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キズナのキセキ
~ プロローグ ~
春。
満開の桜。
数え切れないほどの花が、今を盛りと咲き乱れ、並木道を淡い桃色に染めている。
無数の花びらが音もなく舞い、並木道の先を霞ませる。
早朝の空気はいまだ冷たい。
しかし、差し始めたばかりの朝の日差しからは、春の温もりが感じられた。
桜並木の入り口に、人影がある。
女性が二人。
一人は、ウェーブのかかった長い髪の女性。落ち着いた色合いの服をまとっている。
整った美貌に、これもまた落ち着いた微笑。
いま一人は、ショートカットで快活そうな女性。細いジーパンがよく似合っている。こちらも愛らしい顔に優しげな微笑みを湛えていた。
二人は並んで歩き出す。
その姿が霞みそうなほどの、桜の乱舞。
息を飲むほどに美しい。
その光景の中で、二人の持っているもの……無骨なアタッシュケースだけが異彩を放っている。
桜吹雪の中、二人は静かに歩いてゆく。
「……こうして、またあなたと話せるとは思っていなかったわ」
「わたしもです、お姉さま」
ウェーブ髪の女性の言葉に、ショートカットの女性が応えた。
ショートカットの彼女は、そっと目を閉じる。
「……お話したいことが、たくさんありました」
「そう?」
「ええ」
「どんなことを?」
「たとえば……そう、恋をしたこととか」
お姉さま、と呼ばれた女性は、少し首を傾げて目を開く。
「恋? あなたが?」
「……はい」
妹なのであろうか、その女性は、はにかむように頷いた。
すると姉は明るい笑みを浮かべた。
「それは素敵ね。おめでとう」
「ありがとうございます」
「相手は誰? ……あの真面目そうな彼かしら」
「……はい」
妹の方は少しうつむき、頬を赤らめている。
その様子に、姉はさらに微笑んで、並木道の先を見る。
「ふふ……出会った頃は、あなたが誰かを好きになるなんて、思いもしなかったわ」
「もうあれから五年近く経ってますよ? わたしだって、ちょっとは女の子らしくなるんです」
「ふふふ、そうね、ごめんなさい」
やがて、二人は広場にたどり着いた。
周りはやはり桜の木に囲まれており、広い地面は、桜色の絨毯が敷き詰められたように、花びらで埋められている。
ショートカットの妹が立ち止まる。
その横をすり抜けるように、ウェーブ髪の姉が、ゆっくりと前に出た。
桜の絨毯を踏みしめ、歩みを進める。
一○メートルほどの距離を置き、姉と呼ばれた女性が振り返る。
二人は向かい合った。
「あなたを倒します。お姉さま」
ショートカットの女性は、静かに宣言する。
先ほどまでの穏やかな会話の主とは思えないほど、もはや佇まいさえ変わっていた。
すらりと立つその細身からは、油断など微塵も感じられない。
「今ならはっきり言える。今のあなたは間違っている、と」
「……そうだとして、あなたにわたしが倒せるの?」
「倒します」
「……すでに二度負けていても、まだ倒せると思うの」
「……ある人が教えてくれました。わたしはもう『アイスドール』と呼ばれていた頃のわたしではありません。
今のわたしは『エトランゼ』。その名にかけて……あなたを倒す」
揺るぎない口調に、姉と呼ばれた女性もまた、瞳の色を強くする。
「わたしは、今のわたしが間違っているとは思わない。かつて、あなたに教えたことこそが間違っていたと確信している」
「あおいお姉さま……」
「わたしはあなたを倒すわ、菜々子。そして、今のわたしが正しいことを証明しましょう」
「……ならば……勝負です、お姉さま!」
二人のアタッシュケースが、同時に開く。
中からほとばしる光は、流星。
広場へと躍り出た二つの流星は、まっしぐらに駆ける。
積もった桜の花びらが舞い上がる。
広場の中央で、邂逅、激突。
その瞬間、激しい閃光が、朝の陽光を裂いた。
視界をまばゆい光が包み、そして。
そして、死闘が始まった。
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キズナのキセキ
~ プロローグ ~
春。
満開の桜。
数え切れないほどの花が、今を盛りと咲き乱れ、並木道を淡い桃色に染めている。
無数の花びらが音もなく舞い、並木道の先を霞ませる。
早朝の空気はいまだ冷たい。
しかし、差し始めたばかりの朝の日差しからは、春の温もりが感じられた。
桜並木の入り口に、人影がある。
女性が二人。
一人は、ウェーブのかかった長い髪の女性。落ち着いた色合いの服をまとっている。
整った美貌に、これもまた落ち着いた微笑。
いま一人は、ショートカットで快活そうな女性。細いジーパンがよく似合っている。こちらも愛らしい顔に優しげな微笑みを湛えていた。
二人は並んで歩き出す。
その姿が霞みそうなほどの、桜の乱舞。
息を飲むほどに美しい。
その光景の中で、二人の持っているもの……無骨なアタッシュケースだけが異彩を放っている。
桜吹雪の中、二人は静かに歩いてゆく。
「……こうして、またあなたと話せるとは思っていなかったわ」
「わたしもです、お姉さま」
ウェーブ髪の女性の言葉に、ショートカットの女性が応えた。
ショートカットの彼女は、そっと目を閉じる。
「……お話したいことが、たくさんありました」
「そう?」
「ええ」
「どんなことを?」
「たとえば……そう、恋をしたこととか」
お姉さま、と呼ばれた女性は、少し首を傾げて目を開く。
「恋? あなたが?」
「……はい」
妹なのであろうか、その女性は、はにかむように頷いた。
すると姉は明るい笑みを浮かべた。
「それは素敵ね。おめでとう」
「ありがとうございます」
「相手は誰? ……あの真面目そうな彼かしら」
「……はい」
妹の方は少しうつむき、頬を赤らめている。
その様子に、姉はさらに微笑んで、並木道の先を見る。
「ふふ……出会った頃は、あなたが誰かを好きになるなんて、思いもしなかったわ」
「もうあれから五年近く経ってますよ? わたしだって、ちょっとは女の子らしくなるんです」
「ふふふ、そうね、ごめんなさい」
やがて、二人は広場にたどり着いた。
周りはやはり桜の木に囲まれており、広い地面は、桜色の絨毯が敷き詰められたように、花びらで埋められている。
ショートカットの妹が立ち止まる。
その横をすり抜けるように、ウェーブ髪の姉が、ゆっくりと前に出た。
桜の絨毯を踏みしめ、歩みを進める。
一○メートルほどの距離を置き、姉と呼ばれた女性が振り返る。
二人は向かい合った。
「あなたを倒します。お姉さま」
ショートカットの女性は、静かに宣言する。
先ほどまでの穏やかな会話の主とは思えないほど、もはや佇まいさえ変わっていた。
すらりと立つその細身からは、油断など微塵も感じられない。
「今ならはっきり言える。今のあなたは間違っている、と」
「……そうだとして、あなたにわたしが倒せるの?」
「倒します」
「……すでに二度負けていても、まだ倒せると思うの」
「……ある人が教えてくれました。わたしはもう『アイスドール』と呼ばれていた頃のわたしではありません。
今のわたしは『エトランゼ』。その名にかけて……あなたを倒す」
揺るぎない口調に、姉と呼ばれた女性もまた、瞳の色を強くする。
「わたしは、今のわたしが間違っているとは思わない。かつて、あなたに教えたことこそが間違っていたと確信している」
「あおいお姉さま……」
「わたしはあなたを倒すわ、菜々子。そして、今のわたしが正しいことを証明しましょう」
「……ならば……勝負です、お姉さま!」
二人のアタッシュケースが、同時に開く。
中からほとばしる光は、流星。
広場へと躍り出た二つの流星は、まっしぐらに駆ける。
積もった桜の花びらが舞い上がる。
広場の中央で、邂逅、激突。
その瞬間、激しい閃光が、朝の陽光を裂いた。
視界をまばゆい光が包み、そして。
そして、死闘が始まった。
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