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「Siren in the blue sky ~蒼空のサイレン~」(2011/02/16 (水) 23:40:48) の最新版変更点
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エウクランテと言う神姫を評する時、まず最初に浮かぶのは『扱いにくさ』だと言うマスターは多い。
そもそも、エウクランテはMagic Market社が鳴り物入りで発売した多機能型空戦神姫である。
単機で高機動空中格闘戦から遠距離砲撃戦までこなせると言う触れ込みだったが、実際にはその多機能さがエウクランテの弱点となってしまっていた。
当時の空戦の主力がアーンヴァルであり、この天使型がユーザーの選択でドッグファイトやアウトレンジファイアに機能を偏らせ、特化する者が多かった為だろうか。
エウクランテは戦闘中の変形合体を駆使する事でそのどちらも行えるよう設計されていた。
だがしかし。
その分個々の性能はアーンヴァルに及ばず、また目まぐるしく変化する戦況に変形では対応しきれない事態も多発した。
さらに、後続機種が変形合体で機能を集約するティグリース&ウィトゥルースと、高速高機動をウリとするアーク&イーダであった事がエウクランテの扱いづらさを加速させる。
そして、空戦神姫の決定版とも言われる飛鳥の登場が完全にエウクランテの命運を決める事になる。
砲撃形態ではウィトゥルースやアークの対空砲撃に対処する術を持たず、戦闘形態ではティグリースやイーダには敵わない。
逆の長所をぶつけようにも、“敵はそもそもそれを掻い潜る”事が前提なのだ。
ティグリースはウィトゥルースの、イーダはアークの砲撃を掻い潜って格闘戦に持ち込むことを前提に開発されている。
逆にウィトゥルースやアークは砲撃で近寄らせずに倒しきる前提。
矛盾。その盾と矛たらんとしているこれらの神姫に、盾とも矛とも付かぬエウクランテでは対処する術が無かったのだ。
結果として現れる現実は、砲戦を行えばウィトゥルースやアークに撃ち負け、ティグリースやイーダは仕留めきれず格闘戦で制圧される。
格闘戦を挑もうにもティグリースやイーダには一蹴され、ウィトゥルースやアークには近付く事もできない。
更には、これらの神姫と戦う為の戦法を編み出し始めていた先発機種にも同様の現象が発生。
最終的には“多機能を売りとするエウクランテが多機能性を捨てて、特定性能に特化しなければ勝負にならない”という事態にまで発展した。
そして皮肉な事に。
空中格闘戦(ドッグファイト)に特化したエウクランテは強かったのである。
だが、その最後の砦に刃を入れたのが件の飛鳥。
空中格闘戦に特化したエウクランテより更に強い、空中格闘戦型神姫だったのだ。
*Siren in the blue sky
**蒼空のサイレン
「―――と言う訳で。エニの負け数が50敗に達しました~!!」
日々野陽介はそう言って記念のクラッカーを炸裂させた。
「因みに現在の勝率は75戦 20勝 50敗 5引き分け。と、なっておりま~す」
「と、なっておりま~す。じゃなーい!! マスター、忌々しき事態だぞこれは!!」
がーっと吠えるエウクランテ、エニ。
「そもそもだ。もっと使いやすい武器があれば、勝率だってもう少し伸びる筈なんだ。……なのに何で私の武器はドノーマルのセイレーン装備だけなんだ!? せめて使い勝手のいい銃器を要求する!!」
「ボレアスは?」
「優秀なランチャーではあるが、いかんせん鳥型の私が使うにはやや重い。
私が欲しいのは中距離以下で弾幕を形成できる、アサルトライフルやサブマシンガンだ」
言わばそれは、飛鳥の兵装である。
「いいかマスター、よく聞け。他の空戦型神姫と比較したエウクランテの長所は、低速度域での旋回半径と加速だ。ここから導き出される戦術は近接格闘戦を置いて他に無い」
「なるほど」
「中距離以遠での機動射撃戦を挑んでも火力や速度の差から勝負にならない事が多い」
「確かに」
「故に、その距離で敵を牽制し、至近距離に踏み込む隙を生み出す装備は必須なのだ!!」
「なのにそれが無い。と」
「そうだ。その手の装備さえあれば、私とてこれほどの無様を晒しはせん!!」
「だけど、低速度域での機動性は飛鳥もエウクランテと互角じゃないか?」
「だから遅れを取る訳にはいかんのだ!!」
「だが、その上で飛鳥には中距離火器と強力な投下爆弾を有している」
「む、確かにその通りだが」
「いくら後続機だからと言って、そこまでの性能差は無い筈だが」
「……エウクランテは他にも武装をプレステイルに変形させたり、テンペストを用いた遠距離砲撃が可能だ」
「いや、どちらも使えん機能だろう」
プレステイルは武器の全てとアーマーの大半を持っていかれてしまう都合上、本体に戦闘能力が無くなってしまう。
武装モードと比して巡航能力に優れる為、遠距離へ素早く移動する時には有用だが戦闘中にその機会は無い。
接敵状態からの離脱手段として見た場合、変形の手間も含めればアーンヴァルの方が実用的な速度になる。
更に、アーマーを失う以上被弾が致命的過ぎて恐くて早々には使えない。
一方でテンペストも威力は充分だが、使用には制限が多い。
武装を合体させて大型エネルギー砲を形成する以上仕方ない事だが、装備が重く中距離以下では使用がほぼ不可能。
しかし、遠距離で敵を察知してもその敵が高機動タイプの場合、武装変形やエネルギーチャージを行っている内に最低射程を割り込んでいる事が少なくない。
純粋な火力だけならば砲台型フォートブラックにも匹敵するが、装甲厚が全然違う為砲撃機相手の砲戦に使用するにも不向きで、結果として戦闘中に使用する機会はほぼ皆無。
「要するに、その辺の機能が余分な重りなのだ。正直ボレアス要らんからマシンガンが欲しい」
「ぶっちゃけるな、お前」
「戦っているとつくづく思うのだ。万能は無能だとな」
「まぁ、兵器開発でも同じ意見があるな」
「そして、最大の長所を活かそうにも、そのお膳立てに不足するのでは如何ともしがたい。……勝率を得る為には何か抜本的な改革が必要だぞ」
ふーむ。と陽介は天を仰ぐ。
「分った。装備の改造と新戦術の構築を行おう」
「おお、それではボレアスを軽量化して連射機能を付けてくれ」
早速目を輝かせるエニの希望に、陽介は―――。
「いや、そんな技術力は無い」
―――と、一蹴した。
「無いのか?」
「お前、文系の大学生にそげなテクがある訳なかろう」
「では。何を如何、改造するつもりだ?」
「友達が限定品の黒鳥子を持っていてな」
「む、あの貴重品か……」
「カスタムしまくった結果、幾つかの装備が要らなくなったと言うんで貰ったんだ」
「私の装備と違うのはセンサー位だぞ」
「だからそれを改造する」
「?」
「ほら、お前の通常型センサーマスクより索敵性能は上だろ。だからコレの色を塗りなおしてお前に装備させる」
「それは改造とは言わん!! ただのリペイントだぁ!!」
文系学生の技術力なんてこんな物である。
「まぁ、性能が上がるのは間違いないだろ」
「根本的な解決にはなっていないぞ?」
「そこはホラ、お前が頑張って新必殺技を身に付けるとか……」
「出来れば苦労せんわ」
言いながらも。訓練のためにクレイドルに寝て、VRシミュレーターを立ち上げるあたり真面目なエウクランテらしいと言えばらしい。
「さて、取り合えず参考になりそうな資料を探すかな」
そう言って陽介もパソコンを立ち上げネットの海に潜る。
指し当たって動画を幾つか拾って来たい。
「良いものがあれば良いんだけどね……」
そう呟いて、彼はエニを勝たせる為の戦術を構築し始めた。
◆
改装の結果。
索敵性能10%向上。
放熱性能12%向上。
◆
「そっちは如何?」
「うん、多少は機動性の向上に繋がる飛行方法を練習してみた」
「速度とか上がるのか?」
「いや、それはあまり意味が無い」
エウクランテのエンジンは加速に特化しており、最大速度には乏しい。
「私はマリカで言う所のヨッシー、ピーチ系だからな。やはり加速、減速のキレ味こそを重視するべきだろう」
「減速は大体の飛行神姫は可変翼なんで、主翼そのものを巨大なエアブレーキに出来るんで優越が付き辛いんだが……」
「ああ、だから加速だ」
エニは不敵に微笑む。
「私、と言うよりエウクランテにしか出来ない機動でなければ意味が無い」
「確かに、飛鳥との差別化は重要だな。当面最大のライバルな訳だし」
ライバルと言っても実際にはかなり不利だ。
ガンダムとシャアザク。
Su-30フランカーとF-15イーグル。
アルクエイドとシエル位の差がある。
「だから強敵である飛鳥と、特に近接格闘戦で優位に立つための機動を工夫してみた」
「よし、それじゃあ手近な乱戦筐体で試してみるか」
「了解だ、マスター」
そうして彼等は戦場へ赴いた。
◆
違和感には直ぐに気がついた。
戦場の空気が違う。
『なんだ? なんか変じゃないか?』
なんか、だと?
言われてエニは思い出す。
ああそうだ。
「そうか、マスターは神姫ではないのだったな。それではこの空気は分らないか」
『?』
そうだ。
この空気(ニオイ)は知っている。
かつて第五弾と呼ばれた神姫はフルセットと武装セットに分けられる。
エウクランテはその内のフルセットに属する神姫だ。
そして、もう一機種。
マーメイド型のイーラネイア。
その名で呼ばれた神姫たちがかもし出す怨念のニオイ。
呪詛の色。
怨嗟の叫びだ。
「気をつけろマスター、これは。…この違和感は!! あらゆる神姫の恐れる物だっ!!」
『なんだって!?』
「―――そう。その名は“不人気”っ!!」
やおら眼下の森林を突き破って飛び上がってくる純白!!
「―――っ!!」
振るわれる大剣をかわし、エニはゼピュロスのニードルガンで反撃を行う。
貴重な速射型の飛び道具ではあるが、連射が効かず射程も命中精度もイマイチで主力武器にはなり得ないが、貫通性に根拠を持つ威力だけはそれなりのシロモノだ。
命中しさえすれば―――!!
『バカな、弾いた!? この距離でか!?』
そう、大剣の間合い。
つまりは至近距離で、だ。
敵はその距離でゼピュロスのニードルを跳ね返す。
防御技術ではなく、単純な装甲厚で。
『こいつ、確か新型の―――!!』
言うまでもない。
大剣を軽々と振り回すパワー。
エウクランテにも匹敵する空中機動性。
短銃クラスの武器では牽制にもならない装甲厚。
そして、即座に追撃に移る反応速度。
これほどの性能を“標準”で持つ神姫など僅かに1タイプのみ。
『戦乙女型―――』
「―――アルトレーネ!!」
ディオーネコーポレーションの生み出した超高級、高性能機。
それが戦乙女、アルトシリーズだ。
この神姫は、現行のあらゆる神姫に優越する最強の神姫である。
唯一の弱点は値段のみ!!
全ての面においてあらゆる神姫と互角以上。
劣る性能など皆無と言う正に次世代機。
一年戦争にZガンダム持ち込むような物である。
普通ならば旧式機であるエウクランテに勝ち目など無い。
普通ならば!!
そう。
普通ならば。だ。
だが。
「相手にとって不足は無い!!」
エニは、陽介は。
「私は!!」
『俺達は!!』
彼等の目指すものは。
『「最強のエウクランテだぁ!!」』
戦闘が始まった。
◆
アルトレーネは強い。
更には狂気に犯されているこの神姫は、既に一般的な神姫で対処できる物ではなくなっている。
だが、エニは彼女と互角に戦っていた。
「いけぇっ!!」
空気を切り裂いて、エウロスを振り上げる。
合わせに来た大剣、ジークリンデと接触する瞬間にトリガー!!
刀身を震わす高周波振動が互いの剣を弾き飛ばす。
重量差があるにも拘らず双方弾かれたのは、絶妙のタイミングで放たれた高周波振動の初動の所為だ。
『あれだけ重そうな大剣で、エウロスの剣速に合わせて来るのか!?』
「武器の重さもパワーも桁違いだ。鍔競り合いになったら絶対勝てない!!」
『組み付かれたくないが、敵も早いぞ!!』
そう。
大剣を軽々と振り回すのは神姫素体には不可能だ。
それをなす為には、ストラーフに代表される大型のサブアームを装備するしかなく、その重たいサブアームを戦乙女型は装備している。
だが、それでも尚速い!!
『どんなエンジンだアイツ!!』
背中の翼を駆使して、軽装のエウクランテと互角の機動を行っているのだ。
凄まじいまでのエンジン出力。
洗練されつくした機動特性。
そこから生み出される加速は、エウクランテの株を奪うほどに速く、鋭い!!
「―――っく!?」
大剣、ジークリンデを紙一重でかわしたエニに第二の刃が迫る!!
『二刀、だと!?』
素体腕で抜刀気味に振り上げられた剣はブラオシュテルン(蒼輝星)!!
大剣、ジークリンデより一回り小さいが、エウクランテクラスの軽量神姫にとっては充分以上に致命的な威力だ。
エニもエウロスの二刀流だが、片方で攻撃する間、もう片方はバランス取りのカウンターウエイト(重り)として逆方向に動かすため左右どちらも迎撃が間に合わない!!
『エニっ!!』
「大丈夫だ、私を信じろマスター!!」
陽介の声にエニが応える。
瞬間。
エニの身体が真横にズレた。
「―――!?」
流石にアルトレーネの顔にも驚愕が走る。
エニは一瞬で身体1つ分ほどの距離を真横に移動していた。
『い、今のは……』
「言ったろう。エウクランテの特性は加速だと!!」
言って、エニは先ほどと同じ機動を今度は前方に行う。
行き先は純白の戦乙女、アルトレーネの眼前だ。
「私の翼はこの空を掴む!!」
言ってエニはエンジンを全開にする。
エウクランテのエンジンは加速に優れた小型エンジンだ。
トップスピードに乗る速さには定評がある。
だが、それでは通用しなくなりつつあるのが現状。
そして、それを“エウクランテとして”打破する方法。
違う装備や追加装備に頼る事無く、セイレーン型として自らの限界を突破する手段。
それが―――。
『―――まさか、羽ばたいたのか!?』
そう。
エウクランテにしかない翼の特性。
それが自由に動き稼動方向への翼面積をコントロールできる翼端の可動機構だ。
それを使ってエニはエンジンの加速方向へ羽ばたいた。
大気を翼で掴み。
身体を推し進める。
「私の翼は、この大空を掴んで制する!! ―――行けアイオロスっ!!」
加速。
接敵。
この二つはほぼ同時に行われ、終了した。
「くたばれ、戦乙女(アルトレーネ)!!」
交差軌道で×の字に振り下ろされるエウロス二刀。
インパクトの瞬間にトリガーをあわせ高周波振動で威力を更に倍化!!
『やったか!?』
だが。
戦乙女は堕ちない。
飛行を可能としつつも重量級に匹敵する重装甲は、エウロス二刀の高周波斬撃からアルトレーネを守りきった。
『バカな!?』
「大丈夫だ、マスター。私を信じろ、エウクランテと言う神姫を信じろ」
そう。
狙撃も砲撃にも向かないなら。
「追撃で使えば良いんだ!!」
言ったエニが手にしている武器は、両手で構える巨大なエネルギーランチャー。
『―――テンペスト!?』
「堕ちろよ戦乙女、アルトレーネ!! お前達はまだマシなんだよチャンスは与えられたんだ」
大型化されたセンサーが、空中でまだ体勢を崩したままの白い神姫をロックオン。
「チャンスすら与えられなかった数多の神姫がいた事を忘れるな」
砲口に光が満ちる。
「そして、片割れが与えられたチャンスを与えられなかった人魚型がいる事を忘れるな!!」
そして。
「お前達はまだ、恵まれてたんだよ」
引き金が引かれた。
◆
『やったな、エニ』
「ああ、マスター。私はエウクランテである事を誇りに思う」
『俺もだ。エウクランテの、エニのマスターでよかった』
「私はもっと強くなるぞ。エウクランテの、セイレーン型のままで」
『ああ、頼んだぞエニ』
「まかせろ、マスター。エウクランテは最強の神姫だ!!」
言って、エニは翼を羽ばたかせる。
さあ行こう。
敵はまだまだ居る。
指し当たっては前方の白い神姫。
『―――って、またアルトレーネ?』
「さっきのとは別固体のようだが?」
『まて、地上にも居るぞ?』
「こちらも確認した。4機目、いや5機目だ!!」
『なんだ、何でアルトレーネばっかり!?』
「ちょっとまて、マスターなんかアルトレーネがいっぱい居る!?」
『って、なんだこの数は!?』
その数分後。
十体以上のアルトレーネにタコ殴りにされたエニは、敗北を喫する事になる。
「無理だから、あんなの無理だから!!」
「何があったんだ、あの神姫センター!?」
冗談みたいな数のアルトレーネによる冗談みたいスタンピードは、それ以上に冗談みたいなやさぐれシスター、そうとしか表現できないハーモニーグレイスに、冗談みたいな速度で制圧され鎮静化した。
「ってか、何だったんだ今日のアレ。特に最後のヤンキー修道女」
「世界は広いな、マスター。あそこまで来ると私にはもうどうしようもない世界だ」
「ああ、精進は続けるけどさ」
「ああ」
「「アレは無理」」
陽介とエニは、声を揃えて手をパタパタと振った。
◆
もしも貴方がこの二人の絶望を責めるなら、物売屋のドールマスターに喧嘩を売ってみると良い。
次は貴方が手をパタつかせることになる。
Siren in the blue sky
―――END
----
エウクランテ再生産プロジェクト始動記念SS。
http://www.konamistyle.jp/item/37328
さあ紳士淑女諸君。
何も言わずに注文したまえ。
かのアルトレーネたちの悲劇を繰り返さぬ為に。
そしてイーラネイアの無念を忘れぬ為に。
売れないって判断されたんだろうな、おっぱい人魚……。
なお、当作は[[にゃーさまの15cm程度の死闘>15cm程度の死闘]]と[[無断コラボ>第一次戦乙女戦争]]させて頂いております。
事前了承もない不意打ちなのご了承ください。
コラボ可みたいだしイイよね?
ALC。
&counter()
エウクランテと言う神姫を評する時、まず最初に浮かぶのは『扱いにくさ』だと言うマスターは多い。
そもそも、エウクランテはMagic Market社が鳴り物入りで発売した多機能型空戦神姫である。
単機で高機動空中格闘戦から遠距離砲撃戦までこなせると言う触れ込みだったが、実際にはその多機能さがエウクランテの弱点となってしまっていた。
当時の空戦の主力がアーンヴァルであり、この天使型がユーザーの選択でドッグファイトやアウトレンジファイアに機能を偏らせ、特化する者が多かった為だろうか。
エウクランテは戦闘中の変形合体を駆使する事でそのどちらも行えるよう設計されていた。
だがしかし。
その分個々の性能はアーンヴァルに及ばず、また目まぐるしく変化する戦況に変形では対応しきれない事態も多発した。
さらに、後続機種が変形合体で機能を集約するティグリース&ウィトゥルースと、高速高機動をウリとするアーク&イーダであった事がエウクランテの扱いづらさを加速させる。
そして、空戦神姫の決定版とも言われる飛鳥の登場が完全にエウクランテの命運を決める事になる。
砲撃形態ではウィトゥルースやアークの対空砲撃に対処する術を持たず、戦闘形態ではティグリースやイーダには敵わない。
逆の長所をぶつけようにも、“敵はそもそもそれを掻い潜る”事が前提なのだ。
ティグリースはウィトゥルースの、イーダはアークの砲撃を掻い潜って格闘戦に持ち込むことを前提に開発されている。
逆にウィトゥルースやアークは砲撃で近寄らせずに倒しきる前提。
矛盾。その盾と矛たらんとしているこれらの神姫に、盾とも矛とも付かぬエウクランテでは対処する術が無かったのだ。
結果として現れる現実は、砲戦を行えばウィトゥルースやアークに撃ち負け、ティグリースやイーダは仕留めきれず格闘戦で制圧される。
格闘戦を挑もうにもティグリースやイーダには一蹴され、ウィトゥルースやアークには近付く事もできない。
更には、これらの神姫と戦う為の戦法を編み出し始めていた先発機種にも同様の現象が発生。
最終的には“多機能を売りとするエウクランテが多機能性を捨てて、特定性能に特化しなければ勝負にならない”という事態にまで発展した。
そして皮肉な事に。
空中格闘戦(ドッグファイト)に特化したエウクランテは強かったのである。
だが、その最後の砦に刃を入れたのが件の飛鳥。
空中格闘戦に特化したエウクランテより更に強い、空中格闘戦型神姫だったのだ。
*Siren in the blue sky
**蒼空のサイレン
「―――と言う訳で。エニの負け数が50敗に達しました~!!」
日々野陽介はそう言って記念のクラッカーを炸裂させた。
「因みに現在の勝率は75戦 20勝 50敗 5引き分け。と、なっておりま~す」
「と、なっておりま~す。じゃなーい!! マスター、忌々しき事態だぞこれは!!」
がーっと吠えるエウクランテ、エニ。
「そもそもだ。もっと使いやすい武器があれば、勝率だってもう少し伸びる筈なんだ。……なのに何で私の武器はドノーマルのセイレーン装備だけなんだ!? せめて使い勝手のいい銃器を要求する!!」
「ボレアスは?」
「優秀なランチャーではあるが、いかんせん鳥型の私が使うにはやや重い。
私が欲しいのは中距離以下で弾幕を形成できる、アサルトライフルやサブマシンガンだ」
言わばそれは、飛鳥の兵装である。
「いいかマスター、よく聞け。他の空戦型神姫と比較したエウクランテの長所は、低速度域での旋回半径と加速だ。ここから導き出される戦術は近接格闘戦を置いて他に無い」
「なるほど」
「中距離以遠での機動射撃戦を挑んでも火力や速度の差から勝負にならない事が多い」
「確かに」
「故に、その距離で敵を牽制し、至近距離に踏み込む隙を生み出す装備は必須なのだ!!」
「なのにそれが無い。と」
「そうだ。その手の装備さえあれば、私とてこれほどの無様を晒しはせん!!」
「だけど、低速度域での機動性は飛鳥もエウクランテと互角じゃないか?」
「だから遅れを取る訳にはいかんのだ!!」
「だが、その上で飛鳥には中距離火器と強力な投下爆弾を有している」
「む、確かにその通りだが」
「いくら後続機だからと言って、そこまでの性能差は無い筈だが」
「……エウクランテは他にも武装をプレステイルに変形させたり、テンペストを用いた遠距離砲撃が可能だ」
「いや、どちらも使えん機能だろう」
プレステイルは武器の全てとアーマーの大半を持っていかれてしまう都合上、本体に戦闘能力が無くなってしまう。
武装モードと比して巡航能力に優れる為、遠距離へ素早く移動する時には有用だが戦闘中にその機会は無い。
接敵状態からの離脱手段として見た場合、変形の手間も含めればアーンヴァルの方が実用的な速度になる。
更に、アーマーを失う以上被弾が致命的過ぎて恐くて早々には使えない。
一方でテンペストも威力は充分だが、使用には制限が多い。
武装を合体させて大型エネルギー砲を形成する以上仕方ない事だが、装備が重く中距離以下では使用がほぼ不可能。
しかし、遠距離で敵を察知してもその敵が高機動タイプの場合、武装変形やエネルギーチャージを行っている内に最低射程を割り込んでいる事が少なくない。
純粋な火力だけならば砲台型フォートブラックにも匹敵するが、装甲厚が全然違う為砲撃機相手の砲戦に使用するにも不向きで、結果として戦闘中に使用する機会はほぼ皆無。
「要するに、その辺の機能が余分な重りなのだ。正直ボレアス要らんからマシンガンが欲しい」
「ぶっちゃけるな、お前」
「戦っているとつくづく思うのだ。万能は無能だとな」
「まぁ、兵器開発でも同じ意見があるな」
「そして、最大の長所を活かそうにも、そのお膳立てに不足するのでは如何ともしがたい。……勝率を得る為には何か抜本的な改革が必要だぞ」
ふーむ。と陽介は天を仰ぐ。
「分った。装備の改造と新戦術の構築を行おう」
「おお、それではボレアスを軽量化して連射機能を付けてくれ」
早速目を輝かせるエニの希望に、陽介は―――。
「いや、そんな技術力は無い」
―――と、一蹴した。
「無いのか?」
「お前、文系の大学生にそげなテクがある訳なかろう」
「では。何を如何、改造するつもりだ?」
「友達が限定品の黒鳥子を持っていてな」
「む、あの貴重品か……」
「カスタムしまくった結果、幾つかの装備が要らなくなったと言うんで貰ったんだ」
「私の装備と違うのはセンサー位だぞ」
「だからそれを改造する」
「?」
「ほら、お前の通常型センサーマスクより索敵性能は上だろ。だからコレの色を塗りなおしてお前に装備させる」
「それは改造とは言わん!! ただのリペイントだぁ!!」
文系学生の技術力なんてこんな物である。
「まぁ、性能が上がるのは間違いないだろ」
「根本的な解決にはなっていないぞ?」
「そこはホラ、お前が頑張って新必殺技を身に付けるとか……」
「出来れば苦労せんわ」
言いながらも。訓練のためにクレイドルに寝て、VRシミュレーターを立ち上げるあたり真面目なエウクランテらしいと言えばらしい。
「さて、取り合えず参考になりそうな資料を探すかな」
そう言って陽介もパソコンを立ち上げネットの海に潜る。
指し当たって動画を幾つか拾って来たい。
「良いものがあれば良いんだけどね……」
そう呟いて、彼はエニを勝たせる為の戦術を構築し始めた。
◆
改装の結果。
索敵性能10%向上。
放熱性能12%向上。
◆
「そっちは如何?」
「うん、多少は機動性の向上に繋がる飛行方法を練習してみた」
「速度とか上がるのか?」
「いや、それはあまり意味が無い」
エウクランテのエンジンは加速に特化しており、最大速度には乏しい。
「私はマリカで言う所のヨッシー、ピーチ系だからな。やはり加速、減速のキレ味こそを重視するべきだろう」
「減速は大体の飛行神姫は可変翼なんで、主翼そのものを巨大なエアブレーキに出来るんで優越が付き辛いんだが……」
「ああ、だから加速だ」
エニは不敵に微笑む。
「私、と言うよりエウクランテにしか出来ない機動でなければ意味が無い」
「確かに、飛鳥との差別化は重要だな。当面最大のライバルな訳だし」
ライバルと言っても実際にはかなり不利だ。
ガンダムとシャアザク。
Su-30フランカーとF-15イーグル。
アルクエイドとシエル位の差がある。
「だから強敵である飛鳥と、特に近接格闘戦で優位に立つための機動を工夫してみた」
「よし、それじゃあ手近な乱戦筐体で試してみるか」
「了解だ、マスター」
そうして彼等は戦場へ赴いた。
◆
違和感には直ぐに気がついた。
戦場の空気が違う。
『なんだ? なんか変じゃないか?』
なんか、だと?
言われてエニは思い出す。
ああそうだ。
「そうか、マスターは神姫ではないのだったな。それではこの空気は分らないか」
『?』
そうだ。
この空気(ニオイ)は知っている。
かつて第五弾と呼ばれた神姫はフルセットと武装セットに分けられる。
エウクランテはその内のフルセットに属する神姫だ。
そして、もう一機種。
マーメイド型のイーラネイア。
その名で呼ばれた神姫たちがかもし出す怨念のニオイ。
呪詛の色。
怨嗟の叫びだ。
「気をつけろマスター、これは。…この違和感は!! あらゆる神姫の恐れる物だっ!!」
『なんだって!?』
「―――そう。その名は“不人気”っ!!」
やおら眼下の森林を突き破って飛び上がってくる純白!!
「―――っ!!」
振るわれる大剣をかわし、エニはゼピュロスのニードルガンで反撃を行う。
貴重な速射型の飛び道具ではあるが、連射が効かず射程も命中精度もイマイチで主力武器にはなり得ないが、貫通性に根拠を持つ威力だけはそれなりのシロモノだ。
命中しさえすれば―――!!
『バカな、弾いた!? この距離でか!?』
そう、大剣の間合い。
つまりは至近距離で、だ。
敵はその距離でゼピュロスのニードルを跳ね返す。
防御技術ではなく、単純な装甲厚で。
『こいつ、確か新型の―――!!』
言うまでもない。
大剣を軽々と振り回すパワー。
エウクランテにも匹敵する空中機動性。
短銃クラスの武器では牽制にもならない装甲厚。
そして、即座に追撃に移る反応速度。
これほどの性能を“標準”で持つ神姫など僅かに1タイプのみ。
『戦乙女型―――』
「―――アルトレーネ!!」
ディオーネコーポレーションの生み出した超高級、高性能機。
それが戦乙女、アルトシリーズだ。
この神姫は、現行のあらゆる神姫に優越する最強の神姫である。
唯一の弱点は値段のみ!!
全ての面においてあらゆる神姫と互角以上。
劣る性能など皆無と言う正に次世代機。
一年戦争にZガンダム持ち込むような物である。
普通ならば旧式機であるエウクランテに勝ち目など無い。
普通ならば!!
そう。
普通ならば。だ。
だが。
「相手にとって不足は無い!!」
エニは、陽介は。
「私は!!」
『俺達は!!』
彼等の目指すものは。
『「最強のエウクランテだぁ!!」』
戦闘が始まった。
◆
アルトレーネは強い。
更には狂気に犯されているこの神姫は、既に一般的な神姫で対処できる物ではなくなっている。
だが、エニは彼女と互角に戦っていた。
「いけぇっ!!」
空気を切り裂いて、エウロスを振り上げる。
合わせに来た大剣、ジークリンデと接触する瞬間にトリガー!!
刀身を震わす高周波振動が互いの剣を弾き飛ばす。
重量差があるにも拘らず双方弾かれたのは、絶妙のタイミングで放たれた高周波振動の初動の所為だ。
『あれだけ重そうな大剣で、エウロスの剣速に合わせて来るのか!?』
「武器の重さもパワーも桁違いだ。鍔競り合いになったら絶対勝てない!!」
『組み付かれたくないが、敵も早いぞ!!』
そう。
大剣を軽々と振り回すのは神姫素体には不可能だ。
それをなす為には、ストラーフに代表される大型のサブアームを装備するしかなく、その重たいサブアームを戦乙女型は装備している。
だが、それでも尚速い!!
『どんなエンジンだアイツ!!』
背中の翼を駆使して、軽装のエウクランテと互角の機動を行っているのだ。
凄まじいまでのエンジン出力。
洗練されつくした機動特性。
そこから生み出される加速は、エウクランテの株を奪うほどに速く、鋭い!!
「―――っく!?」
大剣、ジークリンデを紙一重でかわしたエニに第二の刃が迫る!!
『二刀、だと!?』
素体腕で抜刀気味に振り上げられた剣はブラオシュテルン(蒼輝星)!!
大剣、ジークリンデより一回り小さいが、エウクランテクラスの軽量神姫にとっては充分以上に致命的な威力だ。
エニもエウロスの二刀流だが、片方で攻撃する間、もう片方はバランス取りのカウンターウエイト(重り)として逆方向に動かすため左右どちらも迎撃が間に合わない!!
『エニっ!!』
「大丈夫だ、私を信じろマスター!!」
陽介の声にエニが応える。
瞬間。
エニの身体が真横にズレた。
「―――!?」
流石にアルトレーネの顔にも驚愕が走る。
エニは一瞬で身体1つ分ほどの距離を真横に移動していた。
『い、今のは……』
「言ったろう。エウクランテの特性は加速だと!!」
言って、エニは先ほどと同じ機動を今度は前方に行う。
行き先は純白の戦乙女、アルトレーネの眼前だ。
「私の翼はこの空を掴む!!」
言ってエニはエンジンを全開にする。
エウクランテのエンジンは加速に優れた小型エンジンだ。
トップスピードに乗る速さには定評がある。
だが、それでは通用しなくなりつつあるのが現状。
そして、それを“エウクランテとして”打破する方法。
違う装備や追加装備に頼る事無く、セイレーン型として自らの限界を突破する手段。
それが―――。
『―――まさか、羽ばたいたのか!?』
そう。
エウクランテにしかない翼の特性。
それが自由に動き稼動方向への翼面積をコントロールできる翼端の可動機構だ。
それを使ってエニはエンジンの加速方向へ羽ばたいた。
大気を翼で掴み。
身体を推し進める。
「私の翼は、この大空を掴んで制する!! ―――行けアイオロスっ!!」
加速。
接敵。
この二つはほぼ同時に行われ、終了した。
「くたばれ、戦乙女(アルトレーネ)!!」
交差軌道で×の字に振り下ろされるエウロス二刀。
インパクトの瞬間にトリガーをあわせ高周波振動で威力を更に倍化!!
『やったか!?』
だが。
戦乙女は堕ちない。
飛行を可能としつつも重量級に匹敵する重装甲は、エウロス二刀の高周波斬撃からアルトレーネを守りきった。
『バカな!?』
「大丈夫だ、マスター。私を信じろ、エウクランテと言う神姫を信じろ」
そう。
狙撃も砲撃にも向かないなら。
「追撃で使えば良いんだ!!」
言ったエニが手にしている武器は、両手で構える巨大なエネルギーランチャー。
『―――テンペスト!?』
「堕ちろよ戦乙女、アルトレーネ!! お前達はまだマシなんだよチャンスは与えられたんだ」
大型化されたセンサーが、空中でまだ体勢を崩したままの白い神姫をロックオン。
「チャンスすら与えられなかった数多の神姫がいた事を忘れるな」
砲口に光が満ちる。
「そして、片割れが与えられたチャンスを与えられなかった人魚型がいる事を忘れるな!!」
そして。
「お前達はまだ、恵まれてたんだよ」
引き金が引かれた。
◆
『やったな、エニ』
「ああ、マスター。私はエウクランテである事を誇りに思う」
『俺もだ。エウクランテの、エニのマスターでよかった』
「私はもっと強くなるぞ。エウクランテの、セイレーン型のままで」
『ああ、頼んだぞエニ』
「まかせろ、マスター。エウクランテは最強の神姫だ!!」
言って、エニは翼を羽ばたかせる。
さあ行こう。
敵はまだまだ居る。
指し当たっては前方の白い神姫。
『―――って、またアルトレーネ?』
「さっきのとは別固体のようだが?」
『まて、地上にも居るぞ?』
「こちらも確認した。4機目、いや5機目だ!!」
『なんだ、何でアルトレーネばっかり!?』
「ちょっとまて、マスターなんかアルトレーネがいっぱい居る!?」
『って、なんだこの数は!?』
その数分後。
十体以上のアルトレーネにタコ殴りにされたエニは、敗北を喫する事になる。
「無理だから、あんなの無理だから!!」
「何があったんだ、あの神姫センター!?」
冗談みたいな数のアルトレーネによる冗談みたいスタンピードは、それ以上に冗談みたいなやさぐれシスター、そうとしか表現できないハーモニーグレイスに、冗談みたいな速度で制圧され鎮静化した。
「ってか、何だったんだ今日のアレ。特に最後のヤンキー修道女」
「世界は広いな、マスター。あそこまで来ると私にはもうどうしようもない世界だ」
「ああ、精進は続けるけどさ」
「ああ」
「「アレは無理」」
陽介とエニは、声を揃えて手をパタパタと振った。
◆
もしも貴方がこの二人の絶望を責めるなら、物売屋のドールマスターに喧嘩を売ってみると良い。
次は貴方が手をパタつかせることになる。
Siren in the blue sky
―――END
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エウクランテ再生産プロジェクト始動記念SS。
http://www.konamistyle.jp/item/37328
さあ紳士淑女諸君。
何も言わずに注文したまえ。
かのアルトレーネたちの悲劇を繰り返さぬ為に。
そしてイーラネイアの無念を忘れぬ為に。
売れないって判断されたんだろうな、おっぱい人魚……。
なお、当作は[[にゃーさまの15cm程度の死闘>15cm程度の死闘]]と[[無断コラボ>第一次戦乙女戦争]]させて頂いております。
事前了承もない不意打ちなのご了承ください。
コラボ可みたいだしイイよね?
ALC。
※2/19
このSSの存在が間垣パパンにばれたようです。
嬉し恥し。
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