「桜舞」(2008/05/17 (土) 04:10:58) の最新版変更点
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浮かぶ満月、舞い散る花びら、夜だというのに、そこは異様なまでに明るかった。
辺りには無数の桜の木が花を咲かせ、限りなく淡い薄紅のかけらを振りまいている。
その白薄紅の中で、たたずむ人影一つ。
黒の、燕尾のような衣装を身に纏い、黒の布を首元に巻き、白縹(しろきはなだ)の、二本の尾をゆらゆらと。
足元は金で彩られた西洋式、群青の板金。
左の手に、己の身長ほどもある長大な刀が、鞘に収められたまま握られている。
下緒と飾り帯が巻かれ、白い線を交差させたような紋様が彫られている、それ以外は黒色の大鞘。
その人影は少女だった。
舞う花よりも少し濃い肌の色を持ち、薄青の髪を揺らす少女だった。
目を閉じ、刀を納め、立ち尽くすように佇むだけだった少女が、微動する。
桜の吹雪に呼ばれるように、複数の、ざっざっ、という足音が鳴る。
それは、体つきこそ女のものだったが、その顔は輪郭だけ。月光に反射して、つるりと輝くだけ。
目許はあれど眼はなく、鼻頭はあれど鼻ではなく、口には何もなかった。頭髪すらなかった。
まるで影を人の形に削ったような、異様なものども。
それらは、各々武器を手にしていた。
剣をはじめとした武器から、拳銃を持ったものまで。
黒いものどもは切っ先を少女に向け、銃口を少女に向ける。
少女は未だ目を閉じたまま、そこに在るだけ。
まず、剣をもったヤツらが動いた。駆け寄り、勢いのまま少女を切り捨てようと、各々の刃を振り下ろす。
その数5体。気合の一声も唸りも挙げず、無言のまま切りかかる。
「...It's begining(はじめようか)」
頭上から迫る刃に対し、左手の大刀を、鞘から抜かずに、そのまま受け、横に振り、払う。
剣を弾かれ、よろめく黒。体制を立て直すよりも速く、振り払った勢いのまま少女は姿勢を低くし、鞘で脚をなぎ払っていく。
脚を取られ、後ろ倒し、横倒しになりつつある黒。少女は柄に手をかけ、左の手で鞘を引く。
リィン、音が響く。そのほんの1秒ほどあとに、黒いものどもは地面に倒れこむ。
その直後、黒いものどもの上半身と下半身が、別々に蠢き、止まった。
少女の右の手には、月の光が映りこみ、蒼く光る刃。
後から吹き出る、真っ赤な液体。それらは天に向かって、花を咲かせるが如く吹き上がる。
舞い散る桜がしぶきを浴び、薄紅が深い紅に染まった。
少女はその大きな剣を片手で振り、刃に付く紅い飛沫を払う。
直後に火薬が爆発する大きな音。少女の頬のすぐ横を、何かが掠める。
駆け出さず、銃口を向けていた黒いものどもが、引き金を引き絞ったのだ。
立て続けに、拳銃からくつもの火が放たれる。
黄金色をした金属の粒が、目で捉えることが不可能な速さで、次々と少女に向かい、その身を穿とうとする。
が、それは手にする白刃の前にさえぎられた。
金属同士がぶつかり合うような、小気味良い音と共に、命中するはずだった弾丸が二つになって、横に逸れていく。
少女がを大きな刃を振るうたび、別たれた弾丸が、桜と共に宙へ舞う。
「―――Rapid Slash(疾走斬り)」
動くのが速いか、切り裂かれた弾が落ちるのが速いか、少女は、黒いものどもに向かって駆け出した。
彼女、弾丸のような、はたまた黒い風のような速さでヤツらの元へ。
無論、ヤツらもその間発砲するが、駆け抜ける最中ですら、その刃を振るい続け、切り払っていく。
駆ける間、止まることなく、白い線のような煌きが少女を包み続ける。
線に触れた弾丸は二つに割れ、線に触れたヤツらの腕も二つに別れ、線に触れたヤツらの身体は無数に別たれる。
弾丸も、黒きものどもも、空気ですらも、なにもかも両断していく。
「Too easy(チョロイね)」
長大な刀をくるりと回し、鞘に納める。
その広報では引きあがる飛沫。紅い滴が雨のように降り注ぐ。
「なんてね、ぼくのキャラじゃないか」
深紅の花びらを背に、少女は踵を返す。
―――なんだこれ。
「どーよ!こんなかんじでトレーニングにエフェクトやら背景やら重ねてみました!」
いや、どーよって、これおもいっきり私の神姫じゃないか。よく見りゃいつぞやのVRトレーニングだよ。
しかもなんだよこのタイトル。「桜舞」って、ベタすぎじゃないか。
「いやぁ、身近にこういう素材があるっていいよねー、ステキなムービー作り放題だぜ」
……どこまでバカなんだこいつは。
「あとはBGMもつけたいね!和風なロックがいいかなー、いっそヘヴィとかスラッシュとかもいいかなぁ」
いいのか、オマエをネタにヘンなもの作り始めてるぞ、このバカ。
「いいんじゃない、ぼくはこういうのスキだよ?」
あ、そ……。
「マスターも案外、キライじゃないんじゃない?」
なんでそう思う?
「なんか、機嫌良さそうだもん」
……ま、否定はしないけど。
おしまい
「マイマスター、私の出番も欲しい。ていうか私がマイマスターの神姫なんだけど!?」
紅いボディと桃色の髪の彼女が、私の横から抗議の声。
「おおぅっ、折角のアーク型だし、今度はレース風味のヤツでもつくってみようか!BGMはもちろんアレだ」
「あれって?」
「TRUTHさ」
F1かよ。
今度こそおしまい
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