「妄想神姫:第五章」(2007/01/19 (金) 22:59:49) の最新版変更点
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**“職人”として、私達にできること
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冬の昼さがり、店の会計処理を一通り終えた私・晶は店のシャッターを
がらごろと降ろし始めた。この作業がいつでも大変だ……私一人では。
だが、彼女がいればそれも苦にならぬ。本当に手伝いはありがたいな。
「よっこらしょ……はい、マイスター持ってくださいですのっ」
「うむ、御苦労。いつもすまぬな、私の身長が足りぬばかりに」
「もう。おとっつぁんそれは言わない約束だよぉ、ですの~♪」
「おとっつぁん言うなッ。まったく、ワンセグの見すぎだぞ?」
ロッテが滞空しながら引き降ろしたシャッターを完全に閉じ、施錠。
そしてフックに、ラミネート加工を施した張り紙をこしらえてやる。
“外出につき、本日は臨時休業いたします”。これで準備は整った。
「これでよしと……では往こうかロッテ、奴めの店にな」
「はいですの~、いいお返事がもらえるといいですけど」
「だな、奴ならばどうにかできるかもしれんのだが……」
マイスター(職人)たる私だが、専門性はさておき万能でない自覚はある。
神姫の事で言えば、主にデータ処理の方か。こちらはまだまだ修行の身。
故に、今日は先日面白そうな客を紹介してくれた“奴”の所に赴くのだ。
某町商店街に構えるその店名は……“ホビーショップ・エルゴ”という。
「こんにちわ~ですの~、ジェニーうさ大明神さま~♪」
「ロッテさん……貴女まで大明神と呼ばないで下さいよ」
「ん?やあいらっしゃい。晶ちゃ……ゲフンゲフン、晶」
「来てやったぞ日暮。過日は客を紹介してくれて感謝だ」
「はは。ウチで捌ききれない時だったから、礼はいいよ」
日暮夏彦。この店・エルゴの店長を務める……訓練されたオタ男だ。
正直、アキバの専門店にも引けを取らぬ神姫関連の品揃えは感服だ。
他がアレなので、ホビーショップという冠詞はどうかとも思うがな。
そしてロッテにじゃれつかれ困惑している胸像は、ジェニーという。
ヴァッフェバニーの頭部に、共通規格部品の台座を与えているのだ。
「しかしまあ相変わらず、突き抜けた品揃えだ。参考になるぞ」
「いつも思うけど、これで参考になるのかい晶ちゃ……っとッ」
「よろしい。いや、主要ユーザー層の趣味嗜好を知る上でな?」
即座に訂正したので、ハンマー飛び膝蹴りは勘弁してやろう。有無。
まあ今言ったが……如何せん女の思考では、一見見えぬツボがある。
故にエルゴの品揃えを調べ、日暮と語らう。重要な市場調査なのだ。
尤もそれだけでこの店に来る程、私も暇な身分ではないのが辛いな。
「とりあえず、このパーツとこれを買って……本題に入ろうか」
「毎度ー。よっこらせ……それで、今日の用件はなんだい晶?」
「2つある。まずはこの間話していた、データを失う神姫の事」
「ああ、アレね……晶の店にも来たのか?教えた通りの症状で」
日暮の目がすっと細まる……奴めはこれでなかなか“正義感”がある。
真剣味は少し疑問であったが、この目にはホンモノの意志を感じるな。
それを確認して、私は神姫──マオチャオタイプを、寝台に寝かせた。
死んでいるかの様に動かないが、機構的には全くの正常だ。だが……。
「うむ。基幹プログラムがごっそりと削り取られている様だ……くッ」
「ああ泣くな、って言っても泣かないだろうけどさ。対処は可能だよ」
「ほ、本当かッ!?……流石は日暮だ、私もまだまだ修行が足りんな」
泣きたくなるのも当然、神姫にとっては体と心を引き剥がす“拷問”だ。
無理矢理データを移管した所為で、この様になっている所までは分かる。
だが、その先……常連から預かった神姫“ミモザ”を救出する手はない。
実際に涙は見せぬが、マイスター(職人)としてどうにも歯がゆくて……。
「まあ、何にせよ救出できるなら頼みたい。これも“神姫犯罪”か?」
「多分ね……事情はマスターから聞いてるんだろ?大方裏バトル関係」
「御明察。この通り、クライアントのログも渡してもらったぞ。ほれ」
「サンクス……ん、これなら大丈夫。今晩にでも助け出してあげるよ」
神姫犯罪。彼女ら神姫がテクノロジーの産物である以上、人間の悪意には
どうしても翻弄されがちだ。今回の様に他人の神姫データを簒奪したり、
小柄さを悪用して強盗をさせたり、暴力事件に使うマスターもいるとか。
有名無実の“プロテクト”も、防犯の役に全く立っていないのが現状だ。
「なぁ……私に、何か出来る事はないのかな、日暮」
「え?“神姫犯罪”に、かい?晶ちゃ……ムグムグ」
「そう。このまま黙って泣くのは、私の魂が許せん」
「マイスター……わたしも同じ思いですの、皆さん」
様々な事象が頭の中を駆けめぐり、ついつい弱音が零れる。
己の未熟さと世の不条理、そして哀れな立場にある神姫達。
どうにかしたい。偽善だろうが傲慢だろうが、それが本心。
「とオレに言っても、なぁ……なぁ、うさ大明神?」
「──────そうですね、私も返事には困ります」
「でも、どうにも我慢できない!……っとすまんな」
「落ち着いて。気持ちはオレらも良く分かるし、ね」
奴めらが何かを隠しているのは確かだが、今それを詰問はしない。
それ以上に、“私に出来る事は何なの?”という疑問が強いのだ。
彼女らは人間にとって、大事な大事なパートナーである筈なのに。
それを理解する所か、従属を強いる愚物が多いというこの現状に。
「……日暮。私に協力できる事があれば何時でも言え、必ずだ」
「今日はいつになく真剣だね、晶。まあ覚えておくよ……うん」
「日暮さん、マイスターはいつだって“全力全壊”ですのっ!」
「ロッテさん……発音だけでは微妙ですが、字が違いません?」
可愛らしい妹・ロッテを軽く撫でてやりながら、私は心中で宣言する。
“その時は職人として出来る事に取り組む”。今決めた、私の誓いだ。
疑問の答えになっていないが、まずは出来る事を一つずつという事で。
確認するまでもなく、ロッテも賛同するだろう。そういう娘だからな。
そして……日暮の“暑苦しい魂”が、こういう時は精神的支柱になる。
「いつかは私の様に、皆が神姫を共に連れ歩く日がくるといいな」
「そう、だなぁ……本当にそんな日がくるといいんだけど、ね?」
「晶さん。そろそろもう一つの用件も出してはいかがでしょうか」
いかん。うさ大明神・ジェニーの言葉で、私は調子を取り戻した。
もう一つの用件、追加武装の火器管制プログラムの相談をしよう。
繰り返すが、私もそこそこ自信は有る物のデータ処理はまだ未熟。
その為今日は開発した“アレ”のデータを持ってきたのだ、うむ。
プロ並みの腕を持つ日暮の意見を、どうしても聞きたくなってな。
とは言え、アレの正体そのものについては日暮にも、まだ内緒だ。
「マイスター、マイスター♪ここからはわたしも混ざりますの!」
「だな。実際に使う彼女の意見も聞いてやってくれぬか、日暮や」
「あいよ。重量級とは言えこんなに武器使うんだロッテちゃん?」
「マイスターの作ってくれた、制御用プログラムがありますのっ」
「じゃあ、そっちも一緒にチェックした方がいいね。いいかな?」
「構わぬ。この際、徹底的に改良点を聞かせてくれんか、頼む!」
──────更に高みへ……私とロッテはまだ途上なのだ。
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