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「妄想神姫:第五十五章(前半)」(2007/12/11 (火) 12:11:45) の最新版変更点
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**僅かな慢心、産まれた闇(前半)
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歳末も押し迫ってきた頃。私・槇野晶率いるMMSショップ“ALChemist”の
面々は、順当に重量級ランクを勝ち進んでいた。無論負ける時も有ったが
勝率の方が大分上である現在の所、皆の自信は相当強固になっているな。
だからだろう。私も皆も、ロッテの試合日であるその時は浮ついていた。
「さぁ、マイスター!今日も貴女に“勝利”をプレゼントしますの~♪」
「ふむ。相当強気だなロッテや、今回の相手は多分……お前も驚くぞ?」
「大丈夫ですよマイスター、ロッテちゃんなら今回も勝っちゃいます!」
「……でも全員気を付けて、弛緩しすぎた空気は……隙を産むんだよ?」
クララは恐らく気付いていたのだろう。本当に僅か、極々僅かな綻び。
それは、勝利に酔う者が陥りがちな慢心という“罠”……否、違うな。
普段のロッテが、高慢になった訳ではないぞ?至って彼女は普段通り。
だが、この時の空気は確かに弛緩していた……嫌な予感も、するのだ。
「む、そうか……ロッテや。気を緩めるなよ、こう言う時こそ肝心だ」
「大丈夫ですの。勝てる気がしますの、だから……帰ったら……いえ」
だからと言って、こうしてオーナー席に着いた今……辞退は出来ない。
故に私は、何か言いたげなロッテを笑顔で戦場に送り出す。今回は……
また高空フィールドだと?!相手が“彼女”ならば、有り得ぬ筈だが。
『クララvsフリッグ、本日の重量級リーグ第14戦闘、開始します!』
「え?“フリッグ”って……あのフリッグさんですの?!」
「そうだロッテ、お前の初陣を務めた相手だ。気を付けろ!」
『3……2……1……GO!!』
「は、はいですの……」
『“W.I.N.G.S.”……Execution!』
「ウィブリオ、来てくださいですのっ!」
『キュイッ!!』
ゲートが開き、ロッテが大空に舞う。それと同時に、彼女は龍を喚んだ。
フリッグ……サイフォスタイプをアレンジした神姫。ロッテの記念すべき
初戦を務めた娘だ。無論この場合は、従来の“軽量級ランク”での初戦。
つまり、私が初めて戦った神姫……とも言えなくはない。しかし、彼女の
飛行能力は凡庸だった筈。それが、飛行タイプ専用の高空フィールドに?
『キュ、キュィ……?』
「……サイフォスタイプなのに、飛翔しているって事ですの?」
「如何にも!“大剣士”フリッグ、先手を頂くぞッ!!」
『しまった……!?上だ、ロッテッ!!!』
その謎は、大きな代償と共に知る事となった。太陽を背にして、何者かが
急降下してきたのだ!ロッテの意識が強襲を察知する、が……遅かった。
「推して参る!“斬機剣レヴァンテイン”!ハイヤァァッ!!!」
「き、きゃぁあああっ!?」
『キュィイイッ!!?』
『ロッテ、ウィブリオッ!?』
降下してきた白と青の剣、“ネオボードバイザー・ソードダンサー”が
ウィブリオの翼に体当たりを仕掛け、その上に乗っていたフリッグが、
駆け抜け様……ロッテの胸元を強かに切り裂く!その威力は凄まじく、
ダメージを計算すると、クリティカルヒット扱いとなったそれは……!
「ぅ、ぅ……七割も持って行かれましたの。ウィブリオ……ッ!」
『キュ、キュゥゥ……!』
「ふむ……久しいな、ロッテ。そなたの活躍、色々と聞き及んでいる」
「フリッグさん……この技、まさか重量級に特化しましたの……?」
「如何にも。モジュールと神姫を同時に攻撃する、“先の先”の技だ」
数値的にも甚大な被害だが、全く知覚していない領域からの“奇襲”は、
ロッテとウィブリオの戦意を、大きく殺いだ。戦闘中はずっと不敵だった
彼女が……ロッテが珍しく、焦りと恐れの色を見せる。意外な姿だった。
その恐怖は、距離を取って何事かを語りだしたフリッグにより増大する!
「しかし、勇ましく強いが……少々私は残念に思うぞ、ロッテよ」
「ざ、残念……!?何故、そう思いますの?」
「“驕る魂”と“惑う剣”を携えているからだ」
「え──」
圧倒的なアドバンテージを取った余裕か、それとも衷心故か。フリッグは
ボードの上に乗ったまま、手負いのロッテに語る。その眼には、哀しみ。
否……訂正しよう。彼女は本当に衷心故、ロッテに奇襲を仕掛けたのだ。
その結果を見極めたフリッグは、賢者の如くロッテの“綻び”を告げる。
「恐らく未だ、自身も気付いていないのだろう。間に合って良かった」
「あ、貴女は……何を、言っていますの……?!」
「戦士の魂に相応しい、勇猛さと大胆さに技術。これは申し分ない」
『キュ……?』
「だが初めて戦った時には持っていた、高潔さ。それに曇りが見える」
「ぁ……っ!?」
ロッテが左手で口を塞いだ。成程……ロッテは未だ“挫折”を知らない。
アルマとクララは、一度己のアイデンティティを揺さぶられた事がある。
しかしロッテにはそれが無い。だが、知らぬ故の慎ましさ……それを以て
彼女は高潔に生きてきたのだ……その筈、だった。だが、戦い続ける内に
保ち続けてきた“何か”が、少し摩耗しつつあった。そう言う事だろう。
「“惑う剣”については、もう少し刃を交わしてから語ろう。往くぞ!」
『ロッテ、己を保て。正気に戻るんだ!』
「は、はいですの……フリッグさん、貴女は何を伝えたくて……!?」
『キュ……ッ!!』
──────これは多分、貴女の為の試練だよ。
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