「第二話:金無姫」(2009/03/10 (火) 19:17:17) の最新版変更点
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第二章:金無姫
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さて、とりあえずやる事には決めたのだが、致命的な事を一つ上げておかなければならない。それは何か?
俺の素人加減? 蒼貴のネガティブさ? ……いいえ。神姫に回す金が無い事です。
体面上発生する問題でこっそり出せる金があまりにも少ない。表向きの事もこなすためには相応の金が必要だ。バイトは多少やっている程度の俺には無駄に金のかかる神姫で正直、金を多量に回したくないのが本音だ。
それに装備品などを増やしたとして家族にバレない為の隠し場所が限られているため、保管もままならないのが現状だ。
で、それで何が無いのかというと、まずMMS・NAKEDがない。詰まる所、練習台が存在しないって事だ。普通ならそれでやるのがセオリーなのだろうが無いものは仕方が無い。
「これじゃぁ、練習できねぇよ」と思われがちである。確かにMMS・NAKEDは優秀だ。あればそれでやるのが手っ取り早いだろう。
しかし、俺はやっぱり堂々と金を出せない状況にある。という訳でここは一つ、アイデアを捻りだす事とする。
「まず、第一に回避の練習だ。それができなければお前は死ぬ」
「……いきなりヘビーな言葉を言うのですね」
「前の野郎ではダメダメだったんだ。今から急激に成長するためにはそれぐらいが丁度、いいんだよ」
いきなり俺は脅迫をする。はっきり言って、同情して甘ったれた言葉を並べても腕が上がるとは思えん。つー訳で俺はスパルタで行く。
マジで死ぬ気にならないとこいつは勝てない気がするのでね。
「わかりました。……しかし、MMS・NAKEDの代わりに何をする気ですか?」
「確かにそれは無い。……がその代わりになれる奴が目の前にいる」
「え?」
「俺がお前の相手をしてやるんだよ」
蒼貴は俺の言葉に訳がわからないという顔をする。俺はそれを見てニヤリと笑うと引き出しを開けてある物を取り出す。それは……。
「……それって電動ガンじゃないですか!?」
「ああ」
そう。俺が取り出したのはBB弾を発射する電動ガンである。これを蒼貴に撃つ事で彼女にそれを回避してもらおうって寸法だ。弾速が早すぎるんじゃないかって文句もありそうだが、その辺は電動ガンの調整次第でどうとでもなる。
「こ、怖いですよ……」
「安心しろ。出力を抑えて速度を落としたものでやるからな。さて、防具を付けようか。お前のクレイドルを探してた時に拾ったもんだがね」
「……わかりました」
蒼貴は俺の言葉に返事をして、防具を装備する。それを見た俺はBB弾を電動ガンに装填するとノートパソコンなどを片付けてデスクの上を綺麗にして、そこに蒼貴を立たせる。
ルールは簡単だ。制限時間一分の間に電動ガンの弾を回避し続ける事。ただそれだけだ。
「よし。始めるぞ」
「い……いつでもどうぞ」
「じゃ、遠慮なく」
俺は蒼貴に電動ガンを放つ。狙うは胸鎧の紋様の真ん中だ。彼女は避けようとしたが、ただ直線的に避けようとしたため、簡単に狙い通りの場所に命中してしまった。
しばらく連射を続けるが、動きが単調すぎて面白い様に命中してしまう。蒼貴はあまりにも回避が下手すぎた。センスはあるはずなのにこれはどういう事なのだろうか。
それを考えながら撃つ事一分後、制限時間が経過したため、俺は射撃をやめた。
結果は散々だった。回避どころか逸らす事もできず、俺の狙う箇所に全て当たってしまっている。これでは勝利には程遠い気がしてならない。
蒼貴を見てみる。彼女は俺が鎧ばかり狙ったため、怪我らしいものは本体には見当たらないが、被弾のしすぎでかなり疲弊している状態にあった。
「申し訳ございません……」
「気にすんな。最初から成功を求めちゃいねぇよ。いきなり成功したり、勝ったりするのは宇宙人だけだ」
「う、宇宙人ってそんな強い人ばかりなんですか?」
俺の例え話を鵜呑みにした蒼貴は宇宙人の存在を信じた上で質問してきた。おいおい。冗談や例えも通じないのか、この嬢ちゃん。
「まぁな。ま、俺達は宇宙人じゃない。だから今から地道にやってようやく勝つのが関の山ってとこだ。さて、問題。何で俺の狙い通りに全部、命中してしまったんだ?」
「私がダメだから……」
「そうじゃない。そのダメな理由についてだ。それがわかれば直せるんだよ。……そういや、お前の前の主人はどういう装備をお前に着せていたん?」
「それは……」
俺は蒼貴を休ませ、その間に彼女の情報の下、ネットで武装について調査をする。
そして……呆れた。
前の主人がコンセプトとしているのは火力戦だったという事にだ。なんと武装は重装甲、重火力の装備で埋め尽くされているのだ。
何をどうすればこんな事になるのが理解に苦しんだ。
――バカだ! バカすぎる!! 性能=強さとか勘違いしている痛い奴じゃねぇか!! オマケに欠点を補って万能にしちまおうとしている辺りが訳わかんねぇ!!
確かに忍者タイプの命中センスが発揮されるが、回避が殺されている。もしかすると回避センスを極限まで上げ、補正で強くする事で補う方針にしたのかもしれないが、それでは中途半端になりかねない。そんな事なら回避センスより攻撃か命中を上げるCSCの構成にした方が確実だろう。
さらに付け加えると万能型はぶっちゃけ、それを扱うものの技量が卓越していない限り、どういうゲームでも弱い。悪い言い方である器用貧乏というそれは特化型の長所にはどうしても敵わない。弱点が無いというのは聞こえが良いが、それと同時に長所が無いという事をどれだけの人が理解しているだろうか。
おまけに戦術も幅が広すぎて余程の判断力が無くては万能型でいるのは難しいのである。
そして、武器の性質上、動かない事が多い。そんな訳で動いて避けるという事そのものを蒼貴は忘れている可能性があった。となればまずは動きから始める必要がありそうだ。
「なるほどな。まずは走り回る事から始めっか。蒼貴。今からさっき撃ったBB弾を拾い集めてこい。常に走って動く事が条件だ。まずは走る事から覚えるぞ。定期的に電動ガンでお前を狙い撃つから直線的にならない様に注意しろ」
「わかりました」
「それとフィールドはこの部屋全体だ。そして……ここにある物を利用しても良い」
「了解です」
俺の作戦はこうだ。常に動き回る事による機動力の強化、部屋はあまりに綺麗ではない事で神姫にとっては入り組んでいる地形を動く事による地形認識力の強化、いつ電動ガンが放たれるかわからないために警戒する事による注意力の強化、BB弾という小さい物を探す事による索敵力の強化、そして電動ガンを放つ事による回避力の強化をこの命令で一挙に行おうというものだ。
簡単に言えばいつどこから来るかわからない攻撃を注意しつつ、いかにしてターゲットであるBB弾を素早く発見し、回収できるかが問われる実戦的な訓練だ。
「制限時間は十分だ。この時間の間に可能な限り、BB弾を回収しろ。Ready ……GO」
俺の合図と共に蒼貴は移動を開始する。まずは様子見でしばらくその様子を眺めている事にしよう。
彼女はまずデスクの隙間に入り込む。確かにBB弾は小さいからわずかな隙間にも落ちている可能性は高い。……判断力は悪くは無いな。
入り込んでから二十秒後、蒼貴はBB弾を二つ持って隙間から出てきた。そこを俺は容赦なく、電動ガンを放つ。蒼貴は反応すると隙間に戻り、その攻撃を免れた。
その隙間も考慮したのだが、別の音がした。何かを使って防御をしたと思われる。
俺は蒼貴が再び出てきて隙間からいなくなるのを見計らって彼女のいた場所を見てみる。なんとそこには俺が落としたと思われる櫛があった。恐らく蒼貴はこれを盾にする事で攻撃を防いだのだろう。
さらに蒼貴を見てみると攻撃前より一個、BB弾を持っていた。恐らく櫛で盾にした際、そこにBB弾を食い込ませてちゃっかり回収したのだろう。
周りの物を利用し、自分の場を作り出す。俺の言葉の真意に気づいたようだ。。
――こいつは使える。
と俺は鞄が積み重なった山を探す蒼貴に電動ガンを放ちながら思う。
彼女は反応して今度は足元にあった雑誌のページを持ち上げてそれを盾にし、弾いた。
ネットで調べたが、空中戦以外にも地上戦も存在する。そこでは様々なフィールドがあってそこではいろいろな物が配置されており、それは障害物ともなる場合がある情報もある。確かに攻撃の時には邪魔だが、逆を言えばそれを利用する事も可能だ。忍者と言えば隠れる事も重要だ。それに十中八九、こちらは装備面でも大きく不利な戦いを強いられる。真正面から戦うなどナンセンスである。
相手に攻撃を一度もさせないつもりで動かなくては勝つことは難しいだろう。相手は金をかけているのだ。神姫に命をかけているぐらい、大量に。それ故に高性能な装備を数多く所有しているに違いない。
無論、俺も必要最低限は出してやるつもりだが、それが相手の武装アドバンテージを消す事に繋がるとは正直、考えられなかった。
ならば使い古された言葉だが、知恵と勇気で何とかするしか俺と蒼貴に選択肢は無い。
そんな事を考えながら電動ガンを定期的に撃つ事十分後、制限時間が経過し、訓練は終了した。戦果の方はというとBB弾を二十個回収して一箇所に集めていた。弾はさっきとは大違いで全弾を回避、及び周りの物を使って防御していた。防御と言っても自分自身には全くダメージが無い。
まだ残っている気がするが、上々な結果だ。
「よくやった。しかしお前、周りを利用するのは上手いな。判断力も悪くない」
「あ、ありがとうございます。その……上手く言えないんですけど閃いたらすぐに動けるんです。単純に回避するのはちょっとまだまだなんですけれど……」
なるほど。こいつは頭が良い。回転も速いのもあって周りの把握、それの使い方を瞬時に割り出しが早く、正確に出来ている。単純なフィールドではまだ上手い考えが思いついていないようだが、こうした複雑な場所では結構やれている。
これなら俺の思惑を実現してくれるかもしれない。……よし。二週間後には試しにセンターとやらに行ってみよう。オフィシャルバトルとかいうのがどういうものかを把握しておきたいし、何かしらの情報も得られるかもしれない。
あわよくば……蒼貴を捨てたとかいうクソガキの面を拝みたいもんだな……。どれだけ腐っているか見定めてやる……。
「……オーナー?」
俺が考え込んでいると蒼貴が不思議そうな顔をして俺を呼ぶ。
「あ、ああ。とりあえず当分は回避を重視した訓練をこなすぞ。それと二週間後はセンターってとこに行くぞ」
「いきなりですか?」
「ああ。単純に俺は実際の戦闘を知らない。だからその把握のためにやるんだ。勝つ必要が無いといっちゃ無いが、ちゃんと勝つ努力はしてくれよ? 負けるより勝つ方が……良いに決まっているだろ?」
「……はい!」
俺の言葉に蒼貴は真剣な表情で答える。捨てられたくないから必死になっているんだろう思うが、俺に応えようとしている。
そうした姿勢は、本当は正しい訳ではないのだが、今は黙っておく事にする。
少しでもプラスに向いているのだから今はいい。
「よし、明後日まで回避の練習に加えて、武器の素振りをするぞ。今日から一日百回だ。出来るか?」
「了解です」
特訓に励んで二週間が経った。家族の目を誤魔化しながらの蒼貴との修行は割と楽しいものだった。
彼女は従順でよく俺の期待に応えてくれるし、俺が勉強をしていたらこいつ、俺の勉強を手助けしようと電子辞書を使って英語の意味を調べたり、携帯電話のメールの送信の代理をやってくれたり、かなり気の利いた事をやってくれる。
いやはや、神姫とはこういう事をして生活をよりよくしてくれるとは予想をしていなかった。非常に大助かりで有難いこった。
で、特訓の方も最近はネットの動画を蒼貴に見させてイメージトレーニングもさせ始めた。どいつもこいつも装備を充実させたブルジョアな神姫ばっかりでムカつく所だったが、まだ一勝もできていないため、その文句を抑えておく。装備のせいにしていたら俺らは絶対に勝てないしな。
俺の考え出した特殊訓練もかなり板がついてきて結構な好成績を出せる様にもなった。
トータル的な能力は身についたものの、それが実戦に結びつくかが……正直、不安だが、センターに行けば障害物のあるフィールドもあるらしいから、そこで成果を見たいもんだ。
そして今日はとうとう神姫センターなるものに出向く事になる。……が、その前に大きな問題にぶち当たった。それは……。
「どうやって変装しよう……」
そう。そこに行くにも必ず誰かの目を避けられない。そんな訳で俺は変装が必要なのだ。バレたら体面上の危機に晒される事になってしまう。
知り合いなどには特に警戒をしないとまずい。かといってそういう空気を放ってもいけない。極自然に、ナチュラルな変装をしなくてはならないのだが……。
「サングラスとマスクをして、さらに帽子を被るのはどうでしょう?」
「そりゃ、どう見たって不審人物じゃないか。もう少しマシな変装を考えてくれよ」
「それもそうですね……。オーナーみたいに髪を染めててワックスをかけているカッコいい人って結構、難しいですね……」
「お世辞を言っても何も出ねぇぞ」
こんな具合にカフェラテを飲みながら蒼貴と議論をして三十分程経っている。蒼貴の提案を呑んだらただの不審人物で職務質問されるし、普通に行ったら俺の周りにいる誰かが気づいてしまうかもしれない。別に有名人って訳じゃないから確率はそう高くは無いが、高をくくっていて万一バレても困る。どうしたもんか……。
「あの……。この眼鏡って何なんですか?」
蒼貴が周りを見回して考え込む俺に話しかけながら何かに指を差す。その先には俺が過去に使ったものをしまっておくためのクローゼットがあり、そこから何かがはみ出ているのが見える。俺はそれを取り出してみる。それは……。
「ああ。こいつは高校の文化祭で使った演劇用の小道具だ。度も入ってないからかけても目が悪くならない便利な代物さ」
「これだけ掛けるのはどうでしょう? 後は髪型と服装を変えればどうにでもなると思うのです」
蒼貴の言葉に俺はその眼鏡をよく見てみる。縁はかなり太く、レンズは度がかなりある様に見せてある。それを掛けて鏡の前に立ってみる。これだけでもかなり俺の印象が変わっている様に見えた。
さらに俺は片目を少し隠す様に前髪を下ろしてみる。結構暗い印象が俺の顔に宿り、個人的にはよく見ないとわからず、近寄りがたいものになっている。
「どうだ?」
「ちょっと怖いですけど……オーナーじゃないみたいです」
「そうか。なら、これで行こう」
「はい」
俺の姿に少し怖がっている蒼貴の評価を得た俺はこれに普段はしない組み合わせの服装に着替え、鞄に蒼貴をしまうと例の……神姫センターへと向かう事にした
[[前へ>第一話:潜入姫]] [[続く>第三話:入城姫]]
*第二章:金無姫
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さて、とりあえずやる事には決めたのだが、致命的な事を一つ上げておかなければならない。それは何か?
俺の素人加減? 蒼貴のネガティブさ? ……いいえ。神姫に回す金が無い事です。
体面上発生する問題でこっそり出せる金があまりにも少ない。表向きの事もこなすためには相応の金が必要だ。バイトは多少やっている程度の俺には無駄に金のかかる神姫で正直、金を多量に回したくないのが本音だ。
それに装備品などを増やしたとして家族にバレない為の隠し場所が限られているため、保管もままならないのが現状だ。
で、それで何が無いのかというと、まずMMS・NAKEDがない。詰まる所、練習台が存在しないって事だ。普通ならそれでやるのがセオリーなのだろうが無いものは仕方が無い。
「これじゃぁ、練習できねぇよ」と思われがちである。確かにMMS・NAKEDは優秀だ。あればそれでやるのが手っ取り早いだろう。
しかし、俺はやっぱり堂々と金を出せない状況にある。という訳でここは一つ、アイデアを捻りだす事とする。
「まず、第一に回避の練習だ。それができなければお前は死ぬ」
「……いきなりヘビーな言葉を言うのですね」
「前の野郎ではダメダメだったんだ。今から急激に成長するためにはそれぐらいが丁度、いいんだよ」
いきなり俺は脅迫をする。はっきり言って、同情して甘ったれた言葉を並べても腕が上がるとは思えん。つー訳で俺はスパルタで行く。
マジで死ぬ気にならないとこいつは勝てない気がするのでね。
「わかりました。……しかし、MMS・NAKEDの代わりに何をする気ですか?」
「確かにそれは無い。……がその代わりになれる奴が目の前にいる」
「え?」
「俺がお前の相手をしてやるんだよ」
蒼貴は俺の言葉に訳がわからないという顔をする。俺はそれを見てニヤリと笑うと引き出しを開けてある物を取り出す。それは……。
「……それって電動ガンじゃないですか!?」
「ああ」
そう。俺が取り出したのはBB弾を発射する電動ガンである。これを蒼貴に撃つ事で彼女にそれを回避してもらおうって寸法だ。弾速が早すぎるんじゃないかって文句もありそうだが、その辺は電動ガンの調整次第でどうとでもなる。
「こ、怖いですよ……」
「安心しろ。出力を抑えて速度を落としたものでやるからな。さて、防具を付けようか。お前のクレイドルを探してた時に拾ったもんだがね」
「……わかりました」
蒼貴は俺の言葉に返事をして、防具を装備する。それを見た俺はBB弾を電動ガンに装填するとノートパソコンなどを片付けてデスクの上を綺麗にして、そこに蒼貴を立たせる。
ルールは簡単だ。制限時間一分の間に電動ガンの弾を回避し続ける事。ただそれだけだ。
「よし。始めるぞ」
「い……いつでもどうぞ」
「じゃ、遠慮なく」
俺は蒼貴に電動ガンを放つ。狙うは胸鎧の紋様の真ん中だ。彼女は避けようとしたが、ただ直線的に避けようとしたため、簡単に狙い通りの場所に命中してしまった。
しばらく連射を続けるが、動きが単調すぎて面白い様に命中してしまう。蒼貴はあまりにも回避が下手すぎた。センスはあるはずなのにこれはどういう事なのだろうか。
それを考えながら撃つ事一分後、制限時間が経過したため、俺は射撃をやめた。
結果は散々だった。回避どころか逸らす事もできず、俺の狙う箇所に全て当たってしまっている。これでは勝利には程遠い気がしてならない。
蒼貴を見てみる。彼女は俺が鎧ばかり狙ったため、怪我らしいものは本体には見当たらないが、被弾のしすぎでかなり疲弊している状態にあった。
「申し訳ございません……」
「気にすんな。最初から成功を求めちゃいねぇよ。いきなり成功したり、勝ったりするのは宇宙人だけだ」
「う、宇宙人ってそんな強い人ばかりなんですか?」
俺の例え話を鵜呑みにした蒼貴は宇宙人の存在を信じた上で質問してきた。おいおい。冗談や例えも通じないのか、この嬢ちゃん。
「まぁな。ま、俺達は宇宙人じゃない。だから今から地道にやってようやく勝つのが関の山ってとこだ。さて、問題。何で俺の狙い通りに全部、命中してしまったんだ?」
「私がダメだから……」
「そうじゃない。そのダメな理由についてだ。それがわかれば直せるんだよ。……そういや、お前の前の主人はどういう装備をお前に着せていたん?」
「それは……」
俺は蒼貴を休ませ、その間に彼女の情報の下、ネットで武装について調査をする。
そして……呆れた。
前の主人がコンセプトとしているのは火力戦だったという事にだ。なんと武装は重装甲、重火力の装備で埋め尽くされているのだ。
何をどうすればこんな事になるのが理解に苦しんだ。
――バカだ! バカすぎる!! 性能=強さとか勘違いしている痛い奴じゃねぇか!! オマケに欠点を補って万能にしちまおうとしている辺りが訳わかんねぇ!!
確かに忍者タイプの命中センスが発揮されるが、回避が殺されている。もしかすると回避センスを極限まで上げ、補正で強くする事で補う方針にしたのかもしれないが、それでは中途半端になりかねない。そんな事なら回避センスより攻撃か命中を上げるCSCの構成にした方が確実だろう。
さらに付け加えると万能型はぶっちゃけ、それを扱うものの技量が卓越していない限り、どういうゲームでも弱い。悪い言い方である器用貧乏というそれは特化型の長所にはどうしても敵わない。弱点が無いというのは聞こえが良いが、それと同時に長所が無いという事をどれだけの人が理解しているだろうか。
おまけに戦術も幅が広すぎて余程の判断力が無くては万能型でいるのは難しいのである。
そして、武器の性質上、動かない事が多い。そんな訳で動いて避けるという事そのものを蒼貴は忘れている可能性があった。となればまずは動きから始める必要がありそうだ。
「なるほどな。まずは走り回る事から始めっか。蒼貴。今からさっき撃ったBB弾を拾い集めてこい。常に走って動く事が条件だ。まずは走る事から覚えるぞ。定期的に電動ガンでお前を狙い撃つから直線的にならない様に注意しろ」
「わかりました」
「それとフィールドはこの部屋全体だ。そして……ここにある物を利用しても良い」
「了解です」
俺の作戦はこうだ。常に動き回る事による機動力の強化、部屋はあまりに綺麗ではない事で神姫にとっては入り組んでいる地形を動く事による地形認識力の強化、いつ電動ガンが放たれるかわからないために警戒する事による注意力の強化、BB弾という小さい物を探す事による索敵力の強化、そして電動ガンを放つ事による回避力の強化をこの命令で一挙に行おうというものだ。
簡単に言えばいつどこから来るかわからない攻撃を注意しつつ、いかにしてターゲットであるBB弾を素早く発見し、回収できるかが問われる実戦的な訓練だ。
「制限時間は十分だ。この時間の間に可能な限り、BB弾を回収しろ。Ready ……GO」
俺の合図と共に蒼貴は移動を開始する。まずは様子見でしばらくその様子を眺めている事にしよう。
彼女はまずデスクの隙間に入り込む。確かにBB弾は小さいからわずかな隙間にも落ちている可能性は高い。……判断力は悪くは無いな。
入り込んでから二十秒後、蒼貴はBB弾を二つ持って隙間から出てきた。そこを俺は容赦なく、電動ガンを放つ。蒼貴は反応すると隙間に戻り、その攻撃を免れた。
その隙間も考慮したのだが、別の音がした。何かを使って防御をしたと思われる。
俺は蒼貴が再び出てきて隙間からいなくなるのを見計らって彼女のいた場所を見てみる。なんとそこには俺が落としたと思われる櫛があった。恐らく蒼貴はこれを盾にする事で攻撃を防いだのだろう。
さらに蒼貴を見てみると攻撃前より一個、BB弾を持っていた。恐らく櫛で盾にした際、そこにBB弾を食い込ませてちゃっかり回収したのだろう。
周りの物を利用し、自分の場を作り出す。俺の言葉の真意に気づいたようだ。。
――こいつは使える。
と俺は鞄が積み重なった山を探す蒼貴に電動ガンを放ちながら思う。
彼女は反応して今度は足元にあった雑誌のページを持ち上げてそれを盾にし、弾いた。
ネットで調べたが、空中戦以外にも地上戦も存在する。そこでは様々なフィールドがあってそこではいろいろな物が配置されており、それは障害物ともなる場合がある情報もある。確かに攻撃の時には邪魔だが、逆を言えばそれを利用する事も可能だ。忍者と言えば隠れる事も重要だ。それに十中八九、こちらは装備面でも大きく不利な戦いを強いられる。真正面から戦うなどナンセンスである。
相手に攻撃を一度もさせないつもりで動かなくては勝つことは難しいだろう。相手は金をかけているのだ。神姫に命をかけているぐらい、大量に。それ故に高性能な装備を数多く所有しているに違いない。
無論、俺も必要最低限は出してやるつもりだが、それが相手の武装アドバンテージを消す事に繋がるとは正直、考えられなかった。
ならば使い古された言葉だが、知恵と勇気で何とかするしか俺と蒼貴に選択肢は無い。
そんな事を考えながら電動ガンを定期的に撃つ事十分後、制限時間が経過し、訓練は終了した。戦果の方はというとBB弾を二十個回収して一箇所に集めていた。弾はさっきとは大違いで全弾を回避、及び周りの物を使って防御していた。防御と言っても自分自身には全くダメージが無い。
まだ残っている気がするが、上々な結果だ。
「よくやった。しかしお前、周りを利用するのは上手いな。判断力も悪くない」
「あ、ありがとうございます。その……上手く言えないんですけど閃いたらすぐに動けるんです。単純に回避するのはちょっとまだまだなんですけれど……」
なるほど。こいつは頭が良い。回転も速いのもあって周りの把握、それの使い方を瞬時に割り出しが早く、正確に出来ている。単純なフィールドではまだ上手い考えが思いついていないようだが、こうした複雑な場所では結構やれている。
これなら俺の思惑を実現してくれるかもしれない。……よし。二週間後には試しにセンターとやらに行ってみよう。オフィシャルバトルとかいうのがどういうものかを把握しておきたいし、何かしらの情報も得られるかもしれない。
あわよくば……蒼貴を捨てたとかいうクソガキの面を拝みたいもんだな……。どれだけ腐っているか見定めてやる……。
「……オーナー?」
俺が考え込んでいると蒼貴が不思議そうな顔をして俺を呼ぶ。
「あ、ああ。とりあえず当分は回避を重視した訓練をこなすぞ。それと二週間後はセンターってとこに行くぞ」
「いきなりですか?」
「ああ。単純に俺は実際の戦闘を知らない。だからその把握のためにやるんだ。勝つ必要が無いといっちゃ無いが、ちゃんと勝つ努力はしてくれよ? 負けるより勝つ方が……良いに決まっているだろ?」
「……はい!」
俺の言葉に蒼貴は真剣な表情で答える。捨てられたくないから必死になっているんだろう思うが、俺に応えようとしている。
そうした姿勢は、本当は正しい訳ではないのだが、今は黙っておく事にする。
少しでもプラスに向いているのだから今はいい。
「よし、明後日まで回避の練習に加えて、武器の素振りをするぞ。今日から一日百回だ。出来るか?」
「了解です」
特訓に励んで二週間が経った。家族の目を誤魔化しながらの蒼貴との修行は割と楽しいものだった。
彼女は従順でよく俺の期待に応えてくれるし、俺が勉強をしていたらこいつ、俺の勉強を手助けしようと電子辞書を使って英語の意味を調べたり、携帯電話のメールの送信の代理をやってくれたり、かなり気の利いた事をやってくれる。
いやはや、神姫とはこういう事をして生活をよりよくしてくれるとは予想をしていなかった。非常に大助かりで有難いこった。
で、特訓の方も最近はネットの動画を蒼貴に見させてイメージトレーニングもさせ始めた。どいつもこいつも装備を充実させたブルジョアな神姫ばっかりでムカつく所だったが、まだ一勝もできていないため、その文句を抑えておく。装備のせいにしていたら俺らは絶対に勝てないしな。
俺の考え出した特殊訓練もかなり板がついてきて結構な好成績を出せる様にもなった。
トータル的な能力は身についたものの、それが実戦に結びつくかが……正直、不安だが、センターに行けば障害物のあるフィールドもあるらしいから、そこで成果を見たいもんだ。
そして今日はとうとう神姫センターなるものに出向く事になる。……が、その前に大きな問題にぶち当たった。それは……。
「どうやって変装しよう……」
そう。そこに行くにも必ず誰かの目を避けられない。そんな訳で俺は変装が必要なのだ。バレたら体面上の危機に晒される事になってしまう。
知り合いなどには特に警戒をしないとまずい。かといってそういう空気を放ってもいけない。極自然に、ナチュラルな変装をしなくてはならないのだが……。
「サングラスとマスクをして、さらに帽子を被るのはどうでしょう?」
「そりゃ、どう見たって不審人物じゃないか。もう少しマシな変装を考えてくれよ」
「それもそうですね……。オーナーみたいに髪を染めててワックスをかけているカッコいい人って結構、難しいですね……」
「お世辞を言っても何も出ねぇぞ」
こんな具合にカフェラテを飲みながら蒼貴と議論をして三十分程経っている。蒼貴の提案を呑んだらただの不審人物で職務質問されるし、普通に行ったら俺の周りにいる誰かが気づいてしまうかもしれない。別に有名人って訳じゃないから確率はそう高くは無いが、高をくくっていて万一バレても困る。どうしたもんか……。
「あの……。この眼鏡って何なんですか?」
蒼貴が周りを見回して考え込む俺に話しかけながら何かに指を差す。その先には俺が過去に使ったものをしまっておくためのクローゼットがあり、そこから何かがはみ出ているのが見える。俺はそれを取り出してみる。それは……。
「ああ。こいつは高校の文化祭で使った演劇用の小道具だ。度も入ってないからかけても目が悪くならない便利な代物さ」
「これだけ掛けるのはどうでしょう? 後は髪型と服装を変えればどうにでもなると思うのです」
蒼貴の言葉に俺はその眼鏡をよく見てみる。縁はかなり太く、レンズは度がかなりある様に見せてある。それを掛けて鏡の前に立ってみる。これだけでもかなり俺の印象が変わっている様に見えた。
さらに俺は片目を少し隠す様に前髪を下ろしてみる。結構暗い印象が俺の顔に宿り、個人的にはよく見ないとわからず、近寄りがたいものになっている。
「どうだ?」
「ちょっと怖いですけど……オーナーじゃないみたいです」
「そうか。なら、これで行こう」
「はい」
俺の姿に少し怖がっている蒼貴の評価を得た俺はこれに普段はしない組み合わせの服装に着替え、鞄に蒼貴をしまうと例の……神姫センターへと向かう事にした
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