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「妄想神姫:第六十一章」(2008/01/04 (金) 14:59:10) の最新版変更点
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*新しき風と、揺れ動く錬金術師達(その一)
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──遂に吹いた新しき風。それこそ、災禍と幸福をもたらす因果の使者。
それは私と大切な“妹”達の運命を押し流して、歪めて往く激流である。
初めは、何という事のない事故の筈だった……私が、気付くまでは──。
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**第一節:契機
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今日、私・槇野晶は渋谷に出てきている。年も明けて暫く経ち、材料類や
新たな資料を求めて、この街へと出てきたのだ。見る物や荷物は多いが、
私には心強い助っ人達が居る。そう……言うまでもなく“妹”達の事だ。
「よい、しょ……晶お姉ちゃん、買い物はこれで全部ですの~?とと」
「おお、大丈夫か葵や?そうだな、お前達……のHVIFの分も完了」
「……後は、また春の新作とかを見物して帰るのかな。マイスター?」
「有無、それで渋谷へ出てきた用事は全て完了する。手早く行こうか」
「はいっ!あ、マイスターマイスター!あれなんか……どうですか?」
葵……即ちロッテのHVIF使用バージョンと私で荷物を分担し、他の
“妹”達は、私達二人の胸ポケットを占拠して辺りを窺っている。街は
新年を迎えたとあってか、去年と違う活気に満ちた空気を持っている。
それに触発されて、私の財布も少々緩み勝ち……には、ならなかった。
何故なら、私自身が必要とする以外は全て神姫達に必要な物。この街で
ピンチになる程人間の衣料を買い込むという事は、それ故に有り得ぬ。
「ふむ……些か堅苦しいな。クララが勉強する際には、良さそうだが」
「それって“制服”って言ってるのと同じなんだよ、マイスター……」
「制服が着たいなら、神姫基準で作ってやっても良いが……学校はな」
「服装だけだとコスプレですの。ある意味わたし達にはいいですけど」
「それに“梓”の通学着だって、十分それっぽいデザインなんだよ?」
HVIF用に作って着せてもよいのだが、それも趣味以上にはならん。
結局“制服”にも似た街頭の展示物は撮影だけして、見送る事とした。
……でも、制服姿のロッテ達も可愛いかもしれん。う、いやいやっ!?
「……ま、マイスター?どうしたんですか、真っ赤になって首振って」
「な゛!?な、なんでもない!なんでもないぞアルマや……その筈だ」
「最近のマイスターって、妄想が強くなってる気もするんだよ。うん」
「でもでも、全部わたし達での妄想ですし……悪い気はしませんの♪」
何も言えなかった。実際、あの“告白”を受けてからというものの……
私の中を占める彼女らの存在は、日を追って大きくなっていたのだな。
妄想というか、彼女らの事を想う時間も徐々に増えている。今までも、
想ってはいたのだが……その頻度や深度も、比例しているのが現状だ。
「う、う~む……帰ろうか。家でお前達とゆっくりしたくなった気分だ」
「え?もういいんですの、晶お姉ちゃん?いつもだと、後三十分位……」
「構わぬ。十分な映像資料は取れた、後は駅に入るまでの道で調べよう」
「じゃあ帰ったら、のんびりお茶でも呑んでお客を待ちましょうかっ!」
「ボクは温かいココアがいいんだよ。ほっとするもん……じゃ、行こ?」
だが、相変わらずそれを深く考える事は出来ずにいた。考えた時に何時も
私の心を縛り付ける“荊”。新年になっても、私の意気地無しは同じだ。
この娘らを信じ切れていないのか、と想うと……それもまた切なくなる。
故にこそ、常日頃は何も考えず。夜に一人で思い続ける日々を過ごした。
「……新しい風が吹けば、本当に変われるのだろうにな。私とて……」
「大丈夫ですの、何時も待っていますの……マイスターが苦しむなら」
「言える時までずっと待ちます。無理強いなんて、出来ませんからね」
「……少し寂しいけど、ね。それがボクらの出来る事なんだよ……?」
そんな雰囲気は、この娘らもきっちりと掴んでいた。その上で、何時も
好意的に黙殺してくれているのだ。しかし、何時までもそうはいかん。
本当に、何か契機となる出来事は無い物か?渋谷駅に入って、山手線に
乗るまでの間、帰り道の取材などせずに……私はそれをずっと考えた。
「……ま、とりあえず一度お茶でも呑んで落ち着いて……それからか」
「今日はずっと側にいますの♪HVIFの当番も、今回は連続ですし」
「う、うむ……アルマとクララも、今は一緒にくつろごうではないか」
『はいッ!!』
しかし、何一つ糸口がない以上は名案が浮かぶ事もない。結局、すぐに
秋葉原へと到着してしまい、仕方なく私は混み始めた列車から降りる。
そして、電気街口からのんびりと歩いて……ふと、道路の対岸を見た。
「しかし、この街は何時でも変わらぬな……活気と熱気に溢れ──」
そんな何気ない日常の言葉は、最後まで続かなかった。声を掻き消すのは
盛大な轟音。目を焼くのは、対岸のビルから弾け飛ぶ異質な閃光。そう、
紛れもなくそれは……爆発だった。石礫が道に飛び散り、ビルに掛かった
ゲームセンターの看板が、鈍く軋んだ音を立てて崩れ落ちたのだ……!!
「な……う、ううぉっ!?なんだ、これは!!爆発火災かッ……!?」
「だ、大丈夫ですのマイスター!……じゃない、晶お姉ちゃん……!」
咄嗟にロッテ、じゃない……葵が私の躯を支えてくれる。爆風で蹌踉めき
倒れそうになった所を抱きすくめてくれたのだ。助かった……が、これは
一体どういう事なのだ。アルマとクララも、異常事態に若干混乱を来す。
「ぅぅ……耳が、揺れます。な、何が起こったんですマイスター?!」
「あっちのビルで、爆発なんだよ……人、集まりだしたみたいだもん」
「こ、これは……一度“ALChemist”に戻る。状況把握はその後だ!」
『はいっ!!!』
──────なんだろう、とても嫌な予感がするよ……。
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**第二節:烙印
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今日の秋葉原はカレンダー上の休日等ではなく、何かの発売日でもない。
しかし飛び散った破片や落下物等で躯を斬る者、転倒してコブを作る者、
爆発のショックで運転操作を誤って、事故を起こす者などが何名か居た。
「く、これは……何でこんな事になったのだ!兎に角、警察と救急か」
「消防も要請した方がいいかもしれませんの!ボヤっぽいですし……」
荷物を万世橋無線会館に置いて、現場へと引き返した私達が見た物は、
まさしく地獄だった。パニックを起こした周辺は騒然となり、致命的な
怪我を負ってこそいない物の、多少の血を流して蹲る者は散見される。
この光景は、私の脳にある記憶を酷く揺さぶる……正直、気分が悪い。
「……神姫は、神姫達は大丈夫ですか!こんな爆風に巻かれたら!?」
「衝撃で破損する可能性も無くはない……く、どうなっているのだ!」
「一応塾の友達は……居ないかな。大丈夫かな、心配なんだよ……!」
各々の事情に従い各々が不安に陥る。万世橋署の人員が黄色の規制線を
張って、消防が駆けつけボヤを消し止める。更に、怪我人は周辺店舗の
協力もあってすぐに救急車で病院へ連れて行かれた……それでも、皆の
不安と恐怖は、すぐに消え去る物ではない。対岸の火事ではなく、すぐ
目の前で起きた惨事なのだ。これをやり過ごす事など、そうは出来ん!
「神姫が壊れた、って話はまだない様ですね。無事ならいいけど……」
「……一応塾の友達が一人、ちょっと怪我をして運ばれたらしいもん」
「行かなくていいのか、クララや……いや、神姫の姿では拙いな……」
「……別に大事には至ってないそうだから、後で電話だけするんだよ」
「噂だと、吹き飛んだのは看板だけでビルの中身は無事だそうですの」
辺りをかけずり回り電話や近所のコネを使いまくって、状況を調べる。
必要以上の干渉かもしれんが、これを放置してはいけない。何故だか、
そういう予感が私達の中にあったのだ。御陰で、不可解な点も見えた。
「あの壁の抉れ形……どうも、それほど巨大な爆弾では無い様だな……」
「え……爆弾、ですの?!なんで晶お姉ちゃん、わかるんですの……?」
「……これでも、神姫の武装を扱える人間だぞ。火器類には多少詳しい」
そのサイズに比例しつつも多少は強力な爆弾による、人為的な犯行か……
更に“ビルに掛かる看板”等という際どい所に、爆弾を仕掛けられる様な
人間がそうは居るとも思えない。だがもし、これが事故でないとするなら
それは……即ち、私の全存在を震撼させるだけの“過去の再来”だった。
「……いかん、思考が纏まらなくなってきた。一度静かな場所に動くぞ」
「マイスター、大丈夫ですか……?なんだか真っ青ですよ、顔とか……」
「分かっている、分かっているアルマや……クララとロッテも案ずるな」
「案ずるな、って言っても……流石に動揺しすぎな気もしますの~……」
“悪い予感”に翻弄された私は、貧血でも起こしそうな目眩を覚えつつ
人混みから路地へと入る。そこは、現場から直線距離で数十メートル。
道なりに行けば、すぐに来られる様な場所だった。そこで、私は壁へと
もたれかかり……ふと、地面を見下ろす。それが、いけなかった……。
「む?……これは……これは、そんな馬鹿な……!?何故、これが!」
「え、え?……マイスター、いきなりどうしたのかな。地面に何か?」
「きゃっ!?いきなり動かないでください、ポケットから堕ちます!」
訝しがるクララの声も、私の動きに出るアルマの悲鳴さえ聞こえない。
私の全神経は、アスファルトに堕ちていた“それ”へと注がれていた。
それは……凄く小さな、電磁吸着面を備える“黒い紋章”だった……!
「……マイスター、この樹に蛇が絡みついたような紋章って……?」
「な、なんだかおどろおどろしくて……不気味な印象ですねぇ……」
「でもこれ、よく見て。電磁吸着面があるから……MMS用なんだよ」
全ての音が遠くなる、全ての景色がぼやけていく。私の図太い神経さえ、
この現実を突きつけられた今となっては、か細い糸でしかない……そして
私は遂に、己で立っている事さえ出来ず……葵に小さな躯を委ねたのだ。
「え!?ちょ、ちょっとお姉ちゃんッ!?どうしちゃいましたの!?」
「マイスター!しっかりして、マイスター!?ど、どうします……?」
「……とりあえず、葵お姉ちゃん。お店まで連れて行ってほしいもん」
「はいですの……マイスター、もしかして“あの事”と関係が……?」
──────呪われた運命は、どこまでも私達を追い掛けるよ……。
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