「第六話:逆襲姫」(2009/03/16 (月) 19:13:41) の最新版変更点
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*第六話:逆襲姫
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早速、勝負と行きたいが、その前に俺はバトルブースに行く前に戦いにおいて得られたアチーブメントをアクセスコード転送施設で手に入れておく事にした。
装備が多い方が戦術を立てやすいし、単純な戦力強化になる。
それで俺はのぼりと狐の仮面を入手した。のぼりは防御力の低下と引き換えに攻撃力の大幅な強化をし、仮面は外部センサーが内蔵されており、それによって神姫の反応速度を高めてくれる効果があるらしい。
俺は両方とも蒼貴に装備させ、武装に苦無を追加した。
のぼりの方も手裏剣以上に足手まといで目立つ装備だが、これはあることに使えるため、敢えて装備しておく。
どんな道具にも使い道はあるものだ。
そして俺と蒼貴は戦場に立ち、前オーナーを睨む。
「遅かったな。逃げたのかと思ったぜ」
「慌てんなよ。お前を徹底的に潰す戦略を練るのに少々時間がかかっただけさ」
「減らず口が! やるぞ! アミー!! 無敗のお前ならあんな××××なんざ倒せるはずだ!!」
「了解です! 隊長!!」
前オーナーは俺の言葉にまだご立腹のようですぐに装備を選択し、準備を済ませた。
――気の早い奴だ……。
俺は密かにほくそ笑む。何秒もせず装備を決定したという事はすぐに準備完了のコマンドを入力した事になる。それはつまり、確実に武装セット1で攻めようとしている事を意味しているに等しい。そうなったら俺はゆっくり戦術、対策を決める事が出来る。
時間は二分少々あるんでね。
こちらはCランクでレベルはまだ低い。そしてあちらはBランクでかなりのレベルの敵だ。三十以上の差はある。性能においてはあちらの方が上だ。
武装セット1を表示してみる。敵の装備は非常に装甲が厚く、高い火力をもった代物になっている。
蒼貴の情報に食い違いがあるのを見ると捨ててから新たに装備を一新したものと思われるが、思想はまるで変わっておらず、動きは鈍重であり、機動力、回避力が非常に低い。
これならば真那の時にやった装甲切断も彼女の時以上に容易に出来るだろう。
バトルモードというらしい強力な可変システムも積んでいるようだが、そんな物になる前にケリをつければどうという事はない。
「さて、蒼貴……」
「はい」
「ただ、倒すだけでは意味が無い。全武装を破壊もしくは排除した上で倒せ。奴にお前を捨てた事を後悔させるくらい力を見せつける必要があるからな」
「了解しました」
最大の目的を伝えると俺も準備完了のコマンドを入力する。
その瞬間、蒼貴とアミーが戦闘フィールドに転送される。今回のフィールドは砂漠だ。本来は耐熱ダメージも存在するのだが、夕方になっているため、温度が下がってダメージが無いものの、足場が依然として砂のせいで悪くなっており、安定した場所は所々に点在する何かの遺跡か廃墟だけである。
十中八九、敵はそこを陣取るだろう。そうしなくては安定した砲撃は不可能だ。逆に一度、砂漠に引きずり込む事が出来れば、自分の重装備によって自由が利かなくなり、一方的な状況を作り出す事が出来る。
さらに遮蔽物として廃墟の壁があり、色々と出来そうなフィールドだった。
――腕の見せ所だな。
俺は早速戦術を巡らせる。今回必要なのは如何にして敵の攻撃を全て回避し、懐に入り込むかだ。接近戦になればまず間違いなく、相手には対応策が無い。
「蒼貴。今から言う事を実行したら相手に気づかれない様に接近して近接戦に持ち込め」
『何でしょうか?』
「……だ。いいな?」
『わかりました』
蒼貴に戦術を仕込むと『Ready』の文字が浮かび上がり、数秒すると……
『Fight!!』
戦闘の始まりが告げられた。蒼貴とアミー、それぞれが動き出す。
まず動いたのは蒼貴だ、彼女はいきなり手裏剣をアミーに投げつけた。その投げ方は手元に戻らない事を前提とした全力の投げであり、非常に威力の高いその攻撃はアミーの重装甲に深々と突き刺さった。
「いやあっ!!」
アミーは悲鳴をあげ、蒼貴はその間に廃墟の壁の方へと隠れようと移動を開始した。
しかし、アミーはそれを許さなかった。彼女は手裏剣が身体に突き刺さっているにも関わらず、滑腔砲を構え、それを蒼貴に向かって放つ。しかし、その攻撃は多少の追尾性はあっても弾速が遅く、手裏剣というデッドウェイトを捨てた蒼貴には当たらなかった。
攻撃を逃れた蒼貴は最初にやろうとした通り、建物に隠れた。
「くっ……どこに……。いや……馬鹿? あいつ……」
アミーはロストしたと思ったが、よく見るとのぼりが丸見えで全然、身を隠せていなかった。頭隠して尻隠さずとはこの事だった。
「丸見えだ!!」
アミーは滑腔砲をのぼりの見える場所に放った。
「きゃぁ!!」
蒼貴は悲鳴を上げ、遮蔽物から覗くのぼりがその場から動かない。このままでは一方的にやられるだけである。
アミーは、これはしめたと思ったのか、滑腔砲やアサルトライフルを一斉射撃する。建物にどんどん穴が空けていき、防御できるだけの遮蔽物が失われていく。
「ううぅっ……嫌ぁ!」
そうなる前に逃げるはずなのだが、のぼりは一向に動こうとする気配を見せない。蒼貴の方はただ、恐怖し、悲鳴を上げる弱腰な反応を見せている。攻撃を加える度に悲鳴が大きく響き、もはや一方的な蹂躙と化していた。
アミーはこれほど一方的な展開に呆れを見せ始めている。テンションゲージも低下を始めていた。それもそうだ。大口を叩いておきながらこのザマなのだ。無理も無い。
「すぐに終わりにする。せめてもの情けだ」
彼女はため息をつくと滑腔砲を構え、じっくりと照準を合わせ、それを撃ち出した。滑腔砲の弾は真っ直ぐのぼりの方へ突っ込み、爆発して遮蔽物である廃墟が……崩れた。
「あっけねぇな。××××はよ。え? 大口叩きさんよ?」
「いいや? そうでもないさ。……蒼貴!」
俺が叫んだ瞬間、なんと丁度、アミーの背後にあった遮蔽物から蒼貴が飛び出してきた。アミーはのぼりに夢中で完全にこちらの真の狙いに気づかず、完全な不意打ちを喰らう形となった。
「な!?」
ようやく背後の存在に気がついたアミーは突然の奇襲に驚愕する。
全てはこのための布石だった。わざと目立つのぼりを装備し、それを遮蔽物にこれ見よがしに置いておく事であたかも蒼貴はそこにいるかの様に見えてしまう。そして、恐怖の混ざった悲鳴を上げさせる事で攻撃に反応がある事を植えつけておけば、もはや崩れていく遮蔽物の向こうに蒼貴がいるとしか思えなくなる。
そして反撃もせず、ただ、怯える事で相手を失望させ、テンションゲージ上昇を抑えられる。こうすれば奇襲時に突然、変形される事もない。現にテンションゲージは四分の一にも満たない所で上がり下がりをしている。
無論、悲鳴は演技であり、蒼貴は囮であるのぼりが一方的に射撃される中、廃墟の中に姿を隠してアミーの背後に慎重に回りこんでいたのだ。彼女はそのための全ての行動を一瞬たりとも恐怖せず、冷静にやってくれた。
演技で引っかかるかもしれないと思っていたが上手くいってよかったぜ。
迫真の演技だったぞ。蒼貴。
「反撃開始です」
蒼貴は腰鎧に仕込んだ苦無を取り出し、それを三本、アミーに投げつける。それは一直線に飛んでいき、装甲の隙間に入り込んで素体に突き刺さった。
「ああっ!! ……この!!」
アミーは近接戦用のハンドガンを取り出そうとホルダーに手を伸ばそうとした……しかし、関節が動かなかった。
「何故!? ……はっ!!?」
そう。素体に突き刺さった箇所は肘関節だ。突き刺さった苦無がそこに食い込み、動きを阻害しているのだ。それによってアミーの手にハンドガンは届くことは無く、蒼貴の一方的な攻撃が始まった。
まず、蒼貴は鎌を滑腔砲の発射機構に突き刺した。主装備であるそれは発射機構が破壊され、使用不能となる。
続けて彼女は懐に入り込み、アミーが取り出そうとしていたハンドガンを盗み出し、それで適当な場所を撃って彼女を肉薄する。
「調子に乗るな!!」
アミーは関節を無理矢理曲げる事で苦無の束縛を逃れ、アサルトライフルを取り出して反撃した。しかし、蒼貴はそれを回り込む事で回避していく。
完全な重武装であるアミーはある程度の装甲しかないルナよりもはるかに旋回性が無い。高機動型であり、至近距離にいる蒼貴にとってはアミーの攻撃など回り込むだけで容易に回避が出来る。
「アサルトライフルを手放させたらアーマーを削っていけ」
『了解』
短い通信を終えると蒼貴は鎌を投げつける。それは円を描いて回転し、アサルトライフルを弾き飛ばした。
武装を解除させられたアミーはそれを見ると装甲でものを言わせたタックルを仕掛ける。
蒼貴は素早く右へ移動する事でその攻撃を回避し、ハンドガンでアーマーの隙間を狙い撃ちながら、ブーメランの様に戻ってくる鎌をキャッチする。そしてそのまま、それで背後からプロテクターを斬りつけ、それを剥がした。
さらに後ろに回りこんでもう一枚剥がしてアミーの装甲を削り、弱体化させていく。少し経つと彼女はほとんどの無い状態となり、防御力が大幅に低下した。
「敗北を認めてください」
「くっ……誰が!!」
蒼貴の降伏勧告を受け入れないアミーはなんとバックパックのレッグを展開した。普通ならありえない事だが、追い詰められた事でテンションゲージが急上昇したようだ。だが、すでに滑腔砲を破壊したため、絶対命中と謳われる砲撃は不可能だ。何をする気だ……。
「てぇい!!」
なんと展開したレッグをサブアームとして使い、打撃を仕掛けてきた。その出力は砲撃を支えるだけあって強力であり、その攻撃は重量の軽い蒼貴をいとも簡単に吹き飛ばした。
「ぐっ……」
「蒼貴!」
俺は急いで蒼貴のパラメータを確認する。彼女の装甲は薄いため、今の一撃は大きなダメージになっていた。動くのには支障はないが、かなりの痛手になっている。
吹き飛ばされた蒼貴は鎌を手放してしまった上にダウン状態で動けなくなっている。このままでは……。
「これでとどめだ! 隊長の怨念! ××××!!」
「私は……」
その時、過去の名を聞いた時、蒼貴は動き始める。
「オオオォォッ!!」
「私の名は……!」
蒼貴は間一髪の所でダウンから立ち直ると丁度、手元に落ちていたアミーのアサルトライフルを握り締め、身体を転がす事でアミーの強力な一撃を回避し、そのまま奪った武器であるアサルトライフルとハンドガンを持ち主である彼女に向けて一斉射撃を仕掛けた。アサルトライフルは素早い連射で、ハンドガンは的確な射撃で素体にダメージを与え、アミーの攻撃と動きを封じた。
「くっ……」
そして蒼貴は素早く立ち上がり、アサルトライフルを遠くへ投げ捨て、まだ持っていたハンドガンを腰鎧の裏にしまい、バックパックに突き刺さっていた手裏剣を抜き取り、それを両手で握って右アームの間接部分を殴りつける様に斬りつけ、そのまま突き刺す事で右アームを破壊した。
「××××なんかじゃない!」
さらに蒼貴は壊れた事によって移動しても安全になったアミーの右側に回りこむと放り出してしまった鎌を拾い上げ、それを左アームの駆動部分に突き刺し、それも破壊する。
「私の本当の名は……オーナーから授かった大切な名は……」
そして鎌を突き刺したままにしておき、ハンドガンを取り出すと足に連射する事で移動を封じ、アミーを跪かせる。これでもはやアミーに攻撃手段は残されてはおらず、反撃のしようが無い。
「蒼貴だ!!」
そしてハンドガンを捨て。腰に仕込まれた最後の苦無を両手に持ってそれを首にある……人間で言う所の頚椎に全力で突き刺した。
その一撃によってアミーは体力を失い、大きい音を立てて砂漠に倒れた。
『WINNER』
その表示が俺の前に出された。
「ヒヤヒヤさせやがって……」
間一髪だった。あの時、瞬間的にダウンから復帰できなければ頭部を叩き潰されて負ける所だった。
油断をしていた訳じゃないが、相手も奇想天外な攻撃を仕掛けてくるのを予想していなかった。俺もまだまだ判断が甘いと反省しなくてはならないだろう。
しかし、蒼貴は前のマスターとの決別をし、それを乗り越えて見せた。今回はこれだけでも大収穫だった。
こいつは間違いなく、蒼貴の完全勝利だった。
[[戻る>第五話:反省姫]]
*第六話:逆襲姫
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早速、勝負と行きたいが、その前に俺はバトルブースに行く前に戦いにおいて得られたアチーブメントをアクセスコード転送施設で手に入れておく事にした。
装備が多い方が戦術を立てやすいし、単純な戦力強化になる。
それで俺はのぼりと狐の仮面を入手した。のぼりは防御力の低下と引き換えに攻撃力の大幅な強化をし、仮面は外部センサーが内蔵されており、それによって神姫の反応速度を高めてくれる効果があるらしい。
俺は両方とも蒼貴に装備させ、武装に苦無を追加した。
のぼりの方も手裏剣以上に足手まといで目立つ装備だが、これはあることに使えるため、敢えて装備しておく。
どんな道具にも使い道はあるものだ。
そして俺と蒼貴は戦場に立ち、前オーナーを睨む。
「遅かったな。逃げたのかと思ったぜ」
「慌てんなよ。お前を徹底的に潰す戦略を練るのに少々時間がかかっただけさ」
「減らず口が! やるぞ! アミー!! 無敗のお前ならあんな××××なんざ倒せるはずだ!!」
「了解です! 隊長!!」
前オーナーは俺の言葉にまだご立腹のようですぐに装備を選択し、準備を済ませた。
――気の早い奴だ……。
俺は密かにほくそ笑む。何秒もせず装備を決定したという事はすぐに準備完了のコマンドを入力した事になる。それはつまり、確実に武装セット1で攻めようとしている事を意味しているに等しい。そうなったら俺はゆっくり戦術、対策を決める事が出来る。
時間は二分少々あるんでね。
こちらはCランクでレベルはまだ低い。そしてあちらはBランクでかなりのレベルの敵だ。三十以上の差はある。性能においてはあちらの方が上だ。
武装セット1を表示してみる。敵の装備は非常に装甲が厚く、高い火力をもった代物になっている。
蒼貴の情報に食い違いがあるのを見ると捨ててから新たに装備を一新したものと思われるが、思想はまるで変わっておらず、動きは鈍重であり、機動力、回避力が非常に低い。
これならば真那の時にやった装甲切断も彼女の時以上に容易に出来るだろう。
バトルモードというらしい強力な可変システムも積んでいるようだが、そんな物になる前にケリをつければどうという事はない。
「さて、蒼貴……」
「はい」
「ただ、倒すだけでは意味が無い。全武装を破壊もしくは排除した上で倒せ。奴にお前を捨てた事を後悔させるくらい力を見せつける必要があるからな」
「了解しました」
最大の目的を伝えると俺も準備完了のコマンドを入力する。
その瞬間、蒼貴とアミーが戦闘フィールドに転送される。今回のフィールドは砂漠だ。本来は耐熱ダメージも存在するのだが、夕方になっているため、温度が下がってダメージが無いものの、足場が依然として砂のせいで悪くなっており、安定した場所は所々に点在する何かの遺跡か廃墟だけである。
十中八九、敵はそこを陣取るだろう。そうしなくては安定した砲撃は不可能だ。逆に一度、砂漠に引きずり込む事が出来れば、自分の重装備によって自由が利かなくなり、一方的な状況を作り出す事が出来る。
さらに遮蔽物として廃墟の壁があり、色々と出来そうなフィールドだった。
――腕の見せ所だな。
俺は早速戦術を巡らせる。今回必要なのは如何にして敵の攻撃を全て回避し、懐に入り込むかだ。接近戦になればまず間違いなく、相手には対応策が無い。
「蒼貴。今から言う事を実行したら相手に気づかれない様に接近して近接戦に持ち込め」
『何でしょうか?』
「……だ。いいな?」
『わかりました』
蒼貴に戦術を仕込むと『Ready』の文字が浮かび上がり、数秒すると……
『Fight!!』
戦闘の始まりが告げられた。蒼貴とアミー、それぞれが動き出す。
まず動いたのは蒼貴だ、彼女はいきなり手裏剣をアミーに投げつけた。その投げ方は手元に戻らない事を前提とした全力の投げであり、非常に威力の高いその攻撃はアミーの重装甲に深々と突き刺さった。
「いやあっ!!」
アミーは悲鳴をあげ、蒼貴はその間に廃墟の壁の方へと隠れようと移動を開始した。
しかし、アミーはそれを許さなかった。彼女は手裏剣が身体に突き刺さっているにも関わらず、滑腔砲を構え、それを蒼貴に向かって放つ。しかし、その攻撃は多少の追尾性はあっても弾速が遅く、手裏剣というデッドウェイトを捨てた蒼貴には当たらなかった。
攻撃を逃れた蒼貴は最初にやろうとした通り、建物に隠れた。
「くっ……どこに……。いや……馬鹿? あいつ……」
アミーはロストしたと思ったが、よく見るとのぼりが丸見えで全然、身を隠せていなかった。頭隠して尻隠さずとはこの事だった。
「丸見えだ!!」
アミーは滑腔砲をのぼりの見える場所に放った。
「きゃぁ!!」
蒼貴は悲鳴を上げ、遮蔽物から覗くのぼりがその場から動かない。このままでは一方的にやられるだけである。
アミーは、これはしめたと思ったのか、滑腔砲やアサルトライフルを一斉射撃する。建物にどんどん穴が空けていき、防御できるだけの遮蔽物が失われていく。
「ううぅっ……嫌ぁ!」
そうなる前に逃げるはずなのだが、のぼりは一向に動こうとする気配を見せない。蒼貴の方はただ、恐怖し、悲鳴を上げる弱腰な反応を見せている。攻撃を加える度に悲鳴が大きく響き、もはや一方的な蹂躙と化していた。
アミーはこれほど一方的な展開に呆れを見せ始めている。テンションゲージも低下を始めていた。それもそうだ。大口を叩いておきながらこのザマなのだ。無理も無い。
「すぐに終わりにする。せめてもの情けだ」
彼女はため息をつくと滑腔砲を構え、じっくりと照準を合わせ、それを撃ち出した。滑腔砲の弾は真っ直ぐのぼりの方へ突っ込み、爆発して遮蔽物である廃墟が……崩れた。
「あっけねぇな。××××はよ。え? 大口叩きさんよ?」
「いいや? そうでもないさ。……蒼貴!」
俺が叫んだ瞬間、なんと丁度、アミーの背後にあった遮蔽物から蒼貴が飛び出してきた。アミーはのぼりに夢中で完全にこちらの真の狙いに気づかず、完全な不意打ちを喰らう形となった。
「な!?」
ようやく背後の存在に気がついたアミーは突然の奇襲に驚愕する。
全てはこのための布石だった。わざと目立つのぼりを装備し、それを遮蔽物にこれ見よがしに置いておく事であたかも蒼貴はそこにいるかの様に見えてしまう。そして、恐怖の混ざった悲鳴を上げさせる事で攻撃に反応がある事を植えつけておけば、もはや崩れていく遮蔽物の向こうに蒼貴がいるとしか思えなくなる。
そして反撃もせず、ただ、怯える事で相手を失望させ、テンションゲージ上昇を抑えられる。こうすれば奇襲時に突然、変形される事もない。現にテンションゲージは四分の一にも満たない所で上がり下がりをしている。
無論、悲鳴は演技であり、蒼貴は囮であるのぼりが一方的に射撃される中、廃墟の中に姿を隠してアミーの背後に慎重に回りこんでいたのだ。彼女はそのための全ての行動を一瞬たりとも恐怖せず、冷静にやってくれた。
演技で引っかかるかもしれないと思っていたが上手くいってよかったぜ。
迫真の演技だったぞ。蒼貴。
「反撃開始です」
蒼貴は腰鎧に仕込んだ苦無を取り出し、それを三本、アミーに投げつける。それは一直線に飛んでいき、装甲の隙間に入り込んで素体に突き刺さった。
「ああっ!! ……この!!」
アミーは近接戦用のハンドガンを取り出そうとホルダーに手を伸ばそうとした……しかし、関節が動かなかった。
「何故!? ……はっ!!?」
そう。素体に突き刺さった箇所は肘関節だ。突き刺さった苦無がそこに食い込み、動きを阻害しているのだ。それによってアミーの手にハンドガンは届くことは無く、蒼貴の一方的な攻撃が始まった。
まず、蒼貴は鎌を滑腔砲の発射機構に突き刺した。主装備であるそれは発射機構が破壊され、使用不能となる。
続けて彼女は懐に入り込み、アミーが取り出そうとしていたハンドガンを盗み出し、それで適当な場所を撃って彼女を肉薄する。
「調子に乗るな!!」
アミーは関節を無理矢理曲げる事で苦無の束縛を逃れ、アサルトライフルを取り出して反撃した。しかし、蒼貴はそれを回り込む事で回避していく。
完全な重武装であるアミーはある程度の装甲しかないルナよりもはるかに旋回性が無い。高機動型であり、至近距離にいる蒼貴にとってはアミーの攻撃など回り込むだけで容易に回避が出来る。
「アサルトライフルを手放させたらアーマーを削っていけ」
『了解』
短い通信を終えると蒼貴は鎌を投げつける。それは円を描いて回転し、アサルトライフルを弾き飛ばした。
武装を解除させられたアミーはそれを見ると装甲でものを言わせたタックルを仕掛ける。
蒼貴は素早く右へ移動する事でその攻撃を回避し、ハンドガンでアーマーの隙間を狙い撃ちながら、ブーメランの様に戻ってくる鎌をキャッチする。そしてそのまま、それで背後からプロテクターを斬りつけ、それを剥がした。
さらに後ろに回りこんでもう一枚剥がしてアミーの装甲を削り、弱体化させていく。少し経つと彼女はほとんどの無い状態となり、防御力が大幅に低下した。
「敗北を認めてください」
「くっ……誰が!!」
蒼貴の降伏勧告を受け入れないアミーはなんとバックパックのレッグを展開した。普通ならありえない事だが、追い詰められた事でテンションゲージが急上昇したようだ。だが、すでに滑腔砲を破壊したため、絶対命中と謳われる砲撃は不可能だ。何をする気だ……。
「てぇい!!」
なんと展開したレッグをサブアームとして使い、打撃を仕掛けてきた。その出力は砲撃を支えるだけあって強力であり、その攻撃は重量の軽い蒼貴をいとも簡単に吹き飛ばした。
「ぐっ……」
「蒼貴!」
俺は急いで蒼貴のパラメータを確認する。彼女の装甲は薄いため、今の一撃は大きなダメージになっていた。動くのには支障はないが、かなりの痛手になっている。
吹き飛ばされた蒼貴は鎌を手放してしまった上にダウン状態で動けなくなっている。このままでは……。
「これでとどめだ! 隊長の怨念! ××××!!」
「私は……」
その時、過去の名を聞いた時、蒼貴は動き始める。
「オオオォォッ!!」
「私の名は……!」
蒼貴は間一髪の所でダウンから立ち直ると丁度、手元に落ちていたアミーのアサルトライフルを握り締め、身体を転がす事でアミーの強力な一撃を回避し、そのまま奪った武器であるアサルトライフルとハンドガンを持ち主である彼女に向けて一斉射撃を仕掛けた。アサルトライフルは素早い連射で、ハンドガンは的確な射撃で素体にダメージを与え、アミーの攻撃と動きを封じた。
「くっ……」
そして蒼貴は素早く立ち上がり、アサルトライフルを遠くへ投げ捨て、まだ持っていたハンドガンを腰鎧の裏にしまい、バックパックに突き刺さっていた手裏剣を抜き取り、それを両手で握って右アームの間接部分を殴りつける様に斬りつけ、そのまま突き刺す事で右アームを破壊した。
「××××なんかじゃない!」
さらに蒼貴は壊れた事によって移動しても安全になったアミーの右側に回りこむと放り出してしまった鎌を拾い上げ、それを左アームの駆動部分に突き刺し、それも破壊する。
「私の本当の名は……オーナーから授かった大切な名は……」
そして鎌を突き刺したままにしておき、ハンドガンを取り出すと足に連射する事で移動を封じ、アミーを跪かせる。これでもはやアミーに攻撃手段は残されてはおらず、反撃のしようが無い。
「蒼貴だ!!」
そしてハンドガンを捨て。腰に仕込まれた最後の苦無を両手に持ってそれを首にある……人間で言う所の頚椎に全力で突き刺した。
その一撃によってアミーは体力を失い、大きい音を立てて砂漠に倒れた。
『WINNER』
その表示が俺の前に出された。
「ヒヤヒヤさせやがって……」
間一髪だった。あの時、瞬間的にダウンから復帰できなければ頭部を叩き潰されて負ける所だった。
油断をしていた訳じゃないが、相手も奇想天外な攻撃を仕掛けてくるのを予想していなかった。俺もまだまだ判断が甘いと反省しなくてはならないだろう。
しかし、蒼貴は前のマスターとの決別をし、それを乗り越えて見せた。今回はこれだけでも大収穫だった。
こいつは間違いなく、蒼貴の完全勝利だった。
[[戻る>第五話:反省姫]] [[進む>第七話:決別姫]]
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