりながら、姿勢を整え、落ち着いて回避に専念する。
『弱点の無い強さはありえない。相手がどのように強いのかを判断し、弱点を探して攻めるんだ』
レーザーが止まる。アラエルの翼の目玉が役目を終えてぼろぼろとこぼれ落ちる。開いた穴の中から代わりにいくつものミサイルがせり出してくる。
『さら地にしてしまえ!』
「イエスマスター」
そのミサイルを全方向へ射出。残った山のかけらを粉砕してゆく。
アラエルの周囲から勇壮な山々が消えうせ、代わりに雪解け水で構成された巨大な湖が出来上がった。
「武器がなくなった、吶喊します!」
マイティはアフターバーナー全開で突撃。撃てる限りのミサイルを発射する。
『待て、マイティ! 油断するな!』
『かかったな! アラエル、EMPバラージだ!』
「イエスマスター」
ミサイルがなくなった発射口からスピーカーのようなものがせり出す。
アラエルは大きく口を開け、
「キァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
金切り声を張り上げた。
「うああAアああアa亞あ!」
マイティに強烈な頭痛が襲いかかった。目の前に火花が飛びちる。ミサイルはすべてあさっての方向へと
飛びさり、自爆した。
『距離をとれマイティ!』
「ぐううう」
ハンマーで叩かれるような激痛にのたうちながら、マイティはバックブーストをかけ、ミニガンで牽制しながら後退。
だが、姿勢制御が上手くいかず、そのまま湖中へとダイブしてしまう。
彼女の武装は一見特別なカスタマイズがしてあるように見える。
が、それらはすべからくノーマルなオフィシャルパーツで構成されていた。
マイティ自身はヘッドセンサー・アネーロと胸部アーマー、手首部分を除いてカサハラ製鉄製ヴァッフェシリーズのプロテクターやブーツを身にまとっている。左手首にはガードシールドを装備し、右手には主武装としてSTR6ミニガンを携えていた。
特筆すべきは推進装置がすべてリアウイングに集約されていることだった。エクステンドブースターはもちろんのこと、副推進器が内蔵されている本来は脚部を換装すべきランディングギアもウイングに取り付けられている。ヴァッフェシリーズのすらすたーも貪欲に追加されている。
それはまさに推進装置のカタマリと言っても差し支えなかった。副武装に各種ミサイルも搭載されていた。
『今すぐアフタバーナーで巡航しろ。同時に最大出力で索敵開始』
「は、はい」
すべての推進器を一方向に向け、加速。同スケールで生身の人間ならば失神してしまうGが襲う。マイティはものともしない。アネーロと足裏に付けたヴァッフェシリーズのセンサーをめいっぱい稼動させ、索敵を始めた。
『センサーに集中しろ。この広さでは視覚は役に立たん。』
「了解」
マイティは目をつぶり、レーダーらの情報に頼り切る。
敵はすぐには見つからない。こう広大とあってはたとえレーダー、センサーを体中に付けても全域をカバーすることは不可能だった。
「まだ反応しない……」
高速で飛びながら、マイティは敵が見つからない不安が募るのを感じた。
思い返してみれば、いままではいつも対面した状態で戦闘が始まっていたのだ。「索敵する」といっても、周囲のどこかに必ずいる相手を探すだけだった。
「どこにいるか分からない」敵を探すことは、マイティは初めてなのだ。
『うろたえるな。自分の装備を信じろ』
「はい、マスター」
今はマスターの声がありがたかった。
マイティは落ち着けと自分に言い聞かせ、索敵を続行する。
直後。
ビビーッ!
被ロックオン、いや、攻撃アラート!!
空の向こうの一点から、まばゆいレーザーが伸び、マイティの至近を撫で回した。
『低高度へ回避しろ!』
「くうっ!」
瞬時に体を反転させ、高速のままスプリットターン。みるみる山の斜面が接近する。激突の危険をはらみつつ、マイティは回避機動をとった。
しかし、レーザーは正確無比にマイティを追撃する。
「このままでは当たってしまう!」
マイティは一瞬の判断で、レーザー発射予測地点との対角線上に山を配する。つまり山頂より低高度を飛び、山脈を盾にしたのだ。
『こそこそ隠れるつもりか、どノーマルめ!』
敵のオーナー、鶴畑大紀が嘲笑する。
彼の言うところの「野蛮」で「地上戦しかできない犬型」の神姫に屈辱的な惨敗を喫し、さらに眼帯を付けた見た目ただのストラーフに戦闘開始たったの一秒で超長距離狙撃されこれも敗北した彼は、憂さ晴らしのためにここセカンドリーグのセンターへ来ていた。
そして並み居る挑戦者たちをなでるように撃破し続け、半ば公然と対戦スペースを一時間近くも占拠していたのだった。
『お前を倒せば五十人抜き達成で記念パーツが頂けるんだ。おとなしくやられろ!』
「誰がやられるもんですか!」
山の陰からマイティはミサイルを三発発射。
だが、ミサイルは山から飛び出た瞬間すべて爆発してしまう。
またレーザーの仕業!
マイティは山の陰からちらりと敵を確認する。
それは正に異形としか形容しようのない神姫だった。すべてのパーツがマイティの見たこともないもので構成されていた。
一見鳥のようにも見えるが、小さな本体に比べ翼が異常に大きく、表面にはいくつもの眼球状のパーツが配されていた。
非常に洗練された武装だった。まるでゴテゴテ装備で大失敗をやらかし教訓にしたような。
「て、敵を肉眼で確認しました」
『ドールアイを改造したセンサー兼用のレーザー発振装置だ』
あんなにいくつもある目玉から全部レーザーが出るなんて! あれじゃ死角なんてないし、「見られる」だけでやられてしまうじゃないか。マイティはおののいた。
「マスター! あ、あんなの勝てません!」
『弱音を吐くんじゃない』
「でも、あれじゃあ山から飛び出した途端に撃たれます!」
『飛び出さなければいい。ひとまず山の陰に隠れながら可能な限り接近するんだ』
「うう……」
『マイティ!』
「……わかりました。やってみます」
マイティはそろそろとバーニアをふかし、敵の位置を確認しながら、山脈に隠れて移動しはじめた。
『あれがファーストの強さだ。装備の強さであれ戦術の強さであれ、強さには変わりない。』
「……はい」
『おれたちセカンド風情には一見完全無欠に見える。隙がまったく無い』
『いつまで隠れてるつもりだ!』
痺れを切らした鶴畑大紀は自分の神姫に命令する。
『ならば隠れるところをなくすまでだ。アラエル! 山を全部取っ払ってしまえ!』
「イエス、マスター」
まったく抑揚の無い声で、マイティと同じアーンヴァルタイプの神姫アラエルは答えた。
翼のすべての眼球がぎょろぎょろと動き始め、四方八方に次々と大出力レーザーを照射しだした。強力なレーザーが山肌を切りつけると、瞬時に雪が溶け洪水が発生し、そこから上が崩れ落ちた。
『だが強さというのはレベルじゃない。カテゴリーなんだ。』
「どういうことですか?」
マイティの目の前をレーザーが横切る。面食らいそうになりながら、姿勢を整え、落ち着いて回避に専念する。
『弱点の無い強さはありえない。相手がどのように強いのかを判断し、弱点を探して攻めるんだ』
レーザーが止まる。アラエルの翼の目玉が役目を終えてぼろぼろとこぼれ落ちる。開いた穴の中から代わりにいくつものミサイルがせり出してくる。
『さら地にしてしまえ!』
「イエスマスター」
そのミサイルを全方向へ射出。残った山のかけらを粉砕してゆく。
アラエルの周囲から勇壮な山々が消えうせ、代わりに雪解け水で構成された巨大な湖が出来上がった。
「武器がなくなった、吶喊します!」
マイティはアフターバーナー全開で突撃。撃てる限りのミサイルを発射する。
『待て、マイティ! 油断するな!』
『かかったな! アラエル、EMPバラージだ!』
「イエスマスター」
ミサイルがなくなった発射口からスピーカーのようなものがせり出す。
アラエルは大きく口を開け、
「キァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
金切り声を張り上げた。
「うああAアああアa亞あ!」
マイティに強烈な頭痛が襲いかかった。目の前に火花が飛びちる。ミサイルはすべてあさっての方向へと
飛びさり、自爆した。
『距離をとれマイティ!』
「ぐううう」
ハンマーで叩かれるような激痛にのたうちながら、マイティはバックブーストをかけ、ミニガンで牽制しながら後退。
だが、姿勢制御が上手くいかず、そのまま湖中へとダイブしてしまう。
湖の中は静かだった。
ここまではあの叫びも届かなかった。
「やっぱりだめだ。ノーマルの装備じゃ、あんなのには勝てない。どうしたって勝てない」
マイティは沈み続ける。浸水はしなかったが、このまま沈み続ければこのフィールドでは本来ありえない下方へのエリアオーバーで負けてしまう。
だが、マイティはなかば諦めかけていた。圧倒的な戦力差であった。こちらの武装が一切通用しない、強大な相手。
あれがファーストなのか。お金に物を言わせて強力な装備をしているからといって、それは言い訳でしかない。あいつは強い。強いからファーストにいるのだ。
エリアオーバーの警告が鳴り始める。
「私にあの装備があれば……」
マイティの口から気泡が漏れる、それは主人の代わりに力なく、水面へと浮き上がってゆく。
『聞こえるかマイティ』
マスターの声がする。警告にかき消されて、よく聞こえない。
「マスター」
絶望的な声で、応答する。
「だめです。勝てません」
それだけ言えばもう十分だった。ファーストとの決定的な差。十分勉強いたしました。
今回は、負けてもいいよね。
マスターは黙っていた。長い間沈黙していたような、マイティはそんな気がした。
『おれの好きな言葉がある』
うるさい警告をかきわけて、マスターの声がマイティに届く。
『装備の性能差は、戦力の決定的差ではない』
「……?」
『たしかに特殊装備は強力だ。が、そのぶん、構造がえらくピーキーなんだ。オレはそういうのは嫌いでね』
いつもは聞かない、マスターのフランクな口調。
マスターは言った。
『ノーマルな装備はな、絶対に主を裏切らない。』
「そのとおりでっせ、マイティ様」
唐突に別の声が聞こえた。
頭のすぐ後ろから。
「え?」
ここまではあの叫びも届かなかった。
「やっぱりだめだ。ノーマルの装備じゃ、あんなのには勝てない。どうしたって勝てない」
マイティは沈み続ける。浸水はしなかったが、このまま沈み続ければこのフィールドでは本来ありえない下方へのエリアオーバーで負けてしまう。
だが、マイティはなかば諦めかけていた。圧倒的な戦力差であった。こちらの武装が一切通用しない、強大な相手。
あれがファーストなのか。お金に物を言わせて強力な装備をしているからといって、それは言い訳でしかない。あいつは強い。強いからファーストにいるのだ。
エリアオーバーの警告が鳴り始める。
「私にあの装備があれば……」
マイティの口から気泡が漏れる、それは主人の代わりに力なく、水面へと浮き上がってゆく。
『聞こえるかマイティ』
マスターの声がする。警告にかき消されて、よく聞こえない。
「マスター」
絶望的な声で、応答する。
「だめです。勝てません」
それだけ言えばもう十分だった。ファーストとの決定的な差。十分勉強いたしました。
今回は、負けてもいいよね。
マスターは黙っていた。長い間沈黙していたような、マイティはそんな気がした。
『おれの好きな言葉がある』
うるさい警告をかきわけて、マスターの声がマイティに届く。
『装備の性能差は、戦力の決定的差ではない』
「……?」
『たしかに特殊装備は強力だ。が、そのぶん、構造がえらくピーキーなんだ。オレはそういうのは嫌いでね』
いつもは聞かない、マスターのフランクな口調。
マスターは言った。
『ノーマルな装備はな、絶対に主を裏切らない。』
「そのとおりでっせ、マイティ様」
唐突に別の声が聞こえた。
頭のすぐ後ろから。
「え?」
◆ ◆ ◆
『おい、まだかよ! 見たろ!? 落ちたまんま上がってこないじゃないか』
『まだデッド判定はでておりません』
ジャッジAIは鶴畑の主張を一蹴する。
『くそ、こうなったらこの湖を干上がらせてやろうか……』
その時。
湖から相手のアーンヴァルが勢い良く飛び出してくるのが見えた。あの白い翼、間違いない。
『ハハハハッ! 進退窮まって単純に突撃してきたかあ? アラエル!』
「キァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
アラエルはもう一度EMPバラージを発する。
しかし、眼下のアーンヴァルは何事も無いように上昇し続ける。
『な、なんだと!? 一体どうしたんだ!』
アラエルは鳴き続けるが、一向に効果がある気配が無い。
ついにアーンヴァルがアラエルの高度に到達する。
しかし。
そこにあったのはアーンヴァルではなく、リアウイングのみであった。
『ばかな! アーンヴァルのリアウイングは単体で飛べないはず!? ……ん? なんだあれは?』
ユニットの中心に何か丸いものがあるのを見つける。
『…………んが!?』
鶴畑大紀は我が目を疑った。
「にゃにゃー」
シロにゃんがそこにいた。マオチャオのプチマスィーンズであるはずの。
アラエルはごく自然に、リアウイングを飛ばすシロにゃんを目で追い続ける。
『バ、バカ、アラエル! そいつは囮(デコイ)だ!!』
アラエルははっとして視線を湖へと戻そうとする。
眼前に、副推進器を内蔵してあるランディングギアを履いたマイティがいた。
「プチマスィーンズの簡易AIに、EMPは効果がないようですね」
体当たり。
不意を突かれたアラエルは吹き飛ばされるが、すぐに態勢を整える。
『のこのこ出てきやがって。 アラエル! EMPバラージをお見舞いしてやれ』
アラエルは三度巨大な翼ををピンと伸ばし、口を大きく開ける。
しかし。
「キ」
と発した瞬間、翼のスピーカーが、というより、翼そのものが火花を散らしてバラバラに弾けてしまった。
『な、何ぃー!?』
「思った通り、脆すぎる。」
マイティはニッ、と笑った。
『な、なぜ分かった!?』
「そんな大きな翼を持っているくせに、発見位置からほとんど動いていないんですもの。強力な攻撃に惑わされていたけれど、ついに弱点見たりです」
『よくやった、マイティ』
「えへへ」
『くっそぉおお!!』
鶴畑大紀は地団太を踏んだ。
『まだ勝負は終わってない!』
アラエルがなけなしのライトセイバーを構える。
「!」
マイティも右手首に装着してあったライトセイバーをそのまま作動。
『叩き潰せえぇ!!』
アラエルが残ったブースターで突進する。
「やあーっ!!」
マイティもリアウイングの再装着を待たず突撃。
二つの切っ先が交差する!
『まだデッド判定はでておりません』
ジャッジAIは鶴畑の主張を一蹴する。
『くそ、こうなったらこの湖を干上がらせてやろうか……』
その時。
湖から相手のアーンヴァルが勢い良く飛び出してくるのが見えた。あの白い翼、間違いない。
『ハハハハッ! 進退窮まって単純に突撃してきたかあ? アラエル!』
「キァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
アラエルはもう一度EMPバラージを発する。
しかし、眼下のアーンヴァルは何事も無いように上昇し続ける。
『な、なんだと!? 一体どうしたんだ!』
アラエルは鳴き続けるが、一向に効果がある気配が無い。
ついにアーンヴァルがアラエルの高度に到達する。
しかし。
そこにあったのはアーンヴァルではなく、リアウイングのみであった。
『ばかな! アーンヴァルのリアウイングは単体で飛べないはず!? ……ん? なんだあれは?』
ユニットの中心に何か丸いものがあるのを見つける。
『…………んが!?』
鶴畑大紀は我が目を疑った。
「にゃにゃー」
シロにゃんがそこにいた。マオチャオのプチマスィーンズであるはずの。
アラエルはごく自然に、リアウイングを飛ばすシロにゃんを目で追い続ける。
『バ、バカ、アラエル! そいつは囮(デコイ)だ!!』
アラエルははっとして視線を湖へと戻そうとする。
眼前に、副推進器を内蔵してあるランディングギアを履いたマイティがいた。
「プチマスィーンズの簡易AIに、EMPは効果がないようですね」
体当たり。
不意を突かれたアラエルは吹き飛ばされるが、すぐに態勢を整える。
『のこのこ出てきやがって。 アラエル! EMPバラージをお見舞いしてやれ』
アラエルは三度巨大な翼ををピンと伸ばし、口を大きく開ける。
しかし。
「キ」
と発した瞬間、翼のスピーカーが、というより、翼そのものが火花を散らしてバラバラに弾けてしまった。
『な、何ぃー!?』
「思った通り、脆すぎる。」
マイティはニッ、と笑った。
『な、なぜ分かった!?』
「そんな大きな翼を持っているくせに、発見位置からほとんど動いていないんですもの。強力な攻撃に惑わされていたけれど、ついに弱点見たりです」
『よくやった、マイティ』
「えへへ」
『くっそぉおお!!』
鶴畑大紀は地団太を踏んだ。
『まだ勝負は終わってない!』
アラエルがなけなしのライトセイバーを構える。
「!」
マイティも右手首に装着してあったライトセイバーをそのまま作動。
『叩き潰せえぇ!!』
アラエルが残ったブースターで突進する。
「やあーっ!!」
マイティもリアウイングの再装着を待たず突撃。
二つの切っ先が交差する!
…………
同タイプであるため、一見どちらが雌雄を決したのか、誰も分からなかった。
左腕のガードシールドで防がれているライトセイバーがあった。刃の部分ではなく、柄を直接押さえている。
もう一方のライトセイバーは、見事に相手方の胸部を貫いていた。
貫かれた方のアーンヴァルが、ポリゴンの光と化して消える。
左腕のガードシールドで防がれているライトセイバーがあった。刃の部分ではなく、柄を直接押さえている。
もう一方のライトセイバーは、見事に相手方の胸部を貫いていた。
貫かれた方のアーンヴァルが、ポリゴンの光と化して消える。
ジャッジAIが報告する。
「試合終了。Winner,マイティ」
歓声。いつまでもかれることの無い歓声が、センターを包み込む。
歓声。いつまでもかれることの無い歓声が、センターを包み込む。
◆ ◆ ◆
「マスター」
「……ん?」
帰路。いつの間にか雪が降り始めており、道路はもう真っ白になっている。胸ポケットに入ってコンビニで買った肉まんをほおばりながら、マイティは言った。
「今日は、ありがとうございました」
「何が」
「相手がどのように強いのかを判断し、弱点を探す。そして、装備の性能差は、戦力の決定的差じゃない」
「そんなこと、言ったかな」
マスターは目を閉じ、微笑する。
雪は一晩中降り積もり、明日には銀世界が広がるだろう。
「……ん?」
帰路。いつの間にか雪が降り始めており、道路はもう真っ白になっている。胸ポケットに入ってコンビニで買った肉まんをほおばりながら、マイティは言った。
「今日は、ありがとうございました」
「何が」
「相手がどのように強いのかを判断し、弱点を探す。そして、装備の性能差は、戦力の決定的差じゃない」
「そんなこと、言ったかな」
マスターは目を閉じ、微笑する。
雪は一晩中降り積もり、明日には銀世界が広がるだろう。
了