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「武装神姫のリン 鳳凰杯篇その4」(2007/09/25 (火) 02:29:20) の最新版変更点
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武装神姫のリン 鳳凰杯篇その4
俺は"いつか"の時と同じように、だがあくまで冷静に。
リンを胸のポケットに入れてオーナーブースの扉を開けると全力疾走。
瞬く間に鶴畑大紀のオーナーブースへ。
扉を開ければ今まさにミカエルのリセットを行おうとしている鶴畑大紀の姿。
「待て、話を聞け!」
「ふん、俺のやることに口出しするな!こいつは負けたんだよ。最後のチャンスだったにもかかわらずだ。だから今ここで終わりにする。」
「待ってください!!!」
俺より大きい、そして何かすごみを感じさせるリンの声に鶴畑大紀は思わずたじろいた。
「…ええぃ」
がすぐにミカエルにつないだ端末の操作に入ろうとする、間に合わないかと思ったが急に鶴畑大紀の動きが止まった
その視線の先にあるのは…ミカエルの瞳に浮かぶ大粒の涙だった。
「マスター、ごめん。でも私は…死にたくない」
「何を言ってる!! バトルに負けた時点でおまえは用済みなんだよ!だから…そんな顔するな」
鶴畑大紀の始めて見せる表情に少し驚きつつも、俺はミカエルと端末の接続を解く。
「おい、鶴畑の次男」
「…なんだよ。ミカエルのことか? もう知ったことか! マスターの登録は外すから勝手にしろよ」
「マスター…」
「もう俺はおまえのマスターなんかじゃない、どっかいっちまえ!!」
分かっていたとしてもそれがショックだったのだろう。
ミカエルは脱兎のごとく駆けだして行ってしまった。
「マスター、私に任せてください」
「ああ、頼む」
あっちはリンに任せて俺は鶴畑大紀に話しかける。
「おまえ、たしか兄貴に近づきたくて神姫始めたんだよな?」
「それがどうした! 武装は同じようにハンドメイドだし、戦績とかのチェックもいつもやってるよ。あと同じようにバトルに負けた神姫は取り替えてきた。悪いか!!」
「別にそれ自体が悪いわけじゃないだろう。ただな"ものまね"じゃあ一生かかっても兄貴には追いつけないぞ」
「m、ものまねだと!!」
「そうだ、おまえが今までやってきたことは兄貴がやってることを見よう見まねしてるだけなんだよ。まねだから兄貴がまず"それ"をしないと自分はなにも出来ない。だから追いつけない」
「なっ…」
「とりあえず、神姫をとっかえひっかえするのを今すぐやめろとは言わない。ただ、一度考えてみたらどうだ?」
「ふん…」
「俺が言いたいのはこれだけだ。あ、あと八百長なんてするなよ」
「うるさい!」
話を終えて(とりあえず言っておきたいことだけは伝えたつもりだ…なんで俺はこうもお節介かねぇ)オーナーブースを出ようとすると。
「まてよ。」
「なんだ?」
「…あいつに伝えてくれ。おまえはがんばってたことだけは覚えとくって」
「ああ。」
その言葉を聞いたとき、いつか彼の中で良い変化が起こってこれから生まれる「ミカエル」と以前より良い関係を気付くことが出いるのではないか?というのは俺の願望だろうか?
そんなことを思いつつ、俺はオーナーブースを後にした。
====
試合の相手だった神姫のマスター、藤堂亮輔がブースを出たことを確認し鶴畑大紀はすこしだけ昔のことを思い出す。
それは5年前、まだ武装神姫が発売されることもなく世間での神姫に対する評価も今とは違っていた頃。
そして自分たち鶴畑兄弟の関係も今ほど緊張感を持ったモノでは無かった頃のことだ。
兄は高校で成績優秀。日本で一番の大学にも易々と合格できるだろうと担任から太鼓判を押されていたがまだ自分の進むべき道が決まっていなかったがそのときの兄は今ほど冷たい態度を取ることもなく優しかったのだ。
今でも世間一般の人の兄に対するイメージはまさに好青年。しかしそれはメディア等に出るときの"仮面"だ。
自分でもいつ兄が今のようにいつもぴりぴりした雰囲気をまとうようになったのかは解らない。
でも武装神姫が開発されてからであるということだけは明らかであり、また兄にあこがれを抱いていたはずの自分が今は逆に兄に対する争闘心のような感情しか持ち合わせていないという事実に気がついた。
兄の態度が変わったことに気がつき、その原因が何かさっぱりわからなかったそのために兄に直接聞くことが一番だと思ったのが2年前だ。そして今の兄と対等に話をするために自分は兄に追いつかなくては行けなかった。
でも学問とかじゃあ到底敵わない。でも…神姫ならばと思って自分も一度仮名を使い神姫バトルに参加してみた。
しかしそこで待っていたのは連敗に次ぐ連敗。たった一度の勝利が遠かった。
そして最後の試合で己の初めての神姫であったアーンヴァルが爪で引き裂かれる、その光景を目の前で見てしまった。
当時のバトルはリアルリーグしかない。それ故にプログラムで補正を行っていてもまれに神姫が帰らぬ身となることはあったがそれは自分の心に深い傷を追わせた。
その挫折から半年の間家に引きこもりがちになり過食症に陥った。
そして復帰後は本名で神姫バトルに。あのときの絶望をもう二度とを味わいたくないと無意識に思ったのか…当初の目的を忘れて目の前の敵をいたぶる。また強すぎる相手に対しては金を積んでの八百長試合など…自分の欲求である「勝利」を満たすことしか考えていなかったことを痛感した。
そのために何度神姫のコアを代えただろうか?リセットされる、廃棄されるときの彼女たちの気持ちはどうだっただろうか?
また心が痛んだ。
そんあ自分が、今からでも変われば兄弟関係も変わるだろうか?
でもまた挫折すれば…そういった恐怖が頭の中を駆けめぐる。
それでも、自分が兄に追いつける可能性があるのはこの神姫バトルしかない。苦しいかもしれないが、やってみようと思う。
それが鶴畑大紀のたどり着いた答えだった。
ミカエルはもう戻らない。自分がオーナー登録を解除してしまったのだ。
でも彼女が…いや今までの"ミカエル"が残したデータが生きている。
これほど心強いことは無かった。
鶴畑大紀は立ち上がる。上を目指すために。そして兄に追いつくために…
~[[鳳凰杯篇その5]]~
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