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「潜入・反撃の鉄槌!」(2007/09/09 (日) 21:58:01) の最新版変更点
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*● 神姫のお仕事。(海底編) ●
**◆ 最終話 「潜入・反撃の鉄槌!」 ◆
夜中の1時過ぎ。明人さんの推測が正しければ、今頃グレイス号の中では
妨害者スーラ……アスラとの決着が付こうとしている筈。
「ノア子さん、まだ……連絡が入りませんね」
私と一緒に無線器の前で待機している青葉さんが言った。
「無線器の番は私がしていますよ。青葉さんはシビルの修理がありますし、今日はもう
休んだ方がいいのでは?」
「いえ。シビルはもう自己診断モードに入ってますし、何よりも舞姫の事が心配で……」
そうか、舞姫さんはアスラと仲が良かったし、ショックも大きいでしょうからね。
「判りました。でもあまり無理はしないで下さいね」
二人分のコーヒーを淹れようとキッチンに向かった丁度その時、無線器が鳴った。
明人さんからの通信は簡潔なものでした。
やはりアスラが犯人だったということ。
彼女がラヒム船長を裏切った――守ろうとしていたこと。
腹部に仕掛けられていた時限爆弾と、そして……ミアちゃんが右腕を失ったこと。
そして最後に一言。『ノアールを連れてきてくれ』
「ノアール?橘さんの神姫、あの『緑色のケルベロス』ですか!?」
「ええ。彼女は別の場所で待機しているんです」
まぁ嘘ではないです。私の神姫武装は確かに別の場所で「待機」していますから。
「でもそれって……戦いが始まるって事でしょうか?」
「多分そうでしょうね。そしてそれが……恐らく決着の時になると思います」
朝の7時。ノアに通信を入れた後も腕輪のデータ解析をしていたから、結局一睡も
出来なかった。普段なら一日ぐらい徹夜しても大丈夫だが、流石にこう色々あると
疲れがハンパ無く溜まってしまう。
とりあえずコーヒーでも飲もうと食堂へ向かうと……
食堂の中央では、高槻君と倉内君の二人が並んで朝食を食べていた。
この二人が一緒というのも異様だが、その腫れ上がった顔が更に不気味だ。
「お前達、その顔はどうしたんだよ!」思わず声を張り上げてしまう。
二人は顔を見合わせると、バツの悪そうな表情を浮べた。
「えっと……拳で語り合ったと言うか何と言うか」と倉内君。
「まぁぶっちゃげ、二人で殴りあったんですわぁ」と高槻君。
「何をやってるんだよ……いつもこんな事をやってるのか?」
「まさか!喧嘩なんてバカバカしい。コタローに釣られてしまっただけですよ」
「何だよ、俺の責任だって言うのか?」
「そうだよ。俺のテンションをここまで上がるのってオマエぐらいだぞ?」
「そんなのお前が勝手にテンパってるだけだろう!」
「はいはいそこまで!」
二人の背後から佐伯さんが割って入った。
「せっかく仲直りしたのに、また喧嘩してどうするのよ!」
窘められてシュンとする二人。まぁ……とりあえずは良しとするか。うん。
朝の8時。いつもなら作業前の全体会議を行う時間。だが今は……他にやる事がある。
会議室にはスペシャルタスクチームの全員が集まっている。
とは言っても脱落者続出なので、人数は減ってしまっている。
責任者の西条さん。助手の佐伯さん。安全管理の親方。高槻君と倉内君。そして俺こと橘。
神姫は……マギとアル・ヴェルとナル、それから舞姫の4人だけか。
後はノアが間に合ってくれれば……
会議室に集まったメンバーを見回す。ラヒム船長も同席しているが、他のみんなと同じく
睡眠不足なのは明らかだ。
「みんな昨日の夜はお疲れ様。色々と大変だったけど、得るものは多かったと思う。
何よりも……アスラが敵じゃなかったって事が判明したのが大きいな」
船長が微笑んでいるのに気が付いた。
「まず最初に、アスラが残してくれたデータチップの内容を伝えておく。
彼女の言っていた別働隊、その手段は……ドリルモグラをこの船にぶつける事だ」
「おぃおぃ正気かよ!」親方が叫んだ。
「つまり連中、回収したドリルモグラを魚雷に改造して、俺達を皆殺しにする気なんだ」
「……アスラが必死になってたのも当然だな……」高槻君が呟く。
「そうだな。もし計画通りのスペックに仕上がっていたら、この船は木っ端微塵だろう」
全員の顔を見る。そこには恐怖は無く、みんな強い怒りを表していた。
「連中の計画では、旅客船にカモフラージュした工作船にドリルモグラを積み込み、
俺達がボルネオ島に到着する直前に発射する事になっているらしい」
「つまり連中は、ゴール地点付近で待ち構えていると言う事ですか?」と佐伯さん。
「ああ。工事終了まで残り100km弱だが、レーダーの届く前方方向ギリギリの所に
それらしい船影を確認した」
「橘さん、そこまで敵の計画が判明してるなら……何とかならないのか?」と倉内君。
「勿論、何とかするつもりさ」ニヤリと笑う。
「今までは後手に廻ってたが、今回はこちらから仕掛ける。これはその為の会議だ」
朝の作戦会議の結果、俺達は早速この工作船に乗り込む事になった。
本当は夜まで待って突入したい所だが、アスラが12時間毎に定時連絡をしていた
――次は昼の12時――ので、その前に行動を起こす必要があったのだ。
アスラからの連絡が無ければ、不審に思った連中が何をしてくるか判らない。
作戦の流れはこうだ。
最初にナルとアル・ヴェルがコアブロックでレーダーを掻い潜って侵入。そして敵船の
レーダー類・通信器類を破壊。その後で俺・コタロー・橘の三人がボートで接近。
先発隊と合流後、俺とコタローでドリルモグラを無力化、他のメンバーはそのサポート。
親方と舞姫とマギは予備戦力としてグレイス号で待機。裕子さんと西条はバックアップ。
計画通りに進めば1時間も掛からないハズだ。
敵船への侵入準備をしていると、裕子さんが心配そうに近寄って来た。
「恵太郎くん、何で貴方達がこんな危険な事をしなくちゃいけないのよ……」
「それは橘さんが説明したじゃないですか。地元の警察は信用出来ない。国際警察じゃ
時間が掛かり過ぎる。工期があと2日しか無い以上、結局は自分達で何とかするしか
無かったんですよ」
「あまり心配しないで下さい。敵の戦力も判明してるし、そんなに危険じゃないですよ」
ダイバースーツの上から防弾チョッキを着たコタローが言った。
「基本的に船は無人だし、障害となるのは数体の神姫だけですから」
「そうですけど………」裕子さんはまだ心配そうだ。
コタローが今度は俺の方を向いて言った。
「でも変な話だよな。神姫を敵視してる連中が、結局最後はその神姫の力に頼るなんて」
「まぁ……それだけ連中自身も神姫の潜在能力を認めているって事だろ」
「なるほどな」
午前11時。作戦は開始されました。
敵船との距離は20km近くありますが、私と師匠のコアブロックは作戦用に改造を
施されているので、20分弱で到達する事が出来ました。
「師匠、成功したでしょうか……?」インカムで話しかけます。
『敵船のレーダーのスペックでは発見されていない筈です。大丈夫、行きましょう!』
海上でコアブロックを乗り捨て、背部ブースターを全開にして船に乗船します。
甲板に降り立ち、ジャイロスタンガンとショックダガーを構えます。
ちなみにこれ、レイドックのオリジナルであるバンディッツボディの使用者が
普段使っているのと同じ物らしいです。
今は潜入作戦の最中なので、二人ともこんなコマンド装備をしているのです。
(ケータロー「これ、やっぱりオマエが設計した違法装備……」)
(コタロー「はいはい、そのとーりですよー」)
師匠と一緒に船内へ浸入します。船の構造は頭に入っているし、迷う事はありません。
慎重に設定されたルートを進んで行く。目標は操舵室。
突然、前を進んでいた師匠が立ち止まってジャイロスタンガンを構えました。
それに倣って私も構えようとするけど、次の瞬間、弾けるように飛び出した師匠の一撃で
通路を歩いていた敵の神姫は昏倒してしまいました。
立ち上がりながら師匠が言いました。
「さあ、先を急ぎましょう!」
作戦は思ったより簡単に進んだ。正直、拍子抜けって感じすらする。
ナル達から操舵室制圧の連絡を受けた俺達は、早速ボートで敵船へ近づき乗船した。
そして先発隊と合流する為に操舵室へと向かう。
「思ったより簡単ですね」倉内君が言った。
「そうだな。だが油断は禁物だぞ」
そう言って俺は、手にした拳銃の弾丸を確認した。
結局その後も大したトラブルは無く、ナル達と合流するとそのまま格納庫へ向かった。
途中で3,4体の神姫と出遭ってしまったが、その度にアル・ヴェルとナルの二人が
麻痺させてしまう。
何か倉内君と高槻君が暇そうにしてる。無論二人とも武器を持っているのだが、
その出番は無さそうだな。
順調に格納庫まで辿り着いた。グレイス号のより狭いな……半分ぐらいしか無い。
その中央に見覚えのある機体が横たわっていた。
ドリルモグラ号。いや、今は……ドリルミサイル号と言った方が適切か。
「さて、と。サッサと終わらせてしまいましょうか!」
右手に武器代わりのロングスパナを握りしめた高槻君が機体に近づいた。
「おいコタロー、不用意に近寄るなよ!」
倉内君がそう言った直後、何かが高槻君に襲いかかった。
「うわっ!!」
咄嗟にスパナで防いだようだが、そのまま俺の所まで吹っ飛んできた。
「コタロー!大丈夫か!?」
「イテテっ……あぁ大丈夫だ。それよりアレは……」
起き上がった高槻君の示す方向に、一体の神姫がいた。
武装はしていない。素体状態のままだ。だが人間を吹っ飛ばしたパワー、普通の
神姫である筈が無い。何よりも……姿がアスラとソックリだった。
「橘さん!あれはひょっとして……」倉内君が叫ぶ。
「……あぁ。ドリルミサイルのパイロット、カミカゼ特攻員だろう。
しかしアスラと同じ姿ってことは……相当なスペックかもしれない!」
実際、アスラの応急処置をしている上で判明したことだが、その素体は神姫の範疇を
遥かに超える物だった。内臓された凶器を抜きにしても、パワーだけで人を殺すことも
可能だろう。恐らくレイドックと比較しても見劣りはしない筈だ。
「マスター達は下がって下さい。ここは私と師匠に任せて!」
そう言ってナルが一歩前に出た。アル・ヴェルもそれに続く。
「ナル!そんな借り物の装備で大丈夫なのか!?」
「正直、自信は無いのですが……来ますよ!!」
虚ろな目をした「ソレ」は、信じられないようなスピードでナルに襲いかかった。
クソッ、速くて拳銃の照準が合わせられない!
辛うじて攻撃を回避するナル。だが動きがぎこちない。
再びナルに襲いかかろうとする「ソレ」に、アル・ヴェルがダガーを突き立てた。
だが簡単に弾かれてしまう。電撃も受け付けない。傷一つ付かない。
そして「ソレ」は何事も無かったようにナルを殴りつけた。
彼女は両腕で防御するが、そのまま10m以上も吹き飛ばされてしまう。
「ナルっっっっ!!!!」
倉内君の叫びにナルが弱々しく立ち上がりながら答えた。
「だい……じょうぶです………!!でもこの装備じゃ………」
それを見たアル・ヴェルが「ソレ」に向かって言った。
「貴女、自分が何をしているのか分かってるの!?暴れて、他人を傷つけて、そして最後は
特攻して自分自身をも破壊してしまうのよ!?」
その言葉を無視して、ソレは床に落ちていた鉄板を拾い上げた。
「ニンム……スイコウ……ゾッコウ……」
そう言いながら鉄板をアル・ヴェル目掛けて投げつけた………
「どっこいしょぉぉぉぉ~~~~~~っ!!!!」
突然飛び込んできた何かが、その鉄板を弾き飛ばした。
大音響を響かせて床に落下する鉄板。そしてアル・ヴェルの目の前には………
「破壊王シビル、大・復・活ぅ~~~!!」
肩にツルハシを担ぎ、Vサインをしているシビルがいた。
「し、シビルさん!?」アル・ヴェルが仰天しながら言った。
「ふっふっふっ、主役は遅れて登場するものなのよっ!」
『みんな無事でしたかぁ~~~!?』
格納庫の入り口から聞き覚えのある声がした。拡声器を使ってるらしい。
「あ、青葉さん!?これはいったい……」
『皆さんが出発した直後にグレイス号に到着したんですよ!』
その隣りには親方と舞姫もいた。
何だよ、インカムに連絡してくれてもいいのに……まぁ助かったけどな!
『修理が終わったのでシビルさんを連れて来ました!それからもう一人………』
影が動いた。
青葉さんの背後から放たれた影は、シビルに襲い掛かろうとしていた「ソレ」に向かって
一撃を加えると、これを吹き飛ばした。
「主役もいいですけど……隙だらけですよ?」
ノアだ。
「うっ……ちょっと油断しただけじゃない!」
ツルハシを構えようとするシビルを、ノアが制した。
「シビルさん。申し訳ないですけど……この獲物は私に譲って下さい」
「な、何でよっ!」
抗議しようとしたシビルだが、ノアの冷たい視線に気が付いて止めてしまった。
静かに「ソレ」に向かって歩み寄るノア。
「どうやらCSCを抜かれているようね……好都合だわ、容赦する必要が無いもの」
そう言って愛用の大鎌《クロノスベル》を構えた。
「まぁ八つ当たり以外の何物でもないんでしょうが……よくもミアちゃんの右腕を!!」
「おーい、それって本当に八つ当たりだぞ~~~」
「ご主人様は黙っててください!!!!!!!」
うっ……今日のノアは怖いぞ……
ノアの一撃から立ち直った「ソレ」は、不気味なセリフを繰り返している。
「ギギ……ギ……ニンム、ニンム、……スイコウ……」
そして突然ノアに襲い掛かった。
それを軽やかなステップで避けるノア。相手の動きを完全に読んでいる。
「心の無い人形に……私は倒せないわよ?」
一瞬の隙を突き、「ソレ」の右腕を取って片手で投げ飛ばす。
倒れている「ソレ」を見下ろしながらノアが言った。
「ミアちゃん……貴女の技、借りるわよ!」
起き上がった「ソレ」に向かってダッシュするノア。そしてその寸前で体を独楽のように
回転させると、その勢いのまま《クロノスベル》で脇を斬り抜けた。
「秘剣……猫缶斬り!」
その一撃を喰らった「ソレ」は、真っ二つになって倒れた。
≪ エ ピ ロ ー グ ≫
帰国して一ヵ月後、佐伯さんから手紙が届いた。近状報告ってやつだ。
何でも提出した工事報告が認められ、本工事である「太平洋横断ケーブル工事」も
神姫達の手で、西条助教授の手で行われる事になったそうだ。
妨害してきたライバル会社だけど、その正体は不明のままらしい。
まぁあれだけ派手に動いていたんだ、その内ひょっこり証拠が出てきて
告発される可能性も高いだろうな。………内緒だけど、実はアキオがまた橘さんを雇って
そこら辺の調査をさせているらしい。
それからアスラだけど、今もラヒム船長の家族と一緒に暮らしているそうだ。
修理過程で普通の素体に復元改造をされていたが、今の彼女にあんな力は不必要だろう。
何にしても彼女には幸せになってもらいたいものだ。
そうそう、ラヒム船長とアスラは引き続き西条助教授の手伝いを続けるらしい。
今度はアスラがドリルモグラ号のパイロットになるそうだ。
それをサポートするのは、例の工作船に乗り込んでいた神姫達。みんな片っ端から
ケータローの研究室で「復元修理」されたらしい。まぁ「ソレ」は例外だけどな……
「コタロー!何を見てるの?」
クレードルから起き上がったミアが寄って来た。
「ああ、佐伯さんから近状報告の手紙が届いたんだ」
「わぁっ!見せて見せてぇ~~~!」
俺の手から手紙を強奪するミア。その拍子に、封筒から一枚の写真が出てきた。
「これは……」
手に取る。それは、工事開始前にグレイス号を背景に全員で撮った記念写真だった。
短い間だったけど色々な事があったよな……しみじみと写真に見入る。
ミアが俺の背中をよじ登って肩に乗った。そして同じく写真に見入る。
「コタロー、大変だったけど……楽しかったよねっ!」
「……そうだな。本っっっ当ぉぉぉ~~~に大変だったけどなっ!」
二人で感傷に浸っていると、突然、俺の携帯が鳴った。
「はいはい高槻です………えっ、藤宮先輩!?」
『高槻!今スグにアフリカまで来てくれ!!大至急だ!!!!!』
「は…………はいぃぃぃぃ~~~~~~っっっ!?」
『詳しい事は同行者に聞いてくれ。それじゃ!』
一方的に電話を切られた。
呆然として携帯を見つめる俺。
で、アパートのドアを蹴破ってアキオが入って来たんだ。
「虎太郎!ノンビリしてないで早く準備をしろ!!」
まるで探検家のような格好。肩に乗っている桜花も同じ格好。
あ~あ、俺の平穏な日常は何処に行ってしまったんだろうな………
≪ 完 ≫
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*● 神姫のお仕事。(海底編) ●
**◆ 最終話 「潜入・反撃の鉄槌!」 ◆
夜中の1時過ぎ。明人さんの推測が正しければ、今頃グレイス号の中では
妨害者スーラ……アスラとの決着が付こうとしている筈。
「ノア子さん、まだ……連絡が入りませんね」
私と一緒に無線器の前で待機している青葉さんが言った。
「無線器の番は私がしていますよ。青葉さんはシビルの修理がありますし、今日はもう
休んだ方がいいのでは?」
「いえ。シビルはもう自己診断モードに入ってますし、何よりも舞の事が心配で……」
そうか、舞姫さんはアスラと仲が良かったし、ショックも大きいでしょうからね。
「判りました。でもあまり無理はしないで下さいね」
二人分のコーヒーを淹れようとキッチンに向かった丁度その時、無線器が鳴った。
明人さんからの通信は簡潔なものでした。
やはりアスラが犯人だったということ。
彼女がラヒム船長を裏切った――守ろうとしていたこと。
腹部に仕掛けられていた時限爆弾と、そして……ミアちゃんが右腕を失ったこと。
そして最後に一言。『ノアールを連れてきてくれ』
「ノアール?橘さんの神姫、あの『緑色のケルベロス』ですか!?」
「ええ。彼女は別の場所で待機しているんです」
まぁ嘘ではないです。私の神姫武装は確かに別の場所で「待機」していますから。
「でもそれって……戦いが始まるって事でしょうか?」
「多分そうでしょうね。そしてそれが……恐らく決着の時になると思います」
朝の7時。ノアに通信を入れた後も腕輪のデータ解析をしていたから、結局一睡も
出来なかった。普段なら一日ぐらい徹夜しても大丈夫だが、流石にこう色々あると
疲れがハンパ無く溜まってしまう。
とりあえずコーヒーでも飲もうと食堂へ向かうと……
食堂の中央では、高槻君と倉内君の二人が並んで朝食を食べていた。
この二人が一緒というのも異様だが、その腫れ上がった顔が更に不気味だ。
「お前達、その顔はどうしたんだよ!」思わず声を張り上げてしまう。
二人は顔を見合わせると、バツの悪そうな表情を浮べた。
「えっと……拳で語り合ったと言うか何と言うか」と倉内君。
「まぁぶっちゃげ、二人で殴りあったんですわぁ」と高槻君。
「何をやってるんだよ……いつもこんな事をやってるのか?」
「まさか!喧嘩なんてバカバカしい。コタローに釣られてしまっただけですよ」
「何だよ、俺の責任だって言うのか?」
「そうだよ。俺のテンションをここまで上がるのってオマエぐらいだぞ?」
「そんなのお前が勝手にテンパってるだけだろう!」
「はいはいそこまで!」
二人の背後から佐伯さんが割って入った。
「せっかく仲直りしたのに、また喧嘩してどうするのよ!」
窘められてシュンとする二人。まぁ……とりあえずは良しとするか。うん。
朝の8時。いつもなら作業前の全体会議を行う時間。だが今は……他にやる事がある。
会議室にはスペシャルタスクチームの全員が集まっている。
とは言っても脱落者続出なので、人数は減ってしまっている。
責任者の西条さん。助手の佐伯さん。安全管理の親方。高槻君と倉内君。そして俺こと橘。
神姫は……マギとアル・ヴェルとナル、それから舞姫の4人だけか。
後はノアが間に合ってくれれば……
会議室に集まったメンバーを見回す。ラヒム船長も同席しているが、他のみんなと同じく
睡眠不足なのは明らかだ。
「みんな昨日の夜はお疲れ様。色々と大変だったけど、得るものは多かったと思う。
何よりも……アスラが敵じゃなかったって事が判明したのが大きいな」
船長が微笑んでいるのに気が付いた。
「まず最初に、アスラが残してくれたデータチップの内容を伝えておく。
彼女の言っていた別働隊、その手段は……ドリルモグラをこの船にぶつける事だ」
「おぃおぃ正気かよ!」親方が叫んだ。
「つまり連中、回収したドリルモグラを魚雷に改造して、俺達を皆殺しにする気なんだ」
「……アスラが必死になってたのも当然だな……」高槻君が呟く。
「そうだな。もし計画通りのスペックに仕上がっていたら、この船は木っ端微塵だろう」
全員の顔を見る。そこには恐怖は無く、みんな強い怒りを表していた。
「連中の計画では、旅客船にカモフラージュした工作船にドリルモグラを積み込み、
俺達がボルネオ島に到着する直前に発射する事になっているらしい」
「つまり連中は、ゴール地点付近で待ち構えていると言う事ですか?」と佐伯さん。
「ああ。工事終了まで残り100km弱だが、レーダーの届く前方方向ギリギリの所に
それらしい船影を確認した」
「橘さん、そこまで敵の計画が判明してるなら……何とかならないのか?」と倉内君。
「勿論、何とかするつもりさ」ニヤリと笑う。
「今までは後手に廻ってたが、今回はこちらから仕掛ける。これはその為の会議だ」
朝の作戦会議の結果、俺達は早速この工作船に乗り込む事になった。
本当は夜まで待って突入したい所だが、アスラが12時間毎に定時連絡をしていた
――次は昼の12時――ので、その前に行動を起こす必要があったのだ。
アスラからの連絡が無ければ、不審に思った連中が何をしてくるか判らない。
作戦の流れはこうだ。
最初にナルとアル・ヴェルがコアブロックでレーダーを掻い潜って侵入。そして敵船の
レーダー類・通信器類を破壊。その後で俺・コタロー・橘の三人がボートで接近。
先発隊と合流後、俺とコタローでドリルモグラを無力化、他のメンバーはそのサポート。
親方と舞姫とマギは予備戦力としてグレイス号で待機。裕子さんと西条はバックアップ。
計画通りに進めば1時間も掛からないハズだ。
敵船への侵入準備をしていると、裕子さんが心配そうに近寄って来た。
「恵太郎くん、何で貴方達がこんな危険な事をしなくちゃいけないのよ……」
「それは橘さんが説明したじゃないですか。地元の警察は信用出来ない。国際警察じゃ
時間が掛かり過ぎる。工期があと2日しか無い以上、結局は自分達で何とかするしか
無かったんですよ」
「あまり心配しないで下さい。敵の戦力も判明してるし、そんなに危険じゃないですよ」
ダイバースーツの上から防弾チョッキを着たコタローが言った。
「基本的に船は無人だし、障害となるのは数体の神姫だけですから」
「そうですけど………」裕子さんはまだ心配そうだ。
コタローが今度は俺の方を向いて言った。
「でも変な話だよな。神姫を敵視してる連中が、結局最後はその神姫の力に頼るなんて」
「まぁ……それだけ連中自身も神姫の潜在能力を認めているって事だろ」
「なるほどな」
午前11時。作戦は開始されました。
敵船との距離は20km近くありますが、私と師匠のコアブロックは作戦用に改造を
施されているので、20分弱で到達する事が出来ました。
「師匠、成功したでしょうか……?」インカムで話しかけます。
『敵船のレーダーのスペックでは発見されていない筈です。大丈夫、行きましょう!』
海上でコアブロックを乗り捨て、背部ブースターを全開にして船に乗船します。
甲板に降り立ち、ジャイロスタンガンとショックダガーを構えます。
ちなみにこれ、レイドックのオリジナルであるバンディッツボディの使用者が
普段使っているのと同じ物らしいです。
今は潜入作戦の最中なので、二人ともこんなコマンド装備をしているのです。
(ケータロー「これ、やっぱりオマエが設計した違法装備……」)
(コタロー「はいはい、そのとーりですよー」)
師匠と一緒に船内へ浸入します。船の構造は頭に入っているし、迷う事はありません。
慎重に設定されたルートを進んで行く。目標は操舵室。
突然、前を進んでいた師匠が立ち止まってジャイロスタンガンを構えました。
それに倣って私も構えようとするけど、次の瞬間、弾けるように飛び出した師匠の一撃で
通路を歩いていた敵の神姫は昏倒してしまいました。
立ち上がりながら師匠が言いました。
「さあ、先を急ぎましょう!」
作戦は思ったより簡単に進んだ。正直、拍子抜けって感じすらする。
ナル達から操舵室制圧の連絡を受けた俺達は、早速ボートで敵船へ近づき乗船した。
そして先発隊と合流する為に操舵室へと向かう。
「思ったより簡単ですね」倉内君が言った。
「そうだな。だが油断は禁物だぞ」
そう言って俺は、手にした拳銃の弾丸を確認した。
結局その後も大したトラブルは無く、ナル達と合流するとそのまま格納庫へ向かった。
途中で3,4体の神姫と出遭ってしまったが、その度にアル・ヴェルとナルの二人が
麻痺させてしまう。
何か倉内君と高槻君が暇そうにしてる。無論二人とも武器を持っているのだが、
その出番は無さそうだな。
順調に格納庫まで辿り着いた。グレイス号のより狭いな……半分ぐらいしか無い。
その中央に見覚えのある機体が横たわっていた。
ドリルモグラ号。いや、今は……ドリルミサイル号と言った方が適切か。
「さて、と。サッサと終わらせてしまいましょうか!」
右手に武器代わりのロングスパナを握りしめた高槻君が機体に近づいた。
「おいコタロー、不用意に近寄るなよ!」
倉内君がそう言った直後、何かが高槻君に襲いかかった。
「うわっ!!」
咄嗟にスパナで防いだようだが、そのまま俺の所まで吹っ飛んできた。
「コタロー!大丈夫か!?」
「イテテっ……あぁ大丈夫だ。それよりアレは……」
起き上がった高槻君の示す方向に、一体の神姫がいた。
武装はしていない。素体状態のままだ。だが人間を吹っ飛ばしたパワー、普通の
神姫である筈が無い。何よりも……姿がアスラとソックリだった。
「橘さん!あれはひょっとして……」倉内君が叫ぶ。
「……あぁ。ドリルミサイルのパイロット、カミカゼ特攻員だろう。
しかしアスラと同じ姿ってことは……相当なスペックかもしれない!」
実際、アスラの応急処置をしている上で判明したことだが、その素体は神姫の範疇を
遥かに超える物だった。内臓された凶器を抜きにしても、パワーだけで人を殺すことも
可能だろう。恐らくレイドックと比較しても見劣りはしない筈だ。
「マスター達は下がって下さい。ここは私と師匠に任せて!」
そう言ってナルが一歩前に出た。アル・ヴェルもそれに続く。
「ナル!そんな借り物の装備で大丈夫なのか!?」
「正直、自信は無いのですが……来ますよ!!」
虚ろな目をした「ソレ」は、信じられないようなスピードでナルに襲いかかった。
クソッ、速くて拳銃の照準が合わせられない!
辛うじて攻撃を回避するナル。だが動きがぎこちない。
再びナルに襲いかかろうとする「ソレ」に、アル・ヴェルがダガーを突き立てた。
だが簡単に弾かれてしまう。電撃も受け付けない。傷一つ付かない。
そして「ソレ」は何事も無かったようにナルを殴りつけた。
彼女は両腕で防御するが、そのまま反対側の壁まで吹き飛ばされてしまう。
「ナルっっっっ!!!!」
倉内君の叫びにナルが弱々しく立ち上がりながら答えた。
「だい……じょうぶです………!!でもこの装備じゃ………」
それを見たアル・ヴェルが「ソレ」に向かって言った。
「貴女、自分が何をしているのか分かってるの!?暴れて、他人を傷つけて、そして最後は
特攻して自分自身をも破壊してしまうのよ!?」
その言葉を無視して、ソレは床に落ちていた鉄板を拾い上げた。
「ニンム……スイコウ……ゾッコウ……」
そう言いながら鉄板をアル・ヴェル目掛けて投げつけた………
「どっこいしょぉぉぉぉ~~~~~~っ!!!!」
突然飛び込んできた何かが、その鉄板を弾き飛ばした。
大音響を響かせて床に落下する鉄板。そしてアル・ヴェルの目の前には………
「破壊王シビル、大・復・活ぅ~~~!!」
肩にツルハシを担ぎ、Vサインをしているシビルがいた。
「し、シビルさん!?」アル・ヴェルが仰天しながら言った。
「ふっふっふっ、主役は遅れて登場するものなのよっ!」
『みんな無事でしたかぁ~~~!?』
格納庫の入り口から聞き覚えのある声がした。拡声器を使ってるらしい。
「あ、青葉さん!?これはいったい……」
『皆さんが出発した直後にグレイス号に到着したんですよ!』
その隣りには親方と舞姫もいた。
何だよ、インカムに連絡してくれてもいいのに……まぁ助かったけどな!
『修理が終わったのでシビルさんを連れて来ました!それからもう一人………』
影が動いた。
青葉さんの背後から放たれた影は、シビルに襲い掛かろうとしていた「ソレ」に向かって
一撃を加えると、これを吹き飛ばした。
「主役もいいですけど……隙だらけですよ?」
ノアだ。
「うっ……ちょっと油断しただけじゃない!」
ツルハシを構えようとするシビルを、ノアが制した。
「シビルさん。申し訳ないですけど……この獲物は私に譲って下さい」
「な、何でよっ!」
抗議しようとしたシビルだが、ノアの冷たい眼に気が付いて止めてしまった。
静かに「ソレ」に向かって歩み寄るノア。
「どうやらCSCを抜かれているようね……好都合だわ、容赦する必要が無いもの」
そう言って愛用の大鎌《クロノスベル》を構えた。
「まぁ八つ当たり以外の何物でもないんでしょうが……よくもミアちゃんの右腕を!!」
「おーい、それって本当に八つ当たりだぞ~~~」
「ご主人様は黙っててください!!!!!!!」
うっ……今日のノアは怖いぞ……
ノアの一撃から立ち直った「ソレ」は、不気味なセリフを繰り返している。
「ギギ……ギ……ニンム、ニンム、……スイコウ……」
そして突然ノアに襲い掛かった。
それを軽やかなステップで避けるノア。相手の動きを完全に読んでいる。
「心の無い人形に……私は倒せないわよ?」
一瞬の隙を突き、「ソレ」の右腕を取って片手で投げ飛ばす。
倒れている「ソレ」を見下ろしながらノアが言った。
「ミアちゃん……貴女の技、借りるわよ!」
起き上がった「ソレ」に向かってダッシュするノア。そしてその寸前で体を独楽のように
回転させると、その勢いのまま《クロノスベル》で脇を斬り抜けた。
「秘剣……猫缶斬り!」
その一撃を喰らった「ソレ」は、真っ二つになって倒れた。
≪ エ ピ ロ ー グ ≫
安アパートの自室で寝っ転がりながらカレンダーを見る。そうか、あれからもう一ヶ月も
経ったんだ……
最後はスパイ映画みたいな事までやってしまったけど、その後は工事も順調に進んだ。
結局は予定より2日オーバーしてしまったけど、まぁ予備日の範囲だったらしい。
「コタロー!裕子ちゃんから手紙が届いてるよっ!」
そう言いながらミアが、玄関の郵便受けから一通の手紙を持ってきた。
「へぇ、佐伯さんから……どれどれ?」
手紙の内容は、いわゆる近状報告ってやつだった。
何でも提出した工事報告が認められ、本工事である「太平洋横断ケーブル工事」も
神姫達の手で、西条助教授の手で行われる事になったそうだ。
妨害してきたライバル会社だけど、その正体は不明のままらしい。
まぁあれだけ派手に動いていたんだ、その内ひょっこり証拠が出てきて
告発される可能性も高いだろうな。………内緒だけど、実はアキオがまた橘さんを雇って
そこら辺の調査をさせているらしい。
それからアスラだけど、今もラヒム船長の家族と一緒に暮らしているそうだ。
修理過程で普通の素体に復元改造をされていたが、今の彼女にあんな力は不必要だろう。
何にしても彼女には幸せになってもらいたいものだ。
しかも二人は、引き続き西条助教授の手伝いを続けるらしい。
今度はアスラがドリルモグラ号のパイロットになるそうだ。
それをサポートするのは、例の工作船に乗り込んでいた神姫達。みんな片っ端から
ケータローの研究室で「復元修理」されたらしい。まぁ「ソレ」は例外だけどな……
「ねぇ、アタシにも見せてよっ!」
俺の手から手紙を強奪するミア。その拍子に、封筒から一枚の写真が出てきた。
「これは……」
手に取る。それは、工事開始前にグレイス号を背景に全員で撮った記念写真だった。
短い間だったけど色々な事があったよな……しみじみと写真に見入る。
ミアが俺の背中をよじ登って肩に乗った。そして同じく写真に見入る。
「コタロー、大変だったけど……楽しかったよねっ!」
「……そうだな。本っっっ当ぉぉぉ~~~に大変だったけどなっ!」
二人で感傷に浸っていると、突然、俺の携帯が鳴った。
「はいはい高槻です………えっ、藤宮先輩!?」
『高槻!今スグにアフリカまで来てくれ!!大至急だ!!!!!』
「は…………はいぃぃぃぃ~~~~~~っっっ!?」
『詳しい事は同行者に聞いてくれ。それじゃ!』
一方的に電話を切られた。
呆然として携帯を見つめる俺。
で、アパートのドアを蹴破ってアキオが入って来たんだ。
「虎太郎!ノンビリしてないで早く準備をしろ!!」
まるで探検家のような格好。肩に乗っている桜花も同じ格好。
あ~あ、俺の平穏な日常は何処に行ってしまったんだろうな………
≪ 完 ≫
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