「妄想神姫:外伝・その二十八」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「妄想神姫:外伝・その二十八」(2007/11/11 (日) 12:09:17) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
**隣は何をする姫ぞ──あるいは晩秋
----
秋である。景色がセピア色からモノトーンへと遷移し、人々や神姫の
“心”にも変化をもたらす時期である……そして、『何とかの秋』と
散々使われるフレーズが示す通りに、その変化は様々なアクションを
行わせる不思議な力を持っている。何故、わざわざ秋なのだろうか?
MMS部品を買いこんだ客を見送りつつ、私・槇野晶はそう考える。
「はむはむ……やっぱり焼きたてが一番おいしいですの~♪あむあむ」
「こらこらロッテ、食べすぎると……ガスは出ぬが、腹に溜まるぞ?」
「今なら大丈夫ですの!食事機能のエネルギー変換効率がいいですの」
「……そう言う物なのか?さしずめロッテは“食欲の秋”という所か」
そう。人と若干異なるとは言え、“心”を備える神姫も例外ではない。
流石に普通の神姫であれば有り得ぬが、ロッテが発現させたのはまさに
人で言う“食欲の秋”であった。私がおやつに買ってきた石焼き芋を、
彼女はかれこれ一個半は平らげていた……何?ってちょっと待てっ!?
「ロッテ!私や皆の分はどうしたのだ、四個しか買っていない筈だぞ」
「あ゛っ!ご、ごめんなさいですの~!?甘くて美味しいからついっ」
「はぁ……仕方ない、今食べかけのを私と半分だ。いいなロッテよ?」
「は、はいですの~……でもマイスターとコレで間接……きゃ~っ♪」
「ぶぐっ!?ぐ、ごふぅっ!!な、なんて事を言うかこの娘はッ!?」
ロッテから半分取り上げた芋を口に運んだ所で、思いっきり噴き出す。
た、確かにこれは間接キスだがな……いきなりそんな事を言われると、
此方も一気に来て、堪らなくなってしまう……何だ、何か文句あるか?
変に意識すると意識が乱れる、ただそれだけだ。それ以外にはないッ!
「全く……そう言えば、アルマとクララは何処で何をしているのだ」
「あ、アルマお姉ちゃんはブースにいますの♪お芋、運びますのっ」
「有無。では、肩に乗って持っていてくれ……っと、アルマや~?」
「ふっ、せあっ!まだまだ、もっと打ち込んでくださいモリアン!」
『No problem(では続けます、回避行動を選択してください)』
という訳で私は芋の入った紙をロッテに持たせ、アルマの元へ向かった。
戦闘訓練用のウレタン式ブースでは、両手に“ヨルムンガルド”を持った
アルマと、同じく両手に“デストロイ・マチェット”を携えたモリアンが
真剣での組み手をやっている所だった。これは……少々過激ではある物の
“スポーツの秋”と言えなくもないか?とりあえず、声を掛けてみるか。
「アルマ、これアルマや。随分と精が出る様だが、休憩も必要だぞ?」
「え?あ、マイスター!そうですね、三十分は打ち込んでました……」
『Negative(バッテリー残量に不安があります)』
「そう、ですか?じゃあ、モリアンは充電して下さい。ありがとうっ」
『No problem(マスターのお役に立てたのならば)』
「我が“妹”ながら感心だな。重量級ランクのバトルが近いとは言え」
「えっと……なんだか気分が高揚して、躯を動かしたくなったんです」
充電用のポッドに戻るモリアンを見送って、アルマのボディチェックを
眼鏡の機能で行う。傷は殆ど無く、機能不全も無し…実に健康的だな。
清々しい彼女の顔は、幸せそうに食べていたロッテの顔とは別の意味で
眩しかった。神姫でも関節用モーターの不全等、“躯の鈍り”はある。
それを予防する意味でも、適度な運動は実に良いのだ……可愛い奴め!
「動いたら栄養補給だ。まずはコレを食べて、それから充電だな?」
「わあ……温かそうなお芋、ですね。じゃあ、遠慮無く頂きますっ」
「有無、さて。茶を用意せねばならん……クララも呼ぶか。クララ」
「……返事がないですの。さっきテーブルで読書してたんですけど」
アルマを肩に乗せ、ロッテから芋を受け取って渡す……その間も、私は
クララの名を呼ぶが、反応がないな。ロッテの言っていた大テーブルへ
向かってみない事には見つかりそうもない。三人で、彼女の元に赴く。
テーブルの上には……見事に突っ伏して寝ているクララの姿があった。
「……すぅ、すぅ……むにゃ、マイスター。そんな所触ったらダメだよ」
「この娘は……どんな夢を見ているのだ?というか、“寝言”なのか?」
「えっと、休眠時はデータ整理をしてる事もありますし……多分きっと」
「人間でも眠りで整理をする、って前にマイスターが言ってましたの♪」
ロッテの言う通りなのだが……彼女の寝言は、ちょっとドキドキする。
私の何を整理して何を夢見ているのか、期待と不安が一瞬よぎるのだ。
だが、このまま寝かせておく訳にも行かない。何故か?彼女の下にある
人間サイズの本が、クララの寝返りでクシャクシャになりそうなのだ。
これを見る限り彼女の場合、“読書の秋”という事らしかったが……。
「クララ、クララ!起きてくれんと、本が皺だらけになってしまうぞ」
「ん……?むにゃ、マイスター……?あれ、止めちゃったのかな……」
「止めた?……止めたって、一体何をだ。“夢”の話か、クララよ?」
とりあえず本から降りたクララにも芋を差し出して、私は茶を準備する。
だがその背に、思いも掛けない言葉が浴びせかけられたのだ……うぅッ!
本当に、本当に……可愛い奴らめ!後で、色々とお返ししてやらぬとな。
「うん。ボクを一杯抱きしめて撫でた上で、頬にキスまでしたんだよ」
「な゛ッ!!?ななななっ、なんて夢を見ているのだ!クララッ!?」
「あー……だってマイスター、最近作業と仕事ばかりでしたからねっ」
「だからマイスターは“恋の秋”を満喫するといいですの、ってね♪」
「茶化すな三人ともッ!でも……そうだな、夕方は適当にぶらつくか」
──────恋する、なんて言葉には……まだならないからね。
----
[[メインメニューへ戻る>妄想神姫]]
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: