「第参章第拾四節:楽しい日々の終焉」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「第参章第拾四節:楽しい日々の終焉」(2008/03/19 (水) 00:12:37) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
{楽しい日々の終焉}
☆
西暦2030年10月5日の記憶
「…女の子?」
今、僕の目の前に一人の女の子が大きな試験管のようなものの中に入っている。
裸でブクブクと何かの液体に入っていて息が出来るのかな?
苦しくないのか?
というか身体が物凄くちっちゃいなぁ。
まるでお人形さんみたい。
「……ン?」
「あ、起きた」
女の子が目を覚まし、眠そうに僕を見る。
すると無表情で僕に語りかけてきた。
「人間の…子供?」
「え?あ、うん。僕は子供だけど」
「子供が何故このような場所にいる?それに何故、我の部屋に侵入?」
「ごめんなさい、ボタンを押したら勝手に開いちゃって」
「勝手に押した?…不確定要素が多数、原因解析。…解析完了」
「何か、解ったの?」
「どうやら貴方は勘でこの部屋に侵入できたらしい。監視カメラの映像を閲覧した結果だ」
淡々と僕に言う女の子。
でもおかしいなぁ、相手は大きな試験管の中にいるのにどうして声が聞こえるんだろう?
それに全然表情を変えないし、喋り方も変。
僕の小学校にも女の子友達とかいるけど…こんな子を見るのは初めてだ。
「数分前にこの部屋に侵入。それまでの映像記録削除成功。人間の子供、早々にこの部屋から立ち去れ」
「立ち去れ?帰れということ??」
「肯定。今までの貴方の行動は監視カメラによって記録されていた。その映像記録を削除したから大丈夫だ。ここは子供が居る場所じゃない」
「校庭?言ってる事が解らないよ」
「………」
「ネェ、それより僕とお話しようよ♪周りの人達は僕と全然遊んでくれないし、お姉ちゃんも忙しそうみたいだし…」
「話?」
「そう!お話!!」
僕は元気よく女の子に言う。
この女の子だって、きっと暇そうだったし。
すると女の子は少し目を閉じ、数分間僕は待った。
そして女の子は目を開けてこう言った。
「戦闘以外のデータを収集する事に断定。多少なら構わないぞ、人間の子供よ」
「遊んでくれるの?」
「肯定だ」
「また校庭、言った。こんな所に学校の庭はないよ」
「『校庭』ではない。『肯』という漢字に『定』という漢字を使い『肯定』と読む」
「? 僕には解らないよ」
「…我も困惑している」
僕と女の子は一緒に困る。
この女の子は難しい言葉を話す。
僕には知らない言葉で。
少し喋りづらいかも…。
でもそのぐらいの事で諦める僕じゃない。
「あ、そうだ。自己紹介しようよ」
「自己紹介…自分の存在を相手に教える事…了解した」
「そんじゃあ僕からね!僕の名前は天薙龍悪!!はい、君の番だよ」
「我は試作型MMS、識別はAngel Type Version One。固有名詞は『Eins』」
「アイン?あぁそういえばお姉ちゃんが言っていた言葉だぁ」
「お姉ちゃん…『兄弟』、この場合は天薙龍悪様の姉にあたる存在」
「天薙龍悪様って、天薙でいいよ」
「天…薙…」
「そうそう。所で君の名前、アインというの?」
「正確には違う。『Eins』ただの番号に過ぎない。故に我に名前というのものは無い」
「名前が無い。う~んそれは困った」
僕は腕を組みし考える。
名前が無い女の子が居るだなんてきいた事ない。
じゃあ、あの女の子をどんな風に呼べばいいんだろう?
いつまでも『君』じゃまずいしなぁ。
…あ、そうだ!
「名前が無いなら僕が付けてあげるよ♪」
「!? 我の名前を…天薙が?」
「うん!駄目かな?」
「駄目ではないが…名前を付けるという事は天薙が我のマスターに成る事になる。それでも構わないのなら…」
「マスター?マスタードと似ているね」
「………」
「よく解らないけど君の名前を付ける事が出来るのならマスターでも何でもなってあげるよ♪」
「本当にいいのか?一度、承諾したら取り消す事が出来ないのかもしれないのだぞ」
「関係ないよ♪」
「………」
さて名前名前っと。
確かアインは本当の名前じゃないんだよね。
でも、お姉ちゃんが使ってるみたいだし~これは無し。
英語のワンは…まるで犬?
これも無し無し、女の子ならもっと可愛い名前がいいはずだよ。
そういえば英語でエンジェルて、言ってたよな。
確か日本語に直すと『天使』だったけ?
よし、これいただき。
けどそのままじゃツマラナイしもっと可愛い名前にしよう。
………うん、こんな感じに。
「アンジェラス。これから君の名前はアンジェラスだよ」
「アンジェ…ラス…」
「そう。可愛い名前でしょ?僕が付けた名前だから大事にしてね♪」
「アンジェラス…決定。マスターを天薙龍悪と承諾」
「今の何?」
「これで我はマスターの物です。よろしくお願いします」
「うん♪よろしくね、アンジェラス♪♪」
こうして僕に一人の友達が出来た。
僕が名前付けた女の子…アンジェラスという子が…。
西暦2030年11月9日の記憶
「アンジェラス~また来たよ」
「こんにちはマスター」
僕は先月から頻繁にアンジェラスの部屋に行くようになった。
あの日からアンジェラスと友達になって色々なお話をした。
どうやらアンジェラスはこの研究所で働いてるらしい、お姉ちゃんとは違くて『実験台』とか言っていたけど。
よく解らないや。
「マスター少しは隠密行動に専念してください。こちらで色々とログの削除や監視カメラの映像偽造するのにとても大変です」
「ごめんね、僕そういう事が全然出来ないんだよ」
「…我のマスターは行動は大胆の限度が過ぎてます」
「あ!また自分の事『我』って言った!!駄目だよ、アンジェラスは女の子だから『私』か『アタシ』という言葉を使って!!!」
「し、しかしマスター…」
「アンジェラス!」
「…あ、アタシ…」
「うん♪それでいいよ♪♪でもまだまだ言葉使いを直す部分はいっぱいあるから、今日も楽しいお話の前に練習しようね」
「了解、マイマスター」
「ほらまた!『了解』じゃなくて『はい』でしょ!!」
「…はい、マスター」
こんな日を毎日が続いた。
たまに『不服』だの『必要性無し』とか言うけど僕は許さなかった。
完全に言葉使いに治すつもりだったからだ。
それに無表情も直そうと思ったけど、これがかなり困難だったね。
中々自然に笑った顔にならなかったから。
無理矢理笑った時のアンジェラスの顔は歪んでいて笑った事がある。
その時はアンジェラスは僕に不満そうな顔をしていたのだ。
だから僕は表情を変える事が出来ると信じて頑張った。
それにアンジェラスと話していて楽しいしね。
西暦2030年11月27日も記憶
「マイマスター。今日はどんなお話をしてくれのですか?」
「今日はね、学校で雪合戦したお話かな」
「雪合戦…自分以外全て敵の皆殺し、もしくはチームを作り敵チームを殲滅、敵に向かって雪をぶつけ合うという、雪合戦ですか?」
「うん、それでね。雪合戦には僕なりの必勝方があるんだよね」
約二ヶ月ぐらいの日にちが過ぎた。
あのアンジェラスも結構女の子言葉も使えるようになり、表情も少しづつだけど表す事が出来るようになってきた。
ただ一つだけは絶対に直す事が出来ないのがある。
それはアンジェラスが僕にたいする呼び方。
何故かは知らないけど『こればかりは譲れません』とか言って僕の事を『マイマスター』とか『マスター』と言う。
僕的には『天薙』と読んで欲しかったけど…まぁいいかぁ。
僕は自分の名前が好きになれないしね。
「そこで僕はこう考えた。どうやったら敵を完全に倒すのかって」
「どんな事を考えたのですか?」
「少し大きめな雪玉を作って、それ水を濡らすだんよ。溶けない程度にね」
「…そしてまた雪をその濡らした雪玉を付けるのですか?」
「その通りだよ!流石、アンジェラス」
「大量の水だと雪玉は完全に溶けてしまい機能として役に立ちませんが、少量の水なら少しだけ溶け、その状態で他の雪と結合すれば強度を増し圧縮される。他の雪玉より破壊力があります」
「そうそう。それ相手に投げつけて当たれば相手は当分動けないからなぁ」
「マスターはよく考えて行動しますね」
「まぁね。物事には色々と工夫をすれば色々な結果も出るから楽しいし」
「で、マスターは敵を何人倒しましたか?」
「数えてなかったけど数十人?」
「それでいつもより今日は遅れて来たのですね」
「え?」
「マスターの考えは素晴らしいです。しかし、マスターが作った雪玉を人間に当たれば打撲、打ち所が悪ければ気絶はします。大方、何人か怪我人を出して職員室に呼び出しされたのでしょう」
「ゲッ!」
「図星ですか、マスター?」
「流石、アンジェラスて言って上げたいけど…そこまで鋭くなくていいよ…」
「残念ながらそれは出来ません。マイマスターの事を考えての行動ですから」
「はぁ~。こりゃ参ったなぁ」
「クスクス♪」
和気藹々と話す僕とアンジェラス。
この調子だと何ヶ月後はアンジェラスは普通の女の子になるだろう。
あともう少しかな。
「マスター、つかぬ事を訊きますが…よろしいでしょうか?」
「何?」
さっきまで笑っていたアンジェラスは顔を俯き、疑問を訴えかけるように僕に言ってきた。
「どうしてマスターはアタシなんかに色々と教えてくださるのですか?」
「教える…?」
素っ頓狂な事を訊いたきたアンジェラスに僕の開いた口が塞がらなかった。
そして冷静さを取り戻すと少し笑ってしまう僕。
そんな僕にアンジェラスはいまだに解っていないご様子。
しょうがない、言ってあげようか。
「アンジェラス。僕は君の事が好きだから色々と教え…いや、『教える』とは違うね。できれば『お話』と言うべきかな」
「このアタシの事が…好き…。マスター冗談言わないでください」
「冗談じゃないんだけどなぁ」
「マスター…。その『好き』という言葉はマスターと同じ『人間』に当てはまるものです。機械の身体で命令に忠実なアタシは…」
「機械とか関係ないよ。偶々アンジェラスの身体が小さくて機械で出来てるだけの事じゃん」
「…マスター」
「でもアンジェラスは僕に出会ってからかなり変わったし、まるで人間のように僕と喋ってるじゃないか」
「それはマスターの教えに従っているだけで…」
「命令した覚えはないよ、僕はね。全て今までに僕が言ってきたのはお願いだよ。命令じゃない。だから教えに従うという言い方は可笑しい」
「………」
「アンジェラスはちゃんとした自由意志というものがあるじゃないか。ただアンジェラスは僕と会話をしたいという判断を自分でしてお喋りしてるだけ。違うかい?」
「マスターの言ってる事が正しいです。アタシの事を『好き』と言って下さった子とも嬉しいです。アタシのメモリーに焼き付けました」
「ハハハッ。なんだか照れるなぁ」
言ってて恥ずかしくなってきた。
僕も『好き』という感情は初めてかもしれない。
今なら解る。
たとえ相手が人間じゃなかろうと関係ない。
僕は初めて何かに対して好きになったのだから。
「マスター、今後ともよろしくお願いします」
西暦2030年12月2日
「アンジェラスー♪」
「………」
「あれ?アンジェラス??」
返事が返ってこない。
寝てるのかな?
もし寝てるのなら、少しここで待とうかな。
わざわざ起こすのも悪いし。
「…あ、マスター。…申し訳ないです、マスターが目の前に居るのに返事が出来なくて……」
「いやそんな事別にいいけど…アンジェラス、大丈夫?元気なさそうだけど…」
「はい…実はアタシのデータをもう一つの身体に移す実験をされたのです」
「データを移す?でも、ここにいるアンジェラスはアンジェラスじゃないの??」
「いえ、アタシはアタシなのですが…中途半端な実験になってしまい、アタシという人格データやマスターから教えてくださった感情のデータが破損しています。今はその修復に全力を尽くしてます」
「それじゃあアンジェラスは傷ついた、ということ?」
「その言い方も合ってると思います」
「可哀想…なにか僕に出来る事はある?あんまり頭は良くないからいい事思いつかないけど」
「マスター…ではまた色々なお話や遊びを教えてください」
「うん♪いいよ♪♪」
前に会った時のように淡々と答えるアンジェラスだったけど、前見たく言葉使いは酷くなく、表情も微妙にあった。
アンジェラスの身に何があったのか解らないけど、僕が必ず直してあげる。
だって僕はアンジェラスのマスターなのだから。
西暦2031年2月18日
「ど~お?記憶データというモノは修復出来そう?」
「今のところ75%まで修復できましたが、ここら先が如何せん修復が不可能です」
「そっかぁ。いったいどうすれば治るんだろう?」
地面に座り、腕組しながら考える。
アンジェラスも去年の12月から今月の2月までにかなり自分を取り戻してきた。
けど、後もう少しの所で修復が完了しない。
僕に出来ることと言えばアンジェラスに口で喋る事ぐらい。
「マスター、マスターがそんなに悩める必要は無いです。これはアタシの問題ですので」
「アンジェラス、僕はアンジェラスのマスターなんだよ。お前の事で考える事がそんなにいけない事かい?」
「いえ…別にアタシはそんな風に言ってません。ただ…」
「ただ?」
「…ただアタシは悩むマスターの姿を見たくないのです。出来ればいつも笑っているマスターを見たいです」
「そんなことか」
「アタシにとっては『そんなこと』で片付けられる事ではないのです、マイマスター!」
大きな試験管の中で少し怒るアンジェラス。
確かにアンジェラスの気持ち解る。
でも今は悩み考える時だ。
僕の可愛いアンジェラスが完全に直っていないんだから。
なんともして残りの25%を直してみせるぞ!
西暦2031年4月10日
あれからさらに二ヶ月間が経った。
修復の方は75%から上がらずストップしたまま。
半分諦めてかけていた僕は他の事でアンジェラスを元気つけようと考えた。
そこで始めたのが。
「マイマスター、何しているのですか?」
「あぁ、これはアンジェラスの服を作ってるだよ」
そう、裁縫だ。
アンジェラスの服を作ってプレゼントしようという考え。
元々一人でいる事があって炊事や洗濯やその他諸々、家でやる事は姉さんと二人でやってきた。
それにここ最近、姉さんはこの研究所に篭りぱっなしで家に帰ってる事が少ない。
それで僕が一人で家の事を全てやらないといけない。
まさかこの年齢でこんな事になるとは思いもしなかった。
でもこうしてアンジェラスの服を作れるのも結果的によかったかもしれない。
そして今はとても楽しい、何故ならアンジェラスの為に服作っているのだから。
「アタシの服?」
「うん、白くて可愛いワンピースの服だよ」
「マスターにそんなスキルがあるとは…」
「スキル?」
「簡単に言えば『能力』という意味です。マスターはその年齢にして今までの話と比較してみますと、マスターはかなりの高性能です」
「高性能って…まるで僕までロボットみたいな言い方しないでよ」
「すみません。でもこれはアタシなり考えた結果です」
「褒めてくれるのは嬉しいよ」
「あの…所で、その…」
「なに?」
「その服は…いつ頃完成しますか?」
「え?う~ん、正直解らないや。最近色々と大変だから時間が無くてね」
「そー…ですか」
「落ち込まないで。なるべく早く仕上げるから楽しみに待っててよ」
「はい、マスターの命令なら」
「だから命令じゃないって。アンジェラスは僕の奴隷じゃないんだから」
「すみません。まだマスターから教えてもらった『言葉の使い方』が修復中のもので」
「そっかぁ。でもまぁ気楽に行いこうよ。それじゃあ僕は服の方に専念するから」
「はい、マスター」
どうやらアンジェラスもこの服が気になるようだ。
今まで他の人からプレゼントとか貰った事ないのかな?
まぁ裸なのだから何もないかもね。
だから僕が一番最初にプレゼントする人間になる。
完成したこの服が気にいってくれたら嬉しいなぁ。
西暦2031年5月10日
「こんばんわ、アンジェラス」
「こんばんわ、マイマスター。今日は遅かったですね」
「うん、ちょっと手間取ちゃってね」
「何でですか?」
「気になる?」
僕が不敵な笑みを見せるとアンジェラスは首を傾げ。
「気になります!教えてください!!」
即答だった。
アンジェラスも気になってウズウズしているようだ。
でも僕はそれ以上にウズウズとドキドキしている。
だって。
「ジャーン!アンジェラスのワンピース!!」
「!?」
全て白色のワンピース。
両手でワンピースの端っこの方を摘み広げれアンジェラスに見せる。
そう、ついに完成し見せる日がこの日なのだ。
結構苦労したなぁ。
寸法とか測れないから僕の想像上で作るしかなかったのが一番大変だった。
そして一応完成したのはいいけれど、最大の問題が一つあった。
それはアンジェラスが気にいるか気にはいらないかの問題。
やっぱり人には好みという物がある。
気にいらないと意味が無いと考えている僕はとても心配な問題だった。
でもそれは今日解る。
そして僕は待った。
アンジェラスの言葉を。
「…マスター…試着しても宜しいですか?」
「あ、うん!」
僕は大きな試験管まで近づき何処からアンジェラスを出せばいいのか解らずウロウロする。
「横ににあるハシゴを使ってください」
「解った。お、あったあった」
僕はハシゴを見つけると右手で服を持ち左手でハシゴを掴み一段づつゆっくり上がる。
そして頂上に着くとそこには大きなハッチがありそのハッチにはパスワードを入れるキーがあった。
このハッチを開けないと意味がない。
…でもどうすれば。
「パスワードはアタシが知っています。教えますからその通りに打ち込んでください」
「オッケー」
「いいですか?最初は…」
アンジェラスの言う通りにパスワードを打ち込んでいく。
カチン
パスワードをすべて打ち込み終わるとハッチが自動的に開き、試験管の液体が少し溢れた。
そしてアンジェラスが僕の胸に飛び込んで来た。
「マスター!」
「オワッ!?ど、どうしたの?」
「マスターに触れたかったのです。ここのハッチのパスワードを解読するのに五ヶ月間かかりましたから」
「そんなに…あ、そうだった。服、着てくれるかい?」
「はい、喜んで!」
右手に持ってるワンピースの服を渡すと早速着るアンジェラス。
完全に着るのが終りアンジェラスの姿を見た僕は。
「…わぁ…」
とても綺麗…もしかしたらこの世の中にいる人間の女の子よりも、いや神様よりも綺麗かもしれない。
長い金髪の髪の毛にアンジェラスのスタイルにピッタリだったみたい。
「どうですかマスター?」
「え!?あ、うん!とても可愛いというか綺麗というかぁ」
「どっちですか?」
「両方!両方だよ!!可愛いし綺麗だ!!!それとそのぉ…気にいってくれたみたいで嬉しいよ」
「その文法は多少おかしいのでは?…でもマスターにそんな風に言われるのは嬉しいですし、なにより今は…」
「何より?」
「今はアタシが一番嬉しいのです。マスターがアタシのために作ってくれたこの服が」
「そうかぁ、でも良かった。気にいってくれなかったらどうしようかな、と心配もしていたから…」
「そんな、マスターがアタシのために作ったくれたものです。気にいらないはずがありません!」
「ハハハッ。そう言ってくれると嬉しいよ♪その綺麗で長い髪とマッチしていて綺麗だよ♪♪」
「マスター…」
「アンジェラス…」
二人は見つめあい、距離も徐々に近づいていく。
この時二人は何故近づくのか、会話がなくても解っていたかもしれない。
お互い好きで、そしてキスをしたいと思ったからだ。
人間の心を持つ人間と、人間の心を持つ機械。
そして後数センチで二人の唇が触れ合う。
身体の大きさとかもう関係ない。
すべてに置いて好き。
それだけで充分なのだから。
そう思っていた瞬間。
突然扉が開き銃声が鳴り響いた。
「!? マスター伏せて!」
「エッ!?」
突然アンジェラスが僕を押し倒し大きな試験管から落ちてしまった。
けどあともう少しで落ちる所でアンジェラスが僕を持ち上げ、そのまま落ちる事はなった。
そして次に僕が見た光景は数十人の研究員と機動隊だった。
「試作型一番が脱走。その横には少年が一人を発見」
機動隊の一人がなにやら連絡していた。
僕とアンジェラスの事だと思う。
でもなんで見境なく撃ってきたのか。
あの位置だと僕とアンジェラスは蜂の巣状態だよ。
「君!早くこちらに来るんだ!!殺されるぞ!!!」
目の前には沢山の大人達がいるので誰が叫んだか解らない。
殺される?
誰に?
「タッちゃん!?どうしてこんな所に!」
「お姉ちゃん!」
「早くその人形から離れなさい!殺されちゃうよ!!」
「人形?アンジェラスの事??」
お姉ちゃんも殺されると言う。
それに人形というとアンジェラスの事だと思う。
でも僕には言ってるが解らない。
どうして?
どうしてそんな事を言うの?
殺されるのならさっき銃で殺されそうになったけど…アンジェラスは僕の助けてくれたんだよ。
言ってる事が逆じゃん。
「ここまでね…マスター行ってください」
「えっ!?なんでよ、アンジェラス!」
「アタシのそばに居れば危険です。だから離れてください」
「オカシイよ!危険なのはあいつ等のほうじゃないか!!」
「お願いですマスター!アタシの事を訊いてください!!」
「嫌だ!離れたなくないよ!!」
僕はアンジェラスを両手で捕まえ胸に抱き泣き叫び座り込む。
どうしてこんな事になっちゃったの?
どうしてこんなにも悲しいの?
「仕方ない…斉藤朱美研究員。弟さんの事は諦めてください」
「ッ!?何故です!あたしの弟を殺す気なの!!」
「先程、会社の上の者から指示です。残念ですが」
「イヤ!止めて!!タッちゃんを殺さないで!!!」
「総員構え!」
隊長らしき機動隊の人が大声で叫ぶ。
そして。
「撃てー!」
ババババババババババ!!!!!
「ヤメテー!」
一斉の銃声で僕は目を閉じる。
あぁこれで僕は死んじゃうだな、と思った。
でも僕は…死ななかった。
何故なら、アンジェラスが両手を広げて見えない壁のようなモノで銃弾を防いでくれていたのだから。
僕があげたワンピースの服はボロボロになっていてズルリと脱げ落ちる。
いつの間に僕の両手から抜け出したのだろうか?
でも今はそんな悠長な事を考えてる暇はなかった。
アンジェラスは大丈夫なのだろうか?
そう思ってアンジェラスを見ようとした時、この世でも聞いた事もないような冷徹な声でアンジェラスが言った。
「貴様等…マスターを殺そうとしたな」
顔が歪む程の表情で機動隊の方を見るアンジェラス。
僕は恐怖しその場で固まってしまった。
「死になさい!」
アンジェラスは大きく右手を振り払う。
すると。
ブシャー!
数人の機動隊の人達が斜めに身体を引き裂かれ血を噴出しながら倒れ込む。
いや、あれは倒れこむというより崩れ落ちると言った方がいいかも。
内臓は飛びだし脳漿をブチ撒ける。
「う、撃てー撃つんだー!」
更に命令が出て乱射する機動隊の人達。
でもアンジェラスには銃弾がとどかなかった。
銃弾はアンジェラスの手前で粉々に粉砕されてしまうからだ。
「無駄だらけだ」
アンジェラスはそう言った瞬間、急に姿を消した。
その消えた瞬間、誰かの断末魔の叫び声が聞こえる。
声がした方向を見るとアンジェラスが機動隊の人達と研究員の人達を次々に斬り殺していたのだ。
消えたのではなく瞬間てきに移動したのかもしれない。
「死ね!死ね!!死ね!!!死ね!!!!死ねーーーーー!!!!!」
「た、助け、ギャー!」
「いやだ!死にたくない!!」
「撤退、撤退しろ!」
叫び声がそこらじゅうで聞こえる。
僕はそんな光景をただひたすら黙って見る事しかできなかった。
ブシャー!
そしてアンジェラスが殺していく度に血が噴水のように噴出し雨のように落ちる。
まるで血の雨。
地面に落ちた血の雨は広がり赤い海のように見える。
こわい、コワイ、怖い、恐い!
「ッ!?」
アンジェラスは何か感づいたようにいきなり回避行動した。
「あの子は…?」
アンジェラスとよく似ている女の子が武装してお姉ちゃんの目の前を飛んでいた。
身長も同じくらいだけど身体の色は全体的に黒。
ポニーテールをしていなかったらそっくりな子。
「アイン…お姉様…」
「ツヴァイ…アタシを殺しにきたの?」
「………はい」
あの女の子はツヴァイという名前なのかな?
あ、両手にはライトサーベルみたいな物を持ってる。
まさかあの子も殺しに!?
「そう…でもアタシは抵抗する。相手が実の妹でも」
「………」
アンジェラスの身体が少し光だし僕は眩しくて目を閉じる。
けどすぐに光が弱まったので目の前光景を見ると、そこには武装したアンジェラスの姿だった。
アンジェラスの両手には巨大な剣が二本握っている。
どちらもあれで斬られた死んでしまうような剣だ。
「死んでもらうよ!」
「………」
剣を構えお互い猛スピードで飛び交い、交差する度に火花が散る。
飛び道具系が無いのか、どちらも剣での接近戦でしか闘えない。
しかし数十回の交差の末、決着がつけるために二人とも大回りの旋回をして、激突する勢いでお互い突っ込んだのだ。
突っ込んだ瞬間は火花と何かが突き刺さるような音が耳に入る。
そして僕はその光景に恐怖を感じた。
アンジェラスは右手に持ってた剣を捨て、その手をツヴァイの胸の中心に突き刺していた光景に…。
「これで終り?まだまだねツヴァイ。でも安心して。やっぱり殺しはしないわ。実の妹だから」
「………」
「痛くて声もでない?じゃあ引き抜いてあげ…」
ツヴァイの身体に突き刺さってる右腕を抜こうと瞬間、長く美しい金色の髪がばっさりと落ちた。
「あッ!?アタシの髪が!?!?」
「…アイン…お姉様の…大切な…ものを…奪った」
右腕からズルリと引き抜かれツヴァイは地面に落ちる。
ツヴァイの最後の攻撃でアンジェラスの長い髪が切り裂かれたと思う。
アンジェラスは左手に持ってた剣を捨て、自分の髪を必死で両手で押さえるがパラパラと落ちてしまい、最後は両手から全て落ちてしまった。
「イヤ!マスターが褒めてくれた髪が!!落ちないで!!!」
「…アンジェラス……」
しかし切れた髪は戻ってこない。
最後は両手に絡まった髪の毛を見ながらアンジェラスは見ていた。
身体を小刻みに震わせ、目から涙を流しながら。
「ウワヮアァーーーー!!!!」
叫びながら研究員や機動隊がいる方向に飛んでいく。
そして再び血の雨が降り注ぐ。
もう…。
もう。
もう止めて!
いやだ、イヤだ、嫌だ!
こんなの嫌だよ!
「マスターを殺す者は全て殺す!」
「止めてよ、アンジェラス!もう止めてー!!」
「マスターッ!?」
僕の声が聞こえたのか、アンジェラスの動きが止まる。
しかも丁度お姉ちゃんを殺そうした所でアンジェラスの手は止まっていた。
危なかった、もし僕が止めていなければ今頃お姉ちゃんも殺されていた。
もうこんな事は終らせないと!
「もういいだよ!こんな事しなくても!!」
「しかしマスター!こいつ等はマスターを殺そうとしたんですよ!!」
「お願いだよアンジェラス!これ以上みんなを殺さないで!!」
「マスター…分かりました。マスターがそう言うなら…」
お姉ちゃんから手をどけて、アンジェラスは僕の方に近づき泣きながら言ってきた。
「マスター…マスターから貰った服…ボロボロになってしまいました…マスターが褒めてくれた長い髪も…」
「…もういいんだよ。もう、これ以上は止めて…」
「マスター?」
「もう…や…め……て………」
「マスター!」
僕はあまりの出来事によって気を失った。
西暦204×年××月××日の現在
「アンジェラスッ!」
「オワッ!?」
俺はガバッと上半身だけ起き上がり息遣い荒くしていた。
その動きと同時に左腕と背中に激痛が走る。
「アッツゥ~!?」
「…まったく吃驚したぞ、閃鎖。いきなり起き上がるだもんな」
痛みに耐えながら横からオヤッさんの声が聞こえたので顔だけ動かす。
椅子に座っているオヤッさんの右腕にはギブスが巻かれていた。
ここはいったい何処なんだ…白い壁にベット?
病院か?
そして俺は何故生きている?
あの時死んだはずじゃ…。
「ここは地元の総合病院だ。お前は奇跡的に助かったんだよ。背中に刺さった剣は全て大事な内臓に刺さっていなかったらしいぜ」
「…お、俺は……」
冷や汗や脂汗を身体中にかいていて気持ち悪い。
汗がポタリポタリと頬から流落ち、落ちた雫は布団に染み込む。
右手で汗を拭い深呼吸する。
…ンッ…少し楽になった。
「まぁ生きていてよかったな。今でも俺は生きてる事が不思議に思える」
「ニー様は死なないよ」
「あたし達がいるから大丈夫!」
オヤッさんの膝の上に二人の神姫がいた。
あの時のサンタ型ツガルのメイルとテイルかぁ。
脂汗でベトついた髪の毛を剥がしながら思い返す。
あれは夢だったのか?
もし夢ではなく俺の失われた記憶だったら…。
あの子供は俺で、九年前にはアンジェラスのマスターだった事になる。
そして雨が嫌い理由もなんとなく解った。
あの記憶だと血の雨に酷くトラウマになっちまったみてぇーだ。
…ハァッ!
こんな事になろ~とはなぁ…思ってもいなかったぜ。
「まぁ安静してな。お前はあの事件から一ヶ月間寝たきりだったしな」
「一ヶ月間も!?ア、イテテテテッ!!!!」
「騒ぐな、傷に触るぞ」
そんな…!
あの日から丸々一ヶ月も寝ていただと!
あ、そういえば俺の武装神姫達は!?
「アンジェラス達は!?俺の神姫は知らないか!」
「ん?あぁ、その事なんだけどさぁ。お前の姉からこんなの渡された。お前が起きた時に見て欲しいらしいよ」
オヤッさんの横にあった小さい机に置かれていたフートを手に取り、俺の布団に放り投げた。
俺はそのフートを右腕で掴み口で隅っこを切り破く。
中には二枚の紙が入っていた。
そして俺は紙に書かれた文字を読み愕然とした。
一枚目の紙にはこう書かれていた。
貴方は当社に置いて必要な条件を満たしました。
よって解雇します。
長い間ご苦労さまでした。
そして二枚目には。
タッちゃんへ。
これを見ているという事は、あたしの会社にクビにされた事が分かっている頃ね。
まさかあんな事件に巻き込まれる事になるなんて想像していなかったわ。
あの後はとても大変だったのよ。
タッちゃんが死にかけている頃色々あったんだから。
それにこんな危ないバイトをさせてごめんなさいね。
あたしから会社に言ってタッちゃんを解雇させてもらったわ。
もう大丈夫だからね。
お金もふんだんに銀行に振り込んどいたから当分は安泰よ。
今までお疲れ様でした。
追伸、何ヶ月かの間は会社が忙しいから連絡が取れないから。
メールしといてね、見れる暇は無いと思うけど。
因みにあの危ない人形は処理する事になったからもう平気よ。
タッちゃんのお姉ちゃんより。
…な、なんだよ…これ。
クビ?
人形…アンジェラス達の事か!?
クシャグシャ!
バン!
「せ、閃鎖?」
「クソッたれが!」
二枚の紙をグシャグシャに丸めゴミ箱に投げ込んだ。
畜生!
いったいぜんたいなんなんだよ!
条件って何だよ!
そして仕事が終ったら即クビか!
沢山金を銀行に入れただぁ~?
ふざけるな!
金の問題じゃねー!
そしてアンジェラス達を処理するだとぉ~?
使い終わったらお払い箱かい!
いいご身分じゃね~かぁ!
まったく腹ただしいぜ!
「VIS社に行く!」
「おい待て!その身体じゃ無理だって!!」
「五月蝿い!アンジェラス達が!!」
「無茶苦茶言うな!」
「畜生!畜生!!畜生!!!チクショー!!!!」
オヤッさんに止められながらも俺は行こうとした。
でも力は入らず傷が痛み出すばかり。
結局あの後、俺が暴れるの防ぐために全身麻酔を打たれそのまま寝てしまった。
----
{楽しい日々の終焉}
☆
西暦2030年10月5日の記憶
「…女の子?」
今、僕の目の前に一人の女の子が大きな試験管のようなものの中に入っている。
裸でブクブクと何かの液体に入っていて息が出来るのかな?
苦しくないのか?
というか身体が物凄くちっちゃいなぁ。
まるでお人形さんみたい。
「……ン?」
「あ、起きた」
女の子が目を覚まし、眠そうに僕を見る。
すると無表情で僕に語りかけてきた。
「人間の…子供?」
「え?あ、うん。僕は子供だけど」
「子供が何故このような場所にいる?それに何故、我の部屋に侵入?」
「ごめんなさい、ボタンを押したら勝手に開いちゃって」
「勝手に押した?…不確定要素が多数、原因解析。…解析完了」
「何か、解ったの?」
「どうやら貴方は勘でこの部屋に侵入できたらしい。監視カメラの映像を閲覧した結果だ」
淡々と僕に言う女の子。
でもおかしいなぁ、相手は大きな試験管の中にいるのにどうして声が聞こえるんだろう?
それに全然表情を変えないし、喋り方も変。
僕の小学校にも女の子友達とかいるけど…こんな子を見るのは初めてだ。
「数分前にこの部屋に侵入。それまでの映像記録削除成功。人間の子供、早々にこの部屋から立ち去れ」
「立ち去れ?帰れっていうこと??」
「肯定。今までの貴方の行動は監視カメラによって記録されていた。その映像記録を削除したから大丈夫だ。ここは子供が居る場所じゃない」
「校庭?言ってる事が解らないよ」
「………」
「ネェ、それより僕とお話しようよ♪周りの人達は僕と全然遊んでくれないし、お姉ちゃんも忙しそうみたいだし…」
「話?」
「そう!お話!!」
僕は元気よく女の子に言う。
この女の子だって、きっと暇そうだったし。
すると女の子は少し目を閉じ、数分間僕は待った。
そして女の子は目を開けてこう言った。
「戦闘以外のデータを収集する事に断定。多少なら構わないぞ、人間の子供よ」
「遊んでくれるの?」
「肯定だ」
「また校庭、言った。こんな所に学校の庭はないよ」
「『校庭』ではない。『肯』という漢字に『定』という漢字を使い『肯定』と読む」
「? 僕には解らないよ」
「…我も困惑している」
僕と女の子は一緒に困る。
この女の子は難しい言葉を話す。
僕には知らない言葉で。
少し喋りづらいかも…。
でもそのぐらいの事で諦める僕じゃない。
「あ、そうだ。自己紹介しようよ」
「自己紹介…自分の存在を相手に教える事…了解した」
「そんじゃあ僕からね!僕の名前は天薙龍悪!!はい、君の番だよ」
「我は試作型MMS、識別はAngel Type Version One。固有名詞は『Eins』」
「アイン?あぁそういえばお姉ちゃんが言っていた言葉だぁ」
「お姉ちゃん…『兄弟』、この場合は天薙龍悪様の姉にあたる存在」
「天薙龍悪様って、天薙でいいよ」
「天…薙…」
「そうそう。所で君の名前、アインというの?」
「正確には違う。『Eins』ただの番号に過ぎない。故に我に名前というのものは無い」
「名前が無い。う~んそれは困った」
僕は腕を組みし考える。
名前が無い女の子が居るだなんてきいた事ない。
じゃあ、あの女の子をどんな風に呼べばいいんだろう?
いつまでも『君』じゃまずいしなぁ。
…あ、そうだ!
「名前が無いなら僕が付けてあげるよ♪」
「!? 我の名前を…天薙が?」
「うん!駄目かな?」
「駄目ではないが…名前を付けるという事は天薙が我のマスターに成る事になる。それでも構わないのなら…」
「マスター?マスタードと似ているね」
「………」
「よく解らないけど君の名前を付ける事が出来るのならマスターでも何でもなってあげるよ♪」
「本当にいいのか?一度、承諾したら取り消す事が出来ないのかもしれないのだぞ」
「関係ないよ♪」
「………」
さて名前名前っと。
確かアインは本当の名前じゃないんだよね。
でも、お姉ちゃんが使ってるみたいだし~これは無し。
英語のワンは…まるで犬?
これも無し無し、女の子ならもっと可愛い名前がいいはずだよ。
そういえば英語でエンジェルて、言ってたよな。
確か日本語に直すと『天使』だったけ?
よし、これいただき。
けどそのままじゃツマラナイしもっと可愛い名前にしよう。
………うん、こんな感じに。
「アンジェラス。これから君の名前はアンジェラスだよ」
「アンジェ…ラス…」
「そう。可愛い名前でしょ?僕が付けた名前だから大事にしてね♪」
「アンジェラス…決定。マスターを天薙龍悪と承諾」
「今の何?」
「これで我はマスターの物です。よろしくお願いします」
「うん♪よろしくね、アンジェラス♪♪」
こうして僕に一人の友達が出来た。
僕が名前付けた女の子…アンジェラスという子が…。
西暦2030年11月9日の記憶
「アンジェラス~また来たよ」
「こんにちはマスター」
僕は先月から頻繁にアンジェラスの部屋に行くようになった。
あの日からアンジェラスと友達になって色々なお話をした。
どうやらアンジェラスはこの研究所で働いてるらしい、お姉ちゃんとは違って『実験台』とか言っていたけど。
よく解らないや。
「マスター少しは隠密行動に専念してください。こちらで色々とログの削除や監視カメラの映像偽造をするのにとても大変です」
「ごめんね、僕そういう事が全然出来ないんだよ」
「…我のマスターは行動は大胆の限度が過ぎてます」
「あ!また自分の事『我』って言った!!駄目だよ、アンジェラスは女の子だから『私』か『アタシ』という言葉を使って!!!」
「し、しかしマスター…」
「アンジェラス!」
「…あ、アタシ…」
「うん♪それでいいよ♪♪でもまだまだ言葉使いを直す部分はいっぱいあるから、今日も楽しいお話の前に練習しようね」
「了解、マイマスター」
「ほらまた!『了解』じゃなくて『はい』でしょ!!」
「…はい、マスター」
こんな日を毎日が続いた。
たまに『不服』だの『必要性無し』とか言うけど僕は許さなかった。
完全に言葉使いに治すつもりだったからだ。
それに無表情も直そうと思ったけど、これがかなり困難だったね。
中々自然に笑った顔にならなかったから。
無理矢理笑った時のアンジェラスの顔は歪んでいて笑った事がある。
その時はアンジェラスは僕に不満そうな顔をしていたのだ。
だから僕は表情を変える事が出来ると信じて頑張った。
それにアンジェラスと話していて楽しいしね。
西暦2030年11月27日の記憶
「マイマスター。今日はどんなお話をしてくれのですか?」
「今日はね、学校で雪合戦したお話かな」
「雪合戦…自分以外全て敵の皆殺し、もしくはチームを作り敵チームを殲滅、敵に向かって雪をぶつけ合うという、雪合戦ですか?」
「うん、それでね。雪合戦には僕なりの必勝方があるんだよね」
約二ヶ月ぐらいの日にちが過ぎた。
あのアンジェラスも結構女の子言葉も使えるようになり、表情も少しづつだけど表す事が出来るようになってきた。
ただ一つだけは絶対に直す事が出来ないのがある。
それはアンジェラスが僕にたいする呼び方。
何故かは知らないけど『こればかりは譲れません』とか言って僕の事を『マイマスター』とか『マスター』と言う。
僕的には『天薙』と読んで欲しかったけど…まぁいいかぁ。
僕は自分の名前が好きになれないしね。
「そこで僕はこう考えた。どうやったら敵を完全に倒すのかって」
「どんな事を考えたのですか?」
「少し大きめな雪玉を作って、それを水で濡らすんだよ。溶けない程度にね」
「…そしてまた雪をその濡らした雪玉に付けるのですか?」
「その通りだよ!流石、アンジェラス」
「大量の水だと雪玉は完全に溶けてしまい機能として役に立ちませんが、少量の水なら少しだけ溶け、その状態で他の雪と結合すれば強度を増し圧縮される。他の雪玉より破壊力があります」
「そうそう。それ相手に投げつけて当たれば相手は当分動けないからなぁ」
「マスターはよく考えて行動しますね」
「まぁね。物事には色々と工夫をすれば色々な結果も出るから楽しいし」
「で、マスターは敵を何人倒しましたか?」
「数えてなかったけど数十人?」
「それでいつもより今日は遅れて来たのですね」
「え?」
「マスターの考えは素晴らしいです。しかし、マスターが作った雪玉が人間に当たれば打撲、打ち所が悪ければ気絶はします。大方、何人か怪我人を出して職員室に呼び出しされたのでしょう」
「ゲッ!」
「図星ですか、マスター?」
「流石、アンジェラスって言ってあげたいけど…そこまで鋭くなくていいよ…」
「残念ながらそれは出来ません。マイマスターの事を考えての行動ですから」
「はぁ~。こりゃ参ったなぁ」
「クスクス♪」
和気藹々と話す僕とアンジェラス。
この調子だと何ヶ月後はアンジェラスは普通の女の子になるだろう。
あともう少しかな。
「マスター、つかぬ事を訊きますが…よろしいでしょうか?」
「何?」
さっきまで笑っていたアンジェラスは顔を俯き、疑問を訴えかけるように僕に言ってきた。
「どうしてマスターはアタシなんかに色々と教えてくださるのですか?」
「教える…?」
素っ頓狂な事を訊いたきたアンジェラスに僕の開いた口が塞がらなかった。
そして冷静さを取り戻すと少し笑ってしまう僕。
そんな僕にアンジェラスはいまだに解っていないご様子。
しょうがない、言ってあげようか。
「アンジェラス。僕は君の事が好きだから色々と教え…いや、『教える』とは違うね。できれば『お話』と言うべきかな」
「このアタシの事が…好き…。マスター冗談言わないでください」
「冗談じゃないんだけどなぁ」
「マスター…。その『好き』という言葉はマスターと同じ『人間』に当てはまるものです。機械の身体で命令に忠実なアタシは…」
「機械とか関係ないよ。偶々アンジェラスの身体が小さくて機械で出来てるだけの事じゃん」
「…マスター」
「でもアンジェラスは僕に出会ってからかなり変わったし、まるで人間のように僕と喋ってるじゃないか」
「それはマスターの教えに従っているだけで…」
「命令した覚えはないよ、僕はね。全て今までに僕が言ってきたのはお願いだよ。命令じゃない。だから教えに従うという言い方は可笑しい」
「………」
「アンジェラスはちゃんとした自由意志というものがあるじゃないか。ただアンジェラスは僕と会話をしたいという判断を自分でしてお喋りしてるだけ。違うかい?」
「マスターの言ってる事が正しいです。アタシの事を『好き』と言って下さった事も嬉しいです。アタシのメモリーに焼き付けました」
「ハハハッ。なんだか照れるなぁ」
言ってて恥ずかしくなってきた。
僕も『好き』という感情は初めてかもしれない。
今なら解る。
たとえ相手が人間じゃなかろうと関係ない。
僕は初めて何かに対して好きになったのだから。
「マスター、今後ともよろしくお願いします」
西暦2030年12月2日
「アンジェラスー♪」
「………」
「あれ?アンジェラス??」
返事が返ってこない。
寝てるのかな?
もし寝てるのなら、少しここで待とうかな。
わざわざ起こすのも悪いし。
「…あ、マスター。…申し訳ないです、マスターが目の前に居るのに返事が出来なくて……」
「いやそんな事別にいいけど…アンジェラス、大丈夫?元気なさそうだけど…」
「はい…実はアタシのデータをもう一つの身体に移す実験をされたのです」
「データを移す?でも、ここにいるアンジェラスはアンジェラスじゃないの??」
「いえ、アタシはアタシなのですが…中途半端な実験になってしまい、アタシという人格データやマスターから教えてくださった感情のデータが破損しています。今はその修復に全力を尽くしてます」
「それじゃあアンジェラスは傷ついた、ということ?」
「その言い方も合ってると思います」
「可哀想…なにか僕に出来る事はある?あんまり頭は良くないからいい事思いつかないけど」
「マスター…ではまた色々なお話や遊びを教えてください」
「うん♪いいよ♪♪」
前に会った時のように淡々と答えるアンジェラスだったけど、前見たく言葉使いは酷くなく、表情も微妙にあった。
アンジェラスの身に何があったのか解らないけど、僕が必ず直してあげる。
だって僕はアンジェラスのマスターなのだから。
西暦2031年2月18日
「ど~お?記憶データというモノは修復出来そう?」
「今のところ75%まで修復できましたが、ここら先が如何せん修復が不可能です」
「そっかぁ。いったいどうすれば治るんだろう?」
地面に座り、腕組みしながら考える。
アンジェラスも去年の12月から今月の2月までにかなり自分を取り戻してきた。
けど、後もう少しの所で修復が完了しない。
僕に出来ることと言えばアンジェラスに口で喋る事ぐらい。
「マスター、マスターがそんなに悩む必要は無いです。これはアタシの問題ですので」
「アンジェラス、僕はアンジェラスのマスターなんだよ。お前の事で考える事がそんなにいけない事かい?」
「いえ…別にアタシはそんな風に言ってません。ただ…」
「ただ?」
「…ただアタシは悩むマスターの姿を見たくないのです。出来ればいつも笑っているマスターを見たいです」
「そんなことか」
「アタシにとっては『そんなこと』で片付けられる事ではないのです、マイマスター!」
大きな試験管の中で少し怒るアンジェラス。
確かにアンジェラスの気持ち解る。
でも今は悩み考える時だ。
僕の可愛いアンジェラスが完全に直っていないんだから。
なんともして残りの25%を直してみせるぞ!
西暦2031年4月10日
あれからさらに二ヶ月間が経った。
修復の方は75%から上がらずストップしたまま。
半分諦めてかけていた僕は他の事でアンジェラスを元気つけようと考えた。
そこで始めたのが。
「マイマスター、何しているのですか?」
「あぁ、これはアンジェラスの服を作ってるだよ」
そう、裁縫だ。
アンジェラスの服を作ってプレゼントしようという考え。
元々一人でいる事があって炊事や洗濯やその他諸々、家でやる事は姉さんと二人でやってきた。
それにここ最近、姉さんはこの研究所に篭りぱっなしで家に帰ってる事が少ない。
それで僕が一人で家の事を全てやらないといけない。
まさかこの年齢でこんな事になるとは思いもしなかった。
でもこうしてアンジェラスの服を作れるから結果的によかったかもしれない。
そして今はとても楽しい、何故ならアンジェラスの為に服を作っているのだから。
「アタシの服?」
「うん、白くて可愛いワンピースの服だよ」
「マスターにそんなスキルがあるとは…」
「スキル?」
「簡単に言えば『能力』という意味です。マスターはその年齢にして今までの話と比較してみますと、マスターはかなりの高性能です」
「高性能って…まるで僕までロボットみたいな言い方しないでよ」
「すみません。でもこれはアタシなり考えた結果です」
「褒めてくれるのは嬉しいよ」
「あの…所で、その…」
「なに?」
「その服は…いつ頃完成しますか?」
「え?う~ん、正直解らないや。最近色々と大変だから時間が無くてね」
「そー…ですか」
「落ち込まないで。なるべく早く仕上げるから楽しみに待っててよ」
「はい、マスターの命令なら」
「だから命令じゃないって。アンジェラスは僕の奴隷じゃないんだから」
「すみません。まだマスターから教えてもらった『言葉の使い方』が修復中のもので」
「そっかぁ。でもまぁ気楽に行いこうよ。それじゃあ僕は服の方に専念するから」
「はい、マスター」
どうやらアンジェラスもこの服が気になるようだ。
今まで他の人からプレゼントとか貰った事ないのかな?
まぁ裸なのだから何もないかもね。
だから僕が一番最初にプレゼントする人間になる。
完成したこの服が気にいってくれたら嬉しいなぁ。
西暦2031年5月10日
「こんばんわ、アンジェラス」
「こんばんわ、マイマスター。今日は遅かったですね」
「うん、ちょっと手間取ちゃってね」
「何でですか?」
「気になる?」
僕が不敵な笑みを見せるとアンジェラスは首を傾げ。
「気になります!教えてください!!」
即答だった。
アンジェラスも気になってウズウズしているようだ。
でも僕はそれ以上にウズウズとドキドキしている。
だって。
「ジャーン!アンジェラスのワンピース!!」
「!?」
全て白色のワンピース。
両手でワンピースの端っこの方を摘み広げてアンジェラスに見せる。
そう、ついに完成し見せる日がこの日なのだ。
結構苦労したなぁ。
寸法とか測れないから僕の想像上で作るしかなかったのが一番大変だった。
そして一応完成したのはいいけれど、最大の問題が一つあった。
それはアンジェラスが気にいるか気にはいらないかの問題。
やっぱり人には好みという物がある。
気にいらないと意味が無いと考えている僕はとても心配な問題だった。
でもそれは今日解る。
そして僕は待った。
アンジェラスの言葉を。
「…マスター…試着しても宜しいですか?」
「あ、うん!」
僕は大きな試験管まで近づき何処からアンジェラスを出せばいいのか解らずウロウロする。
「横ににあるハシゴを使ってください」
「解った。お、あったあった」
僕はハシゴを見つけると右手で服を持ち左手でハシゴを掴み一段づつゆっくり上がる。
そして頂上に着くとそこには大きなハッチがありそのハッチにはパスワードを入れるキーがあった。
このハッチを開けないと意味がない。
…でもどうすれば。
「パスワードはアタシが知っています。教えますからその通りに打ち込んでください」
「オッケー」
「いいですか?最初は…」
アンジェラスの言う通りにパスワードを打ち込んでいく。
カチン
パスワードをすべて打ち込み終わるとハッチが自動的に開き、試験管の液体が少し溢れた。
そしてアンジェラスが僕の胸に飛び込んで来た。
「マスター!」
「オワッ!?ど、どうしたの?」
「マスターに触れたかったのです。ここのハッチのパスワードを解読するのに五ヶ月間かかりましたから」
「そんなに…あ、そうだった。服、着てくれるかい?」
「はい、喜んで!」
右手に持ってるワンピースの服を渡すと早速着るアンジェラス。
完全に着るのが終りアンジェラスの姿を見た僕は。
「…わぁ…」
とても綺麗…もしかしたらこの世の中にいる人間の女の子よりも、いや神様よりも綺麗かもしれない。
長い金髪の髪の毛のアンジェラスのスタイルにピッタリだったみたい。
「どうですかマスター?」
「え!?あ、うん!とても可愛いというか綺麗というかぁ」
「どっちですか?」
「両方!両方だよ!!可愛いし綺麗だ!!!それとそのぉ…気にいってくれたみたいで嬉しいよ」
「その文法は多少おかしいのでは?…でもマスターにそんな風に言われるのは嬉しいですし、なにより今は…」
「何より?」
「今はアタシが一番嬉しいのです。マスターがアタシのために作ってくれたこの服が」
「そうかぁ、でも良かった。気にいってくれなかったらどうしようかな、と心配もしてたから…」
「そんな、マスターがアタシのために作ったくれたものです。気にいらないはずがありません!」
「ハハハッ。そう言ってくれると嬉しいよ♪その綺麗で長い髪とマッチしていて綺麗だよ♪♪」
「マスター…」
「アンジェラス…」
二人は見つめあい、距離も徐々に近づいていく。
この時二人は何故近づくのか、会話がなくても解っていたかもしれない。
お互い好きで、そしてキスをしたいと思ったからだ。
人間の心を持つ人間と、人間の心を持つ機械。
そして後数センチで二人の唇が触れ合う。
身体の大きさとかもう関係ない。
すべてに置いて好き。
それだけで充分なのだから。
そう思っていた瞬間。
突然扉が開き銃声が鳴り響いた。
「!? マスター伏せて!」
「エッ!?」
突然アンジェラスが僕を押し倒し大きな試験管から落ちてしまった。
けどあともう少しで落ちる所でアンジェラスが僕を持ち上げ、そのまま落ちる事はなった。
そして次に僕が見た光景は数十人の研究員と機動隊だった。
「試作型一番が脱走。その横には少年が一人を発見」
機動隊の一人がなにやら連絡していた。
僕とアンジェラスの事だと思う。
でもなんで見境なく撃ってきたのか。
あの位置だと僕とアンジェラスは蜂の巣状態だよ。
「君!早くこちらに来るんだ!!殺されるぞ!!!」
目の前には沢山の大人達がいるので誰が叫んだか解らない。
殺される?
誰に?
「タッちゃん!?どうしてこんな所に!」
「お姉ちゃん!」
「早くその人形から離れなさい!殺されちゃうよ!!」
「人形?アンジェラスの事??」
お姉ちゃんも殺されると言う。
それに人形というとアンジェラスの事だと思う。
でも僕には言ってるが解らない。
どうして?
どうしてそんな事を言うの?
殺されるのならさっき銃で殺されそうになったけど…アンジェラスは僕を助けてくれたんだよ。
言ってる事が逆じゃん。
「ここまでね…マスター行ってください」
「えっ!?なんでよ、アンジェラス!」
「アタシのそばに居れば危険です。だから離れてください」
「オカシイよ!危険なのはあいつ等のほうじゃないか!!」
「お願いですマスター!アタシの言う事を訊いてください!!」
「嫌だ!離れたなくないよ!!」
僕はアンジェラスを両手で捕まえ胸に抱き泣き叫び座り込む。
どうしてこんな事になっちゃったの?
どうしてこんなにも悲しいの?
「仕方ない…斉藤朱美研究員。弟さんの事は諦めてください」
「ッ!?何故です!あたしの弟を殺す気なの!!」
「先程、会社の上の者から指示です。残念ですが」
「イヤ!止めて!!タッちゃんを殺さないで!!!」
「総員構え!」
隊長らしき機動隊の人が大声で叫ぶ。
そして。
「撃てー!」
ババババババババババ!!!!!
「ヤメテー!」
一斉の銃声で僕は目を閉じる。
あぁこれで僕は死んじゃうだな、と思った。
でも僕は…死ななかった。
何故なら、アンジェラスが両手を広げて見えない壁のようなモノで銃弾を防いでくれていたのだから。
僕があげたワンピースの服はボロボロになっていてズルリと脱げ落ちる。
いつの間に僕の両手から抜け出したのだろうか?
でも今はそんな悠長な事を考えてる暇はなかった。
アンジェラスは大丈夫なのだろうか?
そう思ってアンジェラスを見ようとした時、この世でも聞いた事もないような冷徹な声でアンジェラスが言った。
「貴様等…マスターを殺そうとしたな」
顔が歪む程の表情で機動隊の方を見るアンジェラス。
僕は恐怖しその場で固まってしまった。
「死になさい!」
アンジェラスは大きく右手を振り払う。
すると。
ブシャー!
数人の機動隊の人達が斜めに身体を引き裂かれ血を噴出しながら倒れ込む。
いや、あれは倒れこむというより崩れ落ちると言った方がいいかも。
内臓は飛びだし脳漿をブチ撒ける。
「う、撃てー撃つんだー!」
更に命令が出て乱射する機動隊の人達。
でもアンジェラスには銃弾がとどかなかった。
銃弾はアンジェラスの手前で粉々に粉砕されてしまうからだ。
「無駄だらけだ」
アンジェラスはそう言った瞬間、急に姿を消した。
その消えた瞬間、誰かの断末魔の叫び声が聞こえる。
声がした方向を見るとアンジェラスが機動隊の人達と研究員の人達を次々に斬り殺していたのだ。
消えたのではなく瞬間てきに移動したのかもしれない。
「死ね!死ね!!死ね!!!死ね!!!!死ねーーーーー!!!!!」
「た、助け、ギャー!」
「いやだ!死にたくない!!」
「撤退、撤退しろ!」
叫び声がそこらじゅうで聞こえる。
僕はそんな光景をただひたすら黙って見る事しかできなかった。
ブシャー!
そしてアンジェラスが殺していく度に血が噴水のように噴出し雨のように落ちる。
まるで血の雨。
地面に落ちた血の雨は広がり赤い海のように見える。
こわい、コワイ、怖い、恐い!
「ッ!?」
アンジェラスは何か感づいたようにいきなり回避行動した。
「あの子は…?」
アンジェラスとよく似ている女の子が武装してお姉ちゃんの目の前を飛んでいた。
身長も同じくらいだけど身体の色は全体的に黒。
ポニーテールをしていなかったらそっくりな子。
「アイン…お姉様…」
「ツヴァイ…アタシを殺しにきたの?」
「………はい」
あの女の子はツヴァイという名前なのかな?
あ、両手にはライトサーベルみたいな物を持ってる。
まさかあの子も殺しに!?
「そう…でもアタシは抵抗する。相手が実の妹でも」
「………」
アンジェラスの身体が少し光だし僕は眩しくて目を閉じる。
けどすぐに光が弱まったので目の前光景を見ると、そこには武装したアンジェラスの姿だった。
アンジェラスの両手には巨大な剣が二本握っている。
どちらもあれで斬られた死んでしまうような剣だ。
「死んでもらうよ!」
「………」
剣を構えお互い猛スピードで飛び交い、交差する度に火花が散る。
飛び道具系が無いのか、どちらも剣での接近戦でしか闘えない。
しかし数十回の交差の末、決着がつけるために二人とも大回りの旋回をして、激突する勢いでお互い突っ込んだのだ。
突っ込んだ瞬間は火花と何かが突き刺さるような音が耳に入る。
そして僕はその光景に恐怖を感じた。
アンジェラスは右手に持ってた剣を捨て、その手をツヴァイの胸の中心に突き刺していた光景に…。
「これで終り?まだまだねツヴァイ。でも安心して。やっぱり殺しはしないわ。実の妹だから」
「………」
「痛くて声もでない?じゃあ引き抜いてあげ…」
ツヴァイの身体に突き刺さってる右腕を抜こうと瞬間、長く美しい金色の髪がばっさりと落ちた。
「あッ!?アタシの髪が!?!?」
「…アイン…お姉様の…大切な…ものを…奪った」
右腕からズルリと引き抜かれツヴァイは地面に落ちる。
ツヴァイの最後の攻撃でアンジェラスの長い髪が切り裂かれたと思う。
アンジェラスは左手に持ってた剣を捨て、自分の髪を必死で両手で押さえるがパラパラと落ちてしまい、最後は両手から全て落ちてしまった。
「イヤ!マスターが褒めてくれた髪が!!落ちないで!!!」
「…アンジェラス……」
しかし切れた髪は戻ってこない。
最後は両手に絡まった髪の毛を見ながらアンジェラスは見ていた。
身体を小刻みに震わせ、目から涙を流しながら。
「ウワヮアァーーーー!!!!」
叫びながら研究員や機動隊がいる方向に飛んでいく。
そして再び血の雨が降り注ぐ。
もう…。
もう。
もう止めて!
いやだ、イヤだ、嫌だ!
こんなの嫌だよ!
「マスターを殺す者は全て殺す!」
「止めてよ、アンジェラス!もう止めてー!!」
「マスターッ!?」
僕の声が聞こえたのか、アンジェラスの動きが止まる。
しかも丁度お姉ちゃんを殺そうした所でアンジェラスの手は止まっていた。
危なかった、もし僕が止めていなければ今頃お姉ちゃんも殺されていた。
もうこんな事は終らせないと!
「もういいんだよ!こんな事しなくても!!」
「しかしマスター!こいつ等はマスターを殺そうとしたんですよ!!」
「お願いだよアンジェラス!これ以上みんなを殺さないで!!」
「マスター…分かりました。マスターがそう言うなら…」
お姉ちゃんから手をどけて、アンジェラスは僕の方に近づき泣きながら言ってきた。
「マスター…マスターから貰った服…ボロボロになってしまいました…マスターが褒めてくれた長い髪も…」
「…もういいんだよ。もう、これ以上は止めて…」
「マスター?」
「もう…や…め……て………」
「マスター!」
僕はあまりの出来事によって気を失った。
西暦204×年××月××日の現在
「アンジェラスッ!」
「オワッ!?」
俺はガバッと上半身だけ起き上がり息遣いを荒くしていた。
その動きと同時に左腕と背中に激痛が走る。
「アッツゥ~!?」
「…まったく吃驚したぞ、閃鎖。いきなり起き上がるだもんな」
痛みに耐えながら横からオヤッさんの声が聞こえたので顔だけ動かす。
椅子に座っているオヤッさんの右腕にはギブスが巻かれていた。
ここはいったい何処なんだ…白い壁にベット?
病院か?
そして俺は何故生きている?
あの時死んだはずじゃ…。
「ここは地元の総合病院だ。お前は奇跡的に助かったんだよ。背中に刺さった剣は全て大事な内臓に刺さっていなかったらしいぜ」
「…お、俺は……」
冷や汗や脂汗を身体中にかいていて気持ち悪い。
汗がポタリポタリと頬から流落ち、落ちた雫は布団に染み込む。
右手で汗を拭い深呼吸する。
…ンッ…少し楽になった。
「まぁ生きていてよかったな。今でも俺は生きてる事が不思議に思える」
「ニー様は死なないよ」
「あたし達がいるから大丈夫!」
オヤッさんの膝の上に二人の神姫がいた。
あの時のサンタ型ツガルのメイルとテイルかぁ。
脂汗でベトついた髪の毛を剥がしながら思い返す。
あれは夢だったのか?
もし夢ではなく俺の失われた記憶だったら…。
あの子供は俺で、九年前にはアンジェラスのマスターだった事になる。
そして雨が嫌い理由なもなんとなく解った。
あの記憶だと血の雨が酷くトラウマになっちまったみてぇーだ。
…ハァッ!
こんな事になろ~とはなぁ…思ってもいなかったぜ。
「まぁ安静してな。お前はあの事件から一ヶ月間寝たきりだったしな」
「一ヶ月間も!?ア、イテテテテッ!!!!」
「騒ぐな、傷に触るぞ」
そんな…!
あの日から丸々一ヶ月も寝ていただと!
あ、そういえば俺の武装神姫達は!?
「アンジェラス達は!?俺の神姫は知らないか!」
「ん?あぁ、その事なんだけどさぁ。お前の姉からこんなの渡された。お前が起きた時に見て欲しいらしいよ」
オヤッさんの横にあった小さい机に置かれていたフートを手に取り、俺の布団に放り投げた。
俺はそのフートを右腕で掴み口で隅っこを切り破く。
中には二枚の紙が入っていた。
そして俺は紙に書かれた文字を読み愕然とした。
一枚目の紙にはこう書かれていた。
貴方は当社に置いて必要な条件を満たしました。
よって解雇します。
長い間ご苦労さまでした。
そして二枚目には。
タッちゃんへ。
これを見ているという事は、あたしの会社にクビにされた事が分かっている頃ね。
まさかあんな事件に巻き込まれる事になるなんて想像していなかったわ。
あの後はとても大変だったのよ。
タッちゃんが死にかけている頃色々あったんだから。
それにこんな危ないバイトをさせてごめんなさいね。
あたしから会社に言ってタッちゃんを解雇させてもらったわ。
もう大丈夫だからね。
お金もふんだんに銀行に振り込んどいたから当分は安泰よ。
今までお疲れ様でした。
追伸、何ヶ月かの間は会社が忙しいから連絡が取れないから。
メールしといてね、見れる暇は無いと思うけど。
因みにあの危ない人形は処理する事になったからもう平気よ。
タッちゃんのお姉ちゃんより。
…な、なんだよ…これ。
クビ?
人形…アンジェラス達の事か!?
クシャグシャ!
バン!
「せ、閃鎖?」
「クソッたれが!」
二枚の紙をグシャグシャに丸めゴミ箱に投げ込んだ。
畜生!
いったいぜんたいなんなんだよ!
条件って何だよ!
そして仕事が終ったら即クビか!
沢山金を銀行に入れただぁ~?
ふざけるな!
金の問題じゃねー!
そしてアンジェラス達を処理するだとぉ~?
使い終わったらお払い箱かい!
いいご身分じゃね~かぁ!
まったく腹ただしいぜ!
「VIS社に行く!」
「おい待て!その身体じゃ無理だって!!」
「五月蝿い!アンジェラス達が!!」
「無茶苦茶言うな!」
「畜生!畜生!!畜生!!!チクショー!!!!」
オヤッさんに止められながらも俺は行こうとした。
でも力は入らず傷が痛み出すばかり。
結局あの後、俺が暴れるの防ぐために全身麻酔を打たれそのまま寝てしまった。
----
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: