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「番外その三 にっくきむねのにく ♯2」(2012/05/27 (日) 22:53:28) の最新版変更点
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※※※
「メリー殿!!」と、アッシュが先陣を切ってフロアに一歩足を踏み入れた瞬間、さっきまでの俺の期待は実にあっけなく崩れ去った。
フロアは、魔境と化していた。
「メリー! メリー! ジーク・メリー!」
大型のバトル筐体を中心にして、フロアは討ち取られた神姫と、墓のように床に突き立てられた武器であふれかえっており、さながら戦国時代の合戦がごとき様相を呈している。いや、スケールが小さいながらも近代兵器を模した装備を持つ神姫が戦っているのだから、それ以上の惨状かもしれない。
そして、ステージ内の小高い丘になった部分に、メリーとその他の神姫が大軍勢で居座っているのだ。しかも、どっから拝借したのか、メリーは神姫たちによって玉座のついた神輿に担がれて聖帝よろしく頬杖をついている。横にはさっきのイーダがいて、あれこれかしづいていた。
その場で頭を抱えたい気分だったが、メルが何かに気づいて短く声を上げた。
「エル姉っ!」
視線の先には、一体のアルトレーネが、メリーの隣で十字架にかけられていたのだ。しかもさらに隣には、
「クレア殿までも……」クレアまでもが同じ目にあっていた。両腕を縛り付けられ、体は煤だらけ。良くない扱いを受けたであろうことは、容易に推測できた。
「むう、よもやクレア殿までも手にかけるとは、完全に賊に成り下がってしまったようですね」
「もう我慢ならない! 行くよ!」
二体の神姫が物陰から飛び出す。俺は後ろからアッシュに合図を出して、その場に残った。
後方からアッシュたちの様子を確認する。
「メリー殿!!」
「エル姉!!」
アッシュが接近すると、メリーを含めた神姫たちが反応した。
「うう……。あっ、アッシュ先生!」
「メル……? メルなのですか? ダメですっ、こっちに来ちゃダメ!!」
「おやおやぁ、誰かと思えば、まだこんなところにネズミが残っていましたか。人間たちに味方する反乱分子が。どうですか、感動のご対面ですよ」
「今や反乱分子は貴女たちですよ、メリー殿。わたくしたちの本分をお忘れですか」
「そうだよっ! なんにも罪のない神姫に酷いことして、革命とか変革とか言うくせにそっちこそ悪者だよ!」
アッシュとメルが叫ぶ。だがメリーは取り合わない。足を組み、見下すような視線で玉座にふんぞり返っている。
「ハア、頭の固い人たちです。恵まれた神姫が私たちにどんな発言をしたか、忘れたんですか? やれ小さくても可愛いだの、ダッシュすると揺れて痛いだの言いたい放題の上から目線。あげくゲームの主人公までアヤシイ雑誌を所持してるわで、ここを制圧したら公式に殴り込みをかけたい気分ですよ」
メリーはかぶりを振った。もはやバストの大きい神姫に対する憎悪に完全に染まってしまったようだ。十字架にかけられたクレアが、そんな変わり果ててしまった親友に対する悲しみを押えきれない様子で、叫んだ。
「メリーさん、もうやめてください! そんなに胸が小さいのが気になるなら、胸部増量パーツを付ければいいじゃないですか!!」
……おいおいクレアよ。そりゃどこのアントワネットだ。
「だぁ~かぁ~らぁ~、それが上から目線の発言だって言ってるんですよッ!!」
当然この発言がメリーたちの逆鱗に触れたようで、メリーの周りの神姫たちが手の付いた棒やらマジックハンドやらを持ってクレアの足元に群がった。
「あっ……やっ! んんっ、くすぐった……いたたたっ、引っ張らないでくださいぃ~~」
「これか! このふくらみが悪いのか!」
「……ねえ弧域、なんで前かがみになってんの」
「え? ハッハッハ、なんのことだいコタマ? ……いや姫乃、違うんだ冗談だって。ああ、竹さんまでそんな目で俺を見ないでくれよ」
―――ああ、男というのは実に悲しい生き物だ。背比さんも、その横で同じポーズをとる俺のどアホウな悪友も、みな同じ男なのだなぁとしみじみ思った。
ひとしきりクレアの局所をつつき回した後、改めてメリーが玉座に戻り、尊大な態度で言った。
「まったく、そちらがそのような態度をとる以上、もはや譲歩の余地はありませんね」最初からそのつもりはなかったんだろうが、それでもこっちが相手の心情を害したという口実を与えてしまった。これはまずい。
「ですが私は寛大な神姫です。もしそちらがこれ以上の交渉を続けたいとお考えならば……そうですね、島津 輝の身柄を引き渡すことを要求します」
「俺!?」思わず俺は物陰から身を乗り出してしまう。気づいたメリーが不敵に笑った。
「あらあら、いたなら最初から姿を現せばよかったのに。なにかの作戦でも立てていたんですか? 怖い人です」
「……メリー、もうよせ。ここにいる人たち全員が迷惑してんだ」
「フフ、アハハハハッ!! 迷惑だなんて、なにを今更いけしゃあしゃあと。もとはと言えばあなたのせいですよ。さんざん私たちを傷つけておきながら」
メリーは玉座から立ち上がると、堂々とふんぞり返った。そんなことをしてもバストは……いや、なんでもない。
「そこのあなたたち、彼を連れてきなさい」彼……? と俺が考えている間に、神姫たちがロープでがんじがらめにしたそいつを引っ立ててきた。
「痛い、痛いって。そんなに引っ張らないで」
なっ、
「健五か!?」
「あ、輝さん!? なにやってるの、メリーたちを止めてよ!」
こいつは驚いた。なんと健五まで捕えられていたのだ。人間まで人質にしてしまうとは、奴らもいよいよ本気らしい。
「さてアキラさん。健五さんの身柄を返して欲しければ、私たちの要求を飲んでいただきましょう」
「……内容は?」
「それはぁ~」メリーは急にくねくね体を動かすと、俺にめがけてウインクしてみせた。
「私をアキラさんの伴侶と認めて~、人間ではなくひたすら神姫に愛を捧げる一生を送って頂くことですよぅ」
……。
「それが嫌なら、メイクまで完璧にこなした健五さんの女装写真をマニア向けショップに大量に売りつけることになりますけど」
「輝さんが結婚する方向で!!」
「健五が女装する方向で!!」
…………。
「テメー助けに来てやったのになんだその態度は!!」
「いいでしょ、責任とるにはいい方法だよっ。きっとお似合いのカップルだよ!!」
「嫌すぎるわ!! テメーこそ写真なんざたった一回なんだから大人しく撮られやがれ!!」
そんな一生はゲームの中で、しかも対戦相手の言動を眺めているだけで充分だっ。俺には考えられん。だが、前方でアッシュ、メル、コタマが意味ありげにでっかいため息をついた。
「……輝殿」
「へ?」
「ここはメリー殿と結婚するしかありません」
「は!?」
「うん、そうだね……。島津さんのおかげで、みんなが救われるなら……」
「安心しなよ。アンタのことは忘れないからさ……」
―――なんだこの空気は。いつしか、俺の周りで人も神姫も仲良くコールを始めやがったし。
「「「「「「「けーっこん!! けーっこん!! ひゅーひゅーっ!」」」」」」」
「うるせええぇぇ!! お前ら厄介ごとを俺に押し付けてーだけじゃねえか!!」
「ならば交渉は決裂です。みなさん、やっておしまいなさい!!!」
「だあっ、いくぞテメーら!! 戦闘開始だ!!」
※※※
そして、冒頭の場面に至るわけである。別に俺のせいだとか言わないでほしい。結婚するだけの覚悟はさすがに出来ないぜ。……現在は下の階から合流した後続部隊を含めて、メリーの率いる軍勢と激しい戦闘を繰り広げている。
アッシュのマシンガンが火を噴いた。メルのスカートから武器が飛び出し、コタマの操るホイホイさん(!?)が舞う。背比べさんの言った通り、彼女らの実力は本物だ。
「ヘッ、そろそろ見せてやろうかなァ!」コタマが十字架を手にし、それを振る。一瞬立ち止まった神姫たちは、十字架が通り過ぎたあと、いきなりあらぬ方向へ動き始めた。
「ホラホラ、『ドールマスター』様の実力、とくと拝みなァ!」
そして俺は雅、ツクモ・モガミと共に、メリーの説得に当たった。
『姐さん、元に戻って下せえ! 俺は胸の小せえ姐さんも好きで……へぶっ!!』
『バカだねぇツクモ、それじゃ褒めてないじゃないかい……ほら姉御、アタイを見てください! ペッタンコですよ、姉御と同じでうぅぎゃああああああ!!』
「そりゃフォークだから当たり前じゃないですかぁぁ~!!」
メリーは武器がほぼ無いってのに驚異的な力を誇った。俺が気合いを入れてチューンナップしちまったせいかヴァッフェバニー並みの強力な脚力を発揮し、その辺に落っこちていた売り物のミサイルを引っ掴んで、こっちめがけて投げつけたのだ。雅はかろうじてかわしたものの、ツクモ・モガミはあっけなくダウンした。
「アキラ! 説得なんか無理よ!」
「んなの分かってら! いいから耐えろ!」
こちらが押してはいるものの、さすがに疲労の色が濃くなってきた。一体で相手にする数が多すぎるのだ。人が近づいて神姫を止めようにも、あの銃撃やらレーザーの中に飛び込んだらどうなるかは想像したくない。
多人数を一度に相手にできるやつ……そんなやつ、ホイホイさんを使うコタマ以外にいるのか? と、
「ふう、ふう……ふうぅ、ごめんねぇ輝はん。遅れてもうて」
考えていた俺の後ろに、そいつはやってきた。
「はあ、メリーちゃんが大暴れしとるん?」
初菜の口調は、まるで人づてにうわさ話を聞いた時のようだった。
「遅えよお前! 大方また迷子になってたんだろ!」
「ごめんなさい。初めての場所やったから」
目の前で大規模な戦闘が起こっているというのに、初菜は全くのんきなものだ。軽く腹が立ったが、俺の知り合いのうちでこの状況に対抗できるのは、おそらくこいつしかいない。
事情を話すと初菜は、牡丹と顔を見合わせた。
「……つまりこのままでは輝様は、メリーのものになってしまうやもしれない、と」
「そうなんだよ。なんとかしてくれ、複数人相手の戦法だってあるだろ」
「……承知いたしました」
と、牡丹は初菜と少しの間示し合わせた後、武装を装備するや否やサッと飛び降りる。アッシュに指示を出していた直也と、二体のホイホイさんを率いるコタマが荒く息を吐きながら言った。
「おい輝、お前って奴はどんだけ鬼畜なんだ。あんないたいけな女性を戦場に送り出すなんざ、世のフェミニストから総スカンだぜ」
「こりゃ将来は亭主関白だね、絶対そうだよ」
「黙って見てろ。……『遊びの達人』の実力が拝めるぞ」
牡丹はまず、大型筐体の中へと向かった。中央に川が流れているステージで、左右に森が鬱蒼と茂っている。牡丹は一番高い木の上に陣取ると、特撮ヒーローよろしく神姫たちを見下ろした。気づいた貧乳軍の神姫が、口々に喚き散らす。
「チっ、新手だよ!」
だが牡丹は全く動じず、能面よりも能面らしい表情で下界を見下ろすと、おもむろに懐から人の小指第二関節ほどの大きさの和紙と、それからカラオケで使うタイプのマイクを取り出した。
牡丹の武装を見るのは、俺も久しぶりだ。名前に合わせて白く塗ったフブキの忍者装束に、背中に背負った三味線。いつも牡丹の武装はこれだけだ。しかし、これだけで終わるならば奴は『遊びの達人』などと呼ばれていない。
牡丹は和紙を持ち直すと、さらにそれより大きい紙―――人間大に換算すればA四サイズほどだろうか―――を大量にばらまいた。俺は牡丹のこの戦法を理解しているから分かるが、奴は神姫たちが三つのグループに分かれるように紙を撒いている。紙には表に細かく文字が書いてあり、森林ステージの風や川の流れに乗って、あるものは水面に、またあるものは川岸にと、すべて神姫の足元に落ちた。
ああ、今日はこれなんだな。と俺が考えるとすぐに、初菜がヘッドセットを取って牡丹に指示を出した。
「それじゃ牡丹、急ぎやから序歌なしで、略式でいってみよか。三十番からお願いね」
「……御意」
いよいよ技が繰り出されるかと、身構える神姫たちの前で、牡丹はマイクを持ち、すっと一瞬息を吸い込んで、
―――「ありぃ~あけのぉ~、つれなくみえしぃぃ~わかれよりぃ~、あかつきばかりうきものはなし~」
―――……。
再度、「あかつきばかり~」と、顔から全く想像できない、牡丹の朗々とした声が響く。神姫たちは完全に度肝を抜かれた、すっとぼけた表情で立っていた。
しかし、二度目の下の句を詠み終えた牡丹が真顔でボソッと「……時間切れ」と言った、その瞬間、
「―――ッ!? がはあっ!!」
なんと三体、つまり一グループにつき一体の神姫の足元にあった紙が、大爆発を起こしたのだ。
シン―――と爆発が収まり、牡丹が「ひさぁかたの~」と次を詠むと途端、神姫たちが大騒ぎした。
「なっ、なんなの今の!?」
「ちょっと、落ち着いてみんな!!」
と言った神姫が、紙を一枚踏んづけると、牡丹が、
「……お手つき」とボソッと言う。また紙が爆発し、神姫が吹き飛ぶ。
もはや神姫たちは足元の紙を踏まないように、その場から動けなくなってしまった。また「よをこめて~」と次が詠まれる。
……分かっていただけただろうか。これが牡丹の『百人一首爆弾』である。発動したが最後、間違った取り札に触れるか、誰も触れないでいるかすると、牡丹の合図で爆発を起こすのだ。タネを理解した神姫たちはもう札を取ることに夢中で、牡丹はまだまだ淡々と和歌を詠み続けるのだった。
※※※
「……なんじゃありゃ」と、直也がつぶやいた。
無理もねーよな、あんな意味の分からない武器。しかも初菜と牡丹はこうしたヘンテコな戦法を大量に持っていて、この爆弾もそのうちの一つに過ぎないのだ。
だが、それでも牡丹が侵入したことによって、筐体の神姫の多くが無力化されている。メリーが攻撃の手を止めて喚き散らした。
「なっ、なにを手こずっているんですか! さっさと片付けてしまいなさい!」
「隙ありだよっ!」
背後からメルのシザー状スカートが伸びて、エルとクレアの拘束を切り落とす。自由になった二人は雅とコタマの背後にまわった。
「さ、これで形勢逆転よ」
「お、おおおのれっ! ですが、まだ私の戦力は……!」
その時丁度、背比さんたちの近くに缶コーヒーを持った男が一人やってきた。
「おおすまん背比。なにこれイベント?」
「ああイベントだよ貞方。携帯見てみろ、フラグもたってんぞ。『午前十二時四十九分、貞方祥太は死亡する。 DEAD END』ってな☆」
「ぐおお離せ! 首が……あっ今みぎぃっつった!」
綺麗なスリーパーホールドから解放された彼は、ひどく咳き込みながら背比さんから事情を聞いた。
「ああ、またそーゆーアレなのね。はいはい分かったよ、行くぞハナコ」
ハナコ、と呼んだハウリンと共に、彼はバトル筐体へと向かう。途中、ハナコに武装を装備したようだったのだが、遠目から見ても奇特な武器を持っていた。明らかにハウリンのデフォルト装備には含まれていない、あれはパイルバンカーだろうか。
「……ああっ!? ちょっ、あの人って」
棚の陰に隠れてパソコンを操作していた直也が、突然手を止めた。
「この辺で『ディフェンダー』って呼ばれてる人じゃねーか」
ハナコは牡丹と同じく筐体に侵入すると、ちょこちょこと歩きながら神姫の群れへと接近した。
「ま~た新手ですか、忌々しい! ちょっとイーダさん、私は手が離せないのでお相手してあげなさい」
「はいですわ、お姉さま」
さっきのイーダがメリーの傍から離れ、複数の神姫と共にハナコへ向かう。ハナコは自分を取り囲むイーダたちの殺気立った姿を見ると、わずかに体を縮こまらせた。
「貴女、ハウリン型とお見受けいたしますが?」
「は、はい。そうです」
「まあ! 貴女は胸の薄いタイプの神姫でありながら、人間の味方をするんですの!?」
「あ、あの、喧嘩はよくないと思うので……」
「ハ! どうせハウリンなんて武装をつけてしまえば胸なんて見えないから、自分には関係ないと思ってらっしゃるのでしょう」
「いえ、その、そうじゃないです。でもショウく……マスターが好きだと言うなら、別に……」
「戯言ですわッ! 所詮貴女も人に迎合する存在ですのね!」
言うが早いか、激高したイーダはトライク・モードに変形し、ハナコをひき潰さんとする。アークの悲劇の再来かと、俺は一瞬目を覆いかけた。
だが、ハナコがあのおかしな武器を構えると、驚くべきことが起きたのだ。
「なッ!?」
武器からシールドが展開し、トライクのホイールを防いだではないか。ハナコの顔面に届く寸前で、火花を散らしている。背後から斬りかかるジールベルンの赤い剣も、別のギミックに阻まれる。
「なんなんスか、あれは」
「あれは槍だよ。ハナコがディフェンダーって呼ばれる理由だ」
ディフェンダー。なるほど、ハナコはあれだけの巨大な武器を、一切攻撃に使用しない。ただひたすらに攻撃を防ぐことのみに使っている。ハナコを攻撃する神姫が三体、四対と続々増えても、徹底的に防御をするのみだ。
そのうちしばらくすると、イーダが攻撃の手を止めて、丁度雅とメルの技を受け止めたメリーに向いた。
「……メリエンダのお姉さま」
「ハア、ハアっ! なんですかイーダさん!」
「わたくし、こんなことをして戦う意味が分からなくなってしまいましたわ」
「なんですってええええええええ!!!???」
「だってそうでしょう? 殿方がみな巨乳好きならば、なぜ私たち胸の小さい神姫は、みな最初から大きく作られなかったのかということになるではありませんか」
イーダはあまりにもハナコに対しての攻撃が届かず、戦う意思を喪失したようだ。表情は、先ほどの弱気だが気の優しい顔に戻っていた。そうだ、名前も知らないイーダよ。お前は今とても大切なことに気づいた。
「……メリィーーーーーっ!!」
俺の合図とともに、雅が両手の箸から火炎を吹き上げ突っ込む。
―――胸の大きいも小さいも関係ない。肌が白かろうが黒かろうが、背が低かろうが高かろうが、髪の色だって、そんなの一切関係ない。どんな神姫だって、誰かから愛されている。ずっとそうではなかったか。
雅に続いて、コタマが、メルが、エルがアッシュがクレアがイルミが、思い思いの武器や装備をまとい突進する。オーナーの想いがこもった、特別なものを持って。
もう、こいつらを止めるものはいなかった。メリーに味方した神姫たちはもはや、牡丹の百人一首に参加するか、ハナコと戦って毒気が抜けるかでその場から動かない。最後に仲間だと思っていた神姫たちに見放されたメリーは、哀れだが裸の王様同然だった。
だがメリーよ。それでもお前は、俺の、
「大事な……相棒なんだぜ」
雅の箸が、一番に届く。頭上に振り上げられた箸が、メリーの瞳に映りこむ。さあ、戻ってこい。
「しばらく謹慎しなさい、バカ貧乳」
「あ、あ、あと6ミリ……高ければああぁぁぁ!!!」
最後の言葉と共に、メリーは山となった神姫の群れに沈んでいった。
こうして、事件は決着したのだ。
※※※
頭を失った貧乳軍はあっけなく崩壊し、事態は急速に終結した。神姫たちはみな、元のオーナーのところへ帰って行ったようだ。彼女らがオーナーたちとまた信頼を築けることを、今は祈ろう。
そして、俺たちは背比さんたちとしばらく交流をした。
「すげえ武装ッスね~。今度設計図見せてもらってもいいッスか?」
「……その時、桜の木の陰から、殺されたはずの女がぬっと……!」
「きゃうううううう!!」
やはり今回のMVPである貞方さんとハナコは人気で、直也から武装の話を聞かれたり、牡丹から怪談話を聞かされたり……いや、怪談はどうなんだ。
でもって、俺はメリーと共に正座して説教を受けている。しばらくこの神姫センターに大手を振って来ることは出来なさそうだ。
「まったく、今度やったら承知しないのです」
「メリーさん、次からはあんまり皆さんに迷惑をかけないようにしましょうね」
「おのれ……まだ私は負けを認めたわけでは……」
「メリー殿、これ以上の抵抗は懲罰房行きでは済みませんよ」
勝てば官軍、負ければ賊軍。悲しいがそんなものだ。勝ったところでこいつらの主張が通ったとは思えないが。
なぜなら、誰も嫌ってなんかいないからだ。
「メリーよぉ」
「なんですかアキラさん。まだ私を辱め足りないんですか。えーいいですよ、別に煮るなり焼くなり、縛るなり舐めるなり愛撫するなり……きゃん!」
「いいかげんにしろっての!」
頭を指で軽く小突いてやった。こいつは反省しているのかどうか分からん。
「いいか、誰もお前が嫌いなんて言ってねーよ。あのイーダの言った通りな、みんな巨乳が好きだってんなら、なんで全部の神姫を胸でかく作らなかったんだってことになんだろうが」
実際には多種多様な神姫がいるだろう。それらはみな違った思惑があれど、人から求められて作られたのだ。
「だからなにも引け目に感じることはねーよ。お前はお前で、俺の大事な相棒だ」
もちろん雅もな、と言うと、メリーと雅の顔がサッと赤くなった。次いで、コタマが鼻をつまんで「クサッ」と言った。
「……じゃあ」
「なんだ」
「好きって言ってください」と、メリーがポソッと言った。
「は?」
「大事だって言うなら、それを口で示してください」
「いや、その好きっつーのはどういう意味で……」
「好きじゃないんですか! これだけ恥ずかしい思いをさせておきながら! う、うわぁぁぁぁああんん!」
「な、なんだよ。泣くなメリー」
「ちょっとメリー、絶対アンタだけに好きなんて言わせないんだからね!」
なんなんだこいつらは。俺は健五と初菜に助けを求めたが、
「あー、輝さんが女の子泣かせたー」
「いいかげん調子にのるなよ健五! おい初菜、こいつを黙らせろ」
「えー、うち女の子に冷たくする人の言うこと聞くのいややわぁ」
「なんだとおぉ!」
この調子で、ずっと振り回されっぱなしだった。ま、厄介な事件だったが、最後にはみんな笑うことができたから良しとしよう。
―――ならよかったのだが、
「ところでアキラさん」
「なんだ」
「結局アキラさんは大きいのと小さいの、どっちが好きなんですか?」
「え!?」
唐突な質問だった。初菜も背比さんも見てるし、正直に答えたほうがいいのかこれ?
「いや~、やっぱ俺も男だからさぁ、大きいほうが……」
『グリズリー・クロスッッッ!!!』
「ぐわああああああああ!!!」
結局最初から最後まで、口は災いのもとってことだった。
―あとがきー
…はい、いかがでしたでしょうか。にゃー様作『15cm程度の死闘』とのコラボ話でした。
神姫センターに大勢で上り込んだ挙句、突拍子もない理由で大暴れして帰っていくという、実際とんでもない所行。弧域くんたちにもエルさんたちにも本当に申し訳ないことをしたと思っています。――え、本当は楽しかったんだろって? ええ、その通りです。戦隊でもプリキュアでも、コラボってわくわくするものじゃないですか。
ただ、書いている間『ハナコちゃんと牡丹はどうにか活躍させたいなぁ。あ、コタマさんの口調はこれでいいのかな? あれ、どのキャラとどのキャラをどう絡ませよう?』などと、いろいろと悩むこともありました。もしかすると、キャラクターの描写が力不足な点があったり、15cm程度の死闘本編とは異なっている部分もあるかもしれませんが、その点はどうか見逃してくださいませ(時系列的には、八幸助さんの謎の能力が発動した後かなというつもりで書きました)。
にゃー様の描く武装神姫の世界は、縦横無尽で底の見えないところだと私は思っています。時にコミカル、時にシリアス、また単にロボットや人形の枠では割り切ることのできない、人間味にあふれる神姫たち(私そこが大好きなんです!)。次はどんな世界が待っているんだろう? と、毎回楽しみです。
武装食堂サイドとしても、かれこれ一年以上もネタにし続けてきたメリーの胸のサイズの話を、どこかで決着しなければと思っていました。まあ、たぶんまだまだネタに…、\ピンポーン/ ん、なんだ? なんか届いたかな? お中元にはまだ少し早いし…
それでは、ここまでとさせていただきます。にゃー様、そしてハナコちゃんたち、今回はありがとうございました。重ねてお礼申し上げます。
それにしてもなにが届いたんだろう? 差出人は、メ…
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