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「妄想神姫:第三十九章」(2007/08/07 (火) 10:23:38) の最新版変更点
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**星空に想うは、遙か遠けき人の影
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夜。うだる様な陽炎も収まった……と思いきや、温暖化著しい東京では、
深夜になろうとも熱気は収まらぬ。冷房がなければとても寝ていられんが
私・槇野晶は何となく作業が終わっても眠る気になれなかった。そこで、
肩ひものない服を纏って、地上に赴く。胸元に、ロッテを入れてな……。
「どうしましたの、マイスター?“アルファル”完成して脱力ですの?」
「ん……それもあるのだが、ふいに思い出してな……“あの人”の事を」
「“歩さん”、ですの?そう言えばあの人が失われたのも、こんな……」
「夏の日だったと記憶している。地中海の沿岸だったからな、より暑い」
何を惚けている?そうか。以前“歩”について、私は語らなかったな。
私には姉が居てな、いや……居たんだ。その人こそ“槇野歩”だった。
技術者だった彼女の薫陶を、受けていないとは言えない。立派な人だ。
だが、海外で死亡した。その辺の事情は複雑なので、今回は伏せよう。
ロッテ達“妹”のCSCと、決して無関係ではないのだが……済まん。
「やっぱり夏になると、マイスターはちょっとクールダウンしますの」
「毎年一回は考えるのさ、歩姉さんは今の私をどう思っているのかと」
「……少々無茶はするけど、頑張ってるって認識すると思うんだよ?」
「そ、そうですよ……マイスターはうんと、神姫を愛してますしっ!」
「アル……茜、それにクララ!寝ていろと言っただろう、二人とも?」
万世橋無線会館の外壁に寄りかかり、都会の夜空を見上げていた私達。
そこに肩を置くのは、アルマのHVIF……茜。そしてクララだった。
彼女らも大分前に、ロッテから大まかな事情を聞いていた……筈だな。
故に私の感傷を悟ったのか、茜は寂しそうな顔で私の隣に寄りかかる。
クララは二人の肩を伝い私の素肌に腰掛け、ロッテはその隣へと登る。
「普段気丈なマイスターも、歩さんの時だけは……って聞きました」
「むむ……ロッテ、人の弱点まで教えてどうするか。この悪戯っ子」
「だって、わたし達はマイスターの“妹”ですの。だからこそね♪」
「理由も無く哀しまれても、ボクらが助ける術は見いだせないもん」
幼い外見ながらも腰まで伸びた黒髪が印象的な、歩姉さんの面影を思う。
その姿、今は悲しい記憶だ。故に側にいる“妹達”の存在が今は嬉しい。
神姫は、常にマスターの為にのみ動く。ただ一人のマスターだけを思う。
だからこそ、側にあるマスターの苦悩を知ったなら……それは己の痛み。
私にこの認識を教えてくれたのも、そう言えばロッテ達だったか。有無。
「案じてくれるのか、お前達……私は今も、ちゃんとしていられるか?」
「まだ大丈夫ですよマイスター!ずっとあたし達が、一生側にいますッ」
「永遠なんかないけど、可能な限りマイスターの力になりたいんだよ?」
「そう言う事ですの~♪掛け替えのない“妹”なのが、嬉しいですし♪」
熱気に火照った茜の体温と、冷たいロッテとクララの表面温度を感じる。
それは相反する躯なれど、私は心地よい“伴侶”の感覚として認識する。
そう言えば“彼女”もそうだ。常に皆の力としてすぐ側に存在している。
む?……“彼女”については、また何れ語る時が来るだろう。出来るなら
語らずに済んでほしいのだが、こればっかりは運命に任せるしかないな。
「しかし、いよいよ明日か。お前達のセカンド昇進を賭けた三連戦は」
「同時に“アルファル”の本格的なお披露目だよ。CSCが疼くもん」
「今までずっと特訓を繰り返してきましたけど、九形態は大変ですね」
「3on3でない限り、使えるのは八種類ですけど……“業物”ですの」
話題転換は奏功して、明日に控えた大事な試合へと皆の注目が移った。
果たして『戦乙女を越えていく三人の姫』が、どこまでやれるのかッ!
皆、それを知りたくて興奮が高じて浮き足立っているのだ。この娘らは
これだから可愛くて仕方がない。まるで舞踏会に行くお姫様の様だな。
正確には、そう演出したのも私自身なのだが。そこは言いっこ無しだ。
「私に歩姉さんが居た様に、お前達には“私”が常にいる。案ずるな」
「……そう言えば、そうだよ。姉妹の絆は、何時どうなっても固い物」
「マイスターが見ててくれるのは、不安や緊張でもありますけど……」
「でもそれ以上に、とても安心したり戦意の増進に繋がりますのッ!」
「そう言ってくれるなら、私もお前達を信頼しよう!期待しているぞ」
茜の肩を揺らし、神姫二人に頬ずりをする。明日は戦場に立つ身の三人。
死ぬ訳ではないが、負ければ戦う者の誇りは傷つくし、辛い物ではある。
だが人がそうである様に、神姫も信じる“何か”の為戦う時が最も強い。
私を信じてくれるのならば、彼女らは機体に違わず勝ってくれるのだッ!
即物的な戦だけではない。日々の暮らしさえも、暖かい物になるだろう。
だから、私も神姫達も今を生きる活力が漲る。“絆”とはそう言う物だ!
「さて、汗が噴き出る前にベッドに戻るか。一緒に寄り添って、寝よう」
「……はい。マイスター、今日はずっと抱きしめていてくれませんか?」
「ずるいですのアルマお姉ちゃん~!わたしも次、抱いてもらいますの」
「ボクは神姫素体のままでいいから、ぎゅっと抱きしめてほしいんだよ」
──────賑やかな姉妹の絆、何よりも眩しいよ。
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