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SHINKI/NEAR TO YOU
良い子のポニーお子様劇場・その3
『Over the Rainbow』(後篇)
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3
星、星、星――満天の星空。
まるでプラネタリウムのような星の瞬く夜空が、ヘミソフィア(半球状)の天井を成して特設ステージを包んでいた。
幻想的な光景に、しばし見とれたフィシスたちは、自分たちがここに練習をしにきたことを思い出し、慌てて舞台に向かった。
すでに配置につき、空中に待機してきたアクロバットチームたちに混じり、舞台の中央の所定の位置にブルーメンヴァイスの三人がつく。
演出スタッフが本番さながらに操作するスポットライトを浴びながら、フィシスは神姫センターのマスターサーバとのデータリンクを開始する。
アクティブになった回線から流れてくるコレオグラフィーに関する情報と、事前にマネージャーから聞かされていたものとを照合しながら、宙へと躍り出る。
アクロバットチームのアーンヴァルたちとツガルたちが、左右に分かれ散開。
流れる音楽に合わせ、様々なフォーメーションを取る神姫たちの合間を縫って、ブルーメンヴァイスの三人が飛び交う。
星空を落としたような光溢れるステージを、十数体の神姫が時には集合し、時には散開し鮮やかに駆けた。
「らーらららん、らららん♪ らららー、らららー♪」
ハミングを取りながらフィシスが空中を舞っていると、突然目の前を黒い影が遮った。
『ふーん。鑑賞用のお人形さんが、少しはやるじゃん?』
進路をふさぐように現れたアクロバットチームのリーダーに、フィシスは身を翻す。
『ちょっと、接近しすぎよ。その位置だとフォーメーションが崩れてしまうわ』
フィシスは相手に合わせ、喉部声音でなくHFC(センターとのデータリンクを使った高周波通信)を使い相手に呼びかける。
『や~っぱ、アイドル様ってばお上品~。ガイドブックなしじゃ、何もできないタイプ?』
旋回するフィシスをあおるように、アーンヴァルが軌道を重ねてくる。
『ここからは、アドリブタ~イム。見せてみなよ、アイドル様の実力をさっ』
本気――? 思う間もなく、視界の隅で数度瞬いた光に反応し、とっさに急旋回。
アルヴォRDWの銃弾が光を曳いて、フィシスが数瞬前に存在した空間を通り過ぎていく。
『どうなってんのこれぇ? きゃおきゃお!』『どうやら相手は本気のようだ……』白夜と白雪のふたりからのHFC通信。緊迫した様子。
フィシス――マスターサーバを通じて得た空間座標からふたりの状況を瞬時に把握。それによってふたりが、アクロバットチームのアーンヴァルとツガルの集団に追い立てられていることを知る。
ふたりをところに駆けつけようと飛翔したフィシスに、アーンヴァルリーダーが突進する。
とっさにフィシスは振るわれたライトセーバーを、右手に掲げる儀仗から障壁を展開させ受け止めた。乱暴な相手に向かって直接〝声〟を発して抗議する。
「どういうつもり?」
「言ったでしょー、アドリブの練習よ。とっさのアクシデントに対応できないようじゃ、ショーの主役は務まらないでしょ?」
セーバーで障壁を払い退け、距離を取ったアーンヴァルが機関銃を乱射する。
状況をモニタしていたスタッフが、様子がおかしいことに気づいたのか、バラバラな行動を取る神姫たちを制止しようと、大慌てで練習中止の信号を送る。
それに神姫たちが個々で交し合うHFCが加わり、ステージ会場はたちまち幾つもの電波が飛び交う騒乱状態と化していた。
仕方なく、フィシスは最低限の回線のみを残し、他をカット。情報の取捨選択に気をつけながら、撃ってくるアーンヴァルに牽制のため左手から光弾を放つ。
「レイ――ッ!」
立て続けに飛んでいく光弾を、アーンヴァルは翼で風を切りながら軽々と避ける。
「夢見るのもいいけどさぁ? ドロシーもいないアンタらが、オズに会えると思ってんの?」
睨め返すフィシスを見て、「あは、そんな顔もできるんじゃん」とアーンヴァルリーダーは楽しそうに笑った。そのまま体をぶつけるようフィシスの周囲をすれすれに飛び回る。
ワザと危険なぎりぎりの軌道で挑発してくる相手に、カッと上気しながら、
「こんな危険なことを――!?」
咎めるよう声を荒げたフィシスはハッと急反転すると、猛然とステージ会場の一点に向かって急加速した。いきなり明後日の方向に飛び出す白い姿を、アーンヴァルリーダーが訝しげに追いかける。
『ちょっと、逃げるの? それってチョーつまんないんだけ……ど?』
追うアーンヴァルもそれに気づいて目を見開いた。フィシスは構わず加速を続ける。
彼女の持つ大儀仗サクラメントによる、マスターサーバとのインタラクト探査では、わずかの猶予もないことが分かっている。躊躇する時間などない。
『あれって……まずくない?』
リーダーのHFCの呟きに会場内の他の神姫たちもざわつき出す。
新イベントのために飾り付けられたステージ会場、その中で急ピッチな設営のため固定が甘かったのか、それとも元から配置が不安定だったのか――舞台を飾るモニュメントのひとつが倒れ出し、崩れようとしていた。
事態を察知した神姫たちが悲鳴を上げる。崩れるモニュメントの下で、知らずに追い駆けっこを続ける神姫の姿――白夜と数体のツガル。
騒乱状態になった通信状況に、一時的に回線を閉じてしまっているのだろう。モニタスタッフや他の神姫たちが発する緊急通信に、彼女たちは気づかない。
HFCを諦め大声で危険を知らせる周りの声。ようやく白夜を追いかけていたツガルの一体が状況を察し、慌てて離脱をはかる。しかし、白夜とまだ経験の浅いツガルがひとり取り残されてしまう。
彼女たちの前に、人間にとってはさほどでもない――しかし神姫にとっては脅威となるサイズのモニュメントが襲い掛かるように倒れかかる。
その今や怖ろしい凶器と化して崩れ落ちるモノに、フィシスは白い矢となって正面から突っ込んだ――。
4
「にゅきゅ~ん、もう心配したんだよフィたん!」
「ごめんなさい、もう大丈夫よ」
医療用クレイドルの上で身を起しながら、フィシスは手を振って何処にも問題がないことをアピール。心配顔の白夜の隣で、白雪が嘆息する。
「全く無茶をする。一歩間違ったら大惨事」
「でも、誰も大事に至らずにあの状況をうまく切り抜けられたんだから……ね?」
「だからって、倒れてくるモニュメントに体当たりはなかったみゅ~」
あの時――倒れてくるモニュメントから取り残された白夜とツガルを助けるために急行したフィシスは、なんとモニュメントに自分をぶつけることで方向を変えたのだ。
強引に倒れる向きを変えたモニュメントは、白夜とツガルをかすめて落下した。
ふたりは無事だったものの、それと正面から当たり勝負をするハメになったフィシスは気を失い飛ばされて墜落。このセンター内の神姫メディカルルーム(顧客の依頼による神姫の修理や、センター内の神姫スタッフたちの定期診断を行う施設)に担ぎ込まれることとなった次第である。
「いくら何でも無鉄砲すぎ。他にも方法があったのでは?」
「とにかくすっごく心配だったにょ~、うるうる」
うるうる目を潤ませる白夜とジト目の白雪に、フィシスはバツが悪そうに声を小さくする。
「だって……とっさに他の方法が浮かばなかったんだもの……しょうがないじゃない?」
子供のように拗ねた口調で、話す声はどんどん小さくなってく。
その様子に、白雪は一際大きなため息をついた。
「ふう。何はともあれ、フィのお陰で事なきを得たのも確か」
「みんな無事でよかったみょろ☆ ありがとね、フィたん♪」
笑みを浮かべるふたりに、フィシスもにっこりと笑い返した。
「ええ。明日の練習では、また頑張りましょう」
フィシスに見送られ、肩を叩きあいながら白夜と白雪がメディカルルームを後にする。
残ったフィシスは、クレイドルに寄りかかると瞼を閉じた。
いつしか消灯時間となり、メディカルルームも常夜灯の淡い明かりだけを残して暗くなる。
今頃は、外もあのプラネタリウムのステージ会場のように星空だろうか。
「鐘は響くよ ring on ring on♪ 命目覚めるこの大地♪」
曇りよりは、やっぱり晴れた夜空がいい。今の時期ならば、天の川が明るく見えるかもしれない。それとも、摩耶野市の明かりのため晴れていてもあまり鮮明には見えないものなのだろうか。
だとしたら、以前サーバにアクセスした時に見た郊外のマイクロ波発電施設。あの丘に登ったら、きっとキレイな星空が見れるだろう。
歌を口ずさむフィシスの元に、歩みよる影があった。
「キレイな歌ね……」
フィシスは歌を止め、やってきたその神姫に微笑んだ。暗闇にとけるような黒いボディカラー、アクロバットチームのリーダーであるあのアーンヴァルが、そこにいた。
常夜灯の薄明かりの下、クレイドルの端にアーンヴァルが腰を下ろす。隣で身を起すフィシスに顔を向けないまま、静かに語り出す。
「どう、調子は?」
「お陰さまで、万全よ。全系統異常なし……ってね」
「そう、それは安心ね。明日からのステージ練習で、不調を理由に足を引っ張られるのはゴメン」
「ご忠告、ありがたく受け取らせていただくわ」
しばしの、間――。
「ひとつ、聞いてもいい?」
「何かしら?」
「今日の練習中の事故。なーんであんな無茶したの?」
振り返ったアーンヴァルの真剣な瞳がフィシスを見つめる。
「アンタのスピードなら、無茶なマネせずともあのストラーフをつかんで離脱する時間は十分にあったはずじゃん。なのに、何でワザワザ体当たりなんか……」
「――だって。そうしなければ、もうひとりの娘がモニュメントの下敷きになっていたわ」
見開かれるアーンヴァルの瞳を真っ直ぐ見据え、フィシスはさも当たり前に語る。
「自分のチーム仲間でもない、他人を助けるためにあんなことしたっていうの?」
「あら、仲間よ。チームとかそんなのは関係ない。みんなこの神姫センターで働く仲間じゃない」
信じられないといった表情で見つめるアーンヴァルに、フィシスは決まりが悪い小学生みたいに、もごもご。
「……それにメンバーに怪我人がでたら、せっかくの新しいショーができなくなってしまうわ。そんなことしたら、ショーを楽しみにしてくれるビジターのみんなにも申し訳ないでしょう?」
「ほんっとバカね。それで肝心の主役が怪我したら、もっとどーしようもないつーの」
呆れるアーンヴァルに、フィシスがここぞとばかりに強気に指を振る。
「ダイジョーブ。これでもフィは、最新型で結構ガンジョーにできてるの。あのくらいヘッチャラなんだから」
そのフィシスの邪気のない笑顔を見て、アーンヴァルは「あ~っ」と唸って頭を掻きむしると、スッと立ち上がった。
「全く……アンタと話してると、あーだこーだ考えてるこっちの方がバカに思えてくる」
「フィはみんなと話すのが楽しいわ」
「はいはい、よーござんした」ぷいっとそのままメディカルルームから出て行こうとしたアーンヴァルが、ふいに立ち止まった。
「ドロシーと仲間たちは……」
フィシスに背中を向けたまま、アーンヴァルがポツリと呟く。
「それぞれの願いを叶えてもらおうってオズを頼っても、結局それは叶わなかった。なぜならオズはただの小さな爺さんだったから」
フィシスはそんな彼女を見つめる。背中ごしに視線を感じたか否か、アーンヴァルが思い切ったように言葉を吐き出す。
「結局、魔法使いなんて役立たず。何にもなんないっしょ」
「……確かに都合のいい魔法なんてものは、この世に存在しないのかもしれない」
アーンヴァルが見つめる先、入り口の奥を一緒に見つめ、フィシスは続ける。
「でも、ドロシーが願いを叶えてくれたわ。フィたちはそんなドロシーを知ってるじゃない」
こともなげに語るフィシスを振り返り、アーンヴァルはニッと笑みを浮かべると「じゃあ、明日」くるりと背を向け手を振る。
『昼間は、ダチを助けてくれて……サンキュー』
去り際にボソッと呟いたHFCを、フィシスの高感度センサはしっかりと受け取った。
神姫センター摩耶野市店、特設イベントステージ。
満天のプラネタリウムとスポットライトの明かりを受けて、十数体の神姫が宙を舞う。
右に散開する黒い翼、アクロバットチームのアーンヴァル。
左に散開する藍色の羽、アクロバットチームのツガル。
その間を縫って、三つの白い光が駆け抜ける。
艶やかに舞うフィシス。
無邪気に跳ねる白夜。
クールに翔ぶ白雪。
笑顔を振りまくブルーメンヴァイスの三人に、ビジターから歓声が湧き起こる。
三方向に別れた三人は、演武のように先々でアクロバットチームと空中アクションを披露。
白雪のクナイが飛び、白夜がグレネードを撃ち、フィシスが背に広げた大きく輝く羽根から無数のレーザーを放つ。
様々なエフェクトと七色のレーザービイムが乱れ飛び、ステージの熱気は最高潮に達する。
やがて光弾けたその先で、神姫たちは音楽に合わせ、歌い踊り始める。
『見てみて、ビジターのみんなすっごい楽しんでくれてるにょ、ばるばる~』
熱狂するビジターに笑顔を送りながら、白夜のHFCに白雪が応じる。
『ああ。どうやらショーは成功のようだね、フィ?』
ふたりの嬉しそうな通信を聞きながら、フィシスは歌う。そう――これこそがフィシスたちのにとっての魔法の国だ。
これがフィシスたちの進む道。エメラルドの国のその先に、彼女たちは進む道を迷わない。
何故なら――
『フィたちにとって、ビジターのみんなこそがドロシーなんだもの。ビジターの笑顔こそが、最高でとっても素敵な〝魔法〟なのよ』
それが彼女たちブルーメンヴァイスにとっての、そして彼女たちを応援してくれるビジターたちにとっての魔法なのだ。
白夜と白雪と一緒に歌いながら、フィシスはビジターに飛び切りの笑顔を送るのだった。
……摩耶野市には、三人の白い妖精たちが住まうという。
今日も彼女たちは笑顔という名の魔法によって、神姫センターを訪れるビジターたちを祝福する。
&italic(1){紡がれるは 魔法の国 の 物語}
&italic(1){機械仕掛け の 妖精たち と}
&italic(1){ヒト の 織り成す 魔法が 語る}
&italic(1){夢 と 幻想 の ひととき を}
&italic(1){あなたに――}
『Over the Rainbow』(後篇)良い子のポニーお子様劇場・その3//fin
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