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「強敵と書いてもテキとしか呼ばない!」 - (2006/11/17 (金) 02:48:10) のソース
*そのじゅうさん「強敵と書いてもテキとしか呼ばない!」 「ティキ! 速度に頼るな! お前の持ち味は速さじゃない、敏捷性だ!」『ハイですぅ!』 正直、勝てないと確信している。戦闘技術もさることながら、フィールドの利用法がうますぎる。 遮蔽物の利用なんて当たり前な事は兎も角、地形や構造、立地や気候まで、まるでそれらの全てが相手の味方をしている様な、そんな錯覚まで引き起こされる。 今の僕たちに与えられたアドバンテージは空を飛べるという一点のみ。それ以外の全てが、まるで僕達に悪意があるんじゃないかとさえ思える様なこの有様。 それでも諦めるならさっさとギブアップするのが正しい選択で。 それをしない僕らはもちろん勝利を諦めたわけではなく。 だけどそれでも確信としては勝てないという思いが、確かにあった。 大体、敵の位置がわかりきっているのに、それでも近づけない今の状況ってナニ? かと言って遮蔽物が邪魔で、レーザーライフルを撃つのも難しい。 連射の利かない武器の不利が、思いっきり表面化してる。 だけど向こうの攻撃は的を射てて、確実にこちらにダメージを与える。 と、これだけを聞くとまるで魔法の様だけど。 魔法のようなプログラム系の武装の存在も聞いた事が在るけど、今回はそれとはまるっきり別物。それは断言できる。 何でもかんでも、行き過ぎた何かは魔法のようにしか捕らえる事が出来ないわけで。 でも魔法じゃないから僕達は足掻く事をやめる訳にはいかない。 だって、それは僕らと地続きにある現象でしか無いから。 「ティキ! もう一度攻めよう。壁を蹴って、かく乱しながら!」 『はいですぅ!』 ティキは一直線にビルの廃墟に向かっていくと、そこから一転してビルとビルの間をまるで跳弾する弾丸のようにジグザグに、ランダムに跳ねる。 そして敵に後一歩で届くという所で…… 真横の壁が爆発した。 『うにゃにゃぁぁぁ!』 「またかー!!」 一体なにがどうしたらこんなことが出来るのか、僕には及びもつかないけど、それでもその攻撃でダメージを確実に受けている。 一撃で致命傷にはならないけれど、それでも着実に、確実にダメージを与えられている。 『マスタ、また移動したですよぉ~』 何度目かになるティキの言葉。 間接攻撃を与えて、その隙に確実に距離を取る。 ……得意と思っていたステージで、この完膚なきまでのヤラレ具合。 それでもここまでくればやれる事は相手に近づくことだけ。 少なくとも、僕とティキには他の選択肢が無い。 「間髪入れずに接近しよう。相手に、少しでも準備期間を与えない為に」 『ハイですぅ!』 「ウイング、パージ」 『パージですぅ!』 少しでも反応速度、そして純粋な速度を増す為、ウイングとそれに接続されたレーザーライフルを捨てる。 そしてティキは再び移動を開始した。 もうすでに満身創痍。 見てて可哀想な位だ。 大体、今までの相手なら、勝つにしろ負けるにしろ直接攻撃で決着がついたから、ヴァーチャルスペースの中でもそうでなくても、ここまでボロボロになる事がなかった。 そもそもまともな装甲を持たないティキにとって、まともな攻撃を喰らえば即終了だったわけで、そう考えればこの状態って、もしかして弄られてるだけなのかもと思わないでもなく。 実際の所どうなのかわからないけど、それでもティキにとっておおよそ初めて経験する辛さなのには代わりは無い。 間髪入れずに行動した結果か、相手に何がしかの準備を行うだけの時間はなかったらしい。 バトルが始まってから、初めて姿を確認できたその神姫――ヴァッフェバニー――は、無造作にティキに手榴弾を投げつけるだけ。 そんなもの、どうやったって避けることが出来る。体勢さえも崩すことなく。 ティキは左手に逆手で握られた西洋剣をヴァッフェバニーに振るう。 が、その攻撃はついに相手に届く事はなかった。 準備する時間が無いなんて、ただの希望的観測で、こちらのそんな行動は全て策戦に組み込まれていた。 ヴァッフェバニーの指が、何よりも速く震える。 単純に、どう足掻いても、腕を振るう速度が指一本をただ振るわせる速度に敵うはずもなく。 ヴぇッフェバニーの行動に反応して、ティキの頭上に降り注ぐ弾丸。 だけどただ反射だけで、ティキは間一髪その攻撃を壁を蹴って、その反動を利用してかわした。 次いで爆発音。 それは手榴弾が、破裂した音。 そして更に続く大きな爆発音。 今度は手榴弾と連鎖して、何かが大きく爆発した音。 そして、まるでティキがそこに避ける事を予測していたかの様に。 まるでそれが必然であったのかの様に。 崩れ落ちた瓦礫がティキを飲み込んだ。 『試合終了。Winner,シンナバー』 ステージ上に、デジタル文字が浮かぶ。 「く~や~し~い~ですぅ~~~~」 筐体から飛び出し、ティキの第一声がそれだった。 だけどそれは僕も同じで。どうにも弄ばれた風に感じることしか出来ない。 僕は今の対戦相手が筐体から出てくるのをジッと待つ。 果たして現れたのは、バンダナにサングラスの背の高いカッコ良さ気なニイチャンだった。 だけどその風体から、顔を窺い知る事は出来ない。 僕とティキがその彼を睨むように見ていると、何とそのニイチャンが自分の神姫を肩に乗せ僕に近づいてくる。 僕もティキも眼を逸らさない。 変わらぬ歩調で僕らに向かってくる彼。 そして そして僕らの本当に目の前まで来ると、僕を見下しながら――僕の方が背が低いから仕方ないとしても――口を開く。 「全く、なっちゃいないな」 「……はぁ!?」 確かに今の試合、僕らは一撃たりとも相手にダメージを負わせる事が出来なかったが、それでもいきなり初対面の人間にそんな事言うか? 「想像力も、判断力も、工夫すらもお前のバトルからは感じられん」 「なっ――!」 「行き当たりばったりで、計画性も無い。それでよくバトルに参加しようなんて思えたものだ」 確かに。確かにその通りだけど。この人の工夫や判断力、計画性に想像力。それら全てと比べるべくも無いけど――。 「……お前、何様だよ?」 それでも僕は搾り出すようにそう言わざるを得ない。 「フンッ。少なくとも、お前の勝者だ。そして勝者として言わせて貰う」 そう言って彼は 僕の額に自身の人差し指を押し付けた。 「素養、素質だけで勝てると思うな。確かに貴様らには飛びぬけた素養があるのだろう。だが、結果はこれだ。人間は、人間と神姫は、工夫を積み重ねることによって何処までも強くなれる。ただ才能だけがあるだけの人間では、絶対に勝てない。それをこの頭に叩き込んでおけ」 言いたい事だけ言うと、彼はくるりと背を向け僕から離れていく。 「待てよ……」 僕がそう言ったところで、彼が歩みを止めることなど、無い。 「待てよ! お前、なんていう名前だ!!」 考えるまでもなく、こんなのはただの虚勢。 それに対しても彼は振り返ることなく、ただ 「貴様が俺を楽しませるくらいの腕になったら、教えてやるよ」 と言い捨てた。 その場に残された僕らは、ただ悔しさに打ち震えるだけだった。 [[終える>せつなの武装神姫~僕とティキ~]] / [[もどる>「口に出して言うには恥ずかしい話」]] / [[つづく!>「そして明日は笑おう」]]