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**戦うことを忘れた武装神姫 その38
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・・・昼下がりの会議。 実にだるい。
なんでも、新製品の受注数がさっぱり伸びないんだとか。
あたしは設計側の人間として同席するハメになってしまったのだが、一部の連中がヒートアップしてマーケティングと企画とで水掛け論状態。
新製品は、多機能健康コタツだとか。 全く・・・あたしがあれだけ忠告したのに。こんな無駄な機能満載の製品にしやがって・・・。 本当に売る気があるのかよ・・・。
「だから、より機能を充実させ、付加価値を高めて幅広い層に受け入れられるようにするべきなんだ!」
「違う! もっと調査サンプル数を増やし、厳選した機能にするべきなんですよ!」
それさっきも言ってたよお前ら。。。 あぁもう、アタマ痒くなってきたぞ!
あたしのイライラがピークに達したその時。
「多機能高品質が今は求められているんだ!」
「そんなに付加価値を付けたいのなら、非常食にできるよう『食べられる』ものを作れとでも・・・」
にゃーん
突如、罵声とも取れる激しいやりとりの中に「猫」の声が混じった。
会議室の空気が、一瞬固まった。 だが、あたしを含めた誰しもが外からの声だと思い、再び空気が殺伐と・・・
「・・・食べられるものにしろと」
にゃーん!
・・・しなかった。 今度は、誰の耳にもハッキリと、室内からの猫の声が届いた。 会議室内がざわめき、皆足元や備え付けられたロッカーの上などへ視線が泳ぐ。
がさがさがさ。 かたり。
「うるさいのー! もう、ゆっくり寝てられないのだー!」
プロジェクターの脇に置かれた、プレゼンテーション用の製品模型の中から・・・マオチャオが出てきたではないか! しかもどこかで見たことのあるアホ面・・・
「え・・・エルガ?!」
「あ、おねーちゃん。 おはにゃー。」
思わず声を掛けると、エルガのやつは、資料や飲み物で散らかりきったテーブルの上を、ちょいちょいと楽しそうに飛び跳ねながらあたしの手元へやってきた。 会議室内にいる全員の目があたしに集中する。
「ちょっとエルガ、何でここにいるんだよっ!」
「うみゅー・・・あの中で寝てたら、ここにいたの。」
なるほど、ウチの部署で作っていた模型の中で・・・って違う!
「ねぇねぇ、みんな怖い顔してなにしてるの?」
「企画会議って奴だ! とりあえずここに入ってろ!」
こんな席に神姫が紛れ込んだことが上司に知れたらって上司同席の会議じゃないかぁっ!!!
「やだー。 あ、設計図ー!」
捕まえようとするあたしの手をするり逃げて、臨席に置かれた新製品の設計図をしげしげと眺めるエルガ。
と、ひとり焦るあたしの背後にすっと企画部長が立った。脂汗がうなじを伝うあたしの肩をぽんと叩き、
「ちっちゃいロボットが好きなのもわかるけれど。程々にしてもらわないとな。 さぁ、二人まとめて出ていってもらおうか。」
企画部長が設計図に見入るエルガに手を伸ばした、その時だった。
「これ、おじちゃんたちが考えたの?」
顔を上げたエルガは、企画部長に設計図を指し示しながら訊ねた。 部長はロボットに何がわかると言わんばかりの顔付きで首を縦に振った。すると、エルガは-
「・・・ふっ」
いかにも小馬鹿にしたような・・・そう、久遠の家で、あたしがネタにされるときのあの目つきで- 鼻で笑いとばしたのだ。
「こんなの、売れるわけにゃいのだ。」
言われた企画部長の頬がぴくぴくと引きつる。
「こたつのココロが無いコタツなんて、売れるわけにゃいのー。」
びっ! と、企画部長に言い放った。
「ふん、ロボットに何がわかると言うんだ。」
「えらそーなクチを叩くのなら、もっと売れるもの作ってからいうのだ。」
切り返されてうろたえる部長の姿に、凍りかけた会議室の空気が・・・和んだ。
「コタツ使いのプロのにゃーが、コタツのココロを教えるのだ! みんにゃ、よーくきくの!」
エルガはあたしの前に、どこからか持ち出した手のひらサイズみかん箱を置いて上に乗り、何事か状況が掴めずに唖然とする出席者を前に、堂々と「コタツとは何たるか」を語り始めた。
語り口がネコネコしい為、始めは冗談半分で聞いていた連中も、徐々にエルガの話に耳を傾け。 ふと気づけば、エルガのワンマンショーとなっていた。
久遠の神姫の中でもエルガは結構語る方ではあったけれど、ここまで肝が据わって、かつ知識が豊富だったとは。 なにしろ、エルガの展開する「コタツ論」に、あたしも含め誰一人として反論できる者は- いなかったのだから。
それから一月の後。
食堂でやや遅い昼飯を食べていると、ぶら下げられたテレビでは通販コーナーをやっていた。
『では、今月の新商品です! 東杜田技研の『なごみ』! コタツの心、和の心を、とことんまで求めた、シンプルでありながら味わい深い、健康コタツのご紹介です!』
「ほー、もうタナカにも卸したのか。。。」
キツネ蕎麦をすすりながら、商品紹介を眺める。 結局、エルガのコタツ論に則り、機能をトコトンまで絞り込んだところ・・・当初とはうって変わり、生産予定数を軽く越える受注数が。
『ではここで、このコタツの設計に携わりました神姫のエルガさんに、このコタツのポイントをお伺いしましょう!』
先週、あたしの机の上で収録されたエルガの解説ショーが映し出された。
『どーもにゃのだ。 この「なごみ」は、テッテーしてコタツにゃの。なぜなら・・・』
あの時と同じ堂々とした面持ちで「なごみ」の解説・・・というかコタツ論を展開するエルガの姿。
まさか神姫が、ニンゲンの商品の開発に関わろうとは・・・だれが想像しただろうか。
神姫と人間。
すなわち、機械と人間の垣根が・・・
またひとつ、低くなった気がした。
ありがとう、エルガ。 アホ猫だと思っていたけれど、ちょっと見直したぞ。
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**戦うことを忘れた武装神姫 その38
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・・・昼下がりの会議。 実にだるい。
なんでも、新製品の受注数がさっぱり伸びないんだとか。
あたしは設計側の人間として同席するハメになってしまったのだが、一部の連中がヒートアップしてマーケティングと企画とで水掛け論状態。
新製品は、多機能健康コタツだとか。 全く・・・あたしがあれだけ忠告したのに。こんな無駄な機能満載の製品にしやがって・・・。 本当に売る気があるのかよ・・・。
「だから、より機能を充実させ、付加価値を高めて幅広い層に受け入れられるようにするべきなんだ!」
「違う! もっと調査サンプル数を増やし、厳選した機能にするべきなんですよ!」
それさっきも言ってたよお前ら。。。 あぁもう、アタマ痒くなってきたぞ!
あたしのイライラがピークに達したその時。
「多機能高品質が今は求められているんだ!」
「そんなに付加価値を付けたいのなら、非常食にできるよう『食べられる』ものを作れとでも・・・」
にゃーん
突如、罵声とも取れる激しいやりとりの中に「猫」の声が混じった。
会議室の空気が、一瞬固まった。 だが、あたしを含めた誰しもが外からの声だと思い、再び空気が殺伐と・・・
「・・・食べられるものにしろと」
にゃーん!
・・・しなかった。 今度は、誰の耳にもハッキリと、室内からの猫の声が届いた。 会議室内がざわめき、皆足元や備え付けられたロッカーの上などへ視線が泳ぐ。
がさがさがさ。 かたり。
「うるさいのー! もう、ゆっくり寝てられないのだー!」
プロジェクターの脇に置かれた、プレゼンテーション用の製品模型の中から・・・マオチャオが出てきたではないか! しかもどこかで見たことのあるアホ面・・・
「え・・・エルガ?!」
「あ、おねーちゃん。 おはにゃー。」
思わず声を掛けると、エルガのやつは、資料や飲み物で散らかりきったテーブルの上を、ちょいちょいと楽しそうに飛び跳ねながらあたしの手元へやってきた。 会議室内にいる全員の目があたしに集中する。
「ちょっとエルガ、何でここにいるんだよっ!」
「うみゅー・・・あの中で寝てたら、ここにいたの。」
なるほど、ウチの部署で作っていた模型の中で・・・って違う!
「ねぇねぇ、みんな怖い顔してなにしてるの?」
「企画会議って奴だ! とりあえずここに入ってろ!」
こんな席に神姫が紛れ込んだことが上司に知れたらって上司同席の会議じゃないかぁっ!!!
「やだー。 あ、設計図ー!」
捕まえようとするあたしの手をするり逃げて、臨席に置かれた新製品の設計図をしげしげと眺めるエルガ。
と、ひとり焦るあたしの背後にすっと企画部長が立った。脂汗がうなじを伝うあたしの肩をぽんと叩き、
「ちっちゃいロボットが好きなのもわかるけれど。程々にしてもらわないとな。 さぁ、二人まとめて出ていってもらおうか。」
企画部長が設計図に見入るエルガに手を伸ばした、その時だった。
「これ、おじちゃんたちが考えたの?」
顔を上げたエルガは、企画部長に設計図を指し示しながら訊ねた。 部長はロボットに何がわかると言わんばかりの顔付きで首を縦に振った。すると、エルガは-
「・・・ふっ」
いかにも小馬鹿にしたような・・・そう、久遠の家で、あたしがネタにされるときのあの目つきで- 鼻で笑いとばしたのだ。
「こんなこたつ、売れるわけにゃいのだ。」
言われた企画部長の頬がぴくぴくと引きつる。
「コタツのココロが無いコタツなんて、売れるわけにゃいのー。」
びっ! と、企画部長に言い放った。
「ふん、ロボットに何がわかると言うんだ。」
「えらそーなクチを叩くのなら、もっと売れるもの作ってからいうのだ。」
切り返されてうろたえる部長の姿に、凍りかけた会議室の空気が・・・和んだ。
「コタツ使いのプロのにゃーが、コタツのココロを教えるのだ! みんにゃ、よーくきくの!」
エルガはあたしの前に、どこからか持ち出した手のひらサイズみかん箱を置いて上に乗り、何事か状況が掴めずに唖然とする出席者を前に、堂々と「コタツとは何たるか」を語り始めた。
語り口がネコネコしい為、始めは冗談半分で聞いていた連中も、徐々にエルガの話に耳を傾け。 ふと気づけば、エルガのワンマンショーとなっていた。
久遠の神姫の中でもエルガは結構語る方ではあったけれど、ここまで肝が据わって、かつ知識が豊富だったとは。 なにしろ、エルガの展開する「コタツ論」に、あたしも含め誰一人として反論できる者は- いなかったのだから。
それから一月の後。
食堂でやや遅い昼飯を食べていると、ぶら下げられたテレビでは通販コーナーをやっていた。
『では、今月の新商品です! 東杜田技研の『なごみ』! コタツの心、和の心を、とことんまで求めた、シンプルでありながら味わい深い、健康コタツのご紹介です!』
「ほー、もうタナカにも卸したのか。。。」
キツネ蕎麦をすすりながら、商品紹介を眺める。 結局、エルガのコタツ論に則り、機能をトコトンまで絞り込んだところ・・・当初とはうって変わり、生産予定数を軽く越える受注数が。
『ではここで、このコタツの設計に携わりました神姫のエルガさんに、このコタツのポイントをお伺いしましょう!』
先週、あたしの机の上で収録されたエルガの解説ショーが映し出された。
『どーもにゃのだ。 この「なごみ」は、テッテーしてコタツにゃの。なぜなら・・・』
あの時と同じ堂々とした面持ちで「なごみ」の解説・・・というかコタツ論を展開するエルガの姿。
まさか神姫が、ニンゲンの商品の開発に関わろうとは・・・だれが想像しただろうか。
神姫と人間。
すなわち、機械と人間の垣根が・・・
またひとつ、低くなった気がした。
ありがとう、エルガ。 アホ猫だと思っていたけれど、ちょっと見直したぞ。
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