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「第十三話 敗北の時」(2010/03/05 (金) 22:22:51) の最新版変更点
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「もどかしいな、いつもなら出来る事が出来ないのは」
強化ガラス一枚を挟んで眼下でのバトルフィールドで行われているエリアーデとネメシスの戦闘を心配そうに見ていたクロエが呟いた。
「そんなに心配ですか?」
リオラが笑みを浮かべている。まるで何も心配をしていないようだった。
「君は心配じゃないのか?」
「心配?何を心配すれば良いんですか?ネメシスは貴方や姉さんが作った最高の神姫ですよ。あぁエリアーデとか言う神姫ですか、心配ですよね。壊されないか」
「リオラ、変わってしまったな。昔はあんなに優しい子だったのに」
怒りを露わにするリオラ
「貴方がそれを言いますか!あの時、姉さんが死んで悲しかったのは貴方だけじゃなかった!私だって悲しくて寂しかったのに貴方はいなかった。だから・・・」
だから憎むことにした。尊敬する姉を失った悲しみを紛らわせる為だと知っていても止められない。決して傷を舐め合いたいわけではない、ただ一緒に悲しみを乗り越えたかっただけだった。それが実を結ばぬ恋だったとしても傍に居たかった。
「リオラ・・・」
クロエがリオラの肩に触れようと手を伸ばすと、パシン!とその手を叩き拒絶する。
「触らないで、もうあの時の私じゃないんです。私は貴方を許さない、私を一人にした貴方を―――」
クロエの下から離れるリオラ、それと入れ替わる様に神崎と晶が訪れる。
「あ、あのっ―――」
「何があったのかは聞かないでおくよ。まぁ今はそっとしておくことだね。愛情が深ければそれが裏返った時もそれと同じ位に深いもんさ」
「愛情ってリオラが僕に?まさか在りえない」
「はぁ、まったくこのノッポは、こりゃ晶ちゃんも苦労するわ」
ポンッと神崎に肩を叩かれ、晶がうろたえる。
「え、あ、いや」
「まぁまぁ、それよりも今はあっちでしょ」
♦
「このっ!」
空を切る剛拳、これで何度目だろうか数十、いや幾百かもしれない。全ての攻撃がネメシスを捉える事無く空しく空を切る。
約2分が経過した。
「くっ!」
「どうした?まだそんなものではないだろう?」
涼しげに全ての攻撃をかわし続け、闘いの最中絶える事なく浮かべる微笑がエリアーデを激昂させる。
気に入らない。その余裕ぶった顔も何もかもが気に入らない!
「コンノォォォォォォォォォ」
激情に任せた左手を槍の如く相手を貫く貫手に変えネメシスに襲いかかる。
「ふふ、遅い遅い」
四本のチーグル改から繰り出される一撃必殺の貫手を避ける。身体を上下左右縦横無尽に最小に動かし時には剣で軌道をずらし空しく空を切らせる。
エリアーデの攻撃の間を縫いネメシスが小さな攻撃を仕掛ける。
「痛いですわね!」
どれも動きを止めるだけの威力は無いがエリアーデの苛立ちを掻き立てるには十分な威力を発揮した。
無駄なく避けるネメシスに手が届かない。これでは届かない、ならば
攻撃の手を一旦止め、後方へ跳躍、距離を取る。
「ん?どうした?勝てないという事に気付いたのか?」
ネメシスの嫌味に笑って返す
「まさか、全リミッターを限定解除、解除までのカウントスタート、3、2、1、起動!」
切り札を切る。10秒という短い時間での条件付き限定解除、これによりパワー・スピードそのスペックの全てが1.5倍に膨れ上がるというメリットがある。しかし当然デメリットもある。起動中は常に頭の中で警告が鳴り響く、人間で言う頭痛に悩まされ続けるのだ。
重量級とは思えない動きで襲い掛かってきたエリアーデにネメシスが驚いた。
「なにっ!」
鋭さの増した右上部のチーグル改の拳が一瞬動きの遅れたネメシスの鎧をかすめた。火花を散らし新品の様に輝きを放っていた鎧の表面を左上胸部から右下へと斜めに削り取る。
〈触れた!?イケる!〉
「くっ!」
見違えるほどの速度と鋭さで襲い来る貫手、避け切れず鎧の表面が削られていく。
だが10秒という時間はあまりにも短過ぎた。ネメシスの鎧を削る事は出来るのだが決定的な一打を与える事が出来ず制限解除の終了時間が来たのだ。
〈制限解除、終了マデ3、2――〉
頭の中でシステム音声が響く
「キャンセル!キャンセル!!キャンセル!!!」
解除終了を無理矢理、理性で抑えつけ制限解除状態を維持し続ける。
冷却が追い付かず排出できない熱で身体が熱い、動きと自重で各関節が軋み悲鳴を上げる。それでも止められない。止まってしまったら負けてしまう。
だが勝負は非情、増してゆく頭痛にエリアーデの動きが僅かに止まった時をネメシスは見逃さなかった。鋭い蹴りがエリアーデの左側頭部を捉えた。
「ぐっ!」
普段なら痛みで一瞬気を取られるだけで済んだだろう、だがそれは致命的だった。制限解除終了を無理矢理抑えていた状況で気を取られたのだ。
『エリアーデ!』
ガラス一枚隔てたクロエから呼ぶ声が聞こえた。
〈制限解除、終了。許容以上ノ熱ヲ探知、強制排熱ヲ開始シマス〉
無機質な音声、普段なら一時的な動作不能に陥るのだが、無理矢理続けていたツケが来たようだエリアーデの視界が歪む、ネメシスをうまく捉えられない。このままではシステムダウン、気絶する。
薄れゆく意識の中で強く思う。負けたくないと。
嫌だ。負けたくない。負けたくないのに、それなのに手が届かない。勝ちたいと思っているだけではダメなのか、思いだけでは何もならないという事なのか。
〈・・・勝ちたい?・・・・〉
声が聞こえる。外からではない内からの声が聞こえる。
〈勝って全てを手に入れたい?〉
初めて聞く声のはずなのに初めてではない既視感
〈敗北はすべて失ってしまう。だから負けたくないと何も失いたくないと思う?〉
えぇ、とエリアーデが肯く
〈そう、なら・・・・〉
目の前に光輝く手が差し出された。
〈勝ちたいと思うのならこの手を取りなさい。恐がらなくて良い、私は貴方に勝ってほしいのだから安心して〉
迷う。本当にこの手を取っていいのだろうか?この手を取る事で私はどうなってしまうのだろう。
怖い、怖い、怖い、この甘く囁く声が怖い、差し出される手が怖い、手を取る事で何が起きるのかが怖い、でもそれよりも何よりも怖いのはクロエを失う事。
クロエを失うくらいならばこの手を取ろう。この手を取る事でいつもの生活に戻れるのならば怖くない。
迷いを振り切り、手を取る。
〈そう、良い子ね。私が絶対に勝たせて上げる〉
貴方はいったい誰なの?
〈私?私は――――――――〉
約3分が経過した頃だった。
〈排熱作業ヲ強制終了、再起動シマス〉
暗く澱んでいた目に再び光が灯り、異変が起きた。
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