「固執」(2006/11/06 (月) 00:00:12) の最新版変更点
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*「固執」
仰向けに寝ながら、神姫スケール換算地上千メートルを、高速巡行するマイティ。
手足には軽量で対実弾防御力のあるカサハラ製鉄ヴァッフェシリーズのプロテクターを着込み、クリティカルな胸部には同根装備のアーマー、頭にはヘッドセンサー・アネーロをかぶる。
右手はミニガンではなく、アルヴォPDW9。アーンヴァルの実弾射撃武装はどちらもケースレス方式をとっている。飛び出した薬莢が飛行機動を阻害する恐れがあるためだ。とくに高速移動時にその弊害が見られ、だからミニガンは飛行時に正面へ撃つことができない。
背中のウイングユニットには、ありとあらゆる推進装備がくっつけられている。エクステンドブースター、ランディングギア。そしてヴァッフェシリーズのスラスター。融通の利く動きはほとんどできないが、一方向に集中したノズルは莫大な推進力を生み出す。アラエル戦のバトルプルーブを経て、各パーツの配置が一新され、よりパワーロスが少なくなった。
翼の一方に、バランスの低下を承知で、LC3レーザーライフルを搭載していた。この装備方法では飛んでいる方向にしか撃てない。巡行武装だと割り切っている。
ここはホビーショップ・エルゴの対戦ブースである。このたびの大改装でセカンドリーグにも参加できるようになり、マスターは二駅をまたぐ必要がなくなったのだった。
スペースでは対戦相手がいない場合、こうして一人でテストモードが出きる。トレーニングマシンが普及してから使われなくなった機能だが、現在でも律儀に入れられている。
「どうしてトレーニングマシン、使わないんです?」
店長が訊いた時、
「実戦に使われるフィールドの方が役に立つ」
とマスターは答えた。
確かにトレーニングマシンと実際に試合に使用されるフィールドには若干の差がある。しかしそれは本当に若干なもので、だから皆将来的な経費が押さえられるトレーニングマシンを買うのである。
マスターの家にも無論、トレ-ニングマシンはある。
「マイティ、どうだ」
バーチャル空間の中を飛び回るマイティに話し掛ける。
『やっぱり空気の重さが違います。マシンでできたような無茶な機動が、たぶん出来ません』
バトルスペースのマシンパワーに、やはりトレーニングマシンはかなわない。戦闘中はだいたい高速で動く神姫には、この差は場合によっては致命的な差となる。
マスターもマイティも、今、一種のマンネリを覚えていた。
バトルの成績は悪くはない。ファーストへの昇格はいまだ高嶺の花だが、それでも順当に戦えている。
バトルのアクセス料金、マイティの武装代、メンテナンス料金、武装神姫というカテゴリにかかる料金はすべて、いわゆるファイトマネーでまなかうことが出来た。
余談ではあるが、この「勝てばそれなりに報酬がもらえる」という制度が実現したことが、武装神姫の世界的な発展につながった一翼を担っていると言っても過言ではない。実現にあたっては「ゲームがけがれる」とか「ギャンブルだ」などという辛辣な批判ももちろんあった。
しかし結果として、良い方向に実現した。
第三次世界大戦も起こらなかったし、宇宙人の侵略もなかったのだ。ゲームに報酬が設定された所で、なんのことがあろうか。と、人々が思ったかどうかは分からないが。
閑話休題。
ともかくそれでも、何か初期のキラキラした感覚が鈍くなってきていることは、お互いに分かっていた。
その対処法が分からない。
結局問題は棚上げで、今に至る。
『Here comes a new challenger』
ジャッジAIが挑戦者を告げる。
テストモード中はオンラインオフラインに関わらず、対戦受付はオープンにしてある。当たり前だがシャットアウト機能は無い。対戦スペースにいるのはすべからく対戦許可とみなされるのだ。
相手はオンラインからだった。
『よろしくお願いします』
当り障りの無い挨拶。女性らしい。
「よろしく」
マスターは適当に答える。
相手はセカンド。大体自分と同じような戦績。いや。
最近特に伸びてきている。
マイティがいったん待機スペースへとリターン。
『どうします?』
「例の機能を使ってみようと思う」
『じゃあ、初期装備はこのままですね』
「なるべく広いフィールドの方が良いが、狭くてもすぐ対応できる」
『分かりました』
マイティ、準備完了。
すぐに周囲のポリゴンがばらばらになり、フィールドが再構成される。
『バトルスタート。フィールド・地下空間01』
広大な空洞。高さもあるが、下は一面湖だった。所々に浮島があり、またいたるところに石の柱が立っている。
一方の入り口から、マイティが巡行飛行状態で入場。
もう一方から入ってきたのは、ストラーフタイプだった。
かなり軽装である。
ヴァッフェシリーズのブーツを履き、大腿と手首には同根装備のスパイクアーマーをそれぞれ取り付けている。胸部はハウリンの胸甲・心守。
頭部にフロストゥ・グフロートゥ、二の腕にフロストゥ・クレインを装備しているが、あれでは武器を使用できない。アクセサリーと割り切っているのだろうか。
主武装が新装備のサイズ・オブ・ザ・グリムリーパーと、二体のぷちマスィーン、肆号とオレにゃんしかなかった。プチマスィーンはどちらも射撃用のマシンガン。
何よりも特徴的なのは、メガネをかけていることだった。
「軽装備……?」
それに装飾が過ぎる。
マイティは疑問に思った。
『何か仕込んでいるのかもしれない。気をつけろ』
「了解」
そのまま巡航で近づく。ためしにレーザーライフルを二、三発撃ってみる。
ストラーフが消える。
「!?」
『光学迷彩だ。センサーをサーマルに切り替えろ』
「は、はい」
「はっずれ~♪」
真上から声が聞こえた。背筋が一気に凍りつき、マイティは慌てて後方にマシンガンの
銃口を向けようとする。
がごんっ
胸部をしたたかに打たれ、マイティは失速。落下した。
「な、なに?」
マイティは何が起こったのか分からず混乱した。姿勢を制御するのを忘れる。
『マイティ、機体を起こせ!』
はっ、と気づいてフラップを最大限に傾ける。
水面すれすれでマイティは水平飛行に移る。水しぶきが上がる。
胸部アーマーがべっこりとひしゃげていた。ストラーフは鎌の背でなく、刃で打った。アーマーが無ければ負けていた。
「マスター、今のは!?」
『分からん。瞬間移動に見えた。今解析している』
『調べても無駄よ』
相手のオーナーが言った。
『本当に瞬間移動ですもの』
『何?』
マスターのモニターに相手の画面が現れた。眼鏡を掛けた黒髪の女性。
『公式武装主義者(ノーマリズマー)のマイティに会えて嬉しいわ』
『もう二つ名がついているのか。光栄だな』
『セカンドながらあの鶴畑を倒した実力派ですもの。神姫に入れ込んでいる人間なら、だいたい知っているわ』
『さしずめそちらは特殊装備主義者(スペシャリズマー)というわけか。マイティ』
「は、はい」
『装備Bに切り替える』
「分かりました」
マスターがコンソールを操作する。
マイティはウイングユニットを丸ごと切り離すと、浮島の一つに着地。シロにゃんにコントロールが移ったウイングユニットは、ランディングギアを浮島に落とす。
『サイドボード展開。装備変更』
マイティの脚からブーツが消え、代わりにランディングギアが瞬時に装着される。肩と大腿のプロテクター、そしてひしゃげた胸部アーマーがポリゴンの塵と化し、ふくらはぎのアクセサリポケットが肩に移動。
武装にも変更が加えられた。アルヴォPDW9が消失し、カロッテTMPが出現。
左手首のガードプレートが、右手首同様ライトセイバーに代わる。
予備武装としてランディングギアにバグダント・アーミーブレードを装備。
最後に、天使のような翼が背中から生える。「白き翼」だ。
『飛び方は覚えているな』
「はい。さんざん練習しましたから」
『よし、行け』
ひと羽ばたき。それだけで、マイティは相手のストラーフの立つ浮島へ急速に接近した。
バララララララ
接近しつつTMPを撃つ。
ストラーフはまたもや消失。真左に反応。
左を向いて確認する隙も惜しんで、マイティは反射的に左手のライトセイバーをオン。そのまま切り付ける。
「おっと」
ストラーフは、上、に避けた。
間違いない。こいつは飛べるのだ。
どうやって?
『原理は不明だが瞬間移動が主な移動手段だ。姿勢制御による若干の移動を、頭と二の腕
のブレードと手足でやっている』
マスターが解析した。
なんて飛び方!
後方からがっちりと拘束される。
「おしまいね」
ストラーフがくすっ、と笑う。
鎌が首筋に当てられようとする。
マイティは両肘で相手の腹を打つ。
「やばーん!」
飛び去りながら、ストラーフが叫ぶ。
「うるさいっ」
マイティはTMPを精密射撃。
しかし鎌をくるくると回転させ盾にされる。
二体のぷちマスィーンズが反撃の連射。
マイティは白い翼を前方で閉じる。
翼の表面に銃弾が当たる。が、ダメージは無い。翼は盾にもなるのだ。
「ばあ」
翼を開いた途端、目の前に舌を出したストラーフ。瞬間移動だ。
ガキンッ!
突き出された鎌を、TMPで受ける。TMPは壊れて使い物にならなくなった。
ライトセイバーを伸ばす。ストラーフはあろうことかぷちマスィーンを盾にして後退。マスィーンズは爆砕。ポリゴンになって消える。
「マスター、瞬間移動のパターンは!?」
『今のところ直線距離でしか移動していない』
つまりいきなり後ろに回り込まれることは無いということ。だが、横に移動した後、後ろに、と二段階を踏めばそういった機動も出来てしまう。
あまり意味が無い。
「そうよ、この瞬間移動は自由自在なのよ」
マイティの懸念を見透かしたかのように。ストラーフは笑った。
「しかも」
真横。
「何度も使えちゃう」
真後ろ。
「くうっ……!」
マイティは宙返り。ランディングギアでオーバヘッドキックを浴びせる。
「きゃんっ!?」
頭に命中。ストラーフは急速に落下する。マイティはアーミーブレードを両手に装備。
「やったわねぇっ」
浮島を蹴り、目の前に瞬間移動。
予想通り!
マイティはブレードを振り下ろす。f
瞬間移動した直後は瞬間移動できない。当てられる!
しかし、ストラーフは消えていた。
「予想通り」
頭上から声。姿勢制御による限定機動!
「お返しよ♪」
頭をぶん殴られ、マイティは一瞬気を失う。
屈辱。殴られるのは一番そう。これは人間も神姫も変わらなかった。
「シロにゃん!」
「にゃーっ!」
いつのまにか接近していたウイングユニットがストラーフに体当たりを仕掛ける。
「そんなハッタリ無駄!」
ズバッ
鎌で一刀両断。ウイングユニットは消えてしまう。
『主義と固執は違うのよ』
ストラーフのオーナーが言う。
『何を……』
『通常装備だけではおのずと限界がある。あなたも薄々感づいているはず』
『何が言いたい』
マスターは苦虫を噛み潰したような顔をした。
『あなたの実力ならファーストには行けるでしょう。でも、ファーストでは固執は許されないわ。認められたあらゆる手段を使わなければ勝てない場所よ』
『アドバイスのつもりか』
『あなたがあの片足の悪魔と戦いたいのなら、ね』
『……!!』
その名前が出てきたことに、マスターは驚きを隠せなかった。
モニターから嫌な音がした。
ストラーフの鎌が、マイティの額を刺し貫いていた。
驚愕に目を見開くマイティ。ポリゴンの火花を撒き散らして、消滅。
『試合終了。Winner,クエンティン』
マスターは初めて、相手の神姫の名前を知った。
マスターはしばらく、コンソールに手をつきながら前を見つめていた。
ハッチの開いたポッドに座り込みながら、マイティはおどおどするしかない。
「帰るぞ」
唐突にそういわれたので、マイティは立ち上がる際転びそうになってしまう。
ねぎらいの言葉を掛ける店長も無視して、マスターは足早に店を出た。
了
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*「固執」
仰向けに寝ながら、神姫スケール換算地上千メートルを、高速巡行するマイティ。
手足には軽量で対実弾防御力のあるカサハラ製鉄ヴァッフェシリーズのプロテクターを着込み、クリティカルな胸部には同梱装備のアーマー、頭にはヘッドセンサー・アネーロをかぶる。
右手はミニガンではなく、アルヴォPDW9。アーンヴァルの実弾射撃武装はどちらもケースレス方式をとっている。飛び出した薬莢が飛行機動を阻害する恐れがあるためだ。とくに高速移動時にその弊害が見られ、だからミニガンは飛行時に正面へ撃つことができない。
背中のウイングユニットには、ありとあらゆる推進装備がくっつけられている。エクステンドブースター、ランディングギア。そしてヴァッフェシリーズのスラスター。融通の利く動きはほとんどできないが、一方向に集中したノズルは莫大な推進力を生み出す。アラエル戦のバトルプルーブを経て、各パーツの配置が一新され、よりパワーロスが少なくなった。
翼の一方に、バランスの低下を承知で、LC3レーザーライフルを搭載していた。この装備方法では飛んでいる方向にしか撃てない。巡行武装だと割り切っている。
ここはホビーショップ・エルゴの対戦ブースである。このたびの大改装でセカンドリーグにも参加できるようになり、マスターは二駅をまたぐ必要がなくなったのだった。
スペースでは対戦相手がいない場合、こうして一人でテストモードが出きる。トレーニングマシンが普及してから使われなくなった機能だが、現在でも律儀に入れられている。
「どうしてトレーニングマシン、使わないんです?」
店長が訊いた時、
「実戦に使われるフィールドの方が役に立つ」
とマスターは答えた。
確かにトレーニングマシンと実際に試合に使用されるフィールドには若干の差がある。しかしそれは本当に若干なもので、だから皆将来的な経費が押さえられるトレーニングマシンを買うのである。
マスターの家にも無論、トレ-ニングマシンはある。
「マイティ、どうだ」
バーチャル空間の中を飛び回るマイティに話し掛ける。
『やっぱり空気の重さが違います。マシンでできたような無茶な機動が、たぶん出来ません』
バトルスペースのマシンパワーに、やはりトレーニングマシンはかなわない。戦闘中はだいたい高速で動く神姫には、この差は場合によっては致命的な差となる。
マスターもマイティも、今、一種のマンネリを覚えていた。
バトルの成績は悪くはない。ファーストへの昇格はいまだ高嶺の花だが、それでも順当に戦えている。
バトルのアクセス料金、マイティの武装代、メンテナンス料金、武装神姫というカテゴリにかかる料金はすべて、いわゆるファイトマネーでまなかうことが出来た。
余談ではあるが、この「勝てばそれなりに報酬がもらえる」という制度が実現したことが、武装神姫の世界的な発展につながった一翼を担っていると言っても過言ではない。実現にあたっては「ゲームがけがれる」とか「ギャンブルだ」などという辛辣な批判ももちろんあった。
しかし結果として、良い方向に実現した。
第三次世界大戦も起こらなかったし、宇宙人の侵略もなかったのだ。ゲームに報酬が設定された所で、なんのことがあろうか。と、人々が思ったかどうかは分からないが。
閑話休題。
ともかくそれでも、何か初期のキラキラした感覚が鈍くなってきていることは、お互いに分かっていた。
その対処法が分からない。
結局問題は棚上げで、今に至る。
『Here comes a new challenger』
ジャッジAIが挑戦者を告げる。
テストモード中はオンラインオフラインに関わらず、対戦受付はオープンにしてある。当たり前だがシャットアウト機能は無い。対戦スペースにいるのはすべからく対戦許可とみなされるのだ。
相手はオンラインからだった。
『よろしくお願いします』
当り障りの無い挨拶。女性らしい。
「よろしく」
マスターは適当に答える。
相手はセカンド。大体自分と同じような戦績。いや。
最近特に伸びてきている。
マイティがいったん待機スペースへとリターン。
『どうします?』
「例の機能を使ってみようと思う」
『じゃあ、初期装備はこのままですね』
「なるべく広いフィールドの方が良いが、狭くてもすぐ対応できる」
『分かりました』
マイティ、準備完了。
すぐに周囲のポリゴンがばらばらになり、フィールドが再構成される。
『バトルスタート。フィールド・地下空間01』
広大な空洞。高さもあるが、下は一面湖だった。所々に浮島があり、またいたるところに石の柱が立っている。
一方の入り口から、マイティが巡行飛行状態で入場。
もう一方から入ってきたのは、ストラーフタイプだった。
かなり軽装である。
ヴァッフェシリーズのブーツを履き、大腿と手首には同根装備のスパイクアーマーをそれぞれ取り付けている。胸部はハウリンの胸甲・心守。
頭部にフロストゥ・グフロートゥ、二の腕にフロストゥ・クレインを装備しているが、あれでは武器を使用できない。アクセサリーと割り切っているのだろうか。
主武装が新装備のサイズ・オブ・ザ・グリムリーパーと、二体のぷちマスィーン、肆号とオレにゃんしかなかった。プチマスィーンはどちらも射撃用のマシンガン。
何よりも特徴的なのは、メガネをかけていることだった。
「軽装備……?」
それに装飾が過ぎる。
マイティは疑問に思った。
『何か仕込んでいるのかもしれない。気をつけろ』
「了解」
そのまま巡航で近づく。ためしにレーザーライフルを二、三発撃ってみる。
ストラーフが消える。
「!?」
『光学迷彩だ。センサーをサーマルに切り替えろ』
「は、はい」
「はっずれ~♪」
真上から声が聞こえた。背筋が一気に凍りつき、マイティは慌てて後方にマシンガンの
銃口を向けようとする。
がごんっ
胸部をしたたかに打たれ、マイティは失速。落下した。
「な、なに?」
マイティは何が起こったのか分からず混乱した。姿勢を制御するのを忘れる。
『マイティ、機体を起こせ!』
はっ、と気づいてフラップを最大限に傾ける。
水面すれすれでマイティは水平飛行に移る。水しぶきが上がる。
胸部アーマーがべっこりとひしゃげていた。ストラーフは鎌の背でなく、刃で打った。アーマーが無ければ負けていた。
「マスター、今のは!?」
『分からん。瞬間移動に見えた。今解析している』
『調べても無駄よ』
相手のオーナーが言った。
『本当に瞬間移動ですもの』
『何?』
マスターのモニターに相手の画面が現れた。眼鏡を掛けた黒髪の女性。
『公式武装主義者(ノーマリズマー)のマイティに会えて嬉しいわ』
『もう二つ名がついているのか。光栄だな』
『セカンドながらあの鶴畑を倒した実力派ですもの。神姫に入れ込んでいる人間なら、だいたい知っているわ』
『さしずめそちらは特殊装備主義者(スペシャリズマー)というわけか。マイティ』
「は、はい」
『装備Bに切り替える』
「分かりました」
マスターがコンソールを操作する。
マイティはウイングユニットを丸ごと切り離すと、浮島の一つに着地。シロにゃんにコントロールが移ったウイングユニットは、ランディングギアを浮島に落とす。
『サイドボード展開。装備変更』
マイティの脚からブーツが消え、代わりにランディングギアが瞬時に装着される。肩と大腿のプロテクター、そしてひしゃげた胸部アーマーがポリゴンの塵と化し、ふくらはぎのアクセサリポケットが肩に移動。
武装にも変更が加えられた。アルヴォPDW9が消失し、カロッテTMPが出現。
左手首のガードプレートが、右手首同様ライトセイバーに代わる。
予備武装としてランディングギアにバグダント・アーミーブレードを装備。
最後に、天使のような翼が背中から生える。「白き翼」だ。
『飛び方は覚えているな』
「はい。さんざん練習しましたから」
『よし、行け』
ひと羽ばたき。それだけで、マイティは相手のストラーフの立つ浮島へ急速に接近した。
バララララララ
接近しつつTMPを撃つ。
ストラーフはまたもや消失。真左に反応。
左を向いて確認する隙も惜しんで、マイティは反射的に左手のライトセイバーをオン。そのまま切り付ける。
「おっと」
ストラーフは、上、に避けた。
間違いない。こいつは飛べるのだ。
どうやって?
『原理は不明だが瞬間移動が主な移動手段だ。姿勢制御による若干の移動を、頭と二の腕
のブレードと手足でやっている』
マスターが解析した。
なんて飛び方!
後方からがっちりと拘束される。
「おしまいね」
ストラーフがくすっ、と笑う。
鎌が首筋に当てられようとする。
マイティは両肘で相手の腹を打つ。
「やばーん!」
飛び去りながら、ストラーフが叫ぶ。
「うるさいっ」
マイティはTMPを精密射撃。
しかし鎌をくるくると回転させ盾にされる。
二体のぷちマスィーンズが反撃の連射。
マイティは白い翼を前方で閉じる。
翼の表面に銃弾が当たる。が、ダメージは無い。翼は盾にもなるのだ。
「ばあ」
翼を開いた途端、目の前に舌を出したストラーフ。瞬間移動だ。
ガキンッ!
突き出された鎌を、TMPで受ける。TMPは壊れて使い物にならなくなった。
ライトセイバーを伸ばす。ストラーフはあろうことかぷちマスィーンを盾にして後退。マスィーンズは爆砕。ポリゴンになって消える。
「マスター、瞬間移動のパターンは!?」
『今のところ直線距離でしか移動していない』
つまりいきなり後ろに回り込まれることは無いということ。だが、横に移動した後、後ろに、と二段階を踏めばそういった機動も出来てしまう。
あまり意味が無い。
「そうよ、この瞬間移動は自由自在なのよ」
マイティの懸念を見透かしたかのように。ストラーフは笑った。
「しかも」
真横。
「何度も使えちゃう」
真後ろ。
「くうっ……!」
マイティは宙返り。ランディングギアでオーバヘッドキックを浴びせる。
「きゃんっ!?」
頭に命中。ストラーフは急速に落下する。マイティはアーミーブレードを両手に装備。
「やったわねぇっ」
浮島を蹴り、目の前に瞬間移動。
予想通り!
マイティはブレードを振り下ろす。f
瞬間移動した直後は瞬間移動できない。当てられる!
しかし、ストラーフは消えていた。
「予想通り」
頭上から声。姿勢制御による限定機動!
「お返しよ♪」
頭をぶん殴られ、マイティは一瞬気を失う。
屈辱。殴られるのは一番そう。これは人間も神姫も変わらなかった。
「シロにゃん!」
「にゃーっ!」
いつのまにか接近していたウイングユニットがストラーフに体当たりを仕掛ける。
「そんなハッタリ無駄!」
ズバッ
鎌で一刀両断。ウイングユニットは消えてしまう。
『主義と固執は違うのよ』
ストラーフのオーナーが言う。
『何を……』
『通常装備だけではおのずと限界がある。あなたも薄々感づいているはず』
『何が言いたい』
マスターは苦虫を噛み潰したような顔をした。
『あなたの実力ならファーストには行けるでしょう。でも、ファーストでは固執は許されないわ。認められたあらゆる手段を使わなければ勝てない場所よ』
『アドバイスのつもりか』
『あなたがあの片足の悪魔と戦いたいのなら、ね』
『……!!』
その名前が出てきたことに、マスターは驚きを隠せなかった。
モニターから嫌な音がした。
ストラーフの鎌が、マイティの額を刺し貫いていた。
驚愕に目を見開くマイティ。ポリゴンの火花を撒き散らして、消滅。
『試合終了。Winner,クエンティン』
マスターは初めて、相手の神姫の名前を知った。
マスターはしばらく、コンソールに手をつきながら前を見つめていた。
ハッチの開いたポッドに座り込みながら、マイティはおどおどするしかない。
「帰るぞ」
唐突にそういわれたので、マイティは立ち上がる際転びそうになってしまう。
ねぎらいの言葉を掛ける店長も無視して、マスターは足早に店を出た。
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