「1話 目覚め」(2007/03/04 (日) 23:55:20) の最新版変更点
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*第1話 目覚め
「……買ってしまった」
俺はそう呟きながら、丁寧に包装された箱を小脇に抱えたまま自室に入る。
机に箱を置き、椅子に座ると包装紙を剥がしにかかった。
箱を開け、ごそごそと付属品を取り出し、最後に本体の品物を取り出す。
15cmほどの人型ロボット、武装神姫。
ペットショップで犬猫に見つめられて、そのまま買ってしまうという心境に似ていた。
俺は特に目的も無く街をぶらぶらしていた。
大きめの玩具屋にやってきた時、派手なのぼりが一列に並んでいた。
『武装神姫 入荷しました』
「暇つぶしにはいいか」
そんなことを呟きながら店の中に入っていった。
棚にずらっと並んだ箱。
「へえ、こんなのが流行っているのか」
犬のようなものや猫のようなものもある。
箱を手に取り、表蓋をあけて中を確認する。
白を基調としたボディに金髪、装備品も白で統一されている。
「綺麗な顔しているなあ……」
これが出会いのきっかけというか、始まりだった。
偶然に手を取ったのだが、棚に戻そうとした時、確かに寂しいような悲しい表情をした、ように見えた。
梱包されて、メイン電源の入っていない神姫が、そういう顔をしないことは分かってる。しかし、現実はここにある。
「はぁ」
ため息を一つついて、神姫本体を持ってみる。
「重さはさほどでもないか」
この中にバッテリー、モーター、コンピューター、などが詰まっているのだから技術の進歩は恐ろしい。
ぷにっとお腹を押してみた。シリコンラバーが指の圧力でへこむ。本体の保護と見た目のためだろう。
そして、お腹の上に位置する二つの膨らみ、そこへ指を持っていき摘んでみた。
「ほほう、よくできてるな」
女性を意識して作られている神姫は、胸の膨らみの中はシリコンラバーで作られていた。
胸の中にまでも機械でみっちりしているとおもったからだ。
― ― ― ―
『メインジェネレーター起動、出力10%』
どこか遠くで声が聞こえる。その声は私のようで私ではない。抑揚のない機械的な声。
『自己診断、腕部及び脚部の破損なし』
誰? あなたは私?
『ジェネレーター出力40%まで上昇』
私は上下左右も区別のない空間に浮かんでいるようで、声の発生源も特定できない。
『メインコア異常なし。センサー系全て異常なし』
『メインジェネレーター出力100%に上昇」
『感情人格プログラム起動、以後のメインコア主導権移行』
その声と同時にすうっと身体に吸い込まれていく感じがした。
『TYPE ANGEL 起動』
目の前に光が溢れる。それと同時に、本能的に周囲をみると人間が一人だけ。
多分マスターだろう。
目覚めたばかりの気だるさが抜けてくると、あることに気が付いた。
マスターの手は、私の身体をあちこち触っているようだ。
それを認識した瞬間、顔が赤くなり、恥ずかしさがこみ上げてくる。
― ― ― ―
ぷにぷにと身体中を触っていると声がした。
「あ、あの……マスター? 恥ずかしいのですが……」
「うわ!」
俺は驚いて神姫を放り投げると、トンっと手をつき、腕の伸縮の反動でくるっとまわって綺麗に正座した状態でこっちを見ている。
いつのまに電源が入っていたのだろう。
「はじめまして、マスター。これからよろしくお願いします」
三つ指をついて挨拶をしてきた。
「ああ……」
そう答えるのがやっとだ。
「あ、のさ…ロボットでも感じるのか?」
何とも変な質問だが聞いてみた。
すると、少し顔を赤らめて俯きながら答えてくれた。
「一応、人間と同じ感覚を持っています。です…から…その……」
「そっか」
「すみません」
さらに顔を赤くして顔を背けてしまった。
「いや、こっちこそ悪かった。興味本位とはいえあんなことして」
「はい……」
「で、お前の名前は?」
「はい。武装神姫、TYPE ANGEL アーンヴァルです」
そう即答したが、俺は首を横に振りやさしく言った。
「それは商品名だ。そうじゃなくて、お前自身のお前だけの名前だよ」
びっくりした表情をしてこっちを見つめてきた。
「いつまでも、お前っていいたくないからな」
そう言うと、考え込んでしまったようだ。
― ― ― ―
名前……
自分を他人と区別する記号……
本来ならマスターが与えるもの……
しかし、私のマスターはそれをしない……
どういうことなのだろうか…
でも、マスターが名前を要求している。答えなくてはいけない。
― ― ― ―
「アー…ル、アール! 私の名前はアールです!」
満面の笑顔で自分の名前を言ったアールに、俺も笑顔で答える。
「そっか、アールか。よろしくな!」
「はい!」
そっと出した俺の手に思い切り飛びついて、指の先を両手で掴んだ。
こうして、俺とアールの生活が始まった。
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*第1話 目覚め
「……買ってしまった」
俺はそう呟きながら、丁寧に包装された箱を小脇に抱えたまま自室に入る。
机に箱を置き、椅子に座ると包装紙を剥がしにかかった。
箱を開け、ごそごそと付属品を取り出し、最後に本体の品物を取り出す。
15cmほどの人型ロボット、武装神姫。
ペットショップで犬猫に見つめられて、そのまま買ってしまうという心境に似ていた。
俺は特に目的も無く街をぶらぶらしていた。
大きめの玩具屋にやってきた時、派手なのぼりが一列に並んでいた。
『武装神姫 入荷しました』
「暇つぶしにはいいか」
そんなことを呟きながら店の中に入っていった。
棚にずらっと並んだ箱。
「へえ、こんなのが流行っているのか」
犬のようなものや猫のようなものもある。
箱を手に取り、表蓋をあけて中を確認する。
白を基調としたボディに金髪、装備品も白で統一されている。
「綺麗な顔しているなあ……」
これが出会いのきっかけというか、始まりだった。
偶然に手を取ったのだが、棚に戻そうとした時、確かに寂しいような悲しい表情をした、ように見えた。
梱包されて、メイン電源の入っていない神姫が、そういう顔をしないことは分かってる。しかし、現実はここにある。
マニュアルに従い、クレイドルと呼ばれる充電装置兼データ送受信装置に本体を乗せて状態の確認を取る。
そして、胸部の未だ機械部が剥き出しになっている部分にCSCと呼ばれる部品を差し込む。
本体を買うときに、これが無いと起動しないといわれて、一緒に買った。
多種多様あったが、どのように違うのか分からなかったので、目に付いた宝石の名前の三種類を選んだ。
三本をセットして、胸部カバーを専用器具にてはめ込む。
「はぁ」
ため息を一つついて、神姫本体を持ってみる。
この中にバッテリー、モーター、コンピューター、などが詰まっているのだから技術の進歩は恐ろしい。
「ほほう、よくできてるな」
― ― ― ―
『メインジェネレーター起動、出力10%』
どこか遠くで声が聞こえる。その声は私のようで私ではない。抑揚のない機械的な声。
『自己診断、腕部及び脚部の破損なし。CSCとのリンク開始』
誰? あなたは私?
『ジェネレーター出力40%まで上昇』
私は上下左右も区別のない空間に浮かんでいるようで、声の発生源も特定できない。
『メインコア異常なし。センサー系全て異常なし』
『メインジェネレーター出力100%に上昇。CSCリンク完了』
『感情人格プログラム起動、以後のメインコア主導権移行』
その声と同時にすうっと身体に吸い込まれていく感じがした。
『TYPE ANGEL 起動』
目の前に光が溢れる。それと同時に、本能的に周囲をみると人間が一人だけ。
多分マスターだろう。
目覚めたばかりの気だるさが抜けてくると、あることに気が付いた。
マスターの手は、私の身体をあちこち触っているようだ。
それを認識した瞬間、顔が赤くなり、恥ずかしさがこみ上げてくる。
― ― ― ―
ぷにぷにと身体中を触っていると声がした。
「あ、あの……マスター? 恥ずかしいのですが……」
「うわ!」
俺は驚いて神姫を放り投げると、トンっと手をつき、腕の伸縮の反動でくるっとまわって綺麗に正座した状態でこっちを見ている。
いつのまに電源が入っていたのだろう。
「はじめまして、マスター。これからよろしくお願いします」
三つ指をついて挨拶をしてきた。
「ああ……」
そう答えるのがやっとだ。
「あ、のさ…ロボットでも感じるのか?」
何とも変な質問だが聞いてみた。
すると、少し顔を赤らめて俯きながら答えてくれた。
「一応、人間と同じ感覚を持っています。です…から…その……」
「そっか」
「すみません」
さらに顔を赤くして顔を背けてしまった。
「いや、こっちこそ悪かった。興味本位とはいえあんなことして」
「はい……」
「で、お前の名前は?」
「はい。武装神姫、TYPE ANGEL アーンヴァルです」
そう即答したが、俺は首を横に振りやさしく言った。
「それは商品名だ。そうじゃなくて、お前自身のお前だけの名前だよ」
びっくりした表情をしてこっちを見つめてきた。
「いつまでも、お前っていいたくないからな」
そう言うと、考え込んでしまったようだ。
― ― ― ―
名前……
自分を他人と区別する記号……
本来ならマスターが与えるもの……
しかし、私のマスターはそれをしない……
どういうことなのだろうか…
でも、マスターが名前を要求している。答えなくてはいけない。
― ― ― ―
「アー…ル、アール! 私の名前はアールです!」
満面の笑顔で自分の名前を言ったアールに、俺も笑顔で答える。
「そっか、アールか。よろしくな!」
「はい!」
そっと出した俺の手に思い切り飛びついて、指の先を両手で掴んだ。
「それで、マスター登録を行います。マスター名と呼称をお願いします」
「俺は、陽元治虫。呼称は……マスターのままでいいや」
「登録しました。マスター」
アールがにっこりと笑い、俺も笑い返す。
こうして、俺とアールの生活が始まった。
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