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ぶそしき! これから!? 4話 『シッパイ』
4-3
唐突に店のドアが開く。
「――うわっ!?」
店に入ろうとした瞬間だったので、友大はことさら驚いてしまう。
「す、すまない! 事情は、後で話すから――」
開いたドアから男性が切羽詰った様子で飛び出す。
「「っ! ごめん――」」
目の前に立つ少年に気づき、男性は間一髪で避ける。
男性とその神姫は謝りつつ、そのまま行こうとする。
「て、店長さ――」
勢いのまま走り去ろうとする男性は、おもちゃ屋スターフィールドの店長だった。
友大は思わず店長に声をかけようとする。
店長に注意が向いていたため、飛び出そうとするもう1つの存在に気づけなかった。
「ほ、星原先輩! ま――」
「お、お姉様。前――」
女性も飛び出す。
その神姫が扉の前にいる少年に気づき、警告しようとするが、遅い。
「「きゃっ!?」」
「うわっ!?」
「うげっ!?」
結果、4者3様な悲鳴が店の前で響きわたる。
■ ■ ■
「わたしの不注意です。怪我はないですか? 本当に、すいません!」
「い、いえ、気にしないでください。怪我もしていないですし」
女性が頭を深く下げて謝る。
真剣な謝りぶりに、被害を被ったはずの友大の方が、なんとなく申し訳ない気分になってしまう。
「しかし……」
「マスターもいいって言ってるし。気にするなよ」
「マスター。この方たちもいいと言って下さっているんですし」
なおも申し訳ない様子の女性に、神姫達も取り成そうとする。
「……分かりました。ここは好意に甘えます。ありがとう」
(……ほっ)
ようやく納得してくれた女性に、友大は安堵した心持ちになる。
「なー。そー言えばただ事じゃない様子だったけど、何があったんだよ。痴話げんか?」
(ヒイロぉーーっ!?)
思わず心の中で叫んでしまう。
ややこしそうな事情がありそうだったからあえて聞こうとしなかった事柄に、自身の神姫がド直球での切り込んでしまう。
「……」
女性が一瞬空を仰ぎ、考え込む。
(難しい顔をしてる……。やっぱりしゃべりにくいことかな?)
友大は女性の顔をうかがい、ぶしつけなことをしてしまったことを謝ろうとする。
「あの――」
「……偶然、元同僚に会ったので、びっくりしてしまったんですよ。ろくに話す前に何か急ぎの用件があったのか、行ってしまいましたけど」
「元、同僚?」
女性がポツリと呟いた言葉に、友大はオウム返しに聞き返す。
「星原せ――いえ、あの人はわたしと同じ会社で働いていたんですよ」
「へ~……って、ことは会社辞めて、今はおもちゃ屋の店長かぁ。どうしてそうなったんだろなー?」
「ええ、本当に。どうして突然や――いえ、何があったのか知りたいところです」
ヒイロの呟きに、女性が反応して何か言いそうになる。
しかし、口を滑らせる前に気づいて取り繕うとする。
他人に、しかも子どもに聞かせるような類の話ではない。
「そうなんですか」
女性の話を聞いて、無難に相槌を打つ。
なんとなく、女性と星原店長がただの元同僚と言う関係ではないような気はする。
しかし、それ以上首を突っ込むべきではないと、少年は自身の多くはない人生経験から判断する。
「……」
しばしの沈黙がおりる。
元々、友大たちと女性は知り合いでもない。
互いに相手にかける言葉に少し悩む。
「……あの」
友大でも女性のものでもない言葉がかけられる。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
控えめに声をかけてきたのは、店のエプロンをかけた緑髪の神姫。
普通のマオチャオ型とは大きく異なる個性のマリーベルだ。
視線が自身の集中するのに少したじろいだ様子を見せるが、飲み込んで口を開く。
「あの、まず、店先では何ですから、中へどうぞ」
「「……」」
マリーベルの案内に顔を見合わせる。
その時、2人は店の入り口の前で話し込んでしまっていたことに気づく。
「……ごめんなさい」
「……ごめん」
ほぼ同時に、2人の口から謝罪の言葉が出る。
■ ■ ■
「あの、店長はSPAS――『迷い神姫を保護する会』の連絡を受けて行きましたので、すぐには戻って来れないかも、しれません」
マリーベルが女性に事情を説明する。
「かまいません」
マリーベルの言葉に、女性の返事がすぐに返る。
「この後予定は入っていませんから、待たせてもらいます」
(お姉様。表面上は取り繕っていらっしゃるけど、やっぱり……)
自身のマスターの躊躇のない返答ぶりに、女性の神姫はため息をつく。
「あの――」
そんなやり取りを見ていた友大が、なにごとか尋ねようとする。
「迷い神姫を保護する会ってなに? 迷子になった神姫を探すのかよ?」
自身のマスターよりも先に、ヒイロが尋ねる。
「……」
自身の神姫に尋ねたいことを言われてしまい、友大は所在なさげに黙り込む。
挙げようとした手の扱いに、少し困る。
「……はい、簡単に言ってしまうとマスターとはぐれてしまった神姫を保護するための有志の組織です。大体ヒイロ、さんが言われたようなお仕事が多いです」
「えっ!? 神姫って迷子になるの?」
友大が思わず尋ねる。
神姫には自立移動できる携帯とも言える機能も付いている。
ネットに繋げれば地図の情報などもすぐに手に入るだろう。
今時、よほどの山奥でもない限り圏外になることもない。
技術の結晶である神姫が迷子になるというのは、少年の中ではいまいち結びつかない。
「はい、マスターを探そうとして駆けずり回ったり、何かしらのアクシデントで道に迷ったりなどした挙句、バッテリー切れになる神姫が珍しくないんです」
「へ、へぇ……」
意外な事実に驚く。
「マスターがお弁当などの忘れ物をしたのに気づいて届けようとしたり、旅行の際に置いてかれて追いかけようとして迷子になってしまった事例もあります」
「……」
友大は自身の赤い神姫を見る。
そんな理由で迷子になったら、ちょっと別の意味で泣いてしまいそうになると思ってしまう。
「中には、2度と自身のマスターと会えなくなってしまった神姫がいる。自身の神姫がいなくなってしまい、悲しむマスターがいる――」
悼むように静かにマリーベルが語る。
「……」
「……」
2人のマスターが、ちらりと自身の神姫を見る。
「――そんな、悲しいことを減らすために、店長たちは頑張っているんです」
マリーベルが一息つく。
何かを思い起こしたのか、一瞬どこか遠くを見るような目をする。
「――なるほど! ようするに店長っていいことしてるんだな!」
「あ、あははは……、そうだね」
それまでの雰囲気をぶち壊すがごとく、勢い良く発言するヒイロの姿に友大は思わず苦笑いする。
「……もし、迷い神姫を保護する会について興味があるのなら、店にパンフレットがあります。ホームページもあります」
マリーシアが迷い神姫を保護する会の案内もする。
少しヒイロの方を見て、一瞬だけ微笑みを浮かべる。
「うん、ありがとう」
(帰るときにパンフレットをもらっていこうかな?)
そんなことを思いつつ、友大はさりげなく中古の武装パーツのコーナーに向かおうとする。
「ヒイ――」
「なぁ、マスター! 折角だからバトルしよーぜ!」
呼びかけを遮るように、ヒイロの熱き叫びが迸る。
気合が入っている様子で、右手を握りこぶしにして突き上げている。
「ああ、ミッション――」
「なに言ってんだよ? あの女の人の神姫とのバトルに決まってんじゃないか!!」
先ほどの対戦の鬱憤を晴らすためにミッションバトルをするのかと友大は思ったが、違うようだ。
ヒイロは大きな声で対戦を希望する。
(ちょ、ま……)
友大がちらりと女性とその神姫を見る。
「……」
視線が合う。
少し驚いたように目を丸くしている。
間違いなく、ヒイロの望みは、相手の女性とその神姫にも聞こえている。
(ど、どうしよう? また失礼なことを――)
「かまわないですよ。待つ間の暇つぶしになりますし」
「……え? あ、はい、よろしくお願いします」
相手のあっさりとした承諾に友大は面食らう。
こちらからバトルを希望した形になる手前、「やっぱりなしで」とは言えない。
「久々のバトルですわね」
女性の肩に淑やかに座っていた神姫が微笑む。
よく見れば、ケープを身に着けている。
ケープには白百合の意匠が施されており、上品な印象を深めている。
(あれ、確かハイスピードトライク型MMSのイーダだよね。とてもピーキーで上級者むけ、なんだっけ?)
ようやく女性の神姫をしっかりと見た友大が、記憶を探りながら判断する。
以前アリシアに教えてもらった知識からすると、かなり扱いづらいお嬢様といった印象の神姫だったことを思い出す。
「そう言えばお姉様。武装のデーターはお持ちでしたか?」
ふと思い出したかのように、女性の神姫が小首をかしげる。
「ええ、今日はここに――」
女性がカバンから記録媒体を取り出す。
「――っ」
「そ、それは――」
なぜか女性とその神姫が一瞬、顔を引きつらせる。
わずかな間の後、女性は何事もなかったかのようにスーツのポケットに記録媒体をしまう。
「……すいません。武装データーを忘れてしまったようです」
「そ、そう、残念ですわ」
「えー……」
申し訳なさそうな主従に、ヒイロが思わず不満そうな声を出す。
「……あの、ポイントカードを作っていただけたら、初回サービスで試用チケットとこちらの筐体での無料使用5回分をつけさせていただいてますから、どうでしょうか?」
マリーベルが控えめに助け舟を出す。
「分かりました。作らせてもらいますよ。ラミエは一足先に武装を見ていきなさい」
「分かりましたわ。お姉様」
マスターに促され、ラミエと呼ばれた神姫がスカートを抑えながら女性の肩から腕を伝って滑り降りて商品棚に向かう。
「少し時間がかかりますが、いいですか?」
「は、はい」
「おう、いいぜ!」
女性の申し出に承諾する。
友大達は武装パーツの棚に向かい、女性はカードを作るために店のレジの方へ向かう。
■ ■ ■
しばらくして、それぞれの用を済ませて2人のマスターとその神姫達が合流する。
「あの、僕は佐伯友大と言います。こいつはヒイロです。バトル改めてよろしくお願いします」
「おう! ヒイロだ、よろしく頼むぜ!」
ヴァーチャルバトル用の筐体の側で、友大は対戦相手に自己紹介する。
思い返してみれば、ここの店長に関係がありそうな人物だということ以外は、友大は女性のことを何も知らない。
「佐伯、友大君ですか」
「あら、佐伯って――」
自己紹介を聞いた女性が一瞬考える素振りをする。
ラミエが何か気づいたように、友大を見る。
「わたしは占部朱璃(うらべ あかり)。会社勤めのOLです。この子はラミエです。こちらこそよろしく頼みます」
自己紹介を終えると、神姫達がそれぞれの神姫参戦用のリフトの上に立つ。
「よろしくお願いしますわ」
ラミエが微笑みながら対戦相手にあいさつをする。
その手には、柄が長く太く短い刀身の剣のようなものが握られている。
白銀に輝くその武装は、どことなくメカニカルなものだ。
「よろしく頼むぜ! って、そんな格好でいいのかよ?」
ヒイロがラミエの格好を見ていぶかしむ。
ラミエは先ほどと変わらない白いゴシック調のドレスを身に着けている。
武装をデーターとして持っていないはずの彼女は、その姿でバトルを行うことになる。
「ご心配は無用ですわ。わたくしのこのドレスは、リアルバトルにも使えるようにお姉様が手ずから作ってくれたものですわ」
ラミエが控えめな胸に手を当て、誇らしげに胸を張る。
「手作りって……、すごいですね」
「すっげー! どこかで買ったやつじゃないのか!」
「まあ、ちょっとした趣味で、特技ですよ。市販のものにも負けないつもりですけど」
自身に向けられた尊敬のまなざしに、占部が目を逸らして答える。
なんとなく気恥ずかしいのか、心なしか顔が少し赤い。
「ところでラミエ。武装はそれだけでいいのですか?」
「あまり幾つも、ゴテゴテと持つのは美しくありませんわ。それに、この武器の具合をよく確かめたいの」
自身のマスターの問いに澄ました顔で答える。
「そう言う訳ですので、手加減は無用ですわ。どうぞ、本気でかかってくださいませ」
「おう!」
(……こっちには、手加減するほどの武装はないけどね)
思わずにいられない。
ラミエは本来の武装がないようで、しかも剣一振りという様子だ。
彼女は対戦相手が手加減するかもしれないことに釘を刺したのかもしれないが、友大とヒイロにとっては実はその気遣いは無用の長物である。
「ラミエの言うとおり、手加減は無用です。では、佐伯君、良いバトルをしましょう」
「はい、良いバトルをしましょう」
神姫参戦用リフトが沈む。
筐体の中で神姫達がスキャンされる。
(……なんか、ごめんなさい)
友大は心中で相手に謝る。
同時に、筐体のデーターの読み込みが終了する。
――各データの読み込み終了
レギュレーションチェック……オールクリアー
フィールド:宮殿
モード:1vs1バトル
バトル……スタート――
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ぶそしき! これから!? 4話 『シッパイ』
4-3
唐突に店のドアが開く。
「――うわっ!?」
店に入ろうとした瞬間だったので、友大はことさら驚いてしまう。
「す、すまない! 事情は、後で話すから――」
開いたドアから男性が切羽詰った様子で飛び出す。
「「っ! ごめん――」」
目の前に立つ少年に気づき、男性は間一髪で避ける。
男性とその神姫は謝りつつ、そのまま行こうとする。
「て、店長さ――」
勢いのまま走り去ろうとする男性は、おもちゃ屋スターフィールドの店長だった。
友大は思わず店長に声をかけようとする。
店長に注意が向いていたため、飛び出そうとするもう1つの存在に気づけなかった。
「ほ、星原先輩! ま――」
「お、お姉様。前――」
女性も飛び出す。
その神姫が扉の前にいる少年に気づき、警告しようとするが、遅い。
「「きゃっ!?」」
「うわっ!?」
「うげっ!?」
結果、4者3様な悲鳴が店の前で響きわたる。
■ ■ ■
「わたしの不注意です。怪我はないですか? 本当に、すいません!」
「い、いえ、気にしないでください。怪我もしていないですし」
女性が頭を深く下げて謝る。
真剣な謝りぶりに、被害を被ったはずの友大の方が、なんとなく申し訳ない気分になってしまう。
「しかし……」
「マスターもいいって言ってるし。気にするなよ」
「マスター。この方たちもいいと言って下さっているんですし」
なおも申し訳ない様子の女性に、神姫達も取り成そうとする。
「……分かりました。ここは好意に甘えます。ありがとう」
(……ほっ)
ようやく納得してくれた女性に、友大は安堵した心持ちになる。
「なー。そー言えばただ事じゃない様子だったけど、何があったんだよ。痴話げんか?」
(ヒイロぉーーっ!?)
思わず心の中で叫んでしまう。
ややこしそうな事情がありそうだったからあえて聞こうとしなかった事柄に、自身の神姫がド直球での切り込んでしまう。
「……」
女性が一瞬空を仰ぎ、考え込む。
(難しい顔をしてる……。やっぱりしゃべりにくいことかな?)
友大は女性の顔をうかがい、ぶしつけなことをしてしまったことを謝ろうとする。
「あの――」
「……偶然、元同僚に会ったので、びっくりしてしまったんですよ。ろくに話す前に何か急ぎの用件があったのか、行ってしまいましたけど」
「元、同僚?」
女性がポツリと呟いた言葉に、友大はオウム返しに聞き返す。
「星原せ――いえ、あの人はわたしと同じ会社で働いていたんですよ」
「へ~……って、ことは会社辞めて、今はおもちゃ屋の店長かぁ。どうしてそうなったんだろなー?」
「ええ、本当に。どうして突然や――いえ、何があったのか知りたいところです」
ヒイロの呟きに、女性が反応して何か言いそうになる。
しかし、口を滑らせる前に気づいて取り繕うとする。
他人に、しかも子どもに聞かせるような類の話ではない。
「そうなんですか」
女性の話を聞いて、無難に相槌を打つ。
なんとなく、女性と星原店長がただの元同僚と言う関係ではないような気はする。
しかし、それ以上首を突っ込むべきではないと、少年は自身の多くはない人生経験から判断する。
「……」
しばしの沈黙がおりる。
元々、友大たちと女性は知り合いでもない。
互いに相手にかける言葉に少し悩む。
「……あの」
友大でも女性のものでもない言葉がかけられる。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
控えめに声をかけてきたのは、店のエプロンをかけた緑髪の神姫。
普通のマオチャオ型とは大きく異なる個性のマリーベルだ。
視線が自身の集中するのに少したじろいだ様子を見せるが、飲み込んで口を開く。
「あの、まず、店先では何ですから、中へどうぞ」
「「……」」
マリーベルの案内に顔を見合わせる。
その時、2人は店の入り口の前で話し込んでしまっていたことに気づく。
「……ごめんなさい」
「……ごめん」
ほぼ同時に、2人の口から謝罪の言葉が出る。
■ ■ ■
「あの、店長はSPAS――『迷い神姫を保護する会』の連絡を受けて行きましたので、すぐには戻って来れないかも、しれません」
マリーベルが女性に事情を説明する。
「かまいません」
マリーベルの言葉に、女性の返事がすぐに返る。
「この後予定は入っていませんから、待たせてもらいます」
(お姉様。表面上は取り繕っていらっしゃるけど、やっぱり……)
自身のマスターの躊躇のない返答ぶりに、女性の神姫はため息をつく。
「あの――」
そんなやり取りを見ていた友大が、なにごとか尋ねようとする。
「迷い神姫を保護する会ってなに? 迷子になった神姫を探すのかよ?」
自身のマスターよりも先に、ヒイロが尋ねる。
「……」
自身の神姫に尋ねたいことを言われてしまい、友大は所在なさげに黙り込む。
挙げようとした手の扱いに、少し困る。
「……はい、簡単に言ってしまうとマスターとはぐれてしまった神姫を保護するための有志の組織です。大体ヒイロ、さんが言われたようなお仕事が多いです」
「えっ!? 神姫って迷子になるの?」
友大が思わず尋ねる。
神姫には自立移動できる携帯とも言える機能も付いている。
ネットに繋げれば地図の情報などもすぐに手に入るだろう。
今時、よほどの山奥でもない限り圏外になることもない。
技術の結晶である神姫が迷子になるというのは、少年の中ではいまいち結びつかない。
「はい、マスターを探そうとして駆けずり回ったり、何かしらのアクシデントで道に迷ったりなどした挙句、バッテリー切れになる神姫が珍しくないんです」
「へ、へぇ……」
意外な事実に驚く。
「マスターがお弁当などの忘れ物をしたのに気づいて届けようとしたり、旅行の際に置いてかれて追いかけようとして迷子になってしまった事例もあります」
「……」
友大は自身の赤い神姫を見る。
そんな理由で迷子になったら、ちょっと別の意味で泣いてしまいそうになると思ってしまう。
「中には、2度と自身のマスターと会えなくなってしまった神姫がいる。自身の神姫がいなくなってしまい、悲しむマスターがいる――」
悼むように静かにマリーベルが語る。
「……」
「……」
2人のマスターが、ちらりと自身の神姫を見る。
「――そんな、悲しいことを減らすために、店長たちは頑張っているんです」
マリーベルが一息つく。
何かを思い起こしたのか、一瞬どこか遠くを見るような目をする。
「――なるほど! ようするに店長っていいことしてるんだな!」
「あ、あははは……、そうだね」
それまでの雰囲気をぶち壊すがごとく、勢い良く発言するヒイロの姿に友大は思わず苦笑いする。
「……もし、迷い神姫を保護する会について興味があるのなら、店にパンフレットがあります。ホームページもあります」
マリーシアが迷い神姫を保護する会の案内もする。
少しヒイロの方を見て、一瞬だけ微笑みを浮かべる。
「うん、ありがとう」
(帰るときにパンフレットをもらっていこうかな?)
そんなことを思いつつ、友大はさりげなく中古の武装パーツのコーナーに向かおうとする。
「ヒイ――」
「なぁ、マスター! 折角だからバトルしよーぜ!」
呼びかけを遮るように、ヒイロの熱き叫びが迸る。
気合が入っている様子で、右手を握りこぶしにして突き上げている。
「ああ、ミッション――」
「なに言ってんだよ? あの女の人の神姫とのバトルに決まってんじゃないか!!」
先ほどの対戦の鬱憤を晴らすためにミッションバトルをするのかと友大は思ったが、違うようだ。
ヒイロは大きな声で対戦を希望する。
(ちょ、ま……)
友大がちらりと女性とその神姫を見る。
「……」
視線が合う。
少し驚いたように目を丸くしている。
間違いなく、ヒイロの望みは、相手の女性とその神姫にも聞こえている。
(ど、どうしよう? また失礼なことを――)
「かまわないですよ。待つ間の暇つぶしになりますし」
「……え? あ、はい、よろしくお願いします」
相手のあっさりとした承諾に友大は面食らう。
こちらからバトルを希望した形になる手前、「やっぱりなしで」とは言えない。
「久々のバトルですわね」
女性の肩に淑やかに座っていた神姫が微笑む。
よく見れば、ケープを身に着けている。
ケープには白百合の意匠が施されており、上品な印象を深めている。
(あれ、確かハイスピードトライク型MMSのイーダだよね。とてもピーキーで上級者むけ、なんだっけ?)
ようやく女性の神姫をしっかりと見た友大が、記憶を探りながら判断する。
以前アリシアに教えてもらった知識からすると、かなり扱いづらいお嬢様といった印象の神姫だったことを思い出す。
「そう言えばお姉様。武装のデーターはお持ちでしたか?」
ふと思い出したかのように、女性の神姫が小首をかしげる。
「ええ、今日はここに――」
女性がカバンから記録媒体を取り出す。
「――っ」
「そ、それは――」
なぜか女性とその神姫が一瞬、顔を引きつらせる。
わずかな間の後、女性は何事もなかったかのようにスーツのポケットに記録媒体をしまう。
「……すいません。武装データーを忘れてしまったようです」
「そ、そう、残念ですわ」
「えー……」
申し訳なさそうな主従に、ヒイロが思わず不満そうな声を出す。
「……あの、ポイントカードを作っていただけたら、初回サービスで試用チケットとこちらの筐体での無料使用5回分をつけさせていただいてますから、どうでしょうか?」
マリーベルが控えめに助け舟を出す。
「分かりました。作らせてもらいますよ。ラミエは一足先に武装を見ていきなさい」
「分かりましたわ。お姉様」
マスターに促され、ラミエと呼ばれた神姫がスカートを抑えながら女性の肩から腕を伝って滑り降りて商品棚に向かう。
「少し時間がかかりますが、いいですか?」
「は、はい」
「おう、いいぜ!」
女性の申し出に承諾する。
友大達は武装パーツの棚に向かい、女性はカードを作るために店のレジの方へ向かう。
■ ■ ■
しばらくして、それぞれの用を済ませて2人のマスターとその神姫達が合流する。
「あの、僕は佐伯友大と言います。こいつはヒイロです。バトル改めてよろしくお願いします」
「おう! ヒイロだ、よろしく頼むぜ!」
ヴァーチャルバトル用の筐体の側で、友大は対戦相手に自己紹介する。
思い返してみれば、ここの店長に関係がありそうな人物だということ以外は、友大は女性のことを何も知らない。
「佐伯、友大君ですか」
「あら、佐伯って――」
自己紹介を聞いた女性が一瞬考える素振りをする。
ラミエが何か気づいたように、友大を見る。
「わたしは占部朱璃(うらべ あかり)。会社勤めのOLです。この子はラミエです。こちらこそよろしく頼みます」
自己紹介を終えると、神姫達がそれぞれの神姫参戦用のリフトの上に立つ。
「よろしくお願いしますわ」
ラミエが微笑みながら対戦相手にあいさつをする。
その手には、柄が長く太く短い刀身の剣のようなものが握られている。
白銀に輝くその武装は、どことなくメカニカルなものだ。
「よろしく頼むぜ! って、そんな格好でいいのかよ?」
ヒイロがラミエの格好を見ていぶかしむ。
ラミエは先ほどと変わらない白いゴシック調のドレスを身に着けている。
武装をデーターとして持っていないはずの彼女は、その姿でバトルを行うことになる。
「ご心配は無用ですわ。わたくしのこのドレスは、リアルバトルにも使えるようにお姉様が手ずから作ってくれたものですわ」
ラミエが控えめな胸に手を当て、誇らしげに胸を張る。
「手作りって……、すごいですね」
「すっげー! どこかで買ったやつじゃないのか!」
「まあ、ちょっとした趣味で、特技ですよ。市販のものにも負けないつもりですけど」
自身に向けられた尊敬のまなざしに、占部が目を逸らして答える。
なんとなく気恥ずかしいのか、心なしか顔が少し赤い。
「ところでラミエ。武装はそれだけでいいのですか?」
「あまり幾つも、ゴテゴテと持つのは美しくありませんわ。それに、この武器の具合をよく確かめたいの」
自身のマスターの問いに澄ました顔で答える。
「そう言う訳ですので、手加減は無用ですわ。どうぞ、本気でかかってくださいませ」
「おう!」
(……こっちには、手加減するほどの武装はないけどね)
思わずにいられない。
ラミエは本来の武装がないようで、しかも剣一振りという様子だ。
彼女は対戦相手が手加減するかもしれないことに釘を刺したのかもしれないが、友大とヒイロにとっては実はその気遣いは無用の長物である。
「ラミエの言うとおり、手加減は無用です。では、佐伯君、良いバトルをしましょう」
「はい、良いバトルをしましょう」
神姫参戦用リフトが沈む。
筐体の中で神姫達がスキャンされる。
(……なんか、ごめんなさい)
友大は心中で相手に謝る。
同時に、筐体のデーターの読み込みが終了する。
――各データの読み込み終了
レギュレーションチェック……オールクリアー
フィールド:宮殿
モード:1vs1バトル
バトル……スタート――
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