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「類は神姫を呼ぶ part13」(2012/02/28 (火) 17:46:51) の最新版変更点
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ビックリした。
途中から、シオンになんでか知らないけど、通信を切られてしまった。
驚いたのはそれも理由の一つだ。
だけど僕が一番に驚いたのは、
――シオンが勝てたことだ。
あのムルメルティア型になにか言われてたかと思ったら、突然、あの丁寧な物腰の神姫シオンが今まで見たことないくらいに大激怒した。
怒った後はまるで別な神姫に変わったように、練習でしか使えてなく本番のバトルでは一切使えていなかった武装を巧みに使い、勝利を掴み取った。
僕が興奮冷めやらぬ状態なのに対して、アクセスポッドからはオドオドとしているシオンが出てきた。
「すいません、螢斗さん。命令を無視して通信を切――」
「やったじゃないか、シオン! ハハハ!!」
「え、ちょっと螢斗さん? ……きゃっ!」
シオンの脇部分に手をやって軽く持ち上げている。でも、僕の頭より高い位置に。
まあ、俗にいう子どもにやるたかいたかい状態だ。
シオンが勝ち星を挙げたことで、また僕のテンションがおかしい。
けど気にしない!
「きゃーー、螢斗さん~!?…………うふふ、あはは~」
シオンもなんだかこれが楽しくなってきてきて、笑いが込み上げてきたみたいだ。
「アハハ!!」
「やったぜ!! 螢斗!」
「シオン、やったわね!」
そして、淳平とミスズも喜んでいる。
うん、バトルも勝てて万々歳、良かった、良かった。
「――ったく、負けちまったか。せっかく替え玉が手に入ると思ったんだがな~」
チンピラさんがいつの間にか近くに寄って来ていた。
ため息を吐いて残念そうにそう言う。
狂喜乱舞していた姿を見られていて僕もシオンも、急に恥ずかしくなってしまった。
「さぁ、負けたのだから、さっさと出て行くのだよ」
君島さんが僕の前に出て来て偉そうに言っている。
あなたは何もやっていないでしょ? 勝手に喧嘩吹っ掛けただけですよね。
「はいはい、わかったからよ。そう急かすな……行こうぜ、『コハク』」
気付かなかったけど、ムルメルティア型の神姫は「コハク」というらしい。
彼のことをチンピラさんとか不良とか思っていたけど、彼もやっぱり武装神姫が好きなだけの人なのかも知れない。神姫の名前を呼ぶ時は優しそうに見える。
……僕にとっては怖いままだけど。
「貴君よ。さっきはすまなかった、訂正する。……良い上官だな」
彼の肩に乗っている神姫がシオンに頭を下げてなぜか謝った。
なにを言われたら、あんなにシオンは怒るのだろうか。砂風が舞っていて、よく聞き取れなかったのが残念だ。
ワザと怒らす気はないのだけど、なんだか気になった。
「もう気にしてません。……考えてみたら、あなたは本心からそう言ってるとは思えませんでした。戦ってみて気付きました。……なんで螢斗さんの悪口を言ったのかはわかりませんでしたけど」
どうやら、あのコハクという神姫はバトル中僕に対して酷いことを言っていたみたいだ。僕はそんなことで一々怒らないけど、シオンはそれがスイッチになってしまったらしい。
さっきの君島さんとの会話でも思ったけど、僕は神姫マスターとして愛されているみたいだな、うん。
「……ふ、それではな。――タケル上官、もういいぞ」
「……っけ……朝から来るんじゃなかったぜ。あ~あ」
神姫はそれを聞くと顔に笑みを浮かべた。
彼の方はイラついた様子のまま、そう言うとゲームセンターから出て行った。
「ふむ。これで結果オーライになったではないか。私の目論みどおりだ」
「かなり僕が危ない所まで逝きかけたんですけど!? 初めにこういう事をするときは本人の承諾を取ってください! 絶対認めませんけど」
「スパルタだと言っただろう?」
「う、……はあ」
勝てることを君島さんは予期して、僕の立ち位置を危うくさせたという事か。
シオンが恐怖よりも強い感情で塗り固め、勝利できると。だからバトルの前に好きとか愛してるとか聞いたのか。
可能性の問題だと思うのだけど。
シオンがそんなにキレなかったかもしれないし、第一に不良の彼が朝にいたのも偶然だし、その友達が裏の仕事で人手を探していたのだって……。
……うーん、わからない。
僕がそうやって考え込んでいると、隣にいた君島さんはおもむろに自分の携帯を気にし始めた。
どうやら、着信が掛かってきたみたいだ。
君島さんは携帯を耳に寄せ話し始めた。
「……あー……うむ……そうか、すぐに来いと?……ふむ、わかった……」
「どうやら内容から察するに、主殿は急用ができたみたいでござります。この後は、シオン殿の祝勝会でも、なんでもするといいと主殿はそう思ってござります」
「あ、リンレイ! 今までどこにいたの!?」
ミスズはまたまたその場に現れたリンレイにそう聞くが、それは無視された。
携帯に早口で話している君島さんは「すまない」と手でジェスチャーすると、サングラスを再び掛けてゲームセンターを早足で出て行ってしまった。
「あ、ちょっと!? もう!」
「あの神姫は生粋の“忍者”なんだから気にすんな。あれが普通なんだよ」
「神姫にとってあれは普通の芸当ではないですよ。……ウウ……必ずや私が突き止めて見せますぅ」
なんとしても納得がいかないミスズは半泣きになりながらも、リンレイを完全究明する決意をしたみたいだった。
「私は勝てたんですよね?」
胸ポケットに戻ったシオンが僕に聞く。まだ実感が湧いてないみたいだけど、
「うん、そうだね。……偉かったよ」
よしよしと頭を撫でる。まだこの先も、勝てていけるという保証はないけどこの喜びは噛み締めておこう。
「そうですよね……えへへ」
■■■■
「はー、スッゲー疲れた。こんなの二度とやらねぇー」
「そう言わない。自分はなかなか楽しかったよ」
ゲームセンターから出て来た彼は、裏通りに入ると格好を直しサングラスや首を重くしていた、いくつものネックレスを外し始めた。
それらをポケットに仕舞いこみ、首に手をやりさすっている。
彼の隠れていた目元は鋭く、サングラスをしていなくとも威圧感はあり、着崩してなくとも不良かと思われるほどのガラの悪さ。
身体の均整がとれていて、服の上からでも筋肉もほどよくついているのがわかる。
容姿“は”整っている。
だが、目元がマイナスになり、周りからは恐れられそうな風貌ではある。
「……っけ……あのやろう言いたい放題言いやがって」
「まあまあ」
頭の上に移動していた神姫が彼をなだめていた。
「そういや、かなりボコられてたんだが平気か?」
目線を上にやり、自分の神姫を不器用そうに心配している。表情は変わっていない。眼つきは鋭いままだ。
それでも、声だけは聞くと優しそうではある。
「心配ない、バーチャルだから。ものすごい痛みがある程度だし」
「腹ブチ抜かれてたんだから、それでも十分だっつうの。あんなになるまで“演技”しなくとも、よかっただろうが」
「もちろん、口調とかそこらの上官たちへの罵詈雑言は役としてのセリフだけど、バトル自体はあまり演技じゃなかったよ。言われた通り本気は出していないけど、結構力は入れていたんだ」
「ふーん。コハクが言うならそうなんだろうな。バトル恐怖症みたいだった、つう話はどこにいったんだか」
「戦えなかっただけで元から強くはあった。けど、CSCから来る怒りがパワーを底上げしたとかかな? 王道展開よろしくそういう展開にさせてみたら、予想外に強くなったみたい。まあ、アーティル型だし当然かな……よっこいしょっ」
ムルメルティア型の武装神姫「コハク」はバトルで起きたことをそう説明した。
コハクは軍帽とサングラスを外してから、彼の頭の上で腕を枕にして寝そべり始めた。
神姫一体が頭に乗っていたらネックレスよりも首に負担がかかると思うが、それが普段の彼たちの姿だ。
「せっかくの休みの日だっつうのになー」
そう愚痴ってから彼は歩き始めた。
その時、
――ドスン。
「……おい」
突然彼の後ろから誰かが軽く抱きついてきた。
だが、彼も誰が抱きついてきたのかはわかっているのか、あまり驚いていない素振りをする。
もしも抱きつかれた衝撃で、彼が前のめりに動いていたら、頭の上にいるコハクは落ちてしまうからだ。
彼の踏ん張りが功を奏して、コハクはそのまま寝ころがっているままになった。
「すまなかった。……辛い役目を背負わせてしまったみたいだ」
抱きついてきたのは女性だった。背の高い彼と同じか少し低いくらいの背丈。
彼女は彼の後肩部に額を乗せて身体を密着させている。抱きついているから当然だ。それは彼が信頼できる相手だから出来る行為。
それに加え彼女はすまなそうに謝った。
「……っけ……あんなのは慣れてんだよ。心配すんな」
「うん? 心配はしていないぞ」
「ッ……だったら謝ってくんなっつうの!」
彼は腰から回されていた腕を振りほどき、抱きつかれた状態を解いた。
若干顔は赤くもある。抱きつかれて少し恥ずかしかったみたいだ。
彼は彼女の前へ身体を向き直させ対顔した。
「そう怒るな。あと顔が赤いぞ」
「っく、うっせぇ!」
「はっはっは、照れるな、照れるな」
黒のジャケットを着ていて長い黒髪を腰まで流している女性。
そこには君島 縁がいた。
「……いいのかよ、あいつらといなくて?」
「電話が来たフリをして出てきたのだよ」
「ふーん、なんで?」
「猛と話がしたくなってな。心配はしてはいなかったが、怒ってやいないかとな」
「だから、気にしてねぇっつった――」
「タケル上官、それは嘘でしょ。『言いたい放題いいやがって』と愚痴っていたのはどこの誰だったかな?」
“猛”と呼ばれている彼の頭上からコハクは笑いを含ませながらそう言った。
「ふむ。コハクもすまなかったな」
「いえいえ、自分はタケル上官の命令だから気にしてないよ」
「そうか……猛もすまんな」
再度謝ってくる君島。
猛はいつも尊大な態度をとっている君島がこのように素直に謝ってくるのに若干戸惑った。
だが、それはなんとか顔には出さないようにしている。
紛らわすために別の話題、戦ったあの少年と神姫について話し出す。
「バトル恐怖症の神姫を持つオーナーをマジでビビらせろとか。合図したらアドリブで神姫を怒らせて戦えとか、色々と俺たちを振り回しやがって。……ったく、縁はあのチビとかに随分肩入れしてんだな」
「うむ。かわいい後輩なのでな」
「そうでござりますな。長倉殿はご婦人に好かれそうな風貌でござりますし」
君島の肩にはいつも通りにリンレイが立っていた。
君島とは顔見知り、いやそれ以上の関係の猛にとっては、いなかったのにいつの間にかいるリンレイの瞬間出現には慣れているので、特に動じていない。
「…………っち」
それを聞くと胸の内からイラつきが登って来て、無意識に舌打ちをする猛。
「おや、私があの少年に世話を焼いてたら、そっちが妬き上がってしまったのかね? ニヤニヤ……」
彼の態度が変わったのを見てニヤつき始める君島。そして傍にいる神姫たちも便乗して猛に対してニヤつき始める。
「子どもでござりますな。フフ」
「タケル上官はそういうのすぐ顔に出るから。……ふふふ」
「ふん、言ってろ」
また顔に熱が上って来て顔に現れ始めたのに気付いた猛は、それを見られるのが恥ずかしかったので、ポケットに戻していたサングラスを掛けた。
「このサングラスとネックレスとかも、あれに必要だったのかよ?」
サングラスに手をやって顔を背けたまま聞く。
「うむ。変装なども大事なのだよ。観衆が多い中では猛の顔見知りがいないとは限らないのでな。日常生活で支障がでないようにとの配慮だ」
「……っけ、無駄な配慮だこと。俺のツラ知ってる誰かがこんな朝早くにいるとは思えねぇけどな。……俺たちがそんなにこの茶番に必要だったのかね」
「いや、猛たちがいなくとも9通りのやり方を考えてあったが」
「おいコラ!」
不満そうな声を張り上げる猛。
それを見た君島は、
「またそうやって怒鳴るな。ほれ……」
ギュッと。
近づくと今度は前から猛を抱きしめる。
君島は背中に細い腕を回して、穏やかに言う。
「私が猛に会いたかっただけ……と言ったら、どうする?」
「……こんな面倒なことしなくとも、普通に呼んだら来るっつうの。……ったくよ、縁はよくそうやって人をおちょくるよな……」
そう言って猛も君島の腰元にも手をやる。
ストレートな髪の毛を指で梳かしつつ、恥ずかしがらず今度は抱きしめ返す。
「美人なネーちゃんと言ってくれて嬉しかったぞ」
「ありゃ、演技の一環だ」
「そうか。……ふふ」
「笑ってんじゃねぇよ」
「ふ……オシャレしてきた甲斐があったというものだよ」
「いや、キメてこなくても……縁はいつも………そのよ……なんだ……」
「なんだね?」
「///~~。なんでもねぇ!」
顔はサングラスくらいでは赤さが隠しきれなくなっていた。
それからは黙ってしまう猛。
「やれやれ、真正のツンデレめ」
「は? ツンデレ? ……なんだそりゃ」
聞きなれない単語におもわずつぐんでいた口を開いて聞いてしまう。
「ふむ。今を生きているのにツンデレを知らんのか。いいか、ツンデレと言うのはだね、数十年前から続く世の中の人々に息づくものであって猛みたいにツンツンとデレデレが――」
朝から昼に変わろうという時刻。
誰も通らないような裏路地で、抱き合ったまま『ツンデレ』とは何かを説明している、聞いている構図がこの場には展開されていた。
「フフ、仲睦まじいでござりますな」
「ホントにねぇ」
それを生暖かい目で見る神姫たち。
自分たちの神姫が傍にいるのにもかかわらず、そういうのは気にしない二人だった。
彼と彼女は恋人同士なのだから。
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ビックリした。
途中から、シオンになんでか知らないけど、通信を切られてしまった。
驚いたのはそれも理由の一つだ。
だけど僕が一番に驚いたのは、
――シオンが勝てたことだ。
あのムルメルティア型になにか言われてたかと思ったら、突然、あの丁寧な物腰の神姫シオンが今まで見たことないくらいに大激怒した。
怒った後はまるで別な神姫に変わったように、練習でしか使えてなく本番のバトルでは一切使えていなかった武装を巧みに使い、勝利を掴み取った。
僕が興奮冷めやらぬ状態なのに対して、アクセスポッドからはオドオドとしているシオンが出てきた。
「すいません、螢斗さん。命令を無視して通信を切――」
「やったじゃないか、シオン! ハハハ!!」
「え、ちょっと螢斗さん? ……きゃっ!」
シオンの脇部分に手をやって軽く持ち上げている。でも、僕の頭より高い位置に。
まあ、俗にいう子どもにやるたかいたかい状態だ。
シオンが勝ち星を挙げたことで、また僕のテンションがおかしい。
けど気にしない!
「きゃーー、螢斗さん~!?…………うふふ、あはは~」
シオンもなんだかこれが楽しくなってきてきて、笑いが込み上げてきたみたいだ。
「アハハ!!」
「やったぜ!! 螢斗!」
「シオン、やったわね!」
そして、淳平とミスズも喜んでいる。
うん、バトルも勝てて万々歳、良かった、良かった。
「――ったく、負けちまったか。せっかく替え玉が手に入ると思ったんだがな~」
チンピラさんがいつの間にか近くに寄って来ていた。
ため息を吐いて残念そうにそう言う。
狂喜乱舞していた姿を見られていて僕もシオンも、急に恥ずかしくなってしまった。
「さぁ、負けたのだから、さっさと出て行くのだよ」
君島さんが僕の前に出て来て偉そうに言っている。
あなたは何もやっていないでしょ? 勝手に喧嘩吹っ掛けただけですよね。
「はいはい、わかったからよ。そう急かすな……行こうぜ、『コハク』」
気付かなかったけど、ムルメルティア型の神姫は「コハク」というらしい。
彼のことをチンピラさんとか不良とか思っていたけど、彼もやっぱり武装神姫が好きなだけの人なのかも知れない。神姫の名前を呼ぶ時は優しそうに見える。
……僕にとっては怖いままだけど。
「貴君よ。さっきはすまなかった、訂正する。……良い上官だな」
彼の肩に乗っている神姫がシオンに頭を下げてなぜか謝った。
なにを言われたら、あんなにシオンは怒るのだろうか。砂風が舞っていて、よく聞き取れなかったのが残念だ。
ワザと怒らす気はないのだけど、なんだか気になった。
「もう気にしてません。……考えてみたら、あなたは本心からそう言ってるとは思えませんでした。戦ってみて気付きました。……なんで螢斗さんの悪口を言ったのかはわかりませんでしたけど」
どうやら、あのコハクという神姫はバトル中僕に対して酷いことを言っていたみたいだ。僕はそんなことで一々怒らないけど、シオンはそれがスイッチになってしまったらしい。
さっきの君島さんとの会話でも思ったけど、僕は神姫マスターとして愛されているみたいだな、うん。
「……ふ、それではな。――タケル上官、もういいぞ」
「……っけ……朝から来るんじゃなかったぜ。あ~あ」
神姫はそれを聞くと顔に笑みを浮かべた。
彼の方はイラついた様子のまま、そう言うとゲームセンターから出て行った。
「ふむ。これで結果オーライになったではないか。私の目論みどおりだ」
「かなり僕が危ない所まで逝きかけたんですけど!? 初めにこういう事をするときは本人の承諾を取ってください! 絶対認めませんけど」
「スパルタだと言っただろう?」
「う、……はあ」
勝てることを君島さんは予期して、僕の立ち位置を危うくさせたという事か。
シオンが恐怖よりも強い感情で塗り固め、勝利できると。だからバトルの前に好きとか愛してるとか聞いたのか。
可能性の問題だと思うのだけど。
シオンがそんなにキレなかったかもしれないし、第一に不良の彼が朝にいたのも偶然だし、その友達が裏の仕事で人手を探していたのだって……。
……うーん、わからない。
僕がそうやって考え込んでいると、隣にいた君島さんはおもむろに自分の携帯を気にし始めた。
どうやら、着信が掛かってきたみたいだ。
君島さんは携帯を耳に寄せ話し始めた。
「……あー……うむ……そうか、すぐに来いと?……ふむ、わかった……」
「どうやら内容から察するに、主殿は急用ができたみたいでござります。この後は、シオン殿の祝勝会でも、なんでもするといいと主殿はそう思ってござります」
「あ、リンレイ! 今までどこにいたの!?」
ミスズはまたまたその場に現れたリンレイにそう聞くが、それは無視された。
携帯に早口で話している君島さんは「すまない」と手でジェスチャーすると、サングラスを再び掛けてゲームセンターを早足で出て行ってしまった。
「あ、ちょっと!? もう!」
「あの神姫は生粋の“忍者”なんだから気にすんな。あれが普通なんだよ」
「神姫にとってあれは普通の芸当ではないですよ。……ウウ……必ずや私が突き止めて見せますぅ」
なんとしても納得がいかないミスズは半泣きになりながらも、リンレイを完全究明する決意をしたみたいだった。
「私は勝てたんですよね?」
胸ポケットに戻ったシオンが僕に聞く。まだ実感が湧いてないみたいだけど、
「うん、そうだね。……偉かったよ」
よしよしと頭を撫でる。まだこの先も、勝てていけるという保証はないけどこの喜びは噛み締めておこう。
「そうですよね……えへへ」
■■■■
「はー、スッゲー疲れた。こんなの二度とやらねぇー」
「そう言わない。自分はなかなか楽しかったよ」
ゲームセンターから出て来た彼は、裏通りに入ると格好を直しサングラスや首を重くしていた、いくつものネックレスを外し始めた。
それらをポケットに仕舞いこみ、首に手をやりさすっている。
彼の隠れていた目元は鋭く、サングラスをしていなくとも威圧感はあり、着崩してなくとも不良かと思われるほどのガラの悪さ。
身体の均整がとれていて、服の上からでも筋肉もほどよくついているのがわかる。
容姿“は”整っている。
だが、目元がマイナスになり、周りからは恐れられそうな風貌ではある。
「……っけ……あのやろう言いたい放題言いやがって」
「まあまあ」
頭の上に移動していた神姫が彼をなだめていた。
「そういや、かなりボコられてたんだが平気か?」
目線を上にやり、自分の神姫を不器用そうに心配している。表情は変わっていない。眼つきは鋭いままだ。
それでも、声だけは聞くと優しそうではある。
「心配ない、バーチャルだから。ものすごい痛みがある程度だし」
「腹ブチ抜かれてたんだから、それでも十分だっつうの。あんなになるまで“演技”しなくとも、よかっただろうが」
「もちろん、口調とかそこらの上官たちへの罵詈雑言は役としてのセリフだけど、バトル自体はあまり演技じゃなかったよ。言われた通り本気は出していないけど、結構力は入れていたんだ」
「ふーん。コハクが言うならそうなんだろうな。バトル恐怖症みたいだった、つう話はどこにいったんだか」
「戦えなかっただけで元から強くはあった。けど、CSCから来る怒りがパワーを底上げしたとかかな? 王道展開よろしくそういう展開にさせてみたら、予想外に強くなったみたい。まあ、アーティル型だし当然かな……よっこいしょっ」
ムルメルティア型の武装神姫「コハク」はバトルで起きたことをそう説明した。
コハクは軍帽とサングラスを外してから、彼の頭の上で腕を枕にして寝そべり始めた。
神姫一体が頭に乗っていたらネックレスよりも首に負担がかかると思うが、それが普段の彼たちの姿だ。
「せっかくの休みの日だっつうのになー」
そう愚痴ってから彼は歩き始めた。
その時、
――ドスン。
「……おい」
突然彼の後ろから誰かが軽く抱きついてきた。
だが、彼も誰が抱きついてきたのかはわかっているのか、あまり驚いていない素振りをする。
もしも抱きつかれた衝撃で、彼が前のめりに動いていたら、頭の上にいるコハクは落ちてしまうからだ。
彼の踏ん張りが功を奏して、コハクはそのまま寝ころがっているままになった。
「すまなかった。……辛い役目を背負わせてしまったみたいだ」
抱きついてきたのは女性だった。背の高い彼と同じか少し低いくらいの背丈。
彼女は彼の後肩部に額を乗せて身体を密着させている。抱きついているから当然だ。それは彼が信頼できる相手だから出来る行為。
それに加え彼女はすまなそうに謝った。
「……っけ……あんなのは慣れてんだよ。心配すんな」
「うん? 心配はしていないぞ」
「ッ……だったら謝ってくんなっつうの!」
彼は腰から回されていた腕を振りほどき、抱きつかれた状態を解いた。
若干顔は赤くもある。抱きつかれて少し恥ずかしかったみたいだ。
彼は彼女の前へ身体を向き直させ対顔した。
「そう怒るな。あと顔が赤いぞ」
「っく、うっせぇ!」
「はっはっは、照れるな、照れるな」
黒のジャケットを着ていて長い黒髪を腰まで流している女性。
そこには君島 縁がいた。
「……いいのかよ、あいつらといなくて?」
「電話が来たフリをして出てきたのだよ」
「ふーん、なんで?」
「猛と話がしたくなってな。心配はしてはいなかったが、怒ってやいないかとな」
「だから、気にしてねぇっつった――」
「タケル上官、それは嘘でしょ。『言いたい放題いいやがって』と愚痴っていたのはどこの誰だったかな?」
“猛”と呼ばれている彼の頭上からコハクは笑いを含ませながらそう言った。
「ふむ。コハクもすまなかったな」
「いえいえ、自分はタケル上官の命令だから気にしてないよ」
「そうか……猛もすまんな」
再度謝ってくる君島。
猛はいつも尊大な態度をとっている君島がこのように素直に謝ってくるのに若干戸惑った。
だが、それはなんとか顔には出さないようにしている。
紛らわすために別の話題、戦ったあの少年と神姫について話し出す。
「バトル恐怖症の神姫を持つオーナーをマジでビビらせろとか。合図したらアドリブで神姫を怒らせて戦えとか、色々と俺たちを振り回しやがって。……ったく、縁はあのチビとかに随分肩入れしてんだな」
「うむ。かわいい後輩なのでな」
「そうでござりますな。長倉殿はご婦人に好かれそうな風貌でござりますし」
君島の肩にはいつも通りにリンレイが立っていた。
君島とは顔見知り、いやそれ以上の関係の猛にとっては、いなかったのにいつの間にかいるリンレイの瞬間出現には慣れているので、特に動じていない。
「…………っち」
それを聞くと胸の内からイラつきが登って来て、無意識に舌打ちをする猛。
「おや、私があの少年に世話を焼いてたら、そっちが妬き上がってしまったのかね? ニヤニヤ……」
彼の態度が変わったのを見てニヤつき始める君島。そして傍にいる神姫たちも便乗して猛に対してニヤつき始める。
「子どもでござりますな。フフ」
「タケル上官はそういうのすぐ顔に出るから。……ふふふ」
「ふん、言ってろ」
また顔に熱が上って来て顔に現れ始めたのに気付いた猛は、それを見られるのが恥ずかしかったので、ポケットに戻していたサングラスを掛けた。
「このサングラスとネックレスとかも、あれに必要だったのかよ?」
サングラスに手をやって顔を背けたまま聞く。
「うむ。変装なども大事なのだよ。観衆が多い中では猛の顔見知りがいないとは限らないのでな。日常生活で支障がでないようにとの配慮だ」
「……っけ、無駄な配慮だこと。俺のツラ知ってる誰かがこんな朝早くにいるとは思えねぇけどな。……俺たちがそんなにこの茶番に必要だったのかね」
「いや、猛たちがいなくとも9通りのやり方を考えてあったが」
「おいコラ!」
不満そうな声を張り上げる猛。
それを見た君島は、
「またそうやって怒鳴るな。ほれ……」
ギュッと。
近づくと今度は前から猛を抱きしめる。
君島は背中に細い腕を回して、穏やかに言う。
「私が猛に会いたかっただけ……と言ったら、どうする?」
「……こんな面倒なことしなくとも、普通に呼んだら来るっつうの。……ったくよ、縁はよくそうやって人をおちょくるよな……」
そう言って猛も君島の腰元にも手をやる。
ストレートな髪の毛を指で梳かしつつ、恥ずかしがらず今度は抱きしめ返す。
「美人なネーちゃんと言ってくれて嬉しかったぞ」
「ありゃ、演技の一環だ」
「そうか。……ふふ」
「笑ってんじゃねぇよ」
「ふ……オシャレしてきた甲斐があったというものだよ」
「いや、キメてこなくても……縁はいつも………そのよ……なんだ……」
「なんだね?」
「///~~。なんでもねぇ!」
顔はサングラスくらいでは赤さが隠しきれなくなっていた。
それからは黙ってしまう猛。
「やれやれ、真正のツンデレめ」
「は? ツンデレ? ……なんだそりゃ」
聞きなれない単語におもわずつぐんでいた口を開いて聞いてしまう。
「ふむ。今を生きているのにツンデレを知らんのか。いいか、ツンデレと言うのはだね、数十年前から続く世の中の人々に息づくものであって猛みたいにツンツンとデレデレが――」
朝から昼に変わろうという時刻。
誰も通らないような裏路地で、抱き合ったまま『ツンデレ』とは何かを説明している、聞いている構図がこの場には展開されていた。
「フフ、仲睦まじいでござりますな」
「ホントにねぇ」
それを生暖かい目で見る神姫たち。
自分たちの神姫が傍にいるのにもかかわらず、そういうのは気にしない二人だった。
彼と彼女は恋人同士なのだから。
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