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類は神姫を呼ぶ part12 - (2012/02/27 (月) 17:25:38) のソース
「何を考えているんですか!? 神姫持ってないなんて嘘もついて」 「まあ落ち着きたまえ」 「落ち着けないですよ!……あっちは負けてもここを出ればいいのに、こっちは負けたらヤバい仕事を手伝えって言うんですよ。ハイリスク・ノーリターンじゃないですか……悪条件すぎます」 胸ポケットにいるシオンを垣間見る。不安そうな、心配そうな瞳が映る。 ……そうだ。 シオンはまだ一回も勝てていない。 悲しい現実だけどシオンはバトルで勝てない。 これじゃあ、高い確率でこっちの負けじゃないか。 今から僕があの人に誠心誠意謝って許してもらおうか。それか、説得して君島さん自身にやってもらうしか……。 「長倉君は逃げるのかね」 「それ以前に君島さんが原因でしょ!……僕に非難されるいわれは……」 「長倉君はシオンを治す為になんでもやるのだろ? だったら、キミたちが私の代わりに彼とバトルをするのだ。これは私の……『授業』だ」 「ッ!?……わざとこうなるようにしたんですか。ガラの悪い人に喧嘩を売ったのも、この為ですか」 「ふふ、どうだろうな……」 ああ、絶対この人の思惑通りなんだろうな。だからって、これでどうやってシオンのバトル恐怖症を治すんだよ。 僕がすごく危ない立場になっているだけだ。 「シオン君、ちょっと出てきてくれるかな」 「……えっと、なんですか?」 君島さんがポケットから顔を出したシオンに話しかける。 目と目を合わせあう君島さんとシオン。 「シオン君はオーナーの長倉 螢斗君を……好き……いや、愛してるかね?」 「へ、ちょっと、何を……」 「長倉君は黙ってるのだ」 「……はい」 眼光が鋭くなり何も言えなくなった。 君島さんは、シオンに一体何を聞いているんだよ。 訳が分からなくなってきた。 「私は……この感情が人間の持つ好きや愛かどうかはわかりません。私は神姫ですので。……ですけど、螢斗さんは何よりも誰よりも大切なマスターです」 「……ふむ。まあ、よしとしよう」 でも、君島さんはシオンが答えた言葉にまんざらでもなさそうにしている。 シオンの答えに僕が恥ずかしくなっただけでもあるけど。 「次、長倉 螢斗君」 「え! は、はい」 今度は僕か。 何を聞かれるんだろうか。シオンの事かな。 「それでは……長倉 螢斗君は――」 ほら、それでやっぱり「シオンを愛してるかね?」とか聞くんだ。 僕はシオンを家族として愛してる。 ……それが僕の答えだ。 さあ、どこからでも来い! 「健やかなときも、病めるときも、喜びの時も、悲しみの時も、富めるときも、貧しきときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、そのいのちのかぎり、堅く節操を守ることを誓うかね?」 「――誓いま――って!……なんでですか!? いつからここは結婚式になったんですか!? おかしいでしょ!」 「おっと、言い間違えた」 「間違いようがないですよね! セリフ長かったですよね!」 頭が痛くなってきた。この人は物事を真面目にちゃんと進められないのか。 「ゴホン、改めまして。……長倉 螢斗君、シオンは大事かね?」 あれ? なんだ、そんなことか。 そんなことは決まってる。 「大事です」 君島さんの目を真っ直ぐ見詰めて言い返す。 シオンが一番大事に決まっている。 「ふむ。だったら、あのチンピラと神姫バトルでぶつかってくるのだ。そして……勝ってくるのだよ」 「いやいや! 話が繋がっていませんよ。そもそも現実問題、シオンはバトルで一回も勝てたことないんです。不可能なんですよ」 言うと、シオンは悲しそうな顔になる。 うぅ、正論の筈なのに僕の心がすごく痛くなる。 「これまでは軽い試合だった。だから、キミもシオンも本気になりきれないのだよ。背水の陣で挑めば、おのずと勝ちが見えてくるさ」 「……う……はぁーー、わかりました、わかりましたよ。死ぬ気でやれば勝てるかも、と言いたいことはわかりました。……やろう、シオン」 身体をひるがえして、僕はみんなのいる筐体前へと戻ることにする。 もういい、君島さんなんて知らない。 「……でも、大丈夫ですか、危ないお仕事するんですよね?」 「シオンが負けなければいいさ」 「私が……ですけど……」 シオンが不安そうに言う。わかってるさ。だけど、もうどうしようもない。 主に君島さんのせいで決まってしまったけど、謝ってもバトルすることは覆らない。 そんな気がする。 「もし、負けた時は……負けた時に考えるさ」 ―――― 「お、来やがったか。待ちくたびれたぜ」 筐体に寄りかかって、その男は自販機で買ってきたであろう缶コーヒーを飲んでいた。 淳平たちは無事だ。喧嘩っ早い人ではないらしい。 その淳平が僕の傍まで駆け寄ってきた。 「螢斗だいじょうぶかよ、まじで姉御のかわりにやるのか、勝てんのかよー。俺、螢斗いなくても一生懸命生きていくからなー」 「負ける前提になってる!? ……大丈夫。死ぬ気で戦ってみせれば勝てるって君島さんが言ってたから」 「……でもよ~」 「マスター情けない声出さないでください。螢斗さんとシオンはバトルする決意してるんだから、やらせましょうよ。負けたら……マスターもお仕事付き合いましょう」 「えっ!? それはちょっと……」 「マスター」 「はい、そのつもりです!!」 ミスズがオーナーの淳平をいつもの絶対零度のような眼で睨みつけて、言いなりにさせてしまった。 ……人としてそれはどうなの。 「ミスズ、その気持ちだけ受け取っておくよ。負けたら、僕がすべて請け負うさ」 「そんな!? 螢斗さんは優しすぎます」 シオンに聞こえないように、小声で淳平に伝える。 「もしも、負けたらシオンを頼むよ」 「螢斗~……約束はしねーぞ……それでいいなら」 「うん、それでいいよ。ありがとう」 まあ、本当に負けたくはないんだけどさ、一応最悪のケースの為にそういうのは残しとかないとね。 「んじゃ、とっとと、おっぱじめようぜ。準備は済ませといたから、チビはそっちでやれや」 「はい、よろしくお願いします」 「……けっ……ほら、来い」 「…………」 舌打ちのように口から音を出すと、チンピラさんは自分の神姫を手の平に乗せて、缶コーヒーをごみ箱に捨てた後、筐体の向こう側についた。 「勝てる……戦える……勝てる……戦える……」 極度の緊張でシオンが自己暗示のようにブツブツと何か呟いている。 「僕の心配はしないで」 「勝てる……戦える……でも」 「おもいっきり、バトルしてみるんだ。今までの戦績なんて関係ない。バトル恐怖症も関係ない。夢中になって……バトルを楽しむんだ」 「……はい」 まだ緊張はしてるだろうけど、これでなんとかバトルはできるだろう。 僕は自分たちのブースについて、シオンを送り出す。 僕の命運を決める戦いに。 ―――― 周りは一面の砂。砂。砂。 砂漠のステージになっている。遠くの方に崩れて建っている、原形を留めていないビルがあるだけの簡素なステージ。 私はそこに降り立つ。 左手にフェリス・ファング「フェリスガン」と右手に「ぺネトレートクロー・烈」を持ち、構えながら、相手の方を探してみる。 「私が負けたら、螢斗さんが……」 螢斗さんに聞こえないぐらいの小声で独り言を呟く。 私なんかが、螢斗さんの人生を左右するようなバトルをすることになった。 勝てるのだろうか? でも、勝たないと螢斗さんが……。 チゥン! と、私のヘッドパーツ「フロンタルラウンダ―」に何かが掠った。 『マズイ! シオン、前から来てる!』 私の耳に、螢斗さんの声が聞こえ出した。瞬時に私はその場から駆け出す。 足を止めてたら撃たれる! チゥンッ、チゥン、チゥンッ。 相手の人が猛スピードでこちらに向かいながら、手に持った二丁の拳銃を乱射してきている。 移動している私の足元に――追尾するように弾丸が当たってきている。 負け続けてきた私はバトルですっかり逃げ足だけは速くなったみたいだ。 全力で脚部スラスター、背部ブースターを作動させて、右方向に低空でブーストしていく。 相手の方はこちらに、後、数十メートルという所で私よりも、さらに加速し出した。 でも、相手の方は撃つわけでなく、左手の拳銃、厚い銃身で殴りかかってきた。 まったく無駄のない動きだったので、右手に持っていたぺネトレートクロー・烈でガードをするしか手がなかった。 「クゥッ!」 神姫素材で出来た歯を食い縛る。 ガンッ! と重たい音が響き渡る。 相手の方の顔を見る。 左目に眼帯をしているのに、なぜか妙に尖がったサングラスもしているムルメルティア型の方だ。 サングラス越しでもわかるぐらいに、記憶にあるイスカお姉ちゃんよりも顔の表情が動かない。 今もこうして私が力を込めているのに、ムルメルティアの方は、力をまったく入れていないが如く顔のパーツが変わらない。 でも、その堅い表情の口が突然開いた。 「……貴君はどうして戦う?」 「どうしたんですか。武装神姫がバトルすること、戦うことは当然です!」 答えながら、フェリスガンもぶつけ合わせ、相手の方の持つ銃身をはじき返した。 どちらも双方間合いを空ける。 ムルメルティアの方の、無表情の口から透き通るような声が聞こえ始めてきた。 「そうだな。……では、貴君はどうだろうか? バトルが辛そうだ」 「そんなこと……そんなことはわかっています! でも私が勝たないと螢斗さんが……」 「その名が貴君の上官か? よっぽど大切なんだな。武装神姫が自分の上官を大切に思うのは当然。だが……それでも貴君はどうしてバトルができないのかな?」 双銃を擦り合わせ、弄りながら問いかけてくるムルメルティアの方。 「これは私自身の欠陥です……検査しても見つからないようなバグを持っているだけ……です」 『シオン、そう言うなよ』 通信から螢斗さんの物悲しそうな声が聞こえてくる。 こればっかりは私もわからない。武装神姫は普通、バトル拒否なんて起こさない。だったら私自身に問題があるとしか……。 「本当にそうなのだろうか?」 「? ……何を言っているんですか、私にあるとしか。あなたは何か知っているんですか? この拒否反応を」 この方は私が考え付かなかった答えを持っているんだろうか。 「そうだな、バグの問題を考えるとしたらー……貴君の上官が問題かなー? フフフ」 「は……今……なんて……言いました」 突然間延びし出した声を出した相手の方から、私の耳に信じられないような答えが聞こえ始めた。 「だって、それしか考えられない。神姫の自分が言うのもなんだが、武装神姫は世界でも有名になりつつある機械人形だ。そんな簡単にバグは残しちゃあいけない。……だったら考えられるのは……持ち主が雑に扱っているからだ。知らず知らず、貴君はその螢斗という上官によって故障させられているんだ」 ピクッと私の肩のジョイント部分が動いた。 「持ち主の人間が雑に扱おうが、神姫のCSC性格決定によっては従順であることもある。貴君が想っていても、相手の人間はどうだろうか? 嘘を並べて、キミを無理矢理強いらせているのではないだろうか――」 「それ以上、喋らないでください」 『あれ?……ねぇ、シオンどうしたの。聞こえ――プツッ――』 私は普通は切らないオーナーとの通信装置の電源を切った。 相手の方の言うことを鮮明に聞くために。 「――人間は……嘘を平気な顔して喋るからな。武装神姫は少女のような姿をした可愛い人形だ。日本中のどこかを探せば特殊な性癖を持つ上官だっているだろう? そんな神姫たちを老若男女問わず、欲の捌け口にしていることもある。それで後天的にバグが出来てしまった。そんな所だろう。……だいたい、貴君の上官だって――」 「喋るなっ!!!」 ドゴォッ! と相手の頬を武器で思いきり殴った音だ。 私は起動してから初めて“言葉”を荒げた。 間合いなんて関係ない。その場から消えるような速度で、ぺネトレートクロー・烈を相手の顔目掛けて渾身の力で殴りつけた。 CSCが熱い。 怒りという感情が込み上げてきて私はそれに身を任せていく。 ムルメルティアは当たる寸前に身体を後ろに倒し衝撃を和らげていた。 それでも、完全に衝撃を殺しきれず片目を見開きながら数メートルは吹き飛んでいった。軍帽と掛けていたサングラスは左右に飛んでいき砂に埋もれる。 吹き飛びながらも、地面からすぐに仰向け状態から態勢を立て直した。 「い痛ッ……おや、怒ったのかな?」 「言って良いことと悪いことがあります。あなたは私のマスターを侮辱するという最大に悪いことを言いました。だから、私はあなたを――“壊します”」 「……ふ、神姫が神姫を破壊するか。バーチャルだから自分は物理的に壊れはしないのだが。まあいい……来い!」 私は高速で近づきながら連続にフェリスガンを発砲。相手は走りながら距離を空けつつ双銃を撃ってくる。 私は右に左と、ジグザグ飛行、フェイントをも織り交ぜながら弾を避けていく。 さっきまで相手側のスピードの方が速かった気がしたのに、今はこちらの方が圧倒的に――速い。 「うっ……やるな!」 相手も素早い動きを続けていっているが、こちらの銃撃をかわしきれず脚部、肩部と着々と当たっていく。 身体が軽い。相手がよく見える。弾を当てていける。不安、恐怖なんて一切ない。あるのは螢斗さんを侮蔑されたことへの怒りだけ。 ――私はこの神姫を倒す。 私はフェリスガンの基部分を取り外し、リアパーツ「バリスティックブレイズ」の背面キャノンに付くバレルをも外す。 「プレシジョン・バレル、セット」 これがフェリスガン本来の姿。 ライトガンである「フェリスファング」の銃口に「プレシジョン・バレル」を装着することにより、この武装はライフルとなる。 それと予備知識、この「プレシジョン・バレル」元来出回っているものではなく、劣化版だ。なぜなら、バレルにパーツとしてある「カタマランブレード」の刃が付いていないから。 撃つだけなら支障がないからと、前マスター凛奈さんが中古で買ったものということ。こういうのはしっかりしてほしいものだ。 私はぺネトレート・烈を仕舞い込み、両手でプレシジョンライフルを構え相手に狙いを付ける。 「いけぇッ!」 右手はグリップ、左手を細い銃身に添えて、“二回”引き金を引く。 プレシジョンライフルから放たれる銃声が同時かとも錯覚する二発の弾丸。 それは相手の持つ二丁拳銃を狙ったもの。 それが持っている厚い銃身に当たる。二発ともだ。 「チィッ!!」 二つの銃は相手の後方まで、交差しながら弾け飛んでいった。 だが、主武装を失っても諦めていない眼つき。腰元に備え付けていたと思われる二振りのナイフを取りだして来た。 それを構えて文字通り特攻を仕掛けてくる。 私は怒りを感じながらも冷静に見極め双刃の斬撃をプレジションライフルで盾にして防いでいく。 「サレンダーしてください。もうあなたに勝ち目はないです」 「く、……まったく甘ちゃんだな。戦いは最後までやるものだ!」 「そうですよね。では……」 プレシジョンライフルを乱暴に扱いながらも、私は足を軸にして身体全体を捻り、それで回転させる。 腕に遠心力を乗せて、相手を横から力いっぱい持っているライフルで殴りつけた。 「グァッ!」 今度は、相手は同じ轍を踏まず、衝撃によって武器を失わなかった。が、離しはしなかったが腹部を押さえて後ろに吹き飛ぶ。 「これで、終わらします! エクストリーマ・バレル、セット!」 私はリアパーツ「バリスティックブレイズ」にあるあと一つ、最後のバレルを取り外した。 プレシジョンライフルの銃口、のさらに先にバレルを装着。バレルを繋ぎ合わせ、装着することのできるフェリスガン最終形態。 「プレシジョンエクストリーマ・シューター」 エクストリーマ・バレルは本来“機関銃”だ。それを曲げて形態変化。 プレシジョン・バレルと組み合わせることで、その力を最大限発揮することのできる武装。 私は今出せる最速で相手を追いかけていき、吹き飛んでいる相手に同じ速度で縋り付く。 CSCのある近く、その胸部に銃口を押し当てた。 「一点集中! 貫けぇっ!!」 ステージ全体に響き渡るような気合いの一声の後、引き金を引く。 銃身がバレルで細長く伸びた銃から放たれる光線。それに加えてのゼロ距離の発射は、相手のアーマーをも無意味にし胸を貫いた。 相手の背中から見える橙の残光は、遥か遠くまで伸びていき消えていく。 「…………ふ」 相手の方はなぜか不敵な笑みを残して、姿は掻き消えていった。 後に残るは砂漠に吹く風と砂塵だけだった。 「ふぅ、終わりました。……あれ?」 我を少し忘れていたけど、もしかして私は初めて勝てた? そんな、実感が持てないまま、私も足先から消えていく。 消える寸前、砂漠のステージ全体へ機械音声が聞こえ出していた。 『WINNER シオン』 ---- [[前へ>類は神姫を呼ぶ part11]] [[次へ>類は神姫を呼ぶ part13]]