「ACT 1-21」(2009/08/31 (月) 21:55:03) の最新版変更点
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ウサギのナミダ
ACT 1-21
■
……これは、どういうことなのだろうか。
マスターは映し出された朝のニュースを、チャンネルを変えては見直している。
同時に、PCを立ち上げて、ネットのニュースサイトも激しくチェックしていた。
いずれも、同じ出来事を伝えている。
『金曜日の夜、全国の盛り場などで、いわゆる神姫風俗の摘発が一斉に行われました。
これは警視庁主導による、初の大規模摘発となります。
警察によると、今回の摘発により、神姫風俗の経営者、その時風俗店を利用していた客など、検挙者は約四百人。
これは深夜の発表時の集計で、最終的には千人を超えると見込まれています』
『最近、ネットを中心に、神姫を虐待する映像が多数出回っており、社会問題となっていました。
こうした世論の声の高まりにより、今回の一斉摘発が行われたと見られています。
神姫の虐待は、MMS保護法違反にあたり、実刑が課せられる場合もあります』
『T県の神姫風俗店『LOVEマスィーン』では、経営者を含む六名が、風俗営業法違反およびMMS保護法違反で検挙。
店で働かされていた、約20体の神姫が保護されました。
また、店に来ていた9人の客についても、MMS保護法違反の疑いで取り調べを受けています』
『今回の一斉摘発は、東京、大阪、名古屋、札幌、福岡など、大都市圏を中心に行われました。
専門家は、警察は今回の摘発によって神姫風俗の一掃を狙った、と見ています』
はじめ見ていたストレートニュースの番組が終わると、すぐにワイドショー形式のニュースを見る。
こちらも、同じニュースを大々的に報じていた。
別のチャンネルも、その次の番組も。
ニュースの内容は理解できたけど、信じられなかった。
いったい何が起こっているのだろうか。
□
いったい何が起こっているのだろうか。
「おい、遠野! 何をした? いったい何が起こってる!?」
「俺が知りたい」
大城の問いに、俺は素直に答えた。
俺が何かしたというのなら。
それは先日、日暮店長に相談したことだ。
しかしそれは五日前の話で、それがこんなに大規模な動きにつながるものなのか?
いくらなんでも早すぎる。
だが、ニュースでは、他の神姫風俗店の名前は出していないのに、『LOVEマスィーン』の名前だけはどの番組でも伝えていた。
それは、日暮店長が動いたことの証ではないのか?
「すまん、大城。用事ができた。後でかけ直す」
「な……ちょっと……!?」
大城には悪かったが、俺は一方的に電話を切った。
そして、テレビとネットから情報を集める。
概要は分かった。
約束通り、日暮店長は動いてくれた。
しかし、警察の動きは俺の想像を遙かに超えている。
神姫風俗を一掃……?
いったい、何がどう動いてこんなことになっているのか、俺には理解できない。
時計を見る。
時間は八時半。
「ティア、出かけるぞ」
「え、ど、どこへ……?」
「エルゴだ!」
俺は手早く着替えをすませ、最低限の持ち物だけ持って、ティアを胸ポケットに収めると、アパートを飛び出した。
何が起きたのか、確かめなくてはなるまい。
■
ホビーショップ・エルゴまでは二時間もかかるというのに、マスターは突然家を飛び出した。
今日報じられている出来事は、エルゴと関係があるのだろうか。
マスターが何かしたのだろうか。
それにしたって、信じられない。
突然、神姫風俗がなくなってしまうなんて。
わたしがいたお店『LOVEマスィーン』のことも放送されていた。あれは、お店がなくなってしまった、ということなのだろうか。
エルゴに向かう途中の電車の中、マスターは携帯端末を使って情報をチェックしている。
携帯端末用のテレビ放送を見て、ネットの情報をチェックして……わたしが見た大型掲示板の書き込みも読んでいる。
マスターは無言だった。
携帯端末を見る表情は、真剣そのものだ。
□
俺は駅に着くと、エルゴまでの道のりを走った。
時間はすでに十時半になろうとしている。
店は開店しているはずだ。
今回の事件について、一刻も早く確認しなくてはならない。
後で思えば急ぐことでもないはずなのに、気ばかりが焦っていた。
ほどなく、エルゴに到着した。
俺は躊躇せずに、店に入る。
「……日暮店長!」
カウンターから少しはずれた位置にいる、エプロン姿の青年を見つけて、俺は思わず叫んでいた。
店長はそばにいた男性から目を離すと、
「おお、遠野くん。早かったな」
と言った。
やはり。俺の出現を予期していたということは、今回の件は俺の依頼が大本ということに他ならない。
「たっちゃん、彼が例の……情報提供者だ」
そう声をかけられた、店長の傍らにいた男性が俺を見た。
鋭い視線。厳しい表情。
スーツ姿のその男性は、全身に緊張感をまとっているように見えた。
ところが、意外にも、俺に左手をさしのべてきた。
「警視庁MMS犯罪担当三課の地走達人だ」
俺は地走刑事と握手をした。
日暮店長と同じ、固い握手だった。
「遠野貴樹です」
名乗った声は緊張に震えていた。
警視庁の刑事である。俺の今の状況を考えれば、疑り深く地走刑事を見てしまうのも仕方がないことだろう。
それを悟ったのか、地走刑事は幾分柔らかな表情になり、緊張を解いた。
「君が証拠品を提供してくれたおかげで、今回の捜査は大成功だった。礼を言うよ」
「いえ……」
刑事さんに礼を言われるのはとても面映ゆかった。
なぜなら……
「俺は……何も、していませんから……」
そう。
俺は何もしていなかった。
こんな、全国レベルの大事に関わっただなんて、どの口で言えるのか。
俺はただ、自分の神姫が大切で、守りたくて、警察にわがままな条件を願い出るようにし向けただけだった。
だが、うつむいた俺に、地走刑事は言った。
「それは違う」
「……え?」
「何もしなかっただなんて、そんなことはない。君は誰よりも大切な役割を果たしたんだ」
「やくわり……?」
「そう。
君は、覚悟をした。
神姫のために、すべてを賭ける覚悟をした。
それは誰も考えもしなかった、大切なことだ」
「そんな……」
そんなことは、ただ俺がそう思いこんだだけに過ぎないのではないか。
「なあ、遠野くん。人を動かすには、何が必要だと思う?」
日暮店長は唐突にそんな質問をしてきた。
俺が戸惑って、何も言えずにいると、彼は笑ってこう言った。
「それはな……想いだ。
想いによって人は動く。
君は、神姫のためにすべてを賭けてもいい、と言った。
俺たちはその想いを受け取った。
だから、俺たちにできることをした。
……それだけさ」
地走刑事も頷いていた。
俺は……何と言っていいかわからず、黙ってしまった。
日暮店長は軽く吐息をついた。
「まあ……これで君の依頼は成し遂げられた。
もう、君の神姫が、風俗店から追われることもない。
あの店は情報源だったから、特に厳しい検挙が行われたからな。復活することもないだろう」
■
その店長さんの言葉に、わたしははっとなった。
詳しいことはよく分からなかったが、マスターが店長さんに何かお願いをして、今回の事件に至ったようだ。
全国の神姫風俗が一夜にしてなくなった。
どんなことがあったのかは、想像がつかない。
また、マスターが「自分の神姫」のために、すべてを賭ける覚悟を決めた、という。
……それはわたしのことなのだろうか?
そんな決意を本当にしたというなら、マスターの気持ちも、わたしの考えうる範囲からかけ離れていて、さっぱり現実味がなかった。
だけど、さきほどニュースで流されていたとおり、わたしがいた店『LOVEマスィーン』がなくなったことは事実みたいだった。
わたしはどうしても一つだけ、聞きたい、聞かなくてはならないことがあった。
「あ、あのっ……!」
思わず口をついた。
三人の男性が、わたしに注目する。
怖い。
でも、その恐怖以上に、聞かなくてはならないという義務感が勝った。
「あの……『LOVEマスィーン』にいた神姫のみんなは……ど、どうなるんですか……?」
かつての仲間たち。
自分の存在を番号で決められた、名もない神姫たち。
彼女たちの行く末が、わたしはどうしても心配だった。
すると、刑事さんが少し姿勢を低くして、マスターの胸ポケットを……わたしの顔をのぞき込んだ。
わたしは思わず、ポケットの縁で顔を隠してしまう。
でも、刑事さんは微笑していた。
「君がティアだね?」
「は、はい……」
「あの店にいた神姫は、いったん警察に預けられて、メモリーのバックアップを受ける。今回の事件の証拠としてね。
それから、神姫保護の活動をしているNPO法人に預けられる。
そこで、素体を換装され、メンテナンスを受け、メモリーを……記憶を消去されて、次のオーナーを捜すことになる、予定だ。
そんなに心配することはない」
「そ、それじゃあ……」
「そう。店の神姫は新しいマスターのもとで、新しい生活を送ることになる」
ああ……。
あの店で、共に苦しい日々を過ごした仲間たちは、救われた。
たとえ、過去の記憶が……仲間たちの記憶も失ってしまうとしても。
わたしと偶然出会ったときに、覚えていないのだとしても。
彼女たちは人間のパートナーとして歩み出すことができる。
神姫としての幸せを、ようやく掴むことができるんだ……。
そう思うと胸がいっぱいになった。
涙が。
もう、止められなかった。
嬉しくて。
そう、涙は嬉しくても流れるのだと。
わたしははじめて分かった。
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
マスターの胸ポケットの縁で涙を拭く。でも、止まらなくて、瞼にポケットの縁を押しつけ続けなくてはならなかった。
刑事さんは優しい声で言ってくれた。
「そのお礼は、君のマスターに言いなさい。
彼の想いが、君だけでなく、多くの神姫を救うことになった。
そんな素晴らしいマスターの神姫であることを忘れてはいけない」
わたしは頷いた。
何度も何度も頷いた。
そしてこのときわたしは覚悟を決めた。
マスターがわたしにしてくれたように。
わたしも、マスターのためにすべてを賭ける、その覚悟を。
□
「それじゃあな、夏彦。俺は仕事に戻る」
地走刑事はそう言って、俺たちに背を向けた。
だが。
「ま、待ってください!」
俺はその背中を引き留めた。
地走刑事が、出口のところで振り向いた。
「俺は……俺は罪に問われないんですか?」
「罪?」
「俺は、風俗店の神姫を無理矢理自分の神姫にしました。
ボディは違法製造のボディで、今までそれを所有していました。
それは、犯罪ではないんですか」
地走刑事は日暮店長と顔を見合わせた。
そして二人は笑い出した。
「生真面目だな、君は。
……ゴミ捨て場に捨てられていたゴミを拾って、何か罪に問われるのかね?」
俺はその答えに唖然とした。
地走刑事は頷くと、今度こそ背中を見せて、店を出ていった。
地走刑事は知っていた。俺が言ったことを、日暮店長が伝えたのだろう。
それでもなお、俺に罪を問わないと、そう言ってくれたのだ。
「……なぜ……」
見ず知らずの学生のために、なぜそこまでしてくれるというのか。
すると、日暮店長が小さなため息をついた。
「遠野くん……君は分かっちゃいねぇなぁ」
俺が振り向くと、店長は苦笑しながら俺を見ていた。
「……なにを……?」
「いいか?
すべてを賭けて神姫を守る。それは立派だ。俺も感動しちまった。
けどな、もし君に何かあったら……君が警察に連れて行かれて、神姫と離ればなれになるようなことがあったら……
それが自分を守るためだと知ったら……
君の神姫は、ティアちゃんは、笑えるか?」
「……!」
そんなことは、考えもしなかった。
俺は、ティアが安心して暮らせるようにすることだけを考えていた。
だから、俺がいなくなったりして、ティアがどう思うかなんて、思い至ることもなかった。
確かに、俺が警察に捕まったりすれば、ティアは自分のせいだと気に病むことだろう。笑顔をなくしてしまうかも知れない。
だが。
「そんなことのために……警察と連携して、全国の神姫風俗を摘発した……って言うんですか!?」
「そうさ」
日暮店長の返事に、俺は唖然とする。
「言っただろ。俺は神姫とマスターが笑い合う姿が好きなんだ。
だが、君の希望そのままだと、君とティアちゃんが一緒に笑えねぇ。
だから……俺たちがちょっと苦労して、二人で笑えるようにしてみた。
ただ、それだけのことなんだよ。
しかも、それで、たくさんの神姫が虐待から助けられるんだ。一石二鳥じゃないか。なぁ?」
日暮店長は、事も無げにそう言った。
途方もない話だった。
『LOVEマスィーン』だけを摘発したら、俺は証人として呼ばれるかも知れないし、違法ボディの所有者としてあるいは罰せられたかも知れない。
だが、神姫風俗店全部が摘発されれば、店も客もすべて警察の手中となる。
神姫風俗自体が下火となり、『LOVEマスィーン』が復活することもないだろう。
俺が提供した証拠資料は、一斉摘発後には同様の資料が大量に手にはいるのだから、些末なものになってしまう。
警察が俺に目を付ける理由がなくなるのだ。
確かに筋は通っている。
しかし、全国の神姫風俗を一斉捜査なんて、いったいどれほどの労力が費やされただろう。
想像もつかない。
それを、さも当たり前のことのように言ってみせるのだ、目の前の男性は。
久住さんは、頼りになるなんて言っていたが、そんな言葉じゃ追いつかない。
俺は感謝してもしきれなかった。
「日暮店長……ありがとうございました。
感謝してもしきれません。
地走刑事にお礼が言えなかったんで……よろしく伝えてください」
俺は日暮店長に頭を下げた。
気持ちが入ったお辞儀は、自然と深いものになった。
店長は照れくさそうに微笑んだ。
「実のところ、結構大変だったんだ。おかげでここ数日寝不足よ。恩に着てくれ」
「はい……何かお礼をさせてください。俺にできることなんて、たかが知れてますけど……」
「そうか? 頼んでもいいか、君に?」
「俺にできることなら、なんでも」
「なら、俺から一つ頼みがある。君にしかできないことだ」
「なんでしょう……?」
真顔になった日暮店長の言葉は、意外なものだった。
「菜々子ちゃんを……助けてやってくれ」
え……?
久住さんを、助ける?
「……菜々子ちゃんは……彼女も、一人で戦っている。もう、ずっと一人で」
「……それはどういう……?」
「それは彼女の口から聞いてくれ。それが筋ってもんだからな。
俺たちは、菜々子ちゃんを助けてやることができなかった。
なんとか、彼女の心を、今みたいにすることができただけだ。
あの子は、まだ何も救われていない。
ずっと一人で戦い続けてる。
だが……菜々子ちゃんが心通わせている君なら……きっと彼女も救うことができるはずだ。
だから、もしそのときが来たら、菜々子ちゃんの力になってやってくれ」
そんなことは……
「言うまでもありません。彼女は俺の恩人ですから」
俺は頷いた。
思いを寄せる女性の力になりたくない男など、この世にいるだろうか。
久住さんが戦っているというその出来事と、俺は深く関わることになる。だがそれは、もっとずっと後の、別の話のことである。
「……頼む」
日暮店長の一言が終わるのと同時、携帯電話が鳴った。俺のだ。
取り出して、液晶表示を見る。
いままさに話題にしていた人物からだった。
「久住さんからです」
日暮店長に言って、俺は通話ボタンを押した。
「もしもし、遠野です」
『あ、久住です……いま、大丈夫ですか?』
「ああ、大丈夫。なに?」
『いますぐ、ゲームセンターに来れますか?』
「……ちょっとまずいな。いま、エルゴなんだ」
『あ……いまね、ティアを助けてくれた人が来ているの。それで連絡したんだけど……』
「ここからだと、二時間ぐらいかかるけど……待っててもらえるかな」
ティアを助けてくれた人がいることは聞いていた。
ぜひともお礼は言いたいところだった。
『ちょっと待ってね』
電話のマイク部分を隠す気配。
電話の向こうで誰かと話しているようだ。
すぐに久住さんの声が返ってきた。
『大丈夫。待っててもらえるから……必ず来て』
「わかった」
『ティアを連れて、武装も持って来て』
「え?」
それは……できない相談だった。
ティアを連れ、武装を持って行ったところで、俺たちがバトルできる環境にはないはずだ。
「……そういうわけには、いかないだろう?」
『ゲーセンのことなら、大丈夫だから』
「いや、しかし……」
『お願い』
電話先の久住さんの声は、俺が息を飲んでしまうほどに、真剣そのものだった。
それで久住さんにお願いされてしまっては、断れるはずもない。
久住さんのことだ、よほどの理由があるのだろう。
「……わかったよ。武装を持って行く」
『ありがとう……ごめんね』
「君が謝ることないよ。それじゃ、あとで」
『うん、待ってる』
俺と久住さんは、同時に電話を切った。
◆
「ハイスピードバニーは来ます。必ず」
菜々子は携帯電話をしまいながら言った。
ゲームセンターの喧噪が、菜々子の耳に戻ってくる。
彼女の周りには、友人になった四人の少女たちがいる。
傍らには大城も立っている。
「それはよかった。わざわざ出向いてきた甲斐があります」
にこにこと人の良さそうな笑顔を浮かべながら言ったのは、高村優斗。
彼の向こうに、三強の姿が見える。
高村の肩にいた美貌の神姫が言う。
「それではまずは、あなたがた……『エトランゼ』とです」
菜々子の肩に座る神姫が答える。
「こちらこそ、お手並み拝見といくわ。『クイーン』雪華」
ミスティの言葉が終わった瞬間、ゲームセンターは歓声に包まれた。
武装神姫コーナーには、バトルロンドのプレイヤーたちが集まり、菜々子と高村を取り囲んでいた。
誰もがバトルせずに、二人のバトルを今や遅しと待ちかまえている。
秋葉原チャンピオン『アーンヴァル・クイーン』と、三強を凌駕する実力の『エトランゼ』の対戦。
全国大会レベルの実力者同士のカードである。
草バトルとしては贅沢すぎる組み合わせに、その場にいた神姫プレイヤーの誰もが期待に胸を膨らませていた。
□
ティアが俺を見上げて尋ねてくる。
「マスター……菜々子さんは、なんて……?」
「……おまえを助けてくれた人が来ているらしい。会いに行こう」
「はい」
俺は日暮店長に向き直ると、もう一度礼を言った。
「今日は、ありがとうございました。
ちょっと用ができたので……またお伺いします」
「おう」
「……次は、お客として」
「頼むぜ?」
俺と店長は目を合わせ、そして互いに笑った。
久しぶりに、心から笑えた気がした。
「菜々子ちゃんによろしくな」
「はい!」
俺は身を翻し、エルゴを後にする。
今日は土曜日。
バトル目当てのお客さんたちが、俺と入れ違いに、店内に消えてゆく。
急いで戻らねばならない。
俺は駅までの道のりを駆け出した。
[[次へ>>]]
[[トップページに戻る>http://www19.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2101.html]]
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ウサギのナミダ
ACT 1-21
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……これは、どういうことなのだろうか。
マスターは映し出された朝のニュースを、チャンネルを変えては見直している。
同時に、PCを立ち上げて、ネットのニュースサイトも激しくチェックしていた。
いずれも、同じ出来事を伝えている。
『金曜日の夜、全国の盛り場などで、いわゆる神姫風俗の摘発が一斉に行われました。
これは警視庁主導による、初の大規模摘発となります。
警察によると、今回の摘発により、神姫風俗の経営者、その時風俗店を利用していた客など、検挙者は約四百人。
これは深夜の発表時の集計で、最終的には千人を超えると見込まれています』
『最近、ネットを中心に、神姫を虐待する映像が多数出回っており、社会問題となっていました。
こうした世論の声の高まりにより、今回の一斉摘発が行われたと見られています。
神姫の虐待は、MMS保護法違反にあたり、実刑が課せられる場合もあります』
『T県の神姫風俗店『LOVEマスィーン』では、経営者を含む六名が、風俗営業法違反およびMMS保護法違反で検挙。
店で働かされていた、約20体の神姫が保護されました。
また、店に来ていた9人の客についても、MMS保護法違反の疑いで取り調べを受けています』
『今回の一斉摘発は、東京、大阪、名古屋、札幌、福岡など、大都市圏を中心に行われました。
専門家は、警察は今回の摘発によって神姫風俗の一掃を狙った、と見ています』
はじめ見ていたストレートニュースの番組が終わると、すぐにワイドショー形式のニュースを見る。
こちらも、同じニュースを大々的に報じていた。
別のチャンネルも、その次の番組も。
ニュースの内容は理解できたけど、信じられなかった。
いったい何が起こっているのだろうか。
□
いったい何が起こっているのだろうか。
「おい、遠野! 何をした? いったい何が起こってる!?」
「俺が知りたい」
大城の問いに、俺は素直に答えた。
俺が何かしたというのなら。
それは先日、日暮店長に相談したことだ。
しかしそれは五日前の話で、それがこんなに大規模な動きにつながるものなのか?
いくらなんでも早すぎる。
だが、ニュースでは、他の神姫風俗店の名前は出していないのに、『LOVEマスィーン』の名前だけはどの番組でも伝えていた。
それは、日暮店長が動いたことの証ではないのか?
「すまん、大城。用事ができた。後でかけ直す」
「な……ちょっと……!?」
大城には悪かったが、俺は一方的に電話を切った。
そして、テレビとネットから情報を集める。
概要は分かった。
約束通り、日暮店長は動いてくれた。
しかし、警察の動きは俺の想像を遙かに超えている。
神姫風俗を一掃……?
いったい、何がどう動いてこんなことになっているのか、俺には理解できない。
時計を見る。
時間は八時半。
「ティア、出かけるぞ」
「え、ど、どこへ……?」
「エルゴだ!」
俺は手早く着替えをすませ、最低限の持ち物だけ持って、ティアを胸ポケットに収めると、アパートを飛び出した。
何が起きたのか、確かめなくてはなるまい。
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ホビーショップ・エルゴまでは二時間もかかるというのに、マスターは突然家を飛び出した。
今日報じられている出来事は、エルゴと関係があるのだろうか。
マスターが何かしたのだろうか。
それにしたって、信じられない。
突然、神姫風俗がなくなってしまうなんて。
わたしがいたお店『LOVEマスィーン』のことも放送されていた。あれは、お店がなくなってしまった、ということなのだろうか。
エルゴに向かう途中の電車の中、マスターは携帯端末を使って情報をチェックしている。
携帯端末用のテレビ放送を見て、ネットの情報をチェックして……わたしが見た大型掲示板の書き込みも読んでいる。
マスターは無言だった。
携帯端末を見る表情は、真剣そのものだ。
□
俺は駅に着くと、エルゴまでの道のりを走った。
時間はすでに十時半になろうとしている。
店は開店しているはずだ。
今回の事件について、一刻も早く確認しなくてはならない。
後で思えば急ぐことでもないはずなのに、気ばかりが焦っていた。
ほどなく、エルゴに到着した。
俺は躊躇せずに、店に入る。
「……日暮店長!」
カウンターから少しはずれた位置にいる、エプロン姿の青年を見つけて、俺は思わず叫んでいた。
店長はそばにいた男性から目を離すと、
「おお、遠野くん。早かったな」
と言った。
やはり。俺の出現を予期していたということは、今回の件は俺の依頼が大本ということに他ならない。
「たっちゃん、彼が例の……情報提供者だ」
そう声をかけられた、店長の傍らにいた男性が俺を見た。
鋭い視線。厳しい表情。
スーツ姿のその男性は、全身に緊張感をまとっているように見えた。
ところが、意外にも、俺に左手をさしのべてきた。
「警視庁MMS犯罪担当三課の地走達人だ」
俺は地走刑事と握手をした。
日暮店長と同じ、固い握手だった。
「遠野貴樹です」
名乗った声は緊張に震えていた。
警視庁の刑事である。俺の今の状況を考えれば、疑り深く地走刑事を見てしまうのも仕方がないことだろう。
それを悟ったのか、地走刑事は幾分柔らかな表情になり、緊張を解いた。
「君が証拠品を提供してくれたおかげで、今回の捜査は大成功だった。礼を言うよ」
「いえ……」
刑事さんに礼を言われるのはとても面映ゆかった。
なぜなら……
「俺は……何も、していませんから……」
そう。
俺は何もしていなかった。
こんな、全国レベルの大事に関わっただなんて、どの口で言えるのか。
俺はただ、自分の神姫が大切で、守りたくて、警察にわがままな条件を願い出るようにし向けただけだった。
だが、うつむいた俺に、地走刑事は言った。
「それは違う」
「……え?」
「何もしなかっただなんて、そんなことはない。君は誰よりも大切な役割を果たしたんだ」
「やくわり……?」
「そう。
君は、覚悟をした。
神姫のために、すべてを賭ける覚悟をした。
それは誰も考えもしなかった、大切なことだ」
「そんな……」
そんなことは、ただ俺がそう思いこんだだけに過ぎないのではないか。
「なあ、遠野くん。人を動かすには、何が必要だと思う?」
日暮店長は唐突にそんな質問をしてきた。
俺が戸惑って、何も言えずにいると、彼は笑ってこう言った。
「それはな……想いだ。
想いによって人は動く。
君は、神姫のためにすべてを賭けてもいい、と言った。
俺たちはその想いを受け取った。
だから、俺たちにできることをした。
……それだけさ」
地走刑事も頷いていた。
俺は……何と言っていいかわからず、黙ってしまった。
日暮店長は軽く吐息をついた。
「まあ……これで君の依頼は成し遂げられた。
もう、君の神姫が、風俗店から追われることもない。
あの店は情報源だったから、特に厳しい検挙が行われたからな。復活することもないだろう」
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その店長さんの言葉に、わたしははっとなった。
詳しいことはよく分からなかったが、マスターが店長さんに何かお願いをして、今回の事件に至ったようだ。
全国の神姫風俗が一夜にしてなくなった。
どんなことがあったのかは、想像がつかない。
また、マスターが「自分の神姫」のために、すべてを賭ける覚悟を決めた、という。
……それはわたしのことなのだろうか?
そんな決意を本当にしたというなら、マスターの気持ちも、わたしの考えうる範囲からかけ離れていて、さっぱり現実味がなかった。
だけど、さきほどニュースで流されていたとおり、わたしがいた店『LOVEマスィーン』がなくなったことは事実みたいだった。
わたしはどうしても一つだけ、聞きたい、聞かなくてはならないことがあった。
「あ、あのっ……!」
思わず口をついた。
三人の男性が、わたしに注目する。
怖い。
でも、その恐怖以上に、聞かなくてはならないという義務感が勝った。
「あの……『LOVEマスィーン』にいた神姫のみんなは……ど、どうなるんですか……?」
かつての仲間たち。
自分の存在を番号で決められた、名もない神姫たち。
彼女たちの行く末が、わたしはどうしても心配だった。
すると、刑事さんが少し姿勢を低くして、マスターの胸ポケットを……わたしの顔をのぞき込んだ。
わたしは思わず、ポケットの縁で顔を隠してしまう。
でも、刑事さんは微笑していた。
「君がティアだね?」
「は、はい……」
「あの店にいた神姫は、いったん警察に預けられて、メモリーのバックアップを受ける。今回の事件の証拠としてね。
それから、神姫保護の活動をしているNPO法人に預けられる。
そこで、素体を換装され、メンテナンスを受け、メモリーを……記憶を消去されて、次のオーナーを捜すことになる、予定だ。
そんなに心配することはない」
「そ、それじゃあ……」
「そう。店の神姫は新しいマスターのもとで、新しい生活を送ることになる」
ああ……。
あの店で、共に苦しい日々を過ごした仲間たちは、救われた。
たとえ、過去の記憶が……仲間たちの記憶も失ってしまうとしても。
わたしと偶然出会ったときに、覚えていないのだとしても。
彼女たちは人間のパートナーとして歩み出すことができる。
神姫としての幸せを、ようやく掴むことができるんだ……。
そう思うと胸がいっぱいになった。
涙が。
もう、止められなかった。
嬉しくて。
そう、涙は嬉しくても流れるのだと。
わたしははじめて分かった。
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
マスターの胸ポケットの縁で涙を拭く。でも、止まらなくて、瞼にポケットの縁を押しつけ続けなくてはならなかった。
刑事さんは優しい声で言ってくれた。
「そのお礼は、君のマスターに言いなさい。
彼の想いが、君だけでなく、多くの神姫を救うことになった。
そんな素晴らしいマスターの神姫であることを忘れてはいけない」
わたしは頷いた。
何度も何度も頷いた。
そしてこのときわたしは覚悟を決めた。
マスターがわたしにしてくれたように。
わたしも、マスターのためにすべてを賭ける、その覚悟を。
□
「それじゃあな、夏彦。俺は仕事に戻る」
地走刑事はそう言って、俺たちに背を向けた。
だが。
「ま、待ってください!」
俺はその背中を引き留めた。
地走刑事が、出口のところで振り向いた。
「俺は……俺は罪に問われないんですか?」
「罪?」
「俺は、風俗店の神姫を無理矢理自分の神姫にしました。
ボディは違法製造のボディで、今までそれを所有していました。
それは、犯罪ではないんですか」
地走刑事は日暮店長と顔を見合わせた。
そして二人は笑い出した。
「生真面目だな、君は。
……ゴミ捨て場に捨てられていたゴミを拾って、何か罪に問われるのかね?」
俺はその答えに唖然とした。
地走刑事は頷くと、今度こそ背中を見せて、店を出ていった。
地走刑事は知っていた。俺が言ったことを、日暮店長が伝えたのだろう。
それでもなお、俺に罪を問わないと、そう言ってくれたのだ。
「……なぜ……」
見ず知らずの学生のために、なぜそこまでしてくれるというのか。
すると、日暮店長が小さなため息をついた。
「遠野くん……君は分かっちゃいねぇなぁ」
俺が振り向くと、店長は苦笑しながら俺を見ていた。
「……なにを……?」
「いいか?
すべてを賭けて神姫を守る。それは立派だ。俺も感動しちまった。
けどな、もし君に何かあったら……君が警察に連れて行かれて、神姫と離ればなれになるようなことがあったら……
それが自分を守るためだと知ったら……
君の神姫は、ティアちゃんは、笑えるか?」
「……!」
そんなことは、考えもしなかった。
俺は、ティアが安心して暮らせるようにすることだけを考えていた。
だから、俺がいなくなったりして、ティアがどう思うかなんて、思い至ることもなかった。
確かに、俺が警察に捕まったりすれば、ティアは自分のせいだと気に病むことだろう。笑顔をなくしてしまうかも知れない。
だが。
「そんなことのために……警察と連携して、全国の神姫風俗を摘発した……って言うんですか!?」
「そうさ」
日暮店長の返事に、俺は唖然とする。
「言っただろ。俺は神姫とマスターが笑い合う姿が好きなんだ。
だが、君の希望そのままだと、君とティアちゃんが一緒に笑えねぇ。
だから……俺たちがちょっと苦労して、二人で笑えるようにしてみた。
ただ、それだけのことなんだよ。
しかも、それで、たくさんの神姫が虐待から助けられるんだ。一石二鳥じゃないか。なぁ?」
日暮店長は、事も無げにそう言った。
途方もない話だった。
『LOVEマスィーン』だけを摘発したら、俺は証人として呼ばれるかも知れないし、違法ボディの所有者としてあるいは罰せられたかも知れない。
だが、神姫風俗店全部が摘発されれば、店も客もすべて警察の手中となる。
神姫風俗自体が下火となり、『LOVEマスィーン』が復活することもないだろう。
俺が提供した証拠資料は、一斉摘発後には同様の資料が大量に手にはいるのだから、些末なものになってしまう。
警察が俺に目を付ける理由がなくなるのだ。
確かに筋は通っている。
しかし、全国の神姫風俗を一斉捜査なんて、いったいどれほどの労力が費やされただろう。
想像もつかない。
それを、さも当たり前のことのように言ってみせるのだ、目の前の男性は。
久住さんは、頼りになるなんて言っていたが、そんな言葉じゃ追いつかない。
俺は感謝してもしきれなかった。
「日暮店長……ありがとうございました。
感謝してもしきれません。
地走刑事にお礼が言えなかったんで……よろしく伝えてください」
俺は日暮店長に頭を下げた。
気持ちが入ったお辞儀は、自然と深いものになった。
店長は照れくさそうに微笑んだ。
「実のところ、結構大変だったんだ。おかげでここ数日寝不足よ。恩に着てくれ」
「はい……何かお礼をさせてください。俺にできることなんて、たかが知れてますけど……」
「そうか? 頼んでもいいか、君に?」
「俺にできることなら、なんでも」
「なら、俺から一つ頼みがある。君にしかできないことだ」
「なんでしょう……?」
真顔になった日暮店長の言葉は、意外なものだった。
「菜々子ちゃんを……助けてやってくれ」
え……?
久住さんを、助ける?
「……菜々子ちゃんは……彼女も、一人で戦っている。もう、ずっと一人で」
「……それはどういう……?」
「それは彼女の口から聞いてくれ。それが筋ってもんだからな。
俺たちは、菜々子ちゃんを助けてやることができなかった。
なんとか、彼女の心を、今みたいにすることができただけだ。
あの子は、まだ何も救われていない。
ずっと一人で戦い続けてる。
だが……菜々子ちゃんが心通わせている君なら……きっと彼女も救うことができるはずだ。
だから、もしそのときが来たら、菜々子ちゃんの力になってやってくれ」
そんなことは……
「言うまでもありません。彼女は俺の恩人ですから」
俺は頷いた。
思いを寄せる女性の力になりたくない男など、この世にいるだろうか。
久住さんが戦っているというその出来事と、俺は深く関わることになる。だがそれは、もっとずっと後の、別の話のことである。
「……頼む」
日暮店長の一言が終わるのと同時、携帯電話が鳴った。俺のだ。
取り出して、液晶表示を見る。
いままさに話題にしていた人物からだった。
「久住さんからです」
日暮店長に言って、俺は通話ボタンを押した。
「もしもし、遠野です」
『あ、久住です……いま、大丈夫ですか?』
「ああ、大丈夫。なに?」
『いますぐ、ゲームセンターに来れますか?』
「……ちょっとまずいな。いま、エルゴなんだ」
『あ……いまね、ティアを助けてくれた人が来ているの。それで連絡したんだけど……』
「ここからだと、二時間ぐらいかかるけど……待っててもらえるかな」
ティアを助けてくれた人がいることは聞いていた。
ぜひともお礼は言いたいところだった。
『ちょっと待ってね』
電話のマイク部分を隠す気配。
電話の向こうで誰かと話しているようだ。
すぐに久住さんの声が返ってきた。
『大丈夫。待っててもらえるから……必ず来て』
「わかった」
『ティアを連れて、武装も持って来て』
「え?」
それは……できない相談だった。
ティアを連れ、武装を持って行ったところで、俺たちがバトルできる環境にはないはずだ。
「……そういうわけには、いかないだろう?」
『ゲーセンのことなら、大丈夫だから』
「いや、しかし……」
『お願い』
電話先の久住さんの声は、俺が息を飲んでしまうほどに、真剣そのものだった。
それで久住さんにお願いされてしまっては、断れるはずもない。
久住さんのことだ、よほどの理由があるのだろう。
「……わかったよ。武装を持って行く」
『ありがとう……ごめんね』
「君が謝ることないよ。それじゃ、あとで」
『うん、待ってる』
俺と久住さんは、同時に電話を切った。
◆
「ハイスピードバニーは来ます。必ず」
菜々子は携帯電話をしまいながら言った。
ゲームセンターの喧噪が、菜々子の耳に戻ってくる。
彼女の周りには、友人になった四人の少女たちがいる。
傍らには大城も立っている。
「それはよかった。わざわざ出向いてきた甲斐があります」
にこにこと人の良さそうな笑顔を浮かべながら言ったのは、高村優斗。
彼の向こうに、三強の姿が見える。
高村の肩にいた美貌の神姫が言う。
「それではまずは、あなたがた……『エトランゼ』とです」
菜々子の肩に座る神姫が答える。
「こちらこそ、お手並み拝見といくわ。『クイーン』雪華」
ミスティの言葉が終わった瞬間、ゲームセンターは歓声に包まれた。
武装神姫コーナーには、バトルロンドのプレイヤーたちが集まり、菜々子と高村を取り囲んでいた。
誰もがバトルせずに、二人のバトルを今や遅しと待ちかまえている。
秋葉原チャンピオン『アーンヴァル・クイーン』と、三強を凌駕する実力の『エトランゼ』の対戦。
全国大会レベルの実力者同士のカードである。
草バトルとしては贅沢すぎる組み合わせに、その場にいた神姫プレイヤーの誰もが期待に胸を膨らませていた。
□
ティアが俺を見上げて尋ねてくる。
「マスター……菜々子さんは、なんて……?」
「……おまえを助けてくれた人が来ているらしい。会いに行こう」
「はい」
俺は日暮店長に向き直ると、もう一度礼を言った。
「今日は、ありがとうございました。
ちょっと用ができたので……またお伺いします」
「おう」
「……次は、お客として」
「頼むぜ?」
俺と店長は目を合わせ、そして互いに笑った。
久しぶりに、心から笑えた気がした。
「菜々子ちゃんによろしくな」
「はい!」
俺は身を翻し、エルゴを後にする。
今日は土曜日。
バトル目当てのお客さんたちが、俺と入れ違いに、店内に消えてゆく。
急いで戻らねばならない。
俺は駅までの道のりを駆け出した。
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