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「第12話 戦いと、至高と、嗜好と」(2015/01/15 (木) 16:24:30) の最新版変更点
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「フォイヤー!」
ケーニヘンの号令のもと、火器を手にした素体達が一斉にこちらに向かって銃火を放つ。
素体の手に持てる火器は大きくてもガトリングガンがせいぜいであり、電力の関係上かほぼすべての素体が実体火器を用いていたが、問題はその数だ。まともに攻め込めば、文字通り穴あきチーズになりかねん。
俺は即座に愛とクズハをひっつかんで手近にあったコンテナの後ろに放り込み、直後に自分も滑り込んだ。ヒルダ、リーヴェも猛火をかいくぐってこちらへとやってくる。
「うっひゃー、文字通り鉛玉の雨あられですよー。防弾布付き傘風ショットガンでも間に合いそうにないですねー」
「マスター、どうしましょう?」
「さーて、ねえ……」
金属質な着弾音が響く中、こちらを見上げる神姫たちのまなざしに俺は頭をかく。いかんせん、俺はリアルバトルの経験がほぼ全くない。精々がヒルダに武道の型を簡単に教える時に、練習用MMS相手にやった程度だ。当然、あのときの素体はコンテナ向こうの連中のようななめらかな動きはしない。
ただし、こちらのカードがハイマニューバトライク型であるイーダタイプと、フリューゲルモードとスカートモードをバックパックに搭載して飛行能力をさらに強化したアルトレーネタイプであるということは、かなりのアドバンテージである。
上手く射線を避けさえすれば、彼女たちのスペックならば十二分に突破できるはずだ。さりとて、限度はある。さしあたり身を隠すことは成功したとはいえ、今度はここに釘付けだ。
なんとか状況を打開する必要がある。
「愛、お前ファーストランカーだろ。なんか手はないか?」
「そうねぇ……」
愛は顎に手を当てて考え込む。そして割とすぐ、言った。
「とりあえず、相手の注意を引かないとダメね」
◆◇◆
「撃ち方、やめ!」
ケーニヘンの号令で、すべての素体が銃撃をやめる。
激しい銃撃を浴びせたコンテナは――傷つき、多少の貫通創もあるものの、その外観にあまり変化はない。火力が足りていないのだ。所詮、素体状態のMMS素体が取りまわせる神姫用の軽火器ではこの程度が限度である。彼女の右肩に搭載されているインターメラル3.5mm砲ならば、向こう側まで貫通するだろうが。
「ケーニヘン、私は商談に戻る。奴らは好きに遊んでやれ。私の指示がなくとも、お前の指揮能力ならば問題ないはずだ」
「ヤー。必ずやマスターに勝利を」
ケーニヘンはコンテナを見据えたままマスターへと返答する。まずは状況を分析。
MMS達の手持ち火器でコンテナを貫通できず、目標を追い出せないのであれば、回り込んで挟撃するが最善手。ケーニヘンは即座に第一隊と第二隊をコンテナの両翼に展開させ、突撃させようとする。
その瞬間、上空から飛来したレーザーに、瞬く間に4機の素体が撃ち抜かれ、機能停止した。
「な――」
「おお……これがMF社製レーザーライフルの威力……すごいのですよー!この軽さッ! 操作の単純さッ! 命中精度ッ! そして……威力ッ! どれをとっても既製品とはスペックの差がダンチなのですよー!」
ケーニヘンが見上げると、そこにはスカートアーマーと翼をまとったアルトレーネタイプ――リーヴェが自身の丈ほどもある長大なライフルを構えて喜びにうちふるえていた。
細身の、削り込まれたような刀のような銃身に、大きなレーザーサイトを持つそれから放たれたレーザーは、まるで戦乙女(ヴァルキリー)の持つ聖槍の如くまた新たに素体を刺し貫いた。
「耐物貫通用レーザーライフル。【アマノサカホコ】。気に入ってもらえたようで。何より」
「気に入りましたよー! 大いに気に入りました! 愛ちゃん私これ手放しませんよ絶対手放しませんからねッ!?」
「やめてお願いレンタルで勘弁してそんなの買えほどあたしお金持ってないんだから!」
「だから愛ちゃんの学費――」
「却下ッ!」
「……緊張感ねぇなあ……」
俺はヒルダに作戦を伝えながらも、呆れかえらずにはいられなかった。
こんな状況下で漫才している愛とリーヴェもそうだが、クズハが持ってきた【アマノサカホコ】――クズハによると、こいつは口径僅か0.数mmという超極細レーザーを相手の急所めがけて瞬間照射することで極低いエネルギー効率で相手を機能停止させるいわば暗殺兵器に近い代物だ。
つまり急所に当たらなければ相手には軽傷しか与えられることができず、使い手には高い情報処理精度と狙撃精度が求められる。
こんなピーキーな物を与えられて平気な顔をして使いこなすだけでなく、それを確実に体を固定できない空中で、相手側の銃撃をひらひらと回避しながら行っていることにも俺は舌を巻くと同時に呆れた。
これがファーストランカー神姫の実力の一端か。化け物レベルだな。
「――と、ヒルダ。こちらもそろそろ陽動をかけるぞ。いいな?」
「了解です、マスター」
ヒルダが力強くうなずき、トライクを始動。コンテナの左側からトライクが躍り出る。
「くっ――フォイヤー!」
当然、ケーニヘンはこちらにも銃撃を振り分けざるを得ない。そうすると当然、リーヴェに向かう火砲の数が減る。
途端にリーヴェのライフルが光線を吐き出し、瞬く間に3機が沈黙した。
「よーし、想定通り。そのまま頼むぜ!」
トライクの行く先には二階のキャットウォークへと続く階段だ。その階段に荷物を押し上げる為のスロープが付いていることは空を飛んでいるリーヴェからのデータで確認済み。
トライクはドリフトしながらスロープ進入。勢いよく駆け上がっていく。その後ろ約数センチほどの位置をMMS軍団の銃火が穿っていくが、自動操縦程度のMMSの能力では、面単位での制圧力はあっても、最大時速40km近くを出せるトライクの走行速度にエイミングが追い付いていない。
一度空を飛ぶリーヴェに視線を集めておいて、即座に別方向に視線を向けさせる。そうすると、ケーニヘンは火線を二分させなければならない。そうなるとリーヴェへと向かう火線は減り、リーヴェはより相手を狙撃しやすくなる。ヒルダには遠距離火力は標準装備のアサルトカービン一丁しか持っていないため、火力は圧倒的に不利だ。そのためにまずリーヴェに相手の数を減らしてもらわなければ、こちらに勝ち目はない。
キャットウォークへとトライクが上りきった段階で、敵の数は五分の四となっていた。……わずか十数秒間で部隊の20%も消失したら、まともな軍隊ならば撤退を視野に入れるだろう。
「ええい、どちらもチョコマカと――!」
ケーニヘンが痺れを切らし、その長大なインターメラル砲をトライクへとロックオン。発砲した。
しかし、その予測着弾点に到達する少し手前でトライクは90度ライトターン。タイヤがドリフトする派手な音が鳴り、トライクはキャットウォークからその身を宙へと躍らせた。
幾ら高速疾走できるトライクといえど、空中では身動きが取れず、二、三発の被弾を許すが、MMSを数体巻き込みながら着地。そのまま直線状の素体を跳ね飛ばしながらケーニヘンへと襲い掛かる。
「トッコーだと!? ――面白い!」
ケーニヘンは副碗を展開し、トライクを抑え込んだ。そして搭乗者へとインターメラル砲を向け――
「――!? あのイーダ型はどこに!?」
「――ハッ!」
トライクに誰も乗っていないとケーニヘンが気付いた瞬間、「俺がコンテナの影から投げ上げていたヒルダ」が、ケーニヘンのインターメラル砲をエアロヴァジュラで叩き切っていた。
トライクはあくまでヒルダの遠隔操作によって動かしていたのだ。トライクのみを走らせれば当然、相手はヒルダが操作しているという思い込む。そして、視線がトライクに集中している隙にヒルダをケーニヘンの元へと送り込む――。これがこちらの立てた作戦だった。
手甲を除き、イーダ型の標準装備を使っているヒルダにとって、銃撃武器は弾をばらまくのが主体のアサルトカービンしかない。これ一丁で銃弾の槍衾を突破してケーニヘンへと肉薄するのは無理があったため、取った作戦である。ケーニヘンが操るMMS素体はおそらく彼女の指定した対象座標に銃撃を行う程度のエイミング能力しかない、というクズハの予想が前提の作戦だが、見事的中したようだ。
「空蝉の術、とやらか! だまし討ちとは卑怯な!」
「兵は詭道なり、ってな! だまし討ちも立派な戦略だぜ、司令官どの!」
「そもそも、2対100の戦いを挑んでくる貴女に卑怯がどうとかいわれたくありません!」
「何を言う! 戦いは数だぞ兄弟!」
「なんですかいきなり!?」
……なーんかさっきからひっかかるんだよな、こいつらの物言い。
いや、別に気に入らないとかそういうわけじゃないんだけれどな……。なんだろうか、この妙な親近感は。……まあとりあえずはおいておこう。
「ヒルダ! そいつから絶対離れるんじゃないぞ! 離れたらハチの巣にされると思え!」
「了解です、マスター!」
エアロヴァジュラを握ってヒルダがさらにケーニヘンへと肉薄する。彼女の武装はバックパックを除けば、割とノーマルなタイプの戦車型の装備だ。
巨大な副碗も、近づいてしまえば振るえまい。
ケーニヘンは不利と見るや、即座にインターメラル砲をパージ。中にトリガーとして搭載していたメルテュラーM7をヒルダに向けた。
ガガガガガン! 激しい音と共にフルオートで銃弾が吐き出されるが、ヒルダはそれを紙一重で避ける。そして地を這うような姿勢からの鋭い刺突が飛んだ。
「くっ!」
素体を貫く手ごたえ。しかしエアロヴァジュラの剣尖に貫かれたのは間に割り込んできたMMSだった。左胸部を貫かれたそれは二三度の痙攣と共に崩れ落ちる。やばい、剣が刺さったままだ。あれでは動きが止まってしまう!
「よくやったM-28号! 叙勲物の功績だ!」
ケーニヘンが勝利を確信した顔で剛腕を振りおろしてきた。ヒルダはそれをみるや即座に剣から手を放し、右手で停止したMMSの頭部を握りしめ――
「――せぃやッ!」
気合い一発。ケーニヘンの副碗の側面に左手を擦り上げるようにいなすと即座に一撃。ヒルダの紫電を纏った左掌底がケーニヘンの体を捕えていた。
「がっ――!?」
何を食らったかわからない表情のまま、ケーニヘンは白人の足元まで吹き飛んで行った。
すでにアタッシェケースを受け取っていた白人は、ケーニヘンを叱責する。
「何をしている、ケーニヘン!」
「も、申し訳ありません、マスター……」
なおも立ち上がろうとするケーニヘン。しかしダメージはどうやらかなり大きいらしい。周囲のMMS軍団の動きが止まっていることをみると、どうやらMMSらの統率をとっていたパーツにエンノオヅヌの雷撃がダメージを与えてくれたようだ。
「我らが、ゲシュペンスト・ヘレが力は世界一……! 負けるはずなど、ない……!」
そのセリフで、俺の中でわだかまっていたもやもやが一気に晴れた。こいつら――
「さっきから聞いてりゃおめーらただのジャパニメーションオタクじゃねーか!!」
某機動戦士なロボットアニメや、某奇妙な冒険漫画のセリフが、奴らの会話の端々にあった。さっきのセリフも本当は、「世界一イイイィィィ!」とでも言いたいのだろう。
最初こそ白人至上主義のような振る舞いに見えていたが、もはや最後のセリフのキャラクターがナチス・ドイツ所属であったことや、戦車型の装甲には鉤十字が記されていることからきたキャラクター付けにしか思えなくなってきた。
俺の指摘に露骨にうろたえる白人。
「な、なぜそれを!? ジョ○ョは我が祖国ではあまり知られていないのに――」
「日本では超メジャー漫画だ! 世界のサブカル発信地なめんじゃねーぞ! やっちまえヒルダ!」
「ぐっ……ケーニヘン!」
俺たちの声に応えて二体の神姫が動く。ヒルダは引き抜いたエアロヴァジュラを片手に突撃。ケーニヘンも寸断されたインターメラル砲をパイルバンカーに換装し、吶喊してくる。
下から切り上げるエアロヴァジュラをタングステン針が迎撃。パイルによる一撃を刀身を滑らせて躱し、脚部を薙ぐも武骨な副腕に防がれる。
「私だけののけ者はさびしいのですよー」
のんびりとした声とともに放たれる極細高出力レーザーをこれまた装甲で防ぐケーニヘン。しかし、完全に防ぐには至らず装甲を貫通。副腕の機能が停止した。
「畳みかけろヒルダ!」
「はい、マスター!」
ヒルダは即座に追撃。不利を悟ったケーニヘンも副腕を即時パージしてパイルバンカーをたたきこもうとするが、副腕があった側の防御力低下は避けられない。当然ヒルダはそちらに回り込もうとするし、それをさせまいとケーニヘンがまた旋回するとその眼前にリーヴェのレーザーが襲い掛かる。
数的不利は脱した。あとはこちらが追いつめる番だ!
「ぐぬぬ……っ! おい、貴様の神姫を寄越せ!」
「あっ、な。何するんだ!」
突如、白人が殆ど空気と化していたもう一人の男に襲い掛かっていた。しばらくもみ合っていたが白人が男を突き飛ばす。その手には――
「白雪!」
「主殿!」
一体の神姫が。あれ、あのオッサンの神姫のようだ。あの神姫は――忍者型フブキか?
「ちょうどいい、貴様らには製品テストの実験台になってもらおう」
男にもう一撃与えて気絶させた白人は、そういうと手から逃げ出そうとする神姫を取り出したクレイドルに押さえつけ、PCを起動し始めた。何をする気だ?
「マズい」
「何がだキツネ」
「彼を止めろ。幸人。マズいぞ」
「だから何がだよ!」
「たぶんあの男は。例のAIデータをあの神姫に送り込むつもりだ。下手すると彼女の自我がなくなるぞ」
「それを早く言えよ!」
他人の神姫だが、さすがにそんな話を聞いては寝覚めが悪い。
俺はコンテナから飛び出そうとしたが――
「マスターの邪魔はさせん!」
「ぅおっとおぉ!?」
「マスター!?」
どうやら回復したらしいケーニヘンの指示によって、俺に向かって全MMS軍団の火線が集中した。俺はたまらず即Uターンを強いられる。
俺が引っ込んでも着弾音がすぐ近くでなっているところをみると、どうやら完全に俺たちをくぎ付けにする腹積もりのようだ。ヒルダとの戦闘は続いてるだろうに、なんて奴だ。
「マスター! 怪我はないですか!?」
「何にもねえよヒルダ! お前はケーニヘンを頼む! あのオタク白人は俺が何とかする!」
コンテナ越しに会話をするが、こうもくぎ付け上代では何かを投げつけるぐらいしか手はない。
何かないか、手ごろな大きさ、硬さ、重さを持ったもの――
「――あった!」
「あ」
俺は近くに転がっていたカバンをひっつかむとコンテナの上にから弧を描くように放り投げた。
カバンにも銃撃が行われるが、銃弾と比較して巨大な質量を持つそれの進路を阻むことはできず――
「――ゴガッ!?」
「ああっ、マスター!」
着弾ののち、どさっと倒れこむような音。こちらから確認はできないが、見事白人の頭に爆撃することができたようだ。
ちらりと向こう側を覗き込むと、まるで土下座するように気を失っている白人と、すがりつくケーニヘン。そして衝撃で大きく開いたアタッシェケースが―――あれ?
「バカ」
「痛っ!?」
ごすっという音とともに俺の頭に衝撃。みるとクズハがそこそこ付き合いの長い俺でもあまりみたことのない怒りをたたえながらタブレットPCを握りしめていた。
「せっかく。取り戻したのに。投げるなんて。このバカ。マヌケ」
ごすっ、ごすっ、ごすっ。
「痛い痛い痛い! 角はやめろ角は!」
「精密機器の入ってる箱に対して。なんていうことを」
「タブレットPCは精密機器じゃねーのかよ!? わかった! わかったから取りに行くから角で殴んのをやめろ!」
クズハを何とか退け、俺はアタッシェケースへと向かった。マスターを撃沈され、ケーニヘンはこちらをにらむが、どうやら攻撃の意思はないらしい。
「――と、あのオッサンの神姫も助けてやらんとな」
と、白人がフブキ型を押さえつけていたクレイドルをみやる。空中に浮かんでいた投影ディスプレイには「Complete」の文字が。……コンプリート?
「――遅かった」
クズハの声が後ろから聞こえてくる中、フブキ型はゆっくりと再起動した。
開かれた瞳にはなんの感情も読み取れず、それはただつぶやく。
「AI認証。プログラム起動。コンバットモード、レディ」
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