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第八話 襲撃


  スリープモードを解いたクエンティンの目にまず飛び込んできたのは、あられもなくはだけられたパジャマから零れ落ちてきそうな、愛するお姉さまの胸元であった。
  それでもクエンティンは狼狽えたりはしなかった。
  理音の寝相がよろしくないのは知っている。零れ落ちそうになるどころか零れ落ちまくっていることだってざらにあった。愛するお姉さまのおっぱいを目にして顔を赤らめることなどもうない。飽きたということでも慣れたというわけでもなく、理音の体ならどこだろうとお目にかかれるのであればいつでも来いだが、それは別に性的な意味からではない。
  クエンティンは理音に対して何か、ほのかに温かくやわらかい感情を禁じえなかった。果たしてこの得体の知れない、といっても全然危険そうに感じられない感情の正体はいったい何なのだろう。そう何度か考察してはみたものの、最も適切であると思われる単語はいつでも一つしか浮かぶことはなかった。
  母性。
  クエンティンは理音に母性を感じていた。
  ばかばかしい、とは思う。武装神姫に母などいない。しいて言えば自分たち武装神姫を作り出した開発者やメーカーを親とするだろうが、かれらは母ではなく父と呼ぶのがしっくりくる。
  では母は何だろう。生産機械? それとも原料となった軽金属やシリコンだろうか。  しかしそこをどんどん突き進んでいったら自分を生んだのはそれら原料を生み出した地球ということになる。ここまで来ると哲学的な方面にすっとんでしまう。
  そうではない。自分を産み落としたのが母なら、それは生産機械、その集合体である工場だ。これでいい。しかし工場に母性など感じない。
  母性を感じる相手が母だというのであれば、では自分の母は理音だといえる、とクエンティンは思った。
  それもおかしい。理音は自分を産み落としたわけではない。ではどうして理音に母性を感じるのだろう。
  母性を感じること自体がおかしいのかもしれない。
  またおかしい、か。どこまでおかしければ気が済むのだろう。
  クエンティンはふっ、とため息をつく。おかしすぎて腹がよじれそうだ。
  いやいや、昨夜のこともあるから神経質になっているだけだ。やっと落ち着いて眠れたのだ。ちょっと考えればすぐ解決するに違いない。
  母性を感じるのは理音がオーナーだからだろう。きっと武装神姫はオーナーに対してそういった尊敬感情を抱くように設計されているのだ。それは神姫とオーナーそれぞれで違っていて、たとえばオーナーが男性なら父性を抱くか、あるいはご主人様と呼ぶ神姫ならば主従の感情を抱くのだ。自分の場合それが母性だっただけだろう。
  しかし、理音は自らを「お姉さま」と呼ばせている。クエンティンはくまの消えない理音の寝顔を見つめた。
  「お姉さま」と呼ばせているのに、母性を感じるとは変だ。人間の身内に対する愛情も母性と呼ばれるのだろうか。いや、それとは違う、とクエンティンは断定する。これは明らかに母に対する愛情だ。姉とは違う。武装神姫である自分に経験などないが、直感で母だと分かる。
  やっぱりおかしいのだろうか。自分は「お姉さま」に対して姉への愛情ではなく母へのそれを感じていることが。自分にとって理音はどこかしら母親っぽいからそう感じるようになったに違いないが、そもそもそういったプロセスこそがおかしいのではないか。
ということはそのプロセスは、オーナーと神姫の、変えようのない強固な関係構築プログラムに対して大きく干渉しているのだ。
  お姉さまなのだから姉、なら問題ない。しかし母では。
  本当なら、これはある意味怖ろしいことだ。まかり間違えば二人の関係が崩れてしまうことにもなる。ただでさえ、子は母から巣立ってゆくものと決まっている。
  自分もいつか母である理音から離れて行くのか。
  そんなまさか。

「まさか、ね」

  声に出して確認する。
  不安は消えなかった。
  そしてその自己確認がキーになったかのように、昨夜の、違和感が突然思い起こされた。バトルスペースに上がるとき、寝呆けている理音を振り返った折に感じられた、あの、違和感。
  寂しさともとれる。今考えれば。なぜだろう。
  母から離れようとする寂しさか。理音の指示がなくても戦える自分がそこにいた。オーナーの指示がなくても。
  それだ。
  その部分に自分は違和感を覚え、同時に母としている理音から離れる寂しさを感じていたのだ。
  武装神姫はモノであるから武装神姫である。
  同時に、オーナーである一人の人間に対して絶対的な従属を誓うからこそ武装神姫であるのだ。
  オーナーの命令を聞かない神姫など武装神姫ではない。オーナーを必要としない神姫は。
  現に自分はオーナーの指示なく戦ってしまったではないか。同じOFイクイップメントを着たミカエルは、それでも鶴畑大紀の命令を受けていたというのに。
  背筋が凍りつく思いにクエンティンはとらわれた。

「寒い」

  突起に気をつけて、クエンティンは理音の胸元に体を寄せた。それで理音は目を覚ます。

「ん……、どうしたの、クエンティン?」

  優しい声。母のような。

「寒いの。お姉さま」

  消え入りそうにクエンティンは答えた。
  理音はそれ以上何も言わずに、両手でクエンティンを包み込んだ。
  まだ時計の短針は8の辺りを示している。
  東向きの窓からは朝日が差し込むが、自動フィルムが窓を覆っており直射せず散開して部屋に入ってくる。
  広い客室は静かだった。
  再びやわらかい感情に満たされて、クエンティンは安心した。
  スリープモードへ移る。クエンティンの意識はまどろみの中へと沈んでゆく。

◆      ◆      ◆

  近くで雷が落ちたような爆発音と地震のような振動で、クエンティンは叩き起こされた。
  警報。屋敷全体に目覚ましの用を必要以上に足しまくるアラームが響きわたる。
  そこまでやられても理音は起きなかった。
  この人は。どれだけ眠れば気が済むのだろう。

「お、ね、え、さ、まっ! 起きて!」

  小さな左手で理音の頬をぺちぺちとはたいてクエンティンは怒鳴った。

「……なによう、ずいぶんやかましいわねえ」

  のん気に目をこすりながらむっくりと起き上がる理音。長い黒髪はあっちこっちに飛び跳ね、山本太郎もびっくりの芸術性をかもし出している。

「警報よ警報! 何か知らないけど大変なことが起きてるの! ああもう、早くパジャマの前留めて、ベッドから出る!」

  理音は言われたとおりにやった。非常にゆったりとした動きで。
  その間にも爆音と揺れは続いている。わずかに激しさを増したようにクエンティンは感じた。
  部屋を見渡せば、大きな窓の外側に頑丈そうな合金製のシャッターが下ろされている。室内が明るいのは電灯か、と思いきやその電灯がいきなりバチン、と切れ、真っ暗になってしまった。

「きゃあ、なになに?」

  人間の持つ本能的な闇への恐れからか、理音はやっと目を覚ました。

「お姉さま、しっかりして。エイダ、一体何が起きてるの?」
『監視装置へのネットワークが破壊されておりモニターできません。詳細は不明ですが、おそらく屋敷への襲撃です』
「もしかして、アタシを狙ってる奴ら?」
『高い確率でそうでしょう』

  部屋が赤くなる。非常灯がついたのだ。
  扉の鍵が外される音。
  クエンティンはすかさず戦闘態勢へ移行、右手を構える。
  扉を開けたのは執事だった。クエンティンは安堵のため息。

「お二人とも、ここは危険です。こちらへ!」


  屋敷の中央エレベータに乗り込むと、執事がポケットから鍵を取り出し、コントロールパネルの穴に差し込んで回す。パネルの一部が開いてテンキーがせり出し、執事はパスワードを打ち込む。
  エレベータが動き出す。下へ。きっと理音は体が軽くなる感触を覚えているのだろうなとクエンティンは思った。理音の肩に乗っていれば自分も同じ気持ちになれた。だが尖った所だらけのこの体では肩に乗ることはできなかった。今は傍らで浮いていることしかできない。主人に安易に触れられない寂しさ。
  そういえばどうして浮いているのに天井にはぶつからないのだろうなと、クエンティンはふいに他愛もないそんなことに考えをめぐらせた。きっと寂しさを紛らわせようと無意識にやったのかもしれない。クエンティンの体は一瞬下へ引っ張られた。
  以前電車の中で飛行船のラジコンを飛ばしていた迷惑な子供を見たことがあった。そのときも、宙に浮いていたラジコンは電車の後方へ流されることはなく、むしろ前に動いていた。一見不思議なことだが、実は慣性の法則ではなく浮力が大きく働いていると知ったのは、とある科学の本を読んだ時だった。
  本を読むようになったのはいつからだろう。もう忘れてしまった。理音のところへ着てすぐだったような気がする。
  読み始めた理由ももう思い出せなかった。容量を圧迫する無駄な記憶として忘れてしまったのだろう。
  限りなく人間のそれに近く作られた武装神姫の陽電子頭脳は、記憶を圧縮し、忘れることができる。人間よりも効率が良いからここまで小さくできたのだ。
  だというのにクエンティンはときどき頭痛にさいなまれた。頭痛は頭脳の負荷が安全レベルを超えたときに警告として発せられるものだ。本来ならありえないことだった。自分は脳を酷使しているのだ。
  原因は分かる。読書だ。読書が趣味の神姫なんて、クエンティンは自らの行動範囲においては見たことも聞いたこともなかった。一年に一回、それぞれの神姫が決められた日に各地のセンターや公認ショップで行う、自動車の車検のような定期メンテナンスでも度々驚かれた。こんなにも頭脳に負荷を与えている神姫は初めてだ、と。
  陽電子頭脳の主記憶領域は人間の海馬には大きく劣るが、コンピュータのハードドライブとしては桁違いの容量を誇る。自分はもう半分近く圧縮記憶で埋め尽くされているそうだ。空いている部分は仮想メモリとして利用されるが、このままでは一単位時間当たりの計算能力の低下が懸念される。追加メモリを実装するべきだとメンテナンス担当技師に念を押された。
  追加メモリの換装代金は一部、というか、ほとんど全額免除された。免除したのはなんとEDEN本社だった。理音が支払ったのはほとんど雀の涙だった。代金を支払ったという証拠作りのためだろう。EDEN本社からは何も口止めはされなかったが。代金免除が口止め代わりなのかもしれない。
  いずれにせよ理音もクエンティン本人も言いふらすつもりはさらさらなかった。無駄な面倒はごめんこうむる、というわけだ。
  もしかしたら自分達がウラ技――あの擬似的瞬間移動を公然と使えたのは本社の手が入っていたのかもしれない、とクエンティンは邪険した。まあ、全面禁止されたいまでは事実がどうであってももう意味のないことだ。禁止されていなかったころでもどうでも良かった。注意されれば理音は使用するのをやめただろう。結果として注意されることはなく、使い続けられた。それで良いのだ。自分達に関係ないことは知る必要はない。
  結局は本社の手のひらの上で支配者づらしていただけだったのかもしれない。そう思うとクエンティンはすこし虫の居所が悪くなった。理音はどう思っているのだろう?
  エレベータはまだ下がり続けていた。執事はパネルの前で静かに佇んでいた。いるのかいないのか分からない希薄さだった。その点で言えば執事の鑑だろう。必要なときに役に立ち、それ以外はいてもいなくても気にならない存在になる。言い切ってしまえばその辺の置物と同化する技能が執事には不可欠だ。
  鶴畑家の執事――彼は間違いなく優秀だった。
  エレベータはまだ止まりそうにない。

「ねえ、お姉さま」

  クエンティンは気になっていることを聞いた。もしも本社に踊らされていたとしたら、どう思う?

「気にしないわ」

  まったく予想外の答えを理音は返した。

「だって、そのどちらであっても、わたし達の生活にはなんら関わらないわけでしょう。だったらあってもなくても一緒よ。現実としてわたし達は、あの瞬間移動を使い続けることができた。それで十分じゃなくて?」

  あってもなくても一緒、執事と同じような。

「お姉さまは、踊らされていてもいいって言うの?」
「踊らされていて問題があったなら、手を尽くして戦うわ。でも不都合がないのなら、気にする必要もないんじゃない? 踊らされているのなら、踊らにゃそんそん、ってね」

  どうしてそこまで割り切れるのだろう。クエンティンは納得が行かなかった。
  自らの主人に強い反感を覚えているのに気がついて、クエンティンは戦慄した。
  やっぱり自分はおかしい。
  武装神姫なら、主人に自動的に準ずるよう、暗示、いや、催眠といっても良い根幹プログラムがあるはずなのだ。
  そうでなければ武装神姫として成り立たない。主人に真っ向から反発する武装神姫など、武装神姫ではないからだ。自分では納得の行かないことでも、主人の命ならば否応無しに行うのが武装神姫なのである。
  加えてそこに否という感情があったのなら、強制的に命令を遂行する快感を植えつけるはずだ。
  いまのクエンティンにはそれがなかった。反感は反感として彼女の内部にいつまでもうずまき、ことによっては主人の命令を無視することもできるとさえ思えてしまう。実際やろうとすればできるのだろう。いまの自分には。
  いつから自分はおかしくなったのだろう。本を読むようになってからだろうか? 読書は自己分析だという。
  もうおかしくなった原因などどうでも良かった。いま、おかしいのが問題なのだ。おかしいと自覚できていることも含めて。
  武装神姫として、自分は、おかしい。

「アタシは武装神姫でなくなることが怖いんだ」

  クエンティンは無意識に口走っていた。

「え?」

  クエンティンが首をかしげたと同時に、エレベータが止まった。

「着きましたぞ」

  執事は二人の会話に一切触れなかった。あくまで彼は執事であることを押し通した。
  ドアが開く。
  クエンティンたちは面食らって、思考を中断された。
  広大な地下空間が広がっていた。
  半径百数十メートルの半球状の空洞だった。エレベータの位置からは地上と、どういう原理か空中に漂ういくつもの四角い構造物――それぞれワンルームの建築物らしかった――が一望できた。
  一目で武装神姫の大規模研究開発施設だと、二人には分かった。どこを見ても小さな人型の姿がちらちら見えるからだ。彼女達は自由に歩き回ったり、飛び回ったりしている。
  武装神姫の楽園、そんなイメージをクエンティンは浮かべた。武装神姫を徹底的にモノ扱いする鶴畑にはまったく似つかわしくなかった。だがよくよく目をこらして見れば、どの神姫も例外なく無表情だった。感情回路を外されているのだとクエンティンにはすぐ分かった。彼女らは研究用のボディなのだ。モルモットと同じ、実験動物。
  クエンティンは寒気を覚えた。

「必要時には緊急用の核シェルターにもなる」

  地上へ続く階段を上がってくる人物が言った。鶴畑興紀だった。
  階段のふもと、半球状空間の中心には、テスト用のバトルスペースがあった。太った子供、鶴畑大紀と、同じく結構な恰幅の少女が自らの神姫をいじっていた。こんなときにいまからバトルするのだろうか?
  階段を上がってくる興紀の傍らに一体の神姫がふわりと舞い降りてくる。
  クエンティンは思わず見入った。
  それは彼女と同じ悪魔型素体の神姫だった。
  ルシフェルだ。ものものしい雰囲気で分かる。が、一瞬別の神姫なのではないかと思うほど、姿かたちが違っていた。
  両腕両脚はそれぞれ二の腕と大腿部のジョイントから取り外され、代わりに鋭角的なシルエットのものに換装されている。空力学的特性を持たせたような面長のヘルメットをかぶり、背中には大きな翼とブースターユニットを背負っている。
  胸部は首元から弧を描いて股下長くまで伸びる一個のアーマーを装着していた。
  まるでクエンティンと同じOFイクイップメントのようだった。だが、何かが違う。

「レヴ・アタッチメント『ビックバイパー』だ」

  クエンティンの疑問を見透かしたように興紀が答えた。

「エイダやアージェイドとは違うの?」
「これにはOFイクイップメントのような技術は使われていない。おおいに参考にはしているがな。既存技術のみでOFイクイップメントに対抗するために私が個人的に開発した。こいつはその特別機だ」

  空間のはるか上、地上からくぐもった爆発音がかすかに聞こえてくる。
  鶴畑興紀は天井を見上げて、言った。

「これで騒々しい訪問者にお帰りいただく」
「やっぱり襲撃だったのね」

  パジャマのままの理音が口を開いた。

「目的はクエンティンかしら」
「十中八九そうだろうな。昨晩から一日中こちらに連絡をかけてきたが、交渉は望めないと判断したらしい」

  理音はバッグの中から腕時計を取り出す。クエンティンがのぞき見る。短針は12を過ぎていた。夜中の十二時だ。丸一日自分達は眠っていたのである。

「無視したの」
「まさか。こちらもできうる限り手は尽くしたが、結局折り合いがつかなかった。向こうはエイダを返せの一点張りだ。返せとはよく言う。奪ったのはあっちなのにな」
「警察を呼びなさいよ」
「死人を増やしたければ勝手にしろ。知っての通りやつらは人工知能基本三原則を無視する」
「襲っているのは……、あの新型どもなの?」
「敷地のセキュリティセンサーがまったく役に立たなかった。屋敷外壁の監視カメラでやっととらえた。あと数秒遅れていたら突入されていた」
「戦力はあなたのルシフェルだけ?」
「後ろの弟と妹にもやらせる」

  ちらとも振り返らずに鶴畑興紀は言った。大紀たちは準備をしていたのだ。ただし、バトルではなく、実戦の。

「アタシも行くわ」

  クエンティンが手を上げた。

「もってのほかだ」
「なんでよう」
「目標が自分から捕まりに行く気か?」
「車のときは出したじゃない」
「あれは他に手が無かったからだ。いまはこいつらがいる。十分だ。お前はここでおとなしくしていろ」

  うんざりしたように鶴畑興紀はため息をついた。

「クエンティン、今回ばかりは彼の言う通りよ。おとなしくしていなさい」

  理音にも同じことを言われ、クエンティンは頬を膨らして階段の手すりへ腰掛けた。
  鶴畑興紀がついっ、と手を振る。と、傍らのルシフェルが四肢をぴん、と伸ばしてYの字の体勢になる。ヘルメットが顔面に移動し、その上に後方からブースターブロックが主翼ごとかぶさった。
  機首が二股に分かれた戦闘機に変形し、ルシフェルは空間上空へ高速で飛び立つ。天井の一角に小さな穴が開いて。そこに入っていった。出て行く先は地上だろう。あの一つ目どもが暴れまわっている地上へ。
  後方の大紀たちも準備ができたらしく、自分の神姫を放つ。ルシフェルとはちがう穴がふたつ開き、それぞれ突入してゆく。まるでここでは飛んでいるのが当たり前のようだ、とクエンティンはかすかに思っていた。
  執事がいつの間にか手にリモコンを持っていて、それを操作する。
  空中に三つのホログラムディスプレイが浮かび上がった。
  細いダクトを飛び進んでゆく映像。三体の神姫のアイセンサーからのものだ。
  ダクトを抜けた。雪が降っていた。昨晩から降り続いていたのか、一度やんでまた降ったのかは分からない。
  三体の神姫の聴覚センサーに捉えた轟音が、空間内に響きわたった。
  戦闘が始まったのだ。

つづく






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