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*鋼の心 ~Eisen Herz~
**第16話:史上最大の戦い
8月15日、晴天。
絶好の建国記念日―――。
―――じゃ無かった、大会日和であった。
天海市は港町であると同時に、精密機器の工場が立ち並ぶ工業地区としての側面も持つ。
当然ながらそこの住人は、少なくない比率でそれらの精密機器に携わる者である。
故に。
ここ、天海神姫センターは、そうした専門知識を持つ者と、それを試金石として研鑽を積んできた者が立ち並ぶ、正に神姫にとっての激戦区であった。
そして。
今日はそこに集う数々の強豪が、しのぎを削り、己が力を知らしめ、試す晴れ舞台でもあった。
◆
「予選は4ブロックに分かれての大規模バトルロイヤル。『規定数以下になるまで生き残れば』本戦進出だ」
天海市の大会に初参加となる神姫たち、フェータ、レライナ、デルタ、セタの四人に祐一がレクチャーをしていたのは今から30分前。
試合開始の直前だった。
「祐一さん、質問です!!」
「はい、セタ坊!!」
元気良く手を挙げたセタを、祐一が指す。
しかし。
「……祐一さんにもセタ坊呼ばれました、ボク女の子なのにぃ(泣)」
女の子としては複雑な心境らしい。
尻尾を丸めてセタは手を引っ込めた。
「では祐一。我の質問に答えよ」
「はい、レライナ!!」
「生き残るだけが条件なら、ずっと隠れているだけでも本戦に出られると言う事かぇ?」
レライナの質問は、本人が隠れる算段ではない。
他の標的が隠蔽に徹すると、探すのが面倒臭いと思っているだけである。
「……もちろん、そういう手で本戦に出る事も可能だよ。ただし、今回のバトルロイヤルには特別ルールがある」
「特別ルール、とな?」
「予選バトルロイヤルに置ける特別ルール。『3体の神姫を倒した者は、戦場のあちこちに設置されているゲートから外に出る事ができる』と言うものだな……。この際外に出たものは、最後まで生き残っている者の数に入る」
要するに、その時点で本戦進出が確定する。
「そして、『外に出た神姫の数だけで規定数に達した場合、戦場で生き残っていても敗北したものと見なす』と言うルールもある。……つまり、隠れているのも有効な戦法だけど、戦況によっては撃墜されなくても敗北してしまう可能性があるという事だ」
「……はい、祐一さん。……それは、つまり。“3体倒しても必ず戦場の外に出なければならない訳では無い”と言う事ですか?」
「デルタの言うとおり。このルールは強制ではない。故に、3体の神姫を倒したものが、必ずしも本戦に出られる訳でもない」
例えば過去の大会では、4体、5体と狩りをしている内に、本戦進出を決め場外に退出した神姫が規定数に達してしまい、戦場に取り残され敗北した強豪も居た。
またあるいは、3体の神姫を倒したものの、場外に出る前に撃破され、予選で敗れた神姫も居た。
「つまり、自信過剰な奴、油断をした奴は容赦なく排除されていくシステムだ。……もちろん、場外に出る瞬間の油断を狙うタチの悪い神姫も少なくない。……マナーとしては、離脱する神姫には無理に手を出さないのが暗黙の了解だけど、明文化されている訳でもないし、油断せずに、3体倒したら速やかに退場するのが基本だな」
そう言って祐一は神姫たちを見渡す。
マヤアの姿だけは無いが、『アレ』に解説など不要。
3体どころか、規定数になるまで全ての神姫を狩り尽くしても、まだお釣りが来る様な化け物相手にレクチャーも何もあるまい。
まず確実に本戦に出て来るのは想像に難くない。
なので祐一は既に言い含めてあるアイゼンを除く4人の神姫にそれを伝える。
「……最後に、一番大事なアドバイスな……」
◆
「れ、レライナさん……」
バトルロイヤル開始早々、フェータの前に立ち塞る蒼の騎士。
「……どうか、しましたか?」
フェータの問いに、レライナは答えない。
「……共闘する間でもないですよね、レライナさんなら予選なんて楽に勝ち抜けます」
「ふん、とうぜんじゃな」
他に3人の神姫を倒す。
それがこの予選バトルロイヤルの勝ち抜け条件。
レライナにとっては勿論の事、フェータにしても造作も無い事だ。
いくらでも弱い神姫は居る中で、わざわざレライナと共闘する必要も無い。
薄く笑うレライナに不審なものを感じながら、フェータは彼女に背を向ける。
「……では、本戦で会いましょう。今は、予選の突破を最優先に……」
「待て…」
「?」
振り返ったフェータの目の前で、レライナは静かにその剣を鞘から抜き放った。
「敵を前に何処へ往くつもりか?」
「敵って……、本気ですか、レライナさん!?」
「当たり前じゃろうて。ここは戦場。己以外は全て敵。……何ゆえそなただけが例外となる?」
白刃の輝きを静かに流し、レライナは一歩前に踏み出した。
「ましてや、そなた程の好敵手。……みすみす見逃す手は無いであろぅ?」
「……でも、これは予選ですよ?」
「なればこそ」
はっきりと、レライナはそう言った。
「そなた程の使い手が、そう易々と敗れるとは思わぬ……。勝ち進めばいずれは相見(あいまみ)えるであろう?」
「……」
「故に、ここで出遭ったのは正に天意!! 我が最初の相手にそなたほど相応しい敵もおるまいて!!」
「……本気、なんですね……?」
「無論。……よもや、我では不服だとは言うまいな?」
「……まさか。……望む所、……いいえ―――」
半身を屈め、抜刀の体勢を取りながらフェータは静かに鯉口を切る。
「―――私こそ、願っても無い……っ!!」
フェータの抜刀、その初撃が、激戦の口火をも同時に切った!
初撃を弾いたのは、レライナの手にした騎士剣、コルヌ。
そして、反撃として背から繰り出される4対の剣翼。
伸張し、レンジを増した8つの刃が、それこそ縦横無尽に駆け巡りフェータを襲う。
「―――っ!!」
剣翼自体に刃を叩きつけながら、その反動でフェータは少し距離を取った。
『フローラルリング……!? 前に戦った時よりバージョンアップしてる!?』
美空の驚愕も然り。
幾度か戦った相手ではあるが、その時のフローラルリングは通常のものと大差の無い機構でしかなかった筈だ。
『私とレライナだって、何時までも進歩の無いままじゃ無いわよ、美空?』
オーナー同士の通話回線から、レライナのマスターであるリーナの声が響く。
『フレキシブルアームの採用でペダルブレードの攻撃範囲は当社比2倍!! オマケに攻撃角も増えて、多彩な攻撃が可能になった今のレライナに隙は無いわ。近接戦なら、フェータとだって互角以上に渡り合える!!』
「左様。我とそなたの実力は伯仲であったのぅ?」
妖艶で、凄惨とさえ言える笑みを浮かべ、レライナはその背に掲げたフローラルリングをざわめかせる。
「……力で我が、剣技でそなたが、それぞれに互いを圧倒し、僅かにそなたに分があった」
レライナの言葉は過去形。
即ち、今は違う。とそう言っているのだ。
『気をつけて、フェータ。フローラルリングの攻撃力が段違いに上がってる!! レライナの奴、以前よりも数段パワーアップしてるわよ!!』
「いえ、それよりも―――」
美空の指摘は事実。
レライナの性能は確かに向上している。
だがしかし……。
「―――レライナさんは、“私の抜刀”を弾いたんです……」
以前のレライナの技量では決して叶わなかった術である。
「その伯仲の実力であった我らの力関係。……そこに我がそなたに匹敵しうる剣技を習得すればどうなるか―――」
フェータの抜刀は生半可な盾や剣など有って無いが如く切断してのける。
それを阻止し、弾き返すにはそれなりの技量が必要となる。
つまり。
レライナは“それ”を得た!!
「―――とくと見るが良いッ!!」
踏み込みから大上段の袈裟懸け。
人であれば、胴も足元もがら空きとなる下手だが、彼女には4対の翼剣がある。
同時に右上と左下からの刺突。
微妙に角度をずらしてある為、“刀一本”ではすべてを防げない。
「―――ッ!!」
フェータにとっては苦肉の策。
一番早い袈裟懸けの一閃に太刀筋を合わせ、それを反動に距離を取って左右の刺突を避すしかない。
レライナを相手にしては、最も愚かな策だが、“この一瞬”を生存する為には止むを得ない選択だった。
―――しかし。
「ふふふ、良いのか? そこは、我が間合いだぞ?」
「―――くっ!!」
正対の上、歩幅にして10歩強。
レライナの最大の武器である、目でも追えない超高速のダッシュにとって、絶好と言える距離だった。
「……流石に、強いっ!!」
「―――そなたを“斬る”為だけに編み出した技じゃ―――」
ゆらり、と。
半身に身体をずらし、剣を持たぬ左の肩を前に出すレライナ。
「―――受けてみよ、『Foo Fighter(フー・ファイター)』ッ!!」
そしてそのまま、両腕を背中に置き去りにするように、頭から突進して来た。
(―――刃が見えない!? まさかッ!?)
「――――――くっ!!」
フェータは、身体の“右側”に刃を走らせ盾にする。
そして。
剣戟の音が戦場に響いた。
◆
「……最後に、一番大事なアドバイスな……」
祐一はそう言って神姫たちを見回す。
「予選バトルロイヤルは、“誰が出てくるか全く分からない”。注意してね……」
誰と戦う羽目になるか分からない。
それが、この予選こそが、大会で最も恐ろしい戦いになる理由であった。
◆
「………………………くくく。さすがはフェータ。といった所かのぅ?」
「…………」
「よもや逆薙ぎの一撃を受けるとは思わなんだ……」
レライナは、両腕を身体で隠した一瞬の内に剣を左手に持ち替えて左から斬りつけてきた。
右手に剣を持った神姫が背中から繰り出す大振りが、“右から来る”と思い込んでしまえば、剣も技も有った物ではない。
「……だがしかし。……次は如何かな?」
レライナの言が不敵なのもむべなるかな。
この剣技の真髄は、『右手で出せる斬撃を、左手”で”出す』事ではない。
真に恐ろしいのは、『右手で出せる斬撃を、左手“でも”出せる』事にある。
即ち、技の正体を見破った所で、『左右どちらから来るか、までは予測できない』という事だ。
そして、威力は防がねば耐えられぬほどに強く、剣速は、後の先を取れぬほどに、速い。
(―――強い……。そして手強い……)
フェータの思考に浮かぶ対処法に、この技を防げるものは存在しない。
(……身体から突っ込んで来るとは言え、決して無防備ではない。……4対8枚の翼剣がレライナさん本体を守り、必殺の威力を持った左右択一の剣が超高速で襲ってくる……)
「……中距離での戦闘において、その技を破る術は無く、近距離では手数とパワーで私を圧殺する……」
「その通りじゃ……。むろん、遠距離からの高速抜刀など許さぬぞ? そなたの加速より、我れが間合いを詰めるほうが遥かに速い……」
フェータの背負うウイングは祐一の作った新型のものに換装されている。
出力も、機動性もノーマルのAAU7((アーンヴァルのデフォルトのリアウイング))とは比較にならないが、流石に瞬時に最大速度まで加速できる訳ではない。
トップスピードに乗るまでに掛かる数秒の時間は決して長くないが、レライナを相手にするには致命的過ぎるタイムラグだった。
(―――つまり、遠距離からの超高速移動抜刀も不可能。……中距離では捌ききれず、近距離では押さえ込まれる……)
「……なるほど。確かに私にも対処不能。……でしたね」
「……なに?」
ここに来て。
これほどまでの窮地に到ってなお、フェータの表情からは余裕が消えていない。
追い詰められた焦りも、対処に苦慮する苦悩も見て取れない静心の域。
「……この窮地において、そなたにまだ打つ手が残されているとでも言うか?」
「ええ、その通りです。……ね、マスター?」
『悪いわね、リーナ。レライナ。……この戦い、勝ち星にさせて貰うわよ!?』
戦場に響く美空の声にも、フェータの勝利を確信した響きが明確に感じ取れる。
「……ぬ?」
『……言うじゃない、美空……。なら、どうするのか見せて御覧なさい。……レライナ!!』
「承知!!」
刃を翻し、再び突進に入るレライナ。
(―――右か、左か。知る術は無い。半端な対応など弾き飛ばす威力の剣戟、来る方向に確証もなくして防げるものか!!)
「―――受けてみよ、『Foo Fighter』ッ!!」
『フェータッ!!』
「―――マテリアル、開放ッ!!」
美空の激を受けたフェータが取った行動は、刀を使う事ではなく……。
左手を、前に突き出しただけであった。
「喰らェっ!! 『フリッサー』!!」
瞬間。
フェータとレライナの間にあった全ての大気が歪み、弾けた。
『なッ!?』
ドンッ、と言う鈍い衝撃音に一瞬遅れて、彼我の間の地面がめくれ上がり、吹き飛んでゆく。
その渦中に居たレライナも例外ではなく。
暴力的な衝撃波に大きく突き飛ばされた。
『馬鹿な!? 衝撃波!? こんな大出力で!?』
リーナが驚くのも無理は無い。
この規模の衝撃波を発生させる事自体はさほど難しくも無い。
が。
それを至近距離で使用するというのは、むしろ装甲の薄いフェータにとってこそ致命的な現象だった。
『……自爆な訳が無い。つまり、フェータは……!!』
リーナの推測の裏づけ。
立ち上る土煙の中から飛び出してきたフェータが、レライナに猛然と斬りかかる。
速度に乗り、充分な威力を込めた一撃は、如何にサイフォスとは言え耐え切れるものではない。
だが、しかし。
「―――甘いわァ!!」
空中で姿勢を立て直したレライナは、着地と同時に振り下ろした剣で、その一撃を受け止めた。
『レライナ!?』
「案ずるでない、リーナ!! これで我の勝ちじゃ。鍔競り合いの力比べで……、アーンヴァルがサイフォスに敵うものかッ!!」
如何にフェータが優れた剣技を持つと言っても、その素体は非力なアーンヴァルに過ぎない。
優れたパワーを持つサイフォスであるレライナと、力比べになった時点で勝ち目は最早残されてはいない。
―――筈だった。
「甘いですよ、レライナさん?」
フェータは、『両手』で刀を握っていた。
利き手である右手と、“先ほど衝撃波を放った左手”で……。
「『フリッサー』リ・アクト(再起動)!!」
先ほど、周囲の大気と地面ごとレライナを吹き飛ばした衝撃波が、フェータの手にした刀に浸透し……。
剣と鎧ごと、レライナの胴を叩き斬った。
「……………………………くくくくく。……見事、だ……」
そう言い残して崩れ落ちるレライナ。
勝敗は決し、フェータはレライナを一瞥して飛び去った。
予選を突破するまで後二人倒さねばならない。
だが、それはレライナを倒すより難しいという事はあるまい。
◆
レライナとの決着が付いた3分後。
フェータは予選を突破した最初の神姫として、戦場の外に帰還した。
◆
「……まさか、レライナの真逆を行くとは、ね……」
リーナが溜息混じりに肩をすくめた。
「そりゃ、性能に長けたレライナが劣っている剣技を習得できるなら、技に長けたフェータが劣っている性能を獲得できるのは当然でしょ」
敗北し、戦場から回収されたレライナとリーナが祐一の待つ客席に戻ってくる。
勝利した美空は、本戦出場の手続きでもうしばらくは足止めを食うだろう。
「……確かに凄いわね……。まあ、全部祐一任せなのは、少しズルイと思うけど……」
「……なんでそこで、俺が睨まれるんだ?」
リーナの恨めしそうな視線に刺され、怯む祐一。
「……私は祐一の為に頑張ったのに、考えてみたら祐一から何にもご褒美貰ってない……」
「え~と?」
「労働には、対価が必要じゃな、祐一よ?」
「レライナまで!?」
「ご褒美……」
「もっと言ってやるが良い、リーナ!!」
「炊きつけるなぁ!!」
じと目で迫る金髪ロリっ娘。
戦闘開始後1分で、リーナは祐一の膝の上を占領した。
◆
「……で、よ? 一つ疑問があるんだけど?」
「ああ、『フリッサー』の事?」
「そうそれ。衝撃波を発生させる装置を左腕に仕込んだ、までは良いんだけど……」
リーナの疑問は先ほど思ったことと同じ。
あの規模の衝撃波であれば、放ったフェータ自身も只では済まない。
「……どうやったのよ、一体?」
「単に、制御ソフトを組み込んで、衝撃波の指向性を完全にコントロールしているだけ、だけど?」
その制御があればこそ、フェータは自身を傷つけず、また或いは刀にのみ影響が出るように調節しながら衝撃波を使用できるのだ。
……が。
「そんな大掛かりな制御、一体どれだけ大容量のプログラムになると―――」
言いかけて、気付く。
それを使用したフェータには、それに匹敵しうる大容量のプログラムが欠けている。
「―――……そっか、射撃管制ソフト……?」
「うん、フェータの射撃管制はダミーで、アンチウイルスの隠し場所になってたでしょ? んで、それを京子さんが抜き取ったって事は……」
フェータのプログラム領域には、衝撃波の制御に足る程の、非常に大きな空白領域が存在しているという事になる。
「……………なるほど、アイゼンでも、レライナでもダメ。……フェータにしか使えない装備、って事ね……?」
「そうなるかな……。発生機構自体はそんなに複雑な物でもないから俺でも何とか作れたし、制御ソフトもあれだけ空き容量があれば充分なものを組み込める。……後は、応用だけど、本来は衝撃波で飛び道具を吹き散らす目的の装備なんだよ、あれ」
「?」
「俺自身は、衝撃砲や刀の高周波化に使用するような想定は全くしてなかった……」
後にそれを提案され、改造は施したが、それだけである。
祐一自身の想定は、純粋に瞬間的な盾としての使用のみだったのだ。
「……つまり、応用はフェータ自身が思いついた、と?」
「いや、美空」
「……え?」
リーナのイメージにある美空は………………、割愛しておくとして、あまりその様な発想をするようには思えなかった。
「……だって、美空よ? 美空と言えば……」
「ねぇ祐一……? 何でリーナを抱っことかしてるかな……?」
「あ、お帰り。美空」
「『あ、お帰り。美空』じゃないぃーーーッ!!」
剛拳一閃。
「えぇ、何でさぁッ!? ―――ぐはぁっ!?」
腰を入れた拳の一撃が祐一のわき腹をえぐり、彼方まで吹き飛ばした。
◆
「ふん、やはり来ていたか。フェータ……」
「と言う事は、先日のストラーフも、やはり……」
テーブルティールームのテーブルを一つ占有しながら、くつろぐ京子の前で、カトレアがその表情を硬くする。
「……過日の失態、今日こそ雪辱を晴らしたく思います……」
「ふふ、そう気負うな。最早我らの役目は殆ど終わった。……ここから先は、真紀の舞台。私達も観客に徹するさ……」
そう言って京子はティールームの壁掛けモニターを見ながらコーヒーカップに口を付ける。
「マァ姉サンハ、観客ト言ウヨリ、役者ダケドネ……」
「カトレア姉さまの予選は第四戦なのです。最終戦なのです」
「……上姉、姉妹代表」
最初で最後の晴れ舞台になる予感を感じてか、姉妹達も何処と無くぎこちなさが漂う。
「……考えてみたら、お前達にはこのような公式の場での戦いをさせた事は無かったな……」
「いえ、私達はマスターの道具です。マスターの望まれる場が私達の戦場であり、マスターの行く先が私達の未来です。それで充分ですし、それ以外を望む事もありません……。どうか、最後まで存分にご活用下さい……」
「「「………」」」
「……そう、か」
京子は悲しげにそれだけを口にした。
安易な罪滅ぼしなど赦さぬ為にこそ、彼女達は京子の傍に居る。
彼女が犯した罪の証として、常に、傍に……。
(お前達が居る限り、私は真紀を忘れない……。私だけは、真紀を……、忘れない……)
例え、世界の誰が知らずとも、彼女の生きた証が失われようとも。
(……私は、決して忘れるものか)
彼女の最期の願いすら妨げようとする、無慈悲なこの世界から。
(……私は、お前の姉なのだから……)
土方京子は守らねばならない。
彼女の遺した最期の遺志、を。
(……でも、本当にこれでいいの? 真紀……)
「マスター? どうかなさったのですか?」
「いや……。なんでも無い。……なんでも無いさ……」
消えぬ迷いを消す為に。
京子は常に、自らがこの道を進む為に刻んだ罪を、その傍に常に置く。
折れてしまいそうになる弱い心を支える為に。
京子は自らの心に、四本の“楔”を穿つ。
とても弱い、その心が折れない様に。
[[第17話:クリムゾン・エア]]につづく
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↑とか格好つけてるけど、実は大会当日まで『お一人様一名の神姫でのみの御参戦となります、予めご了承下さい』という告知を見て愕然としていた京子さんでした。
折角4姉妹全員分完璧に整備して来たのに……。
さて、今回は真っ先にフェータVSレライナの予選からとなります。
正直、フェータと戦って一番絵になるのがレライナなので…。
今回は新装備『フリッサー』と新型ウイングを装備。
画像の方は後日にでも。
シャイニングフィンガーとか、輻射波動とか言ってはいけない>>フリッサー。
本当はガオガイガーのプロテクトシェードが元ネタだったんだ。
そして、今回初めてウイング切り離し以外で勝利を収めたフェータさん。
本当にランニングコストのかかる子だ(爆)。
以下雑談。
シンシア・ザ・ミッションの8巻最終ページを読んで、
「嘘だ~~~~~~~~~ッッッ!!!」
と叫んだのは私だけじゃないはず。
うん、いや。
マジであれは予測不能。
って言うかその前数ページのブットンだ理論に脱帽。
ウル〇ラマンを200回以上殺せる……。
分けないよな……、普通……。
高遠るいはマジで鬼才、と確信したALCでした。
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