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Memories of Not Forgetting 第二話・1
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優花は床にのの字を書いていた。
ナットハンガー店舗最奥には事務所が存在するのだが、優花がうずくまっているのは、その床である。
室内奥には作業用のデスクと資料棚、中央に正方形のテーブルが存在し、それ以外には何もない。にもかかわらず、やや手狭な印象を受けるのは、事務所内が実際、さほど広いとは言えないからだろう。
デスクにはデスクトップ型のパソコンが設置されており、そこからUSBケーブルが伸びている。それがクレイドルに接続され、その上には、《フォートブラッグ》タイプの神姫が、ちょこん、と正座していた。
デスクにつき、神妙な顔をしてモニターを見つめるのは、ナットハンガー店主、ルーシィ・ケインである。
モニター上には一見すると意味不明な文字の羅列が表示されていたが、知識のある者が見れば、それが神姫のAIプログラムであることが分かる。
ルーシィが数度、キーボードを操作する。プログラムチェックを開始する旨を伝える文章が表示され、数分後、結果が表示される。
エラーなし。
「やっぱり……プログラム上は問題ないわ。つまり、貴女は正常、ということ」
ため息をつきながら、ルーシィが応えた。目を閉じ、目がしらを揉む。うっすらと浮かんだクマが、彼女の疲労を表していた。
「……そう、ですか。となると、原因は何なのでしょうか」
《フォートブラッグ》――エフラファが尋ねる。
「申し訳ないけど……原因は不明。私にはお手上げだわ。信じられない……《フォートブラッグ》が銃を撃てないなんて」
ルーシィ、再びため息。エフラファが居心地悪そうに視線をさまよわせると、はふん、と意味不明なうめき声をあげる優花の姿が見えた。
「おはよう、エフラファ」
その言葉に反応するように、エフラファは優花をみつめた。
「エフラファ、と言うのが私の名前ですか?」
小首をかしげるエフラファ。優花は、その仕草がツボにはまったらしく、あーくそかわいいなこいつー、などと思いながら、
「そう! エフラファ、私は桐山優花。あなたのマスター! わかる?」
「はい。よろしくお願いします、マスター」
恭しく言うエフラファに、優花は苦笑いを浮かべて、
「なんか堅苦しいなぁ。もうちょっと柔らかく喋っても……それに、マスター、って言うのもなんか嫌だな。優花、でいいよ」
「よろしいのですか? 失礼ではないかと思うのですが」
訝しげにいうエフラファに、優花はにっこりと笑顔を浮かべる。
「いーのいーの。あたしが言ってるんだから、遠慮しないの」
「では。改めてよろしくお願いします、優花」
「まだなんか硬いなぁ……ま、おいおい慣れて行けばいいよね」
言いながら、ブリスターから、《フォートブラッグ》用の武装パーツを取り出す。それらを1つづつ、エフラファの前に、丁寧に並べて行く。エフラファは興味深そうに、各パーツを眺めていた。
「わかる? あなたの武装ね」
エフラファが、こくこくと頷く。
「じゃ、早速で悪いけど……つけてみてもらっていいかな?」
「ええ、了解です、優花」
目を輝かせながら尋ねる優花。エフラファは微笑むと、自身のパーツに手を伸ばした。
数分後には、砂色のアーマーに身を包み、バックパックとキャノンを装備した《フォートブラッグ》の姿があった。
いつか見た、あの砲手そのままの姿に、優花は満足げに頷いた。
「うん、うん、やっぱカッコいいよねー! 最高っ」
優花の言葉に、エフラファはほんのり頬を染める。どうやら、そう言った機能もあるらしい。なかなか凝ってるなぁ、と優花は思った。
「あ、有難う御座います」
うつむいたまま、エフラファが言う。
――うわぁ、やっぱ可愛いなこいつ。
優花がエフラファを抱きしめんとする衝動と闘っていると、おずおずと、エフラファが口を開いた。
「優花、その……試射を行ってもよろしいでしょうか? 武装に欠陥がないか、確認しておきたいのです」
「え? あ、うん。いいよ、オッケー」
虚を突かれた優花があわてて返事をする。部屋を見渡して、机の上から大きめの消しゴムを一つ手にとり、机の端に置いた。
「じゃ、これ、的にしてみる?」
「はい、ありがとうございます」
礼を言うと、エフラファは自身の武装の中からアサルトライフルを選び、手にとった。マガジンに銃弾が込められていることを確認すると、それを銃に装填する。
彼女はヘルメットのゴーグルを下げた。銃床を左肩にあて、構える。左指をトリガにかけ、狙いを定めているように見えた。
優花の胸は期待感に満ち満ちていた。脳裏に、一年前、ナットハンガーで見た、あの砲手の姿が想起された。
確かに、あの砲手は敗北した。見物客の人気も、あの《天使型》に集中していた。
華麗に空を舞う天使。泥臭く地べたを這う砲手。あの天使がもてはやされるのも、当然の事であったのかもしれない。
――だが、それがなんだというのだ。
あの天使にはない美しさを、魅力を、砲手は持っているのだ。
其れは、天使の持つ華麗さとは、全くもって無縁の美しさであった。圧倒的に不利な状態から、それでも生残の意志を捨てず、自身の取りうる最善手を選び、果敢に戦った砲手。それは、実にリアルな美しさであり、生の美しさであったのだ、と、優花は強く思う。
あの場にいた誰にも、理解されなかったのかもしれないけれど。それでも、あの砲手の持っていた輝きが、優花の心に焼き付いて、離れない。
ふと、現実に引き戻された。
おかしい、と優花は思った。
優花が思考にのまれていたのはものの数十秒であった。が、それにしても、その間、銃声が全く聞こえなかったというのは……標的をとらえるのに時間がかかり過ぎではないのか?
「……エフラファ?」
優花が、エフラファに声をかける。
ゴーグルを下ろしているため、その表情はうかがえない。
しかし引き金に手をかけてから微動だにしない事、また、こちらからの呼びかけにも一切反応しないことから、何らかのトラブルが発生していることは明白だった。
「エフラファ! 大丈夫!? エフラファ!?」
思わず、机に身を乗り出す優花。その衝撃が引き金となったのだろうか、エフラファの体はぐらりと揺れると、その勢いのままに倒れ伏した。
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