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「第十話『告白、そして決意』」(2008/01/16 (水) 21:43:26) の最新版変更点
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吉岡さんが貸してくれた予備のクレイドルは寝心地が良くなかった。
だからだろうか、いつもならすぐに寝てしまうはずのノワールが僕に話しかけてきた。
「・・・・・・ハウ、大丈夫?」
僕はそれを無視する。
今は誰とも話したくなかった。
「・・・・寝てる、なら・・・・そのまま聞いて・・・ひとりごと」
「・・・・・・・・・・」
「雨の日、ノワール、ハウを見つけた。マイスター・・・・・大事な人、いなくなったあと」
僕はノワールに背中を向けている。
だからノワールの顔は見えなかった。
「マイスター、責任感じてた・・・大事な人、いなくなったこと」
その話は昔、マスター本人から直接聞いていた。
僕を拾う前に、マスターの恋人が死んでしまったということ。
交通事故だったらしい。
マスターを駅に迎えに行く途中、信号待ちをしていたマスターの恋人は偶然、横断歩道の向こう側にいたマスターを見た。
向こう側にいたマスターも気づいて、互いに手を振って挨拶をした。
そして歩行者用の信号は青になり、マスターの恋人は走ってマスターの元へ向かった。
その瞬間・・・マスターの恋人は撥ねられた。
飲酒運転だったそうだ。
それ以来、マスターは自分を責め続けた。
自分があそこにいたせいで彼は死んだんじゃないか。自分が手を振らなければ? 自分が迎えに来てもらわなければ?
・・・・・今でも、葛藤は続いてるらしい。
「マイスター、初め、ハウを見捨てるつもりだった。・・・・自分の事で精一杯だったから。でも助けた、なぜか、わかる?」
・・・・・わかるわけ無いよ。
僕だって、自分の事で精一杯だもん・・・・。
「ノワール、頑張ってマイスターを見上げた。マイスター、こっちを見ていたけど見てなかった。マイスター・・・・過去を見ていた」
・・・・・過去を?
「ハウ、まだ助かる。マイスター・・・・・大事な人、もう助からない。ノワール、マイスターに前を見て欲しかった。ハウにも、マイスターにも、未来はある。そう言いたかった」
寝たまま、ノワールの手が体に回される。
「ノワール、ハウと、マイスターのこと、好き。ハウと、マイスター・・・・悲しいの、やだ」
「・・・・・でも、僕がいたらまた、あいつが来る」
いつの間にか、僕はノワールに背を向けたまま話していた。
「僕は・・・二人にとって、疫病神なんだ。今日だって・・・・! 僕がいなかったらあいつは来なかったかもしれない・・・!」
・・・・・そうだ。
あの夢が、僕の昔の記憶だとしたら。
僕がここにいることで、二人に危険が迫るとしたら。
・・・・・僕は、いないほうがいいのかもしれない。
「僕は・・・・・・!」
「そこから先はだめ」
言葉が遮られる。
体を後ろから、強く抱きしめられる。
「そこから先を言うなら、ノワールは怒ります。怒って怒って、ハウのこと嫌いになる。マイスターもハウのこと嫌いになる。マイスターとノワール、怒ったまま、嫌いなまま、ずっと過ごしていつか死んでいく。ノワール、そんなのやだ。・・・・三人一緒じゃないと、やだ」
・・・・気のせいか、ノワールの声は少し震えていた。
「ハウ、夢の中で名前の無いストラーフに助けられた。名前の無いストラーフ、どうしてハウを助けたか、わかる?」
「・・・・・・・」
「名前の無いストラーフ、ハウを助けた理由、多分、ハウが一番最後に来たから。ハウ、妹になった。末の娘になった。名前の無いストラーフ、多分嬉しかった。初めての友達、初めての妹、他の神姫、不安だった。でも、ハウは何も知らなかった。外の世界に出られて、名前の無いストラーフ、死んだ。でも、最後の最後に、ハウ守った」
強く、とても強く抱きしめられる。
「ノワール、頭悪い。喋るの、下手。でもこれだけいえる。ハウ、疫病神じゃない。ハウ来てから、マイスター、少しづつ良くなった。笑わなくなったマイスター、もう一度笑うようになった。二人の、初めての神姫バトル、負けたけどマイスター笑ってた。ハウの検査中、マイスター機嫌悪い。マイスター、ハウを心配してる、ノワールも」
・・・・・・・・・・・・・・。
「ハウ、笑顔持ってきた。良くない過去を持ってるかも、しれないのに、ハウは笑顔持ってきた。今、ハウいなくなる、笑顔なくなる・・・・マイスター笑わなくなる。だから・・・・やだ」
最後のほうは、もう擦れ声になっていた。
でも、それでもしっかりと、僕の耳に届いた。
「ハウいなくなる・・・やだ!!」
僕は・・・・振り向かずに背を向けたまま言った。
「僕がいれば、またあいつが来る。また僕は何も出来ないかもしれない。次はノワールも負けるかもしれない。それでもいいの・・・・?」
「いい・・・! あいつやっつける・・・! 三人、 また笑う・・・・! だから・・・・だから・・・・!」
ノワールの手を振りほどき、僕は彼女の顔を見る。
白い肌に朱がさして、目からは涙が出ていた。
「僕は・・・・ここにいてもいいの・・・・?」
ノワールは無言で肯いた。
そのまま向かい合った僕に手を回し、抱きしめる。
抱きしめられた僕は・・・ノワールの体を、抱きしめ返した。
「もう・・・・ノワール・・・お姉ちゃんは本当に泣き虫なんだから」
「ハウも、泣いてる・・・!。泣き虫、二人・・・・!」
僕たちは・・・・・犬と悪魔の姉妹は、いつまでも抱き合ったまま、朝まで泣いた。
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