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「Phase01-3」(2007/04/01 (日) 03:40:26) の最新版変更点
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SHINKI/NEAR TO YOU
Phase01-3
一向はモノレールに乗り無事市街地へと到着した。
「ふむ、ここが摩耶市のですか。多少煩雑な趣きですが、賑やかな所ですね」
初めてくる市街地がめずらしいのか、ゼリスは駅を出るなりキョロキョロと周囲の街並みを興味深そうに眺めている。
「あちらの派手な外装の建物は? 何やら騒々しい音がしますが」
「ゲームセンター。いろんなゲーム機で遊ぶところよ、ぜっちゃん」
「あのような棒でボールを突いて……何が目的なのでしょう」
「あれはビリヤードね。テーブルの玉を脇のポケットに順番に落としていくゲームよ」
ゼリスは「人間の娯楽はよく分かりませんね」と言いながら、今度は通りの反対側を指差す。
「あれはなんですか? 人形の猫が飲食物を持っています」
「あれはピザキャットの客引き用マスコット〝ニャンキー君〟ね。帰りに寄ってこうか?」
「は~いは~い。ボクはスペシャルニャンキーセットがいいっ!」
姦しく騒ぐ少女三人組(?)の会話を、シュンはうんざりしながら聞いている。さっきから自分たちに向けられる視線が結構痛い。
「それにしてもこの辺りの人たちは神姫が珍しいようですね。道行く皆が私たちを見ていきます。シュン、どういうことでしょう?」
「お前がさっきから人の頭の上に座ってるからだろうがっ!」
思わず声を荒げたシュンは、すぐに周りの好奇の目に気がついた。仕方なくまたブスっと口をつぐんで仏頂面に戻る。モノレールを降りてから、ゼリスはよりにもよって彼の頭の上に居座っていた。
彼女いわく「この方が周囲をよく見通せていいのです」だそうだ。
「あはは。シュっちゃんて昔っから女の子にはテンで弱かったもんね~」
お前が言うなよ、お前がっ。
「ところでさ、シュっちゃんたちは今日どんなパーツを買う予定なの? 物によってオススメルートが変わるから、参考に聞かせてくれると助かるなぁ」
笑いから一転真面目な顔つきに戻った伊吹を見て、シュンも今日の目的を思い出す。そうだった、今日はただ遊びに来たんじゃない。
「え~っと、クレイドルのオプションと周辺機器の他に……。後は……そうそうメモがあったんだ」
シュンは出掛けにジーンズのポケットに突っ込んだままだったそれを取り出す。「どれどれ?」と伊吹がそのメモを興味深そうに手に取る。
「へぇ~……って、これってかなり上級者向けのパーツよ。オーナーになったばかりのシュっちゃんには難しくない?」
「そうなのか? 優のヤツから渡されただけだからよく分かんない」
「ああ、これ優ちゃんが書いたんだ」
有馬優(アリマ ユウ)はシュンの2つ年下の妹だ。最近すっかり生意気になってきたのがシュンとしては少し寂しいかぎり。どうにもよく分からないが、いわゆる思春期の反抗期ってやつだろうか。ちなみに小学校は休みじゃないので、今日は連れてきてない。
「ふ~ん、なら安心だね。優ちゃんしっかり者だしね」
「私としましても、ユウのリストアップしたものならば信頼が置けます。さらに舞さんに厳選していただければ万全ですね」
「僕への信用はゼロかよ……」
シュンの呟きを黙殺しつつ、伊吹とゼリスは早くも意気投合しつつあるようだ。
「ふふふ。ありがと、ぜっちゃん。ああ、ゼリスちゃんだからぜっちゃんで問題ないよね?」
「どの様に呼称されようとそれがそのものの本質――つまりは私自身を指すのであれば問題ありません。舞さんのお好きな呼び方で結構です」
「リョーカイ♪ それじゃあ頑張ってぜっちゃんにピッタリなパーツ選んであげるからね。今の服もカワイくていいけど、そのままじゃね~」
そう。伊吹の言う通り今のゼリスはおよそ戦いとは無縁な装いに身を包んでいる。黒地を白のレースと若草色のリボンで飾ったドレス、俗にいうゴスロリ・ファッションというヤツだ。
こんな格好した神姫が頭の上に座ってれば、そりゃ目立つよな。なんで武装神姫であるゼリスがこんな服を着ているのかは……やめよう、これ以上頭を痛めたくない。
そんなシュンの心中を知ってかしらずか。張本人であるゼリスは彼の頭上ですっかり観光モードに入っている。周りの目を気にするとかいう考えは、そもそも発想すらないのだろう。
全くこいつは、その小さな体で何考えてるんだか。
出会ってからそれなりの時間が過ぎたが、シュンには未だにゼリスが何を考え、何を思って行動しているのか分からなかった。
そもそもこいつ、僕の事を本当に自分のオーナーだと認めているのか?
シュンは沸き起こる葛藤を振り切って、先を行く伊吹の後を追いかけた。とにもかくにも。何でもいいからパーツを買って、まずはせめてゼリスにもっと神姫らしい格好をさせよう。
……この周りからの好奇の目線に、帰りも耐えられそうにないから。
*
武装神姫による対戦ゲーム「武装神姫バトル」が始まったのは、神姫タイプ発売から一年後の2032年のことだ。
武装神姫バトルは管理運営機関である「武装神姫バトル管理協会」の元、幾度ものバージョンアップ、レギュレーションの厳格化、様々なレイティング・クラス分けの導入、オフィシャル・フリーなどの興行様式の明瞭化、関連施設の充実などを経て徐々に洗練されていき、スタートから数年で国内アミューズメントとしての人気と地位を確立させた。
今や年数回開催される公式大会ともなればこぞってマスメディアに取り上げられ、その人気は日本国内だけに留まらず遠く海外にまで広がりつつある。
そうした神姫ブームの立役者が全国各地に点在する神姫専門商業施設「神姫センター」や、神姫をメインに取り扱ったMMSショップの存在だろう。
取り分け専用施設である神姫センターは施設内の各店舗によって神姫の購入、カスタマイズ、修理など様々なサポートを受けることができ、初期ユーザーにとって心強い味方となった。
神姫センターは武装神姫アミューズメントの中心として、現在もなお多くのユーザーたちが訪れる場所となっている。
「うわぁ~、すっげーなぁ」
初めて訪れる神姫センターに、シュンは素直に感嘆の息をもらした。エントランスから施設内に入るとそこはセントラルコートになっていて、平日にも関わらず多くの来客が行きかっている。
正面には大型モニターが設置され、二股の槍を構えた神姫と巨大な十字手裏剣を持った神姫の戦う姿が映し出されている。CMでお馴染みの音楽が流れ、否が応にも気分が高まる。
「ちょっと、あまりキョロキョロすると恥かしいわよ」
「シュンはおのぼりさん♪」
すでに何度も訪れている伊吹とワカナがたしなめるが、シュンは初めて味わう神姫センターの雰囲気にすっかり当てられていた。
「だってさぁ、僕は神姫センター来るの初めてだし。おお、あれなんだ?」
「シュン、それよりもあちらの奥にあるものは気になります。確かめに行きましょう」
「待て、ゼリス。あっちにはあんなのがあるぞ」
「いいえ、それよりもあの上の方に見える施設の謎を解明するのを優先すべきです」
「ああ、ゼリス。向こうから何やら楽しげな音楽が」
「ふむ、あそこの人たちは一体何をしているのでしょう? さらなる謎が……」
「むむむ……」
「なんと――っ」
「右、いや正面かっ?」
「見える……私にも敵が見え……」
「いーかげんにしなさ―――いっ!!」
伊吹のツッコミが眉間に命中し、ようやくシュンとゼリスはハッと我を取り戻した。
「僕たちは一体今何を……」
「なるほど、これが人間たちを魅了する神姫センターの魔力というヤツですか。怖ろしいものですね」
「ああ、気をつけないとな」
神妙な顔で頷きあうふたりに伊吹は呆れつつ、気を取り直し武装神姫ユーザーの先輩としてこの新人コンビの先生役に戻ることにした。
「全く……いい、ふたりとも。一通り神姫センターの施設も案内してあげるから、フラフラせずにしっかりついてくるのよ。そうじゃないと、迷子になっても知らないから」
ジト目で睨む伊吹に、シュンとゼリスに何故かワカナまでがこくこくと頷いた。
必要パーツの購入は問題もなくスムーズに進んだ。
シュンは優から渡されたメモに書かれたパーツの種類の多さから考えて、正直今日中に全て回るのは難しいと思っていた。
しかし、メモを受け取った伊吹は不慣れな彼の代わりにどのパーツをどの店舗で買えばいいのか瞬時に判断し、すぐさま最も効率的なルートを決めてくれた。おかげで途中ゆっくりとした昼食を挟みながら、余裕を持って店舗内を回ることができた。
一通り買い物を済ませたシュンたちは、センター内の軽食店で休憩がてら早めの三時のおやつを楽しんでいた。
「今日は本当に助かったよ。僕たちだけで来てたらこんなにうまくいかなかったからな」
シュンは今日見て回った神姫センターの広さを思い出しながら、素直な感想を述べた。もしゼリスとふたりだけだったら、何を何処で買ったらいいか分からずに途方に暮れるところだったろう。オマケに伊吹が行く先々での値段交渉までしてくれたおかげで、出費も覚悟していたものより軽く済んだ。
だからこそ彼は今こうして、気分良く今回の功労者である伊吹にお礼を兼ねて奢ったりできる訳だ。
「持つべきは頼れるカワイイ幼馴染ってね。シュっちゃんもこれで改めてあたしの有難みが分かったでしょ?」
パフェを口に運びつつ伊吹はご満悦。
「本日のお手並みは見事でした。ルート選択も非常に合理的で、常日頃からの蛍雪が伺えます。伊吹さんはシュンには勿体無いくらいの有徳を持った方ですね」
ほっとけ。まあ、ゼリスも買い物が順調に運んで、気分がいいようだからよかったか。
シュンは大きく伸びをする。テーブルの上ではゼリスが、伊吹がパフェを平らげていく様を見つめている。その横ではワカナが午後のお昼寝タイム中。
朝はいろいろ不安だったものの、買い物中も特に問題も起きなかったし、このままなら今日は無事に一日を終えることができそうだ。
「ふ~、さてと。お腹もふくれたことだし、さあ行こっか!」
「行くって……何処にだよ?」
伊吹はまだ寝ぼけ眼なワカナを抱きしめ勢いよく席を立つ。もう必要なところはすべて回ったはずだし、帰りの時間にはまだ早い。キョトンとするシュンとゼリスに、伊吹は不適な笑みを浮かべる。
「ふっふっふ、諸君。神姫センターといったらアレしかないでしょう?」
「ふむ。伊吹さん、アレとはなんでしょうか?」
首を傾げるゼリスとシュンの前に、彼女は店内に設置された情報モニターを指差した。
そこには次々と眩いエフェクトが切り替わりながら、ひとつのトピックが流れていた。
『NEWヴァーション武装神姫バトル筐体、登場! 美しき神姫たちの熱いバトルが君を待っている!』
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Phase01-3
一向はモノレールに乗り無事市街地へと到着した。
「ふむ、ここが摩耶市のですか。多少煩雑な趣きですが、賑やかな所ですね」
初めてくる市街地がめずらしいのか、ゼリスは駅を出るなりキョロキョロと周囲の街並みを興味深そうに眺めている。
「あちらの派手な外装の建物は? 何やら騒々しい音がしますが」
「ゲームセンター。いろんなゲーム機で遊ぶところよ、ぜっちゃん」
「あのような棒でボールを突いて……何が目的なのでしょう」
「あれはビリヤードね。テーブルの玉を脇のポケットに順番に落としていくゲームよ」
ゼリスは「人間の娯楽はよく分かりませんね」と言いながら、今度は通りの反対側を指差す。
「あれはなんですか? 人形の猫が飲食物を持っています」
「あれはピザキャットの客引き用マスコット〝ニャンキー君〟ね。帰りに寄ってこうか?」
「は~いは~い。ボクはスペシャルニャンキーセットがいいっ!」
姦しく騒ぐ少女三人組(?)の会話を、シュンはうんざりしながら聞いている。さっきから自分たちに向けられる視線が結構痛い。
「それにしてもこの辺りの人たちは神姫が珍しいようですね。道行く皆が私たちを見ていきます。シュン、どういうことでしょう?」
「お前がさっきから人の頭の上に座ってるからだろうがっ!」
思わず声を荒げたシュンは、すぐに周りの好奇の目に気がついた。仕方なくまたブスっと口をつぐんで仏頂面に戻る。モノレールを降りてから、ゼリスはよりにもよって彼の頭の上に居座っていた。
彼女いわく「この方が周囲をよく見通せていいのです」だそうだ。
「あはは。シュっちゃんて昔っから女の子にはテンで弱かったもんね~」
お前が言うなよ、お前がっ。
「ところでさ、シュっちゃんたちは今日どんなパーツを買う予定なの? 物によってオススメルートが変わるから、参考に聞かせてくれると助かるなぁ」
笑いから一転真面目な顔つきに戻った伊吹を見て、シュンも今日の目的を思い出す。そうだった、今日はただ遊びに来たんじゃない。
「え~っと、クレイドルのオプションと周辺機器の他に……。後は……そうそうメモがあったんだ」
シュンは出掛けにジーンズのポケットに突っ込んだままだったそれを取り出す。「どれどれ?」と伊吹がそのメモを興味深そうに手に取る。
「へぇ~……って、これってかなり上級者向けのパーツよ。オーナーになったばかりのシュっちゃんには難しくない?」
「そうなのか? 優のヤツから渡されただけだからよく分かんない」
「ああ、これ優ちゃんが書いたんだ」
有馬優(アリマ ユウ)はシュンの2つ年下の妹だ。最近すっかり生意気になってきたのがシュンとしては少し寂しいかぎり。どうにもよく分からないが、いわゆる思春期の反抗期ってやつだろうか。ちなみに小学校は休みじゃないので、今日は連れてきてない。
「ふ~ん、なら安心だね。優ちゃんしっかり者だしね」
「私としましても、ユウのリストアップしたものならば信頼が置けます。さらに舞さんに厳選していただければ万全ですね」
「僕への信用はゼロかよ……」
シュンの呟きを黙殺しつつ、伊吹とゼリスは早くも意気投合しつつあるようだ。
「ふふふ。ありがと、ぜっちゃん。ああ、ゼリスちゃんだからぜっちゃんで問題ないよね?」
「どの様に呼称されようとそれがそのものの本質――つまりは私自身を指すのであれば問題ありません。舞さんのお好きな呼び方で結構です」
「リョーカイ♪ それじゃあ頑張ってぜっちゃんにピッタリなパーツ選んであげるからね。今の服もカワイくていいけど、そのままじゃね~」
そう。伊吹の言う通り今のゼリスはおよそ戦いとは無縁な装いに身を包んでいる。黒地を白のレースと若草色のリボンで飾ったドレス、俗にいうゴスロリ・ファッションというヤツだ。
こんな格好した神姫が頭の上に座ってれば、そりゃ目立つよな。なんで武装神姫であるゼリスがこんな服を着ているのかは……やめよう、これ以上頭を痛めたくない。
そんなシュンの心中を知ってかしらずか。張本人であるゼリスは彼の頭上ですっかり観光モードに入っている。周りの目を気にするとかいう考えは、そもそも発想すらないのだろう。
全くこいつは、その小さな体で何考えてるんだか。
出会ってからそれなりの時間が過ぎたが、シュンには未だにゼリスが何を考え、何を思って行動しているのか分からなかった。
そもそもこいつ、僕の事を本当に自分のオーナーだと認めているのか?
シュンは沸き起こる葛藤を振り切って、先を行く伊吹の後を追いかけた。とにもかくにも。何でもいいからパーツを買って、まずはせめてゼリスにもっと神姫らしい格好をさせよう。
……この周りからの好奇の目線に、帰りも耐えられそうにないから。
*
武装神姫による対戦ゲーム「武装神姫バトル」が始まったのは、神姫タイプ発売から一年後の2032年のことだ。
武装神姫バトルは管理運営機関である「武装神姫バトル管理協会」の元、幾度ものバージョンアップ、レギュレーションの厳格化、様々なレイティング・クラス分けの導入、オフィシャル・フリーなどの興行様式の明瞭化、関連施設の充実などを経て徐々に洗練されていき、スタートから数年で国内アミューズメントとしての人気と地位を確立させた。
今や年数回開催される公式大会ともなればこぞってマスメディアに取り上げられ、その人気は日本国内だけに留まらず遠く海外にまで広がりつつある。
そうした神姫ブームの立役者が全国各地に点在する神姫専門商業施設「神姫センター」や、神姫をメインに取り扱ったMMSショップの存在だろう。
取り分け専用施設である神姫センターは施設内の各店舗によって神姫の購入、カスタマイズ、修理など様々なサポートを受けることができ、初期ユーザーにとって心強い味方となった。
神姫センターは武装神姫アミューズメントの中心として、現在もなお多くのユーザーたちが訪れる場所となっている。
「うわぁ~、すっげーなぁ」
初めて訪れる神姫センターに、シュンは素直に感嘆の息をもらした。エントランスから施設内に入るとそこはセントラルコートになっていて、平日にも関わらず多くの来客が行きかっている。
正面には大型モニターが設置され、二股の槍を構えた神姫と巨大な十字手裏剣を持った神姫の戦う姿が映し出されている。CMでお馴染みの音楽が流れ、否が応にも気分が高まる。
「ちょっと、あまりキョロキョロすると恥かしいわよ」
「シュンはおのぼりさん♪」
すでに何度も訪れている伊吹とワカナがたしなめるが、シュンは初めて味わう神姫センターの雰囲気にすっかり当てられていた。
「だってさぁ、僕は神姫センター来るの初めてだし。おお、あれなんだ?」
「シュン、それよりもあちらの奥にあるものは気になります。確かめに行きましょう」
「待て、ゼリス。あっちにはあんなのがあるぞ」
「いいえ、それよりもあの上の方に見える施設の謎を解明するのを優先すべきです」
「ああ、ゼリス。向こうから何やら楽しげな音楽が」
「ふむ、あそこの人たちは一体何をしているのでしょう? さらなる謎が……」
「むむむ……」
「なんと――っ」
「右、いや正面かっ?」
「見える……私にも敵が見え……」
「いーかげんにしなさ―――いっ!!」
伊吹のツッコミが眉間に命中し、ようやくシュンとゼリスはハッと我を取り戻した。
「僕たちは一体今何を……」
「なるほど、これが人間たちを魅了する神姫センターの魔力というヤツですか。怖ろしいものですね」
「ああ、気をつけないとな」
神妙な顔で頷きあうふたりに伊吹は呆れつつ、気を取り直し武装神姫ユーザーの先輩としてこの新人コンビの先生役に戻ることにした。
「全く……いい、ふたりとも。一通り神姫センターの施設も案内してあげるから、フラフラせずにしっかりついてくるのよ。そうじゃないと、迷子になっても知らないから」
ジト目で睨む伊吹に、シュンとゼリスに何故かワカナまでがこくこくと頷いた。
必要パーツの購入は問題もなくスムーズに進んだ。
シュンは優から渡されたメモに書かれたパーツの種類の多さから考えて、正直今日中に全て回るのは難しいと思っていた。
しかし、メモを受け取った伊吹は不慣れな彼の代わりにどのパーツをどの店舗で買えばいいのか瞬時に判断し、すぐさま最も効率的なルートを決めてくれた。おかげで途中ゆっくりとした昼食を挟みながら、余裕を持って店舗内を回ることができた。
一通り買い物を済ませたシュンたちは、センター内の軽食店で休憩がてら早めの三時のおやつを楽しんでいた。
「今日は本当に助かったよ。僕たちだけで来てたらこんなにうまくいかなかったからな」
シュンは今日見て回った神姫センターの広さを思い出しながら、素直な感想を述べた。もしゼリスとふたりだけだったら、何を何処で買ったらいいか分からずに途方に暮れるところだったろう。オマケに伊吹が行く先々での値段交渉までしてくれたおかげで、出費も覚悟していたものより軽く済んだ。
だからこそ彼は今こうして、気分良く今回の功労者である伊吹にお礼を兼ねて奢ったりできる訳だ。
「持つべきは頼れるカワイイ幼馴染ってね。シュっちゃんもこれで改めてあたしの有難みが分かったでしょ?」
パフェを口に運びつつ伊吹はご満悦。
「本日のお手並みは見事でした。ルート選択も非常に合理的で、常日頃からの蛍雪が伺えます。伊吹さんはシュンには勿体無いくらいの有徳を持った方ですね」
ほっとけ。まあ、ゼリスも買い物が順調に運んで、気分がいいようだからよかったか。
シュンは大きく伸びをする。テーブルの上ではゼリスが、伊吹がパフェを平らげていく様を見つめている。その横ではワカナが午後のお昼寝タイム中。
朝はいろいろ不安だったものの、買い物中も特に問題も起きなかったし、このままなら今日は無事に一日を終えることができそうだ。
「ふ~、さてと。お腹もふくれたことだし、さあ行こっか!」
「行くって……何処にだよ?」
伊吹はまだ寝ぼけ眼なワカナを抱きしめ勢いよく席を立つ。もう必要なところはすべて回ったはずだし、帰りの時間にはまだ早い。キョトンとするシュンとゼリスに、伊吹は不適な笑みを浮かべる。
「ふっふっふ、諸君。神姫センターといったらアレしかないでしょう?」
「ふむ。伊吹さん、アレとはなんでしょうか?」
首を傾げるゼリスとシュンの前に、彼女は店内に設置された情報モニターを指差した。
そこには次々と眩いエフェクトが切り替わりながら、ひとつのトピックが流れていた。
『NEWヴァーション武装神姫バトル筐体、登場! 美しき神姫たちの熱いバトルが君を待っている!』
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