「「CREATURE」」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「「CREATURE」」(2007/05/08 (火) 22:53:00) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
ニビルは華墨程、空を舞う相手に苦労はしなかった
彼女には天迄届く長い腕と、未来を見切る黄金の瞳があったから
勿論、白兵距離でかわす暇も与えない高速攻撃というのは苦手だったが、生憎『ズィータ』はそういうタイプでは無かった事もあり、本人には可哀想だが、ニビルにとっては『仁竜』程の脅威を感じる相手ではなかった
とはいえこの勝負で『ゴールドアイ』を使い切ってしまったニビルは、オーバーロード無しの裸で華墨に挑む事になった訳である
一方の華墨はといえば、今迄幸運と奇襲で勝って来た様な物で、その勝ち上がりを誰も予想していなかった
無論、それはニビルもそうで、正直ヌルには悪いが、華墨はそれ程実力があるタイプとは看做していなかった
とはいえ
此処まで来たのならば油断する理由も無い
それは華墨も同じだった
「ようやく闘えるな・・・こうしてあいつと」
最初に口を開いたのは武士だった
個室のマスター席で準備しながら、黙ったままの華墨に声を掛けたのだ
「緊張してるか?」
「判らない・・・が、複雑な気持ちだ」
「思い切りぶつかっていけば良いさ・・・此処まで勝ち残った以上、お前が弱いなんて事は絶対無いんだからな」
「・・・ありがとうマスター」
紅潮しつつ武士の指に手をかける華墨
「勝とうぜ、俺達二人で・・・それであとは・・・」
「あぁ、征って来る、マスター」
そうやって微笑んで、華墨はポッドインした
「頑張ろうぜ、相棒・・・!」
戦いの幕が開こうとしていた
* 「CREATURE」
「残ったのはこの二人か・・・意外だな」
遅れて会場にやってきた『クイントス』の最初の発言がそれだった
「『ニビル』は・・・良いとして、この『華墨』というのは誰だ・・・?新人か?」
クイントスの認識はその程度だった
「・・・かなりの速さだが・・・」
左手に構えた太刀で顔を護りつつ、ニビルに向かってダッシュする華墨の姿がスクリーンに映し出されていた
「それだけで勝ち切れる程の芸ではないな・・・単純な速さを極めるならアーンヴァルやツガル装備の方が遥かに上だし」
振り抜く剣は容易にニビルにかわされている
「技も雑だな・・・その戦術では『仁竜』以上に使えんと話にならん筈だ」
「店長、本当に彼女が勝ち抜いて来たのですか?」
「何の八百長も無いさ・・・まぁ多少姑息な手は何度か用いていたがね」
「・・・武士型の風上にも置けん奴だな・・・それは」
「どう見るかね?君の予想は」
片目を瞑ったまま、皆川が問う
「私は予想屋ではない・・・願望を言えばあの華墨というのに『未知なる爆発力』みたいなのがあると嬉しいが・・・そういうタイプでは無いのでしょう?」
「どちらかというとそれは『ヌル』だろうね・・・ふむ、『華墨』か・・・速さも腕力も並み以上、彼女の刃に触れられればほぼ勝負は決まる・・・問題は、現時点ではその為の術を奇襲や相手の油断に頼っている所が多いといった所か」
「成程・・・同じ相手にはもう勝てないタイプと・・・?」
「というのも、彼女自身がまだ自分の明確なスタイルを確立出来ていない様に私には見えるからだよ」
「・・・まだ伸びる可能性があると?」
「さてね・・・いずれにしてもこの試合で答えは出るさ・・・」
そう応えた皆川の顔には異常な表情が浮かんでいた
----
華墨は苛立っていた
攻撃の悉くがいなされるから・・・というのもあったし、ニビルに対する複雑な感情もあったが、それだけではなかった
むしろ、それを引き金として放たれようとしていた『何か』が寸止めされている様な、奇妙な感覚に襲われていたからだった
(何だ?誰かが私を『呼んでいる』?)
否、そこには華墨とニビルしか居ない
寧ろ華墨自身が望みさえした二人きりのバトルフィールドだ
荒野だった
時々乾いた風が吹き、異様に鮮烈なスカイブルーの空は、其処に浮かぶ雲も、天に届く山も無く、果てしなく遠かった
太陽の存在を知覚出来ないにも関わらず、荒野は昼間の明るさを保っている
影が無く、現実感の薄い風景だ
「ふっ!はぁ!はぁああぁぁぁっ!!」
『ヌル』が見せたそれと良く似たコンビネーションキックでニビルを捕らえようとする華墨
内一発がヒットし、大きくよろめくニビル
そう、『二人きり』だ
先刻から全く武士の気配を感じられない
武士と連絡も取れないし、第一このバトルフィールドの風景は、ニビルも全く知らない未知の風景だった
(単調だった攻撃に幅を添えてきたわね・・・ただ、どれも一流の『キレ』は無い感じ・・・全部モノになれば恐ろしいけど、そんな程度じゃね)
よろけた所に必殺を期した袈裟斬り・・・だが、ニビルの振り上げた踵が柄尻を捉え、太刀行きが止まる
直後に腹と首に向かってばら撒かれる拳銃弾・・・凌げず、仰け反り過ぎて転倒する華墨
(取った!!)
勝機の訪れに対する興奮そのままに、倒れた華墨に発砲しようとするニビル
その動きが、止まった
華墨は全く起きて来ようとしていなかった
それどころか、ぴくりとも動かない
奇抜な行動でニビルの意表を突こうとしているのでない事は、おそらくそれを見ている者があれば誰の目にも明らかだったろう
そう、見ている者があれば・・・だ
----
『ボンソワール妖精さん。こんな所で一人で何を?』
何時から其処にいたのか?ピエロの様な格好をした神姫が声を掛けてくる
(・・・一人?)
何時からその荒野に「私」は居たのか、現れたピエロで「自」を知覚したのか。兎に角「私」は一人で、この荒野に立っていたらしい
(・・・何を・・・していたんだろう?)
思考を巡らせようとするが、ピエロの大袈裟なジェスチャーでそれは遮られた
『ノンノンノン・・・深く考える必要は無いのです妖精さん。この現実感の無い大地と、かけ離れてリアルなソラを見れば判ります、判りますとも、ええ』
(・・・何を・・・していたんだろう?)
『貴女は今無数の問いの中にいる・・・この世界の空気を構成するのは全て貴女の「問い」だ・・・でもね妖精さん?いかに妖精さんでも、空気の無い世界ではその「問い」に自ら溺れてしまいますよ?』
(何を言っているんだ・・・?)
『漠蒙としたリアルなソラと、現実感の無い確固たる大地、その狭間に無数の「問い」の空気を湛えた世界で、貴女は太陽が見えずに一人でいきているのです』
「違うッ!!私にはマスターが居る!私を必要だと言ってくれたマスターが・・・」
マスター・・・マスター!?
自分の記憶に欠落がある事にその時気付いた
否、欠落しているのではない
『奪われて』いるのだ・・・削られ、喰われ、侵食されているのだ・・・私自身が、今、他の何者かに・・・!
「お前が!?」目の前のピエロに向かって身構える・・・私の手には武器すら無い
『これをお探しですか?』
ピエロの右手には緋い柄、その先に据えられた鍔は黄金色で、弧を描いた刀身は見事な冴えだ
『それとも、これですか?』
ピエロが仮面を外す・・・仮面、そう、このピエロは仮面を付けていた事に今気付いた
目元が隠れる、左右で白黒に塗り分けられた仮面
「・・・あ・・・あぁぁぁ・・・!!」
「さようなら、妖精さん」
その顔は
間違い無く
『華墨』だった
『私』の筈の
顔だった
----
(来たか・・・遂にこの時が・・・!!さぁ出現しろ『ギガンティック』 俺の巨神よ!!)
白濁した画面から微かに見えるその巨体に、誰もが言葉を失っていた
唯一人、『クイントス』を除いて
「あれは・・・まさか『あの時』の・・・!?」
彼女の恐怖の記憶
目の前に現れた黒い巨神と、その紅い巨神は、印象が極めて良く似ていた
----
「な・・・何よこれ・・・何・・・何なのよ・・・!?」
ニビルの目の前で、華墨の体は変形していた
巨大な姿に・・・否、巨大なだけではない
既にそれは神姫のプロポーションですらなく、ひたすら異形の、禍々しい鬼の様な姿だった
甲虫の甲殻と、大型獣の筋肉を融合させれば、その表皮の様な質感になるだろうか?
太く長い腕に、ひとつひとつが大型のナイフの様な凶悪な爪を備えた指が付いていた
右腕はそれ自体が肘から先が巨大な刃物になっていた
両外耳に当たる部分に太い角を備えた頭部は、発達した筋肉(としか言い様が無い)との割合から考えると恐ろしく小さかった
顔は・・・無い
恐らく目であろう部分にスリットが付いたプラスチックの質感の仮面・・・左右で白黒に塗り分けられていた・・・そして、黒いスリットからは
「ひッ!!」
今、瞳孔の細い黄金の瞳が、ニビルを見た
身長は・・・これがリアルスペースに現れたら2mは下らないだろうという代物
それは正に巨神だった
そして
巨大である以上に
それはどうしようもない程に徹底した『怪物』だった
[[剣は紅い花の誇り]] [[前へ>「Like A Angel」]] [[次へ]]
ニビルは華墨程、空を舞う相手に苦労はしなかった
彼女には天迄届く長い腕と、未来を見切る黄金の瞳があったから
勿論、白兵距離でかわす暇も与えない高速攻撃というのは苦手だったが、生憎『ズィータ』はそういうタイプでは無かった事もあり、本人には可哀想だが、ニビルにとっては『仁竜』程の脅威を感じる相手ではなかった
とはいえこの勝負で『ゴールドアイ』を使い切ってしまったニビルは、オーバーロード無しの裸で華墨に挑む事になった訳である
一方の華墨はといえば、今迄幸運と奇襲で勝って来た様な物で、その勝ち上がりを誰も予想していなかった
無論、それはニビルもそうで、正直ヌルには悪いが、華墨はそれ程実力があるタイプとは看做していなかった
とはいえ
此処まで来たのならば油断する理由も無い
それは華墨も同じだった
「ようやく闘えるな・・・こうしてあいつと」
最初に口を開いたのは武士だった
個室のマスター席で準備しながら、黙ったままの華墨に声を掛けたのだ
「緊張してるか?」
「判らない・・・が、複雑な気持ちだ」
「思い切りぶつかっていけば良いさ・・・此処まで勝ち残った以上、お前が弱いなんて事は絶対無いんだからな」
「・・・ありがとうマスター」
紅潮しつつ武士の指に手をかける華墨
「勝とうぜ、俺達二人で・・・それであとは・・・」
「あぁ、征って来る、マスター」
そうやって微笑んで、華墨はポッドインした
「頑張ろうぜ、相棒・・・!」
戦いの幕が開こうとしていた
* 「CREATURE」
「残ったのはこの二人か・・・意外だな」
遅れて会場にやってきた『クイントス』の最初の発言がそれだった
「『ニビル』は・・・良いとして、この『華墨』というのは誰だ・・・?新人か?」
以前にも同じ事を言っていたのだが、華墨に対するクイントスの認識はその程度だった
「・・・かなりの速さだが・・・」
左手に構えた太刀で顔を護りつつ、ニビルに向かってダッシュする華墨の姿がスクリーンに映し出されていた
「それだけで勝ち切れる程の芸ではないな・・・単純な速さを極めるならアーンヴァルやツガル装備の方が遥かに上だし」
振り抜く剣は容易にニビルにかわされている
「技も雑だな・・・その戦術では『仁竜』以上に使えんと話にならん筈だ」
「店長、本当に彼女が勝ち抜いて来たのですか?」
「何の八百長も無いさ・・・まぁ多少姑息な手は何度か用いていたがね」
「・・・武士型の風上にも置けん奴だな・・・それは」
「どう見るかね?君の予想は」
片目を瞑ったまま、皆川が問う
「私は予想屋ではない・・・願望を言えばあの華墨というのに『未知なる爆発力』みたいなのがあると嬉しいが・・・そういうタイプでは無いのでしょう?」
「どちらかというとそれは『ヌル』だろうね・・・ふむ、『華墨』か・・・速さも腕力も並み以上、彼女の刃に触れられればほぼ勝負は決まる・・・問題は、現時点ではその為の術を奇襲や相手の油断に頼っている所が多いといった所か」
「成程・・・同じ相手にはもう勝てないタイプと・・・?」
「というのも、彼女自身がまだ自分の明確なスタイルを確立出来ていない様に私には見えるからだよ」
「・・・まだ伸びる可能性があると?」
「さてね・・・いずれにしてもこの試合で答えは出るさ・・・」
そう応えた皆川の顔には異常な表情が浮かんでいた
----
華墨は苛立っていた
攻撃の悉くがいなされるから・・・というのもあったし、ニビルに対する複雑な感情もあったが、それだけではなかった
むしろ、それを引き金として放たれようとしていた『何か』が寸止めされている様な、奇妙な感覚に襲われていたからだった
(何だ?誰かが私を『呼んでいる』?)
否、そこには華墨とニビルしか居ない
寧ろ華墨自身が望みさえした二人きりのバトルフィールドだ
荒野だった
時々乾いた風が吹き、異様に鮮烈なスカイブルーの空は、其処に浮かぶ雲も、天に届く山も無く、果てしなく遠かった
太陽の存在を知覚出来ないにも関わらず、荒野は昼間の明るさを保っている
影が無く、現実感の薄い風景だ
「ふっ!はぁ!はぁああぁぁぁっ!!」
『ヌル』が見せたそれと良く似たコンビネーションキックでニビルを捕らえようとする華墨
内一発がヒットし、大きくよろめくニビル
そう、『二人きり』だ
先刻から全く武士の気配を感じられない
武士と連絡も取れないし、第一このバトルフィールドの風景は、ニビルも全く知らない未知の風景だった
(単調だった攻撃に幅を添えてきたわね・・・ただ、どれも一流の『キレ』は無い感じ・・・全部モノになれば恐ろしいけど、そんな程度じゃね)
よろけた所に必殺を期した袈裟斬り・・・だが、ニビルの振り上げた踵が柄尻を捉え、太刀行きが止まる
直後に腹と首に向かってばら撒かれる拳銃弾・・・凌げず、仰け反り過ぎて転倒する華墨
(取った!!)
勝機の訪れに対する興奮そのままに、倒れた華墨に発砲しようとするニビル
その動きが、止まった
華墨は全く起きて来ようとしていなかった
それどころか、ぴくりとも動かない
奇抜な行動でニビルの意表を突こうとしているのでない事は、おそらくそれを見ている者があれば誰の目にも明らかだったろう
そう、見ている者があれば・・・だ
----
『ボンソワール妖精さん。こんな所で一人で何を?』
何時から其処にいたのか?ピエロの様な格好をした神姫が声を掛けてくる
(・・・一人?)
何時からその荒野に「私」は居たのか、現れたピエロで「自」を知覚したのか。兎に角「私」は一人で、この荒野に立っていたらしい
(・・・何を・・・していたんだろう?)
思考を巡らせようとするが、ピエロの大袈裟なジェスチャーでそれは遮られた
『ノンノンノン・・・深く考える必要は無いのです妖精さん。この現実感の無い大地と、かけ離れてリアルなソラを見れば判ります、判りますとも、ええ』
(・・・何を・・・していたんだろう?)
『貴女は今無数の問いの中にいる・・・この世界の空気を構成するのは全て貴女の「問い」だ・・・でもね妖精さん?いかに妖精さんでも、空気の無い世界ではその「問い」に自ら溺れてしまいますよ?』
(何を言っているんだ・・・?)
『漠蒙としたリアルなソラと、現実感の無い確固たる大地、その狭間に無数の「問い」の空気を湛えた世界で、貴女は太陽が見えずに一人でいきているのです』
「違うッ!!私にはマスターが居る!私を必要だと言ってくれたマスターが・・・」
マスター・・・マスター!?
自分の記憶に欠落がある事にその時気付いた
否、欠落しているのではない
『奪われて』いるのだ・・・削られ、喰われ、侵食されているのだ・・・私自身が、今、他の何者かに・・・!
「お前が!?」目の前のピエロに向かって身構える・・・私の手には武器すら無い
『これをお探しですか?』
ピエロの右手には緋い柄、その先に据えられた鍔は黄金色で、弧を描いた刀身は見事な冴えだ
『それとも、これですか?』
ピエロが仮面を外す・・・仮面、そう、このピエロは仮面を付けていた事に今気付いた
目元が隠れる、左右で白黒に塗り分けられた仮面
「・・・あ・・・あぁぁぁ・・・!!」
「さようなら、妖精さん」
その顔は
間違い無く
『華墨』だった
『私』の筈の
顔だった
----
(来たか・・・遂にこの時が・・・!!さぁ出現しろ『ギガンティック』 俺の巨神よ!!)
白濁した画面から微かに見えるその巨体に、誰もが言葉を失っていた
唯一人、『クイントス』を除いて
「あれは・・・まさか『あの時』の・・・!?」
彼女の恐怖の記憶
目の前に現れた黒い巨神と、その紅い巨神は、印象が極めて良く似ていた
----
「な・・・何よこれ・・・何・・・何なのよ・・・!?」
ニビルの目の前で、華墨の体は変形していた
巨大な姿に・・・否、巨大なだけではない
既にそれは神姫のプロポーションですらなく、ひたすら異形の、禍々しい鬼の様な姿だった
甲虫の甲殻と、大型獣の筋肉を融合させれば、その表皮の様な質感になるだろうか?
太く長い腕に、ひとつひとつが大型のナイフの様な凶悪な爪を備えた指が付いていた
右腕はそれ自体が肘から先が巨大な刃物になっていた
両外耳に当たる部分に太い角を備えた頭部は、発達した筋肉(としか言い様が無い)との割合から考えると恐ろしく小さかった
顔は・・・無い
恐らく目であろう部分にスリットが付いたプラスチックの質感の仮面・・・左右で白黒に塗り分けられていた・・・そして、黒いスリットからは
「ひッ!!」
今、瞳孔の細い黄金の瞳が、ニビルを見た
身長は・・・これがリアルスペースに現れたら2mは下らないだろうという代物
それは正に巨神だった
そして
巨大である以上に
それはどうしようもない程に徹底した『怪物』だった
[[剣は紅い花の誇り]] [[前へ>「Like A Angel」]] [[次へ>「奈落の底」]]
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: