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「妄想神姫:第三十三章(前編)」(2007/06/17 (日) 23:20:28) の最新版変更点
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**約束されし、王妃の宝剣(前編)
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いよいよその日がやってきた。覚悟を決めたアルマが、前回敗北を喫した
兎型の軍神・“隻腕の”ティールに申し込んだ指名再戦。その受理通知が
私のPHSに届いたのだ。これを乗り越えねば、アルマのセカンド入りは
恐らく成し得ないだろうな。私・槇野晶は、深夜彼女にこの旨を伝えた。
“ヨルムンガルド”での剣術練習をしていたアルマの面も、引き締まる。
「ついに明日、ですか……マイスター。兼ねてのお願い通り、明日は!」
「有無。シルフィードに“レーラズ”と幾多の剣、か……良いのだな?」
「ええ……それこそが、あたしが今為すべき戦いなんだと思いますから」
「一応アルマのオーダー通りに剣を改良し、“マビノギオン”もあるが」
「“マビノギオン・アサルト”ですね?……これで、準備は万端ですっ」
そう言って私は、改良が終わったばかりの“ヨルムンガルド”の鞘と、
不思議な形の、一対のナックルガードを渡す。左腕側が少々大きいな。
腰のジョイントに鞘を取り付けガードを手に填めたアルマは、真剣だ。
しかしそれは、前の様な思い詰めた表情ではなく……落ち着いている。
前の戦いで何かを悟ったというのは、誤魔化しや嘘ではないのだろう。
「後は、あたしの戦いをするだけ。マイスター、明日はお願いします」
「分かった……今日はもう休め。明日への英気を養うのだ、アルマよ」
「大丈夫ですの。感じた事を信じて、アルマお姉ちゃんらしく……ね」
「マイスターの横でボクらも見てる。大丈夫だよ、一人じゃないもん」
「みんな……有り難うございますッ。精一杯、明日は戦いますッ!!」
こうして皆に励まされたアルマは、特に緊張するでもなく眠りに就く。
むしろ、私の方が緊張して眠れん位だ……美容には好ましくないがな。
だがそれでも眠りは訪れ、気が付いた時には集光タワーからの陽光が、
私の頬を照らしていた。時刻は……五時半か。有無、何時も通りだな。
皆で早々に朝食を済ませて狭い風呂に入り、出かける身嗜みを整える。
──────こら貴様、乙女の入浴シーンを覗くな。首をへし折るぞ?
「ふぅ~……この時期は寝汗をかくからな、シャワーが気持ちいい」
「……マイスター、マイスターっ。ちょっぴりふくらみましたの?」
「ぶっ!?な゛……お、お前らとてアレを着ればそうなるだろう!」
「シルフィードと“レーラズ”だね?……でもマイスターのは……」
「あうあう、見るなぁ!?は、恥ずかしいではないか……全くもぅ」
「ふふ……ですけど、きっと驚きますよ二人とも。アレを見たら♪」
弟二世代型補助アーマー“シルフィード”には胸がある、と以前述べた。
しかしそれは、普通のパッド程度でしかない僅かな厚さのバッテリーだ。
だが“フィオラ”を下敷きにして作ったハイブリッド・アーマードレス、
“レーラズ”は違う。胸部には装甲と大型のサブバッテリーを搭載する。
それ故に、マーメイドタイプ・イーアネイラの如き豊満な胸となるのだ。
実際、風呂あがりのアルマに着せてみる事としたが……どうだ、これは?
「デザインは綺麗ですの。防御力も高そうですけど……お胸が……」
「ろ、ロッテちゃん零距離で見ないで下さい!?二人のも、ねっ?」
「有無、ちゃんとロッテとクララのも作っている。だから落ち着け」
「人魚型が神姫達の羨望を集める理由が、少しだけ分かったんだよ」
ただのパッドでは面白くないので、フィット感にも拘った。結果として、
“レーラズ”を着用したアルマのスタイルは、イーアネイラ程ではないが
極めて良好な格好になる。これは、私のデザインとしては初めての試み。
この方向性は、現在開発段階の戦術支援システムにも取り入れる予定だ。
尤も、美しさは躯のスタイルや顔面の造作だけで決まる物でもないがな?
「でも、見た目だけじゃなくて機能の面でもいろいろあるんですよねっ」
「有無……まあそれはアルマが戦闘で披露する……その積もりだろう?」
「楽しみにしてますの、アルマお姉ちゃん♪って、そろそろ時間ですの」
「指定の時刻だね。武器の荷造りも終わったし、このまま出ようかな?」
「そうだな、では往くぞ神姫センターへ……アルマのリベンジへとな!」
“レーラズ”姿のアルマと“Electro Lolita”姿のロッテ及びクララを
引き連れ、私も勝負服を着込み神姫センターに入る。眼鏡に陽光が差し
視界が揺らぐが、この時期はしょうがない事だな。センター内部には、
朝から高まる都会の熱気を避けようと、多くの人々が入り込んでいた。
とは言え此処は、毎日別の意味での熱気でムンムンしているのだがな。
「さて、十三番デッキか……む、居たぞ。ティールとそのオーナーが」
「来たか、アルマとやらよ。再戦を挑む覚悟が出来上がったと聞くが」
「ええ……今度こそ貴女を倒して、次のステップに踏み込みますから」
「威勢は良し。だが、前の様に胸を抉ってやろう……さあ、始めるか」
「私の“妹”を侮らぬ方が良いぞ、ティールとやら。さ、準備だッ!」
相手の挑発を受けつつも、アルマは冷静である。少し彼女も変わったか。
腰にヨルムンガルドと魔剣エルテリアを装着、両腕に“マビノギオン”。
軽量ランクギリギリの超重武装だった前回とは真逆の、超軽量スタイル。
だが私は何も言わずに、そのまま笑顔でエントリーゲートへと送り出す。
再戦制度を利用して、バトルフィールドは前回と同じ浮遊島を指定した。
『アルマvsティール、本日のサードリーグ第2戦闘、開始します!』
「さぁ、死合いましょう。ティールさん!……いつでもどうぞ!」
「──────良い覚悟だ、往くぞッ!」
左右の腰から一本ずつ“ヨルムンガルド”を引き抜いたアルマが構える。
そこへ、風を押し潰す様にして一気呵成にティールが拳を打ち込んだ!!
その狙いは確実で、このままなら胸を貫かれただろう……だが、違った。
「おおおぉぉぉぉっ!!」
「……そこっ!」
「何……剣で、いや……体でいなした!?」
ふわり……と僅かに浮かび上がったアルマは、強化セラミックの黒刃で
拳の軌道を反らし、衝撃を無理に止めずそのまま後ろへ飛んでいった!
そう。レーラズに搭載されている機能の一つが、この浮遊機能なのだ。
本来は補助ブースターの性能を向上する為の、低出力飛行能力だがな?
「無理に逆らわず、一撃の威力を殺したのか……!」
「防御力だけに頼っていては、すぐに砕かれてしまいますから」
──────本当の覚悟は、まだまだこれからだよ。
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