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「疫病猫がやって来た」(2011/01/02 (日) 22:59:37) の最新版変更点
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&bold(){&u(){2匹目 『疫病猫がやって来た』}}
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『猫戦乙女の憂鬱』では基本的にマオチャオの扱いが酷いです。
今後も酷いまま進行していきますので、マオチャオ好きの方は戻ることを推奨します。
また、マオチャオに限らずそういったことを良しとしない方も戻ることを推奨します。
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「じゃ、行ってくる」
日は登ったばかりで、町が本格的に目覚めるにはまだ時間がある。
マスターの朝は早い。
といっても、マスターはサラリーマンなんだから早いのは当然で、私がお寝坊さんなだけか。
「ふぁい。 いってらっしゃいませぇ」
いつも通りマスターを見送って、さて。
もう一眠りしますか。
至福のひと時、二度寝が終わるのはだいたい正午。
布団をクレイドルから除け、グッと背伸びをして、そしてようやく目が覚める。
マスターは今頃、会社で惣菜パンを食べていることだろう。
大手電機メーカーに務めていて、そこのナントカ本部ナントカ事業部ナントカ統括部の技術部の一員らしい。
仕事の内容を聞いてみたこともあったけど、マスター自身、新入社員だからまだよく分かっていないようだった。
マスター曰く、一つだけ確実なことがある、とのこと。
「人付き合いが苦手で、アマティのネコミミのことをディオーネに問い合わせることすら躊躇う僕に、この仕事は向いていないよ」
他の部署に移動させてもらえばいいような気がするけど、それが言えたら苦労のクの字もない、と開き直っている。
ああ、愛しのスモールハートマスター。
せめて私にだけでも、いろいろなことを話して下さい。
いつも通りの穏やかな平日。
私の一日は、部屋の掃除から始まる。
始まるといっても、もう午後だけど。
今日の清掃範囲はマスターが使う机の周り。
会社の独身寮だから部屋の広さはそれなりだけど、神姫の私が全体を掃除するにはあまりに広すぎるから、毎日ちょこちょこと掃除を進めている。
噂によると、日本のどこかに掃除のプロを自称するアーンヴァルがいて、彼女は本棚の整理どころかオーナーが隠した有害図書すらもキッチリ整頓してしまうと聞く。
アームパーツとレッグパーツを装備した私ですら本の整理は一苦労なのに (漫画や文庫本などの比較的軽い本はへにゃんとなるので持ちづらいし、固い本は当然重い)、それを素体のままでやってのける彼女はきっと、メイド化パッチだとかそういったプログラムをインストールされているに違いない。
【真面目】 なアーンヴァルが、自らメイド化パッチ適用を――神姫ではなく、メイドとして生きる道を選ぶ場面が容易に想像できる。
私もマスターに喜んでもらえるのならメイド化パッチ適用もやぶさかではないけれど、デフォルトで 【天然】 と性格付けされているアルトレーネ型は 【真面目】 なアーンヴァル型のように上手くいかない気がする。
ドジっ娘メイド。
そしてマスターから 「それはそれでいい」 と言ってもらえそうな気もする。
今度、メイド服をおねだりしてみようか。
自分で言うのもなんだけれど、アルトレーネのデザインでメイド服が似合わない、ということはないだろう。
さらに私にはこのネコミミがある。
マスターのみならず、世の神姫フリークの皆さんを悩殺してしまいそうだ。
それに、神姫オーナーならば自分の神姫の性格を嫌っているということはないだろうし――こんな言い方をすると後ろ向きな感じがするけれど――メイドさんが嫌いでもない限り、ほとんどのオーナーは自分の神姫がメイドになれば口元をほころばせてくれることだろう。
ああ、でもマオチャオだけは駄目か。
なんといっても 【馬鹿】 だし。
アルトレーネ型の私が言うのもなんだけど、メイドという神経質な職業から全速力で遠ざかったような 【馬鹿】 だし。
さすがに 【馬鹿】 にメイドになってもらったって、オーナーは最初は可愛がったとしても、そのうち イラッ☆ としてしまいそうだ。
【馬鹿】 といえば先々週の日曜日、マスターに神姫センターに連れて行ってもらって、そこで対戦したマオチャオにはほんとうに驚かされた。
というより、あまりの 【馬鹿】 さ加減に呆れてしまった。
◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆―◇
荒廃したビル群と、霧が街を包み込む寂れたステージでのバトルだった。
バトルスタートの合図と同時に、対戦相手のマオチャオは廃ビルへと飛び込んだ。
小柄なマオチャオと違いシルエットの大きい私は苦戦覚悟で中へ飛び込み、マオチャオの挑戦――廃ビルへ飛び込んだ瞬間、マオチャオが私に向けた視線は明らかな挑発のそれだった――に真っ向から挑んだ。
ガラスを破って窓から飛び込み、邪魔な廃材を蹴散らしながら罅が入った柱を数本横切り、しかしマオチャオを見失ってしまった。
耳を澄ませても、聞こえてくるのは幽霊の声のような風の音だけだった。
いつどこから仕掛けてくるか分からない相手に恐怖を覚えながら、一歩一歩、できるだけ足音をたてないように進んだ。
初めに飛び込んだ一階にはいないようだった。
それから二階、三階とフロアを回っていき、ジークリンデを握るアームに必要以上に力を込めながら、上へ上へと、慎重に上っていった。
そして最上階の廊下の突き当たりに、ついにマオチャオの姿――にはとても見えない、脱ぎ捨てた装備一式を廃材にくくりつけたカカシが立っていた。
そのシュールなカカシを見て硬直してしまった私は、まんまとマオチャオの罠に掛かってしまったのだった。
そう悟ると同時、私は敗北を覚悟した。
しかし、その瞬間に背後から奇襲されることも、そのカカシが攻撃してくることもなかった。
肩透かしを食らって近づいてみると、カカシからいびきが聞こえてきた。
その可愛らしく無邪気ないびきに、全身の力が抜け、もう溜め息しか出なかった。
今までの私の緊張を返せ。
正直なところ途中で恐怖のあまり泣きたくなって、白旗を振ろうかと真剣に悩んだ私の緊張を返せ。
アームからブリュンヒルデを外し、ジークリンデと繋ぎ合わせて、
「『 ゲ イ ル ス ケ イ グ ル ! 』」
「ぎにゃ――――!?」
カカシの背後でバトル中にもかかわらず――恐らく待ちくたびれたのだろう――惰眠を貪っていたマオチャオごと、カカシを吹き飛ばした。
◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆―◇
今後、『うさぎとカメ』の話は『ねことカメ』として語り継がれるべきだと思う。
ああ、でもそれじゃ何の教訓にもならないか。
【怠け者】 が 【真面目】 に負けたならともかく、 【馬鹿】 が誰に負けたって 【馬鹿】 だからの一言で済まされてしまうし。
でもやっぱり、デフォルトが 【馬鹿】 なんだからその猫が 【馬鹿】 なことをしたって――――
「おい、そこのネコミミギュウドン!」
甲高い声が部屋に響いた。
声のした方向を見ると、部屋の窓がいつの間にか空いていて、そこで一体のマオチャオがふんぞり返っていた。
この辺りに住むマオチャオなんていただろうか。
いやその前に、この部屋、三階なんだけど……。
「さっきからワガハイ達マオチャオのことをバカバカと連呼してくれちゃって、世界中のマオチャオが重度のストレスでメルトダウンしちゃったらどう責任をとるつもりなのにゃ!」
ぱっと見はごく普通の、標準的な装備に身を包んだマオチャオだ。
でも、人様の家に勝手に上がりこんでいきなりハイテンションな啖呵を切る個体というのはさすがに覚えがない。
「どちら様かは存じませんが、生憎と馬鹿につける薬の持ち合わせが無いので、残念ながら私にメルトダウンは止められません。 爆発とかするなら他所でやって下さい」
「あ、これは失礼したにゃ。 ではワガハイはちょっと接客のにゃんたるかが分かっていないヨドマルカメラの神姫達にお灸を据える意味で自爆テロを遂行してくる――わけあるかにゃー!」
「おお、ノリツッコミというやつですね」
「その舐めきった態度! ワガハイに対する挑戦状と見たにゃこの腐ったマタタビめ! そんなにワガハイの汚ねぇ花火を見たいと言うのにゃら――――オマエも道連れにしてやるにゃー!」
キシャー! とドリルを振りかざし窓枠から勢い良く飛び降りたマオチャオは、フローリングに着地すると同時に足を滑らせ、後方に回転するように 「にゃごっ!?」 と頭を強かに打った。
アニメのような綺麗な転び方だったけれど、いくらアニメっぽいデザインのマオチャオとはいえ、フローリングが凹みそうなほど強く頭を打たれてはさすがに心配になる。
仰向けに倒れたまま、ゾンビのようにこちらに手を伸ばしてきた。
「お、おのれ……バナナの皮トラップとは、さ、さてはオマエ、かなりマリカーをやり込んでいると見える……」
まりかー、って何だろう。
「そ、それより大丈夫ですか。 結構イイ音しましたけど」
「ふ……ふふふ………………あい……きゃん……ふらい……………………がくり」
いや、飛べてません。
でもよかった、なんとなく大丈夫のようだ。
不法侵入された上にこの場所で勝手に壊れられてはマスターに迷惑がかかってしまう。
動かなくなってしまったマオチャオをそのままにしておくのもアレなので、とりあえず元の位置 「……ハッ!? あ、危にゃい危にゃい、危うく天国のおばあちゃんからニボシヂェリーを受け取――こ、こら、足を掴むにゃ! 引き摺るにゃ! 離せワガハイをどうするつも――ちょ、オ、オオオオマエ鬼かにゃ! ここ三階! さんかああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぺごっ」 に戻しておくことにした。
そうこうしているうちに、昼ドラの時間になってしまった。
今日はあまり掃除が捗らなかったけど、元々マスターから 「あまり掃除はしなくていいからな。 な?」 と言われているので、まぁ良しとしよう。
「侵入者、かぁ」
仕事から帰ったマスターに、今日あったことを話した。
私が掃除をしようとした机に座ったマスターは、机の上でスーパーのお惣菜と一緒に並んだ私 (話し易いようにマスターの前に陣取っているのであって、決してマスターが食後のデザートとして私を食すという意味ではない) の話を怪訝そうに聞いていた。
話を聴き終えたマスターはいっそう怪訝そうに眉根にシワを寄せ、お惣菜を口に放り込んだ。
「被害は無かったからいいけど、そのマオチャオのノリからしてまた来そうだよね。 何か心当たりは?」
私は頭を振った。
神姫センターで知り合ったマオチャオは数体いるけど、あんな妙ちくりんなマオチャオは記憶にない。
「実害が出てからじゃ遅いからなあ。 どうしようかな………………そうだ。 ドールマスターって知ってるよね」
この辺りでそう呼ばれるハーモニーグレイスを知らない神姫がいるならば、よほどバトルに興味が無いか、記憶能力が無いかのどちらかだ。
実際に戦っているところを見たことはないけど、私が発売されるより前に神姫センターで開催された大会の優勝者を圧倒したとか。
その話はさすがに眉唾っぽいけれど、火のない所に煙がどうというように、そのハーモニーグレイスは噂に劣らぬ強さを誇るのだろう。
「そのドールマスターがこの近くの 【物売屋】 っていう店で神姫相手にお悩み相談をやってるらしいんだよ。 悪いけどアマティ、明日物売屋まで行ってそのマオチャオのことで何か知らないか聞いてきてくれないかな」
「わかりました。 そんなに強い神姫がお悩み相談までやってるなんて、よっぽど出来た神姫なんですね」
「いや……そうでもないらしい。 見た目はシスターのコスプレをしたハーモニーグレイス型なんだけど、中身はチンピラだっていう噂だし」
シスターのコスプレをしたシスター型というだけでも、あまり関わりたくないタイプの神姫だということが分かった。
それに加えてチンピラとは、なおいっそうお近づきになりたくない。
「後で地図書いて渡すから。 それと、ジェリーを持てるだけ持っていってね」
どうしよう、 「道に迷った」 とごまかしてその店には近づかないで……でもそれだとあのマオチャオにずっと付き纏われそうな気がする……。
あまり気乗りはしないけど、背に腹は代えられないし、行ってきますか。
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